『テラスハウス クロージング・ドア』:2015、日本

テレビ番組『テラスハウス』の放送が終了し、最後まで残っていた菅谷哲也がテラスハウスを出ようとしていた。しかしドアを開けると松川佑依子という会社員でグラビアアイドルの女性が立っていたので、彼は驚いた。今日からテラスハウスに住むことになったと佑依子が言うので、哲也は困惑しながらも招き入れる。哲也が「俺、出るんですよ」と告げると、佑依子は「でも『テラスハウス』、終わらないみたいで。今年一杯続いて、映画化されるって」と話す。
佑依子から「もうちょっとだけ一緒に住んでくれませんか」と頼まれた哲也は、戸惑いながらも承諾した。2人は一緒にキッチンヘ行き、夕食を作った。2人は食事を取りながら、互いに好きな異性のタイプを語り合った。翌朝になると、デザイナー志望の和泉真弥と雑誌『Quick Japan』編集者の小田部仁が新メンバーとして立て続けにやって来た。仁は出演を希望した理由について、『テラスハウス』を題材にしたムック本の出版を企画していることを語った。
島袋聖南は伊東大輝に、「テラスハウスに行きたいんだ」と打ち明けた。大輝が理由を尋ねると、彼女は「行きたい衝動に駆られる」と答えた。大輝は他の男と一緒に暮らすことへの嫉妬心を抱きながらも、聖南の意思を尊重することにした。その夜には、バスケットボールのプロ選手を目指す吉野圭佑が新メンバーとしてテラスハウスに現れた。哲也が用事で実家に泊まった夜、聖南が新メンバーに加わった。そんな映像をチェックしたスタジオキャストのYOUやトリンドル玲奈たちは、映画版の顔触れについて意見を語り合った。
テラスハウスへ戻った哲也は、聖南がいるのを見て驚いた。共同生活が続く中、哲也は佑依子に好意を抱くようになった。仁は佑依子を誘ってコーヒーショップに出掛け、2人でランチを食べながら会話を交わす。彼は聖南の紹介で旧メンバーの山中美智子と保田賢也と会い、インタビューを取る。哲也は佑依子を誘い、仕事の後でもんじゃの店へ出掛けて夕食を取った。彼は佑依子に、もうすぐ仕事で2週間ほどバングラデシュへ行くことを明かした。
テレビ番組の出演者だった今井洋介がテラスハウスへ遊びに来ると、哲也は「来週から2週間ほどバングラデシュへ行くから、俺のベッド使ってもいいよ」と告げた。小田部は佑依子に対する気持ちを真弥に相談し、荒っぽい口調で助言を貰った。哲也は渋谷で旧メンバーの今井華と筧美和子に会い、まだテラスハウスに住んでいることを話した。彼は2人に、気になっている相手がいることも明かす。佑依子は真弥に、芸能関係の友達から哲也が女性のいる店で遊んでいることを聞き、イメージと違うので気持ちが下がったことを話した。
哲也がバングラデシュへ旅立ち、代わりに洋介がテラスハウスで暮らし始めた。彼に惹かれている真弥は、恥ずかしそうな様子を見せた。洋介の撮った水中写真を見た真弥は、興味があるので連れて行ってほしいと持ち掛けた。洋介は恵比寿で旧メンバーの大輝と湯川正人に会い、テラスハウスが続いていることを明かす。彼は哲也の代役で2週間だけ住んでいること、新入りの真弥に興味を抱いていることを話した。洋介と真弥は江ノ島の海へ出掛け、サーフボードに乗って水中写真を撮った。
仁は佑依子を誘って祐天寺へディナーに出掛け、ショールをプレゼントする。洋介は真弥を誘い、ランチに出掛ける。真弥が将来に対する考えを語ると、洋介は感心する。2人は夜の浜辺へ出掛け、手を繋いで散歩する。2週間が経過し、洋介は荷物をまとめてテラスハウスを後にする。真弥が外まで見送りに出ると、洋介はギターを弾きながら自作の歌を披露する。夜になり、哲也がテラスハウスへ戻って来る。仁は仕事が忙しく、会社に泊まり込んでいる。
哲也は女性陣の部屋へ行き、「今度の休みに出掛けない?」と佑依子を誘う。しかし佑依子は、「今は2人で出掛けられないかも」と断る。彼女は哲也に、イメージと違う彼を知ってショックを受けたことを明かす。仁は船橋で小貫智恵に取材し、新宿でマントル一平とマグ万平のコントを見る。哲也は佑依子に「ガッカリさせないようにするから、もう一度、デートしたい」と告げる。佑依子は返事を保留し、「もう一回、ちゃんと考える」と答えた。
仁はALIVEという会社の社長に就任した正人から話を聞き、新宿の書店で出版記念のサイン&握手会を開いた竹内桃子にも取材する。彼はテラスハウスへ戻ると、日曜のデートに佑依子を誘う。佑依子が「行きたい」と言うと、彼はスケジュールの確認に行く。佑依子は哲也から日曜のデートに誘われると、こちらも「行きたい」と告げる。仁は哲也から話を聞き、デートの権利を譲った。日曜のデートを終えた佑依子は、真弥に「あんまり求めてたデートではなかった」と語る。しかし彼女は仁に「友達にしか見れない」と告げ、また哲也とデートすることにした…。

監督は前田真人、製作は石原隆&富永正人&市川南&石川豊、エグゼクティブプロデューサーは臼井裕詞&前田久閑、プロデューサーは太田大&松本彩夏&鈴木康祝&岡田耕太、撮影は吉原輝久、音声は沖田一亮、選曲は高島慎太郎、美術は高砂浩明、ディレクターは岡野耕大&新井田淳&西本隆洋&伊藤才聞&尾上沙惣。
出演は菅谷哲也、島袋聖南、松川佑依子、和泉真弥、小田部仁、吉野圭佑、YOU、トリンドル玲奈、登坂広臣(三代目J Soul Brothers)、徳井義実(チュートリアル)、山里亮太(南海キャンディーズ)、馬場園梓(アジアン)ら。


2012年10月12日から2014年9月29日までフジテレビ系列で放送されていたテレビ番組『テラスハウス』の劇場版。
最終回を迎えた後、最後に残った菅谷哲也と新メンバーの共同生活が描かれる。続編的な内容であり、言ってみれば「完結編」でもあるわけだ。
粗筋で触れたテラハのメンバー以外に、スタジオキャストの登坂広臣や徳井義実、山里亮太、馬場園梓といった面々も登場する。
TVシリーズを制作したイースト・エンタテインメントの前田真人が監督を務めている。

番組を見ていた人なら説明不要だろうが、『テラスハウス』は「リアリティー番組」として放送されていた。「台本は無く、一つ屋根の下での複数の男女が共同生活する様子を見せる」というのが表向きのコンセプトだ。
「表向きの」と書いたが、これを「ホントにリアルな若者たちの共同生活を見せる番組」と信じるほど、私は純朴な人間ではない。
しかし、これに関しては、純朴ではなくなった自分を残念だとは思わない。
むしろ、「それが汚れたことを意味するなら、汚れて良かった」と思うぐらいだ。

番組放送中には、「スタッフが出演者に行動の指示を出している」「大まかな筋書きは決まっている」といった内部告発が報じられたこともあった。
もちろんフジテレビは全面的に否定したが、そりゃあ認めるわけにはいかんわな。
私は番組のファンではなかったけれど、そうだったとしても「裏切られた」とは思わなかっただろう。
とは言え、ガッツリと台本が決まっているとは思わない。
理由は簡単で、演技の素人であるメンバーに細かく決められた芝居を要求しても、大根ぶりが露呈して自然じゃなくなるのは見えているからだ。しかし大まかな展開や着地点だけを与える形なら、何となくリアルっぽく見せることは出来る。

そもそも、カメラが回って番組として放送される時点で、どうしたって出演者はそのことを意識するし、演じてしまう部分も出るだろう。
だからリアリティー番組ってのは、少なくとも『テラスハウス』に関しては、「素の自分」と「番組を意識して演じる自分」、そして「ディレクターの指示に応じて行動する自分」という3つが混在するのを観賞するモノなのだ。
なので、「リアルじゃないからダメ」と一刀両断しようとは全く思わない。

そもそも、基本的には「若い男女が共同生活の中で恋愛する」ってのを見せるのが狙いなのに、恋愛禁止ルールのあるAKB48の北原里英(2012年10月から12月までテラハのメンバーだった)が参加している時点で「これは虚構の世界です」と宣言しているようなモノでしょ。
それでも「これは全てリアルな男女の共同生活を見せてくれるモノだ」と信じている人がいるとしたら、よっぽどのお人好しか、よっぽどの世間知らずか、よっぽどの愚か者だ。
でも、そういう人は、その心って素晴らしいモノだから大切にした方がいいけどね(などと無駄なフォローを入れてみたりする)。

この映画でも、虚構であることが露骨に出ている箇所が幾つかある。
例えば、島袋聖南が伊東大輝に「テラスハウスに行きたいんだ」と打ち明けるシーン。
これは、「やっぱりTVシリーズのファンを取り込むには新メンバーだけじゃキツいよね。旧メンバーが菅谷哲也だけでは弱いよね。女性メンバーもいた方がいいよね」というイースト・エンタテインメントの会議が目に見えるようなシーンだ。
そもそも、あらかじめ演出として「島袋聖南がテラスハウスへ行く」ってのが決まっていなかったら、それを打ち明ける現場にカメラが入っていないはずだしね。そこは川口浩探検隊チックなモノさえ感じるわ。
他にも、「演出による指示や撮り直しが無かったら有り得ないでしょ」と感じるショットはチラホラと入って来る。

『Quick Japan』の編集者である小田部仁が新メンバーとして参加するのも、やはり「あらかじる定められたシナリオ」を感じさせる箇所の1つだ。
前述したように、TVシリーズのファンを取り込むためには旧メンバーを登場させたい。
しかし、ただ無造作に放り込むのではなく、何かしらの理由を付けた方が「リアリティー番組」っぽさが出る。
だから小田部を「ムック本を作るため」という設定で参加させ、取材対象として旧メンバーに会ったり、これまでの変遷を辿ったりする役割を担当させているわけだ。

菅谷哲也が今井華と筧美和子に会うのも、「仲良しだから一緒に夕食を取る」ってことではなくて、「そういう体裁で旧メンバーを登場させる」という目的が透けて見える。
今井洋介が恵比寿で伊東大輝と湯川正人に会うのも同様だ。
菅谷哲也が仕事でバングラデシュへ行き、その間は今井洋介が代わりに参加するという展開も、モロに「イースト・エンターテインメントの考えたシナリオ」を感じさせる箇所だ。
今井洋介は旧メンバーの中でも人気のある人物だったので、やはり積極的に絡ませておきたいと考えたんだろう。

この作品に対して何よりも強く感じるのは、「映画にする必要性がホントにあるのか」ってことだ。
しかし実を言うと、その答えは自分の中でハッキリと分かっている。「必要性は無いけど、その価値はある」ってのが答えだ。
バラエティー番組なんだから、普通に考えれば、続きをやりたければテレビで放送すればいい。
しかし、それでも映画にする理由は簡単で、「そっちの方が大きく稼げる」からだ。
商売としてコンテンツを作っている以上、より多く稼ぎの期待できる媒体を選ぶのは当然のことだろう。

『テラスハウス』は、たぶん「ごく一部の若者」以外の認知度が恐ろしく低かった番組だ。番組の人気は高かったが、それは「ごく一部の若者」の熱狂的な指示によるものだった。
しかし裏を返せば、それは「確実な太客が充分な数だけ付いている」ってことなのだ。
ってことは、「映画化しても充分に黒字が出る」ってのが予想できるわけで。そういう意味では、映画化に向いているコンテンツと言ってもいい。
だから映画化する必要性は無いけど、価値はあるってことなのだ。
こういうコンテンツが映画化されるんだから、ナンダカンダ言っても日本は幸せな国だし、まだまだテレビは元気なんだと思うよ。いやホントに。

(観賞日:2016年3月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会