『22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語』:2007、日本

43歳の川野俊郎は、医者から非閉塞性無精子症と診断される。雷雨の中で傘も差さず歩き、コンビニで買い物をしていると、研修中の店員 ・田口花鈴が『22才の別れ』を口ずさんでいた。「流行ってるの、そんな古い歌?」と俊郎が尋ねると、彼女は「父が良く歌ってました」 と答えた。200X年、秋。福岡県福岡市、ドーンインターナショナル福岡支社。俊郎は松島専務から上海行きを促される。「3年頑張って、 それなりの業績を残してくれば、東京本社の取締役だな」と彼は言う。先輩の杉田部長ではなく自分が選ばれた理由について尋ねると、 「俺が目を掛けているってことよ」と松島は告げた。
俊郎は松島の秘書・藤田有美と一緒に、やきとり屋の甚平で夕食を取った。2人とも独身で、結婚したことは一度も無い。36歳の有美は、 親方の甚平に「3年後には子供を産んで会社を辞める」と宣言した。それは俊郎に向けた言葉だった。「貴方もね、子供が産まれたら」と 有美が話し掛けても、有美は何の反応も示さない。そこで彼女は話題を変え、「行った方がいいよ、上海」と微笑して告げる。
俊郎が自宅マンションに向かって歩いていると、公園で火を灯した蝋燭を何本も立てている花鈴の姿があった。彼女は「待ってたんです。 ここを通ること、知ってたから。私とエンコーしてください。クビになりました。今月の家賃払ったら、お金一円も無くて。母の命日なん です。それから私の誕生日なんです」と言う。彼女の田舎が臼杵市だと知り、俊郎は「僕も大分生まれだよ。臼杵の隣の津久見」と告げる 。家族について尋ねると、彼女は「父親はいるけど反対を押し切って出て来たから帰りたくない、弟も2人いるけど本当の兄弟じゃない。 義理のお母さんも死んじゃった」と話した。
俊郎は花鈴に「エンコーじゃなくて、いっそ嫁に来るか」と真顔で言う。それから「蝋燭、全部買うよ。今夜は僕のお祭りでもあるから」 と言って金を渡す。「どうすればいいの、私」と尋ねる花鈴に、彼は「吹き消すのさ」と答える。「それだけでいいの?」と訊かれ、俊郎 は「ああ。でもまた会おう。ここで会えるよね」と告げる。マンションへ戻った彼は、北島葉子の死を電話で伝えられた時のことを回想 した。葉子は臼杵の田口家へ嫁に行き、最初のお産の時に死んだのだ。葉子は花鈴の母親だった。
27年前、大分県津久見市、美浜高等学校。サッカー部の相生は人気者で、短歌愛好会の女子生徒たちは彼の活躍を眺めていた。相生が ゴールを決めると、葉子は「相生君、凄い」と言い、短歌を詠む。それを見ていた俊郎は、グラウンドを走り去った。放課後、自転車が 動かなくなった葉子が困っていたので、通り掛かった俊郎は直してやる。葉子は「ありがとう、俊郎君」と下の名前で呼ぶ。「今度なんか お礼するね」と言って去った。
クリスマス、俊郎は葉子が教室で編んでいたマフラーを相生が着けているのを目撃した。葉子は帰り道に待ち伏せていて、クリスマス プレゼントを俊郎に渡す。「いいの、俺なんかに?」と確認すると、彼女は「別に深い意味は無いのよ」と口にした。俊郎は急いで自宅に 戻り、包みを開ける。すると「知ってる?この赤い色。リコリスの花。わたしの大好きな花の色よ。でもみんなの前ではしないこと!」と いう手紙と共に、手編みの赤いマフラーが入っていた。
200X年。俊郎は建築現場で警備のバイトをしている杉田を目撃した。杉田は「同級生が警備会社やってて、出来る日があればやらせてやる って言われてさ」と告げる。彼は俊郎に、長男が就職に失敗してニートをやっていること、次男は才能も無いのにミュージシャン志望で女 とギャンブルにハマって借金まみれであることを語り、「例えわずかでも、稼げるものは稼いでおかないとな」と笑った。
有美は花鈴を連れて歩いている俊郎を見掛け、思わず隠れた。俊郎は花鈴を甚平へ連れて行き、焼き鳥を食べさせた。翌日、有美は会社で 俊郎に「若い子と遊んでるの楽しい?見掛けたよ」と声を掛けた。俊郎が真顔で「一緒になろうと思ってるんだ」と言うので、彼女は狼狽 した。上海行きの返事を迷っている俊郎は松島から急かされ、「お受けするつもりですが、もう少し猶予を下さい」と述べた。
帰宅した俊郎は、花鈴に「向こうへ行って落ち着いたら呼び寄せるから。3年経って日本へ戻ったら、どこかへ君の店を出そう」と言う。 「でも私たち、まだキスもしてないのに」と花鈴が告げると、彼は「やらしい親父にはなりたくないから」と口にする。花鈴は「やっぱり 上海連れてって。そうしてもらいたい。あの人が死んじゃうからいけないの」と漏らした。俊郎は高校時代を回想する。彼は葉子と2人で 山へ出掛けた。墓地の周囲には曼珠沙華がたくさん咲いている。それがリコリスだ。葉子は「思うのはあなた一人」「悲しい思い出」と いう花言葉を教え、「葉見ず花見ず」の物語も話した。彼女は「決めたんだ。俊郎君が東京の大学へ行くのなら、私も一緒に行こうって」 と言い、俊郎は並んで写真を撮った。
200X年。有美は自分に好意を寄せる年下の男・小磯を誘ってデートへ繰り出した。その途中、彼女は花鈴が若い男と一緒にいるのを目撃 した。花鈴が男と別れた後、有美は尾行した。その夜、花鈴はたくさん買い物をしてくれた俊郎に、母親の記憶が何も無いことを話す。 「私があの人と一緒に死んだ方が、お父さんは幸せだったんだって」と彼女は口にした。後日、上海行きを承知した俊郎に、有美は花鈴の アパートの住所を告げ、「彼女、貴方に大きな隠し事をしてる」と恋敵の存在を教える。泣き出す彼女に、俊郎は病気のことを明かし、 「君の子供の父親にはなれない」と告げる。
俊郎が有美から教わったアパート「春風荘」へ行くと、花鈴は浅野浩之という青年と同棲中だった。浩之が出掛けるのを尾行すると、彼は 交通整理のバイトをしていた。その姿を見て、俊郎は自分が若かった頃を回想した。初めて配達のバイトに入った日、彼は担当区域として 多摩ニュータウンはどうかと責任者から提案された。ニュータウンへ赴いた彼は、一所懸命に仕事をこなした。最後に田辺恭子という老女 の部屋を訪れ、彼は仕事を終わらせて達成感に浸った。
200X年。俊郎はインターナショナル・スクールまで花鈴を送り、春風荘へ行って浩之を連れ出した。浩之は「誤解の無いように言って おきますが、俺と花鈴はただのルームメイトです。同級生なんでルームシェアしてるだけです」と説明する。「そんな言い訳が通用すると 思ってるのか」と俊郎が言うと、彼は「花鈴のお父さんもそう言いました」と告げる。「じゃあ花鈴のことはどう思ってるんだ。俺が彼女 を連れていってもいいのか」という問いに、浩之は「彼女から聞いてましたけど、そりゃ少しは寂しいです」と本音を明かす。
俊郎は浩之を甚平へ連れて行き、ビールと焼き鳥をおごって花鈴とのことを聞く。すると浩之は、高校時代から彼女のことが好きだったと 打ち明ける。しかし親しくなったことで、逆にそんな雰囲気じゃなくなったのだという。焼き鳥を食べながら、彼は「美味い、花鈴にも 食わせてやりたい」と泣く。俊郎が「今日のことは花鈴には黙っていてくれ。それから、花鈴にはもう食べさせた」と言うと、浩之は 「あいつのこと、幸せにしてやって下さい」と告げた。
帰宅した俊郎は、22年前を回想した。東京都内の下宿に間借りしていた彼は、葉子の22歳の誕生日を祝いたかった。しかし仕送り前で金が 無いので、ケーキを買えずに困っていた。するとケーキ屋の奥さんは、半額にしてくれた。下宿へ戻ると、待っている葉子は暗い表情 だった。彼女は「レコード持って来た」と言い、『22歳の別れ』を差し出す。「今日で私、22歳だもんね」と葉子は静かに告げた。俊郎が 「でも、別れは?」と尋ねると、「学生生活との別れよ。来年の春で卒業だもんね」と彼女は答えた。
葉子の「卒業したら、こっちで働くの」という質問に、俊郎は「ああ。あの会社、営業部で1年間試されて、そこで無難にこなせば、 やがて海外勤務も出来るんだって」と答える。「君はどうするんだ?化粧品会社の面接、上手くいったのか」と尋ねると、葉子は「私、 何だか疲れちゃった。東京には夢が無い。ただ人間が多いだけ。私、擦り切れて無くなっちゃいそう。帰ろうよ、津久見に。私、田舎が いいよ」と目を潤ませた。
葉子が「大きすぎるよね、東京って。迷子になりそう。貴方、どうしてそんなに元気にしていられるの?」と訊くので、俊郎は「疲れない ようにしているだけさ」と告げる。2人はケーキの蝋燭に火を付けたが、そこに幸福感は無かった。葉子は「私、もうボロボロ」と絞り 出すように言い、アパートを後にした。外は雷雨なのに、彼女は傘も差さずに歩いていった。それが、葉子を見た最後になった。部屋に 残されていた手紙には、「さようなら、田舎に帰ります」と記されていた…。

監督は大林宣彦、原案は伊勢正三〈22才の別れ〉より、脚本は南柱根&大林宣彦、製作者は鈴木政徳、エグゼクティブプロデューサーは 大林恭子&頼住宏、Co-プロデューサーは山崎輝道&安井ひろみ、撮影は加藤雄大、美術は竹内公一、照明は西表灯光、録音は内田誠、編 集は大林宣彦、美術協力は増本知尋、VFXスーパーバイザーは田中貴志、音楽は山下康介&學草太郎、〈22才の別れ〉詞・曲・歌・ ギター演奏は伊勢正三。
出演は筧利夫、鈴木聖奈、中村美玲、窪塚俊介、清水美砂、長門裕之、村田雄浩、峰岸徹、三浦友和、岸部一徳、左時枝、山田辰夫、 中原丈雄、蛭子能収、立川志らく、河原さぶ、小形雄二、根岸季衣、南田洋子、寺尾由布樹、斉藤健一、細山田隆人、大園麻領亜、大蔵愛 、越智巴、林えりか、宮原美雪、清水幸、小崎泰生、高橋和志、宮嶋剛史、三浦影虎ら。


『なごり雪』に続く、大林宣彦監督の大分3部作の第2作。伊勢正三の歌『22才の別れ』をモチーフにしている。
大まかに言うならば、『はるか、ノスタルジィ』のリメイクである。
俊郎を筧利夫、花鈴を鈴木聖奈、葉子を中村美玲、浩之を窪塚俊介、有美を清水美砂、甚平を長門裕之、花鈴の父を村田雄浩、松島を 峰岸徹、杉田を三浦友和、若き日の俊郎を寺尾由布樹、小磯を斉藤健一(お笑い芸人「ヒロシ」の本名)、相生を細山田隆人、医者を 岸部一徳、俊郎の母を根岸季衣が演じている。
鈴木聖奈と中村美玲には(新人)という表記が付いているが、これが映画デビューというわけではない。

前作『なごり雪』ではオープニング・クレジットで伊勢がギターを演奏しながら歌う様子が映し出されていたが、今回はクロージング・ クレジットで彼が登場して『22才の別れ』を演奏しながら歌う。
大林監督の中で、伊勢の歌唱シーンを盛り込むことに強い思い入れがあるのかもしれないが、ハッキリ言って邪魔。
あと、タイトルが無駄に長いよ。なんで単純に『22才の別れ』としておかなかったのか。
『22才の別れ』というタイトルに訴求力が無いとしたら、それを『22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語』にしたからって、観客が 魅力的に感じることは無いと思うぞ。

私は本作品より先に『転校生 -さよなら あなた-』を見たのだが、それと同じく斜めのアングルを使いまくっている。
あちらが最初から最後まで一貫して斜めアングルだったのに対し、それより先に作られた本作品では真っ直ぐな構図になるカットもある けど、斜めアングルのカットが大半だ。
そりゃあ主人公が抱える不安を表現するという部分では意味があるかもしれないけど、それ以外の部分でも平気で斜めのアングルを多用 する。
どういう意図なのか、サッパリ分からんよ。

映画が始まると、いきなり「これは悲しみを含むサスペンスなのか」というような音楽が流れてくる。
「ではこれより、ちょっと不思議な物語をいたしましょう。もちろん、戯れにです。」と俊郎がモノローグを語るのだが、その後に登場 する映像も、やはりサスペンスっぽい。
っていうか、どことなくホラーっぽい感じさえする。
病室なんて、まるでリアリティーが無いし、やたらと薄暗いし。

ホラーっぽい雰囲気の中、しかも医者から「非閉塞性無精子症」と診断される中で、『22才の別れ』のメロディーがインストとして流れて 来るので、「合ってねえなあ」と言いたくなる。
その歌が持つ物悲しさって、そういうモノではないし。
その後、「これからは遊び放題ってやつですね」という俊郎の問い掛けに医者が「はい」とニヤついてから瞬時に怖い顔になるとか、雨の 中を傘も差さずに俊郎が歩いていくという流れは、「主人公がショックを受けている」というより、ホラー的な演出だと感じる。
曲だけじゃなくて、挿入される効果音も、そんな感じだし。

病室だけでなく、花鈴がバイトしているコンビニも、停電中なのかと思ってしまうぐらい薄暗い。俊郎のマンションも薄暗い。 とにかく、どの場所も全て室内は薄暗い。
そんなに薄暗さにこだわった意味が全く分からん。どういう効果を狙ったモノなのか。
俊郎がコンビニへ立ち寄ったのに傘を買わないのも変だし。コンビニなら傘ぐらい売っているはずだもんな。
それに、そこで会話を交わしたのなら、花鈴が「傘はいいんですか」ぐらい訊くのが自然な流れじゃないか。

大林監督と言えば、「ファンタジー」と「ノスタルジー」の人だ。
しかし、この映画では珍しく、その2つの構築に失敗している。
公園での俊郎と花鈴のやり取りにしても、まるで現実味が無くてヘンテコではあるのだが、それを「大林ファンタジー」として描写できて いない。
いつもだったら、それがヘンテコであっても、何となく受け入れられるような雰囲気作りをやってのけるのが大林監督の持ち味なのに。

大林監督は、若手女優を魅力的に撮る能力と、若手女優を脱がせる能力に秀でた人だと私は思っている。
3部作の第1作『なごり雪』ではヒロインの須藤温子を「大林ワールドのヒロイン」として魅力的に撮っていたし、彼女は脱がなかった けど宝生舞がオッパイを見せていた。
それに比べると、今回は新人女優2人が全く魅力的に見えないし、誰も脱がない。
だから、大きなマイナス査定となる。
あと、新人女優の2人に関しては、そもそもキャスティングの段階で間違っていると思うぞ。
まあ鈴木聖奈がモッサリしているのは、髪型や眼鏡や服装の影響も多分にあるけれど。

主役を演じる筧利夫も、完全にミスキャスト。
そもそもキャラ造形にも問題があって、ほぼ無表情&無感情で、リアクションは薄くて、ずっと重苦しくて辛気臭い。
それに加えて、筧利夫が真顔で黙っていると、なんか怖いんだよ。常に無愛想で不機嫌な奴にしか見えない。
そうじゃなくて、黙っていても人の良さが感じられるような柔和なイメージのある人の方がいいでしょ。
そして大林組なら、それにピッタリの尾美としのりという役者がいるでしょうに。

俊郎に惚れている有美は、なかなか素直になれなかったり、ショックを隠して明るく振る舞ったり、酔っ払って絡んだりと、感情表現が 豊かで魅力的なキャラクターになっている。
彼女のキャラが面白いだけに、メインで進行する全く現実感も生命力も感じない虚ろな男女の物語は、ますます退屈で魅力の無いモノに 見える。
俊郎と花鈴のシーンって、ただ単に陰気な男女が中身のボンヤリした会話を淡々と続けているだけのモノになっている。
俊郎の心情は全く見えて来ないし。

何度か回想シーンが挿入されるが、そこから見えてくるべき俊郎と葉子の「愛の道程」も、ものすごくボンヤリしている。
そして現在の物語とのリンクも、やはりボンヤリしている。
現在の花鈴&浩之の置かれている立場と、俊郎&葉子の過去を重ね合わせようとしていることは分かる。
ただ、回想シーンのチョイスが悪いのか、俊郎と葉子は「学生時代に仲良くしてました」の後、急に「大学生になって東京へ出たけど、 貧乏のせいでギクシャクしている」というところへ飛んでしまうので、それこそギクシャクしている。

「強かった葉子が都会生活の中で弱くなってしまった」というのも、経緯が全く描かれていないから、なぜ彼女がそこまで東京に疲れて いるのか、まるで理解できないのだ。
だから、そこで「帰ろう。田舎がいいよ」と言われても、「都会に合わなかったんだね」とは思うけど、その別れに対して全く悲劇性を 感じないのだ。
「この時代に青春時代を過ごした人なら、わざわざ説明しなくても何となく共感できるでしょ」ということなんだろうか。
だとしても、やはり不親切だと思うぞ。

(観賞日:2012年2月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会