『透光の樹』:2004、日本

昭和63年。映像制作プロダクション「センチュリー・ユニオン郷」の社長を務める今井郷は、金沢の旅行番組を手掛けることになった。 ディレクターの岩田は「単なる旅行番組にしたくない」と考え、25年前に製作されたドキュメンタリー番組の映像を挿入することを提案 する。それは郷が駆け出しのAD時代に携わった番組で、鶴来町で刀鍛冶をしている山崎火峰に取材した内容だ。郷はプロデューサーの 熊谷から、取材で大学教授と料亭の主人の世話になったので挨拶に行ってほしいと頼まれた。
郷は岩田と共に金沢へ行き、料亭で大学教授と会食した。タレントとの夕食会まで時間があるため、郷は、25年振りに鶴来町を訪れる。畑 の中にポツンと生えている六郎杉が目当てだったが、その途中で彼は火峰の家の前を通り掛かる。郷は火峰の娘である千桐と再会し、声を 掛けた。当時は高校生だった千桐だが、現在は12歳の娘・眉を育てるシングルマザーになっている。千桐は六郎杉への案内を買って出た後 、郷を家に招き入れる。火峰は年老いて寝たきり生活になり、痴呆の症状が進行していた。火峰が多額の負債を抱え込んだため、千桐は 貧乏生活を余儀なくされていた。
六郎杉へ赴いた千桐は、短大を出て結婚し、子供を産んで離婚したことを話す。郷は彼女に、「お金が要る時には言って下さい」と告げた 。夜、会社に戻った郷は、千桐に電話を入れた。千桐は郷に、父親が頭の中で彼に借金していること、早く返済するよう言われたことを 語った。すると郷は、「借金かあるなら、僕に手伝わせて下さい」と告げる。「なんで」と問われた彼は、「決まってるでしょ。貴方が 目当て。目的は貴方しか無い」と口にした。
冗談めかした郷だが、「お願いします」という千桐に言葉に困惑した。「えっ?」と彼が漏らすと、千桐は「そやから、お金お借りして、 私を差し上げることです。私で良かったら」と言う。「もう今日、初めて会った女を抱いて来ました。芸能プロダクションにセッティング されて、馬鹿なことしてきました。ですから大丈夫です。大丈夫というのは、貴方に取って重い物になるということで」と郷が語ると、 千桐は最後まで聞かずに電話を切った。
後日、郷の元に千桐からの絵葉書が届いた。そこには「平泉寺の片栗の花をお見せしたいと思います」と書かれており、郷は彼女と電話で 連絡を取る。郷は駅で千桐と会い、平泉寺へ向かう。宿泊先を決めていない彼に、千桐は寺の近くに昔の戸長の屋敷があること、自分の 従姉・松子が留守番していることを語った。郷は彼女に、「いつか初めて会った女を抱いたと言ったけど、抱いてない」と告げた。2人は 屋敷へ行き、松子の用意した夕食を取る。屋敷に泊まることを決めた千桐は、眉に電話を掛けて火峰のことを任せた。
郷は寝室で千桐と2人になり、札束の入った封筒を差し出した。「困るわ、こんな大金、私、そんな値打ち無い」と千桐が言うと、郷は 「いいんだ。謝られると困る。これで肩の荷が下りた」と告げる。千桐は入浴した後で郷と体を重ねるが、乱れる自分を恥ずかしがった。 「2年もこんなことしてないし、だらしないわ」と言う千桐に、郷は「いいんだよ」と告げる。すると千桐は、「もう少し、待っとって 下さい。私、心に決めとったんです。郷さんの娼婦になるって」と述べた。
帰社した郷は妻である麻子からの電話で、息子がサッカーで骨折したことを聞かされる。病院へ出向いた彼は、重傷ではないことを知って 安堵した。「お仕事、お忙しいのは分かるけど、もう少し家に帰って来られない?」と麻子に言われ、郷は「何とか努力するよ」と告げた 。京都で打ち合わせがあった日、郷は千桐に電話を掛けてホテルで会う。千桐は「あのお金、助かりました」と礼を述べ、火峯を病院に 入れるつもりであることを話す。「あのお金のおかげです」と改めて言われ、郷は「金沢の病院に入院している高齢の叔父がいて、もう後 が無いんだ」と告げた。
ホテルを出た郷がタクシーに乗り込むと、千桐が走って追い掛けて来た。慌てて郷がタクシーを停めると、千桐は「あのお金、本当に 助かりました」と言う。「もう金のことはいいと言ってるだろ」と郷が告げると、彼女は「私、何やっとるんやろ。お金で買われただけの 女が、何期待しとるんやろ」と漏らす。郷は千桐をタクシーに乗せ、「叔父の話は嘘だ。3年前に亡くなってる」と明かす。「なんで?」 と訊かれた彼は、「君を追い詰めたくなかったからだ。ああ言わなきゃ、君をホテルから帰せないだろ。君は金とお父さんに縛られて 動けないんだから」と答える。すると千桐は、「そうやね、郷さん、追い詰めてくれんから。追い詰めたり、追い詰められたり、私たち、 そういう心の関係にはなれんのですよね」と寂しそうに告げた。
千桐は火峯を入院させて体が空いたので、寿司屋で働き始めた。彼女は寿司屋の親方と常連客である釣り仲間の2人から、今度の休みに 釣りへ行かないかと誘われた。郷はディレクターの河合たちと編集作業をした後、留守電を確認した。すると千桐からのメッセージが 入っていたが、なぜか途中で切れていた。そして2つ目のメッセージには、「すみませんでした。先程の録音、消して下さい」と吹き 込まれていた。
千桐は郷に電話を掛け、「留守録に掛けたのが気になって。どうしてもまた、お礼を言いたくなって」と告げる。また金のことを彼女が口 にするので、郷は「僕はお金で縛ろうとしていないのに、貴方が縛られたがってる。僕たち、ズレてる」と言う。「今の仕事が終わったら 、そっちへ行きたい。今度は夜まで付き合ってほしい」と彼が告げると、千桐は「分かっております」と述べた。電話を切った後、郷は 「分かってないんだよな」と呟いた。
千桐が親方と常連客に連れられて山中へ川釣りに出掛けると、別れた夫がいた。親方と常連客が先へ行くと、元夫は「お前は俺が女を 作っても泣きもせんかった」と言う。千桐が冷淡に「泣いてほしかったんですか」と問い掛けると、「イライラするがや、お前の気位は。 ピントがズレとる」と彼は言う。後日、郷とホテルで会った時、「痛いって思ったんです。釣られたのが魚じゃなくて自分みたいで」と 千桐は語った。「別れた御主人に、また釣られた」と郷が言うと、彼女は「魚の話です」と告げた。
郷が「危なっかしい人だなあ。男2人と谷の奥まで釣りに出掛けたり、そこで御主人に釣られたり」と話すと、千桐は「フライが落ちて 来て誘うんや。そこに魚がおったら絶体絶命やわ。あれは渓流を舞台にした狩りなんや。この奥へ行ったらどうなるんかドキドキするんや 。とことん潜ってみたいと思うんやて」と語る。郷は彼女の膝を開かせ、「この奥に何があるのかな。とことん潜りたい」と言って股間を まさぐった。千桐は「ちゃんと覚えときます。今分かりました。貴方がどんなに一杯、女の人とこんなことなさったか」と告げた。
スタッフを連れて外人バーへ繰り出した郷はトイレに入り、鏡を見つめながら「最初に金を渡したのが間違いだったんだ」と考える。その 直後、彼は急に倒れ込み、駆け付けた河合に助け起こされた。一方、寿司屋に現れた元夫は閉店まで居座り、「出ようか、話がある」と 千桐に言う。彼が「久しぶりに眉の顔も見たい」と家まで来ようとするので、千桐は「やめて下さい、関係ないはずです。そういう約束の はずです」と拒んだ。
未練がましい態度を取る元夫を千桐が冷淡に見ていると、親方が来て電話が入ったことを知らせる。相手は郷で、「外人バーで飲んでて、 トイレで尻餅ついた。医者に行けって言われた。この年まで好き勝手にやってた報いだよ」と語る。千桐は元夫に「好きな人がおるんです 。今すぐにでも抱いてもらいたい人がおるんです」と告げ、荒っぽく追い払った。彼女は赤坂へ行き、郷の会社を訪れた。郷と千桐は、 激しく互いを求め合った。
情事の後、郷は25年前に火峯から貰った小柄を千桐に見せる。全て人にあげて家には1本も残っていないと彼女が言うと、郷は「じゃあ、 僕が死ぬ時は、貴方に返すよ」と告げる。「冗談だよ」と彼が笑うと、千桐は「心臓が止まるかと思った。そん時は私も死にます」と言う 。郷が「ダメだよ。それだけは絶対にいけない」と告げると、彼女は「代わりにこれ切るわ」と水着女性のポスターを切り裂いた。郷が 微笑して「案外、嫉妬深いんだな」と言うと、彼女は「そうや。私、生まれて初めて嫉妬したんやわ」と口にした。
後日、医者の診断を受けた郷は、悪性の腫瘍があるので手術を急ぐべきだと勧められる。しかし随分と進行しているため、完治は難しいと 言われる。「直腸から肛門まで切り取って、どうやってセックスするんですか?」と彼が言うと、医者は「大切なのは命です」と告げる。 「手術して、少しばかり長生き出来るってことですか」と郷が告げると、医者は「その少しばかりの時間が大事なのではないですか、人生 では」と述べる。郷は手術ではなく、薬での治療を選択した…。

監督は根岸吉太郎、原作は高樹のぶ子『透光の樹』文藝春秋刊より、脚本は田中陽造、製作は朝野勇次郎、プロデューサーは岡田裕、題字は雨龍軒三代 徳田八十吉(国指定重要無形文化財)、撮影は川上皓市、照明は熊谷秀夫、美術は小川富美夫、編集は鈴木晄、録音は阿部茂、アソシエイトプロデューサーは佐藤紳司、衣裳デザインは小川久美子、音楽は日野皓正。
出演は秋吉久美子、永島敏行、高橋昌也、吉行和子、森山周一郎、戸田恵子、平田満、寺田農、田山涼成、うじきつよし、大高洋夫、村上淳、マギー、唯野未歩子、松岡俊介、仲村瑠璃亜、ガダルカナル・タカ、沢木まゆみ、千葉哲也、鷲生功、十貫寺梅軒、中田敦夫、松本一郎、古賀美智子、益谷和真、渡邉ひかる、重村佳伸、須永祥之、本多章一、高丸真里、西川方啓、中井昌文、江口陽一、田中謙次、開優介、さくら、又川雅夫、吉岡孝悦、中崎宏一、上島のぶ子ら。


1999年度谷崎潤一郎賞を受賞した高樹のぶ子の同名小説を基にした作品。
監督は『ひとひらの雪』『課長 島耕作』の根岸吉太郎、脚本は『居酒屋ゆうれい』『天国までの百マイル』の田中陽造。
千桐を秋吉久美子、郷を永島敏行、火峯を高橋昌也、松子を吉行和子、大学教授を森山周一郎、麻子を戸田恵子、千桐の元夫を平田満、寿司屋の親方を寺田農、釣り仲間を田山涼成、熊谷をうじきつよし、岩田を大高洋夫、河合を村上淳、編集マンをマギー、成人した眉を唯野未歩子、眉の夫を松岡俊介が演じている。

この映画は、作品そのものよりも、製作を巡って起きた事件の方が遥かに話題となった。
当初、郷役に起用されたのは萩原健一だったが製作側の意向で途中降板させられ、前払いした出演料の半額を返還するよう要求された。
萩原は一方的に降板させられたとして返還を拒否するだけでなく、逆に全額の支払いを要求した。
2004年6月、プロデューサーの岡田裕の留守電に出演料の支払いを要求するメッセージを吹き込む際、萩原は国税局や警視庁、そして暴力団の名前を挙げた。
これにより、彼は恐喝未遂で逮捕された。

ショーケンを降板させた理由について、岡田プロデューサーは彼が常軌を逸した行動を繰り返したことを挙げている。
それは撮影初日から始まっており、助監督に暴力を振るったり、女性スタッフにセクハラを繰り返したりしたそうだ。
だけど、ショーケンのイメージを考えてみた時に、「それって、いつも通りのショーケンじゃないのか」と思ってしまうんだよね。
岡田プロデューサーは映画界で長く仕事をしている人なんだから、ショーケンがそういう人物だと分かった上で起用したんじゃなかったのかと思ってしまうんだよな。

そんなショーケンの降板を受けて、代役に起用されたのが永島敏行である。突然の交代劇であり、製作サイドが希望するベストの人選は無理だったんだろうと思う。
しかし、それにしても永島敏行は無いだろう。
ショーケンの類似タレントを想像した時に、永島敏行なんて何人の名前を挙げても出て来ないような役者だぞ。
これが「実直で不器用な男が、妖艶な女に翻弄される」という話だったら、永島敏行でも構わないかもしれんよ。だけど、郷というキャラクターは、「エロスの人」じゃなきゃダメなのよ。
永島敏行って、「大人の色気」とか「黙っていても漂う艶っぽさ」とか、そういう要素からは程遠いタイプの男優でしょうに。

郷は「右手のバケツから左手のバケツに水を移す。その時に多少、水がこぼれる。それで喉を潤す。そういう商売だから」「遠くを見るのも怖い。3ブロック先のフランス料理より、目の前の牛丼に飛び付く。女だって金だってそうです。だから忙しい」「今すぐに抱いてもらいたい人って、ひょっとして僕のことかな。光栄です。ありがとう」「貴方の体の半分は僕なんだ。勝手に殺してくれるな」などと、キザで臭すぎるセリフを何食わぬ顔で吐くキャラクターなんだけど、永島敏行だと全く似合わない。
「台詞が口に馴染んでいない」「性に合わない台詞を無理に喋っている」という印象が強くなってしまう。
それと、千桐は「大人の女」だけど、郷は「もっと大人の男」じゃなきゃマズいのよ。でも永島敏行が秋吉久美子と並ぶと、年下に見えてしまうんだよな。っていうか「そう見える」というだけじゃなくて、実際に永島敏行の方が2つ年下だし。
実年齢が下であっても、年上に見えるなら問題は無いけど、その通り、年下に見えるからね。秋吉久美子をリードしていく大人の男には、到底感じられないのよ。

ただし、じゃあ降板させずにショーケンを続投させていれば良かったのかというと、それも違うと思うのよね。
確かにショーケンは、色気がある人だ。だけど、それは郷に求められる色気とは種類が全く違う。
ショーケンは危険な香りがする野性的な色気の持ち主だけど、郷は「余裕を感じさせる男の熟した色気」を放つタイプの男なのだ。
しかも当時のショーケンは明らかに声質が劣化しており、やたらと上ずるようになっていた。演技が云々という以前に、コンディション不良が酷かったのだ。
だからショーケンであろうと永島敏行であろうと、「郷を演じる男優がダメ」という問題は解消されない。

この映画のプロデューサーは岡田裕だが、それより大きな権限を持っていたのは東洋コンツェルンの朝野勇次郎社長だ。
東洋コンツェルンは石川県のパチンコホール会社の他に、複数のグループ企業を運営している統括会社だ。朝野勇次郎は製作者として名前が表記されているが、漏れ伝わるところによると、映画は彼の影響力が非常に強い中で撮影されていたらしい。
もちろんヒット作になると考えたから製作したんだろうけど、その感覚はどうなのかなあ。
たぶん朝野勇次郎は『失楽園』みたいな映画をイメージしていたんじゃないかと推測されるけど、主演がショーケンのままでも、そんなにヒットしなかった気がするんだけどなあ。

後半、郷は千桐に25年前の彼女を撮ろうとしてブレてしまった写真を送り、「レンズ越しに欲情してしまい、手が震えてシャッターが押せない。引き出しの底から出て来たこの写真を見て、やっと分かりました。僕は二十五年前、セーラー服の貴方を見てから、ずっと欲情していたんだ」と書いた手紙を添える。
それは「昔から君に惚れていたのであって、金がきっかけで芽生えた関係ではない」ということのアピールなんだろう。
だけど「セーラー服の貴方に欲情してしていた」ってのを書いても、「それって単にヤバい奴じゃねえのか」と思ってしまうぞ。

男女の肉体関係が重要な要素になっているので、もちろん複数の濡れ場が用意されている。秋吉久美子は惜しげも無く脱いでいるし、熟女としての艶っぽさを存分に振り撒いている。
彼女は他の映画でもバンバンと抜いているから、そこに希少価値があるわけではないが、裸になるべき役柄なのに乳も尻も全く露出しないような女優だって存在するわけで、そういう意味では「さすが」と手を叩きたくなる。
もちろん濡れ場はセールスポイントの1つ、っていうか最大の、もしくは唯一のセールスポイントになっている。しかし残念ながら、その描写は全く評価できるものではない。何しろ、乳を舐めていた郷が千桐の股座に触れて体勢を変えた途端、すぐに「挿入してピストン運動を始める」という手順になるのだ。
いやいや、どんなセックスだよ。前戯もへったくれも無いのかよ。
そういうの、すんげえ萎えるのよ。

この映画に限ったことじゃなくて、基本的に濡れ場がある映画、そして濡れ場をセールスポイントにしている映画に共通して言えることではあるんだけど、時間を掛けて情事を描くのなら、もうちょっと考えてほしいわ。
「男子高校生の初めてのセックス」ってことならともかく、大勢の女を抱いて来た中年男の情事が、「オッパイ舐めたら、すぐピストン」なんてことになるわけがないでしょ。ポルノ映画じゃないから全てを描写しろとは言わないけど、もうちょっと何とかならないものかと思ってしまうのよ。
いっそのこと、セックスなんて直接的に描写しなくてもいいから、前戯だけをバカ丁寧に描いてもいいぐらいなのに。そんでカットが切り替わると「性交渉が終わった後」になっていても、別に構わないぐらいなのに。
この映画で重要なのは「ピストン運動としてのセックス」じゃなくて、「2人が性的に燃え上がる情景」のはずなんだからさ。

郷が妻帯者であり、不倫関係になるからこそ、許されぬ恋だからこそ、千桐は愛人契約という形を取るわけだ。これが独身同士なら、千桐が彼と惹かれ合ったって何の問題も無い。
いや、そりゃあ郷が独身だったとしても「愛人関係」という繋がりにすることは出来るが、千桐は金で繋がる関係を選んだのは「郷が妻帯者だから」というのが重要じゃないかと思うのよね。
だったら、郷の妻である麻子が1シーンの登場に留まっているのは、いかがなものかと。
千桐が彼女と会うか否か、麻子が不倫を知るか否かは別にして、もう少し出番を増やして存在感を上げても良かったんじゃないかと思うんだよなあ。

一方、千桐には眉という娘がいるのだが、そのことは郷との不倫関係を始めるにあたって何のストッパーにもなっていない。
不倫関係が始まった後、ブレーキの作用を果たすことも無い。
眉に対して罪悪感を千桐が抱くようなことは全く無いし、眉が母の不倫に気付くことも無い。
郷と千桐の関係には何の影響も与えないので、そうなると「彼女の存在意義って果たして何なのか」と思ってしまうんだよな。

最後に老齢の千桐が登場し、「もう眉のことも分からなくなっているけど郷のことは覚えている」というシーンがあるが、そのためだけに眉は登場しているようなモンだ。そのシーンが訪れるまで、彼女がいてもいなくても、ほとんど支障が無い。
火峯を入院させるまでは、千桐が郷と密会している間に彼の面倒を見る人間が必要だけど、それは「近所の人に頼む」ってことにでもすれば済むしね。
しかも、ようやく眉の存在意義が生じるラストシーンにしても、秋吉久美子の老けメイクが過剰すぎて陳腐になっているので、要らないんじゃねえかと思っちゃうしなあ。
だってさ、15年後ってことは、まだ千桐って60歳にも達していないんじゃないのか。それにしては、もう80歳を余裕で超えているんじゃないかと思うぐらい老け込んでいるし。60歳にも達していないはずのに「ボケて娘も分からない」ってのも、設定に無理を感じるし。

(観賞日:2015年3月28日)


第1回(2004年度)蛇いちご賞

・女優賞[秋吉久美子]

 

*ポンコツ映画愛護協会