『22年目の告白−私が殺人犯です−』:2017、日本

1995年、東京で連続絞殺事件が発生し、5人の命が奪われた。刑事の牧村航たちが捜査に当たるが、犯人を逮捕できないまま時間だけが過ぎていった。何の進展も無い中、やがて捜査本部は縮小された。2010年には改正刑事訴訟法が成立し、公訴時効は4月28日で撤廃されることになった。しかし連続絞殺事件は2010年4月27日午前0時で時効を迎え、捜査本部は解散となった。牧村は悔しさを感じながらも、犯人の逮捕を諦めるしかなかった。
2017年4月27日。牧村は後輩刑事の春日部信司と共に、橘組のチンピラである戸田丈の元を訪れた。戸田は逃亡を図るが、牧村たちは後を追って捕まえた。戸田が反抗的な態度を取ると、牧村は容赦なく投げ飛ばす。そこへ課長の若松義生から電話が入り、牧村は「大変なことになるぞ」と言われる。若松は部下たちと共に、テレビ番組を見ていた。22年目の事件を起こした犯人が告白本を出して会見を開くことを発表したため、テレビ番組は生中継していたのだ。牧村は戸田を放置し、署へ戻ることにした。
大勢のマスコミが押し寄せた会見場に、曾根崎雅人という男が姿を見せた。彼は警察やマスコミの無能を指摘し、事件が改ざんされて闇に葬られる前に真実を語る必要があると考えて告白本を出すことにしたと説明した。彼は連続絞殺事件について、自分の定めていたルールを語る。犯人は殺人を1対1で被害者の家族に目撃させ、縄を使って背後から絞殺していた。目撃者は必ず生かしておくというのも、犯人が定めたルールだった。
会見の様子をテレビで見た牧村は、22年目の体験を思い出した。1995年1月4日、足立区。彼は上司の滝幸宏と共に、初めての殺人現場を訪れた。牧村は最初の現場となった食堂に足を踏み入れ、連続殺人事件と向き合うことになる。書店員の岸美晴も、バックヤードでテレビの生中継を見ていた。1995年2月14日、世田谷区。幼少期の美晴は2階の部屋に閉じ込められ、父親は縛られた母親の眼前で殺害された。橘組の組長である橘大祐も、テレビを見ながら当時を回想する。1995年3月15日、中央区。彼は縛られ、妻の翔子を殺された。
警察は4件目の事件を隠蔽し、犯人をおびき出そうと目論んだ。1995年3月31日、練馬区。共立中央病院の院長を務める山縣明寛が縛られ、妻が殺害されたのが4件目の事件である。顔を隠した犯人が現場に現れ、張り込んでいた牧村は捕まえて揉み合いになった。彼は左肩に発砲し怪我を負わせるが、逃げられてしまった。犯人は次の標的を牧村に定め、警視庁にテープレコーダーを送り付けて犯行を予告した。牧村はアパートに急行し、滝と共に中へ入る。すると犯人の仕掛けた罠で滝は首を絞められ、部屋は爆発した。
告白本は爆発的に売れ、容姿の整っている曾根崎は若い女性たちから大人気となった。牧村が書店を訪れると、美晴は店長から「営業の邪魔になるから来ないでくれ」と言われていた。彼女は曾根崎への怒りを示し、「なんで捕まえないの?」と泣き出す。曾根崎は帝談社の担当編集者である川北未南子から、警察が任意の事情聴取を要請してきたことを聞かされる。曾根崎は応じないことを告げ、徹底的に本を売るよう要求した。
夜の報道番組『NEWS EYES』でキャスターを務める仙堂俊雄は、別番組の密着取材を受けていた。彼は企画会議で、曾根崎を番組に呼ぼうと提案する。プロデューサーたちは困惑するが、仙堂は自身の考えを語る。かつて戦場ジャーナリストだった彼は、帰国直後に事件を追い掛け、その時の記事が認められて現在の自分があった。彼は当時の膨大な取材記録をスタッフに見せ、「法律で彼を裁けないなら、私たちが裁きましょう」と述べた。
牧村は共立中央病院を訪ね、山縣から「今でも犯人を殺したいと思う」と告白される。そこへ曾根崎が大勢のマスコミを引き連れて現れ、山縣に土下座で謝罪する。山縣が激怒して掴み掛かると、牧村が制止した。曾根崎は牧村に歩み寄り、耳元で囁いた。すると牧村は曾根崎に襲い掛かり、駆け付けた春日部たちに制止された。車に乗り込んで病院を去った曾根崎は未南子から過激な行動を諌められるが、「まだ足りない」と口にする。未南子は彼に、『NEWS EYES』から生放送での出演依頼が来ていることを教えた。
牧村は春日部から、戸田が橘組の鉄砲玉としてサイン会に現れる曾根崎を狙う情報が入ったことを聞かされる。牧村は橘に電話を掛けて復讐を思い留まるよう諭すが、「噂は噂だよ」と受け流された。サイン会場に急行した牧村は戸田を見つけ、曾根崎を発砲から救う。戸田は逃亡し、牧村は曾根崎をサイン会場の裏へ避難させる。そこへ美晴が現れ、ナイフで曾根崎を殺そうとする。牧村は曾根崎を庇って左腕を刺され、美晴を諭して立ち去らせた。
曾根崎は『NEWS EYES』に出演し、仙堂から質問を受ける。仙堂は告白本に書かれていない事件があったのではないかと言い、牧村の妹である里香がアパートにいて犠牲になったはずだと指摘する。牧村は番組を見ながら、当時のことを振り返る。神戸に住んでいた里香は震災でアパートが潰れたため、恋人の小野寺拓巳と共に東京へ来た。牧村は2人を自分のアパートに泊まらせ、隣室で過ごさせた。事件の後、里香は行方不明になっていた。
曾根崎は仙堂の指摘に対し、「あれは5人で完結した作品です」と告げた。すると仙堂は、3時間ほど前に動画サイトに投稿された短い動画があることを口にした。それは「俺が真犯人だ」というタイトルの動画で、牧村の部屋が爆発する様子を離れた場所から撮影していた。撮影者の近くには、縛られた里香の姿が写っていた。その動画を見ても、曾根崎は「刑事の妹のことなんか知りませんよ」と言い、誰かが捏造した物だろうと告げた。番組を見終わった牧村は、当時のことを振り返る。里香が消えた後、小野寺は牧村の目の前でビルの屋上から飛び降りていた。
次の日、仙堂は『NEWS EYES』の冒頭で、動画サイトの投稿者がスタジオに行ってもいいと言っていること、曾根崎と牧村の出演を要求していることを語った。曾根崎は出演を承諾し、牧村は決意を固めて辞表を提出した。テレビ局へ向かおうとする牧村の元に橘が現れ、車でテレビ局へ送り届ける。橘は牧村に、犯人に対する強い憎しみを今でも抱えていることを話す。さらに彼は、戸田が22年前に殺された翔子の連れ子だと明かした。
『NEWS EYES』の放送が始まり、仙堂は視聴者に向かって真相を究明する考えを語った。彼の紹介を受け、曾根崎と牧村がスタジオに姿を見せた。2人が着席すると、仙堂は動画についての意見を牧村に求めた。牧村が返答を避けると、曾根崎は彼を侮辱して挑発した。動画の投稿者は覆面で顔を隠し、番組スタッフに厳重に守られながらスタジオへ向かった。彼はエレベーターの中で、スタッフにDVDを渡した。スタジオに入った投稿者は生意気な態度を取り、曾根崎を偽者だと糾弾した。
投稿者は動画の続きがあると言い、DVDの映像を番組で流すようスタッフに要求した。しかし映像を確認したスタッフは、酷すぎる内容に顔を歪めてストップを掛けた。そこで仙堂はスタジオで映像を流し、自分たちだけで確認することを独断で決定した。映像が流れされると、そこには里香が絞殺される様子が写っていた。投稿者は仙堂から映像を残している理由を問われ、後から楽しむための記録だと答えた。曾根崎は仙堂が持ち歩いているペンを奪い取り、投稿者を襲撃した。スタッフに取り押さえられた曾根崎は仙堂から真実を話すよう言われ、自分が犯人ではないこと、告白本を書いていないことを明かす…。

監督は入江悠、脚本は平田研也&入江悠、製作は中山良夫&加太孝明&高橋雅美&大村英治&堀義貴&薮下維也&永井聖士&高橋誠&弓矢政法&前田義晃&吉羽治&小笠原明男&荒波修、エグゼクティブ・プロデューサーは門屋大輔&安藤親広、プロデューサーは北島直明&小出真佐樹、ラインプロデューサーは佐藤圭一朗、撮影は今井孝博、照明は水野研一、録音は古谷正志、美術は小島伸介、編集は辻田恵美、音楽は横山克。
主題歌『疑問疑答』感覚ピエロ 作詞:秋月琢登、作曲:横山直弘、編曲:感覚ピエロ。
出演は藤原竜也、伊藤英明、仲村トオル、夏帆、野村周平、石橋杏奈、竜星涼、早乙女太一、平田満、岩松了、岩城滉一、矢島健一、木下ほうか、升毅、松本まりか、黒田大輔、宇野祥平、川瀬陽太、坂田聡、MEGUMI、山崎大輔、長谷川眞優、川島潤哉、佐伯新、荻野友里、桝太一(日本テレビアナウンサー)、尾崎里紗(日本テレビアナウンサー)、神崎孝一郎、助川嘉隆、木原勝利、滝裕二郎、舟久保信之、鎌滝秋浩、柴山美保、佐藤良洋、井端珠里、藤森あいり、深柄比菜、鴨澤龍司、成嶋瞳子、岩原明生、川守田政人、橋本一郎、日下部千太郎、中田敦夫、稲健二、仗桐安、杉山聡ら。


2012年の韓国映画『殺人の告白』を日本でリメイクした作品。
監督は『SR サイタマノラッパー』『ジョーカー・ゲーム』の入江悠。
脚本は『Returner リターナー』『SHINOBI』の平田研也と入江悠監督による共同。
曾根崎を藤原竜也、牧村を伊藤英明、仙堂を仲村トオル、美晴を夏帆、小野寺を野村周平、里香を石橋杏奈、春日部を竜星涼、戸田を早乙女太一、滝を平田満、山縣を岩松了、橘を岩城滉一が演じている。

オープニングでは、連続絞殺事件に関連する映像の断片がコラージュのように積み重ねられる。そして時効の成立が示され、2分ほどで現在のシーンに移る。
オープニングの目まぐるしい映像の洪水でも、「1995年に東京で連続絞殺事件が発生して5人が死亡し、時効が成立した」ってことだけは分かる。
ただ、詳細は全く分からないので、だったら冒頭からゴチャゴチャした映像で観客を混乱させるリスクなど負う必要は無いんじゃないかと。現在のシーンで曾根崎が犯人として登場した時、事件の詳細を丁寧に説明する時間を取ればいいんじゃないかと。
あと、そのコラージュの中に阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件の映像を挟むのは、全く賛同できないわ。「1995年を象徴する出来事」という意味で持ち込んだのかもしれないけど、今回の話に全く関係が無いんだし。

曾根崎の会見では質疑応答が用意されていないが、ただ「彼が一方的に喋る」というだけでもない。会場の照明を落として最初は彼の顔が見えなくするとか、背後のスクリーンに文字を表示するとか、かなり細工を施した会見になっている。
その必要があるのかというと、全く無い。犯人のキャラを勃たせるための演出なんじゃないかとは思うが、ある種の滑稽さを感じてしまう。
曾根崎がシャンパンを冷やして豪勢な夕食をナイフとステーキで食べているというシーンも、同様の滑稽さが滲み出ている。
そこはマスコミが見ているわけでもないので、誰に対してのキャラ付けなのかと。

牧村が曾根崎の会見をテレビで見ているシーンが描かれると、そこから「牧村が最初の事件現場を訪れた時の様子」に切り替わる。つまり、それは「会見を見ていた牧村が過去を回想する」という形になっているわけだ。
ここの回想シーンに関しては、ちゃんと整合性が取れている。しかし、続く美晴の回想シーンは、おかしなことになっている。
幼少期の彼女は2階の部屋に閉じ込められていたのに、「1階で両親が縛られ、父親が母親の眼前で犯人に殺される」という様子が描かれるのだ。
それは誰の回想なのかと。
「曾根崎が回想している」という強引すぎる解釈さえ、絶対に成立しないのだ。なぜなら完全ネタバレだが、彼は連続絞殺事件の犯人ではないからだ。
っていうか、そこで被害者遺族を一気に登場させたて全ての事件を紹介したいのは分かが、「遺族が事件を回想する」という一連のシーンは全体的にギクシャク感が強い。

「曾根崎の本がバカ売れして大人気になる」という手順は、リアリティーが乏しい。
かつて凶悪犯が愚かしい女性たちにスター扱いされるという出来事は実際にあったから、曾根崎のような存在が人気者になることも充分に考えられるだろう。
ただ、そこの見せ方が雑なのよね。
それに、ファンになった女性たちが、あそこまで大っぴらな行動を取るかなと。ネットで批判を浴びて炎上することは確実だと思うが、そういうトコでの「否定派とのバチバチ」みたいなのも描かれないし。

美晴が店長から「こんなことが続くなら辞めてもらわないと」と苦言を呈されているのは、どういうことなのか良く分からない。
営業の邪魔になっているようには、まるで思えないぞ。実際、店内には大勢の客が来ているし。
書店の前にマスコミがいたけど、それが「美晴の取材に来ている」とも解釈できないし。
そのつもりなら、彼女に接触するはずでしょ。そして彼女だけでなく他の被害者遺族の元にも押し掛けるはずだか、その様子は見られないし。

未南子は曾根崎に苦情を言うこともあるが、彼には従順に従っている。
説得力は無いが、そこは「曾根崎に魅了されて虜になっている」とでも解釈しておこう。
ただ、告白本の取り扱いについては、彼女の一存だけで決められるわけではない。
「こんな本を出すなら一緒に仕事をしない」と通告する作家たちが出ていることに言及しているが、そうなると社長や編集長も穏やかではいられないはずだ。だから上の判断がどうなのかにも、触れた方がいいんじゃないかと。

曾根崎は告白本を執筆した理由を「罪滅ぼし」と説明したり、殊勝な態度で反省の色を見せたりすることもある。一方で、警察やマスコミを無能呼ばわりして生意気な態度を取ったり、牧村を侮辱して挑発したりする。
そこに何の意味があるのか、サッパリ分からない。
ただの支離滅裂な奴にしか見えないのだ。
粗筋でも触れているように、彼は犯人ではなく「犯人を誘い出すため策略」として犯人を演じているのだが、その目的を考えても、そんなデタラメな言動を取る意味が全く見えないし。

里香は神戸で震災に遭い、小野寺と共に上京したという設定だ。里香が祖父母を救えなかったことへの後悔を口にしたり、小野寺が「彼女は震災であんなに人を助けたのに」と憤りを吐露したりするシーンもある。
だけど、今回の話に阪神淡路大震災って何の関係も無いでしょ。
どういうつもりで震災の要素を持ち込んでいるのか、その神経が全く理解できない。それを絡ませる必要性が、どこにあるのか。
何の意味も無いんだから、無造作に持ち込まない方がいいよ。

犯人が殺人をゲーム感覚で捉えており「完璧主義なのに計画が崩れたから5人で終了させた」ってことなら、それ以降は全く殺人を犯さず22年が過ぎたとしても、分からなくはない。
しかし実際には、殺人衝動が抑えられずに何人も連続で殺していたような人物なのだ。
そんな人間が、「5人目でルールから外れた」というだけで、完全に殺人と縁を切れるだろうか。
しばらくは我慢していても、その衝動を完全に捨て去ることなんて無理じゃないかと思うんだけど。

そろそろ完全ネタバレを書くが、連続絞殺事件の犯人は仙堂だ。ここはオリジナル版から大きく改変されたポイントとなっている。
しかし残念ながら、これは完全なる「改悪」になっている。
仙堂の行動が支離滅裂になっているし、種明かしから物語の終了に至るまでの怒涛の展開が無くなってしまう。
「曾根崎と牧村が綿密に練り上げた計画を冷静に遂行し、テレビ番組に犯人を誘い出して決着を付ける」という心地良さが失われ、「曾根崎と牧村の計画は失敗に終わり、犯人は分からずじまいでした」ってことになってしまうのだ。

そこの大幅な改変に伴い、スタジオに登場する動画の投稿者は「犯人が用意した替え玉」という設定になっている。それは当然のことだが、追い込まれた替え玉が自ら「自分は犯人じゃない」と明かすまで観客にバレちゃマズいはずだ。
だけど、その喋り方が未熟なチンピラにしか聞こえず、最初から「こいつは犯人じゃないな」ってのがバレバレになっているのだ。
そこはオリジナル版から改変して持ち込んだ仕掛けなのに、自ら破綻させてどうすんのよ。
わざわざ持ち込んだのなら、ちゃんとディティールを作り込もうよ。

仙堂の犯行動機は「紛争地帯でテロリストに監禁された時のトラウマが原因」ってことになっているが、まるで腑に落ちない。
それに、そういう心的外傷が彼を突き動かしていたとすれば、なぜ5人を殺した以降は全く殺人衝動が起きなかったのかってのも解せない。
牧村が分析したように自己顕示欲の強い人間だとすると、そんな奴がテレビのキャスターをやっていたら、今回の出来事が起きる前にも事件を取り上げたいと言い出すんじゃないかとも思うし。
あとさ、根本的な問題として、「戦場ジャーナリストが帰国直後に連続殺人を遂行し、それがバレないまま人気キャスターとして何年もテレビに出ている」という設定は、かなり無理があるんじゃないかと。

さらに厄介なのは、仙堂に「死にたがっている」という設定が用意されていることだ。
そうなると、こいつを殺しても「犯人の望み通り」ってことになるので、仇討ちも成立しないのだ。
もちろん犯人を殺しても犠牲者が戻って来るわけではないし、この内容で「誰もが笑顔になれるハッピーエンド」なんてのは絶対に有り得ない。どういう結末を用意しても、スカッとした気分になることは無い。
ただ、そうであっても、せめて仇討ちのカタルシスぐらいは与えてくれよ。

(観賞日:2019年2月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会