『226』:1989、日本

昭和の初め、日本は武力での満州制圧を巡って国際連盟を脱退し、国際的に孤立した。国内でも血盟団、5.15事件、相沢中佐による永田軍務局長刺殺事件などが相次いで起こり、経済不況と東北地方の凶作による農村恐慌が相重なって、国民の不安と不満は絶頂に達していた。皇道派の野中四郎、河野寿、香田清貞、栗原安秀、中橋基明、村中孝次、磯部浅一らは、昭和維新の志を天皇陛下の耳に入れるために、同志が団結して立ち上がるしかないと考えた。
彼らはクーデターを決行するため、秘密の会合を開いた。安藤輝三が部下まで巻き添えにすることへの難色を示すと、栗原は「彼らのためにこそ立つのです」と訴えた。香田は満州に派遣される前に行動すべきだと主張し、野中は「兵が無ければ計画の実現は不可能だ」と語る。河野は単独でも決行すると言い出し、中橋は結集を呼び掛けた。安藤が「時期が早すぎる。失敗すれば逆賊の汚名を着る」と告げると、磯部は「陸軍大将の真崎甚三郎など指導部に大勢の支援者がいるので、絶対に失敗しない」と自信を見せた。
安藤は「新しい日本を作る捨て石になろう」という説得を受け入れ、クーデターの決行日は1936年2月26日になった。河野部隊8名、安藤部隊204名、栗原部隊280名、田中勝が率いる田中部隊14名、坂井直が率いる坂井部隊210名、中橋部隊130名、村中や磯部や香田が参加した丹生誠忠の丹生部隊130名、野中部隊500名。それぞれの部隊が、任務達成のために行動を開始した。中橋部隊は大蔵大臣の高橋是清邸を襲撃し、中島莞爾が刀を振り上げた。しかし彼は斬ることが出来ず、中橋が高橋を射殺した。
栗原部隊は内閣総理大臣の岡田啓介を殺害するため、首相官邸を襲撃した。林八郎は官邸女中の府川きぬえと秋本サクがいる部屋を見るが、押し入れに岡田が隠れていることに気付かなかった。総理大臣秘書官の松尾伝蔵は岡田を装って捕まり、栗原は偽者だと気付かずに射殺した。坂井部隊は内大臣の斎藤実邸を襲撃し、目的を遂行した。河野部隊は内大臣だった牧野伸顕を殺すため、湯河原の光風荘に乗り込む。しかし河野は銃弾を浴び、部隊が光風荘に火炎瓶を投げ込むが、牧野は家族と共に裏口から脱出した。
教育総監で陸軍大将の渡辺錠太郎は、妻子の眼前で高橋太郎や安田優たちに殺された。野中は部隊を率いて警視庁へ乗り込み、決起趣意書を掲げて占拠を宣言した。侍従長で海軍大将の鈴木貫太郎は、安藤部隊の永田露たちに撃たれて重傷を負った。安藤は部下たちに促され、止めを刺そうとする。しかし鈴木夫人・たかが、「どうしても必要というなら私が致します」と夫を庇う。安藤は彼女の意思を受け入れ、部隊を率いて立ち去った。
香田や磯部たちは真崎や陸軍大臣の川島義之と面会し、昭和維新遂行のための内閣を組織することや、決起部隊が義軍か賊軍かの答えを天皇陛下に奏上して裁断を仰ぐことを要求した。軍事参議官の会議で真崎は「彼らの行動を認めてやるべきだ」と進言し、陸軍大臣告示として伝達することになった。陸軍少将の山下奉文は野中たちの元へ行き、告示の文面を読み上げた。義軍として明確に認定される内容ではなかったが、陛下に声が届いたことは明らかになり、野中たちは受け入れた。
宮内大臣の湯浅倉平は内大臣秘書官長の木戸幸一と侍従次長の広幡忠隆に、真崎と川島が岡田亡き後の内閣樹立に動いていることを話した。木戸は真崎たちの動きに反発し、「臨時首相代理を決め、軍が全力を挙げて反乱部隊の鎮圧に集中すべきだ」と主張した。広幡は湯浅に、天皇の意向を窺うよう要求した。参謀次長の杉山元は木戸と広幡に会い、戒厳令が出たことを知らせた。坂井は一時帰宅し、妻の孝子に簡単な状況を知らせた。
2月27日。戒厳司令部では杉山が参謀本部作戦課長の石原莞爾を伴い、戒厳司令官の香椎浩平に反乱将校を所属部隊長下に復帰させるよう指示を出した。決起部隊が抵抗した場合の対応を香椎が尋ねると、石原は討伐を命じた。そこへ真崎が現れ、武力での鎮圧を考え直すよう求めた。彼は自分たちの考えがまとまるまで命令実施の日時を猶予するよう進言するが、杉山は受け入れなかった。そこへ下士官が来て、岡田が無事だと報告した。野中たちは真崎と会い、事態収拾のため総理の座に就いてほしいと申し入れた。真崎は軍の統率に戻るよう促し、陛下は憂慮していると告げて立ち去った。
2月28日。坂井の部隊には連隊からの食糧トラックが到着せず、周囲に大規模な部隊が配置された。山下は野中たちに、奉勅命令が出れば戦いになるので兵を引けと忠告した。磯部は納得できず、革命のためには同士討ちも止む無しだと野中たちに訴えた。悩んでいた野中たちも彼の説得を受け、真正面から戦うことを決めた。安藤は山王ホテルを拠点にして戦おうと考え、支配人の山本公造に金を渡して部下たちに食事を用意するよう頼んだ。坂井は部下の三浦作次から「死ぬわけにはいかないのです。無事に帰って家業を継がねば、家族が路頭に迷うのです」と言われ、原隊へ復帰させるよう求められた。
2月29日。戒厳司令部は戦車と戦闘機を使い、下士官たちに原隊への復帰を促すビラを撒いた。栗原は野中たちに、岡田が生きていたこと、間違えて松尾を殺していたことを報告した。戒厳司令部はラジオを使い、下士官たちに原隊への復帰を呼び掛けた。その音声を聴いた決起将校たちは、それぞれの妻を思い浮かべた。香田は富美子、坂井は孝子、丹生はすみ子、田中は久子、安藤は房子、野中は美保子を思い出した。一方、熱海分院で療養中の河野を、兄の司が訪問した。司は家へ連れ帰るつもりだったが、河野は「腹を斬りたいのですが」と言い出した…。

監督は五社英雄、脚本は笠原和夫、製作は奥山和由、プロデューサーは西岡善信、監修は河野司、プロデューサー補は市山尚三、撮影は森田富士郎、美術は西岡善信、照明は中岡源権、録音は大谷巖、編集は市田勇、音楽は千住明。
出演は萩原健一、三浦友和、本木雅弘、勝野洋、佐野史郎、うじきつよし、隆大介、竹中直人、宅麻伸、加藤昌也(現・加藤雅也)、関口誠人、仲代達矢、渡瀬恒彦、梅宮辰夫、丹波哲郎、金子信雄、加藤武、高松英郎、長門裕之、小野寺昭、田村高廣、芦田伸介、新克利、有森也実、石橋保、今井雅之、大和田伸也、小野寺昭、賀来千香子、ガッツ石松、川谷拓三、久我美子、日下武史、鈴木瑞穂、高部知子、高峰三枝子、田中浩、鶴見辰吾、名取裕子、根津甚八、藤岡重慶、藤谷美和子、松方弘樹、三上寛、南果歩、もたいまさこ、安田成美、八千草薫ら。


昭和11年2月26日に起きた二・二六事件を題材とする映画。
監督は『吉原炎上』『肉体の門』の五社英雄。
脚本は『玄海つれづれ節』『肉体の門』の笠原和夫。
出演者は全員がアイウエオ順で表記される。
野中を萩原健一、安藤を三浦友和、河野を本木雅弘、香田を勝野洋、栗原を佐野史郎、中橋をうじきつよし、村中を隆大介、磯部を竹中直人、丹生を宅麻伸、坂井を加藤昌也(現・加藤雅也)、田中を関口誠人、杉山を仲代達矢、石原を渡瀬恒彦、山本を梅宮辰夫、真崎を丹波哲郎、川島を金子信雄、香椎を加藤武、山下を高松英郎、木戸を長門裕之、広幡を小野寺昭、湯浅を田村高廣が演じている。

青年将校たちが決起した当時の日本がどのような状況下だったのかは、冒頭のナレーションで簡単に説明されている。
しかし、「だから二・二六事件を起こすのも分かるよね」とはならない。
具体的に、日本政府の何がどう問題だったのか、標的にされた面々は何が批判対象だったのか、それが良く分からない。
そして標的を殺害した後の具体的な展望も、良く分からない。
邪魔になる面々を排除しても、そこから先が重要なわけで。でも、それがハッキリと見えてこないんだよね。

熱い口調で「昭和維新が云々」とは言っているけど、その昭和維新の中身がボンヤリしているのだ。そのため、青年将校たちは短絡的で愚かしいテロリスト集団にしか思えない。
例えは歪んだ殺人集団であっても、その信念に何か共鳴できる部分があれば、引き付けられたはずだ。だけど、うすボンヤリとした幼稚な集団に過ぎないんだよね。
なので梯子を外されて逆賊扱いになっても、彼にの無念さと虚しさ、悔しさが充分に伝わって来ないし、同情心も湧かないのだ。
「そりゃあ稚拙でバカな計画だから、失敗に終わるのは当然でしょうに」と、冷めた気持ちになるだけだ。

あまりにもメイン級のキャストが多すぎるせいで、全員の存在をアピールするだけでも手一杯になっている。当然の結果として、個人のキャラクターを掘り下げることなど全く出来ていない。
せめて中心となる決起将校の面々だけでも何とかならないかと思うのだが、それも難しいよね。
だって決起将校の中心メンバーだけでも、10人ぐらいいるわけで。
で、そっち側の動きだけを追うわけにもいかないから、おのずと弱くなる。
そこは割り切って、限られた数名だけに焦点を絞っても良かったかもね。

斎藤実の妻を演じた高峰三枝子、鈴木貫太郎の妻を演じた八千草薫、渡辺錠太郎の妻を演じた久我美子などは、「そのポジションに、その配役は本当に必要なのか」と言いたくなるほど存在意義は皆無だ。
回想の形で同じ映像を再び使っているものの、あっという間の1シーンだけで出番は終わるし。
豪華キャストを揃えて「どうだ、凄いだろう」とアピールし、観客動員に繋げようとしたことは分かる。
だけど、むしろ「無駄遣いが多すぎて勿体無いだろ」という印象を強く感じちゃうんだよね。

粗筋で触れたように、ラジオの音声を聴いた野中たちが妻のことを思い浮かべるシーンがある。孝子を除く夫人は、回想シーンが初登場だ。ほぼ台詞も無いし、ものすごく短い出番で仕事を終えている。
そんな申し訳程度の描写では、何の効果にも繋がっていない。
名取裕子(野中美保子役)、南果歩(安藤房子役)、賀来千香子(香田富美子役)、有森也実(丹生すみ子役)、安田成美(田中久子役)、そして藤谷美和子(坂井孝子役)という豪華な顔触れだが、完全なる無駄遣いだ。
ドラマ的に考えても、焼け石に水も甚だしいし。

序盤の会合では、他の面々が既にクーデターへの思いで一致団結している中、安藤だけが「部下まで巻き添えにするのは」と難色を示している。
後半に入り、勅命によって自分たちが逆賊になることが確定すると、他の指揮官が部下たちを守るために帰らせる中、安藤だけは「最後まで戦うべきだ」と怒りの主張で激しく反発する。
そんな彼の変化は、丁寧に心の動きを描いていれば、観客を引き付けるドラマになっていたはずだ。
しかし何もかもが薄っぺらいので、そこまで手入れが行き届くはずも無く。

脚本の笠原和夫は、後のインタビューでプロデューサーの奥山和由に対する不満をコメントしている。彼の感覚としては、奥山和由がダメなプロデューサーだったから、満足できる仕上がりにならなかったってことらしい。
完全に一方的な主張なので、どこに問題があったのかは分からない。
ただ、たぶん奥山和由という個人の問題じゃないと思うんだよなあ。監督と脚本家に何の責任も無いのかと考えると、それは違うんじゃないかと。
まあ、どこに責任があるにせよ、とにかく観客からすりゃ「ダメな映画」ってことだよ。

(観賞日:2024年4月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会