『トリック 劇場版2』:2006、日本

関東沖合いに浮かぶ小さな島で、宗教団体「箱のゆーとぴあ」の信者と漁師たちが睨み合いになっていた。「箱のゆーとぴあ」を率いるのは 筺神佐和子という霊能力者であったが、彼女の能力に漁師は不信感を抱いていた。そこで佐和子は漁師に対し、海岸の大岩を崖の上まで 1人で持ち上げてみせると告げた。もちろんクレーンなどの道具は使わずにだ。佐和子は漁師と信者を船に乗せ、島に1人で留まった。 漁師が見守る中、佐和子が気合を入れると、大岩は崖をスルスルと登っていった。
自称・売れっ子奇術師の山田奈緒子は、実際には全く人気が無い。彼女の母・山田里見は書道家で、その字は有名議員が依頼に来るほどの 力を持っている。そこで里見は、合併で出来る新たな市の市長選に自ら立候補することを決めた。そんなことを全く知らない奈緒子は、 マジシャンの助手の仕事を得るが、ミスをやらかしてクビを宣告されてしまった。
アパートに戻った奈緒子は、大家から滞っている家賃の支払いを催促される。部屋に入ると、腐れ縁の物理学教授・上田次郎がいた。彼は 奈緒子に「上手く行けば巨万の富が手に入る」と告げ、自分が受けた依頼のことを話し始めた。依頼者は何も無い不毛の村である富毛村の 青年・青沼和彦で、行方知れずになっている幼馴染みの西田美沙子を探して欲しいというのだ。
10年前、青沼とかくれんぼをしている最中、美沙子は失踪した。しかし、今になって彼女が生きていることが分かった。「箱のゆーとぴあ」 が支配する筐神島に連れ去られていたのだ。開発工事のため島に入った男が美沙子から手紙を託され、それを青沼は入手していた。手紙 には、「自分は間もなく殺される」と助けを求める文面が綴られていた。
金が必要な奈緒子は、上田と共に筐神島へ向かった。上陸した途端、2人は「箱のゆーとぴあ」の信者に捕まり、教団本部へ連行された。 幹部信者の佐伯に対し、上田は入信したいと嘘をついた。佐伯が用意した信者・伊佐野が、奈緒子と上田の案内役を務めることになった。 伊佐野は、3年前まで佐和子を信用しない漁師だったが、目の前で大岩の奇跡を見て入信したと語った。
伊佐野は2人に、佐和子が霊能力で持ち上げた大岩を見せた。さらに彼は、埠頭建設を強行しようとした工事人が佐和子の能力によって 次々に不審な死を遂げ、工事が中止に追い込まれたことも誇らしげに語った。本部に戻った奈緒子と上田の前で、佐和子は何も無い箱から 登場したり、箱に入れた物体を消失させたりするパフォーマンスを披露した。
奈緒子が自分の霊能力を信じていないと知った佐和子は、さらに大掛かりなパフォーマンスを見せた。それは、棺桶に入って火を放ち、 そこから別の箱に瞬間移動するというものだった。夜、奈緒子と上田は教団本部を探し回り、箱置き場に隠し部屋があるのを発見した。 扉を開けると、そこには美沙子がいた。彼女は「霊能力がある」と佐和子に言われて拉致され、後継者としての訓練を強要されていたこと を語る。近く棺桶のパフォーマンスを行うよう佐和子が言ったため、自分が死ぬことを確信したと彼女は説明した。
奈緒子と上田は美沙子を連れ出して島から脱出しようとするが、来る時に使ったボートが大きな岩の下敷きとなって沈められていた。そこ へ信者達が駆け付けたため、上田は美沙子を隠れさせた。そして彼は奈緒子に騙されていたと嘘をついて彼女を差し出し、自分は捕まる ことを逃れた。佐和子の前に引き立てられた奈緒子は、彼女の使ったトリックを全て説明する。すると佐和子は、自分と同じように棺桶に 入り、炎の中から脱出してみるよう挑発的に告げた。
処刑役を買って出た上田は、最後のキスをすると見せ掛けて奈緒子にカミソリを渡した。奈緒子は上田の協力を得て棺桶の裏にある通路 へ抜け出し、そのまま脱出用の箱に戻らず死んだように見せ掛ける。上田は奈緒子と合流するが、ボートは沈んだままだ。そこで奈緒子は 、滑車の原理で岩を取り除き、ボートを引き揚げる作戦を思い付く。佐和子が崖上に岩を持ち上げた時と同じ方法だ。作戦は成功し、 奈緒子と上田は美沙子を連れて島から脱出した。
奈緒子、上田、美沙子の3人は、富毛村へと赴いた。青沼は歓迎するが、村長を始めとする他の住民は「困ったことをしてくれたな」と 怒りをぶつけてきた。村長の元に佐和子から手紙が届き、美沙子を返さないと村を消すと脅迫してきたのだ。青沼が「上田先生が守って くれる」と言い出したため、奈緒子と上田は村に留まって佐和子への対抗手段を考えるハメになった。
奈緒子は、佐和子と信者が来る前に村を消してしまう作戦を提案した。村人達に協力してもらい、奈緒子は現われた佐和子たちの前で村を 消してみせた。信者はトリックを暴こうとするが、それを制した佐和子は「彼女は霊能力を使った」と穏やかに言う。そして彼女は、 「あなたの方から島に来ることになる」と奈緒子に告げた。奈緒子が村人達と富毛村へ戻ると、村は跡形も無く消えていた。慌てて村人たち は佐和子を追い掛け、頭を下げた。佐和子が呪文を唱え、再び村人たちが戻ると、村は復活していた…。

監督は堤幸彦、脚本は蒔田光治、製作は早川洋&島谷能成、共同製作は尾木毅&水野文英、プロデューサーは桑田潔&蒔田光治&佐藤毅& 山内章弘、エグゼクティブプロデューサーは亀山慶二、撮影は斑目茂友&坂本将俊、編集は伊藤伸行、録音は中村徳幸、照明は川里一幸、 美術は稲垣尚夫、音楽は辻陽、主題歌はJoelle「ラッキー・マリア」。
監督補(CG、空撮、お天気祭、ミラーマジック、スナック・カラオケ等担当)&居眠り奉行は木村ひさし、ナレーションは森山周一郎。
出演は仲間由紀恵、阿部寛、野際陽子、片平なぎさ、生瀬勝久、堀北真希、平岡祐太、綿引勝彦、上田耕一、北村有起哉、大島蓉子、 池田鉄洋、温水洋一、大仁田厚、マギー司郎、瀬戸陽一郎、アベディン・モハメッド、城後光義(ゆーとぴあ ホープ)、 ほあししんいち(ゆーとぴあ ピース)、有吉弘行、山崎樹範、谷川功、中村靖日、諏訪太朗、清水宏、尾崎右宗、重泉充香、友松タケホ、 榎譲治、なすび、田所二葉、越井真優、塩野魁土、ジャミン・リード、糸田凪緒、中牧昭二ら。


テレビ朝日系列で放送された人気ドラマ『トリック』の劇場版第2作。
奈緒子役の仲間由紀恵、上田役の阿部寛、里見役の野際陽子、矢部刑事役の生瀬勝久といったTV版のレギュラー陣が全て続投。
他に、佐和子を片平なぎさ、美沙子を堀北真希、青沼を平岡祐太、富毛村村長を綿引勝彦、佐伯を上田耕一、伊佐野を北村有起哉が演じている。

北村監督にストーリーテリングの能力など最初から期待していないので、デタラメで陳腐なシナリオは気にしない。
ただ、ダイアローグの羅列によって話を進行していくのだが、このセリフ劇の、かったるいことと言ったら。
ほぼ密室劇で場面転換に乏しいというのもキツい。
「臨界」とか「憑依」というタイトルで章分けしている構成も、たたでさえ沈滞感たっぷりの作品に、余計なブツ切り感を足していると いうマイナス効果しか感じない。

手抜きして適当に作るぐらいなら、最初から無理して映画やパート2なんて作らなきゃいいのに、と思ってしまった。
前作でも思ったことだが、ますます「TVドラマでいいじゃん」という印象が強くなっている。
戦う相手として2時間ドラマの女王である片平なぎさを登場させているんだから、そこのネタを生かすなら、映画よりドラマの方が向いているはずだし。

まず滑り出しからして苦しいものを感じる。青沼は美沙子の救出を上田に依頼するのだが、そこからして無理がある。
上田はインチキな超常現象を暴くのが仕事であって、美沙子が神隠しでなく拉致されたと分かっているのなら、それはもう上田の仕事では ない。頼む相手が違う。
もう1つ設定で気になったのは、美沙子が10年前に島へ拉致されたという設定。
大岩の奇跡を見せたのが3年前だから、それまでの7年間は周囲の漁師が何も抗議せずにいたということになる。
それは奇妙な話に思えるんだが。

富毛村の面々が、見たことも聞いたことも無い佐和子という女性の霊能力者を無条件に信用しているのが引っ掛かる。
普通なら、ただの脅し、もしくは妄言と考えてもおかしくない。
冒頭のシーンでは霊能力を全く信じていない漁師たちの姿が描かれており、「誰もが霊能力を簡単に信じる」という世界観が構築されて いるわけではないのだし、そこは違和感を覚えてしまった。
自分がイカサマ霊能力者だと分かっている佐和子が美沙子に霊能力の訓練を強いるのはおかしいし、金目当てでやっているのに後継者を 育てようとするのもおかしい。
そもそも、なぜ美沙子に霊能力があると思ったのか、なぜ1人の少女に固執するのかという部分も不可解だ。
その理由は、終盤になって「実は美沙子が佐和子の娘だった」と明らかになる。それは別にいい。
ただ、前述した謎について、誰も「なぜなのか」と疑問を提起する者がいないまま物語を進めていくのは失敗だろう。奈緒子と上田を 「その不自然さに気付かないボンクラ」としておくのなら、2人の近くに疑問を提起するキャラクターを用意しておくべきだ(例えば青沼でもいいだろう)。

今回も前作と同様、超常現象(霊能力)を見せるシーンにおいて、「明らかに手品です」という見せ方をしている。
箱を組み立てると中から佐和子が登場するとか、指輪を箱の中に入れたら消えるとか、燃え盛る棺桶から脱出するとか、全てが「手品で ござい」という見せ方だ。
完全なるマジック・ショーであり、それを「霊能力」と信じさせるだけの説得力は無い。
例えばサイババが手の中から粉を出現させるような、「超常現象っぽい演出」というのはやっていない。
いや、もちろん「トリックがあるんだろうな」ということは、そのパフォーマンスが描かれた段階で観客にバレバレになっていて構わない。
しかし、そこまで露骨に「手品でござい」という見せ方をされてしまうと、こっちは気持ちが萎えちゃうのよ。
意図的にやっているものと推測されるが、その部分におけるバカバカしさは、笑いじゃなくて安っぽさにしか繋がっていない。

佐和子は箱からの登場や指輪の消失パフォーマンスを霊能力だと信じない奈緒子に対し、別のパフォーマンスを見せる。
それが棺桶からの脱出というわけだが、それって箱がデカくなっただけで、基本的な仕掛けは一緒じゃん。
そこは別のトリックを使ったモノにしなきゃ意味が無いんじゃないの。
あと、「筐神様だから箱にこだわりたい」っていうことかもしれんけど、最初の大岩を移動させるトリックでは箱が全く活躍していないんだよな。

手品のトリックに関しては、それを引っ張ることで映画を面白くしよう、観客の興味を引き付けようという意識は無いようだ。
それほど間隔を置かず、すぐにタネ明かしをしてくれる。
棺桶からの脱出のように、タネ明かしの前に分かるものもある(序盤でマギー司郎の助手を務める奈緒子が同じトリックを使っている)。
タイトルは『トリック』だが、トリックに大して力は入っていないのだろう。
では何に力を入れているのかというと、それはパロディーや小ネタである。

もちろん、それはテレビ版から脈々と受け継がれる本作品の特徴であり、それカルト的なが人気を集めた要因の1つであることは確かだろう。
しかし、これは決してパロディー映画ではないはずだ。なので、それしかないというのでは困る。
タイトルにある『トリック』が武器として機能していないのはツラい。
今回の場合、中身の薄さやトリックの乏しさを、小ネタで誤魔化していると感じる。
物語を進めていく中で小ネタを散りばめているというより、小ネタを繋いで、そこに薄く引き伸ばした物語が申し訳程度に乗っかっている という感じだ。
それとネタのためとはいえ、人間の腕が伸びたり空を浮遊したりといった「本当の超常現象」を見せるのは得策とは思えない。映画の調和を壊してしまう。

終盤、佐和子が村を消す手品に関しては、「大勢のの手下が村人に気付かれず先回りして作業をしなきゃいけない」ということがあるので 実際には難しそうだが、それは別にいい。
ただ、もう村を消した時点で、トリックのネタがバレているってのはツラいかな(直前に奈緒子が同じトリックを使っているので)。
あと、結局は最後まで延々とユルいノリで手品合戦をやっているだけなんだよな、この映画。平坦で同じテンポが続き、起伏に乏しい。
このノリだと、やはり1時間が限度じゃないの。
もしくは複数のスケッチを繋げていく方式にするか。
でも、それだと、もはや『トリック』ではなくなるだろうし、まあ映画化が間違いだってことだろうな。

 

*ポンコツ映画愛護協会