『テラ戦士ΨBOY』:1985、日本

小学生のMOMOKOは、友人のモトハルや互いの両親と共に遊園地へ遊びに来ていた。その時、宇宙を浮遊する謎の光が、MOMOKOを呼ぶ母の声を耳にした。光は地球へ向かい、猛スピードで飛んだ。遊園地では、男子高校生の2人組がラグビーボールで遊んでいた。1人の少年は、ベビーカーを押す妊婦にぶつかった。走っていた眼鏡の少年は、別の少年と激突した。男子高校生は友人が投げたラグビーボールを取ろうとしてバランスを崩し、MOMOKOにぶつかりそうになった。その時、MOMOKOの眼前で強烈な光が放たれた。
MOMOKOは気付くと高校生になっており、ロッカールームの前にいた。同級生のルミコたちが話し掛けても、彼女は呆然としていた。彼女はボクシング部の練習に行く同級生のモトハルを見つけ、急いで後を追った。MOMOKOはモトハルに「急に高校生になった」と話すが、軽く笑い飛ばされる。モトハルは野球部のエースの田村が失踪したこと、2日後に戻って来たか何も覚えていなかったこと、すっかり能力が失われていたことを話す。さらにモトハルは、「今朝、俺と一緒に登校しただろ」と告げた。MOMOKOがモトハルと一緒にロッカールームを出る時、背後のガラスが割れたが、彼女は全く気付かなかった。
学校を出たモトハルは、オレンジの箱を積んでいる軽トラックを目にした。彼が落ちろと念じると、オレンジの箱が1つ落下した。驚いたモトハルが全て落ちるよう念じると、本当に全ての箱が落下した。MOMOKOは田村と会い、勉強やスポーツで特別な能力を持つ学生が失踪し、戻って来たら凡庸な人間になる事件が幾つも起きていることを聞く。2人が話す様子を、女性教師の片山が密かに観察していた。書店で超能力の本を読んだモトハルは、自分のサイコキネシス能力を試した。
夜、MOMOKOは母が営むカフェを手伝い、閉店後に1つだけグラスがテーブルに残っているのを見て首をかしげる。グラスを持ち上げた彼女は、不思議な感覚に見舞われた。すると店内にある全てのグラスが割れ、MOMOKOは驚愕する。持っていたグラスに小さな生命体が一瞬だけ映り、MOMOKOは意識を失った。自室に戻った彼女は水槽を眺め、ガラスが割れることをイメージした。すると水槽ではなく、置時計の蓋の部分が割れた。水槽には光る生命体が出現し、「ディラスポース」という謎のメッセージをMOMOKOに伝えた。
ゴールデン・フレーム研究所では、特別な能力を持つ若者を使った実験が繰り返されていた。所員のマルイたちは若者を捕まえて実験し、超能力が無いことが判明すると記憶を消していた。マルイたちは若者の能力を奪ってファイルし、凡庸な状態にして解放していた。超能力があると確定した若者は研究所に残され、訓練を積んでいた。所長のフレームは超能力者で、あと3日で所内のプールを完成させるようマルイたちに命じていた。
翌朝、登校したMOMOKOはロッカーを眺めている時、付いている鏡をサイコキネシスで割ってしまった。その様子を見た片山は、マルイに連絡を入れた。彼女は研究所のエージェントで、超能力者を見つける任務を命じられていた。昼休み、MOMOKOはモトハルが得意げに超能力を使う様子を見て、自分も昨日からエスパーになったことを明かす。しかしモトハルと違い、彼女は能力をコントロールできていなかった。マルイは学校へ行って片山と合流し、MOMOKOが1人になるのを待って捕まえることにした。
MOMOKOはモトハルと下校し、他にも超能力者がいるのではないかと口にする。小学生のギンジローは自動車の衝突事故が起きると予知し、犬を連れ出して救った。彼はMOMOKOとモトハルに気付き、声を掛けた。3人とも昨日から急に超能力を使えるようになり、ディラスポースという言葉を聞いていた。3人がファストフード店でハンバーガーを注文すると、「ディラスポース」と書かれたカードが添えてあった。それを運んだ店員のトオルは3人を外へ連れ出し、自分がテレポート能力の持ち主であることを明かした。
トオルはMOMOKOに、「君を見たら誰かが心にディラスポースと囁いた。コンタクトする必要性を感じた」と話す。モトハルは自分が添え物扱いだと感じて腹を立て、一人で超能力者の捜索に向かう。しかし全く見つからず、ゲームセンターで遊ぶMOMOKOたちの元へ戻って来た。ゲーム機のモニターに突如として「ディラスポース」の文字が表示され、ステーションと名乗る人物が尾行者の存在を知らせる。そこへ拳銃を持ったマルイが現れてMOMOKOを拉致しようとするが、手から高熱を発する超能力者のブーが駆け付けて撃退した。
マルイが片山の運転する車で逃走すると、MOMOKOたちは宅配のワンボックスカーを盗んで追跡する。トオルはテレポート能力でマルイをワンボックスカーに移動させ、モトハルたちが彼を拘束した。片山は運転を誤り、車ごと海に落下した。MOMOKOの前にはステーションが姿を現し、一行は無人の巨大倉庫へ移動する。ステーションは失神しているマイルの心を読もうとするが、フレームによって強力なバリアーが張られていた。それでもステーションは、ゴールデン・フレーム研究所が関係していることを掴んだ。
倉庫に突風が吹き込み、MOMOKOは「仲間が揃った」という声を聞く。そこにいる全員が「彼が来る」と感じ、海辺へ移動した。上空から雲を割って光が差し込むが、「彼」と話せるのはMOMOKOだけだった。その光は「ボーイ」と名乗り、「ヘルプ」と繰り返して姿を消した。ギンジローはMOMOKOたちを自宅へ連れ帰り、コンピュータでボーイを分析した。その結果、ボーイを捕まえるには水のある場所を同じ速度で移動する必要があることが判明した。
ギンジローは「トオルがMOMOKOを抱いてテレポートし、ボーイを追い掛ける」というアイデアを思い付き、試すことにした。一行は深夜のプールへ忍び込み、輪になって念じた。トオルがMOMOKOを抱いてテレポートすると、宇宙へ飛び出した。MOMOKOはボーイと会い、話を聞く。ボーイはずっと昔、MOMOKOを呼ぶ声を聞いた。彼はMOMOKOと遊びたくて下降を始めたが、汚れた乱気流のせいで意識を失って水に落ちた。故郷の星には水が無く、ボーイは抜け出せなくなった。彼は水に落ちる瞬間、曇りの無い5つの心と、産まれてくる1つの心を見た。「君たちだけが僕の心を開く」とボーイは言い、そこに実体が無いことをMOMOKOに説明して姿を消した。
MOMOKOはトオルと共に、プールへ戻った。フレームはマルイと片山に「どちらか一方が責任を取れ」と要求し、拳銃を差し出した。片山が迷わず拳銃を握って発砲しようとすると、フレームは彼女を始末した。「超能力者の集団はどうしましょう?」と手下が訊くと、フレームは「あの程度のエスパーは明後日になれば何ダースでも製造できる。それから捕獲すればいい」と述べた。MOMOKOはモトハルたちを自宅へ連れて行き、休ませようとする。しかしモトハルは脇役扱いに腹を立て、1人で去ってしまった。
ステーションは全員に共通する「水のある場所」を割り出すため、MOMOKOの意識を読むことにした。彼はMOMOKOに、ボーイに会った時のことだけ考えるよう指示する。ボーイが遊園地に落ちる映像をステーションが見ると、ギンジローはよみうりランドではないかと口にする。しかしステーションはよみうりランドに行ったことが無く、中学校を過ぎてからは遊園地自体に行っていなかった。MOMOKOは6歳の頃の記憶を鮮明に覚えており、ボーイが落ちたのは青葉台遊園地だと判明した。するとトオル、ブー、ステーションも行ったことがある場所だったが、ギンジローだけは行った経験が無かった。
MOMOKOはボーイの言葉を思い出し、改めてステーションに心を読んでもらう。しかしラグビーボールをキャッチした高校生がぶつかりそうになった瞬間でMOMOKOの時間は凍り付いており、それ以降の時間は無かった。ステーションはボーイが落ちて来たことで時間が狂い、6歳から16歳まで死んでしまったのだろうと推測した。ボーイを救えば元通りになると考えた彼は、今度はブーの心を読む。ラグビーボールを掴んだ男が若い頃のマルイだと気付いた彼は、その相棒が組織のボスだと確信した。しかし問題は、青葉台遊園地には水のある場所が存在しないということだった。
フレームは研究所の視察に訪れた政財界の男たちに、エスパーを製造するプールを見せた。彼はボーイを閉じ込めている小さなピラミッドを見せ、「ボーイをプールに解放すれば、超能力の源になる」と説明した。マルイは片山の映像を眺め、彼女を救えなかったことを悔やむ。するとボーイは片山の映像を使い、MOMOKOを救うよう彼に要請した。マルイは研究所に潜入していたモトハルを見つけ、ピラミッドに入ったボーイを6歳のMOMOKOに届けるよう頼む…。

監督は石山昭信、原作はマイク・スプリングレイン、脚本は原田眞人、企画は藤田浩一&小向正司&遠藤克彦&波多腰晋二、プロデューサーは岡田裕&八巻晶彦、撮影は山崎善弘、照明は磯野雅宏、録音は佐藤富士男、美術は渡辺平八郎、編集は井上治、特撮技術撮影は大岡新一、音楽は林哲司、主題歌「BOYのテーマ」は菊池桃子。
出演は菊池桃子、早乙女愛、益岡徹、竹中直人、井浦秀智、朝丘雪路、鈴木瑞穂、名古屋章、あき竹城、上條恒彦、磯崎洋介、栗田光志、五十嵐登、佐藤直洋、加藤善博、船場牡丹、石丸謙二郎、中村まり子、高野嗣郎、伊藤公子、加藤大樹、西巻映子、大江徹、名代杏子、湯沢勉、島村美紀、掛田誠、小林紀美子、瀬木一将、神宮寺秋生、井沢清秀、景山清司、小山勝洋、森聖二、池田哲也、衣笠健二、畠中洋、根間勇次、井丸勝彦、志賀実、坂本寿久、竹田巧、大崎聖二、佐山信一、中島文彦、滝沢恵子、岡田博、渡辺協子、鶴岡久子、高橋由利子ら。
声の出演は島本須美。


菊池桃子が『パンツの穴』に続いてヒロインを務めた2本目の映画出演作。
監督は『胸さわぎの放課後』『月の夜 星の朝』の石山昭信。
脚本は『さらば映画の友よ インディアンサマー』『ウインディー』の原田眞人。
MOMOKOを菊池桃子、片山を早乙女愛、フレームを益岡徹、マルイを竹中直人、モトハルを井浦秀智、MOMOKOのママを朝丘雪路、政界の男を鈴木瑞穂、財界の男を名古屋章、芸能人風おばさんをあき竹城、MOMOKOのパパを上條恒彦、ギンジローを磯崎洋介、トオルを栗田光志、ブーを五十嵐登、ステーションを佐藤直洋が演じている。
桃子の同級生の1人として、有森也実が出演している。BOYの声を担当しているのは島本須美。

まず気になるのが、「原作者」として表記されるマイク・スプリングレインという人物の存在だ。
この人について調べても、他の著作が何も見つからない。それどころか、『テラ戦士ΨBOY』という作品以外の情報は全く無い。その小説が海外で発行されていたという記録も見当たらない。
あくまでも推測に過ぎないが、マイク・スプリングレインなる人物は存在しないのではないか。
製作サイドが架空の原作を設定しただけなのではないか。

細かいことだけど、ヒロインの名前が「MOMOKO」ってのが、なんだかなあと。
そこは普通に「桃子」でいいでしょ。あるいは、他の仲間がカタカナだから、「モモコ」でいいでしょ。
たぶん、その当時に発売されていたグラビア雑誌の『Momoco』に絡めた表記なんだろうとは思うのよ。その雑誌自体が、菊池桃子がデビューする時の売り出し戦略に使われていたぐらいだしね。
ただ、「だからローマ字表記は当然だよね」なんてことは全く思わないぞ。そこをローマ字表記にしているのは、「なんかウザい」としか感じないぞ。

冒頭、小学生のMOMOKOが遊園地で遊んでいる様子が描かれる。閃光が放たれる直前のシーン、ラグビーボールの高校生2人組が妊婦に激突する少年たちが登場すると、そこはスローモーションで描かれる。
完全ネタバレだが、そこにいる面々が、後に超能力者として登場する。例えば、妊婦の腹の中にいたのがギンジローってことだ。
だから一応は伏線になっているんだけど、あまり上手く表現できているようには感じない。
ぶっちゃけ、ただ「光がMOMOKOの元へ飛来した」というだけでも、まあ別にいいかなと。

遊園地のシーンからカットが切り替わると、高校生のMOMOKOがロッカールームの前でボーッとしている。「急に高校生になったから困惑している」ってことは、すぐに彼女の台詞で説明される。
だけど、そこは「高校生という実感が持てない」とか、その程度のボンヤリした状態に留めておいた方がいいんじゃないかなあ。
「急に高校生になった」ってのは、ラストに繋がる重要な伏線なのよ。
だから、もう少し繊細に描写しておいた方がいいんじゃないかと。

MOMOKOは「急に高校生になった」ってことでビックリしているのに、なぜか成長したモトハルのことは簡単に見つけている。それだけではなく、遊園地にはいなかったはずのルミコの存在も、ちゃんと分かっている。
それは辻褄が合わないでしょ。
自分からモトハルを見つけて声を掛けるんじゃなくて、向こうから声を掛けられる形にしないと、整合性が取れないでしょ。
で、前述した「ボンヤリした状態」にしておくのであれば、そこも「返事はするけど、心ここにあらずといった感じ」みたいな形にしておくとかさ。

マルイが登場するシーンだけは、コメディーのテイストが入っている(片山が殺されるとシリアス一辺倒になるが)。
他にもユーモラスな描写が無いわけではないが、かなりシリアスな匂いの方が強い。
でもマルイだけをコメディー・リリーフとして使うんじゃなくて、もっと全体的に軽妙さを強めにしてもいいんじゃないかなあ。
MOMOKOを深刻に悩ませるより、明るいキャラにした方がいいんじゃないかなあ。これはアイドル映画なんだし、菊池桃子のファンも彼女の笑顔が多い方が喜ぶんじゃないかと。

序盤、MOMOKOがモトハルとロッカールームを去る時に背後のガラスが割れているが、2人とも全く気付いていない。なので最初に超能力があることに気付くのは、MOMOKOじゃなくてモトハルだ。
それはダメでしょ。MOMOKOが先に気付かなきゃダメでしょ。
あと、MOMOKOが心の中で「割れろ」と思ったら何かが割れているという設定なんだけど、ってことはロッカーの鏡やカフェのグラスが割れる時も「割れろ」と念じたのかよ。そうじゃないはずだよね。
感情が爆発するような出来事も無いし、そこは変だぞ。

MOMOKOたちはマルイを捕まえた時、彼が超能力者を探していること、ゴールデン・フレーム研究所が関係していることを掴んでいる。
だが、そこから「研究所を調べ、彼らの目的を突き止める」という目的を持って行動することは無い。突風が吹いて「彼が来る」と感じ、そこから「ボーイを捕まえる」という行動に出る。
でも、先に研究所を何とかした方がいいんじゃないのか。
そこは完全に放置してボーイを捕まえる展開になるのは、話しの進め方として上手くないなあ。

粗筋でも触れたように、トオルたちが「MOMOKOの存在を感じて接触した」と言うとモトハルは添え物扱いにヘソを曲げる。彼は超能力者の捜索に向かうが、すぐに諦めて戻って来る。
そうなると、「その手順ってホントに必要か?」と言いたくなる。
MOMOKOが仲間を自宅で休息させる時も、またモトハルは簡単にヘソを曲げる。彼は「それよりも研究所に乗り込もうぜ」と持ち掛け、ステーションが「トオルが体力を消耗している。襲撃は明日だ」と言うと「リーダーみたいな口利きしてんじゃねえよ。何か面白くないんだよな」と言う。しかしMOMOKOが笑顔で頬をツンツンと軽く突くと、すぐに機嫌を直している。
簡単に態度が変わるので、なんだかなあと。

で、すぐに機嫌が直ってMOMOKOの部屋に入ったモトハルだが、今度はステーションがMOMOKOの意識を読むことになると、またヘソを曲げて出て行ってしまう。
脇役扱いが不満で自己主張が強い少年として描きたいのなら、それは別に構わないのよ。ただし、それならそれで、もっと徹底しておくべきでしょ。
たまに思い出したようにチラッと描いて、すぐ機嫌が直るってことを繰り返されると、「要らんなあ」と感じる。
そんな雑な扱いなら、他のメンバーと横並びでいいよ。どうせドラマ展開には全く活かされていないんだし。

(観賞日:2020年10月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会