『トリック劇場版 ラストステージ』:2014、日本
日本科学技術大学の教授を務める物理学者の上田次郎は、大勢の学生が講義に集まる人気者になっている。一方、超美人天才マジシャンを自称する山田奈緒子は、イリュージョン・ショーのテレビ番組出演を持ち掛けられた。ギャラが50万円と聞き、奈緒子は承諾した。上田はスポーツジムで村上商事資源第一本部レアアース事業部の加賀見慎一に声を掛けられた。加賀見は本社に上田を案内し、部長の有田雄一を紹介した。有田は上田に、研究資金として2千万円ほど提供したいと告げた。
加賀見は上田に、赤道スンガイ共和国に巨大なレアアースが眠っているのを発見したこと、政府と交渉して採掘権を得る目処も付いたこと、しかし現地の部族が立ち退きを拒否していることを説明した。部族の信奉するボノイズンミという呪術師が、「聖なる土地だから他の者に渡すわけにはいかない」と主張したからである。有田は村を訪れて少し手荒な交渉を試みたが、呪術師から1ヶ月以内に死ぬという呪いを掛けられていた。その期限が今日だと彼が語るので、上田は「単なる暗示です」と言う。加賀見が「先生のお力で彼らの目を覚まさしてほしいんです」と上田に依頼した直後、有田は見えない何かに操られたように奇怪な動きを示して怪死した。
奈緒子は爆破される箱からの大脱出を行うショーの現場へ赴くが、何も仕掛けが無いことを知らされて動揺する。だが、それはドッキリ番組だった。奈緒子は番組を見たアパートの住人たちから嘲笑され、おまけに出演料で支払うはずだった家賃も滞納する羽目になった。大家の池田ハルに見つからないように、彼女は慌てて身を隠した。上田は彼女に電話を掛け、海外へ行く用事があるので一緒にどうかと誘った。怪しいと思いつつも、奈緒子は上田の誘いに乗った。
奈緒子と上田は空港で加賀見と合流し、赤道スンガイ共和国へ向かった。スンガイの空港に到着すると、村へ同行する医師の谷岡将史と岩熊金属鉱業の川島治道が待っていた。船で上流へ向かう途中、加賀見は川島が猟銃や爆薬を用意していると知った。友好的な交渉を考えている加賀見は抗議するが、川島は「ワシらの力を見せ付けてやる」と言い放った。一行は村上商事の支社があるムッシュム・ラー村に立ち寄り、山本支社長と会った。すると山本は、「あの呪術師には太刀打ちできない」と恐れる様子を見せた。
山本は奈緒子たちに「あの呪術師は、間もなくこの世が終わると言っています」と告げ、奥地の洞窟に描かれていた壁画の写真を見せる。それは火の玉の壁画で、山本は「数百年前、村の上空に巨大な火の玉が飛来して全てを焼き尽くしたとい言い伝えがあります。村周辺の地質を調べると、大きな爆発があったことは明らかです」と説明する。その話を聞いた上田は、かつてロシアで起きた原因不明の爆発に似ていることを語った。
村を歩き回った奈緒子は、刑事の矢部謙三と秋葉原人に遭遇した。2人は事件の捜査を依頼され、スンガイ共和国に来ていたのだ。村上商事のお偉いさんが呪術師に呪い殺されたことを秋葉が不用意に喋ったせいで、奈緒子は上田が自分を同行させた理由を悟った。矢部は村人が神聖だと考えている場所にズラを被ったまま入ろうとしたせいで、牢に入れられていた。奈緒子は「一度だけ言うことを聞く」という条件を飲ませて、彼を牢から出してやった。
翌朝、一行は矢部と秋葉を加え、船で呪術師の住むヤー村へ向かう。その途中、上田は背中が大きく腫れ上がり、高熱で苦悶する。ヤー村の住民が岸に現れ、「ボノイズンミに診せなければ、その男は死ぬ」と告げた。谷岡と川島は船に残り、残りの面々はヤー村へ赴いた。上田が洞窟に運び込まれると、呪術師は2人だけにするよう要求した。奈緒子は洞窟の外で待機し、他の3人は谷岡たちの元へ戻った。川島が猟銃を持って採掘施設へ行くと、激しく荒らされていた。隠れている部族の男に気付いた彼は、激怒して撃ち殺した。
いつの間にか眠り込んだ奈緒子は、大きな火の玉がジャングル上空に現れて爆発する夢を見た。翌朝、上田が目を覚ますと呪術師はおらず、彼は腫れが引いて元気になっていた。上田は奈緒子を起こし、加賀見たちの待つ小屋へ赴いた。加賀見が朝食を作ると、川島は混入されていたガラス片で口内に傷を負った。食料を外に置いている時に村人が入れたのだと確信し、川島は激昂した。加賀見は上田に、上手く誘導して呪術師を引き出すので、部族の前で不可思議な術のインチキを暴いてほしいと頼んだ。
一行が洞窟へ行くと、呪術師と部族の面々が待ち受けていた。呪術師は毒蛇を捕まえ、その毒を飲んだ。側近の男は一行に、「この中に仲間を殺した犯人がいる。これから誰が殺したのかテストさせてもらう」と告げる。呪術師は器に水を注ぎ、側近は順番に飲むよう促した。犯人だけが死ぬはずだと、彼は説明した。順番に飲んでいくと、川島が吐血して死んだ。呪術師は一行を指差し、「お前たちに呪いを掛けた。これからお前たちは順番に1人ずつ死んでいく」と通告した。
小屋に戻った奈緒子は、「呪術師が器に手をかざした時、中に蛇の毒を入れたのではないか」と上田たちに話す。彼女の「蛇はなぜ、自分の毒で死なないんでしょうか」という言葉で、上田は蛇の毒を飲んでも死なないことを思い出した。「呪術師が毒を飲んだのは、自分が特別な人間のように見せ掛けていただけです」と彼は加賀美に言う。奈緒子は川島だけが口の中に怪我を負っていたことを指摘し、そこから毒が血管の中に入ったのではないかという推理を述べた。
矢部と秋葉は船で逃げ出そうとするが、すぐに座礁してしまった。谷岡は猟銃を持って洞窟へ行き、一人で祈祷している呪術師に発砲した。呪術師が倒れるのを確認した谷岡は興奮した様子で洞窟を出るが、ジャングルの中で死亡した。奈緒子は再び火の玉の夢を見て、夜中に目を覚ました。奈緒子から夢の内容を聞かされた上田は、それが山本の語った言い伝えと同じだと気付いた。その内容を奈緒子は知らないはずなので、上田は「ただの偶然だ」と呟いた。
翌朝、小屋に部族が現れ、奈緒子たちに「付いて来い」と要求する。奈緒子たちが洞窟へ行くと、呪術師の前に水槽が運び込まれた。呪術師は何も隠していないことを見せてから、一枚の布を水槽にを入れた。呪術師が水槽から取り出した布を開くと、谷岡の手首が出現した。一方、ジャングルを歩いていた矢部と秋葉は、手首を切断された谷岡の死体を発見した。奈緒子は一人で呪術師の元へ戻り、手首の形をした透明なガラスを水槽に入れておいたのではないかと指摘する。しかし呪術師は、ガラスは水に浸けても消えないことを見せる…。監督は堤幸彦、脚本は蒔田光治、製作は平城隆司&市川南、共同製作は尾木徹&山本晋也&浅井賢二&長坂信人&茂田遥子、エグゼクティブプロデューサーは桑田潔&山内章弘、企画は林雄一郎&上田太地、CO.エグゼクティブプロデューサーは大川武宏、プロデューサーは高野渉&蒔田光治&佐藤善宏、ラインプロデューサーは渡邊範雄、協力プロデューサーは村上弓、監督補・編集は藤原知之、撮影は斑目重友、美術は稲垣尚夫、照明は川里一幸、録音は臼井久雄、音楽は辻陽、主題歌「月光」は鬼束ちひろ。
出演は仲間由紀恵、阿部寛、野際陽子、生瀬勝久、東山紀之、北村一輝、水原希子、吉田鋼太郎、中村育二、石丸謙二郎、池田鉄洋、大島蓉子、瀬戸陽一朗、アベディン・モハメッド、なすび、田所二葉、前原一輝、村上ショージ、肥後克広、寺門ジモン、上島竜兵、ゴルゴ松本(TIM)、レッド吉田(TIM)、小島よしお、夜ふかしの会、遠野あすか、藤井杏奈、畠山彩奈、碓井空、安藤健悟、水野哲志、三澤拓冬、塩崎鈴、下平さやか他。
TVドラマ『トリック』の劇場版第4作にしてシリーズ完結編。テレビ朝日開局55周年記念作品。
奈緒子役の仲間由紀恵、上田役の阿部寛、里見役の野際陽子、矢部役の生瀬勝久、秋葉役の池田鉄洋、ハル役の大島蓉子らは、シリーズのレギュラー陣。
加賀美を東山紀之、谷岡を北村一輝、呪術師を水原希子、山本を吉田鋼太郎、川島を中村育二、有田を石丸謙二郎が演じている。
TV版の第2シーズンまで矢部の相棒だった石原役の前原一輝は既に俳優を引退しているが、2010年の『警部補 矢部謙三』に続いてゲスト出演している。小ネタを幾つも盛り込んで、お客さんの御機嫌を窺おうってのが、このシリーズの特徴だ。
例えば、日本科学技術大学の外観が写ると白衣のオッサン5人が画面に向かって座っているというのは、シリーズを通しての遊びだ。張り紙を使ったネタもシリーズの定番で、教室の壁には「遅刻禁止」「化粧禁止」「いびき禁止」など何枚もの張り紙が中国語表記と共に貼り出されている。村上商事の社内には、「徹底して無駄を省け」「無駄な接待禁止」など節約を求める張り紙が大量にも貼られている。ムッシュム・ラー村にも、やはり現地の言葉で注意事項を記した大量の張り紙がある。里見の書道教室では、壁に「かわ」「たに」「拓三」と書かれた半紙が貼ってある。
言い間違い、聞き間違い、ダジャレといった言葉遊びを多用するのも、シリーズの特徴だ。
奈緒子はテレビ出演の時に「仲間由紀恵にそっくりのマジシャン」と紹介されるが、里見は「誰かに似てるんだって。えっと、中田ひ……」と、仲間由紀恵と中田英寿を間違える。加賀美は「俳優の誰かに似てる。中尾あ……」と、中尾彬と間違える。奈緒子は上田に「29番助手」と紹介されると「肉の日か」とツッコミを入れ、「1917番助手」と紹介されると「生稲晃子か」とツッコミを入れる。上田が「秘境を訪ねることになってる」と言うと、奈緒子は「人を騙してでも勝ったりすることか」と無邪気に「卑怯」と間違える。上田が「使者」と口にすると、「五入。なんちゃって」と奈緒子は言う(四捨五入ってことね)。
奈緒子は船員に「私は美しい」「飯にしよう」という現地語を教えてもらい、最後に「うっかり八兵衛」と告げると、それも船員は現地語で喋る(もちろんデタラメだが)。上田が背中の痒みを感じると、腫れた場所に「痒」の文字が浮かび上がっている。
村上商事という会社名なので、会長は村上ショージで、ギャグの「ドゥーン」をやりながらオフィスを出て行く。有田が死ぬ直前には、「ドゥーン」のポーズを取る。スンガイ共和国の建国の母はスンガイ=キンという名前で、その顔写真は菅井きんだ。
ムッシュム・ラー村は奈緒子が「ムッシュムラムラ?」と言うように、もちろんダチョウ倶楽部のギャグから付けられている。ヤー村の「ヤー」も同様だ。洞窟の中にはダチョウ倶楽部の看板があって、そこを通る時に部族は「ヤー」のポーズを取る。サンダルを掲げた上田が「サンダルは正義だ」と言うと学生たちが一斉にサンダルを掲げて「おうっ!」と叫ぶ。上田がジムでダンベルを使ったトレーニングをしていると隣に加賀美が来て同じ動きをやり、周囲に大勢の男たちが現れて同じことをする。経費節減でオフィスには机や椅子が無く、加賀美が上田に見せるスライドも極小サイズ。
船で上流へ向かう途中で数秒だけ3D用の映像に切り替わり、「3Dメガネを着用ください」と表示されるが、もちろん実際に3Dメガネを着用してほしいわけではなく、そういう遊びだ。
ムッシュム・ラー村の村人たちが奈緒子を指差して「ヒンニュー」「ヒンニュー」と言うが、奈緒子の貧乳ネタもシリーズのお決まりだ。器の水を飲む時に矢部の髪の生え際が白く光るが、そういうズラのネタもシリーズのお決まりだ。
いつもは「上田」と呼び捨てにしている奈緒子が本気の時だけは「上田さん」と丁寧に呼ぶとか、何かある度に同じSEが入るとか、そういうのもシリーズの決まり事だ。今回は完結編ということで、それを強く意識した内容になっている。前原一輝が登場するのも、もちろん「完結編だから」ってことだろう。
また、「どうせ完結編と銘打っておきながら続編の可能性もあるんでしょ」と感じる観客がいるだろうってことも含めて、それをネタにしている。里見の書道教室では、子供たちが「お」「し」「まい」とか、「13年半」「ご愛顧感謝」「いよいラスト」とか、「とはいえ」「もしかして」といった字を書いている。
幾つもの遊びは、いわゆる「偉大なるマンネリズム」であり、シリーズを最初から見ている人なら楽しめるだろう。
ただし第1作から続いていることなので今さら言っても仕方が無いのだが、それが本シリーズの大きな欠点だ。そういう「小ネタを多く盛り込んで楽しんでもらう」という手法は、TVドラマ、それも深夜枠の1時間ドラマだからこそ成立する面白さなのだ。ゴールデンやプライムでも厳しいと感じるのに、それを約2時間の映画として作ろうってのが、そもそもの間違いなのだ。小ネタの醸し出すユルい笑いで引き付けることが出来るのは、せいぜい30分程度だ。
TVドラマなら、CMなどを省けば正味45分程度だし、終盤は物語を着地に向けて進めることで乗り切れるから何とかなる。しかし映画だと、30分を経過しても半分にも至っておらず、それ以降も観客を引き付けるには「ミステリーとしての面白さ」が求められる。
だが、本シリーズに、ミステリーとしての面白さは無い。
今回だと、真相の大半は加賀美が明かすというテレビの2時間サスペンス方式を採用しているし。水槽のトリックについては奈緒子と上田が見抜くけど、そもそも「水槽を使って手首を出現させる」という手品じみたことを呪術師がやっていること自体に違和感があるし。製作サイドも劇場版でTVドラマと同じことをやっているだけだと厳しいってことは分かっているみたいだけど、じゃあ劇場版として何をプラスしようかと考えた時に、前述したようにミステリーとしての面白さを膨らませよう、そこの厚みを持たせようという意識は乏しい。
そうではなく、妙に感動的なドラマを盛り込もうとしているんだけど、それが『トリック』としての面白さを削いでしまうという皮肉な形になっているような印象を受ける。
これまでも「シリーズのファンだけを楽しませようとしている」という意識は感じられたが、今回は特に「ずっとシリーズを見て来たファンに向けての作品」という印象が強く感じられる。
赤道スンガイ共和国の建国者であるスンガイ=キンは名前から分かる通り菅井きんなのだが(写真のみの登場)、彼女はTV版第1シリーズの第1話〜第3話に登場した宗教団体「母之泉」の教祖・霧島澄子も演じていた。そして、霧島澄子とスンガイ=キンは同一人物という設定なのだ(ボノイズンミの名称は「母之泉」から取られている)。霧島澄子は奈緒子にトリックを暴かれ、宗教団体「母之泉」の教祖として人々を救うことに失敗して自害した。
教祖を失った信者たちは深い悲しみに包まれ、「本当に彼らを救おうとしたのは奈緒子と澄子、どちらなのか」という問い掛けが残された。
そして今回、実は澄子が生き延びて日本を離れ(自決したのは影武者という設定)、共和国を建国して人々を救っている。
そして奈緒子は呪術師のトリックを暴くだけで終わらせず、後を引き継ぎ、部族たちを救うために身を投げ出す。奈緒子がシャーマンの血を引き継いでいることは明らかになっているが、今まで彼女はマジシャンとしてトリックを暴くことを続けてきた。
しかし今回は、ついに偽者ではなく本物のシャーマンとして、部族たちを救おうとする(本物の霊能者があるかどうかは問題じゃない)。
呪術師は大爆発の発生を知っており、地底で火を付けることで外に出すことを防ごうとしていた。それが霊能力者の役割だった。
奈緒子は上田に、「全部、私たちの責任なんです。私たちが来なければ、きっとあの呪術師がやったはずです」と言い、身代わりになる覚悟を告げる。母之泉の時とは違い、彼女は自分たちがやったことの責任を取るのだ。終盤になってシリアス一辺倒のテイストに持ち込み、感動劇として締め括っているのも、しかも奈緒子の上田と恋愛関係を使った感動劇として締め括っているのも、明らかにファンを意識したものだ。
たぶんシリーズをTVドラマの第1話からずっと見て来たファンは、奈緒子&上田の変化や成長、そして年月の経過を感じて、涙腺が緩むんじゃないかな。
私はシリーズのファンじゃないが、この完結篇に関しては、なんか終盤の展開だけで許したくなったんだよなあ。
ラストシーン、上田の嬉し泣きを我慢しているような、何とも言えない表情を見ると、全てOKにしたくなっちゃうんだよな。(観賞日:2015年2月14日)