『富江 re−birth』:2001、日本
木股英雄は絵を描いている途中、モデルをしていた富江を殺害した。遊びに来た友人の青山巧と細田俊一は、英雄と共に富江の死体を森の中に埋めた。だが、翌日、合コンに参加した彼らの前に、富江が現れる。直後、英雄はトイレで自殺した。
死体を確認しようと森に出向いた俊一は、そこで富江に声を掛けられ、彼女を殺害した。だが、富江は俊一の家に現れ、そのまま家に居座った。俊一は富江に魅入られるが、彼の母・朋子は恐怖を抱く。朋子は富江を殺害し、俊一と共に死体を処理した。
巧は恋人の北村ひとみと同棲していたが、ある時、彼女の様子がおかしくなった。ひとみを見た俊一は、「彼女はひとみじゃない」と口にする。ひとみは富江の口紅を使ったことで、富江に乗り移られたのだ。巧は何とかひとみを助けようとするのだが…。監督は清水崇、原作は伊藤潤二、脚本は藤岡美暢、製作は土川勉&石井徹、企画は武内健&岡田真、プロデューサーは清水俊&尾西要一郎&東康彦、協力プロデューサーは相原英雄、撮影は志賀葉一、編集は宮島竜治、録音は武市英生、照明は赤津淳一、美術は大庭勇人、特殊メイクはピエール須田、ヴィジュアル・エフェクトは小林謙一、音楽はゲイリー芦屋。
出演は酒井美紀、妻夫木聡、遠藤久美子、黄川田将也、忍成修吾、中島ゆたか、邑野未亜、蜂巣友里、諏訪太朗、冬雁子、大塚良重、安田暁、平井賢治、薗博之、東條進、原ひとみ、伊藤雅子、日下慎、伊藤絵美、伊藤俊輔、斉藤麻衣子、鞍馬寛明、中尾聖代、大内正樹、平岩紙、雑賀克郎、並木理恵、神原直美ら。
伊藤潤二の漫画を基にしたシリーズ第3弾。ただし、このシリーズは富江という女性キャラクターが登場するという部分だけは共通しているが、演じる女優は毎回違うし、話の繋がりも無い。富江を酒井美紀、巧を妻夫木聡、ひとみを遠藤久美子が演じている。
酒井美紀が富江を演じるというキャスティングの時点で、この映画が失敗することは、ほぼ決まってしまったと言っても過言ではない。富江というのは、男達を全て虜にしてしまうようなキャラクターという設定だが、酒井美紀には、そういう匂いが全く無い。
酒井美紀という人は、可愛い女優ではあるが、魔性は感じない。富江には男を魅了するフェロモンが必要なのだが、彼女にはそういう雰囲気が微塵も感じられない。富江を演じるには、もっとエロティックな魅力のある、妖艶な女優の方がいいと思う。巧と俊一、英雄という3人の男達の行動が、良く分からない。英雄は最初に富江を殺すのだが、それが「独占欲から殺した」のではなく、うっとおしいから殺したように見える。だが、合コンで「富江は俺の女だ」と言っているのだから、やはり独占欲なのだろう。しかし、そうなると、死体を巧と俊一と一緒に埋めた行動が解せない。
俊一が富江を殺した後で彼女と付き合い始めるのが、良く分からない。合コンで知り合った時点で魅了されて、付き合い始めればいいと思うが。また、マザコンのはずが母に冷たくしたり、かと思うとベタベタしたり、一方で富江に魅了されているはずが、積極的に富江の死体処理を手伝ったりと、態度がコロコロと変わるのも解せない。巧が話の中心に位置していなければならないはずだが、しかし彼と富江の距離は、なかなか近付かない。俊一と母親と富江の関係は、それはそれで面白いのかもしれないが、そのドラマが展開されている間、巧は完全に脇に追いやられている。俊一の家で何が起きていようとも、それを巧は全く知らないわけだから。
せっかく早い段階で巧の母や妹を登場させているのだから、そこと富江を絡ませた方がいいのではないか。特に妹に関しては、上京して巧の家に居候してから帰郷するまでに、富江とは全く関わりを持たないのだから、何のために上京したのか分からない。で、しばらくの間、巧は「他の女との浮気を疑われて、ひとみとケンカになる」という、恐怖とは何の関係も無いドラマを担当している。ひとみが富江に乗り移られて、ようやく恐怖の根源が巧に近付くが、「ひとみが富江に乗り移られる」という表現が分かりにくい。
しかも、その「ひとみが富江に乗り移られる」という部分が、恐怖には全く結び付いていない。そのことによる、ひとみの不安もまるで伝わってこないし、恋人の異変に対する巧の感情も表現されていない。富江に乗り移られることを考えると、ひとみを遠藤久美子が演じているというキャスティングにも問題があるかもしれない。巧が俊一から、「お前は富江に会いたかったんだろう」と言われて、やけに動揺するのは理解できない。それまでの流れの中で、巧が富江に魅了された様子は全く無かったのだから。ただ、富江のキャラ設定からすれば、魅了されて然るべきなのだろうが。
怖いか怖くないかという以前に(まあ全く怖くないのだが)、どうにも話がボンヤリしていて、良く分からない。アイデンティティーに関して概念的なことを言う暇があったら、もっと怖がらせてほしい。もしくは開き直ってホラー・コメディーにしてほしい。