『鉄人28号』:2005、日本

1944年、第二次世界大戦末期、敗色濃厚な日本の救世主として、世界に類を見ない巨大兵器が密かに開発されていた。しかし、その兵器は 日本の敗戦によって、知られることもなく闇へと葬られた。そして現在。小学6年生の金田正太郎は父・正一郎を亡くして以来、母・陽子 と2人で暮らしている。料理学校の講師を務める陽子の転勤に伴い、正太郎は転校したばかりだ。図工の時間、正太郎は小鳥の一瞬の 羽ばたきを捉えて写生するが、担任の八城裕美子は実物を見たまま描いたことを信じない。クラスメイトの鬼塚宏志や松川健太たちは、 「こんな風に描けるわけがないだろ」とバカにした。
帰宅した正太郎は、母から「友達は出来たの?」と尋ねられる。「ブスッとしてるから友達できないのよ」と陽子に言われ、正太郎は「何 とかするしかないでしょ」と受け流す。テレビを付けると、コンピュータ会社KOKの元会長・宅見零児の邸宅が損壊した事故のニュース が報じられていた。原因は不明だが、事故発生時、巨大な腕のような金属の塊が飛んでいったという目撃情報があったらしい。宅見の所在 は分からなくなっている。そのニュースを見た陽子は深刻な顔になり、テレビを消した。
休みの日、空き地でリモコン飛行機を飛ばしていた正太郎は、クラスメイトの秋山孝と遭遇した。「嫌な奴ばっかりじゃないから」と口に した彼と、正太郎は友達になった。一方、刑事の江島香奈と村雨研二は、宅見の屋敷を調べていた。署長の大塚雄之介が来たので、江島は 「地下の研究室から腕が飛び去ったようです」と報告した。同じ日、テレビ局の電波が何者かにジャックされ、「オール・ビカム・ゼロ」 という謎のメッセージが流された。
正太郎は陽子に、「最近、変な夢を見るんだ。小さい僕が薄暗くて広い所にいる。火花が散って、そこには足の形をした柱が立っていて、 誰かが怖い顔で睨み付けて来て。その人、お父さんなんだよ。僕を突き飛ばして、いなくなっちゃうんだ」と打ち明けた。江島は村雨に、 宅見のことを語る。宅見は王国を築き上げていたが、売り出したコンピュータが頻繁に誤作動を繰り返すようになり、会社の株価は暴落 した。彼は3年前に会社を売却し、世の中から姿を消していた。
翌日、正太郎は「オール・ビカム・ゼロ」という機械音を耳にした。空を見上げた彼は、飛行する鉄の腕を目撃する。その腕は増上寺に 着陸した胴体と合体し、巨大ロボットの姿になった。巨大ロボットは道路を歩き、東京タワーを破壊して飛び去った。料理学校で働いて いた陽子は、街を低空飛行する巨大ロボットの姿を見るために建物から逃げようとせず、足の骨折と背中の打撲で入院した。
警視総監の田浦慶太郎が会見を開き、警視庁のホームページがハッキングされてゼロと名乗る犯人からメッセージが届いていたことを公表 した。そのメッセージは、巨大ロボットのブラックオックスが2週間後に東京を破壊するという内容だった。ゼロ対策のスペシャリストと して、マサチューセッツ工科大学から招聘された少女・立花真美が助手の河合秀之を伴って警察署にやって来た。彼女は江島たちに、 ブラックオックスを作ったのは人工知能研究の世界的権威である宅見で、ゼロの正体は彼だと説明した。
自宅へ戻った正太郎に綾部と名乗る男から電話が入り、「君の父上が残した物のことでお会いしたいんだが」と告げた。正太郎は綾部の 助手・高橋清次郎に連れられ、ある島に渡った。そこに待ち受けていた老人・綾部達蔵は、自分が正太郎の祖父の助手だったこと、正一郎 の後見人を務めていたことを語った。綾部は正太郎を振るい建物に案内し、そこが正一郎の研究施設だったことを告げる。地下に入ると、 彼は「君は前にもここに来ておる」と言う。そこは、正太郎が夢で見た場所だった。高橋が明かりを付けると、綾部は「鉄人28号だ」と口 にした。部屋の奥には、巨大ロボットが鎮座していた。
高橋は、最初の鉄人は正太郎の祖父が軍事用ロボットとして作り、正一郎が平和利用のために何度も作り直し、28号目のロボットを完成 させたのだと述べた。綾部から「君なら、これを動かす物のありかを知っているはずだ」と言われた正太郎は、金庫の鍵を開けた。すると 、そこには鉄人を操縦するためのリモコンが入っていた。綾部は「君は直観像資質者としての能力を発揮して、3歳の記憶を正確に呼び 起こしたのだよ」と言う。
綾部が「君は、その力を鉄人のために使うんだ。父上は君に鉄人を託したのだよ」と告げると、正一郎は「そんなことないよ。なんで、 お父さんが」とリモコンを置く。しかし綾部に「君はお父さんと違って臆病者だ」と言われ、怖がりながらもリモコンのスイッチを押して 鉄人を起動させた。ブラックオックスが街を悠々と歩く中、鉄人が出現した。正太郎は同行した綾部に視線をやり、「本当に僕がやるん ですか」と震える。彼は鉄人を操縦するが、攻撃を簡単にかわされ、ブラックオックスに電子回路を破壊されてしまった。
鉄人が動かなくなり、ブラックオックスは飛び去った。綾部は違法行為の罪で江島たちに連行され、正太郎は真美から「鉄人を操縦して いたのは君ね。下手くそ」と罵られる。宅見は同胞の貴島レイラに、「全てを破壊し尽くさない限り、理想郷は生まれない」と言う。真美 は大塚に「鉄人は解体せず、ブラックオックスを倒せるように作り直します」と告げ、鉄人を研究施設に運び込んだ。綾部は彼女に、鉄人 を改良するための職人たちを紹介した。
綾部は正一郎の元を訪れ、「やはり君に鉄人を操縦してもらいたい。もう1回、やってみるか」と持ち掛けた。しかし正太郎は完全に意欲 を失っており、「もう諦めたら。あんなポンコツ、幾ら作り直したってブラックオックスに勝てるわけがないよ」と投げやりな態度を取る 。綾部は「つまらない奴だな。男の子の人生は、冒険から始まるんだ」と告げて去った。正太郎は鬼塚と松川からバカにされて殴り掛かる が、反撃を受ける。そこへ秋山が助けに入り、「鉄人を操縦しているのは金田君なんだよ」と鬼塚たちに告げる。正太郎は秋山から 「お願いだよ、鉄人を操縦してよ」と頼まれるが、「うるせえ」と怒鳴って走り去った。
陽子の見舞いで病院を訪れた正太郎の前に、宅見が姿を見せた。彼は「会って確かめたかった。君がこの世に受け入れられるべき人間 なのか。それとも抹殺されるべき愚かな人間なのか」と口にした。「それは誰が決めるの」と正太郎が怯えると、宅見は「私だよ」と言う 。彼は「私の息子の光ではなく君が存在する理由がどこにある?あるなら見せてくれないか。君、死ぬのが怖いか」と告げ、正太郎を屋上 の隅に追い詰める。しかし陽子の叫ぶ声がして、宅見は姿を消した。
正太郎は陽子から、初めて研究所へ連れて行かれた日のことを聞かされる。正太郎は、父が自分を助けようとして突き飛ばしたのだと知り 、「僕のこと嫌ってたんじゃなかったんだね」と泣いた。陽子は「お父さんはね、鉄人を正太郎に託したの。でも、お母さんは普通の子供 として生きてほしかった。だからお父さんのことを話すのが怖かった。お父さんのように、鉄人と運命を共にするんじゃないかって」と 打ち明け、「ごめんね」と詫びを入れた。
翌朝、正太郎が目を覚ますと陽子は病室におらず、ベッドには父の残した「信じて進め」というメッセージが置かれていた。正太郎は島の 研究施設へ行き、綾部に「僕に鉄人の操縦をさせてください」と頭を下げる。正太郎は操縦訓練を積むが、ブラックオックスを怖がって体 が逃げてしまう。心配する真美の手を振り払い、彼は研究施設から飛び出した。宅見からの最後通告があり、正太郎は「僕に出来るの?」 と不安を抱えながらも戦いへと赴いた…。

監督は冨樫森、原作は横山光輝、脚本は斉藤ひろし&山田耕大、製作は森隆一&石川富康&早河洋&荒井善清&小林洋輔、企画は遠谷信幸 &大月俊倫、エグゼクティブプロデューサーは多木良國&兵頭秀樹&木村純一、プロデューサーは佐倉寛二郎、共同プロデューサーは 田中渉&田中大三&比留川伸&五郎丸洋介&片山英爾&柴田一成、ライン・プロデューサーは松木孝司、撮影は山本英夫、照明は小野晃、 録音は野中英敏、美術は小川富美夫、編集は上野聡一、視覚効果は松本肇、音楽は千住明、音楽プロデューサーは佐藤成高。
挿入歌「鉄人28号」作詞・作曲:三木鶏郎、編曲:千住明、歌:六本木男声合唱団。
出演は池松壮亮、蒼井優、中村嘉葎雄、柄本明、阿部寛、薬師丸ひろ子、香川照之、川原亜矢子、伊武雅刀、田中麗奈、妻夫木聡、 中澤裕子、高岡蒼甫(現・高岡奏輔)、西田尚美、矢沢心、ささの友間、栗原卓也、森田直幸、村松利史、水上竜士、北川智子、螢雪次朗 、鈴木一功、諏訪太朗、森羅万象、竹嶋康成、本多彩子、山地健仁、山中新、照井宙斗、中野美絵、平林和樹、山崎くるみ、松田章、 狩野謙、鬼界浩巳、浜幸一郎、福田英次、白井勝雄、片山真吾、加藤晃良、坪内悟、仙波てつお、越康広、原田光男、宇賀神明宏、 矢嶋星児、高田健一、加藤雄太郎、北川渚、真田幹也、吉田久、三浦景虎、永田康成、丸山英男、加藤公章、酒井一輝ら。 声の出演は寺田農、林原めぐみ。


横山光輝の漫画を基にした実写映画。
監督は『非・バランス』『ごめん』の冨樫森。
正太郎役の池松壮亮と真美役の蒼井優は、それぞれ約1万人の中からオーディションで選ばれたということになっているが、それは建て前 で、実際には最初から決まっていたものと推測される。映画やドラマのオーディションでは、そんなのは良くあることだ。
他に、綾部を中村嘉葎雄、大塚を柄本明、正一郎を阿部寛、陽子を薬師丸ひろ子、宅見を香川照之、レイラを川原亜矢子、田浦を伊武雅刀 が演じている。

原作とは大幅に内容が異なっており、時代は昭和30年代から現代に置き換えられている。
また、正太郎は少年探偵じゃないし、敷島博士は登場しない。
例え内容や時代設定を変更するにしても、敷島博士は登場させてほしかったな。
それに、敷島博士の代わりに用意された映画用のキャラがパッとしないんだよな。
刑事たちはほとんど存在意義が無く、宅見は心に深い傷を抱えている設定だけど上手く活用されておらず、レイラは宅見の愛人なのか何 なのか良く分からず、真美でさえ必要性が薄いという体たらくだ。

真美に関しては、ロボットのスペシャリストという役回りを、少女にしておく意味が良く分からない。
そりゃあ世の中には天才少女もいるけど、そこは年配の人間でいいでしょうに。それこそ敷島博士にすればいいんじゃないのか。
「ファミリー映画だから正太郎の近くに少女が欲しい」とか、「ヒロインは若い女がいい」とか、そういう考えがあったとしたら、そこは 理解できる。
だけど、ヒロインをロボットの専門家をにするこたあ無いんだよな。
正一郎のクラスメイトとか、もう少し年上にしたければ「スペシャリストである博士の娘」とか、そういうことでもいいんだから。

冒頭「1944年、第二次世界大戦末期、敗色濃厚な日本の救世主として、世界に類を見ない巨大兵器が密かに開発されていた。しかし、その 兵器は日本の敗戦によって、知られることもなく闇へと葬られた」というのをナレーションで説明しちゃう だが、それは無格好だ。
そこはドラマで描くべきだよ。
そうじゃなきゃ何も触れずに物語を開始し、途中で「実はそんなことがあった」と触れる形にすればいい。

『新世紀エヴァンゲリオン』がオタクの間で大人気になったことを意識したのか、正太郎が碇シンジみたいに陰気に考え込んでしまう根暗 な少年になっちゃってる。
そりゃあ、何でも器用にこなす大人顔負けの少年探偵にしろとは言わないさ。そうしてほしかった気持ちも無いわけじゃないけど、そこの 改変は余裕で許容範囲だ。
だけど、「正太郎がウジウジしていており、終盤になって、ようやく戦う気持ちになる」って、そんな話もキャラクターも、ちっとも 魅力的じゃねえよ。
この映画に必要なのは、そういうモノじゃなくて、もっと明るく快活なテイストではなかったか。
だってさ、これって明らかに子供向け映画、ファミリー映画として作られているんだよ。

っていうか、そもそも鉄人28号でファミリー映画っていう段階で、ボタンの掛け違いがあると感じるんだよな。
だってさ、鉄人28号って、今の少年たちは知らないでしょ。
それを実写映画化するってことは、明らかに、漫画や昔のアニメを見ていた大人たちか、あるいはオタクたちがターゲットにしていると 考えられる。
だったら、もっと大人向けの作品として仕上げるべきじゃないのか。
「どういう観客層を想定しているのか」という部分で、ファミリーも大人たちもオタクも、万人に劇場へ来てもらおうという欲張りな考え があったんじゃないか。
そのために焦点が定まらず、「虻蜂取らず」になってしまったのではないか。

あと、リアル路線で行きたいのか、荒唐無稽で行きたいのか、その辺りもハッキリしない。
っていうか、どっち付かずで中途半端になっている。
「鉄人は元々は戦時中に作られた兵器で云々」という設定や、序盤で時間を割いて描かれる正太郎の生活環境などは、リアリティー を出すための配慮だろう。
だけど、その一方で、宅見はロボット1体だけで世界を破壊しようと企んでいるという、Dr.マシリトと同レベルの浅はかな考えの持ち 主だったりする。
あと、最初にブラックオックスと戦う時、正太郎がどうやって鉄人を島から東京へ移動させたのか全く分からないんだが、それは「荒唐 無稽か否か」という問題じゃないぞ。

始まってから40分ぐらい経過して、ようやく鉄人が登場する。
でも、その起動にも、初めての戦いにも、まるで高揚感は無い。
おまけに、なんと惨敗して破壊されてしまうのだ。いやいや、アホかと。
そりゃあ正太郎は初めての戦いだから、上手く操縦できずに苦戦するのはいいとしよう。だけど、惨敗ってさ。
そこは勝利すべきでしょ。
初めて鉄人が動いて、戦って、そこに高揚感を持たせないって、どういう計算なんだよ。
それを考えると、最初からブラックオックスと戦わせている段階でマズいんだよな。何か雑魚キャラ、やられ役のロボットを用意して おいた方がいい。
っていうか、もう根本的に、ゼロから物語を作り替えないと厳しいと思う。

正太郎が戦うまでに40分ぐらい掛かるし、最初の戦いは腰が引けてビビッていて、おまけに惨敗。
そこからは、惨敗で完全にやる気を失ってしまい、なかなか戦う意欲が芽生えない。
ようやく操縦する気になっても、訓練に入ると怖がってしまう。
しかも、ついに戦いに赴くという段階になっても、まだ「本当に僕なんかがブラックオックスと戦えるの?僕に出来るの?」と不安 たっぷりだ。

いざ戦いが始まっても、まだ正太郎はビビっている。
彼が「負けない」という強い意志を持ってロボットを操るのは、終盤のわずかな時間だけ。
その時でも、やっぱりハアハアと息が荒くて、どこか不安げだし。
で、彼が戦うようになるまでの成長劇に、ダラダラと時間を割いている。
そこは、あえて「ダラダラ」という言葉を使わせてもらった。
だって、ホントにダラダラしているとしか感じないのよ。

その間、彼がウジウジしている一方で、悪党の陰謀や政府の対策が進行していく様子が描かれているなら、まだ何とか誤魔化せたかも しれない。
だけど正太郎が負けた後、彼が戦う気持ちになるまでの成長劇に完全に焦点を絞り込んでいるのだ。
そうなると、こっちはスカッとするロボット活劇を見たいわけで、それはやっぱりダラダラでしかない。
そのせいで、鉄人が戦うアクションシーンは、かなり短い。
勿体を付けてアクションシーンまで話を引っ張りまくっているのか、単純に計算できていないのかは知らないけど、どっちにしてもダメ でしょ。

ブラックオックスにしろ鉄人にしろ、すげえツルッとしていてオモチャ感たっぷりなのは、ものすごく萎える。
鉄人なんて、ずっと放置されていたはずなのに、初登場の時からツルツルテカテカだし。
で、そんなロボットの動きはモタモタ&カクカクしていて、ロボット・アクションの迫力も躍動感も全く味わえない。
そこが最大のセールスポイントになるべきなのに、むしろ致命的な欠陥になっている。
あと、どんなに戦っても傷付いたり汚れたりしない。最後までキレイでテカテカしたまま。どういうことなんだよ。
それと、ブラックオックスとの再戦に向けて、鉄人が殴られたら正太郎がダメージを受けるという体感システムに改良した意味って全く 無いでしょ。

最後、鉄人にブラックオックスを大気圏外へ運ばせるというのは、絶対に盛り上がらなきゃいけない展開なのに、すげえ淡白に処理されて いて、何の高揚感も無い。
シーンが切り替わって、鉄人が大気圏外から地球に戻って来るけど、そこもやはり全くテンションが上がらない。
そこは一連の流れで見せなきゃダメでしょ。
っていうか、もはや同一シーン内で見せたとしてもダメだっただろうけど。

(観賞日:2011年12月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会