『綱引いちゃった!』:2012、日本

大分市長の花宮賢一郎は、広島から修学旅行で訪れた中学生たちが大分市の場所も知らないことに憤慨する。彼は大分市に観光客を呼んで空き地だらけの工業団地に企業を誘致し、経済を活性化させたいと考えていた。それは市民のためではなく、自分の支持率アップのためだ。認知度の低さに危機感を抱いた彼は、観光用PRビデオの製作を市役所広報課長の是永伸治や広報課職員の西川千晶たちに指示していた。しかし千晶が撮って来たビデオを見た彼は、「こんなビデオじゃPRにならん」と一蹴した。
花宮は「もっといい手を思い付いた。無駄な予算を使わず、市民の力で大分市を有名にする方法」と言い、壁に飾られている写真を指差す。それは大分コスモレディースという女子綱引きチームの写真だった。コスモレディースは世界大会で3度も優勝している強豪チームだが、既に解散していた。千晶が広報課でコスモレディースのファイルを見ていると、給食センターで働く職員たちが市役所へ乗り込んできた。その先頭に立っていたのは、千晶の母である容子だった。
市長が給食センターの廃止を決めたため、容子たちは抗議に来たのだった。警備員たちに制止されても大声で抗議を続ける容子の姿を見て、千晶は溜め息をついた。夜、帰宅した千晶は市の財政が厳しいことを話すが、容子の怒りは収まらず、「そんなことやけん、いい歳してボーイフレンドの1人も出来んのよ」と言い出した。「綱引きで町興しなんて、無理やと思うで」と冷淡な言葉を口にする容子に、千晶は「やってみやんと分からんやろ」と反発した。
千晶はホームページで綱引きチームのメンバーを募集するが、応募は0件だった。また容子たちが抗議に押し掛けた時、千晶は1つの案を思い付く。彼女は花宮の元へ行き、「給食センターの職員が綱引き大会で全国大会に出場すれば民間委託を考え直す」という取引を承諾してもらった。千晶は説明会を開いて容子たちに事情を話し、コスモレディースの試合映像を見せた。しかしビデオが終わると、会場に残っていたのは容子、大林和枝、中山絵美、伊藤麗子、藤代美香、姫野かおる、吉田沙織の7人だけだった。
千晶は容子たちを連れて、市場で練習をしている男子チームの見学に赴いた。試合に出るためには8人が必要なので、千晶は暫定的に参加することになった。容子たちは能天気なもので、練習をしているイケメンのの熊田公雄に浮かれた。千晶が市場へ来たのは、男子チームの監督にコーチを頼むためだった。ところが容子や和枝たちは公雄を引っ張って来て、彼にコーチをお願いしたいと言い出す。千晶は難色を示すが、公雄は迷わずに「やらせて下さい」と申し出た。
シイタケ農家の息子である公雄は、実家の倉庫に練習場を設置した。筋力チェックを行った彼は、職員たちの弱点が下半身で、千晶は腕力と上半身が弱いことを指摘した。全体練習は週に3回だが、各自の筋トレは欠かさないよう公雄は指示した。彼に惚れた美香は、元気に「はい」と答えた。給食センターを訪れた公雄は、チームの全体重が500キロという制限があることを語り、メンバーの体重をチェックした。すると合計は480キロだったので、公雄は筋肉を付けながら増量するよう指示した。
メンバーから恋愛関係の質問を受けた公雄は、独身で花嫁募集中であることを語った。千晶をキャプテンに任命した公雄は、彼女に思いを寄せていた。肥満の美香は認知症の父・直正と2人暮らしだった。麗子はペットショップの店員に恋心を抱いていた。和枝は夫の満が怪我をして働けなくなり、仕事を掛け持ちしていた。シングルマザーの絵美は、反抗期の息子・健太への接し方に悩んでいた。千晶は体重アップのため、頑張って食事の量を増やした。
公雄が風邪をひいたので、その日は自主練ということになった。元教師の直正が「学校へ行く」と言って聞かなかったので、美香は練習場に連れて来た。ちゃんと練習しようとするのは千晶だけで、他の面々はお喋りをしたりお菓子を食べたりして時間を無駄に過ごした。和枝は「おデートがあって」と言い、途中で抜け出した。ヘビースモーカーの沙織は、まるで煙草を辞めようとしなかった。「まだ大会まで2ヶ月もある」と呑気なメンバーに、千晶は苛立ちを抱いた。
メンバーが親睦会を開いていると、絵美と美香に、それぞれ健太と直正が警察の厄介になっているという電話が掛かって来た。警察署へ行くと、塾に行かずに夜の街を歩いていた健太が不良高校生たちに絡まれ、その喧嘩を止めようとしたのが直正だったという。健太は絵美に、「塾には行かん。高校へは行かんけん」と荒っぽく告げた。千晶は容子から、健太が絵美の実子ではなく、交通事故で亡くなった夫の連れ子であることを教えた。
メンバーが遅刻や無断欠席を繰り返す現状に、千晶は公雄と飲みに出掛けて愚痴をこぼした。千晶は泥酔し、彼の膝に嘔吐した。翌日、千晶は何を喋ったか全く覚えていなかった。出勤した彼女は、花宮から練習試合を組んだことを聞かされる。九州大会のチャンピオンだと聞いて驚く千晶だが、当日になって会場へ行ってみると、相手は「緒方キッズ」という小学生チームだった。余裕で試合に挑んだメンバーだが、まるで歯が立たずに惨敗してしまった。
負けても全く危機感の無いメンバーに腹を立てた千晶は、もっと真面目に練習するよう訴える。それでもメンバーの態度が変わらないので、千晶はチームから脱退することを告げた。自転車を走らせていた彼女は、デートと称して先に帰っていた和枝が救急車で運ばれるのを目撃した。和枝は過労だった。病院へ赴いた千晶は、満が工事現場から落ちて無職になり、和枝が3つの仕事を掛け持ちしていたことを知った。それは容子も聞かされていなかったことだった。
容子はメンバーを集め、和枝の抱えている事情を打ち明けた。JAの金融担当である阿南春樹に話を聞くと、書類を提出して事情を説明すれば住宅ローンの返済を待ってもらえるということだった。みんなが帰った後、千晶は容子に「その団結力と情熱を、もう少し綱引きにも生かしてくれたら良かったのに」と愚痴をこぼす。容子から綱引きを本当に辞めるのか確認された千晶は、明日にでも市長に言って謝罪することを告げた。すると容子は、市長と会う前に給食センターまで来るよう促した…。

監督は水田伸生、脚本は羽原大介、製作指揮は城朋子、製作は藤本鈴子&市川南&平井文宏&阿佐美弘恭&弘中謙&下田淳行、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治、プロデューサーは飯沼伸之&下田淳行、ラインプロデューサーは及川義幸、撮影は中山光一、照明は市川徳充、美術は清水剛、録音は鶴巻仁、VFXスーパーバイザーはオダイッセイ、編集は平澤政吾、音楽プロデューサーは平川智司、音楽は岩代太郎。
主題歌:『愛して笑ってうれしくて涙して』 Dreams Come True 作詞:吉田美和、作曲:中村正人、編曲:中村正人。
出演は井上真央、玉山鉄二、松坂慶子、風間杜夫、石塚英彦、笹野高史、石丸謙二郎、浅茅陽子、西田尚美、ソニン、渡辺直美、犬山イヌコ、中鉢明子、佐藤二朗、野間口徹、木南晴夏、齋藤隆成、綾田俊樹、大川ヒロキ、和田正人、姫野琉理子、升本聖子、岩崎智江、佐藤恵美、堀誠、東亮太、仲野太裕、浦辺隆一、鎌田伸一、荻森由佳、倉原亞美、伊藤直貴、鹿嶋創士郎、恒松和頼、橋爪正明、指原こう几、市川堅斗ら。


『舞妓 Haaaan!!!』『なくもんか』の水田伸生が監督を務めた作品。
脚本は『パッチギ!』『フラガール』の羽原大介。
千晶を井上真央、公雄を玉山鉄二、容子を松坂慶子、花宮を風間杜夫、阿南を石塚英彦、直正を笹野高史、満を石丸謙二郎、和枝を浅茅陽子、絵美を西田尚美、麗子をソニン、美香を渡辺直美、かおるを犬山イヌコ、沙織を中鉢明子、市長の秘書を佐藤二朗、是永を野間口徹、千晶の先輩職員を木南晴夏、健太を齋藤隆成が演じている。

これまでに水田伸生が監督を務めた映画は『花田少年史 幽霊と秘密のトンネル』『舞妓Haaaan!!!』『252 生存者あり』『なくもんか』の4本。
その全てを、『ポンコツ映画愛護協会』で取り上げている。つまり、そういう監督である。
「3本連続で駄作を撮った監督は、映画を撮るセンスが無いか、そのセンスが枯渇してしまったか、いずれかである」というのが私の持論である。
水田監督の場合は映画デビューから4本連続、本作も含めれば5作連続なので、言わずもがな、である。

演出だけでなく脚本にも問題があるが、ともかくオープニングからして、もう「ああ、ダメっぽい」と感じさせられる。
まず冒頭、千晶がパイロット・スーツを着てサングラスを掛け、颯爽と滑走路に表れる。で、セスナ機が写る。
その時点で、「戦闘機だと思ったらセスナ」という落差の笑いは死ぬ。
それは置いておくとして、千晶がセスナに乗り込んで離陸し、パラシュートで降下する様子は、花宮が広島から来た中学生たちに大分の(退屈な)ガイドをする様子とカットバックで描かれるのだが、それに全く意味が無い。
先に退屈なガイドを処理して、それから千晶のシーンに移っても全く支障は無い。っていうか、そっちの方がスッキリする。

っていうか、千晶がパラシュートで降下するシーン自体、削ってもいいんじゃないかとさえ感じる。
というのも、彼女が牧草地に着陸し、牛の群れに追われて逃げ出す、というところでパラシュートに『綱引いちゃった!』というタイトルが出る流れになっているんだけど、そのパラシュート降下が何のために行われていることなのか、サッパり分からないんだよね。
てっきり、花宮がガイドしている現場と合流するのかと思ったら、そうじゃないし。
タイトルが終わってから、それがPRビデオ撮影のための行動だったってのが分かるんだけど、それは先に示しておかないと。
行動理由が分からない状態だと、「牧草地に落ちて牛の群れに追われる」ってのがオチとして成立しなくなってしまうのよ。

それに続くシーンで、ますますダメな印象は強まる。
花宮が「これだ」とコスモレディースの写真を指差した後、給食センターの清掃をしている女性たち様子が写る。だが、彼女たちはコスモレディースではない。
広報課に戻った千晶はコスモレディースの記事を集めたファイルを見た後、「まずは選手集めやな」と口にする。てっきり、花宮は「コスモレディースを再結成させろ」とでも命令したのかと思ったら、そうじゃないのね。「綱引きで勝つために新チームを作れ」ということなのね。
コスモレディースの解散理由が不明になっているので、その理由を明らかにすると共に、再結成に向けて動き出す流れにしていくのかと思ったら、そうじゃないのね。
でも、そんな説明が無いから、いきなり千晶が「まずは選手集めやな」と口にした時に、「えっ、そういうことなの?」と戸惑ってしまう。

説明不足と言えば、給食センターの職員たちが抗議に来た時、千晶は「勘弁してよ」と困った様子を見せているが、その時点では容子が母親であることを観客に示していない。
シーンが切り替わり、2人が自宅にいるシーンで、ようやく母子だと分かる。
でも、その説明を後回しにしておく意味なんて、何も無いでしょうに。
そこで「実は親子だった」というサプライズの効果が出るわけでもないし。

その後、千晶が給食センターの職員たちを綱引きチームのメンバーにしようと思い付くのも、かなり無理のある展開だ。まだホームページでの募集が0件だったというだけで、「様々な方法でメンバーを探すが見つからず」という状況ではなく、そこまで追い詰められている感じは無かったし。
それに、「職員たちが綱引きで勝てる」と思えるような出来事があったわけでもない。千晶としては、ただメンバーを集めれば任務完了じゃないはずでしょ。
彼女が命令を受けて仕方なく動いているならともかく、そうじゃなくて「大分市のために」という使命感を持っているんだよね。だったら、全国大会に出て大分のPRに繋がるような、強豪チームじゃなきゃ意味が無いはずだよね。
それなのに、そんなに適当な方法で安易に選んじゃっていいのか。

その後、説明会でコスモレディースの試合映像(実際の映像)を見せるシーンがあるが、ここは要らない。
映画のモチーフにしたチームだし、ちゃんと紹介しておかなきゃマズいだろうってことなんだろうけど、「映像が終わったら7人しか残っていなかった」という展開のダシに使われているだけなので、むしろ失礼。
っていうか、「そんな映像を出すぐらいなら、いっそのことコスモレディースを描く映画にしておけば良かったんじゃないの」とも思っちゃうし。
その後、「メンバーが足りないから千晶が悩むが、参加するハメに」という展開があるのかと思いきや、シーンが切り替わると彼女が参加することになっており、なし崩し的に正規メンバーとなる。
そこもなあ、もっと面白く膨らませることが出来ただろうに、なんか雑なんだよなあ。

この映画って、見た人が「競技綱引きって面白い」と感じたり、「大分市に行ってみたい」と思ったり、そういうことが重要じゃないかと思うんだよね。
だけど、どっちの目的も、それを果たせるような内容に仕上がっているとは言い難い。
まず「綱引きの魅力」という部分に関しては、最初の時点で「我々が運動会でやっていたような遊びの綱引きと、競技としての綱引きの明確な違い」「競技綱引きは凄い」ということをPRできていない。
ヒロインの仕事は広報課職員だが、この映画の広報能力はお世辞にも高いとは言えない。

チームが結成されると、いきなり公雄が「綱引きで勝つためにはどうすべきか」というレクチャーに入っている。
だが、そうではなく、まず素人の容子たちに綱引きをやらせてみて、熟練者との違いを見せ付けた方が良かったんじゃないか。
それと、競技綱引きのルールに関する説明も無いんだよな。
もちろん、運動会の綱引きと似たようなルールだとは思うけど、もっと細かくルールが設定されているはずで、反則行為だってあるんだろうから、その辺りはキッチリと説明しておくべきだと思うぞ。

千晶がキャプテンに任命された後、メンバー個々の事情が描かれるターンに入る。
粗筋では、その時点で「夫が怪我をしたので和枝が仕事を掛け持ちしている」ということが開かされているような書き方をしたが、実際のところ、怪我をしている満が家にいる様子と、買い物から帰宅した和枝が急いで出掛けて行く様子しか描かれていない。
だけど、よっぽど鈍感な人じゃない限り、それだけで彼女の抱えている事情は何となく分かるだろう。それで事情を隠しているつもりなら、意味が無い。さっさと明示した方がいい。
でも、その後で「和枝の事情を知った千晶の気持ちが変化する」という展開があることを考えると、やっぱり隠しておいた方がいいんだよな。

でも、実は一番の問題は、「和枝の事情が先にバレバレになっている」という部分じゃないんだよね。
それよりも、そういうメンバーたちの家庭事情が、メインのストーリーと上手く絡み合っていないってことの方が問題だ。
この手の作品のセオリーとして、とりあえず個々のエピソードを盛り込んでみた、という感じに留まっている。段取りでやっているだけだから、ちゃんと処理できていない。
「個々が抱える問題が解決に向かう」ってのと、「綱引きチームの結束が固まる」ってのが、上手く融合していないんだよね。

千晶が花宮から練習試合を組んだことを聞かされるシーンがある。
「相手は九州大会のチャンピオンだ」と言われてビビるが、シーンが切り替わると、相手が小学生ということでメンバーたちが舐めている様子が描かれる。
でも、それって描写として間違ってるでしょ。最初に「相手が小学生と言って甘く見る」というところから入って、「いざ試合をすると完敗」という形で見せるべきでしょ。
最初に九州大会のチャンピオンってのを示してしまったら、「そりゃ強いでしょうよ」となっちゃうでしょうに。

千晶が容子から「市長と会う前に給食センターまで来るように」と言われて行ってみると、メンバーが休憩時間を使って練習している。
それで「実は隠れてトレーニングしていました」ってのを見せたいのは分かるけど、だったら練習場でもちゃんと練習しろよ。
なんで設定されて練習時間はダラダラと過ごして、それ以外の時間で練習してるんだよ。
設定された練習時間もトレーニングをやって、それに加えて別でも練習しているってことなら応援したくなるけど、そうじゃないから、そんな様子を見せられても見直す気にならんぞ。

小学生チームとの練習試合で惨敗した後、試合をするシーンは大会の1回戦だけ。
一応、練習のシーンなどによって「トレーニングの成果が出てチームの実力が上がっている」というのは示しているけど、もう少し細かく個々の実力アップに触れてほしいという不満はある。
それと、やっぱり正式な試合が1回しか無いってのも物足りなさがある。
しかも、その試合が始まったところで、映画は終わってしまうんだよな。「いよいよ大会に臨む」というところで終幕という構成なのだ。
打ち切りを食らった連載漫画の最終回かよ。

まだ綱引きだけに限定するなら、「1回戦に挑む」という段階で終わっても、まだ受け入れることが出来たかもしれない。
しかし、それ以外の部分も放り出したままで終わっているんだよね。
「市民のために大分市の認知度をアップさせる」という千晶の目的は達成されていないし、悪党キャラである市長への決着も付けていないし、給食センターの閉鎖問題も解決されていない。
個々が抱えている問題も、ちゃんと全てが解決されたわけではない。
綱引き大会の結果はともかく、そういうのはキッチリと片付けておくべきじゃないのか。

(観賞日:2013年12月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会