『タッチ』:2005、日本

双子の兄弟・上杉達也と和也、隣家に住む・浅倉南は、生まれた時からの幼馴染みだ。まだ3人が幼い頃、南は達也と和也に「甲子園に 連れてって」と告げた。高校生になった現在、和也は明青学園野球部のエースとして活躍している。一方、達也は野球から完全に手を引き 、今は「和也の出来の悪い兄貴」としての日々を無作為に過ごしていた。
和也は南に惹かれており、彼女のために予選大会を勝ち進む。一方、親友・原田正平がいるボクシング部に入部した達也だが、最初の試合 でKO負けを食らう。負傷した達也の元に現われた南は、そっと口づけした。南は和也ではなく、達也に惹かれていたのだった。和也は 「そうすれば試合に勝てる気がする」と言って南にキスを迫るが、震える彼女を見て額に口づけした。
明青学園野球部は順調に勝ち進み、ついに新田明男というスラッガーを擁する須見工業高校との決勝戦に挑もうとしていた。しかし決勝の 朝、和也は道に飛び出した子供を助けようとしてトラックにはねられ、帰らぬ人となってしまう。何も知らずに試合に臨んだ明青学園だが 、和也を欠いた影響は大きく、敗れてしまった。
達也は野球部の新キャプテンとなった黒木武の勧めもあり、野球部に入部した。しかし母は反対し、キャッチャーの松平孝太郎も顔さえ 合わせようとしない。それでも達也は野球を続け、和也の遺志を継いで南を甲子園に連れて行こうとする。達也はピッチャーとして 秋季大会に臨むが、ノーコンが祟って惨敗する。達也は「俺は和也にはなれない」と落ち込み、野球部を辞めた・・・。

監督は犬童一心、原作はあだち充、脚本は山室有紀子、製作は本間英行、プロデューサーは山中和成、製作統括は島谷能成&亀井修& 奥野敏聡&高田真治、撮影は蔦井孝洋、編集は普嶋信一、録音は矢野正人、照明は疋田ヨシタケ、美術は小川富美夫、 音楽は松谷卓、音楽プロデューサーは北原京子、主題歌『歓びの種』はYUKI、挿入歌『タッチ』『夢の続き』はユンナ。
出演は長澤まさみ、斉藤祥太、斉藤慶太、RIKIYA、平塚真介、上原風馬、安藤希、福士誠治、若槻千夏、風吹ジュン、宅麻伸、 小日向文世、本田博太郎、山崎一、徳井優、高杉亘、渡辺哲、生田智子、萩本欽一、永山たかし、脇崎智史、大森拓郎、向野章太郎、 野元慎吾、小野純平、今冨映貴、三浦英幸、田村光弘、山根康立、柿元利之、上中京、傳田怜時、河合努、滝沢圭吾、峰竜太、 松本志のぶ、小栗泉ら。


あだち充の漫画を基にした作品。
南を長澤まさみ、達也を斉藤祥太、和也を斉藤慶太、原田をRIKIYA、孝太郎を平塚真介、黒木を上原風馬、 新田を福士誠治、上杉兄弟の母を風吹ジュン、上杉兄弟の父を小日向文世、南の父を宅麻伸、野球部監督を本田博太郎、ボクシング部 マネージャーを安藤希、南の親友・矢部ソノコを若槻千夏が演じている。

「長澤まさみが浅倉南を演じてタッチが実写映画化される」という話を最初に知った時、「長澤まさみの部分しか勝てる要素が無いよな」 と感じた。
そもそも、どうして『タッチ』の実写化を考えたのだろうかと首をひねってしまう。
『タッチ』は人気のあった漫画だし、TVアニメも何度も再放送されており、多くのファンを持っている。
そういう作品を引っ張り出してくるからには、漫画やアニメのファンを意識しているのかもしれないが、だったら触れないのが吉だろう。

キャスティングに関して、「上杉兄弟役は双子じゃなきゃダメだが、誰を選ぶんだろう」と考えた。
どうせ新人は選ばないし、斉藤兄弟ぐらいしか見当たらないよな、でも斉藤兄弟だと絶対に勝ち目が無いよな、と思っていたら、ホントに斉藤兄弟がキャスティングされた。
その段階で、「ああ、もうダメな映画になることは確定的だな」と思った。
で、犬童一心監督の「長澤まさみを魅力的に見せるアイドル映画を作りたかった」というコメントを聞いて、なるほど、そこしか勝機が 無いことを監督も分かっているんだなと思った。
ところが出来上がった作品を見てみると、監督の割り切りが足りなかったのか、あるいは 製作サイドの圧力があったのか、どうにも煮え切らないモノとなっている。

原田の配役や喋り方、全く必要性は無くても飼い犬のパンチを用意していることなどは、原作に似せようという意識が感じられる。
しかし南の父親や新田の配役やキャラクターを見ると、全く原作とは違うものだ。
そういう辺りからしても、中途半端だなあと感じる。
原作を強く意識するのか、それとも全く別物にしてしまうのか、どっちつかずで曖昧なのだ。

映画化するにあたって、原作の膨大なボリュームをどのように上映時間内に収めるかという問題がある。
当然、全てを詰め込むのは絶対に無理だ。
野球部監督に柏葉が就任して以降の物語は第2部と解釈できるから簡単に削れるだろうが、第1部だけでも長すぎる。
しかし、この映画は第1部を全て詰め込むという無茶をやらかしているのである。
その結果として、ものすごく駆け足のダイジェストという状態になってしまっている。

原作に描かれた印象的なシーンを幾つか入れているが、それはそこまでの流れがあってこそ生きるものであって、ダイジェストの中で 単発的にハメ込んであってもパワーは無い。
例えば南が達也にキスするシーン、それは達也が和也に遠慮して野球部ではなくボクシング部に入ったことや、野球の予選とボクシングの試合日程が重なったことなど、複数の要素があってこそのものだ。
1つ1つのエピソードに時間を割く余裕が無いため、全てのシーンに魅力が無くなっている。
和也が死ぬシーンまでの話ってのは、「それしか道は無い」ってことで、そこへ向かっていく進行であるべきなんだよな。
つまり「双子が2人とも南を好きで、南は達也を好きで」というトライアングルが、もっと描かれていないとダメなのだ。
その関係の高まり、双子と南の接近がもっと無いと、「死んでるんだぜ」という達也のセリフも、南の号泣も、心には届かない。

ダイジェストだと、当然のことながら扱いの悪いキャラも多い。
新田は和也との因縁を話すために登場するので、そこから達也とのライバル関係が描かれていくのかと思いきや、次に登場するのはクライマックスの試合。
ボクシング部マネージャー役の安藤希なんて、達也とデートするけど、その短いシーンだけのために出てきたようなモンで、その前振りも皆無に等しいし、フォローも全く無いし、 不憫な扱いだぜ。
最後の試合、達也がホーム突入に失敗した後、孝太郎が逆転ホームランを打つという展開があるが、これだって、そこまでに達也と孝太郎の 確執と友情のドラマが充分に描かれていてこそ輝きを放つシーンである。
それが無いまま、孝太郎の逆転ホームランだけをクライマックスに持ってこられても、「そこは役回りが違うだろう」と思ってしまう。

どうせ全て描くのは無理なんだから、原作を大きく逸脱することが難しいのなら、もっと手前で終わっておけば良かったのだ。
和也の死ぬシーンは、あと30分ぐらい遅らせていい。新田とのライバル関係だって、削ってもいい。そして、「達也が弟の死を乗り越え、野球部に 認められて甲子園を目指すために頑張っていく」というところで終わっておけばいい。
秋季大会でボロ負けした達也がウジウジと悩む辺りなんて、明らかに要らないだろう。そこを削れば、もう少し駆け足もマシになったと 思うぞ。そこで時間を割いた分、ノーコンだった達也が練習を積むシーンは無くなり、いきなり優れたピッチャーに変貌してるし。
それに、達也がウジウジしている間は、長澤まさみの出番が減るのよ。
それを監督は分かっているのかと。

大体、「長澤まさみを魅力的に見せるアイドル映画」として作るのであれば、なぜ原作にあった「南が新体操部で踊る」という設定を削除 するのかと。
もっとハッキリ言えば、なぜ長澤まさみにレオタードを着せないのかと。
長澤まさみしか見所は無いんだから、そこに特化して訴求力を向上させる方法を考えるべきじゃないのか。
えっ、お前はエロい気持ちだけで、そんな文句を付けているんだろうって?
そんなの、当たり前じゃないか。

漫画やアニメのファンは、ほぼ間違いなく幻滅する。
終盤にアニメ『タッチ』の主題歌を流すシーンがあるが、完全に逆効果だ。
ますます「アニメとは違う」という拒絶反応を強くさせるだけだ。
ではファンじゃない人間はというと、1つ1つのエピソードが希薄で感情は揺さぶられないだろう。
長澤まさみのプロモーション映画としても、そこまで徹底しているわけじゃない。
まあしかし、どんな風に作ったとしても、もう『タッチ』の実写映画化という段階で勝ち目が無かった気はするけどね。

 

*ポンコツ映画愛護協会