『特命係長 只野仁 最後の劇場版』:2008、日本

只野仁は大手広告代理店・電王堂総務二課の窓際係長だ。しかし、それは表の顔に過ぎない。彼には、黒川会長直属の特命係長として様々 なトラブルを解決するという、もう一つの顔があった。そんな只野は課長の佐川和男や女子社員の山吹一恵たちに頼まれ、宝くじを購入 した。彼が会社に戻ると、人気グラビアアイドルのシルビアがマネージャーの加藤エミや所属事務所の吉川社長と共に来ていた。電王堂の 手掛ける激生ビールのCM制作発表が行われるのだ。
シルビアのファンである只野は声を掛けようとするが、彼女を迎えに来た営業一部の坂上に突き飛ばされた。ジャパンテレビのキャスター ・新水真由子の司会でCM制作発表が始まり、シルビアがCMキャラクターを務めることが発表された。営業一部がシルビアを抑えたこと に、営業二部の社員たちは妬みを口にした。そこへ営業二部部長・村川秀行が現れ、「いつまで続くかな」と呟いた。
写真撮影の最中、ボルトが外れて舞台装置が崩れ、シルビアが下敷きになりそうになった。只野は飛び込んでシルビアを救出し、彼女さえ 気付かぬ内に舞台から去った。食堂で昼食を取ろうとした彼に、メールボーイの森脇幸一が特命の知らせを届けた。会長室に出向いた只野 は、シルビアの事務所に届いた脅迫状を黒川から見せられる。差出人は暗黒王子と名乗っていた。
事務所はイメージ低下を危惧し、警察に届けることを避けた。黒川にも、警察沙汰にすることを避けたい理由があった。電王堂の社運を 懸けた世界最大のエコイベント“フラワー・アース・フェスタ2008”が、間近に迫っていた。そのメインキャラクターはシルビアだ。黒川 としては、そのイベントが終わるまで彼女のイメージを傷付けるわけにはいかないと考えていた。彼は只野に、「電王堂の新しい担当者と して事務所に入り込めるように手配しておいた。彼女を狙う奴を突き止めろ」と命じた。
フラワー・アース・フェスタに関する会議が開かれ、責任者である電王堂大阪支社の山西裕一は黒川や役員の前で説明を行った。黒川は 経理担当常務の安西虎彦に、「総額80億のプロジェクトだ、しっかり頼むぞ」と声を掛けた。一方、只野はシルビアの事務所に赴き、エミ に挨拶した。彼はエミに言われ、シルビアが参加するプライベート・パーティーに会場に同行した。
パーティー会場では、複数の男がシルビアを口説いていた。只野はエミから見張りを頼まれるが、目を離した隙にシルビアが会場から姿を 消した。彼は三流役者の恋人と共に、運転手・須藤英輔の車で会場を脱出していた。シルビアは「ヘラヘラしてると疲れる」と不快そうに 言い、須藤を「ロボットみたいな奴」と扱き下ろした。その車を、森脇の軽トラックが尾行していた。
シルビアと恋人はマンションに入り、情事にふけった。森脇が張り込んでいると、只野が合流した。すぐに只野は、不審なバンに気付いた。 それは写真週刊誌の車だった。エミからシルビアに、「写真週刊誌がいるから、そこから出ないで」という電話が入った。恋人は、売名の ために自分が呼んだことを笑いながら明かした。只野が森脇と共にバンへ近付こうとすると、山西が現れた。彼は顔見知りだった週刊誌の カメラマンに「今回は大目に見てくれへんか」と頼み、帰ってもらった。
森脇のリサーチによって、CM制作発表の前に村川が会場にいたことが判明した。村川はシルビアが起用されたライバル企業のCMを担当 して失敗し、会社から冷や飯を食わされている。そのため、シルビアを恨んでいる可能性は高いという。只野は森脇に、村川から目を 離すなと指示した。只野はシルビアに同行し、テレビのスタジオに赴いた。只野には生意気な態度を取っていたシルビアだが、坂上が安西 を連れてメイク室に現われると、途端に愛想の良い態度に変貌した。
一人で楽屋に入ったシルビアは、何者かに睡眠薬を嗅がされ、連れ去られた。只野の元に山脇が現れ、村川を尾行していたらスタジオに 着いたことを説明した。シルビアがいなくなったことを知った只野は、スタジオ内を捜し回る。怪しげな清掃員に気付いた彼は、その男を 呼び止めた。すると、男は仮面を付けており、いきなり襲い掛かってきた。用具入れの中には、眠らされたシルビアの姿があった。男は ナイフを投げて只野の命を狙い、その場から逃走した。その動きを見た只野は、村川ではないと確信した。
真由子が只野を電話で呼び出し、シルビアに関する情報を教えた。シルビアはブレイクする前、大阪でチラシのモデルをしていた時期が あった。その下積み時代を、今の事務所は隠している。下積み時代のシルビアは、なにわ芸能という大阪の事務所に所属していた。その 事務所の社長である田中伸介は、ビッグスタープロモーションの吉川社長を恨んでいるらしい。
フラワー・アース・フェスタ2008まで、あと5日となった。再びシルビアの事務所に暗黒王子からの脅迫状が届いた。その文面は、「僕の シルビアちゃんが、さらし物にされるのは耐えられない」という内容だった。シルビアが大阪ロケに行くので注意しろと、只野は黒川から 告げられた。犯人の狙いはシルビアではなく電王堂ではないかと只野は推測しており、黒川も同じ考えだった。黒川は只野に、「今まで 汚れ仕事をやらせてきた山西に、今回のフェスタで一花咲かせてやりたい」と告げた。
シルビアに同行して大阪入りした只野は、山西と共にクラブで吉川を接待した。そこへ英会話学校“タートル”の堀口社長が現われると、 山西は立ち上がって挨拶した。電王堂がタートルのCM制作を担当していたからだ。接待の後、山西は串かつ屋に只野を誘った。彼は、 仕事一筋だったせいで妻が息子を連れて家を出たこと、ようやく許してくれて5年ぶりに戻ってくることを語った。
フェスタまで、あと2日となった。大阪城の前でロケをするシルビアに同行していた只野の元に、真由子からメールが届いた。添付された 写真には、エミと田中がツーショットで写っていた。只野は夜の姿に変身してエミを口説き、ホテルのベッドで関係を持った。そして彼女 から、田中の愛人だったこと、スタジオでは彼の指示でシルビアが一人になる時間を作ったことを聞き出した。エミによると、田中は シルビアを拉致し、吉川を脅して金を巻き上げるつもりだったらしい。エミは、村川のことは何も知らないという。
シルビアが姿を消したため、只野はなにわ芸能事務所に乗り込んだ。しかし田中は、何も知らない様子だった。そこへ須藤から電話が入り 、シルビアがタートルのビルにいることを只野に伝えた。シルビアは堀口に誘われ、ビルを訪れていた。堀口はシークレット・ルームに 彼女を連れ込み、体を奪おうとする。そこに只野が駆け付け、シルビアを救い出した。
軽率な行動を注意する只野に、彼女は「嘘の自分ばかり演じていると、息抜きしたくなる」と漏らした。そこへ素顔のナイフ投げ男が 出現したが、やはり村川ではなかった。男は仲間と共に、シルビアを連れ去った。只野は後を追うが、そこに巨漢の用心棒・チョウが 立ちはだかった。圧倒的な怪力の前で攻撃され、只野は気を失った。そこへ森脇が現れ、只野は意識を取り戻した。戦っている最中、只野 はチョウの口に発信器を放り込んでいた。だが、あまりに距離が離れすぎたため、電波が届かなくなった。
只野は森脇を伴い、なにわ芸能へ向かった。すると、そこに田中の姿は無く、ロッカーからエミの死体が倒れてきた。外に出た只野は村川 の姿を発見して追い掛けるが、見失ってしまう。真由子は電王堂秘書課・坪内紀子の協力を得て、村川の机を調べた。すると引き出しの中 には、シルビアのグッズが大量に入っていた。さらに、暗黒王子と書かれた封筒も見つかった。
真由子は只野に電話を掛け、シルビアのファンだった村川がストーカーになったのではないかという推測を述べた。さらに彼女は、机の 中に3千万円が振り込まれている預金通帳もあったことを伝えた。山西と会っていた只野は、そのことを彼に告げた。振り込まれたのは 12月19日で、相手は日の丸物産という会社だ。山西は「調べてみる」と言い、只野と別れた。
ついにフェスタ当日の朝が訪れた。只野の元に山西から電話が入り、3千万円がを動かした人間が分かりそうだから自宅へ来てくれという。 只野が森脇を連れて向かうと、山西は何者かに指されていた。山西は家族の写真を握りながら、只野の前で息を引き取った。森脇は、山西 の携帯の最後の着信履歴に掛けてみた。すると、そこは福岡のホテルだった。只野は森脇と共に福岡へ飛ぶが、ホテルでは何の手掛かりも 得られなかった。しかし2人は山西の手帳に残されていたパスワードを手掛かりに、犯人を突き止めた…。

監督は植田尚、原作は柳沢きみお、脚本は尾崎将也、企画・プロデュースは東城祐司、プロデューサーは黒田徹也&秋山圭一郎&伊藤達哉 &清水真由美、エグゼクティブプロデューサーは梅澤道彦&桑田潔&関根真吾&石綿智巳、企画は亀山慶二&谷口元一、製作は上松道夫&秋元一孝& 上野哲夫&高田佳夫&松田英夫&水野文英&吉田鏡&喜多埜裕明&瀬川秀利&柘一郎&濱幾太郎&二木清彦、製作統括は早河洋&野田助嗣 &川村龍夫、共同プロデューサーは八木征志、協力プロデューサーは樽井勝弘&山田兼司、撮影は朝香昌男、編集は大畑英亮、録音は 福部博国、照明は白石雄二、美術は村上輝彦、アクションコーディネーターは竹田道弘、音楽は仲西匡、主題歌はDJ OZMA『MASURAO』。
出演は高橋克典、櫻井淳子、永井大、蛯原友里、田山涼成、梅宮辰夫、三浦理恵子、秋山莉奈、西川史子、チェ・ホンマン、赤井英和、 長谷川初範、吹越満、桑名正博、細野佑美子、椎名法子、近江谷太朗、松澤一之、富岡晃一郎、斉藤優、入江雅人、インディ高橋、 デビット伊東、山村紅葉、谷隼人、尾美としのり、原口あきまさ、梅宮アンナ、りりあん、早美あい、小澤マリア、春咲あずみ、 庄司麻衣、藤澤志帆、小野晴子、山岡由実、MISAKIら。


柳沢きみおの同名漫画を基にしたTVドラマ『特命係長・只野仁』は、2003年にテレビ朝日系列の金曜ナイトドラマ枠で全11回に渡って 放送された。
ここで高視聴率を記録し、その後、スペシャル版、2ndシーズン、スペシャル第2弾&第3弾、3rdシーズンが放送された。
2008年2月のスペシャル第4弾では視聴率が20パーセントを超え、いよいよ劇場版ということになったわけだ。
只野を演じる高橋克典の他、紀子役の櫻井淳子、森脇役の永井大、一恵役の蛯原友里、佐川役の田山涼成、真由子役の三浦理恵子、黒川役 の梅宮辰夫などは、TV版のレギュラー陣。
他に、シルビアを秋山莉奈、エミを西川史子、チョウをチェ・ホンマン、山西を赤井英和、安西を長谷川初範、村川を吹越満、田中を 桑名正博、吉川を松澤一之、堀口をデビット伊東が演じている。

パーティーのシーンでは、梅宮アンナがハスラー役でチラッと姿を見せる。これは3rdシーズン第31話に登場した常盤夏希という キャラだ。
また、只野が真由子から「シルビアのことが分かった」と電話で呼び出されるシーンで、たこ焼き屋台の原口あきまさが後ろから声を 掛けようとしているが、これは2ndシーズン第15話に登場した元・システム管理部のニセ只野(平田)というキャラだ。
この2人のカメオ出演は、シリーズをずっと見ていたファンへのサービスだろう。
電王堂の会議のシーンでは谷隼人と尾美としのりが顔を見せるが、それぞれスペシャル第2弾の白井事業局長、1stシーズン第1回の篠崎 と同じ役かどうかは、定かではない。

個人的には、劇場版の製作を知った段階で「これは映画にするような作品じゃないのに。まず間違いなくダメな映画になるだろうなあ」と 予想していたが、その通りになった。
これは深夜枠でやっているからこそ、頭をカラッポにして見ると面白いという作品だったのだ。
視聴率が良かったからと言って、調子に乗って深夜枠を飛び越えたら、そりゃ失敗するに決まってるわな。

まずゲスト出演者が秋山莉奈、西川史子、チェ・ホンマンという段階で「厳しいなあ」と感じる。
この顔触れに、劇場版ならではの豪華さを感じるのは無理だ。
つまり、ゲストの出演者に訴求力は期待できないってことだ。
で、じゃあ話の中身はどうかというと、これが見事なぐらい、TV版と全く一緒。
「だったらテレビのスペシャル版で充分だろ」というツッコミを入れて欲しがっているのかと思うぐらい、そのまんまなのだ。

塩谷は管理者用ページに「Sファイルは存在するのだろうか」などと書いているが、そんなことを管理者用ページに書くかね。
仮に書くとしても、それならSファイルが何なのかという具体的なことを記しそうなものだが。
「3万人のランナーと15万人の観客」という文字を見て、右京は「渡を見殺しにした全国民が標的だ」と言うが、なんか違う気がするぞ。
だって、全国民って、18万人じゃないからね。
東京で開催されるマラソン大会を狙うってことは、田舎でバッシングしていた連中は除外されているってことかい。

チェ・ホンマンを起用したからといって、それでアクションシーンの迫力がグッと増しているわけでもない(そんなことは見る前から 分かり切っていたことだが)。
倉庫らしき場所で悪党を退治して終わりかと思ったら、チョウは復活してプライベート・ジェットにも現われるが、ただの蛇足にしか 感じない。
そこに来て急に彼をコメディー的キャラにするのも上手くない。
007シリーズのジョーズでも意識したのかな。

話は粗い。CMの制作発表の司会を、なぜか局アナの真由子が担当している。
大手広告代理店が総額80億円を費やした世界最大規模のエコイベントで、メインキャラクターにグラビアアイドルを起用している。
東京で行われるイベントなのに、大阪支社の山西が責任者を務めている。
安西は広告代理店の経理担当常務でしかないのに、豪華プライベート・ジェットを保有している。
なぜ2通目の脅迫状の段階で「犯人の狙いはシルビアではなく電王堂ではないか」と只野や黒川が推理するのか、根拠は不明。

シルビアは只野には生意気な態度だが、安西や坂上にはスマイルで対応する。どちらも同じ電王堂の人間なのだが、係長か役員かという差 で態度を変えているということなのか。
堀口はメインのストーリーに全く関わらず、何のために登場したのかサッパリ分からない。ただ単に英会話学校NOVAの猿橋社長の パロディーをやりたかっただけなのか。
なにわ芸能でエミを発見した直後、外に出た只野は村川を発見するが、なぜ彼がそこにいたのか、何をしていたのかは不明。

山西がシルビアのマンション前に現われるのは「どこで情報を知ったんだ?」と感じるし、不自然な行動だったので、何かあるのかと 思ったら、全く裏が無い。
須藤の存在が意味ありげな見せ方になっているので、何か裏があるのか、話に深く関与してくるのかと思ったら、何も無い。
伏線っぽく示された多くのネタが、伏線でも何でもなく、そのまま放置されてしまう。

山西の手帳に残されていたパスワードは「tiger423」で、それを見た山脇が急に「423は誕生日ではないか」と言い出す。で、これが正解 しているのだ。
で、なぜか山脇は、犯人を電王堂の社員に限定して名簿を調べ始める。
そこから只野が経理担当に限定するよう指示し、さらに役員に限定して、犯人が安西だという結論に辿り着く。
なんとも強引極まりない推理である。

このシリーズにとって、強引だったりデタラメだったりというのは、ごく普通に見られることだ。
ただ、その荒っぽさは、深夜枠であれば「大目に見てもいいかな」と思えるものだった。
それが映画になると、ちとキツい。
スケール感を出し、さらにタイムリミットを設定してスリルを煽ろうとしているが、その中で粗い展開をやられると、「もっと丁寧に、 繊細にやってくれ」と思ってしまう。

安西の犯行理由もメチャクチャで、「フェスタを失敗させれば黒川が失脚するから、そうすれば自分がトップになる日が近くなる」という のが動機だ。
だけど、フェスタが失敗しても、黒川が退任するとは限らない。
それに、仮に黒川が失脚しても、すぐに安西がトップに立てるわけじゃないし、次のトップが安西を後継者として考えるかどうかも 分からない。
そもそも、「黒川を失脚させるにはフェスタを失敗させよう、そのためにシルビアを排除しよう」という考え方に無理を感じるし。

黒幕が明らかになった後、エミが登場し、「実は死んでいなかった。彼女はレズビアンで、只野の接触を受けて咄嗟に田中を悪党にする ことを思い付いた。田中を殺した直後に只野と森脇が来たので、殺された芝居をした」ということが明らかにされるが、バカバカしいの 一言だ。
そんなドンデン返し、何の意味も無いから野良犬にでもくれてやれ。
大体、エミがレズビアンで安西の仲間だったのなら、田中とのツーショット写真は何だったのか。
誰も歓迎しないドンデン返しのために、整合性を犠牲にしている。

「シリーズのファンも含めた、お祭りのようなモノ」として映画を作ったとすれば、だとしても映画を作る理由としては厳しいけれど、 まだ何も考えずに劇場版を作るよりは理解できる。
ただ、この映画には、そういうお祭り的な意識も感じられない。
何しろ、劇場版は最後かもしれんが、この後にテレビのスペシャル版と連続ドラマを放送しているのだ。
これで打ち止めということで作ったわけじゃないのだ。
もうね、シリーズのファンや映画の観客をナメてるとしか思えんよ。

(観賞日:2010年1月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会