『テニスの王子様』:2006、日本

ある電車内で、テニスラケットを持った高校生の佐々部と取り巻きが騒ぎ立て、聾唖の少女・檜垣紫音に絡んだ。近くに座っていた中学 1年の越前リョーマは、佐々部に文句を付けた。佐々部はリョーマが持っていたテニスバッグに気付き、次の駅で降りて勝負するよう挑発 してきた。しかし実際に勝負を始めると、リョーマの圧倒的な腕前に佐々部は成す術も無かった。
アメリカから帰国したばかりのリョーマは、青春学園中等部に編入した。テニス部の練習に足を向けたリョーマは、部員の海堂薫から試合 を挑まれた。海堂は鋭く変化するスネイクショットを使い、試合をリードする。だが、すぐにリョーマはスネイクショットを会得し、海堂 とテニス部員を驚かせた。そこへ部長の手塚国光が現れ、勝手な試合を中止させた。
アメリカのジュニア大会4連続優勝の経歴を持つリョーマは、住職をしている父・南次郎に呼び戻されて帰国していた。南次郎も、かつて はプロのテニス選手として活躍した経歴を持っている。リョーマは南次郎に勝負を挑むが、まるで歯が立たなかった。青学テニス部の顧問 を務める竜崎スミレは、南次郎の後輩だった。手塚はスミレに、リョーマを特別扱いはしないと告げた。
テニス部には部長の手塚や海堂の他、副部長の大石秀一郎、不二周助、菊丸英二、乾貞治、河村隆、桃城武といった面々がいた。個性派の 先輩達が揃う中、リョーマは東京都地区大会のレギュラーに選ばれた。試合会場に行くと、昨年の準優勝校・氷帝学園の部長・跡部景吾が 部員とグルーピーを引き連れてやって来た。跡部は手塚に挑発的な言葉を投げ掛け、見学させてもらうと告げた。皆から離れた場所で仮眠 していたリョーマは、会場に来ていた紫音から挨拶される。だが、リョーマは彼女のことを覚えていなかった。
一回戦の不動峰中学との試合で、リョーマは伊武深司を相手にデヴュー戦を戦うことになった。試合途中、リョーマの手からラケットが 離れた。折れたラケットが跳ね返り、リョーマは目を負傷してしまった。皆が棄権を勧める中、リョーマは試合続行を主張する。手塚は 続行を承諾する代わりに、「10分で片を付けろ」と指示した。リョーマはラケットを左手に持ち替え、本来のレフティーとしてのプレーを 披露した。それだけでなく、彼は状況に応じて左右どちらでもプレーすることが出来た。
肘の故障を抱える手塚は、主治医から「このままテニスを続けると選手生命に危険が及ぶ」と警告された。しばらく治療に専念するよう 主治医は勧めるが、手塚は「今のメンバーで全国大会に行きたい」と熱く語る。主治医は手塚に、彼が得意とする零式ドロップショットの 構えを指示した。ポーズを取った腕に主治医が触れると、手塚は痛みに苦悶した。主治医は手塚の大会出場を許可する代わりに、絶対に 零式ドロップショットだけは使わないよう命じた。
手塚は高架脇のテニスコートにリョーマを連れ出し、勝負を要求した。自信たっぷりで臨んだリョーマだが、手塚の前に完膚なきまでに 叩きのめされた。手塚はリョーマの強さを認めながらも、そのままでは大勢の強豪が待ち受けている全国で勝てないと考えていた。そこで 彼は、リョーマを進化させるために勝負を要求したのだ。手塚はリョーマに、「青学の柱になれ」と告げた。しかし完敗にショックを 受けたリョーマは、次の日からテニス部の練習に顔を見せなくなった。
関東大会を一週間後に控えた日、手塚は初戦の相手が氷帝学園だと部員に告げた。そんな中、リョーマは何も言わずテニスコートに姿を 見せた。手塚が発表したレギュラーメンバーの中には、リョーマの名もあった。その代わりに、桃塚がレギュラーから外された。手塚は 桃塚に、「捻挫が完治したのに、それを庇って実力を出し切れていない」と告げた。
しかしリョーマは、メンバーから自分を外すよう手塚に告げた。ワールドユースの合宿があってアメリカへ行くため、関東大会には出場 できないというのだ。リョーマの態度に他のメンバーが反発する中、1人の男が乱入してきた。暴力事件で退学した元青学テニス部員の エガテ・マクラウド・檜垣だった。彼は氷帝学園の選手となったことを明かし、青学メンバーを挑発して去った。
関東大会の初戦、青学と氷帝の戦いが始まった。観客席では、リョーマもアメリカに渡らず試合を観戦していた。大石と菊丸はダブルスで 戦うが、善戦虚しく敗れ去った。乾と海堂のペアは、第1セットを犠牲にして相手のデータを分析し、勝利を収めた。河村は激闘の末、 ノーゲームで試合を終えた。不二は天才の称号にふさわしいプレーを見せ、相手を圧倒した。手塚は跡部を相手に勝利目前まで迫るが、 肘の故障で棄権を余儀なくされた。勝負は控え選手同士の対戦に持ち込まれ、リョーマが檜垣と戦うことになった…。

監督はアベ ユーイチ、原作は許斐剛(集英社刊『週刊少年ジャンプ』連載)、脚本は羽原大介&アベ ユーイチ、企画・プロデュースは 松田誠、製作は中山晴喜&永井秀之&渡辺純一&山路則雄&関一郎&井澤昌平&竹内茂樹、プロデューサーは梅川治男、 エグゼクティブプロデューサーは上羅尚治&松本慶明&鳥嶋和彦、COエグゼクティブプロデューサーは井上孝史、企画スーパーバイザーは 片岡義朗、撮影は清久素延、編集は宮島竜治&森下博昭、録音は田中靖志、照明は横道将昭、美術は稲垣尚夫、CGディレクターは土井淳 、CGプロデューサーは豊嶋勇作、音楽は岩代太郎。
主題歌『一歩目』 作詞:Yellow Cherry、作曲:Yellow Cherry。
出演は本郷奏多、城田優、岸谷五朗、島谷ひとみ、鈴木裕樹、相葉弘樹、足立理、荒木宏文、小谷嘉一、加治将樹、鯨井康介、ラサール石井、 山川和俊、石井元気、中江大樹、柄本時生、鈴木淳評、伊達晃二、齋藤ヤスカ、載寧龍二、岩田さゆり、渡辺哲、堀内正美、山中敦史、 つぶやきシロー、RIKIYA、篠田光亮、茅野勝利、晃一、海斗、鎌苅健太、福井克之、サミュエル・ポップ、内田憲武、田中菜月、 橋本直樹ら。


週刊少年ジャンプ連載の人気漫画『テニスの王子様』を基にした実写映画。
『テニスの王子様』は原作漫画が大ヒットし、TVアニメ化されて人気を集め、OVAと劇場版が作られた。
次に生身の人間が舞台で演じるミュージカルが作られ、こちらも大盛況となった。
そんな「テニプリ」人気の流れに乗って、いよいよ松竹での実写映画化となったわけだ。
リョーマを本郷奏多、手塚を城田優、南次郎を岸谷五朗、檜垣をRIKIYA、跡部を載寧龍二、紫音を岩田さゆり、スミレを島谷ひとみ、河村 の父を渡辺哲、大石を鈴木裕樹、不二を相葉弘樹、菊丸を足立理、乾を荒木宏文、河村を小谷嘉一、桃城を加治将樹、海堂を鯨井康介が 演じている。
リョーマ役の本郷奏多を除けば、青学メンバーはミュージカル版でも同役を演じた経験のある面々が揃っている。
監督は『ウルトラマンネクサス』のアベユーイチ。

冒頭、佐々部が「御大層なテニスバッグ持ってんじゃねえかよ」とリョーマを挑発し、 次の駅で降りるよう要求する場面からして失笑モノ。
そういう状況で不良が主人公に持ち掛けるのは、ケンカと相場は決まっている。
しかし、佐々部はテニス勝負を求めるのだ。
なんでだよ。
「主人公がヒロインを助ける」というシチュエーションを作るにしても、他に幾らでも方法はあっただろうに。

あと、なんで紫音を喋ることが出来ないキャラクターにしてあるのか理解に苦しむ。
そのことがストーリー展開において大きな意味を持って来るのかというと、そういうわけでもない。
「芝居が稚拙なのを隠すためにセリフを喋らせないようにした」と解釈するのは無理だし、たぶん違うだろう。
むしろ若い男優陣に比べれば、岩田さゆりの方が芝居は出来るんじゃないか。

佐々部に勝負を挑まれる冒頭の段階で、既にリョーマのテニスの腕前もアピールする形になっている。
それ自体は別にいいけど、だったら、もっと強くアピールしてほしいものだ。
場面が短いし、印象度は弱い。リョーマの何がどんな風にスゴいのか、サッパリ分からん。
それと、その後で海堂に勝負を挑まれる場面があるが、それがあるなら冒頭の佐々部との勝負はカットすべきだ。
リョーマのスゴさを描くのは、テニス部での勝負まで待たないと。
で、そこは一方的にリョーマが圧倒する形にして彼のスゴさをアピールすべきなのに、わずかな時間とは言え、海堂のスネイクショットで リョーマが焦る様子、劣勢に陥る様子を描いてしまう。
そりゃダメだろ。
仮にスネイクショットでポイントを失うにしても、リョーマは冷静な態度を崩しちゃダメだろうに。そこは余裕の笑みでも浮かべて ポイントを失うべきなのよ。

リョーマと海堂の試合を手塚が止める場面では、手塚の顔をなかなか見せない。
顔をカメラで捉えずに手塚を登場させ、背中向きのままで試合を止める。振り向いたところで、ようやく顔が見える。
そして、すぐに次のシーンへ移る。
どういう意図を持った演出なのかと。
それは勿体を付けるポイントを明らかに間違えているぞ。
手塚が誰なのかなんて、別に引っ張るネタでもないだろ。

原作のどの辺りまで描けば満足だったのかは知らないが、相当のボリュームを詰め込んでいる。そのため、ものすごく慌ただしい進行に なっている。
青学のメンバー紹介もそこそこに、あっという間に地区大会へと進む。手塚以外は、ほとんど顔と名前を把握するのも難しいぐらいの薄い 存在感。
リョーマとメンバーの交流とか、人間ドラマとか、そんなのは全く無視。
青学がどんな学校なのか、テニス部は全国的にどの辺りのレヴェルなのかもフワフワしたままだ。
地区大会には跡部が出てくるが、こいつが何者かもボンヤリしている。出て来た直後に誰かが説明してくれるのかと思ったら、そのまま スルーだし。
それと、1つの場面から次の場面への転換も、ちゃんと区切るところで区切っていないから、最初から最後までダイジェストを見せられて いるような気分になる。緩急の使い分けも出来ておらず、ズルズルと流れていく感じ。
いつの間にか地区大会に勝利しており、あっという間に関東大会に辿り着く。

不動峰の伊武との試合は、リョーマのデビュー戦なのだから、彼が驚異的な強さを披露して観客が驚くという描写にすべきだろう。なのに 、「ラケットがすっぽ抜けて、折れたラケットで目を怪我する」というアクシデントを用意してしまう。
そんなの、後半に持って来るような展開だよ。ピンチを作るのは早すぎる。
しかも自分のミスで、雑魚キャラ相手にピンチってさ。
その後、今まで右手でフレーしていたリョーマが、本来の左手に持ち替えるという展開になる。
それを見せるために怪我をさせたことは分かるが、リミッター解除の見せ方にもタイミングにも疑問を覚える。
せめて自分のミスじゃなくて、何か仕方の無い事情で怪我してくれよ。
あと、圧倒的にリードしているべきなのに、スコアを見たら、かなりポイントを取られてるのね。

リョーマは「クールに装っているが、負けず嫌いで熱いモノを内に秘めている」というキャラなんだろうが、なんせ時間が足りなくて展開 が忙しいものだから、ほとんど彼の心の動きに切り込んでいくことが出来ない。彼と仲間の対立から友情へというドラマも描けない。
っていうか、手塚以外のメンバーは、ほぼ「単なる数合わせ」と言ってもいいような状態だ。
あと、「原作であったエピソードだから」ということで無条件に挿入している場面が多いようだが、そういう意識が間違いだったんじゃ ないかと思うんだよな。
漫画と違って、映画は「2時間で1つの物語」という構成なんだから。それに合わせて「どこで起伏を作るか、どういう 流れにするか」というのは考えるべきで、連載漫画とは別の意識で臨むべきじゃないかと。
だから、例えば前述した「目を怪我してレフティーに」というエピソードなどは、削ってもいいんじゃないかと。

まだ始まってから半分ほどしか経過していない段階で、もう氷帝との試合に突入してしまう。
氷帝との試合は、すなわちクライマックスということだ。
そんなに早くクライマックスに突入して時間配分は正しいのか、どうするつもりかと思っていたら、それまで個人としての存在感がゼロに 等しかった青学メンバーの試合シーンで時間を使う。
どうやら時間配分に留まらず、色々な意味で計算を間違えているようだ。

リョーマと手塚の絆、仲間との友情、ヒロインとの関係、親子の関係など、人間関係の描写は全ておざなり。
いや、なおざりに近いかな。
「とにかく原作に登場する主要キャラだから出しておこう」ということでキャラ押し込みまくりで、だから総じて存在感は薄く、ただ出て 来ただけという奴も少なくない。
で、だったら映画オリジナルキャラの紫音は有効活用されているのかと思いきや、見事なほど無価値。
普通ならリョーマとの恋愛劇を作る役割を担わせるんだろうが、ホントに「何も無い」と言い切っていいぐらいだ。
あの流れだと、終盤でリョーマを最後の出場者として青学メンバーが認めるのは説得力ゼロだ(そこまで交流が深まっていない)。また、 檜垣がリョーマの対戦相手としてラスボス的存在になっているのも、役者不足も甚だしいと言わざるを得ない。
そもそも、存在自体が要らないという印象。
流れとしては、跡部が手塚の腕を破壊し、リョーマがリベンジという形でいいだろう。

原作漫画では現実離れした必殺ショットが登場しており、それを実写で再現するためにVFXが使用されている。
必殺ショットだけに留まらず、テニスシーンでは普通のラリーにおいてもVFXが使われているようだ。
ただ、それが安いんだよな。むしろ必殺ショットが無い普通のラリーの方が安い。特にラリーを引いた映像で捉えた時に、ものすごく チープな印象になっている。
ただし、どれだけVFXを使ったところで、陳腐になったような気がしないでもない。
それを乗り越えるためには、もっとバカバカしさをアップさせ、「熱血バカ弾けまくり」に誇張して大げさな表現にした方が良かったの では。もっとスローやコマ落としなど映像テクニックを駆使し、いっそ普通のラリー無しで必殺ショットのみで試合を構成するぐらい 思い切ったことをやるとか。

檜垣がリョーマたちを挑発するシーンで、まるで彼が呼んだかのように大粒の雨が降り出す。
この有り得ない描写が標準になるぐらいのテンションで、全体を覆うべきだったんじゃないかなと。
試合のシーンだけに留まらず、もっと漫画チックに、次から次へと現実離れした表現を繰り出しても良かったんじゃないかなと。
なんか表現が中途半端に思えるのよね。
もちろんリアリズム路線でやっているわけではないんだけど、まだまだケレン味が足りないかなという印象が強い。
関東大会に突入すると映像表現のケレン味がアップするが、それでも物足りない。「ケレン味たっぷりの映像表現」を最大の セールスポイントにするぐらいの気概で取り組むべきだったのではないかと。どうせ青春ドラマ・人間ドラマは全く描けていないんだし。
まあ「テニプリ」に熱狂するような腐女子からすると、イケメンの若い男優が揃っているというだけで満足できるのかもしれないけどさ。

(観賞日:2008年4月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会