『Wの悲劇』:1984、日本

三田静香は劇団“海”の練習生。女優として経験を積むためと考え、彼女は劇団の俳優・五代淳に処女を捧げた。明け方近く、野外劇場で芝居の練習をしていた静香は、森口昭夫という男に声を掛けられる。昭夫は静香に一目惚れしたと言う。
劇団では次回公演『Wの悲劇』の和辻摩子役を、研究生の中からオーディションで選ぶことになった。静香もオーディションに参加するが、選ばれたのは菊地かおりだった。昭夫に誘われて酒を飲んだ静香は、そのまま彼と一夜を過ごす。
舞台の大阪公演が始まり、静香も女中役とプロンプターとして参加する。そんな中、トップ女優・羽鳥翔の部屋を訪れた静香は、東宝デパートの経営者・堂原の死体を発見する。翔のパトロンだった堂原は、ベッドの上で突然死してしまったらしい。
スキャンダルになることを恐れる翔は、静香に彼女の部屋で堂原が死んだことにしてほしいと頼んで来た。一度は断った静香だが、翔から「摩子役を静香に交替させる」と言われ、身代わりを承諾する。静香は芸能レポーターに騒がれる存在となるが、翔は約束通り、かおりを酷評して東京公演での摩子役を静香に交替させる…。

監督は澤井信一郎、原作は夏樹静子、脚本は荒井晴彦&澤井信一郎、製作は角川春樹、プロデューサーは黒澤満&伊藤亮爾&瀬戸恒雄、撮影は仙元誠三、編集は西東清明、録音は橋本文雄、美術は桑名忠之、照明は渡辺三雄、舞台監修は蜷川幸雄、舞台美術は妹尾河童、音楽は久石譲、音楽プロデューサーは高桑忠男&石川光、主題歌は薬師丸ひろ子。
主演は薬師丸ひろ子、共演は世良公則、三田佳子、三田村邦彦、蜷川幸雄、清水{糸へんに宏}治、内田稔、仲谷昇、草薙幸二郎、南美江、絵沢萠子、藤原釜足、香野百合子、高木美保、志方亜紀子、日野道夫、西田健、堀越大史、渕野俊太、渡瀬ゆき、遠藤征慈、野中マリ子、梨元勝、福岡翼、須藤甚一郎、藤田恵子、団巌、木村修、福岡康裕、中川幸子、仲塚康介、塚田聖見ら。


夏樹静子の小説を基に、それを劇中劇にするという脚色によって映画化した作品。
静香を薬師丸ひろ子、昭夫を世良公則、翔を三田佳子、五代を三田村邦彦が演じている。鹿島勤が、助監督の1人として参加している。

アイドル女優だった薬師丸ひろ子の処女喪失シーン(直接的な描写があるわけではないが)という、ファンにショックを与えるようなコケ脅しから映画を始める。
その後も、彼女が酒の勢いでベッドインするという展開も用意している。

劇中劇の演出は、蜷川幸雄が担当している。
だが、どうにも大仰な芝居だし、あまり魅力的には感じられない。
前半だけを見ると、静香と昭夫の恋愛が大きなラインになっている。
だが、後半に入ると昭夫はしばらく登場しない。

舞台公演のシーンで舞台だけをフィルム一杯に映し出すので、「映画と観客の距離」と「舞台と観客(映画を見ている観客)の距離」が同じになっている。
これによって、“映画の人間関係と劇中劇の人間関係が重なる”という二重構造の効果を、かなり薄める結果となっている。

カメラワークでは、もう1つ大きな疑問がある。
それは、ラストのエンドロールでの映像。
薬師丸ひろ子のストップモーションでエンドロールを流すのだが、そこでの彼女の表情は中途半端な泣き笑いになっており、ハッキリ言えば不細工な顔になっているのだ。
わざわざ不細工な表情で止める意図が、サッパリ分からない。

堂原が殺されるまで、サスペンスとしての匂いは全く無い。
前半は芝居の稽古や公演を挿入しつつ、静香と昭夫の恋愛がメインに描かれる。
芝居の稽古では、読み合わせで摩子がセリフを喋るシーンに合わせて、見学している研究生が全員で顔を上げるという、とってもワザとらしい演出を見せてくれる。

昭夫が親友について語るシーンで長々と時間を割いたり、ベッドインに至るまでの静香と昭夫の様子を時間を掛けて描写したりと、無駄に思えるようなポイントで時間を稼ぐ。
それが後に繋がるのかというと、そんなことはナッシング。

後半にサスペンスが展開するのかというと、後半もサスペンスとしての色は薄い。
静香が死体を発見するシーンでは、翔が堂原との思い出を長々と喋る。
死体発見から静香が行動を起こすまでに時間を掛けるので、緊張感が生まれない。

後半に入ると、三田佳子が静香を擁護するために役者陣の前で熱弁を振るう。
その熱演は、ほとんど主役の存在感。
薬師丸ひろ子も負けてはならじと、記者会見で堂原との思い出についてウソを並べ立てて、涙の熱演を見せている。

その辺りでようやく、この作品がサスペンスでも、ミステリーでも、人間ドラマでも、恋愛劇でもないことが分かる。
これは“薬師丸ひろ子や三田佳子のオーバーな演技合戦を見せるための映画”だったのだということが、明らかになるわけである。

 

*ポンコツ映画愛護協会