『2LDK』:2003、日本

都心の洒落た2LDKに、B級グラビアアイドルの松本希美が帰宅した、ソファーで転寝をしていると、鍵の掛かったドアが激しくノック された。同居している橘ラナが帰宅したのだ。目を覚ました希美は、慌てて鍵を開けた。彼女は、ラナが付けている高価な装飾品に目を 留める。ラナは希美と同じ事務所に所属する先輩で、映画女優を自称している。しかし実際には、パッとしない女優である。
事務所に立ち寄って来たというラナは。オーディションが2人のどちらかに決まりだと告げる。監督から社長に電話があったのだという。 ラナと希美は、映画『極道の女房たち』シリーズ最新作のオーディションを受けていたのだ。2人は互いに、心の中で「私だ」と呟く。 「明日まではピリピリしないで過ごそう」とラナは笑う。演劇ファンの希美は、『極道の女房たち』シリーズを見たことが無い。そんな 彼女に、ラナは演劇を見下した発言をする。
ラナは几帳面な性格で、共同で使っている冷蔵庫にある自分の食品には「ラ」と書いている。2人は会話を交わしながら、相手の悪口を心 の中で呟く。グラビアじゃなくて女優がやりたいことを希美が口にすると、ラナは「分かるわ。私、デビューが映画だったじゃない」と、 自分のことを語り出す。希美は事務所のスタッフだった江崎拓也と付き合っているが、それを内緒にしていた。しかしラナは会話の中で、 希美が拓也に好意を持っていると見抜いた。ラナは希美の前で、拓也と親密だったことを、それとなく口にした。
ラナが「拓也を呼び出してみる?」と軽く言うと、希美は「私、男の人とか、どうでもいいみたい」と苛立ったように言い、風呂場へ行く 。その間にラナは複数の男に電話を掛けるが、番号が変わっていたり、すぐに切られたりする。希美は自分のシャンプーを勝手に使われた と気付き、ラナに「ルールなのでハッキリさせといた方がいいと思いまして」と言う。彼女は風呂場に髪の毛が残っていたことも含め、 鋭い口調で注意する。だが、ラナは心の中で、彼女の細かい性格に呆れ果てる。
希美が風呂に戻った間に、ラナは彼女の携帯を勝手に使い、江崎のメッセージを消去する。風呂から出て来た希美に、ラナは「さっきの 電話、拓也?なんか会う約束してるって聞いてたから」と言い、彼から来たメールを見せる。希美は「先輩が付き合ったらどうですか」と 、苛立ったように言う。風呂に入ったラナは、血の浴槽にいる女と赤ん坊の幻覚を見て嘔吐した。希美は故郷の母からの電話で戻って 来るよう求められ、「いつも同じことばかり、うるさいっちゃ」と怒って電話を切る。
寝る前にコラーゲン飲料を飲もうとした希美は、無くなっていることに気付く。彼女は風呂場に行き、「先輩、飲みましたよね」と冷淡な 視線を向ける。ラナが「飲まないよ」と否定すると、希美は「先輩は人の物を取るのが趣味ですもんね。役を取るためなら何でもするって 、みんな言ってますよ」と嫌味をぶつけた。ラナは腹立たしそうな表情で、「飲んでないけど、買って返すわよ」と告げた。
希美が冷蔵庫を再び開けた時、ラナが使っているシャネルの化粧品の蓋が開いていたため、中身がこぼれた。それを戻して、希美は寝室へ 向かった。風呂から上がったラナは化粧品が減っているのに気付き、希美の寝室へ向かう。ラナが謝罪を要求すると、希美は「蓋を閉めた だけで、使ってはいません」と反抗的な態度を取る。風呂場で幻覚を再び見たラナは、大音量で音楽を流し、大声で喚きながら踊り狂う。「やめてください」と 怒鳴られても、全くやめようとしない。希美も大声で叫ぶと、ラナは音楽を止めた。
希美はラナに謝り、マッサージを申し出た。ラナは前に付き合っていた男の妻が子供を道連れに自殺したことを明かす。希美はラナが目を 閉じている隙に、彼女のブラジャーのパットに入っていたオイルをマッサージに使用した。希美が嘲笑すると、ラナがビンタを食らわせた 。希美がやり返すと、ラナは「私、もう拓也とやっちゃったよ」と不敵に笑った。そこから2人は、常軌を逸した争いを開始した…。

監督は堤幸彦、原案・脚本は堤幸彦、脚本は三浦有為子、企画は伊藤満、プロデュースは河井信哉、プロデューサーは真鍋和己&中沢晋& 石田雄治、撮影監督は唐沢悟、編集は伊藤伸行、録音は井上宗一、照明は石田健司、美術は稲垣尚夫、アクションコーディネーターは 佐々木修平、音楽は見岳章。
主題歌「隣人に光が差すとき」は安藤裕子、作詞・作曲/安藤裕子、編曲/G.I.F.T.。
出演は野波麻帆、小池栄子、辻村真紀、小宮美穂。
声の出演は桶川人美、日高勝郎、上村依子、大村眞利江、水森コウ太、森康子、小野敦子、串間保、麻生学。


堤幸彦監督が発案し、北村龍平と競作したコラボレーション企画“DUEL”の1本。
“DUEL”とは、「対決」をテーマにした中編を二本立てで上映し、勝負しようという企画だ。
堤幸彦は本作品、北村龍平は『荒神』を撮った。
ラナを野波麻帆、希美を小池栄子が演じている。幻覚シーンで母子が写るが、基本的に2人の人物だけで進行し、舞台はマンションの室内 に限定されている。

“DUEL”には「純決の10か条」なるものが設定されている。
それは「60分(プラスマイナス10分)の2本勝負、R-18は避ける」
「ワンセット、そこから外へ出てはいけない」
「主演2人の対決を基本とする」
「片方が男優、片方が女優対決とする」
「共通の小道具を画面に登場させるなどの謎を持つ」
「予算は同額とする」
「ビジネス面で負けた方は罰がある」
「テレビ放送の視聴率が高いほうに褒美がある」
「作品それぞれにおいて黒字になるとボーナスを支給することがある」
「2本立てが1本立てになっても苦情を言わない」という10か条だ。
ちなみに、ビジネスとして勝利したのは堤監督だったが、北村監督は罰を受けていない。

まず、上映時間が69分という段階で減点対象になる。
そりゃあ10か条には「60分(プラスマイナス10分)」とあるから、定められたルールに違反しているわけじゃないよ。
だけど、企画したのは堤監督なんでしょ。
だったら、60分以内に収めるように努めるべきじゃなかったのか。

細かいことを言うと、希美が帰宅したところでタイトルロールってのは違うでしょ。
それだと彼女がピンで主役のように見える。
実際はダブル主演なんだから、2人とも帰宅してからタイトルか、あるいは最初にタイトルかの二択でしょ。
あと、希美だけは悪口に限らず、長いモノローグを語る箇所が何度もあるのだが、なぜ彼女だけに、ナレーションによる進行役のような ことを任せたんだろう。
それだと彼女の心情やバックグラウンドに関する情報量が一方的に多くなるでしょ。
情報の偏りは、良くないと思うぞ。

一方のラナは、血の浴槽に入っている母親と赤ん坊の幻覚を見るシーンが何度かあるが、なぜホラー映画チックな演出を入れたのか。
そもそも、不倫相手の妻が赤ん坊を道連れにして無理心中したことがラナのトラウマになっているという設定が必要なのかと。
そこだけ異様に怪奇テイストなんだよな。
あと、その幻覚が、感情を爆発させるきっかけになっちゃってるんだよな。
そうじゃなくて、互いに相手への不満を溜め込む中で、それがリミットに達して感情の爆発に繋がるべきじゃないのか。

どんどん2人の相手に対するフラストレーションが溜まっていき、それが爆発するのかと思ったら、トーンダウンする。
また溜まっていき、いよいよ爆発するのかと思ったら、また休息時間に入ってしまう。
それって、ただ尺を引き延ばしているようにしか思えないんだよね。
それによって、話の中身が厚くなっているとは感じない。
トーンダウンによって、効果的に抑揚が付いているとも感じない。

この映画の致命的な欠点は、2人に魅力が全く無いってことだ。
本来なら、どれだけ身勝手なことを言おうとも、どれだけ悪口ばかり言おうとも、憎めない女たちでなければならないはずだ。
しかし実際には、こいつらは、単に不愉快なだけの連中なのだ。腐れビッチなのだ。
不愉快な連中が嫌味や悪口をぶつけ合い、それが肉体を使ったバトルに発展しても、そこに気持ちを乗っけていくのは難しいよ。
っていうか、ハッキリ言って無理だよ。

希美とラナの言い争いや戦いを見ていても、「勝手にやってれば」という感想しか出て来ない。
だって、それは「醜い女たちの醜い戦い」でしかないんだから。
そこはサスペンスとして楽しめということなんだろうか。
こっちが期待していたのは「女闘美」なんだけど、監督は「女闘美」を描く気がさらさら無かったんだろうな。
あと、シリアスなテイストにしたのも失敗だと思うよ。これ、喜劇として作れば、もう少し何とかなったんじゃないか。
2人が魅力的じゃないという問題も、それで解消されたと思うし。

(観賞日:2011年4月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会