『TOKYO TRIBE』:2014、日本

近未来のトーキョー、夜のブクロ。ヨンという少年は、弟分に「大人になったら、この街を夢のある街にしたいんだ。それまで頑張るよ」と告げる。MC SHOWは老人から、「今夜も何かありそうだな」と言われる。正義感溢れる女性の新米警官はベテラン警官の警視を無視し、街に出て行く。薬を売っているブクロWU-RONZのメラを見つけた彼女は、警察署へ連行しようとする。しかしメラはナイフを突き付けて彼女の服を脱がし、ベテラン警官は「異常無し」と本部に連絡した。
ブクロはWU-RONZが仕切っているが、それぞれの地区では別のトライブが存在する。シヴヤはシヴヤSARU、シンヂュクは三代目の巌が引き継いだばかりのシンヂュクHANDS、歌舞伎町はGIRAGIRA GIRLS、練馬は練マザファッカーというトライブの縄張りだ。互いに戦争をしており、それぞれの縄張りに入れば殺すというのがトーキョートライブの掟だ。しかしムサシノを縄張りとするムサシノSARUだけは、平和を信条としていた。リーダーのテラやメンバーの海、キム、ハシームといった面々は、楽しく平穏な日々を過ごしていた。
ブクロではブッパの指示を受けた男たちが次々に女をナンパし、車に連れ込んでいた。眠り込んでいるスンミを見つけた彼らは、車に運び込んだ。その様子を見たヨンは、車に乗り込んだ。目を覚ましたスンミはヨンから、「アンタ、ヤバいよ。これからブッパタウンに行く。東京を牛耳るブッパの街だ」と教えられた。ブッパは妻のエレンディア、息子のンコイ、娘のKESHAという家族と暮らし、多くの手下を率いている。ブッパが多くの政治家を招いている食堂へ、スンミたちは案内された。その場にはメラとンコイも同席している。
ンコイはスンミに目を付け、「僕の部屋の家具にしたい」と言う。手下たちが捕まえようとすると、スンミは格闘技で叩きのめす。ブッパはソンミの腹に蹴りを入れ、自分が営む売春クラブ「SAGA TOWN」で働かせることにした。彼はヨンを見つけ、連れ出すよう手下たちに命じた。ヨンは手下たちを蹴散らし、その場から逃亡した。メラはムサシノSARUに仕掛けた理由をブッパから訊かれ、海への憎しみを語る。ンコイは好奇心を示し、参加することにした。ブッパが刀を用意すると、メラは試し斬りで政治家たちを殺害した。
SAGA TOWNに連れ込まれたスンミは、手下たちの前で「私が誰だか知ってるの?とても偉い人の娘さんなのよ」と言いながら挑発的に服を脱いだ。スンミが手下たちを叩きのめしたところへ、メラとンコイがやって来た。スンミはンコイを圧倒するが、メラに捕まった。メラの手下である西田はムサシノタウンに潜入し、ムサシノSARUの溜まり場であるファミリーレストラン「ペニーズ」へ赴いた。彼はキムとハシームに接触し、SAGA TOWNの魅力を説明して誘惑した。
ヨンは敵の用心棒を蹴散らし、ンコイがSAGA TOWNへ行ったことを聞き出した。ブッパタウンを飛び出したヨンは、追われる身となった。地震が発生するが、すぐに止んだ。ペニーズではテラや海たちがウェイトレス・のりちゃんも交え、楽しくお喋りする。ハシームがトイレに入っている間に、西田はキムを連れて店を出た。のりちゃんは西田が残した「ブクロで待ってるぞ ムサシノども」というメモを見つけ、テラに渡した。すぐにテラがブクロへ向かうと、海とハシームが後を追った。
キムはSAGA TOWNに案内され、メラやンコイたちに捕まった。しかしメラの狙いはキムではなく、仲間を追って来る連中にあった。店に乗り込んだテラたちは、キムを奪還しようとして戦う。しかしキムは手榴弾を口に放り込まれて爆死し、テラはメラに腹を刺されて死んだ。戦いに乗じてヨンがスンミを助けに来ると、ンコイは平然と見送った。激昂する海を見たメラは笑い、店を飛び出して逃走した。海は襲って来るブクロWU-RONZの連中を倒し、メラを追い掛けた。
殺し屋のジャダキンスと通訳の亀吉がプッパタウンを訪れ、大司祭からメッセージを預かっていることをブッパに告げる。大司祭の姿が映像として浮かび上がると、ブッパと手下たちは頭を下げた。大司祭は娘のエリカがウォンコンから疾走して東京へ行ったことを明かし、見つけ出すようブッパに命じた。大雨が降り出す中、ムサシノに戻ろうとしていた海はスンミ&ヨンと遭遇する。連れて行ってほしいと頼まれた海は、それを承諾した。
ブッパはメラに電話を掛け、子飼いの集団であるシヴヤWARUを動かしてトーキョートライブを制圧しろと命じた。報告を受けたシンヂュクHANDSとGIRAGIRA GIRLSは、手を組んで戦うことにした。海はハシームが運んで来たテラの死体を見て、ショックを受ける。遺体を運んでムサシノへ向かっているとシヴヤWARUの連中が襲って来るが、スンミとヨンが蹴散らした。海はペニーズの仲間に電話を入れ、聞いたことの無いシヴヤWARUという連中が動き出したので気を付けろと警告した。
海たちがペニーズに向かっていると、シンヂュクHANDSとGIRAGIRA GIRLSが声を掛けて来た。シヴヤWARUを動かしているのかと問われた海は、自分も知らないこと、テラが殺されたことを話した。そこへジャダキンスと亀吉が現れ、エリカの手配書を撒いた。シンヂュクHANDSとGIRAGIRA GIRLSが戦いを仕掛けるが、ジャダキンスたちの力に圧倒される。手配書の写真を見た海やハシームたちは、それがスンミだと気付いた。海はスンミが危険だと察知し、ペニーズに行くよう指示した…。

監督・脚本は園子温、原作は井上三太『TOKYO TRIBE2』(祥伝社刊)、製作は小口文子&由里敬三、エグゼクティブプロデューサーは小口欽也&田中正、プロデューサーは千葉善紀&飯塚信弘、アソシエイトプロデューサーは小室直子、撮影は相馬大輔、美術は林田裕至、照明は佐藤浩太、録音は渡辺真司、編集は伊藤潤一、アクション監督は匠馬敏郎、協力プロデューサーは増田真一郎、音楽はBCDMG、主題歌「HOPE-TOKYO TRIBE ANTHEM-」YOUNG DAIS(N.C.B.B) SIMON Y'S & AI。
出演は鈴木亮平、YOUNG DAIS、竹内力、窪塚洋介、佐藤隆太、染谷将太、でんでん、叶美香、中川翔子、清野菜名、大東駿介、石田卓也、市川由衣、ベルナール・アッカ、丞威、松浦新、石井勇気(パンダユナイテッド)、坂口茉琴、佐々木心音、中野英雄、大方斐紗子、山本亨、城明男、山口祥行、北村昭博、高山善廣、深水元基、片山瞳、屋敷紘子、矢吹春奈、サイボーグかおり、三田真央、横山美雪、間慎太郎、舘形比呂一、泉澤祐希、Stephanie、井上三太ら。


井上三太の漫画『TOKYO TRIBE2』を基にした作品。
原作には『TOKYO TRIBE』という1作目があり、『TOKYO TRIBE2』は続編に当たる。
監督&脚本は『希望の国』『地獄でなぜ悪い』の園子温。
メラを鈴木亮平、海をラッパーのYOUNG DAIS、ブッパを竹内力、ンコイを窪塚洋介、テラを佐藤隆太、SHOWを染谷将太、大司祭をでんでん、エレンディアを叶美香、KESHAを中川翔子、スンミを清野菜名、巌を大東駿介、キムを石田卓也、のりちゃんを市川由衣、ジャダキンスをベルナール・アッカ、亀吉を丞威、スカンクを松浦新、ハシームを石井勇気(パンダユナイテッド)、ヨンを坂口茉琴、新米警官を佐々木心音、ベテラン警官を中野英雄が演じている。
原作者の井上三太が、眼帯のレンコン・シェフ役で出演している。

映画評論家の町山智浩氏が園子温監督のことを「鈴木則文の魂を受け継いでいる男」と評し、この映画を絶賛していたらしい。
町山さんは映画の知識も評論家としての経験も豊富だし、どうやら「デタラメな映画を作る人」という意味でソクブンさんを例に挙げたようだから、そこは否定しない。
ロボットレストランとギラギラガールズをトライブの1つとして登場させるとか、ブッパの家にサイボーグかおりを登場させるとか、奥さん役で叶美香を起用するとか、その辺りのセンスは、確かに鈴木則文テイストを感じさせるモノがある。

ただし、少なくとも本作品に関しては、鈴木則文監督とは大きく異なる点がある。
鈴木則文はサービス精神が旺盛で、1つの映画に3本分や4本分の内容を盛り込もうとする傾向のある人だった。そのせいでバタバタしてしまったり、まとまりが無くなったりすることも少なくなかったが、とにかく中身はテンコ盛りにしたがる監督だった。
しかし本作品は、中身がスッカラカンなのだ。色んなことを盛り込もうとして全てが薄っぺらくなっているのではなく、用意されているエピソードの分量がスッカスカなのだ。
映画の大半は「紹介」と「説明」のための時間でしかない。
この映画のボリュームを考えると、鈴木則文監督だったら15分ぐらいで収めてしまうんじゃないか。

この映画が公開された時、「日本初のラップ・ミュージカル」ってのが1つの売りになっていた。多くの登場人物が、台詞の一部をラップで喋るという形を採用している。
園子温は「普通に演出しても面白くならないだろう」と考えて、そういう異色の演出を持ち込んだのかもしれない。
なるほど、この映画の持つ「デタラメな雰囲気」には、普通に台詞を喋らせるより、ラップ・ミュージカルという形式の方がマッチするかもしれない。
ただし、それが映画の面白味に繋がっているのかというと、残念ながら答えはノーだ。

ヒップホップに造詣が深いわけではないが、ラップと一言で言っても色んな種類があることぐらいは分かる。
ただ、この映画で使われるラップは、あくまでも「台詞をラップに乗せて喋る」という制約が課せられたモノだ。一応は話の内容や登場人物に合わせなきゃいけないという条件があるわけで、自由度は著しく低い。
ラップには「韻を踏むべし」という基本的な縛りがあるが、それは歌詞を面白くするための縛りだ。
しかし「台詞としてのラップ」ってのは、面白さに繋がる縛りではない。

ミュージカル映画における歌曲ってのは、ドラマを進展させたり、心情を表現したりするために使われることが多い。
しかし、少なくとも本作品で用いられるラップは全て、「自己紹介」や「状況説明」のためのモノでしかないのよね。
だから、ミュージカル映画における歌曲とは違って、ストーリーを進展させるための道具としては使えないのよ。
これって実は大きなマイナスになっていて、つまりラップの部分ってのは極端に言えば「単にラップをしているだけ」であって、それをバッサリ削っても全く支障が無いってことなのだ。

もちろん、支障が無いとは言っても、飾り付けとして魅力的であれば、その「無駄」は大いに歓迎する。ミュージカル映画の歌曲だって、極端に言ってしまえば無駄な時間だからね。
しかし残念なことに、ラップの部分に魅力が乏しい。
だから、「全て削ればスッキリするし、それだけでも随分と上映時間を減らすことが出来るのに」と思ってしまう。
この内容の薄さで116分という上映時間になっている一番の原因は、ラップの部分が多いことにあるわけで。

まず導入部のラップを染谷将太に任せたのが大失敗。
そんなに酷評するほどドイヒーなわけではないんだけど、上手いとも言えない。あと、声が低すぎるのもあって、何を言っているのか良く聞き取れない。
もう1つの問題として、曲調が挙げられる。あまりテンポが速くない上に、かなり陰気な曲調なのよね。
そこは映画に勢いを付けて、パワーとエナジーで観客を強引に引き込んでしまうような元気のある曲にしておいた方が良かったと思うのよ。
それを考えると、1人じゃなくて複数にラップをさせた方が望ましかったとも思うし。

しかも困ったことに、染谷将太はオープニングだけでなく、なんと「映画の案内役」として何度もラップを披露するのだ。
そういう役割を担当させるなら、そこはラッパーとして活動している人間に任せた方が良かったんじゃないのか。
YOUNG DAISだけでなく、他にもMC漢やMEGA-G、D.Oなど多くのラッパーを起用しているにも関わらず、チョロッとラップをさせるだけに留めておき、一方で門外漢の染谷将太に「ラップを歌う案内役」というポジションを用意するのは、どう考えても得策ではないだろう。
他の役者たちもラップを担当しているけど、その中でも染谷将太って下手な部類に入るぞ。

染谷将太だけでなく、もちろん主演の鈴木亮平を含めた役者の面々もラップを披露する。そんな中に混じって、YOUNG DAISも主要人物の1人としてラップを披露する。
ラップ・ミュージカルなのだから、そこに本物のラッパーを起用するってのは賢明な判断だと言えるだろう。ところが皮肉なことに、本物を起用したことによって、「素人との違い」ってのが如実に見えてしまう結果が待っていたのだ。
もちろん役者の面々も頑張ってはいるんだけど、やはりYOUNG DAISと比較すると全くレベルが違う。
通常のミュージカル映画で下手な歌や踊りを見せられたら、決して満足できないでしょ。それと同じようなことが、この映画におけるラップでも起きている。
YOUNG DAISが役者たちと順番でラップを披露するシーンがあるんだけど、そこでは分かりやすいぐらい差が出ている。

ちなみに、何を喋っているのか聞き取りにくいってのは染谷将太だけでなく、他の面々も同様だった。だから、そこは彼だけの問題ではない。
で、普通であれば、他の面々も聞き取りにくいってのは、もっと大きな問題だと考えるべきだろう。ところが困ったことに、実のところラップで何を喋っているのか聞き取れなくても、まるで支障は無いのである。
「だったら別にいいじゃねえか」と思うかもしれないけど、まるで支障が無いってのは、裏を返せば「まるで必要が無い」ってことなのよ。
ラップによる説明が無くても、それ以外の台詞や映像だけで、充分に事足りるんだよな。

染谷将太のラップが中途半端で途切れた後、新米警官やメラたちが登場するが、粗筋に記したような分かりやすい形になっているわけではない。
実のところ、かなりゴチャゴチャしている。
そのゴチャゴチャは、こっちの鑑賞意欲を失わせるマイナスのパワーを持っている。
メラが新米警官の体を使ってトライブについて語るシーンなんかは、「最初の内に設定を説明する」という意味を持つにも関わらず、やっぱりゴチャゴチャしているのだ。

導入部だけがゴチャゴチャしていて見づらいのかと思ったら、そのまま最後まで持続してしまった。
ひょっとすると東京の持つ猥雑や喧噪といったモノを表現しようとしているのかもしれないけど、それにしても最初から最後までゴチャゴチャしすぎている。
どこかで落ち着いたトコ、スッキリしたトコを用意してくれないと、「映画」を見る気が失せる。
「テンポがいい」ってのは褒め言葉だけど、この映画は慌ただしいだけになっているんだよな。

アクション俳優業を引退した坂口拓が、「匠馬敏郎」の名義でアクション監督を務めている。 パンチラ三昧で戦う清野菜名(ちなみに彼女はパンチラどころか、売春クラブのシーンで惜しげも無くオッパイを見せている)と、実は女の子である坂口茉琴は、坂口拓の教え子だ。
他にもベルナール・アッカ、丞威、竹内力、鈴木亮平といった格闘能力のある面々を揃えていることもあって、格闘アクションシーンはキレや迫力がある。
ただ、ここも「ゴチャゴチャした作り」の影響で、その印象が弱まっている。むしろラップを排除して、アクション映画として作った方が面白くなったんじゃないかと思ったりするんだけどね。

「メラが海に個人的な恨みを抱いている」という要素と、「ブッパがトーキョー・トライブを制圧しようとする」という要素は、まだ何とか融合している。しかし、「スンミが追われる身になる」という要素は、まるで上手く融合していない。
実のところ、スンミは海たちと手を組んで戦うし、メラは海たちを倒そうとしているので、表面的には融合しているように見える。しかし根っこの部分では、バラバラになっている。
その理由は簡単で、前者のストーリーは海が主役なのに対して、「スンミが追われる」という部分では海の必要性がゼロに近いからだ。
こっちだけに限定すれば、完全にスンミが主役であり、っていうか全体として彼女を主役にした方がいいんじゃないかとさえ思うぐらいなのだ。ぶっちゃけ、海って主役としての存在感は希薄だしね。

メラが海に対して強烈な恨みを抱いている理由は、自分よりチンコがデカいと知ったからだ。何もかもナンバー1じゃないと気が済まない彼は、そのことで海を憎むようになったのだ。
そのことが終盤に入って分かるのだが、バカバカしい話とは言え、あれだけ多くの犠牲者を出した理由が「チンコのデカさに嫉妬した」ってのは、脱力感しか無い。
最後の最後にメラが海のチンコを見た時の回想シーンを用意しているってことは、どうやら「オチ」のつもりなんだろう。
だけど、これっぽっちも笑えないからね。

(観賞日:2016年1月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会