『となりの怪物くん』:2018、日本

水谷雫がバッティングセンターの2階で部屋を飾り付ける準備をしていると、ラジオから西野カナの『Best Friend』が流れて来た。雫は作業の手を止めて曲を聴きながら、過去を振り返る。当時の彼女には、勉強が全てだった。恋も友情も要らないと思っていたが、いつしか周りは仲間で溢れていた。いつも真ん中にいたのは、怪物のハルだった。高校1年の時、隣の席のハルは入学初日に暴力事件を起こしてから一度も登校していなかった。
雫は担任教師の冴子から、ハルにプリントを届けるよう頼まれた。雫がハルの住まいであるバッティングセンターへ行くと、三沢満善が受付に座っていた。彼女は満善にプリントを預けて、その場を去った。するとハルは雫に襲い掛かり、「学校の回しもんか」と凄む。雫は「プリント届けに来ただけ」と冷たく言い、すぐに立ち去ろうとする。ハルはプリントを届けてくれたことに笑みを浮かべ、「俺のことはハルって呼べよな、友達なんだし」と告げた。
次の日、雫は帰宅途中でハルに拉致され、強引にイートインへ連れて行かれる。彼はハンバーガーを食べながら、嬉しそうに「こうしてると学校帰りに友達と寄り道してるみたいだな」と話す。そこへマーボ、トミオ、ジョージという他校の3人組が現れ、「金貸してよ」とハルに告げる。ハルは「またかよ」と言うが、「友達でしょ」という言葉で「しょうがねえなあ」と金を渡した。3人組が去った後、雫は「本当に友達が欲しいなら、学校行けば?」と言う。するとハルは、「嫌だ。なんでか分かんねえけど、みんな俺を怖がる。イラつくと、みんな避けられる。だから学校は嫌だ」と話した。
金をたかるマーボが本当の友達ではないことを雫が指摘すると、ハルは頭からジューズを浴びせて「お前、嫌な奴だな」と告げる。雫もやり返してハルから逃げる様子を、クラスメイトのササヤンが目撃した。翌日、彼は教室で雫に話し掛け、ハルに借りがあることを明かす。中学で野球部員だったササヤンは、いつも苛めの標的になっている同級生を助けられなかった。そこへハルが通り掛かり、苛めていた連中に殴り掛かった。それが問題となり、ハルは学校に来なくなった。
冴子から再びプリントを届けるよう頼まれた雫はバッティングセンターへ行き、「これ以上休んだら退学になるそうです」と満善に伝えた。満善に誘われた彼女はゲージに入ってバットを振り、入学式の時も自分がイジメを見ても無視したのにハルが助けていたことを思い出す。そこへマーボたちが現れ、雫に気付かずハルを財布扱いしていることについて語る。雫は彼らの元へ行き、もっと誠実にハルと付き合うよう頼む。3人組が雫に絡もうとすると、近くにいたハルが駆け付けて追い払った。
ハルは雫の前で泣き出し、「なんか嬉しくて」と口にする。雫は彼の頭を撫でて抱き締め、「大丈夫だよ。今にハルの周りは、たくさん人が溢れるから」と告げた。彼が「雫がいるなら、学校行ってもいいかも」と言うと、雫は微笑を浮かべる。しかしハルがドキドキする」とキスしようとしたので、彼女は慌てて制止した。「俺、雫のこと好きかも。性的な意味で」と言ったので、雫は困惑した。翌朝、ハルは校門の前で雫を待ち受け、満面の笑みで手を振った。彼は雫の後ろから肩に両手を置き、ピッタリとくっ付いて学校に入った。
冴子が気付いて声を掛けると、ハルは「嫌いだ、どっか行け」と怒鳴った。彼は他の生徒たちを睨み付けて威嚇するが、雫の命令には従順に従った。ハルは休み時間も雫に付きまとい、女子トイレにまで入ってこようとした。放課後、ハルは寄り道しようと誘うが、雫は「勉強の方が大事」と断る。そこへ同級生の夏目あさ子が現れ、勉強を教えてほしいと雫に頼む。雫が無視して帰ろうとすると、あさ子は彼女を追い掛けた。
「私には関係ないんで」と雫は冷たく告げるが、あさ子がネットのオフ会で出来た友達について語るとハルが興味を示した。彼は「俺が勉強を教えてやる」と言い、その代わりにオフ会に連れて行くよう要求した。2人を無視して学習塾へ赴いた雫は、馬鹿にした態度を取る 富裕層のヤマケンに腹を立てた。中間試験の結果が発表され、1位を確信していた雫は2位だった。1位はハルで、あさ子は人生最高得点を取ったことを雫に笑顔で報告した。
教室へ行った雫は、ハルに「期末テストまでアンタは敵だから」と言う。するとハルは鶏を抱いており、「雨の中をウロウロしてたからさ。可哀想じゃねえか。みんなで飼おうぜ」と持ち掛ける。鶏飼育委員会が発足され、ハル、雫、ササヤン、あさ子が参加したバッティングセンターの2階で会議が開かれ、次の日曜日には鶏小屋を作るための買い出しに行く。するとヤマケンがマーボたちと一緒にいて、雫に気付いた。そこへハルが来ると、ヤマケンは「こいつら、お前に謝りたいってさ」と告げた。
ハルは3人組を受け入れ、鶏小屋作りに参加させた。雫はヤマケンに質問し、ハルと小学校まで一緒だったことを知る。ヤマケンは彼女に、ハルを苛めると必ず後で兄貴が出てきていたことを語った。その夜、雫を家まで送ろうとしていたハルは、満善から「優山が来てるぞ」というメールを受け取って顔色を変える。彼は一人で帰ろうとする雫を引き留め、「今日どっかに泊まるぞ」と言い出した。雫は仕方なく、自宅へ彼を連れて行く。雫の家には父の隆司と弟の隆也がいたが、母は不在だった。隆司は自分が事業に何度も失敗していること、妻が別居して働いていることを話す。
ハルは雫に、勉強ばかりしている理由を尋ねた。すると雫は、幼少期に母と花火大会に家族で行って金魚すくいをする約束をしたこと、母が仕事で行けなくなったことを語る。それが原因で彼女は、期待して裏切られるのが怖くなった。「勉強は裏切らない。頑張った分だけ返ってくる」と、彼女はハルに語った。帰宅したハルは、満善の亡き妻である京子から「いいのよ、ここにいて。私が君に魔法を掛けてあげる」と優しく言われた時のことを思い出した。満善から兄の優山が会いたがっていることを聞いた彼は、「京子叔母さんの葬式にも来なかったのに、今さらなんで会うんだ」と口にした。
あさ子は同級生の大島千づるの様子を見て、ハルに惹かれていることに気付いた。夏休みに入り、雫はハルたちと遊びに出掛けたり、塾で勉強したりする。あさ子は満善に惹かれ、それにヤマケンは気付いた。ある夜、雫は優山に声を掛けられ、父親が厳しくてハルを中学に入学する前に追い出したこと、しかし最近の動きを知って呼び戻そうとしていることを聞かされる。そこへハルが怒りの形相で駆け付けると、優山は「やっぱりね。こうすれば、お前の方から来るかと思ってさ」と告げる。ハルは「今さら家には戻らねえからな」と言い、雫を連れて走り去った。雫が「なんで逃げるのよ」と言うと、ハルは「いちいち詮索すんな」と怒鳴った。
雫は「大切なのは勉強」と思い出し、2学期が始まってからもハルと距離を置くようになった。学園祭の準備が始まる中、ハルは千づるが学級委員長だと知ると「憧れの職業だぞ」と興奮した様子で話し掛けた。ハルが千づるに「委員長、いい奴だな」と言う様子を雫が眺めていると、あさ子が「もしかして、焼き餅ですか」と指摘した。学園祭の当日も、雫はハルに冷淡な態度を取った。彼女はあさ子から「最近、ハルくんに冷たい気がするんですけど」と指摘され、「ハルに振り回されてる自分がバカらしくなっただけ」と話した。
あさ子に「恋バナですか」と茶化された雫は、「ハルが私といるのは、1人になりたくないだけ」と冷ややかな態度で告げる。あさ子が「1人が嫌なのなんて、当たり前です」と言うと、彼女は「夏目さんには関係ない」と拒絶した。あさ子が落ち込んでいると、遊びに来ていた満善が気付いて話し掛ける。事情を知った満善は、彼女に優しい言葉を掛けた。迷子になったヤマケンと遭遇した雫は、ハルとの最近の関係を問われて「あんまり喋ってない」と答える。「なんで」と訊かれた彼女は、「ハルといると苦しい。勉強にも集中できない」と言う。するとヤマケンは、「期待してるからだよ」と述べた。
ヤマケンが「アンタはハルに期待してる。でも相手の期待には応えない。酷だねえ。そのくせ、今は寂しい」と語と、雫は「今までも1人だったけど、寂しいなんて感じたことない」と言う。ヤマケンが「寂しいなんてのは、相手がいるから感じることだよ」と述べると雫は納得し、「凄いね、ヤマケンくんは。貴方といると、頭の中がスッキリする」と口にした。2人が話す様子を目にしたハルは、嫉妬心を露骨に示した。千づるから雫への気持ちを問われた彼は、大好きだと答えた。雫はあさ子の元へ行き、素直に謝罪した。
その夜、ハルはフォークダンスで千づると踊るが、雫のことばかり気にしていた。ヤマケンが雫と話す様子を見たハルは、我慢できなくなって彼の後を追った。「お前、雫に惚れてんのか」と問われたヤマケンは、「だったら文句あるか?」と告げて立ち去った。クリスマス、あさ子はバッティングセンターにいる時、満善に「いい恋愛は人間を丸くしてくれる」と言われて「じゃあ私も、みっちゃんさんと丸くなれますか」と口にした。彼女は慌てて立ち去り、雫に満善への恋心を明かした。
ハルはササヤンから、雫の誕生日がバレンタインデーであること、家族水入らずで過ごすことを聞かされた。バレンタインデーの当日、千づるはハルを呼び出して本命チョコを渡そうとする。しかしハルは彼女に、雫の誕生日プレゼントのことで相談を持ち掛けた。千づるはチョコを渡さず、雫が喜ぶ顔を想像すればいいのだと助言した。満善はあさ子に、「俺のことは諦めてくれる?気持ちは嬉しいんだけどね。俺が優しいのは正面から向き合う気が無いからだよ」と言われる。あさ子は「本当に好きなんです」と気持ちをぶつけるが、彼は「俺の中に、夏目ちゃんの席は無いよ」と静かに告げた。
雫は自分で誕生日ケーキを作り、父と弟の3人でパーティーを開く。ハルは彼女の部屋に忍び込んでプレゼントを置こうと考えていたが、失敗して見つかってしまった。仕方なく彼は笑顔で雫の誕生日を祝福し、万年筆をプレゼントした。隆司からパーティーに招かれたハルは、雫の母が仕事で来ていないことを知る。パーティーの後、彼は雫に携帯を渡して母に連絡するよう持ち掛けた。雫はハルのコートを掴みながら、母に電話した。母と話した雫はハルに感謝し、立ち去ろうとする彼を呼び止めて「ハルが好き」と告白した。
2年生に進級した雫は、ハルと交際するようになっていた。彼女はハルとキスするが、地学教師の男鹿が来たので慌てて離れた。男鹿がハルに「進学しないんだって?」と尋ねたので、雫は驚いた。ハルは大学に行かず、マグロ漁船で働こうと考えていた。雫は満善に「ハルの両親は知っているんでしょうか」と尋ね、「親が離婚して父方の吉田家に引き取られたんだけど、色々あって飛び出して、ウチで暮らすようになった」と聞かされる。ハルは優山から誕生日会に出席してほしいと誘われ、「絶対に行かねえ」と拒絶する。しかし優山が「俺にとって大事な日なんだ」と頭を下げるのを見た雫は、ハルに出席するよう促した。「良かったら雫ちゃんもおいでよ」と優山は雫も誘い、ハルは「これで最後だ。これ以上、俺の世界を壊すな」と優山に告げた。
誕生日会の当日、優山は父の泰造から「後継者はハルに任せようと思う」と言われる。優山は動揺するが、「承知しました」と口にした。盛装で誕生日会に出席した雫は、ハルの父親が大物政治家だと知って驚いた。雫は優山から、泰造が本腰を入れてハルを家へ呼び戻し、後を継がせようと考えていることを聞かされる。幼少期、優山はハルに「お前の居場所を作るから」と約束した。しかし父の関心がハルだけに向けられることに嫉妬し、優山は彼を批判して追い出してしまったのだった…。

監督は月川翔、原作は ろびこ『となりの怪物くん』(講談社『KCデザート』刊)、脚本は金子ありさ、製作は市川南、共同製作は村田嘉邦&吉羽治&弓矢政法&山本浩&渡辺章仁&水野道訓&荒波修&吉川英作、エグゼクティブ・プロデューサーは山内章弘、企画・プロデュースは臼井央&春名慶、プロデューサーは神戸明&馬場千晃、プロダクション統括は佐藤毅、ラインプロデューサーは阿久根裕行、撮影は鍋島淳裕、照明は かげつよし、録音は久野貴司、美術は古積弘二、編集は瀧田隆一、音楽は林ゆうき、音楽プロデューサーは北原京子、主題歌『アイラブユー』は西野カナ。
出演は菅田将暉、土屋太鳳、速水もこみち、佐野史郎、古川雄輝、山田裕貴、池田エライザ、浜辺美波、佐野岳、入山法子、志賀廣太郎、西田尚美、田口トモロヲ、東野太一、三船はな、斎藤龍音、城桧吏、三村和敬、中田圭祐、田村杏太郎、菅谷哲也、中山龍也、中野力樹、眞弓葉詩、大野将輝、寶珠山駿、竹中凌平、清水啓太朗、外山将平、牛嶋裕太、東野竜也、落合真一、洲脇温揮、福永朱梨、山本月乃、宮野恵衣、佐藤あかり、小川笹乃、さいとうなり、谷岸玲那、松下恵里香、岩瀬沙和子、都丸紗也華、吉満寛人、木村和恵、藤井宏之、小林元樹、石川孝男、LYDE、松岡音々、佐野真彩、秀島史香ら。


『デザート』で連載されていたろびこの同名少女漫画を元にした作品。
監督は『君と100回目の恋』『君の膵臓をたべたい』の月川翔。
脚本は『高台家の人々』『ボクの妻と結婚してください。』の金子ありさ。
ハルを菅田将暉、雫を土屋太鳳、満善を速水もこみち、泰造を佐野史郎、優山を古川雄輝、ヤマケンを山田裕貴、あさ子を池田エライザ、千づるを浜辺美波、ササヤンを佐野岳、冴子を入山法子、男鹿を志賀廣太郎、京子を西田尚美、隆司を田口トモロヲが演じている。

まずハッキリ言えるのは、「まるで時間が足りていない」ってことだ。
その問題は導入部から顕著に表れており、雫やハルのキャラ紹介は全く充分とは言えない。
連載漫画なら次回以降に持ち越しても何の問題も無いが、1本の長編映画にした場合は序盤で基本事項を伝えておいた方が賢明だ。
もちろん、後から少しずつ情報が出てくる形にしても、それで成立することはある。しかし本作品の場合、少なくとも雫のキャラ紹介は、序盤で片付けておく必要がある。それが出来ているのかというと、答えはノーだ。
冒頭のモノローグで「勉強が全て。恋も友情も要らない」と語っており、ハルに対して冷たかったりササヤンを知らなかったりという描写もある。しかし、それで充分なのかというと、そんなことは全く無いわけで。

根本的な問題として、序盤のハルが魅力的な奴に見えないってことがある。
「荒っぽくて自己中心的けど何となく憎めない奴」じゃないと、「ヒロインが恋する相手」としては不適任だろう。でも、そんな風に好意的に解釈できる男とは到底言えない。
それでも「その頃は雫も嫌っていたけど、そういうハルのイメージが間違いだったと気付いて惹かれるようになっていく」という流れがあるなら、それでもいい。でも、ハルが単なる自己中な奴にしか見えない頃から、雫は惚れているのよね。
それでも菅田将暉の演技により、しばらく時間が経過すると可愛げが見えてくるようになる。だけど、それは全て菅田将暉のおかげであって、キャラ造形や演出の貢献度は低い。

「入学式の時の回想」で、ハルは校舎の2階か3階から車の屋根に飛び降りる。思い切り激突しているが、それでも彼は怪我一つ負わずに ピンピンしている。すぐさま彼は苛めていた連中に殴り掛かるのだが、パンチを受けた奴は激しく吹き飛んで場面にバウンドし、さらに遠くへ飛ばされる。
その動きの全てが、大きく現実離れしている。ほぼファンタジーのような世界になっているのだ。
これだとハルが本当の意味で「怪物」になっちゃうわけで、それじゃダメでしょ。
ハルがミュータントやアンドロイドという設定ならともかく違うんだから、そこでファンタジー色が濃くなり過ぎるのはマズいでしょ。

わざわざ説明するまでもないだろうけど、あくまでも怪物ってのは比喩なわけで。
そりゃあ原作は少女漫画だし、「そんなの現実には有り得ないでしょ」という展開があっても別にいい。でも、アクションとしての非現実感が大きすぎるのは、越えちゃいけない一線を完全に越えている。
バッティングセンターで3人組を追い払う時も、片手だけで1人を軽々と持ち上げる怪力を披露しているけど、そういうのは全く要らない。
漫画版だと問題なく成立したかもしれないけど、映画だと邪魔なノイズになる。

時間が足りないから全てを駆け足で進めなきゃいけないなっており、おのずと登場人物の言動は不自然さの連続になっている。
例えば雫は、バッティングセンターでマーボたちの言葉を聞いた時、すぐに彼らの元へ行ってハルとの誠実な付き合いを要求する。
でも、彼女は勉強が全てで、友情なんて要らないと思っていた人間のはずだ。そんな奴が、ハルと出会った2日後に、まだ彼のことも良く知らない状態で、そんなお節介な行動に出るだろうか。
そんなことをすれば余計な面倒が起きることは確実であり、雫なら絶対に避けたがる事態のはずだ。
その行動は不可解だし、展開としてはあまりにも強引だ。

彼女がハルを優しく抱き締め、「大丈夫だよ。今にハルの周りは、たくさん人が溢れるから」と声を掛けるのも、不自然でしかない。
その時点で雫がハルに惚れているなら、もちろん違和感など抱かないだろう。しかし、彼女はハルの涙を見たり様子を見たりして、同情心を抱いた程度のはずだ。
だから優しい気持ちになるのは分かるけど、頭を撫でたり抱き締めたりするのは違うでしょ。
そんな大胆な行動を取れるようなキャラを、そこまでの彼女には全く感じなかったぞ。

鶏飼育委員会が発足された会議のシーンで、あさ子が満善に「ハルの従兄さん」と呼び掛けている。ここで初めて、満善がハルの従兄であることが分かる。
それは観客だけでなく、雫だって当初は知らなかった情報のはずだ。それなのに、彼女は全くの無反応だ。
そんな処理にしてしまうぐらいなら、もう最初に出会った時点で満善が雫に「ハルの従兄」と自己紹介する形にしてしまった方がいい。
っていうかさ、会議のシーンまで、満善がハルの従兄ってのを説明せずに引っ張る意味なんて何も無いでしょ。

その鶏飼育委員会が発足された時、雫が当たり前のように参加しているのは、大いに違和感がある。
勉強が全てであり、しかも中間試験で2位に甘んじたわけだから、ますます頑張らなきゃいけない状況のはずで。それなのに、なんで普通に参加しているのか。
会議には参加せずに部屋にある机で勉強しているけど、そこにいる時点で仲間になっているのと同じだからね。ホントに参加したくないのなら、そこに同席しているわけがないんだから。
マーボたちが簡単にハルと和解し、ホントの意味での仲間になるのも拙速。

雫はハルから勉強ばかりしている理由を問われて詳細を語り、「こんなこと話すのは初めて。なんでハルには話せたんだろう」と心で呟く。
もちろん、「ハルにだけ話せたのは、彼が特別な存在だから」ってのは分かる。
それは分かるけど、「雫にとってハルが特別な存在で、誰にも話していないことも彼になら平気で話せてしまう」というトコに説得力があるのかと問われたら答えはノーだ。
段取りとしては理解できるが、それを納得させる状態には至っていない。

っていうか、そもそも「雫が勉強ばかりしている理由」の説明が、良く分からないんだよね。
彼女は「花火大会に行く約束を母が仕事でドタキャンした。期待して裏切られるのが怖くなったから勉強に没頭するようになった」と語るんだけど、ちょっと何言ってんのか良く分かんないわ。
まず「花火大会に行けなかったから、期待して裏切られるのが怖くなった」ってトコがピンと来ない。それを納得させるためには、簡単なモノローグと短い補足映像だけでは無理だわ。それなりに尺を取ったドラマが必要だわ。
「だから勉強ばかりするようになった」ってのも、何が「だから」なのか、その方程式が全く分からんわ。

夏休みに入る直前、体育館で千づるがハルに見とれている様子が描かれる。この短いシーンだけで、彼女がハルに惚れたことは伝わる。
ただ、それまでに千づるは全く登場していないし、その後も夏休みはパッタリと出て来なくなる。そのため、「千づるがハルに惚れた」という部分が「点」で終わってしまい、線として繋がらない。
学園祭の準備をするシーンでハルと千づるが再び絡むけど、ここも単発で終わる。夏休みに入ってからのシーンで「あさ子が満善に惚れた」ってことを示すシーンがあるが、これも同じだ。
何の流れもなく唐突に「誰かが誰かに惹かれました」という手順だけを用意し、そこからストーリーの流れを作るための作業も無い。

学園祭のシーンで、雫はあさ子に冷たい態度を取る。それをあさ子は「喧嘩した」と表現しているけど、喧嘩じゃないよね。雫は冷淡な態度を取っているけど、あくまでも一方的な拒絶であって。
それと、もちろん「不和から仲直り」という手順はあるんだけど、そこの流れが全くスムーズとは言えないんだよね。
雫はヤマケンと話した直後にあさ子の元へ行って謝罪するんだけど、どういう風の吹き回しか良く分からない。ヤマケンはあさ子との喧嘩に対して何か助言したわけじゃなくて、ハルへの気持ちについて「こういう理由だ」と指摘しただけだ。
そこから雫がハルへの接し方を変える展開に移るなら分かるんだけど、あさ子のトコへ行って謝罪するなら、そこへ向けた流れを感じさせるモノが欲しいんだよな。

その夜のフォークダンスを眺めているシーンで、あさ子は隣に座る満善を見て頬を緩ませている。もちろん、これが惚れていることを示す描写であることは言うまでもない。
しかし、とにかく話の流れってモノが無くて、「たまに軽く触れておく」ということの繰り返しなのだ。
ドラマとしての厚みが皆無なので、あさ子が満善に失恋しても全く心に響くモノが無い。
「千づるがハルの雫に対する気持ちを知って諦める」というシーンも、「そんなに簡単に片付けちゃうのかよ」と言いたくなる。そこへ向けて「千づるの切ない片想い」に感情移入させる作業が全く足りていないので、「いっそのこと全カットでもいいんじゃないか」と思ってしまう。

後半、優山の誕生日会からハルは抜け出し、雫と口論になって姿を消す。誕生日会に出席していたヤマケンは、雫に告白する。ハルは姿を見せないまま、雫は高校3年生になる。
いちいち1つ1つ解説するのが面倒だが、全ては「慌ただしい」の一言で表現できる。典型的な段取り芝居であり、ドラマとしての中身が空っぽなのだ。
少しだけ掘り下げておくと、「ハルが雫に何も言わないまま高校の卒業式まで姿を消している」ってのは、単純に男としてクズだと思うぞ。それなのに、最後は何の反省も無くハルが戻り、雫と結婚してハッピーエンドという形になっているので、「それを誰が素直に祝福できるんだよ」と呆れるわ。
あと、書き忘れていたけど、西野カナの歌を何度も流す演出は完全に失敗。西野カナに罪は無いけど、歌が流れる度に「邪魔」と感じるわ。

(観賞日:2019年10月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会