『遠くの空に消えた』:2007、日本

馬酔空港に旅客機が着陸し、客室乗務員2名が降りて来る客に挨拶して見送る。楠木亮介という男は客の列から外れ、座り込んで滑走路を見つめた。気になった後輩乗務員が声を掛けると、亮介は滑走路に残っている子供の靴跡を見ていた。後輩乗務員が驚いていると、気になった先輩乗務員もやって来た。すると亮介は、「実はね、この靴の持ち主、僕は知ってるんだ。君たちはこの話、信じてくれるかなあ?聞きたい?」と告げる。2人がうなずいたので、亮介は自分が子供だった頃の話を始めた。
小学生の頃、亮介は空港公団の団長を務める父の雄一郎と共に、馬酔村へやって来た。尿意を催した亮介は車を停めてもらい、空港建設反対を訴える看板が出ている場所で立ち小便をする。そこへ牛乳を配達している小学生の土田公平が通り掛かり、道の反対側で立ち小便を始めた。亮介は牛乳を手に取り、勝手に飲み始めた。排尿を終えた公平が文句を言うと、亮介は小山の方を指差した。すると小山の上には、少女が両手を伸ばして立っていた。少女の姿は霧に隠れ、霧が晴れるといなくなっていた。
翌日、公平は検便を忘れ、クラスメイトから「浣腸してでもウンコをさせられる」と聞いて焦った。彼は友人のトンボと2人でトイレへ駆け込むが、全く排便できなかった。サワコ先生は転校生の亮介を連れて、教室に現れた。亮介が可愛い顔をしていたので、女子たちは歓声を上げた。公平とトンボは牧場へ行き、牛の糞を自分のウンコとして使うことにした。公平が教室に戻って来ると、亮介が自分の席に座っていた。公平は抗議するが、サワコは亮介に譲って別の席へ移るよう促した。
夜、地主の天童はバー『花園』に村民を集め、反対集会を開いた。怪我をしていないのにクビにギプスを付けているタニシは、天童の演説に拍手を送った。しかし大半の村民は建設反対に強い熱意を持っているわけではなく、天童に調子を合わせているだけだった。雄一郎は公団職員を引き連れ、バーにやって来た。青年団のリーダーであるトバが立ちはだかると、雄一郎は彼の腕をねじった。天童が出て来て「アンタで5人目だ。早いとこ諦めるんだな」と言うと、雄一郎は冷淡に「談合は嫌いなんですよ。それに、アンタのように小さくまとまった人間はもっと嫌いなんだ」と語った。店に入った彼は「ここを離れて、もっと広い世界を見たいと思ったことはありませんか」と訴え掛け、「国は金に糸目は付けないのです」と札束をバラ撒いた。
亮介が女子たちの人気者になったので、クラスメイトの男子たちは面白くなかった。公平は「俺と勝負しろ」と言い、亮介に掴み掛かった。2人は揉み合って坂を転げ落ち、牛の肥溜めに入ってしまった。公平は大笑いし、亮介の顔に糞尿を擦り付けた。亮介が嫌がって逃走すると、公平は笑いながら後を追い掛けた。2人は霧に消えた少女・拍手ヒハルが両手を伸ばし、呪文を唱えている姿を目撃した。何をやっているのか声を掛けると、ヒハルは「交信。UFOと」と言う。「UFOの存在を信じる?」と問われた亮介が「見たことないから」と答えると、彼女は「私も見たことないよ。信じるかどうかが問題なの」と述べ、また呪文を唱えた。
自転車で通り掛かったサワコは「何やってるの。早く帰りなさい」と子供たちに告げ、立ち去らせた。森の方を眺めていたサワコは、男が手製の飛行機で墜落する様子を目撃した。森に入った彼女は、気を失っている男を発見した。男はサワコに、「月にはたくさんの海がある。今日はスミス海が見えている。僕の曽祖父は、スミス提督なんだ。あの海の名付け親。だから僕はずっと、月の裏側にあるスミス海に憧れていた」と語る。そんな男を、サワコは素敵だと感じた。
公平はクラスメイトのケンジがイジメを受けている現場を目撃し、止めに入った。暴行していた同級生たちは、ケンジの父親が公団側に付き、みんなで村を出ようと言い回っていることを語った。公平が「本当なのか」と確認すると、ケンジは「ホントだよ」と声を荒らげ、亮介を睨み付けて「テメエらさえ来なけりゃ、こんなことにならなかったんだ」と告げた。夜、亮介は雄一郎に「もうやめてくれよ」と頼むが、冷徹に「こんな村、潰れちまえばいいんだ」と言われる。亮介が「父さんはいつも自分勝手だ」と責めると、雄一郎は平手打ちを浴びせた。亮介は雄一郎を非難し、家を飛び出した。
亮介は公平と遭遇し、雄一郎について「あんなんじゃなかったんだ、昔は」と言う。公平は自分が父親を知らないこと、母親のスミは「どっかで、のたれ死んでいる」と話していることを語った。彼は亮介を丘へ連れて行き、一緒に星空を眺めた。そこへヒハルが来て「私の場所なんだけど」と文句を言い、天体望遠鏡を組み立てた。ヒハルは望遠鏡を眺めながらハンドルを回し、「駄目だ」と悔しがった。亮介が「なんで回したの?」と訊くと、彼女は「これは星を取ることが出来る望遠鏡なの」と告げた。
公平が「嘘だ」と言うと、ヒハルは証拠として隕石を見せ、「パパがこの望遠鏡で取ってくれたの」と言う。途端に興味を示した公平は、ヒハルに頼んで自分も望遠鏡を使わせてもらう。流れ星に合わせてハンドルを回した公平だが、取れないので悔しがった。亮介が「ホントに取れるの?なんで、さっきのが隕石だって分かるの?」と疑問を示すと、ヒハルは「パパが嘘つくはずないじゃない」と答えた。
知恵遅れの赤星が駕籠に入れた数羽の鳩を運んでいると、青年団が取り囲んでからかった。公平と一緒に通り掛かった亮介は、「やめなよ。恥ずかしくないの?」と告げる。トバが腹を立てると、公平が「こいつ、新入りなんで」と謝った。亮介はトバに飛び掛かるが、すぐに投げ飛ばされた。亮介は赤星にぶつかり、駕籠から鳩が飛び去った。亮介が謝罪すると、「ウチに帰って来るから。鳩は頭いいんだよ。トーマが言うから間違いない」と赤星は話す。「もしかしてトーマじゃないよね?」と問われた亮介は、それを否定した。赤星の家を訪問した亮介と公平は、鳩たちが戻って来るのを目にした。
赤星の家を出た後、亮介は公平に「トーマって誰?」と尋ねた。すると公平は、「あいつの弟。あいつが殺したって、みんな言ってる。可愛くて抱き締めてたら、息が出来なくて死んじゃったんだって」と告げた。亮介、ヒハル、公平、赤星は丘へ行き、秘密基地を作った。4人は呪文を唱え、星空を眺めた。ヒハルは「ここはパパの好きな場所だった。子供の頃、良く連れてきてもらった。パパはここで何度もUFOを見たって言ってた」と語る。公平が「じゃあさ、お前のパパに星を取って来てもらおうぜ」と言うと、ヒハルは悲しそうに「パパはもういない。ここでUFOに連れ去られたの」と語った。
公平の父である信平が、7年ぶりに村へ戻って来た。ずっと何の連絡も無かった信平だが、悪びれることも無く、能天気な笑顔で信平とスミに声を掛けた。父親の顔も知らなかった公平だが、信平が帰って来たことを喜んだ。信平は公平に、アフリカの部族に貰ったという石をプレゼントした。信平は7年も帰らなかった理由として、「ボーボー鳥を復活させようとしていた」と口にした。既に絶滅している鳥だが、彼は「ロマンを追い求めたいんだ」と述べた。
バーで空港反対派の集会が行われていると、そこに信平がやって来た。彼は天童に、「僕に任せてみます?」と告げた。彼はデモ行進を先導し、公団の面々の元へ行く。信平は「この村にはヌスケという珍獣が生息している。空港が出来れば絶滅してしまう」と言い、子供の頃の出来事を語る。彼は少年時代、森で斜面を滑り落ちた。背負って村まで連れ帰った友人は、「ヌスケの大群に道案内してもらった」と語った。しかし誰も信用せず、嘘つき呼ばわりされた友人は心を閉ざして転校した。信平は「ヌスケの存在を実証するため、私は生物学者になった」と語った。そんな話を真剣な眼差しで聞いていた雄一郎こそ、信平の語った友人だった…。

監督・脚本は行定勲、脚本協力は青木豪&伊藤ちひろ、製作は宇野康秀、エグゼクティブプロデューサーは星野有香、プロデューサーは古賀俊輔&飯泉宏之&山本章、製作エグゼクティブは依田巽、アソシエイトプロデューサーは大前典子、撮影は福本淳、編集は今井剛、録音は山田幸治、照明は市川徳充、美術は山口修、VFXスーパーバイザーは進威志、VFXプロデューサーは篠田学、音楽は めいなCo.、主題歌はCocco『甘い香り』。
出演は神木隆之介、大後寿々花、ささの友間、三浦友和、大竹しのぶ、石橋蓮司、小日向文世、鈴木砂羽、伊藤歩、長塚圭史、田中哲司、柏原崇、チャン・チェン、笹野鈴々音、六角慎司、横山あきお、大口広司、中島ひろ子、でんでん、高橋真唯、キタキマユ、富永沙織、傳田怜時、クリスチャン・ストームズ、千うらら、山崎一、ラッキィ池田、森下能幸、三浦誠己、中野英樹、山中崇、棚橋ナッツ、岡田ひかり、神楽坂恵、加藤みずき、西原信裕、柳田衣里佳、谷本和優、下山葵、根岸紗里、広野健至、大浦詩由、石坂良磨、栩原笑生、長谷川愛美、守山玲愛、森部万友佳ら。
声の出演はCocco。


『北の零年』『春の雪』の行定勲が、7年の歳月を費やして書き上げたオリジナル脚本を映画化した作品。
亮介を神木隆之介、ヒハルを大後寿々花、公平をささの友間、雄一郎を三浦友和、花園のママを大竹しのぶ、天童を石橋蓮司、信平を小日向文世、スミを鈴木砂羽、サワコを伊藤歩、赤星を長塚圭史、トバを田中哲司、大人になった亮介を柏原崇、スミス提督をチャン・チェン、タニシを六角慎司、ヒハルの母を中島ひろ子、客室乗務員を高橋真唯&キタキマユが演じている。

まず導入部で、「どうやらダメな映画っぽいな」という雰囲気がプンプンと漂って来る。
それは何かというと、「滑走路に佇んでいる客が、2人の客室乗務員に子供の頃の話を聞かせる」という設定。
「その状況で客の長話にCAが付き合うって、んなアホな」と思ってしまう。
探査船のクルーが老婆の昔話を2時間以上も延々と聞かされていた『タイタニック』よりも、さらにバカバカしさは強いぞ。

大人の亮介は、「蜂はね、本当は飛べる構造じゃないらしいんだ。なのに実際には飛んでる。蜂はね、飛ぼうと思ったから飛べたんだ。
ライト兄弟やリンドバーグだってそう。ようは信じていたから飛ぶことが出来たんだ。信じることで願いが叶った。人はそれを奇跡と呼ぶ。今から君たちに話すことは、ある奇跡の話なんだ」と勿体ぶった言葉を語る。
で、「信じれば空を飛べる」という例を3つも挙げたぐらいだから、回想劇では「信じることで空を飛べた者の話」が描かれるのかと思いきや、そうじゃないんだよな。
だったら、その導入は不必要なミスリードになってしまうよ。

回想シーンに入ると、亮介が公平の配達していた牛乳を勝手に飲む。そういう「ちょっと変わった行動」を彼が取ることによって、その後に用意されている「ヒハルが小山の上で霧の中に消える」という不可思議が薄まってしまう。
亮介が「風変わりな少年」という設定というわけでもないんだから、そこで無意味に引っ掛かるような行動を取らせるべきではない。
それと、亮介が驚いた様子で「あれ」と公平に告げて指差した時点では、ヒハルは両手を伸ばして立っているだけだ。「霧の中に姿を消す」という本当に驚くべき現象が起きるのは、その後だ。
だから、そこは反応が先走っているような印象を受けてしまう。

亮介と公平は肥溜めに落下し、それがきっかけで仲良くなる。
「喧嘩していたら仲良くなった」という、少年たちのドラマを描写する時にありがちな展開をやりたかったのは良く分かる。ただ、具体的な見せ方が上手くないので、嘘臭いシーンになってしまっている。
その後、ヒハルを含めた3人が喋っているとサワコが来て「早く帰りなさい」と言うのだが、それは変だろ。まだ明るいんだし、早く帰る必要など無いはず。その場所から立ち去って欲しかったのかもしれないが、そこでサワコが何をしようとしていたのかも良く分からんし。
そもそも、サワコのエピソードって何のためにあるのかサッパリ分からん。

サワコが森で出会った男が何者だったのかは、最後まで分からない。
公平が彼女の存在を知らなかったってことは、ヒハルは学校へ通っていないようだが、それが許される。
夜遅くまで子供たちが帰って来ないのに、保護者が心配して捜しに出たりすることも無い。
殺人未遂事件が起きても警察が動くことはないし、そもそも駐在もいない。
怪我人が治療を受けた形跡はあるが、医者がいる気配は無い。

どうも行定勲監督は「ファンタジーなら何をやっても構わない」と勘違いしているような気がしてならない。
実際のところ、ファンタジーってのは決して無法地帯ではない。ファンタジーにもファンタジーなりのルールが必要だ。
しかも本作品の場合、「日常にファンタジーが入り込んで来る」という作り方をしているのだから、まずか日常風景における現実的な部分をガッチリと固めておくべきだろう。
そして、その後で「ファンタジー世界におけるリアリティー」も追求していく必要がある。

ところが本作品は、前述したように「日常にファンタジーが入り込んで来る」という作り方をしているくせに、その「日常」の部分からして既にファンタジーという困った状態になっている。
どういうことかというと、「亮介と公平が不思議な少女と出会う」「少女はUFOを呼ぼうとしたり、望遠鏡で星を取ろうとしたりしている」というところに「現実的な日常からファンタジーへの突入」という展開を用意しているのに、彼らが暮らす村や村民の設定が既に非現実的なのだ。
亮介と公平がヒハルと出会っても全く驚かないのならともかく、奇妙に感じたり驚いたりしているのだから、それならば彼らが暮らす「日常」は現実的な風景にしておくべきだ。子供たちの周辺の狭い地域だけにファンタジーを限定して、大人たちの世界は現実感に満ちたモノにして差異を付けた方が、より子供たちの体験するファンタジーの部分が際立ったはず。
『スワロウテイル』の影響でも受けたのかもしれないが、明らかに「村の風景の構築」を間違えている。

っていうか、ようするに欲張り過ぎているのだ。
もっと子供たちの物語に集中すればいいものを、大人たちの物語にも手を伸ばす。しかも、空港建設に関する問題だけならともかく、全く意味の分からないサワコのエピソードなんかを入れたりする。
7年間も練りに練っている間に、やりたいことを色々と詰め込み過ぎて、その中で邪魔になる要素を外していく作業を怠ってしまったのではないか。
もちろん、大人のエピソードを入れても上手く捌いたり融合させたりできていれば問題は無いが、結果としては収拾が付かなくなっている。

後半、丘から落ちた怪我をしたヒハルは、亮介に「UFOを見たけど遠くの空に消えた。パパが帰って来ないのは分かってた」と話す。
亮介は公平に、「この村に来れば別の自分になれるんじゃないか、奇跡が起きるんじゃないかと期待してた。ヒハルも同じように、奇跡を待ってたんだと思う。自分を変えられるチャンスをずっと待ってたんだと思う」と語る。
公平は亮介に、「起こそうか、奇跡。奇跡って黙ってても起きないだろ。俺たちの手で奇跡、起こそうぜ」と言う。
その辺りは、ものすごく無理を感じる。
そもそも亮介の言う「別の自分になる」ってのは奇跡じゃないと思うし、公平が「奇跡を起こそう」と言い出すのも段取り芝居にしか思えない。

で、その流れで「奇跡を起こそう」と言うぐらいだから、ヒハルのために何かしらの奇跡を起こそうとするのかと思いきや、公平は仲間を集めて「これは俺たちの村を壊そうとする大人と、村を守り切れないでいる大人への宣戦布告だ」と言い、空港建設予定地である麦畑にミステリーサークルを作る。なんで急に「大人への宣戦布告」ってことになるのかサッパリ分からん。
そんな流れなんて無かったでしょ。
ヒハルを呼んでミステリーサークルを見せているってことは、彼女のために作ったんじゃないのかよ。だったら、それだけで充分だ。大人への宣戦布告とか、余計な理由付けは要らない。
そんな目的まで設定しちゃうから、ヒハルにミステリーサークルを見せるシーンの感動が皆無になっちゃうんだよ。

「ミステリーサークルを作っても大人への宣戦布告にならないだろ。それで空港建設を阻止できるわけでもないんだから」と思っていたら、なぜか空港建設計画は中止になっている。
いやいや、なんでだよ。しかも、冒頭シーンで分かる通り、結局は空港が建設されているし。
じゃあ大人の亮介が言っていた「これから話すのは信じることで願いが叶った話」ってのは嘘になるじゃねえか。
そもそも亮介たちが「空港建設を阻止できる」と信じてミステリーサークルを作ったのかどうかもハッキリしないんだけどさ。

色んなことを盛り込んだ結果、何が言いたいのかサッパリ分からない映画になっちゃってるんだよなあ。
空港建設の問題なんかに深く足を突っ込まず、「信じていたらUFOが出現した」というところに着地する子供たちの物語だけに集中した方が良かったんじゃないか。
空港建設に関連する出来事って、基本的には大人たちの問題でしかなく、子供たちの「ひと夏の体験」とは上手く絡み合わないんだし。

(観賞日:2014年7月19日)


第1回(2007年度)HIHOはくさい映画賞

・最低監督賞:行定勲
<*『遠くの空に消えた』『クローズド・ノート』の2作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会