『繕い裁つ人』:2015、日本
大丸百貨店のバイヤーを務める藤井は、南市江が作る服に魅了された。彼は上司の巽に一点物ばかりだが即日完売状態であることを説明し、ブランド化してネット販売しようと考えていることを話す。「本人の承諾を得られそうなの?」と訊かれた彼は、「現在、交渉中です」と答える。「きっとご本人も素敵な人なんでしょうね」と巽が言うと、藤井は「いや、頑固ジジイって感じです」と告げた。南市江は祖母から後を継ぎ、南洋裁店の二代目として働いている。
藤井が店を訪れると母親の広江が現れ、まだ市江が寝ていることを教える。広江に起こされた市江はパジャマ姿のまま現れ、藤井がいると知って当惑する。慌てて着替えた彼女は「ゆっくりなんですね、朝は」と藤井に言われ、「遅かったんです、昨日は、たまたま」と言い訳する。紅茶を入れようとして茶葉をこぼしてしまった彼女に、広江は「洋裁以外は何も出来ないんだから」と笑う。市江は口を尖らせ、「黙ってて。夢見るための洋服を作ってるんです。生活感出して、たまるもんですか」と告げた。
改めて藤井がブランド化について持ち掛けると、市江は断る気持ちに変化が無いことを話す。藤井は人気人気モデル数名の写真を見せ、「人気モデルが着るだけで服の価値は上がるものです」と言う。しかし市江は「つまらない写真」と告げ、「自分の美しさを自覚してる人に、私の洋服は必要ないわ」と述べた。「この写真で、不特定多数の人が貴方の服を知るんです」と藤井が告げると、彼女は「着る人の顔の見えない服なんて、作れないわ」と口にする。
牧葵の雑貨屋に卸していることを藤井が指摘すると、市江は「あれ以上、広げたくないので」と言う。スタッフもスペースも全て用意することを藤井は約束するが、彼女は「ウチの先代のミシンじゃないと使えないんですの」と告げた。葵の店を訪れた藤井は、「ウチは先代からの付き合いだからね」と言われる。葵は藤井に、「ここにある少しの服と、先代の服の仕立て直しとサイズ直しが、市江の仕事の全て。広げたくないんだよ」と語る。
南洋裁店には、近所に住む女子高生・ゆきが訪れる。彼女は母の昔の服を持参して、自分が着られるように仕立て直しを依頼した。少しサイズは大きかったが、市江は承諾した。その様子を見ていた藤井が帰ろうとすると、広江は「お団子いかが?お茶も入ったし」と誘った。チヨという近所の主婦も店に来て、結婚前に夫の父から貰った着物の仕立て直しを頼む。近所の若い主婦も店を訪れ、息子が穴を開けてしまった服の手直しを頼む。客が全て帰った後、藤井は市江に「いい店ですね」と言う。市江は「入れ代わり立ち代わり、近所の人がやって来て、世間話をしていくの。昔も今も、私の一番大切な場所だもん」と語る。
数日後、藤井は図書館で服飾関係の本を読んでいる市江を見掛ける。藤井は「こっちを読んだ方がいいんじゃないですか」と別の本を薦めるが、彼女は「要りません。自分で読む本は自分で選びます」と冷たく断った。藤井が書店で大量に本を買い込んだことを知った市江は、「そんなにあったら、分からなくなるんじゃないかしら。ホントに好きな物が」と口にした。市江は図書館を出た後、藤井に「ホントは、葵さんの店に卸してる服も作りたくはないんです。あれは生活のためです。パターンだって祖母の物をそのまま使っています。祖母は墓まで持って行ける服を作っていた。二代目の仕事は、一代目の仕事を全うすることだと思っています」と語る。
「挑戦することが怖いだけじゃないですか?変化を恐れているだけじゃないですか?」いう藤井の問い掛けに市江は答えず、「ブランド化の話、お断りします」と告げて立ち去った。藤井は葵と会い、3年前に市江の祖母が死んだこと、近所の人々から愛されていたことを語る。市江はゆきのワンピースとチヨのスカートを完成させ、引き渡して喜んでもらった。広江は市江に、「藤井さんは先代じゃなくて、お前の服を好きだって言ってくれる人だよ」とと話す。「二代目の気持ちは私にもよく分かる。私はずっと逃げ続けた。偉大な親を持つと、子供も孫も大変なのよ」と彼女が言うと、市江は近所の喫茶店『サンパウロ』へ出掛けた。いつものチーズケーキを食べて、彼女は満足そうな笑みを浮かべた。
ある日、中田という老人が店を訪れ、「そろそろ、夜会のスーツの仕立て直しを頼もうと思ってね」と言う。藤井は広江に夜会のことを尋ね、「先代が始めたの。この町には一年に一度、30歳以上しか参加できない夜会があるの。そこではみんな、夢のような服を着て参加するの。特別な夜なの」と聞かされる。中田が持ち込んだスーツも、先代が作った物だった。市江が洋裁店を出ると藤井は付いて行き、『サンパウロ』でチーズケーキを御馳走になった。
次の日も藤井は「貴方の仕事をもっと見たい。じっくり時間を掛けると決めたんです」と言い、市江に付いて行く。市江は恩師である泉の家に呼ばれて出向き、夫と出会った時に着ていた服を死に装束に仕立ててほしいと依頼される。市江が「随分、気が早いですね」と言うと、彼女は「誰だっていつかは死ぬのよ」と軽く笑った。藤井は市江の仕事を手伝うが、いつの間にか眠り込んでしまった。目が覚めた時には、既に仕事が終わって服は包装されていた。
葵は市江に、藤井が彼女の服をどれほど好きなのか語り、夜会にも呼んであげるよう促した。ゆきは友人2人と共に洋裁店へ忍び込み、何着も置いてある夜会用の服を眺める。デザインの古さについて3人が語っていると、藤井が現れて「君らのための服じゃないからね」と不機嫌そうに告げた。藤井は紳士服店『テーラーハシモト』へ行き、裾直しを頼んでいたスーツを受け取る。店主の橋本は、市江のことも先代のことも知っていた。
藤井は橋本に、「今では、価値の分からない人には、あの人の服はふさわしくないと思います。それでも、何度も行ってしまうんです」と語る。藤井が「僕は見たいんです。先代のデザインを流用した物じゃなくて、市江さんのオリジナルデザインの服が。市江さんは、それが作りたいはずなんです」と言うと、橋本は「そうでしょうか」と否定的に告げる。彼は「私は分かるような気がします。先代の服と共に生きようとしている、市江さんの思いが」と述べた。
藤井は市江の元へ行き、「貴方たちは、そうやって好きな仕事をして満足なんでしょうね。決して自分のスタイルを崩そうとしない。それで駄目なら簡単に諦める」と声を荒らげる。しかし、すぐに「すみません。これは貴方に言いたいことじゃなかった」と謝罪し、その場を去った。後日、市江は藤井が恋人らしき女性と仲良く話している様子を目撃した。店を訪れた藤井は、完成した中田の服を見た。市江の丁寧な仕事ぶりに、彼は感心した。
夜会の夜、ゆきと友人2人は会場を密かに覗き込み、普段と全く両親や祖父のオシャレな姿を見て驚いた。市江は藤井に、「オシャレは自分のためにするもの。でも、とっておきの服は、たった一人の誰かのために着る物。祖母はそう言いながら夜会の服を縫っていたわ」と語る。ゆきたちが会場へ乗り込むと、市江は「子供といると、親はいつもの顔に戻ってしまうのよ。ここは、30歳以下は入場禁止です」と立ち去るよう要求した。
ゆきの友人たちが自分の服も作ってほしいと頼むと、中田が「駄目だよ。お前たちに、南の服は勿体無いよ。年々柔らかくなって体に沿って来る生地や仕立ての良さ。」と述べた。藤井は市江に、貴方は誰かのための生涯の一着が作りたいはずだ。自分のデザインした夜会の服が作りたいはずだ。先代を超えたいはずだ。貴方は無理をしてる。そう思ってました。でも分かりました」と語る。彼は「貴方はそのままでいい。ありがとうございました。さようなら」と告げて会場を去り、南洋裁店にも姿を見せなくなった…。監督は三島有紀子、原作は池辺葵「繕い裁つ人」(講談社『ハツキス』連載)、脚本は林民夫、製作は横澤良雄&水口昌彦&依田巽&鈴木伸育&佐竹一美&山本正典、エグゼクティブプロデューサーは重松圭一&植田龍太郎、プロデューサーは沖貴子&黒澤格&宇田川寧、協力プロデューサーは石岡雅樹&柴原祐一、撮影は阿部一孝、照明は常谷良男、録音は深田晃、美術は黒瀧きみえ、編集は加藤ひとみ、衣裳デザインは伊藤佐智子、音楽は小林洋平。
主題歌は平井堅『切手のないおくりもの』作詞・作曲:財津和夫、編曲:大橋好規。
出演は中谷美紀、三浦貴大、余貴美子、片桐はいり、黒木華、中尾ミエ、杉咲花、杉咲花、永野芽郁、小野花梨、奥野匡、立石涼子、峰蘭太郎、キキ花香、前田晃男、永津真奈、要冷蔵、宮川ひろみ、飯島順子、堺幸子、森本アリ、松岡依都美、永野宗典、下山天、三好フミタカ、斎藤昇、日永貴子、阿部達雄、及川規久子、坂田渥、川井聡子、Wakky×2、朝井千景、木元としひろ、谷村真弓、溜祐美、宮本時代、中川和美、大澤花彩、兼松優葉、森山葉月、安田真弓、一ノ瀬澪、柳杏奈ら。
『Kiss PLUS』と後継誌『ハツキス』で連載された池辺葵の同名漫画を基にした作品。
監督は『しあわせのパン』『ぶどうのなみだ』の三島有紀子。
脚本は『藁の楯 わらのたて』『永遠の0』の林民夫。
市江を中谷美紀、藤井を三浦貴大、広江を余貴美子、葵を片桐はいり、藤井の妹の葉子を黒木華、泉を中尾ミエ、橋本を伊武雅刀、ゆきを杉咲花、その友人たちを永野芽郁&小野花梨、中田を奥野匡、チヨを立石涼子、チヨの夫を峰蘭太郎が演じている。序盤、市江は茶葉をこぼして母に「洋裁以外は何も出来ないんだから」と笑われると、「夢見るための洋服を作ってるんです。生活感出して、たまるもんですか」と言う。
それは「失敗したことの言い訳」「日常生活でヘマばかりしていることの釈明」ってことなのかと思いきや、そうではない。
どうやら、本気で「夢見るための洋服を作っているのだから、それ以外のことは削ぎ落とした生活を心掛けている」ってことのようだ。
そうなると、「ただのキテレツな人」でしかないよね。世の中には「買った人が夢見るための商品」を作っているクリエーターなんて幾らでもいるけど、その人たちが全て「生活感を出しちゃいけないから、自分の仕事以外は何も出来ない」ってわけではない。
普通に結婚していたり、家事をしていたりする人だっている。
つまり、「買った人が夢見るための商品を作るには、自分も夢の中で過ごさなきゃいけない。生活感があっちゃいけない」なんてことは無い。
その生活感が作った商品に投影されなければ、何の問題も無いんだからね。そもそも、市江の祖母も、同じ店をやっていたのだ。つまり、母親として広江の面倒を見ながら、そして旦那の妻として家事もしながら、服を作っていたわけで。
そんな見本が近くにいたわけだから、市江の「夢見るための洋服を作ってるいるから生活感はダメ」ってのが成立しないことはハッキリしている。
ようするに、市江は藤井が評したように、ただの頑固ジジイでしかない。
それは「確固たる信念」とか「芸術家の矜持」といったモノではなくて、「狭い了見」でしかない。もちろん、「小ぢんまりと仕事をやっていきたい」とか、「そんなに大儲けしたいわけじゃないから」という経営理念で仕事をする個人事業主を、全面的に否定するわけではない。もちろん人それぞれに考え方はあるから、それは構わない。
ただ、市江の場合、その言い訳がカッコ悪いものに聞こえてしまうのだ。
単純に「今のままで充分」とか、「近所の人たちが喜んでくれるだけでいい」とか、そういう「小さな幸せを大切にする」ってな感じなら好感を抱いたかもしれない。
だけど、前述した「生活感出して、たまるもんですか」という言葉や、人気モデルの写真を切り捨てる「つまらない写真」という言葉、「着る人の顔の見えない服なんて、作れないわ」という言葉を吐く時の口調や態度が、すんげえ偉そうなのよね。で、そんなに好感度の低さを露呈している市江だし、藤井も自ら「頑固ジジイ」と評しているような相手なんだから、それでも執拗に交渉するからには、よっぽど素晴らしい服なんだろうと思うわけよ。
でもね、ワシがファッションに疎いことは認めるけど、「そんなに何度も通ってネット販売を持ち掛けるほど魅力的かね?」と感じるぞ。
そりゃあ、そこに「誰もが引き付けられる」という説得力を持たせるのは難しいだろうけど、それが出来るかどうかってのは本作品にとって重要なミッションでしょ。
そして、そこに「大多数が納得できる魅力的な服」としての説得力を持たせることが出来ていないのは、致命的な欠陥と言ってもいい。あと、市江は序盤で受ける印象からすると、話が進むにつれて不快感は薄れて行くが、逆に藤井の印象が悪化していく。
まず、幾ら服のブランド化を承諾してもらいたいからって、ずっと付きまとうのはストーカーじみている。
ただ、それより気になるのは、店を訪れる度に広江が出してくれる団子を食べていた藤井が、市江に「正直に言っていいですか。僕、お団子、嫌いなんです」と明かすシーン。
「彼が団子を嫌いなのに無理して食べていた」ってことに関しては、何の不快感も抱かない。ただ、それを広江の娘である市江に打ち明けるのは、すんげえデリカシーが無い奴だと感じる。
それはテメエの心の中で収めておけよ。市江が藤井に、「入れ代わり立ち代わり、近所の人がやって来て、世間話をしていくの。昔も今も、私の一番大切な場所だもん」と語るシーンがある。
そこは、たぶん観客の共感を誘いやすい要素だ。
だったら、そこを「藤井の提案を断る理由」として設定すれば良かったんじゃないのか。
「ここが自分にとって大切な場所で、ネット販売で人気が出て大勢の人が押し掛けたりしたら、近所の人々との共有空間としての場所が壊れてしまうから嫌だ」ってことにすれば、納得しやすかったんじゃないかと。市江や葵の台詞によって、先代が偉大な人物であり、大勢の人々に愛されていたことが説明される。
そして、その説明によって、市江がプレッシャーを感じていることは分かる。
そして「祖母のような才能が自分には無いから、その仕事を全うするためだけに留めておこう」という卑屈な考えになっているんだろうってことも、何となく伝わって来る。
ただし、それがドラマとしてキッチリと表現され、市江に対する感情移入に貢献しているのかというと、そこは上手く行っていない。藤井は橋本に「今では、価値の分からない人には、あの人の服はふさわしくないと思います。それでも、何度も行ってしまうんです。僕は見たいんです。先代のデザインを流用した物じゃなくて、市江さんのオリジナルデザインの服が」と語る。
でも、藤井が魅了されたのは、市江が先代のデザインを流用して作った服だったはず。
オリジナルデザインなんて一度も見たことが無いのに、なぜ「先代の流用じゃなく、オリジナルが見たい」という気持ちになるのか。そこが良く分からない。
「市江の仕事ぶりを見ていると、オリジナルのセンスもあるはずと感じた」ってことなんだろうけど、映画を見ている限り、その展開に説得力は感じない。仕立ての能力とデザインの能力ってのは、全く別物だからね。ゆきたちが夜会の場へ乗り込むのはマナー違反だし、市江が立ち去るよう求めるのは当然だ。そこで女子高生2人が自分の服も作ってくれと頼むのは場違いな要求だから、それを市江が断るのなら理解できる。
しかし中田が「駄目だよ。お前たちに、南の服は勿体無いよ」と切り捨てるのは違うでしょ。
例えば、ゆきは洋裁店を訪れ、母の服を自分用に仕立て直してほしいと頼んで、OKしてもらっている。客として店を訪れ、仕立て直しを頼むのであれば、それを断る理由は無いはずだ。
少なくとも、ただの客が勝手に断るのは違うぞ。中田は「お前たちに、南の服は勿体無いよ」と言った後、「年々柔らかくなって体に沿って来る生地や仕立ての良さ。買ってひと月足らずの服を売ったり捨てたりする者には分からんよ。同じ服で連れ添って行ける幸せは無いよ」と批判するように告げる。
でも、「なんで彼女たちが買って間もない服を売ったり捨てたりしていると知っているのか。勝手に決め付けているだけじゃないのか」と言いたくなるぞ。
たぶん、そこは「市江の仕立てが先代に負けず劣らず素晴らしいと客が感じている」ってことをアピールしたかったんだろう。
でも、そのために女子高生たちを貶めるってのは、やり方として卑劣だし、間違っているんじゃないかと。
それによって中田が酷いジジイに見えてしまうし、誰も得をしないシーンになってるぞ。ところで最初に書くべきだったが、この映画はファンタジーである。実際の街を舞台にしているし、魔法使いもモンスターも登場しないが、しかしファンタジーである。
そこを理解し、そして受け入れないと、この物語に浸ることは難しい。っていうか、たぶん無理だ。
「何がどうファンタジーなのか」ってことを具体的に説明すると、例えば「市江が雑貨店に卸す少しの服と、先代の服の仕立て直しとサイズ直しだけで生計を立てている」ってのがファンタジー。そんな小さな店なのに、わずかな時間で立て続けに3組の客が来るのもファンタジー。
大丸百貨店のバイヤーである藤井が、市江をストーキングする以外に全く仕事をしている様子が無いのもファンタジー。市江が図書館を訪れた時、たまたま藤井も来ているってのがファンタジー。
それは大抵の場合、「御都合主義」なんて呼ばれることが多い。でも、そんなことを言い出したら、この映画は見ていられないシロモノになるので、ファンタジーとして甘受するのが賢明だ。この映画、最初は関東が舞台なんだろうと思っていたが、原作だと神戸が舞台になっているらしい。そして、実は映画版でも、神戸が舞台になっている。「設定が神戸」ってだけじゃなくて、ロケーションも神戸で行われており、例えば夜会のシーンでは旧グッゲンハイム邸が使われている。
しかし、何しろ登場人物は全員が標準語を使っているので、ちっとも「神戸」の印象が伝わらない。
神戸に詳しい人や地元の人なら、出て来る場所を見ただけで「神戸ね」と分かるだろうけど、逆に神戸と分かるからこそ「なんで全員が標準語なのか」と疑問を抱く可能性も高くなるわな。
ただ、そこも「だってファンタジーだもの」ってことで、受け入れるのが賢明だ。終盤、市江は藤井の恋人だと思っていた相手が妹だと知り、彼女から話を聞いて気持ちに変化が生じる。そして彼女の結婚式のために、ウェディングドレスを作る。それは市江が生涯で初めて、他人のために作ったオリジナルデザインの服ってことになる。
だけど、普通の服とウェディングドレスって全く違う物なので、それが最初ってのは違和感がある。
もう1つの問題として、「そのウェディングドレスにスペシャル感が見えない」ってことがある。まあ表現として難しいだろうけど、市江の才能を感じさせる物にはなっていない。で、市江がオリジナルの服を作り始めたことを藤井は知ったんだから、もちろん会いに行くんだろうと思いきや、そのまま終わってしまう。
いやいや、それだと藤井の気持ちがどうなったのか分からないままになっちゃうでしょ。
別にさ、ガッチリとした答えを用意しろとは言わんよ。そういうタイプの映画じゃないし。
ただ、例えば「藤井が洋裁店を訪れ、市江が微笑で迎える」という終幕でもいいから、藤井が再び服に対する情熱を取り戻したってことを示すような描写は必要なんじゃないかと。(観賞日:2016年10月31日)