『天国までの百マイル』:2000、日本
城所安男はバブル崩壊で経営していた会社を失い、多額の借金を抱えて自己破産した。妻の英子は2人の子供を連れて、安男の元を去った。安男は現在、幼馴染みの会社で働かせてもらっているが、30万円の給料は全て養育費に消えてしまう。
ある日、安男は母・きぬ江が倒れたという連絡を受ける。優しかった母は、持病の心臓病を悪化させていた。安男が破産した時に冷たかった彼の兄弟達は、母の見舞いにも姿を見せず、もはや治らないものだという態度を示す。
主治医の藤本は安男に対し、千葉にいるアメリカ帰りの曽我医師ならきぬ江を助けることが出来るかもしれないと告げる。移送費に使えるだけの金が無い安男はワゴン車を借り、母を乗せて東京から千葉へと向かうこにした…。監督は早川喜貴、原作は浅田次郎、脚本は田中陽造、製作は奥山和由&早河洋、プロデューサーは佐々木亜希子、製作総指揮は中村雅哉、撮影は田村正毅、編集は岡安肇、録音は井上宗一、照明は山川英明、美術は丸尾知行、音楽プロデューサーは藤井尚之、主題歌はF−BLOOD。
主演は時任三郎、共演は大竹しのぶ、羽田美智子、村上淳、八千草薫、柄本明、ベンガル、筧利夫、ブラザー・トム、小野寺昭、寺島進ら。
浅田次郎の実体験を基にした小説を映画化した作品。
藤井尚之の音楽は意外にハマっているが、F−BLOODの歌は明らかに邪魔。
「天国までの百マイル」というタイトルに、ちょっとイヤな臭さを感じてしまった。
普通の日本人は「百マイル」なんて言わないもんな。
わざわざマイルで計算する必要が無いんだし。
ただ、「百マイル」の方がゴロはいいわな。ま、これはアリかな。百マイルというのは160キロだから、それほど長い距離ではない。
そりゃ心臓が爆発しそうなきぬ江や彼女を運ぶ安男にとっては長く感じるかもしれないが、その気持ちは観客には伝わってこないしね。
旅の途中で幾つもエピソードがあるというわけでもないから、ロード・ムーヴィーとしての面白さは無い。実際、旅のシーンは30分ぐらいかな。安男を演じるのは時任三郎。
何しろリゲインのCMで「24時間戦えますか」などと言っていた人であるから、人生に疲れたサラリーマンには見えづらい。
いくら冴えない感じを出そうとしても、過去の失敗を含めた奥深さを感じない。
マリは彼に哀愁を感じるらしいが、私にはこれっぽっちも感じられなかった。感動ドラマとするエナジーを生み出す大きなポイントは、マリという人物にある。
しかしマリが聖母として強くなりすぎ、バランスを崩しているのも確かだ。
また、演じるのが大竹しのぶということでポイントと成り得ているのは確かだが、キャラクター設定からすると実年齢が高すぎるだろう。妻の英子のポジションが、どこにあるのかが分かりづらい。
それと、まだ英子が画面に登場する以前に、給料が30万の安男から彼女が毎月30万の養育費を取っていることが示される。そのため、金の切れ目が縁の切れ目で、既に安男への愛情も無い女だと思ってしまう。
しかしイヤな女として描かれるのと思いきや、そうでもない。
安男の母の面倒を見ているなど、優しい面ばかりを見せる。
まあ演じているのが羽田美智子だし、製作は奥山和由だ。奥山さんが羽田美智子にイヤな女を演じさせるはずがないから、それも当然のことか。藤本が「百マイルの心臓を作ります」とか言うのは、やけにウソ臭いセリフだ。
曽我がやたら「百マイル」を繰り返すのも同じく。
藤本や曽我が安男がやたら「やっちゃん」と呼ぶのもウソ臭いよなあ。
そんなに親しい間柄じゃないでしょうに。この作品は本質的には感動的な内容であるにも関わらず、あらゆるポイントを少しずつ外すことによって、あえて観客を感動させないように仕向けている。
そして泣かせるような場面で、あえて泣かせる演出をしていない。
その絶妙な外し方に、製作サイドの巧妙さを感じた。
ただし、あえて感動させようとしない理由は不明だ。