『東京湾炎上』:1975、日本

20万トン級タンカー「アラビアン・ライト」は航海を終え、31名の乗組員を乗せて日本へ戻ろうとしていた。石油技師の館次郎にとっては2年ぶり、他の乗組員にとっては半年ぶりの帰国となる。館は初山船医や寺田司厨長たちとメスルームで話した後、伊豆の風景を見るためにブリッジヘ行くことにした。彼は途中で五十嵐無線局長や宗方船長と会話を交わし、ブリッジに辿り着く。館は伊豆を眺めながら、江原一等航海士に思い出を語る。江原は館が日本に恋人の未知子を置いて来たことを知っており、「一番大切な山を見つけておきながら、そいつに気が付いていないようだな」と告げる。すると館は、「今度は、それを確かめに戻ったんです」と述べた。館は未知子から「常に手の届く所にいてほしい」と求められた時のことを回想する。
遭難信号が打ち上げられ、6人の男たちを乗せた救命ボートが近付いて来るのを江原は発見した。江原の連絡を受けた宗方は、エンジンを停めて6人を救助するよう指示した。しかし双眼鏡を覗いた宗方は、男たちが銃を隠し持っていることに気付いた。彼は慌てて「縄梯子を外せ」と叫ぶが、男たちは銃を構えて乗組員を脅した。五十嵐は第三管区海上保安本部にメイデーの通信を送った。男たちは乗組員を制圧して伏せさせ、船に爆雷を仕掛けてからエンジンをスタートさせた。
一味のリーダーであるシンバは、東京湾へ向かうよう宗方に命じた。その時、新聞記者の岩動達也を乗せた取材ヘリが接近した。特ダネを掴むことに意欲を燃やす岩動は、アラビアン・ライトの写真を撮影する。しかし民間飛行禁止エリアを飛んでいたため、自衛隊機の警告を受けたヘリは飛び去った。シンバは宗方に対し、「日本政府にメッセージを送る。船や飛行機を近付けるな。日本の港のどこかにいる船に爆雷をセットした。無事に東京湾へ入れば、港と船の名前を教える。断ればタンカーは爆破する」と語った。
館は西沢甲板長たちと共にメスルームで拿捕され、ザンバという男に銃を向けられていた。館はザンバと交渉し、コックに食事を作らせる許可を貰った。機関室ではキファルという男が小佐井機関長たちに銃を向けていた。隙を見て銃を奪おうとした北岡機関士は、キファルに射殺された。日本ではシージャックの緊急災害対策本部が設置され、記者会見を開く。そこへアラビアン・ライトが京葉シーバス付近で停止したという知らせが届いた。
シンバはアラビアン・ライトの乗組員にも聞かせた上で、日本政府へのメッセージを送る。彼は日本人メンバーのムンクに指示し、用意しておいた文面を読み上げさせる。シンバたちは日本政府に対し、航空自衛隊の戦力を用いて明日の正午までに鹿児島県喜山CTSの原油備蓄基地を破壊すること、テレビで同時中継することを要求した。もし実行されなければ、アラビアン・ライトを爆破するという。彼らは資源公正分配推進組織(POFFDOR)を名乗り、アフリカ・アジア・中南米の革新勢力で資源ナショナリズムの悪弊と諸資源の先進国占有を打破することが目的であると述べた。その見せしめとして、日本を標的に選んだのだという。
シンバたちは日本政府に対し、自分たちが本気であることを証明するため、既に破壊工作を施したタンカーを午前0時に爆破することを通達した。アラビアン・ライトは20万トンの原油を積んでおり、それが流れ出せば、東京湾は大火薬庫を抱えたような状態となる。しかし喜山CTSを破壊すれば、日本にとっては大きな打撃となってしまう。午前0時になり、一味の予告通りに清水港外でサウジ号というタンカーが爆発した。アラビアン・ライトの爆破か喜山CTSの破壊か、葛城対策本部長は究極の選択を迫られる。
宗方は食事を届けに来た館に対し、一味のシンバやテンボに見つからないように注意しながら「爆雷は左ウイング・タンクの中だ。探してくれ」と依頼した。メスルームへ戻る館に、ムンクが同行した。館はエレベーターでムンクに襲い掛かり、彼を昏倒させて銃を奪った。館はタンクを調べようとするが、そこへ一味のムボゴが現れた。銃を使うと爆発が起きる危険性があるため、館とムボゴは素手で殴り合う。一方、メスルームでは寺田が消火器をザンバに噴射するが、銃弾を浴びて命を落とす。だが、西沢たちがザンバに襲い掛かった。
西沢たちはムンクとザンバを縛り上げ、銃を奪った。ムボゴは館を殴り倒して失神させ、メスルームへ運ぶ。しかし西沢たちが待ち構えており、ムボゴを捕まえて縛り上げた。初山はブリッジのシンバに通信を入れ、爆雷の撤去を要求する。それが拒否されたため、今度は船員の解放を要求するが、それもシンバは拒否した。初山が「ここにいる3人を殺すことも出来る」と告げると、シンバは「殺せ。しかし1人を殺す度に、こちらの捕虜を3人殺す。我々はいつでも船を爆破することが出来る」と言い放って通信を切った。
宗方はシンバに、「メスルームへ行かせてくれ。3人を解放し、武器も返す」と持ち掛けた。シンバの許可を貰った宗方はブリッジを出た後、船長室へ行く。彼は引き出しを開けて拳銃を手に取り、それを隠し持った。メスルームでは耐え切れなくなった3人の乗組員が甲板へ走り、海に飛び込んだ。宗方は戻るように必死で呼び掛けるが、その様子を見ていたテンボによって3人は銃殺された。宗方はメスルームへ行って西沢たちを説得し、ムンクたちを解放させた。
翌朝、シンバはブリッジで宗方や江原、井上三等航海士たちに対し、国の現状を語る。かつて植民地だった彼の故郷は独立したものの、欧州の国によって金や銀といった資源を掘り尽くされていた。彼は「庶民の生活水準は昔と変わっていないが、先進国は助けようとせず、政治経済機構から切り離した。我々が貧しさに苦しんでいる現状を世界中に知らしめる」と熱く語る。一方、葛城はプロジェクトチームを集結させ、「石油備蓄基地を爆破したことを奴らに納得させる必要がある」と告げて、そのための行動を指示した。
午前11時、葛城はアラビアン・ライトと通信し、「要求は受諾した。喜山CTSを爆破し、衛星を使って全世界にテレビ中継する」と語る。「周辺住民を避難させるために実施を8時間延長し、今夜8時にしてほしい」という彼の出した条件を、シンバは了承した。岩動はテレビ中継の責任者である深見に接触し、情報を手に入れようとするが、追い払われる。しかし岩動は諦めず、密かに対策本部の動きを探り出そうと目論む。すると、特撮監督の若林進を始めとする映画スタッフが集まって来た。取材しようとした岩動は政府関係者によって連行され、ホテルの一室に監禁される…。

監督は石田勝心、特技監督は中野昭慶、原作は田中光二 祥伝社ノン・ノベル「爆発の臨界」より、脚本は大野靖子&舛田利雄、製作は田中友幸&田中收、撮影は西垣六郎、美術は村木与四郎、録音は渡会伸、照明は高島利雄、編集は小川信夫、擬斗は日尾孝司、音楽は鏑木創。
主題歌「あなたは旅人」作詞:山川啓介、作曲:鏑木創、唄:橋本葉子。
出演は丹波哲郎、藤岡弘(藤岡弘、)、宍戸錠、水谷豊、金沢碧、内田良平、渡辺文雄、鈴木瑞穂、佐藤慶、北村総一郎(現・北村総一朗)、潮哲也、富川徹夫、久野四郎、金井大、下川辰平、加藤和夫、佐竹明夫、入江正徳、佐々木勝彦、佐原健二、梅津栄、河村弘二、青山一也、伊藤敏孝、小笠原剛、小原秀明、剛達人(現・剛たつひと)、笠達也、神山勝、久遠利三、和田文夫、坂脩、中江真司、武藤章生、渡部猛、小沢幹雄、三重街恒二、加地健太郎、長沢大、門脇三郎、加藤茂雄、勝部義夫、三島新太郎、原田君事、細井利雄、島津元ら。


田中光二の小説『爆発の臨界』を基にした作品。
監督は『喜劇 三億円大作戦』『父ちゃんのポーが聞える』の石田勝心。
特殊技術班の監督助手として、川北絋一が参加している。
宗方を丹波哲郎、館を藤岡弘(藤岡弘、)、小佐井を宍戸錠、ムンクを水谷豊、未知子を金沢碧、西沢を内田良平、岩動を渡辺文雄、葛城を鈴木瑞穂、深見を佐藤慶、江原を北村総一郎(現・北村総一朗)、井上を潮哲也、五十嵐を久野四郎、初山を金井大、寺田を下川辰平が演じている。

映画が始まり、『東京湾炎上』というタイトルが大きく表示された後、オープニング・クレジットと共に橋本葉子が歌う主題歌『あなたは旅人』が流れて来る。
これがムード歌謡なので、『東京湾炎上』というタイトルと全く合っていない。その時点で、ヤバい匂いがプンプンと漂って来る。
しかも、そのタイトルにも偽りがあって、劇中で東京湾は炎上しないのだ。
炎上する映像は用意されているが、それは「もし原油が流れ出し、引火して爆発が起きた場合」というシミュレーションによる仮想の映像でしかない。
「こういう状況になります」という説明のフォローとして映像が用意されているだけだし、何の緊迫感も無い。

館が未知子を回想するシーンは、関わるメンバーが男ばかりなので、女を登場させたいという狙いがあったんだろう。
でも、この映画に女性キャラクターは要らないでしょ。
どうしても登場させたいのなら、他に登場させられそうな箇所はあるぞ。例えば新聞記者とか、テレビ中継のスタッフとか。
館が未知子を回想するシーンが何度か入ることによって、緊張感が削がれてしまうんだよな。それに、この映画にメロドラマ的な要素は要らないでしょ。
しかも、最後に館を待つ未知子の姿は写るけど、館は戻らないまま映画は終わるんだぜ。
シージャックの最中に館を心配する未知子が写るとか、館が「絶対に生きて未知子の元へ戻る」という意識で行動するとか、そういう描写があるわけでもないし。

宗方は救命ボートの6人を救助しようとするが、銃に気付いて慌てて「縄梯子を外せ」と叫ぶ。
でも、縄梯子を降ろして救助しようとする前に、双眼鏡でチェックすれば良かったんじゃないのか。
で、シージャックした一味は、まずシンバがカタコトの日本語を喋り出す。彼だけでなく、他の奴らも日本語を喋る。
でもカタコトの日本語を喋ると、なんか脅威が薄れて安っぽい連中に見えてしまう。しかも拙い日本語だから、何を喋っているのか良く分からない箇所もあるし。
ムンクという日本人がいるんだから、そいつに日本語での会話は任せておけばいいでしょ。
っていうか、「一味に1人だけ日本人がいる」という御都合主義も、どうかとは思うけどさ。そいつが一味に加わった理由について説明が入ることも無いし。

一味はシージャックした後、「日本の港のどこかにいる船に爆雷をセットした。無事に東京湾へ入れば、港と船の名前を教える。断ればタンカーは爆破する」と告げる。
だから「タンカーの爆破を阻止するため、緊急対策本部が港や船を割り出そうとする」という動きに繋がっていくのとか思いきや、シンバが「本気度を証明するためにタンカーを爆破する」と通達し、サウジ号を爆破させる。
そのタンカーを爆破するのが一味の最終目的ではないとは言え、そこが何のサスペンスにも繋がらないのであれば、「無事に東京湾へ入れば云々」というところで持ち出すのは避けた方がいいんじゃないか。
それを東京湾へ向かわせるための脅しとして使っているけど、そんなことを持ち出さなくても、「断れば乗組員を殺していく」とか、そういう脅しでも良かったんじゃないかと。

アラビアン・ライトの乗組員は、なぜか一味の名前を早い段階で知っており、「ザンバ」とか「キファル」と呼び掛けている。
リーダーとして自ら名乗ったシンバはともかく、他の連中が名乗ったシーンは無かったはずだが。知らない内に自己紹介していたのか。
そんな一味の中で、キファルだけは日本人への強い憎しみを示し、北岡を銃殺する。で、小佐井が遺体の安置を求めても、「日本人に敬意、私、無い」と冷たく却下する。
しかし、小佐井が遺体に近付いて毛布を掛けようとすると、「動くな」と怒鳴るだけで、発砲はしない。
そこは小佐井も殺すべきでしょ。殺さないにしても、せめて暴力は振るえよ。
残忍なのか甘いのか、半端なことになっているぞ。

ヌルいのはキファルだけじゃなく、一味は全員がヌルい。だから簡単に銃を奪われ、捻じ伏せられてしまう。シンバが「殺したければ殺せ。その代わりに、こっちの捕虜も殺す」と要求を突っぱねて、宗方が乗組員を説得し、ようやく捕まった一味は解放され、武器も返却される。
だけどさ、そもそも館のムボゴに対する「ここでは火花さえ危ないから銃は使えないぞ」という言葉が脅し文句として成立している時点でダメでしょ。
そこは「爆発すればお前たちは全員死ぬ」と銃を手放さず、脅しに屈しないという態度を取った方が、一味の凄みは出たはず。
格闘シーンを見せたかったという狙いは分かるけど、大して盛り上がらないし、しかも館は負けるし。

「メスルームへ行かせてくれ」という宗方の要求をシンバが飲んだ時、一人で行かせるのもヌルいよなあ。
誰も見張りがいないんだから、自由に行動できちゃうでしょ。だから宗方は船長室へ行って拳銃を手に入れている。
まあ3人を捕虜に取られてしまい、宗方を見張るための人員を割くことが出来ないという事情はあるんだけどさ。
でもさ、だったら船内無線でメスルームと喋らせればいいんだよな。

あと、一味は「アフリカ・アジア・中南米の革新勢力で資源ナショナリズムの悪弊と諸資源の先進国占有を打破する」とか「庶民の生活水準は昔と変わっていないが、先進国は助けようとせず、政治経済機構から切り離した。我々が貧しさに苦しんでいる現状を世界中に知らしめる」といった目的を語っているけど、そのために日本を標的にするのは、どう考えても変だよな。
その目的からすると、アメリカか、シンバの故郷の資源を搾取しているヨーロッパの国を標的にすべきでしょ。
日本なんて、国連でもそんなに大きな力を持っているわけじゃないし。
アフリカの植民地政策には、全く関与していないわけだし。

日本ではシージャックを受けて緊急災害対策本部が設置されるが、なぜか指揮するのは「対策本部長」という謎の肩書を持った葛城。
日本のタンカーがシージャックされ、テロリストがコンビナートの爆破を要求しているのに、日本政府の代表者が「対策本部長」なのね。
普通は総理大臣やら外務大臣やらといった閣僚が集結するんじゃないかと思うのだが、総理大臣が動いている気配は全く見られない。

シージャックの連絡を受けて前半の内に対策本部が設置されるが、本部長たちは事件を解決したり乗組員を救出したりするために何か手を打つことは無く、ただ会議をしているだけ。シンバからの要求が出るまでに時間が掛かるってのもあるが、何も出来ずに手をこまねいている。
後半に入り、ようやく本部が動きを見せて、要求受諾の連絡を入れる。
それはホントに要求を受諾したわけではなく、爆破したと偽装するための特撮映像を用意するという作戦なのだが、誰がどう見てもバレバレの特撮映像であり、そんなモンで騙されるって、なんかテロリスト一味がマヌケに思えてしまう。
途中で雨が降り出したために映像と辻褄が合わなくなり、そこでシンバたちは気付くのだが、その前に気付けよ。

で、その偽物の映像を放送して時間を稼いでいる間に、日本政府はシージャッカーを制圧したり爆破を阻止したりするための作戦を進めているのかというと、何もしていない。
海上自衛隊のダイバー部隊は待機しているが、間に合っていない。彼らが到着する前にシンバたちが内輪揉めを始めて、それに乗じて乗組員たちが反撃し、一味を全滅させている。
なんじゃ、そりゃ。
その「ラッキー」だけに頼りまくった解決方法は、いかがものか。

その内輪揉めを始める前に、シンバは爆雷のスイッチを押して「1時間で爆発する。船から避難しろ」と乗組員たちに告げるのだが、爆雷って時限式だったのかよ。「スイッチを押したら即座に爆発」という仕掛けじゃなかったのかよ。
乗組員たちを避難させてから、押してすぐに爆発するスイッチを押すという流れでいいだろうに。
そこは「爆発まで残り時間が少ない中で、原油に落ちた爆雷を引き上げる」というタイムリミット・サスペンスを作るための設定なんだけど、無理があるぞ。
あと、その爆雷を引き上げる任務を、なぜ館がやるのか。もう海自の水中処分隊が来ているんだから、そいつらが担当しろよ。
しかも、館が「俺にやらせてくれ」と志願したわけじゃなくて、水中処分隊の隊長が「君、潜ってくれ」と頼むんだぜ。なんでだよ。
だったらテメエらは何のために来たんだよ。

(観賞日:2013年5月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会