『築地魚河岸三代目』:2008、日本

赤木旬太郎は恋人の明日香と共に、高級レストランに来ていた。そういう場所が苦手な明日香は、勝手に決めた旬太郎に困惑する。旬太郎 は「俺も苦手だよ。だけど、改まって話したいこともある」と言う。しかし、その話の内容を尋ねらると、なかなか切り出せない。そこへ 漆原常務から電話が入り、旬太郎はすぐにゴルフバッグを届けるよう手配を頼まれた。テーブルに戻ると、明日香は居眠りをしていた。 指輪を用意してプロポーズしようとしていた旬太郎だが、渡しそびれてしまった。
膝の手術で入院していた鏑木徳三郎は、親友・真田正治郎の手助けで病院を抜け出した。築地を見に来た彼は、「そろそろ身を引くつもり だ。三代目だったら英二がいる」と言う。旬太郎は病院を訪れ、元上司・金谷の妻である順子にブドウを差し入れした。彼は金谷と共に、 小料理屋「千秋」で昼食を取った。商社マンの旬太郎は、かつて金谷の下で買い付けをしていたが、今は漆原の使い走りとなっている。 そんな現状に、旬太郎はモヤモヤした気持ちを抱えていた。結婚したい相手がいることを彼が話すと、金谷は笑って「だったら割り切れ」 と言う。女将の千秋は、順子の大好物のアカムツを探しているが、築地でも見つからないことを金谷に告げた。
漆原は旬太郎の人事課長への昇進を祝い、彼をクラブへ連れて行った。そこで初めてリストラ計画を進めるよう言われ、旬太郎は困惑した 。クラブを後にした早朝、旬太郎は明日香が自転車で走っているのを目撃する。彼女を追い掛けて辿り着いたのは築地市場だった。すると 明日香は、仲卸の名店「魚辰」で働いていた。旬太郎は明日香を市場から連れ出し、事情を尋ねた。「デパートの飾り付け、チーフに抜擢 されたんだろ。無茶だよ」と言うと、明日香は「色々と事情が」と言い淀んだ。
旬太郎は「とにかく帰ろう」と言い、明日香を強引に連れて行こうとする。そこへ魚辰の従業員・英二が現れ、「お嬢さんに何するんだ」 と怒鳴って旬太郎を海に突き落とした。誤解が解けて海から上がった旬太郎に、明日香は「父が膝の手術で、退院するまで手伝うことに した。今月の終わりには父が戻って来るので、それまでのこと」と説明した。それから彼女は、「だから、ここには来ないで。ここには 近付いてほしくないの」と真剣な眼差しで告げた。
喫茶店「アルプス」に集った築地市場の駒さんたちは、これが英二の正念場だと考える。彼らは、英二が明日香を心の底で思い続けている と確信していた。英二は徳三郎の見舞いに赴いた。徳三郎は「お前が早く屋台骨を背負ってくれるよう腹を決めてくれれば」と口にする。 英二は「やっぱり、お嬢さんが婿を取って三代目になってもらった方がいいと思います」と意見を述べるが、徳三郎は「あいつには、 やりたいことが外にあるようだ。俺はな、魚辰の三代目はお前と決めてるんだ」と語った。
次の早朝、旬太郎は自転車で築地市場に現れた。彼は魚辰の従業員である雅、拓也、エリに向かって、いきなり「今日からお手伝いさせて いたただきます。明日香のピンチヒッターとして頑張りたいんです」と言う。そこに明日香が来て、勝手に決めた旬太郎に腹を立てる。 「素人の旬ちゃんに出来るわけないじゃないの」と彼女は言うが、旬太郎は「お前、寝てないだろ」と言い、強引に事務所のソファーへ 連れて行って仮眠を取るよう促した。
旬太郎は魚辰の手伝いを始めるが、冷やかし客に遊ばれてしまう。その様子を見た英二は、「やっぱり無理です」と告げる。旬太郎は拓也 にカツオを売ってもらい、それを捌いてもらった。刺身を食べた旬太郎は、包丁の入れ方で味が全く違うと感じ、「プロって凄いなあ」と 感心する。誉められて嬉しくなった拓也は、「カツオのガワ」という料理を作って旬太郎に食べさせた。旬太郎は、次の日も別の魚を自腹 で購入し、それを食べて味を覚える。拓也は、マコガレイとマガレイの味の違いに気付いた旬太郎に感心した。
旬太郎は早朝に魚辰を手伝い、それから会社に出勤した。彼は漆原から渡された早期退職優遇制度勧告対象者リストの中に、「営業二課・ 金谷聡」という名前を見つけた。旬太郎は漆原の元へ行き、「お世話になっている人なので、何とか外してもらえませんか」と頼んだ。 すると漆原は「僕個人の決定じゃない。君は会社の決定を伝えればいいんだよ」と言う。彼の話で、旬太郎は順子が末期ガンだと知った。 そんな妻と一緒にいるために、金谷は有給休暇を使って会社を休む日が多くなっていた。
旬太郎は金谷に、早期退職の勧告を事務的な口調で告げる。すると金谷は驚きもせず、「今週中に辞職願を出すよ」と淡々と告げる。 旬太郎は「こんなのデタラメじゃないですか。嘘を並べて金谷さんをクビにするなんて出来ません」と、やりきれない気持ちを吐露する。 金谷は「お前が担当してくれて良かったよ」と静かに告げた。後日、小料理屋を訪れた旬太郎は、金谷が順子の望みで田舎の信州に戻った ことを千秋から聞かされた。旬太郎は千秋に、「アカムツの煮付けを出してあげたいんです」と告げた。
旬太郎は築地市場へ行き、アカムツを探した。石川水産でアカムツを見つけた旬太郎だが、店主の駒さんに予約済みだと追い払われる。 英二の親友である駒さんは、「大事な仲間の幸せを横取りするような奴に、魚は売れねえんだよ」と旬太郎に言い放ち、冷水を浴びせた。 旬太郎が小料理屋で体を拭いていると、英二がアカムツを持って来る。彼は「こいつに下ごしらえを教わって、終わりにしてください。 来週には旦那も退院してきます。カタギの仕事に戻ってください」と告げた。
旬太郎は信州へ飛び、アカムツの煮付けを作って金谷や順子たちに振る舞った。東京へ戻る旬太郎に、金谷は「会社を辞めて女房といる ことを後悔してない。幸せってのは、自分の気持ちに嘘つかないで生きることだって、この歳になってようやく分かったよ」と述べた。 東京に戻った旬太郎は、漆原に辞表を提出した。退院した徳三郎が明日香と共に「魚辰」へ戻って来ると、そこへ旬太郎が現れた。彼は 挨拶し、明日香と交際していることを告げた。
旬太郎は鏑木の家に移り、徳三郎と話をする。彼は頭を下げて「俺を魚辰で雇ってください。何でもやります。俺を築地の人間にして ください。会社には辞表を出してきました。俺の生きていく道は、ここだって決めたんです」と述べた。明日香は腹を立て、「どうして そんなに自分勝手なの」とビンタした。雅は拓也とエリを伴って小料理屋へ行き、「英二兄貴はああいう性格だから言わないけど、 お嬢さんのことを好きなことぐらい、お前らも分かってるだろ」と語る。それを聞いていた千秋の顔が強張った。
夜、旬太郎は明日香が装飾デザイナーとして働いているショッピングモールへ赴いた。明日香は「なんで築地なの?他にもあるじゃない、 生きていく道が」と問い掛ける。旬太郎は「ホントに築地が好きになっちゃったんだよ。あそこで生きていきたいんだよ」と説明するが 、明日香は「あたしの気持ちは?あたしがどうしたいかは、どうでもいいわけ?」と悲しそうに言い、その場を去った。
英二は小料理屋で、明日香に「旬太郎さんのこと、どう思ってるんです?お嬢さんが本気なら、俺にも考えがありますから」と尋ねた。 すると明日香は涙ぐんで、「ごめんなさい」と立ち去る。ダンスの練習の帰りに通り掛かったアルプスの夫婦は、それを目撃していた。 そのことを常連客たちに話したマスターは、「英二がプロポーズして、明日香ちゃんが嬉し涙を流したんだよ」と勝手なことを言う。それ を聞いた駒さんは宮司のハルオに、2人の結婚式の手配を頼んだ。
アルプスのママから結婚のことを聞いた旬太郎は、魚辰へ乗り込んで明日香を問い詰める。すると、それが原因で雅と拓也が揉め始めた。 エリは旬太郎に、「今まで仲良くやっていたのに。アンタのせいよ」と怒りをぶつける。明日香は「お願い、帰って。もうここには 来ないで」と言う。英二は話をするため、旬太郎を真田鮨へ連れ出す。英二は彼に、徳三郎が向島の芸者に産ませた子供が自分だと 打ち明ける。つまり明日香とは腹違いの兄妹なのだ。しかし明日香はそのことを知らない。英二は「口が裂けても誰にも話さねえって約束 してください」と旬太郎に告げた。
英二は千秋の店へ行き、ハイヒールをプレゼントした。しかし千秋は英二と明日香のことを誤解しており、「そんな靴に合う服を持って ないの。英二さん、私がどんな服を着ているか、気にしてくれたことある?」と言う。そこへ片岡青果の若旦那である十四郎が野菜を届け に来て、「こないだの話なんだけど、考えてくれた?」と千秋に尋ねる。「空気読めよ」と彼に言われて、英二は店を去った。その後、 十四郎は千秋の手を握り、「決めちまいなよ、俺に」と告げた。
千秋は明日香の仕事現場へ行き、英二から貰った魚料理のレシピを渡して「良かったら使って」と言う。そして十四郎からプロポーズ されたこと、受けるつもりでいることを話して立ち去った。一方、旬太郎は魚河岸に魚を納める牛尾水産へ行き、魚の扱いを学んでいた。 そのことを知った徳三郎は明日香に教え、「おめえが本気で惚れているなら、もう何も言わねえ。ただし築地はダメだ」と言う。明日香が 牛尾水産に来ると、旬太郎は強く抱き締め、指輪を渡してプロポーズした…。

監督は松原信吾、原作は はしもとみつお&鍋島雅治(小学館『ビッグコミック』連載)、脚本は安倍照雄&成島出、原案協力は 大石けんいち&九和かずと、脚本協力は渡辺敦、プロデューサーは深澤宏&矢島孝、製作代表は迫本淳一&山本憲一&亀井修&久松猛朗& 木下直哉&斎藤裕&高野功&平野ヨーイチ&喜多埜裕明、製作は松本輝起、撮影は長沼六男、編集は石島一秀、録音は鈴木肇、照明は 中須岳士、美術は横山豊、音楽は本多俊之、音楽プロデューサーは小野寺重之。
主題歌「虹が消えた日」泰基博、作詞・作曲/泰基博。
出演は大沢たかお、田中麗奈、伊原剛志、伊東四朗、柄本明、大杉漣、森口瑤子、佐野史郎、鈴木一真、森下愛子、マギー、荒川良々、 温水洋一、峯村リエ、江口のりこ、甲本雅裕、田口浩正、斉藤暁、中島史恵、中村久美、六平直政、建蔵、渡邊紘平、住若博之、 嶋崎伸夫、若林久弥、池谷のぶえ、みのすけ、山田誉子、内田健介、田井弘子、佐藤葵、平子テツミチ、高木稟、小浜正寛、須藤為五郎、 吉永秀平、町田政則ら。


『ビッグコミック』連載の同名漫画を基にした作品。
監督は1987年の『青春かけおち篇』以来の劇場映画復帰となる松原信吾。
旬太郎を大沢たかお、明日香を田中麗奈、英二を伊原剛志、徳三郎を伊東四朗、正治郎を柄本明、金谷を大杉漣、千秋を森口瑤子、雅を マギー、拓也を荒川良々、アルプスのマスターを温水洋一、アルプスのママを峯村リエ、エリを江口のりこ、駒さんを甲本雅裕、ハルオを 田口浩正、冷やかしの男を斉藤暁、牛尾を六平直政が演じている。

この作品が公開される前からシリーズ化が決まっており、2009年に2作目が公開されることが発表されていた。
松竹としては、看板である『釣りバカ日誌』シリーズの主演コンビが高齢化する中で、それに代わる国民的映画シリーズを作ろうという 考えがあったようだ(ちなみに『釣りバカ日誌』は2009年の22作目で終了した)。
しかし本作品がコケたため、2作目の公開は無期限の延期となった。

松竹は、大きな考え違いをしていたのだろう。 『男はつらいよ』にしても『釣りバカ日誌』にしても、最初から国民的映画シリーズにすることを狙って製作し、それの目論見が当たって国民的 映画シリーズになったわけじゃないのよね。
結果的に、そうなっただけだ。
一方で、国民的映画シリーズを狙って作った『虹をつかむ男』は見事にコケてしまい、2作目で終了した。
狙って作ったら失敗するということを、そこで松竹は何も学ばなかったのだろうか。
今回も狙って製作して、またコケている。

ホテルのレストランでのシーンをアヴァン・タイトルにしているが、導入部としては失敗だろう。
その描写だと、「旬太郎は明日香と結婚したがっているが、まだプロポーズできないでいる」というのを伝えたいシーンとなっている。
だけど、アヴァンで描くべきは、そういうことじゃなくて、旬太郎がエリート・サラリーマンをしていて、築地市場とは全く縁の無い人間 だということだよ。
一方で築地市場も見せておいた方がいいし。
とにかく、明日香の登場なんて、別にタイトルの後でもいい。

タイトルが明けると、病院を抜け出した徳三郎が正治郎に「三代目だったら英二がいる」と言うシーンが来るが、これも要らない なあ。
それだけだと、徳三郎の仕事が今一つハッキリしないし、正治郎との関係も、英二が誰なのかも分からない。
例えば、築地市場で仕事をしている英二たちを登場させて、徳三郎のことを話題にして、そこから病院にいる徳三郎を登場させれば、もう 少し話の輪郭線がクッキリしたんじゃないか。

それと、なかなか旬太郎の仕事シーンが出て来ないのも、構成としては間違っている。
彼に関して、まず見せるべきなのは、常務の下で使い走りをしているが、それに納得できない気持ちを抱えているということだ。
金谷との会話でそれについて触れているが、それはセリフじゃなくてエピソードとして描くべきだろう。
商社で働いているシーンよりも先に、魚辰を手伝うシーンを持って来るって、どういうつもりなのか。

旬太郎は早朝に自転車を走らせる明日香を目撃して後を追うが、それは理解しかねる行動だ。
そりゃあ奇妙には感じるかもしれないが、後から尋ねるとか、携帯に掛けてみるとかでいいでしょ。
旬太郎としては、「彼女は装飾デザイナーで夜の仕事のはずだからだ、そんな時間、そんな場所にいるのは有り得ない」ということなん だろうけど、その段階で観客には明日香の職業も示されていないのだ。
っていうか、それが明らかになっていたとしても、やっぱり追跡するんじゃなくて、携帯に連絡すればいいと思うんだが。

旬太郎が魚辰に来た時、それに気付いた明日香が「マズいところを見られた」的な反応を示すが、これも理由が分からない。
なぜなら、それまでに彼女が魚辰の娘なのを隠していることが示されていないからだ。
観客に「彼女が隠している、もしくは嘘をついている」ということが提示されていてこそ、そこのシーンは成立するはずだ。
前提条件をクリアしていないのに、そういうシーンを持って来るんだよな。
とにかくシナリオが雑なんだよ。必要な手順が幾つも抜け落ちている。

大体さ、旬太郎は求婚しようとまでしているのに、実家の両親にまだ会ってないし、おまけに職業も知らないのかよ。
っていうか、なんで明日香は隠しているのか。そして、なぜ仲卸の名店の娘であることを、まるで知られたらマズいかのように考えて いるのか。その辺りも良く分からない。
「知られたらフラれるかも」とか、そんな風にでも思ったのか。ワケが分からない。
旬太郎は、そんなことで女を嫌になるような男なのか。

店を手伝っていることに関して旬太郎に質問された時、明日香が「色々と事情が」と言いにくそうにしているのも理解できない。
父が入院している時に店を手伝うなんて、ごく普通のことだ。
別に隠すようなことじゃない。
その後の、「今月の終わりには父が戻って来るので、それまでのこと。だから、ここには来ないで。ここには近付いてほしくないの」と いう明日香のコメントも理解不能だ。

この時、ここで「とにかく帰ろう」と、強引に明日香を連れ出そうとする旬太郎の行動も理解不能。
そういう強引で「俺に付いて来い」というタイプなのか。だけど、それにしてはプロポーズできずにいるしなあ。
あと、翌朝にはいきなり築地へ来て「今日からお手伝いさせていたただきます」と勝手に言い出しているけど、そういう「こうと決めたら 真っ直ぐに突き進む」という一本気な性格設定だとしたら、常務の使い走りとしてヘーコラしているのは筋が通らない。
キャラの統一感が取れていない。

旬太郎が店を手伝うと言い出した時、露骨に嫌悪感を示す雅を除く面々が、全く拒否反応を示さずに手伝いを承諾しているのは違和感が ある。
素人がいきなり手伝おうとしても、邪魔になるだけだろう。実際、そうなっているし。
だったら、むしろ、いない方がマシだ。でも、そのまま手伝わせているんだよな。
あと、勝手に決めたことに腹を立てていた明日香が、仮眠を終えると「おかげでスッキリ」と笑顔になっていが、もう旬太郎への苛立ちは 消えたのかよ。彼が築地に来ることも構わないのかよ。
あれだけ強い口調で「もう来ないでほしい」と言っていたのに、簡単に気持ちが変わるんだな。

冷やかし男に遊ばれ、カツオを買って食べた後、初めて旬太郎が会社で仕事をしているシーンがある。
遅すぎるよ。
しかも、彼はリストラに関する会議に出席するのだが、そこでは「旬太郎が会議中に疲れて居眠りしてしまう」という部分だけがアピール されてしまい、「彼がリストラに関わらなきゃいけなくなっている」ということも、それに対する旬太郎の気持ちも全く伝わらない。

次のシーンでは、もう旬太郎は客から「このカレイは刺身で食っても美味いか」と訊かれて「塩焼きの方が」と的確なコメントが出来る ようになっている。
「たった一日で、そんなに学習したのかよ。どんだけ学習能力が高いんだよ」と思っていたら、その後、そのカレイを食べて「昨日のと味 が違うよね」と言い出している。
どうやら、昨日は別のカレイを食べたらしい。
ってことは、何日か経過しているのね。
でも、「何日もやっている」という表現が無いから、それが伝わらないんだよな。

金谷にクビを宣告した後、舞台が信州に移動するのも大間違い。
旬太郎が築地に馴染むまでの物語なのに、そんな遠くへ行っている場合じゃないよ。
順子にアカムツの煮付けを作るエピソードを入れたいのなら、東京でやるべきなんだよ。
あと、そういうエピソードを入れることで、明日香との関係も脇に追いやられているし、英二のこともほったらかしだ。
色んなことに目移りして、話が散らかっている。このエピソード、削った方が良かったんじゃないかなあ。
旬太郎が会社を辞めると決めるきっかけは、別の所で作ればいい。

それと、金谷と会ったことで旬太郎が会社を辞めるにしても、なぜ築地で働こうと決めるのか、それがピンと来ない。
「ここで魚食って、築地の人たちと会って、ホントに大切な物を見つけた気がするんだ」って、全く伝わって来ないよ。
築地の人々の人情味に触れたわけでもないし(むしろ拒否反応を示す奴の方が目立つ)、築地の活気や魚を売る仕事に魅了されたようにも 見えなかったぞ。

英二と明日香が結婚すると聞いた旬太郎が魚辰に来た時、彼が明日香を問い詰めている横で雅たちが揉め出し、エリが「アンタのせいよ」 と怒り、明日香が「お願い、帰って。もうここには来ないで」と言う。
他の連中の揉め事を入れることでグチャグチャになっているし、おまけに、なぜか明日香がちゃんと説明しないので、英二との結婚を 認めたようになってしまう。
英二との関係について全く釈明せずに、旬太郎を追い返すのは理解に苦しむ。もう交際そのものをやめようっていうことなのかよ。
あと、そこで雅が旬太郎に「出入り禁止になっているはずだろ」と言っていて、初めて出入り禁止だと分かったよ。
徳三郎が怒って追い払うようなシーンが無いから、旬太郎が拒絶されたことがボンヤリしているんだよな。

あと、旬太郎が築地で働こうとする話と、英二&千秋が絡んでくる恋愛劇を、並行して描こうとしたのが失敗じゃないかな。
まず旬太郎が会社を辞めて築地で働くことを決めるエピソードを処理して、それから英二が明日香に惚れていると周囲が勘違いする エピソードに入るという風に、1つずつ片付けて行った方が良かったんじゃないか。
旬太郎が明日香の代理で働いている時点で、既に英二と明日香のことを築地の連中が話しており、そういうことが話を散漫で焦点の 定まらない印象にしているのではないか。
っていうか根本的な問題として、英二の絡む恋愛劇って、削除した方がいいんじゃないか。
彼が明日香に惚れていると周囲が勘違いするとか、実際には英二が千秋に惚れているだとか、そういう問題を盛り込むことによって、後半 は旬太郎よりも英二の方が主役にふさわしいと思えてしまうんだよな。
1作目なんだから、旬太郎が築地の男になるまでの物語に、もっと集中した方が良かったのでは。

旬太郎が他のカップルの成立に手を貸すってのは『男はつらいよ』シリーズの後期を意識したのかもしれんけど、終盤にチョロッと英二の 背中を押すだけだしなあ。
後半は旬太郎を脇に回して、英二と千秋がメインと考えた方がスッキリするんだよな。
っていうか、英二と千秋の恋愛劇を描くのに、旬太郎って全く必要の無いキャラになってるし。
むしろ、旬太郎も描かなきゃいけないせいで、英二と千秋の恋愛劇が薄くなっているので、邪魔をしているとさえ感じる。

千秋が十四郎からプロポーズを受けているとか、そういうことも、もう少し早めに示しておいた方がいい。
あと、英二が千秋に惚れていることも、もう少し早く示せばいい。
たぶん「英二が明日香に惚れている」というのを観客にも誤解させようという狙いがあったんだろうけど、そんなミスリードは 要らない。最初から、誤解しているのは周囲のメンツだけという形にしてしまった方がいい。
そんなミステリー、この映画には邪魔なだけ。

十四郎は小料理屋を訪れた後、英二を追い払ってから、千秋に「決めちまいなよ、俺に」と持ち掛ける。
だけど、彼の求婚と、それを千秋が受ける意思を示すシーンは、英二が見ているべきじゃないのか。
観客だけにそれを明かしても意味が無いぞ。英二が知らなきゃ。
そして英二が見ていないのなら、そんなシーンは要らない。
後から英二が「千秋が十四郎と結婚するらしい」と聞くシーンを入れれば、それだけで充分に役目は果たしている。

それまでに旬太郎と牛尾の接点が全く無かったので、牛尾水産で彼が魚の修業をしている展開は、かなり唐突に感じる。
それと、もう話の流れからすると、主人公であるならば、旬太郎は魚の扱いを学ぶとか、築地で受け入れてもらうために行動するとか、 そういう段階じゃないんだよね。
英二と千秋をくっつけるために行動するべき段階に来ているのよ。
だけど彼は、そこで誤解が生じていることさえ知らない状態なんだよな。

その頃には、もう築地で働き始めている設定にした方がいいんじゃないか。
「築地で認めてもらって働き始める」というのを処理してから、「英二と千秋をくっつける」という手順に進んだ方がいいよ。とにかく この映画、ゴチャゴチャしすぎだ。
あと、父から旬太郎がそこにいると聞いた明日香が牛尾水産へ向かうが、そこで急いで会いに行くぐらいなら、なぜ魚辰に旬太郎が来た時 、ちゃんと説明して誤解を解こうとしなかったんだよ。
そこでキッチリと説明しない理由は何も無いぞ。

最終的に、徳三郎は旬太郎を三代目に指名するんだけど、それって納得しかねるぞ。
どう考えても、旬太郎より英二の方が三代目に適任でしょうに。
まず英二の方がキャリアが長いし、築地での人望もある。おまけに、旬太郎は娘の結婚相手だけど婿養子に入るわけじゃない。
一方、英二は徳三郎は実の息子だ。そして明日香より年上だ。
旬太郎を選ぶ理由は何一つ存在しない。
あと、妻との間に生まれた子供である明日香より、妾が生んだ子供である英二の方が遥かに年上で、長男なのに英二ってのは違和感があるなあ。

(観賞日:2011年3月22日)


第2回(2008年度)HIHOはくさい映画賞

・最低主演男優賞:大沢たかお
<*『築地魚河岸三代目』『ICHI』の2作での受賞>
・最低主演女優賞:田中麗奈
<*『銀色のシーズン』『築地魚河岸三代目』『山桜』『犬と私の10の約束』の4作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会