『天国までの百マイル』:2000、日本
城所安男は2年前に経営していた会社が潰れて破産し、妻の英子は息子を連れて出て行った。今は幼馴染みの中西が営む包装紙材料店「中西商店」で営業マンとして働かせてもらっているが、やる気は全く無い。彼は外回りをサボって公園で昼寝をしているため、営業成績は全く上がらない。安男が日報を出していると経理部長が現れ、「彼だけ特別扱いでは困る」と中西に告げた。
城所の手取りは30万円だが、それは全て英子に支払う養育費に回される。離婚調停を担当した野田弁護士の事務所を訪れた安男は、「給料と養育費が同じでは生活できない」と訴えるが、「この2年間、どうしてきたんだ?」と問われると何も言えなくなる。野田は、安男が会社を潰した時に財産を隠したのではないかと疑っていた。しかし、そうではなかった。安男はホステスの水島マリとアパートで同棲生活を送っており、彼女の稼ぎが生活費になっていたのだ。
母・きぬ江が持病の心臓病で入院したという連絡が入ったため、安男は病院へ行くことにした。マリは彼に見舞金を渡した。きぬ江には長男・高男、長女・優子、次男・秀男という子供たちがいて、安男は末っ子だった。だが、上の3人は多忙を理由に、病院へは姿を見せていなかった。安男が病院へ行くと、担当医の藤本は、そのことを批判した。彼は安男に、きぬ江の心臓がいつ止まってもおかしくない状態になっていることを告げた。
安男は藤本から、2日前に英子が病院へ来たことを聞かされた。ロビーに出た彼は、見舞いに来た英子と遭遇した。きぬ江が入院した後、彼女が面倒を見ていたのだ。英子と軽く話して病院を後にした安男は、アパートに戻って泣き崩れた。安男が病院を再訪した時、藤本は「バイパス手術の可能性がある」と告げた。手術の成否に関して、心臓手術の権威・春名一郎に相談することを彼は語った。
安男は高男、優子、秀男に連絡を取り、病院に来てもらった。春名は安男たちに、手術をするにはリスクが大きいことを説明した。安男を除く3人は、手術を避けることに賛同した。すると藤本は、春名が内密の話として「千葉の鴨川にあるサンマルク自然病院の曽我医師なら何とかなるかもしれない」と言っていたことを安男たちに明かした。高男たちは「このまま、そっとしておいた方がいい」と考えるが、安男は母に「手術を受けてください」と頼んだ。きぬ江は、ずっと安男が手を握っていることを条件に付けた。
安男が母に手術を受けてもらう考えを述べると、藤本は「輸送や再検査のリスクがあり、手術が受けられない場合もある」と告げた。千葉の病院までは160キロもあり、救急車では県を跨いでの患者輸送が認められていない。民間の救急サービスを利用すると、高額の代金が必要となる。そこで安男は、自分が母を車で千葉まで送っていくことにした。彼は英子に会って事情を説明し、1か月分の養育費を待ってもらった。きぬ江の退院手続きを取った安男は、30万近い入院代に仰天した。
安男は中西に会社のライトバンを借り、母を乗せて出発した。途中、安男は金融会社の社長・片山に連絡を取り、「ガソリン代だけでも貸してもらえませんか」と頼む。安男は片山に300万の借金をしていたが、金利さえ支払っていなかった。片山は「良く俺の前に顔を出せたな」と非難するが、きぬ江が「胸が苦しい」と言うのを聞くと、慌ててリアシートに移した。片山は安男に「アンタは金の有り難味が分かってない。甘ったれるのも、いい加減にしろ」と告げるが、財布の金を渡した。
千葉へ向かう途中、きぬ江は小林一也という男のことを語った。安男は幼い頃、クリスマスイブに小林から野球のグローブをプレゼントしてもらったことがあった。夫を亡くしているきぬ江は、その頃、小林と交際していた。きぬ江は小林から求婚されたが、結局は一緒にならずに終わった。鴨川に到着すると、きぬ江は「病院へ行く前に海が見たい」と言い出した。母を海へ連れて行った安男は、「欲は言いません。あと5年、生きてください」と告げた…。監督は早川喜貴、協力監督は五十嵐匠、原作は浅田次郎、脚本は田中陽造、プロデュースは奥山和由、企画・プロデュースは木村純一、プロデューサーは佐々木亜希子、協力プロデューサーは吉田啓&岩本太郎、製作は早河洋&桜井五十男、製作総指揮は中村雅哉、撮影は田村正毅、編集は岡安肇、録音は井上宗一、照明は山川英明、美術は丸尾知行、音楽プロデューサーは藤井尚之、主題歌はF-BLOOD『天国までの百マイル』。
出演は時任三郎、八千草薫、大竹しのぶ、羽田美智子、柄本明、村上淳、ブラザー・トム、ベンガル、小野寺昭、筧利夫、掛田誠、不破万作、梓陽子、宮田早苗、吉田朝、品川徹、寺島進、鈴木仁、内海卓哉ら。
浅田次郎の同名小説を基にした作品。
監督の早川喜貴は、これが初の全国劇場公開作品。
安男を時任三郎、きぬ江を八千草薫、マリを大竹しのぶ、英子を羽田美智子、曽我を柄本明、藤本を村上淳、中西をブラザー・トム、野田をベンガル、高男を小野寺昭、片山を筧利夫、優子を宮田早苗、秀男を吉田朝、経理部長を不破万作、野田の秘書を梓陽子、春名を品川徹、小林を寺島進が演じている。マリ役の大竹しのぶというのは、ミスキャストではなかろうか。
正直、ホステスには全く見えないんだよな。
っていうか、原作の設定がどうなのかは知らないけど、もうちょっと若い女優の方が良かったんじゃないかなあ。
あえて「年増のホステス」ってことなのかもしれんけどさ。
終盤の見せ場は、間違いなく大竹しのぶの演技力に支えられているけど、そもそもマリの必要性にも引っ掛かる。安男と英子は、今も愛し合っているという設定みたいなんだよね。
でも、マリに対しても、安男は本気で「愛してる」と言っている。
その「2人の女性に対して本気の愛を向けている」という部分に、引っ掛かりを覚える。
あと、安男ときぬ江の母子関係より、「マリが安男を立ち直らせて姿を消した」という展開をラストに持って来て、そっちの関係を重視して話を締めているのも違和感がある。病院を訪れた安男が母の深刻な病状を知り、別れた妻と遭遇して会話を交わし、帰宅して泣き崩れるという辺りは、映像がずっと引いていて、淡々と描写している。
だけど、もうちょっと彼の心情に寄り添うような形で演出した方が良かったんじゃないかなあ。
TVサイズでやれということじゃないけど、安男の表情に寄るようなカットが途中で挿入されても良かったかなあという風には感じる。この映画だと、安男は「才能や運が無かっただけで、性根はいい落ちぶれ者」という風に見える。
だけど、それってキャラ造形として正解なんだろうかと考える。
かつて羽振りが良かった頃は調子に乗って偉そうにしていて、だからこそ会社が潰れた時に兄や姉から「首を吊って死ね」と辛辣な言葉を浴びせられるぐらい毛嫌いされているんじゃないかと思うんだよな。英子は、きぬ江の面倒を見てくれたり、安男の気持ちを汲み取って養育費の支払いを待ってくれたりと、優しい女に描かれている。
だけど、そもそも「金の切れ目が縁の切れ目」で出て行ったんだし、手取り30万円の男に毎月30万円の養育費を要求しているんだし、そんなに良く出来た女ってわけでもないよなあ。
「実は、その裏には優しさに溢れた理由が」というわけでもないし。
30万円の養育費を要求しているシビアな部分と、劇中で見せる優しさが、どうも同じ人物として合致してくれないなあ。「破産して妻子に逃げられた男」という安男のキャラ設定が、「病気の母を100マイル先の病院まで運ぶ」という行動と連動していない。
これは致命的な欠陥だ。
安男が破産して妻子に逃げられた男じゃなかったとしても、病気の母を100マイル先の病院まで運ぼうとする行動には何の変わりも無い。
「それは母を救おうとする行為だったが、実は安男が助けられており、立ち直るきっかけになった」という設定になっているみたいだけど、そこを上手く表現できていない。(観賞日:2011年1月25日)