『七つの会議』:2019、日本

東京建電の営業一課と営業二課の面々は会議室へ集まり、営業部長の北川誠が来るのを待っていた。二課の課長を務める原島万二は極度に緊張しており、他の面々も静かに待っていた。しかし一課の係長を務める八角民夫だけは呑気に居眠りをしており、課長の坂戸宣彦は腹を立てて机を強く叩いた。しばらくすると北川が会議室に現れ、親会社であるゼノックス常務取締役の梨田元就もやって来た。二課は月間目標を6ヶ月連続で割り込んでおり、販売計画も予定通りに進んでいなかった。原島は必死で弁明するが、北川に厳しく叱責された。原島は今月の修正目標を問われてプレッシャーを掛けられ、実現が困難な台数を約束してしまった。
一課は35ヶ月連続でノルマを達成しており、北川は坂戸の報告を受けて満足そうな表情を浮かべた。坂戸は販売見込みの一覧表を出そうとするが見つからず、八角のいびきが会議室に響いた。北川は八角に歩み寄るが、怒ることもせずに会議を終わらせた。目を覚ました八角は坂戸に注意され、ちゃんと話を聞いていたと告げる。実際、彼は原島が無理な目標台数を口にしたことを知っており、馬鹿にするような態度を取った。原島は花形商品を幾つも手掛ける一課に比べてゼノックスの型落ち商品を扱っている二課のノルマが厳しいと感じており、課長代理の佐伯浩光に愚痴をこぼした。
会議の後、坂戸は八角に対して厳しく当たるようになり、膨大な資料のデータ化を連日に渡って命じた。しかし八角は残業を拒否して定時で帰宅しただけでなく、多忙な時期に有給休暇を取ろうとする。坂戸は憤慨し、彼を罵倒した。八角は坂戸は鋭く見据え、「深く傷付いた。アンタには、この落とし前、キッチリと付けてもらうぜ。訴えてやるよ、パワハラで」と言い放つ。坂戸は軽く笑い、一課の面々も全く相手にしなかった。
原島も坂戸の対応がパワハラに当たるとは思えず、パワハラ委員会が開かれても形式だけで終わるだろうと確信していた。坂戸は一課での業績がトップであり、しかも委員会メンバーの北川のお気に入りでもあった。かつて一課で幅を利かせていた佐野健一郎が北川に嫌われてカスタマー室長に異動させられたこともあり、今回はお咎め無しで終わるだろうと原島は考えていた。しかし委員会でパワハラが認定され、坂戸は人事部への異動が決定した。
北川は坂戸の後任として、原島を一課の課長に任命した。坂戸は原島に営業一課の浜本優衣を紹介し、彼女が業務を全て把握していること、結婚を控えていて6月一杯で退社することを告げた。坂戸が一課の面々に礼を言って去ろうとすると、八角は勝ち誇った態度を見せた。原島が課長に就任してから一課の業績は大幅に悪化し、彼は会議で北川から厳しく叱責させた。原島はゴミ箱に走って嘔吐し、席に戻ろうとすると椅子が壊れて転倒した。
浜本は社内でドーナツの無人販売を試験的に実施しており、社員から好評で売り切れが続いていた。彼女の結婚退職は嘘で、実際は社内で不倫していた。入社3年目から交際を始めたが、相手は既婚者だった。相手に「離婚するから待ってくれ」と言われて不倫を続けていたが、3年が過ぎて離婚する気がないと確信した。何もかも捨てようと考えた浜本は退職を決意したが、坂戸に理由をしつこく問われたので結婚すると嘘をついたのだ。
辞める前に何か残したいと考えた浜本は、ドーナツの無人販売を提案した。しかし経理課長の加茂田久司と課長代理の新田雄介は、真っ向から反対した。経理課は営業課と険悪な関係にあり、全ての企画を潰そうと考えているのだ。そんな中で助け船をだしたのはゼノックスから出向してきた副社長の村西京助で、試験販売で様子を見ることを提案した。しかし無人をいいことに、金を払わずドーナツを盗む社員もいた。犯人は不明だが、浜本は八角を疑っていた。
原島は八角について昔の資料を調べ、北川と同期入社であること、以前は優秀だったのに係長になってから急激に評価が落ちていることを知った。加茂田はドーナツ販売が好評で続いていることに、不快感を抱いた。彼は新田に、3日後の役員会議までに営業課を叩く材料を見つけるよう命じた。新田は領収書を調べ、「ねじ六」という町工場との食事代に八角が10万円も使っていることを知った。新田に追及された八角は馬鹿にして笑い、文句を言わずにハンコを押すよう要求した。
腹を立てた新田は資料を確認し、ねじ六はコストの高さを理由に坂戸が切った会社だと知る。坂戸が取引先をトーメイテックに変更したにも関わらず、ねじ六との関係が復活していることから、新田は八角との癒着を怪しんだ。3週間前、八角はねじ六の工場を訪れ、社長の三沢逸郎と会った。かつて三沢は東京建電に頼まれて特殊ネジを作ったが、担当が坂戸になってから値段を締め付けられ、契約を冷たく打ち切られていた。
八角は三沢に、ねじの注文を改めて出した。さらに彼は、坂戸が担当になる前の値段で構わないとも言う。三沢の妹である奈々子は、その話を素直に喜んだ。しかし三沢は八角がマージンを要求するつもりだと確信し、不快感を隠そうともしなかった。新田は加茂田に報告し、2年前に坂戸が契約先をトーメイテックへ変更していたことを説明する。トーメイテックは江木恒彦が立ち上げたベンチャー会社であり、小さな町工場のねじ六とは比較にならない優良企業だった。
八角は浜本からドーナツ泥棒の疑いを掛けられ、即座に否定した。彼は浜本が新田と交際していたことを見抜いており、内緒にすると約束した。会社を辞めるのも新田が原因かと八角が尋ねると、浜本は退職を決めて虚しくなったこと、最後ぐらい胸を張りたくてドーナツ販売を始めたことを明かした。梨田は東京建電を訪れ、社長の宮野和広、村西、北川と会う。ゼノックスの型落ち冷蔵庫を来期に10万台売るよう要求され、村西は厳しすぎるノルマだと感じる。しかし断ったゼノックス電工が取引を打ち切られており、ゼノックスグループの社長を務める徳山郁夫の意向ということもあって、宮野は仕方なく承諾した。
村西は梨田と同期入社で、4年前まではライバルとして対等な立場にあった。しかし徳山が梨田をゼノックス常務取締役に指名し、大きな差が付いた。梨田は村西たちを馬鹿にする態度を取り、東京建電を後にした。八角は北川に、自分を探っている連中がいるので何とかしてくれと頼んだ。浜本は原島に、経理部が役員会議で営業一課の採算悪化問題を取り上げるつもりだと知らせた。出世争いで坂戸に敗れた経理部長の飯山高実は加茂田と新田から八角の情報を聞き、やる気になっていた。
役員会議に出席した加茂田たちは、八角がねじ六に契約先を戻したことで月90万円のコスト高になっていることを指摘した。しかし北川は全面的に八角を擁護して契約の正当性を主張し、宮野も彼の味方になった。加茂田から叱責された新田の前に八角が現れ、不敵に笑って「無駄だから、やめておけ」と言い放った。原島は自分が注文したと役員会議で北川が話していたことを知り、激しく動揺した。そこへ佐野が現れ、「上手く行けば八角と北川を追い出せるネタを掴んだ」と告げた。
佐野は椅子のクレームリストを調べようとするが、八角が立ちはだかった。佐野は小倉営業部への異動が決まり、原島は坂戸に話を聞こうとする。しかし坂戸は異動になってから一度も出社しておらず、人事部長以外は面会することも許可されていなかった。原島と浜本が坂戸のマンションへ行くと、彼の兄である崇彦がいた。崇彦は弟がマンションに戻っていないことを告げ、東京中央銀行本店営業第一部次長の名刺を見せた。崇彦の話を聞いた原島は、坂戸が優秀な兄への劣等感に苦しんでいたことを知った。
原島は北川も癒着に絡んでいるのはないかと疑うが、八角は「これ以上は立ち入れない方がいい」と釘を刺す。新田は浜本に、八角を探るよう持ち掛けた。浜本が断ると、彼は「ドーナツ企画で上司に口利きしてもいい」と交換条件を示した。浜本は「自分で何とかします」と言い、腹を立てて立ち去った。新田は江木と会って根掘り葉掘り質問し、決算書の提示まで要求した。北川は江木からの電話で、新田の動きを知った。
八角は浜本から再びドーナツ泥棒の疑いを掛けられ、「不正は必ず暴かれます」と言われる。売り上げ記録を見た八角は、水曜日に泥棒が出現していることを指摘した。浜本は原島と共に張り込み、新田が泥棒だと知った。浜本に非難された新田は開き直るが、原島も見ていたことを知って謝罪した。新田は東北事業所へ異動になり、八角は「自分のバカさ加減が分かったか」と彼に言い放った。新田が処分された理由には、ドーナツ泥棒だけでなく社内不倫も含まれていた。しかし浜本も原島も、そのことは上司に報告していなかった。
浜本は八角が新田の社内不倫を報告したのではないかと考え、徹底的に調べ上げようと考える。八角に関わった者が全て異動になっていることから、原島は「手を引いた方がいい」と消極的な態度を示す。しかし浜本が「どうせ辞めるんで、私一人でやります」と言うと、彼も協力することにした。2人は八角を尾行し、横浜で東京建電が扱っている椅子を丹念に調べたり、女性と会って金を渡したりする姿を目撃した。女性と別れた八角を尾行した原島は、彼が安アパートで暮らしていることを知った。原島と浜本は知らなかったが、八角が会っていた相手は別れた妻の淑子だった。
八角が調べていたセルーラという椅子は、原島が会議室で壊した物と同じだった。原島が壊した後、まだ会議室の椅子は新しかったにも関わらず、北川の指示で全て総入れ替えされていた。原島が椅子を壊した時、他の面々が笑う中で北川だけは険しい表情を浮かべ、八角は北川を睨み付けていた。原島はカスタマー室へ行ってセルーラのクレームを見せてもらい、佐野は過去5年間のリストを調べていたことを知った。そのクレームは、ねじの不具合が大半だった。
セルーラのねじは、現在はねじ六が作っているが、以前はトーメイテックが請け負っていた。そしてトーメイテックに発注された3ヶ月後から、クレームが急増していた。原島と浜本は、一課が不良品の椅子を売っていた事実を隠ぺいしていたのだと確信する。2人は証拠となるねじを手に入れるため、外回りと偽って前橋工場へ赴いた。2人は工場長の前川に佐野の後任だと嘘をつき、サンプルとして倉庫でトーメイテックのねじを探す。携帯のGPSで原島の居場所を知った八角が駆け付けるが、2人はねじを見つけて去った。
原島と浜本は商品開発センター材料試験室にトーメイテックのねじを持ち込み、研究員の奈倉翔平に分析してもらった。大幅な強度不足を知った原島たちは、セルーラ以外のねじも不良品なのではないかと考える。奈倉が「特殊合金のねじも不良品なら大変なことになります」と言っていると、八角がやって来た。原島に追及された彼は、特殊合金のねじも不良品だと認めた。それは航空機や列車に使われている部品であり、「リコールすれば2千億円掛かる。会社は潰れる」と八角は説明した。坂戸は強度データを偽装して発注コストを抑えることで、営業成績を上げていたのだ。
「隠し続けるつもりですか。人の命が懸かってるんですよ」と原島が抗議すると、八角は2ヶ月前に宮野には報告してあることを明かす。八角は強度偽装に気付き、北川に知らせた。北川から報告を受けた宮野は、八角を呼び出した。北川と人事部長の河上省造も同席する中で、宮野は坂戸をパワハラで訴えて異動させる計画を八角に話す。それは北川が提案した作戦で、坂戸を影響から外す世間的な理由としてパワハラを使うことにしたのだ。
一刻も早くリコールするべきだと八角が主張すると、宮野は北川に全容解明を指示した。2ヶ月掛かることを北川が告げると、宮野は八角と2人で取り組むよう命じた。調査が終わればリコールすることを、宮野は八角に約束した。その調査は終了しており、八角は原島と浜本に「明日にはリコールの届け出と会見が行われる。ここまでにしておけ」と告げた。しかし翌日、八角を呼び出した宮野は隠蔽を宣言した。八角が抗議すると、宮野は開き直るどころか自分は被害者だと主張した。北川は八角に、闇回収で対処する考えを明かした。八角は北川が最初から隠蔽を知りながら騙していたと悟り、激しい怒りを示した。彼が「20年前と何も変わっちゃいねえな」と批判すると、北川は「20年間逃げ続けたお前が、今さら何だよ」と反発した…。

監督は福澤克雄、原作は池井戸潤『七つの会議』(集英社文庫刊)、脚本は丑尾健太郎&李正美、エグゼクティブプロデューサーは平野隆、プロデューサーは伊與田英徳&藤井和史&川嶋龍太郎&露崎裕之、共同プロデューサーは小野原正大&山野寛道、アソシエイトプロデューサーは諸井雄一、撮影は橋本智司、VEは塚田郁夫、照明は鋤野雅彦、録音は松尾亮介、美術はやすもとたかのぶ、美術デザインは岡嶋宏明、編集は桑原正志、音楽は服部隆之、主題歌『メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ』はボブ・ディラン。
出演は野村萬斎、香川照之、及川光博、片岡愛之助、北大路欣也、橋爪功、鹿賀丈史、世良公則、役所広司、音尾琢真、藤森慎吾、朝倉あき、岡田浩暉、木下ほうか、吉田羊、土屋太鳳、小泉孝太郎、溝端淳平、春風亭昇太、立川談春、勝村政信、緋田康人、井上肇、須田邦裕、赤井英和、橋本さとし、吉谷彩子、山本圭祐、ぼくもとさきこ、加山到、白石優愛、鈴木球予、石原由宇、佐藤裕、片山亨、明石鉄平、岩原明生、大月秀平、小高三良、勝倉けい子ら。


池井戸潤による同名小説を基にした作品。
監督は『私は貝になりたい』『祈りの幕が下りる時』の福澤克雄。
脚本はTVドラマ『下町ロケット』『ノーサイド・ゲーム』の丑尾健太郎と『祈りの幕が下りる時』の李正美による共同。
八角を野村萬斎、北川を香川照之、原島を及川光博、坂戸を片岡愛之助、徳山を北大路欣也、宮野を橋爪功、梨田を鹿賀丈史、村西を世良公則、加瀬を役所広司、三沢を音尾琢真、新田を藤森慎吾、浜本を朝倉あき、佐野を岡田浩暉、田部を木下ほうか、淑子を吉田羊が演じている。

監督の福澤克雄は、TBSで『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』『下町ロケット』『陸王』と池井戸潤の原作小説を基にしたドラマを全て演出してきた人だ。
そして脚本の丑尾健太郎は前述したように、『下町ロケット』『ノーサイド・ゲーム』に参加していた。
そんな面々が池井戸潤の小説を映画化するとなった時、『半沢直樹』や『下町ロケット』などと同じようなテイストになるのは当然と言ってもいいだろう。
それに、この映画の製作幹事はTBSテレビだしね。

出演者の顔触れを見ても、いわゆる「福澤組」の面々が多く参加している。
香川照之は『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』『祈りの幕が下りる時』、及川光博と片岡愛之助と北大路欣也は『半沢直樹』、役所広司は『陸王』。音尾琢真は『陸王』『祈りの幕が下りる時』、朝倉あきと岡田浩暉と木下ほうかは『下町ロケット』、吉田羊と緋田康人は『半沢直樹』。
井上肇と須田邦裕は『半沢直樹』『祈りの幕が下りる時』、赤井英和は『半沢直樹』、橋本さとしは『下町ロケット』。土屋太鳳と小泉孝太郎は『下町ロケット』、溝端淳平は『祈りの幕が下りる時』、春風亭昇太は『下町ロケット』『祈りの幕が下りる時』。立川談春は『ルーズヴェルト・ゲーム』『下町ロケット』、吉谷彩子と山本圭祐は『陸王』、ぼくもとさきこは『下町ロケット』。
このように、「福澤克雄の演出で見た顔」だらけになっている。
なのでザックリ言うと『半沢直樹』の亜流みたいな映画になっており、それが「TVドラマで良くないか」という印象に直結する大きな要因となっている。
明らかに映画の尺では足りていないし、連続ドラマの方が向いているんじゃないかと思うし。

原作は連作短編集で、1話ごとに主役が交代している。それを映画化するに当たって、そのままオムニバス形式の構成にするのではなく、八角を主人公に据えた長編に改変しているのだ。
連作短編集のままにせず、1つの大きな物語に改変するのは正解だろう。そして主人公を八角にするってのも、たぶん製作サイドは『半沢直樹』や『下町ロケット』のようなモノを狙っているんだろうから、ポジションとしては悪くない。
八角が謎を秘めたまま動いているキャラなので、原島や浜本を探偵役として配置するのも理解できる。
しかしナレーションベースで進行する演出は、明らかに失敗だ。

このせいで、キャラクターの持つ熱の伝わり方や、ドラマとしての盛り上がり方を大きく阻害している。
しかも、原島がナレーションで饒舌に語るだけでも邪魔に感じていたのに、どんどん語り手を交代させていくのだ。
途中で浜本の退職理由やドーナツ販売について説明するパートになると、そこでは彼女自身がナレーションを担当する。新田が営業を叩く材料を見つけるよう加茂田から命じられると、彼のナレーションによる進行になる。
そうやって本人のナレーションで行動や考えを詳しく説明させるのは、ものすごく不細工でカッコ悪い。

浜本のパートなんて、どうせ原作から大幅に改変されているんだから、退職の理由は嘘という設定も無くしちゃっていいんじゃないかと思うぐらいだ。
本人が社内不倫で辛い思いをしていても、それが八角を主人公とするストーリーとは上手く絡まないんだから。
浜本が八角や会社の陰謀を解き明かすことで、彼女の問題が解消されるわけでもないんだし。
新田はドーナツ泥棒がバレて異動になるけど、それで浜本がスッキリしている様子は無いし、こっちが感じるカタルシスも弱いし。

八角は坂戸から罵倒された時、彼を鋭く見据えて「この落とし前、キッチリと付けてもらうぜ」と言い放つ。
『半沢直樹』の「倍返し」のように決め台詞っぽく言っているんだけど、まるで決まっちゃいないからね。
何しろ、彼が「パワハラで訴える」と言っても周囲の面々が馬鹿にするような状況なわけで。それに、坂戸が罵倒するのも当然だと感じるぐらい、八角はグータラ放題にやっているわけで。
そんな奴が急に「落とし前を付けてもらう」と凄んでも、何も燃えるモノは無いし、バカバカしさしか感じられないでしょ。

むしろ、そんな堂々たる態度を取らせるよりも、八角は「やる気の無いグータラ社員」ってのを徹底して描いた方がいいのよ。パワハラで坂戸が異動になるのも、「実は八角が委員会に訴えていたらしい」と後から分かるような処理にでもしておけばいい。
序盤から八角が頻繁に傲慢だったり高慢だったりする態度を取ると、「評価の低いグータラ社員」という印象が薄れるのよ。「ホントはグータラじゃなくて、むしろキレる男で何か企んでいる」ってのが見え過ぎちゃうのよ。
それを考えると、野村萬斎の芝居も作品に全く合っていない。福澤組のテイストにも上手く馴染んでいないし、この映画の野村萬斎は超が付くぐらい残念なことになっている。
「グータラ社員と言われているが実は」という設定を考えると、刑事コロンボみたいなキャラ造形が合っていたんじゃないのかと思うんだけど。

八角が三沢にねじの注文を出して「私も坂戸が気に入らないってことですよ」と言うシーンなど、とにかく彼の「グータラ社員」とは到底思えないような態度が頻繁に出てくる。何か企んでいるキレ者ってことが、丸見えになっている。
そういう「裏の顔」が見えないようにして話を進めないと、「探偵役が謎を探る」という作品の仕掛けが完全に死んじゃうでしょ。
最初から八角が単なるグータラ社員じゃないことをバラしちゃうのなら、いっそのこと正面からストレートに「会社の不正を暴こうとする男」として描いた方がいいよ。そっちの方向で、熱血とかカタルシスを強調した方がマシ。
謎の詳細は明かさなくてもいいけど、「会社の不正を暴こうとしている男」ってのは見せた方がいいよ。

(観賞日:2020年11月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会