『タスマニア物語』:1990、日本

小学6年生の石沢正一は飛行機でオーストラリアに向かいながら、入院している母の安江と話した時のことを回想する。安江に「お父さんに会いたくない?もう2年も会ってないもんねえ」と言われた時、彼は「会いたくないよ。父さん、嫌いだもん」と告げた。すると安江は、「母さんは今でもお父さんのこと好きよ。母さんは、お父さんに会いたい」と口にした。その母が死去した時、父は葬儀に顔を出した。彼は神妙な顔付きで、正一の祖母・菊や祖父・嘉市に挨拶した。
春休みが近くなった頃、正一はクラスメイトが家族で沖縄や長崎に行くと話しているのを聞いた。「お前は?」と訊かれた正一は、咄嗟に「オーストラリア」と答えた。信じないクラスメイトが理由を尋ねるので、「オーストラリアには父さんがいるんだ」と正一は告げた。「母子家庭じゃなかったの」という言葉を受けて、彼は「いるんだ、父さん。京亜物産のシドニー支社でさ、偉いんだぜ。バリバリの商社マンさ」と口にした。
正一は一緒に暮らしている祖父母の承諾を得て、オーストラリアのシドニーへ向かった。しかし京亜物産に赴いた彼は、顔見知りの警備員から父が会社を辞めたこと、もうシドニーに住んでいないことを聞かされる。街を見物していた正一は、山下実という日本人の少年に出会う。メルボルンから半年前に引っ越してきた実は、家出していた。「俺んち、色々と問題あるんだよなあ」と彼は漏らした。
警備員から話を聞いた平島直子という女性が正一の前に現れ、栄二の所まで連れて行くよう頼まれたことを告げた。「でも、そう簡単には行けないのよ」と彼女は言い、栄二がタスマニア島にいることを教える。飛行機でも1時間は掛かると知り、正一は「空港へ連れて行って下さい。僕一人で行きます」と言う。直子は「とにかくウチへ来なさいよ。お父さんに連絡してからよ」と告げ、正一を連れて行こうとした。実が彼女に挨拶すると、正一は彼も一緒に連れて行くことにした。
直子は子供たちを家に招き入れ、栄二との関係について「自然保護運動の仲間みたいなもんね」と説明した。チケットが取れなかったため、直子は正一に車とフェリーを使ってタスマニアまで行くことを告げる。実も2人に同行し、タスマニアへ行くことにした。3人が栄二の家に到着すると、彼は不在だった。栄二は車を走らせ、自然保護のデモ隊が押し掛けている京亜物産の支社へ赴いた。彼は出張で来ていた元部下の都築晴夫に気付き、声を掛けた。
都築が「トンプソン先生から自然保護について貴重なご意見を伺っていました」と話すと、栄二はトンプソンに「伐採地にまた、毒物が撒かれていました」と言う。都築は彼に「森林伐採、やめてくれよ」と言われ、「ウチの会社が森林伐採やってるわけじゃありませんよ。地元の伐採業者が木材をチップにする。そのチップは我々が買ってるだけですから」と述べた。栄二が憤慨して「そんな話が俺に通用すると思ってるのか」と抗議すると、都築は「我々がチップを買えばタスマニアは潤い、日本は助かる」と告げた。直子の車で京亜物産の支社にやって来た正一と実は、そんな様子を眺めていた。
トンプソンが自然破壊を危惧していることを言うと、都築は「ですから、伐採業者には植樹を勧めています」と述べる。栄二は「何十年掛かるか知ってるだろ」と言って都築に掴み掛かろうとするが、直子が制止に入った。しかし「去年まで貴方がやってらしたことですよ。今さら綺麗ごと言わないで下さい」という都築の言葉に、栄二はカッとなってパンチを浴びせた。警官に取り押さえられて連行されていく父の姿を、正一は見つめていた。
直子と正一が警察署の前で待っていると、中山博という男が栄二の車に実を乗せてやって来た。中山は直子に、栄二に車を持ってきてくれと頼まれて家へ行ってみたら実がいたのだと説明した。直子は中山がモグリの観光ガイドをやっているという噂を耳にしていた。それを指摘された中山は、「日本レストランのウエイターという正業がある。観光ガイドは頼まれて仕方なくやってるだけ」と釈明した。栄二は釈放され、直子たちは彼の家へ行く。正一と2人になった実は、栄二に殴られたのが自分の父親だと明かした。
正一と実がウォンバットを見つけて遊んでいると、自転車で通り掛かった少女が英語で「いじめないで」と叫んだ。そのまま走り去った少女・まりこに、正一と実は目を奪われた。翌日、2人は彼女の母である小夜から、まりこを紹介される。まりこはトンプソンの娘だった。まりこは母に促され、正一と実を動物園へ案内した。シドニーへ戻る直子に、小夜は「こっちへ移って来れば?」と持ち掛けた。直子は栄二に密かな思いを寄せていた。
タスマニアタイガーを見たという情報を聞き付けた栄二は、興奮した様子を示した。タスマニアタイガーは絶滅したとも言われている幻の動物で、60年前から捕まっていない。しかし栄二は生きていると信じており、ずっと追い続けている。かつて彼は、タスマニアタイガーを目撃したことがあるのだ。一方、都築は妻の京子から実が家出したことを知らされ、警察に連絡を入れていた。電話を掛けて来た直子と夫の関係を疑った京子は、ヒステリックな態度を示した。
栄二は山中にテントを張ってタスマニアタイガーを見つけようとするが、2日が経過しても現れないため、同行した正一と実は退屈になった。水を汲みに出掛けた2人は、撃たれて怪我を負っている鹿を発見した。栄二は彼らに救急箱を取りに行かせ、その間に鹿を安楽死させた。もう助からないから死なせてやったという説明に納得できない正一は、「父さんは冷たいんだよ、大嫌いだよ」と怒鳴った。
タスマニアに留まっていた直子は、正一、実、まりこを食事に誘った。栄二は直子に、正一をシドニーへ連れて行って東京行きの飛行機に乗せてもらえないかと頼んだ。「ここでの2人の生活は楽しくないんじゃないかと」と口にする栄二に、直子は「親子じゃないですか」と告げる。「一からやり直そうと思って会社を辞めたんじゃないんですか。だから正一君とも、また」と彼女が言うと、「正一は、俺のことが好きじゃないんです」と栄二は述べた。
栄二は直子に、3年前にシドニーへ来たこと、仕事に没頭して家庭を顧みなかったこと、妻が正一を連れて日本へ戻ったこと、離婚を切り出された時に帰国ことよりも仕事を選んだことを話す。正一が母親と暮らすことを選択したことを話す彼に、直子は「だったら正一君がお父さんを選んでいたら良かったんですか」と責めるように告げた。実を捜索している警官隊が来たため、彼の嘘が露呈した。都築から電話が掛かって来るが、実は何も言わずに受話器を栄二に渡した。
翌朝、都築は実を迎えに行くが、子供たちは寝袋を持ち出して家出していた。栄二は捜索のため、山に入った。実は正一に両親が離婚するかもしれないと話し、「どっちに付いて行ったらいいと思う?」と問い掛けた。母親に付いて行った理由を訊かれた正一は、「シドニーにいる時から家の中、俺と母さんだけだったからさ。父さんは仕事でほとんど家に居なかったし」と答える。実は「俺と同じだ」と口にした。「お前はどっちに付いて行きたいんだよ?2人とも好きなのか」という正一の質問に、彼は「嫌い」と答えた。
実は「でも、もういいさ。山の中で死んじゃえば、どっちでもいいんだ」と明るく言い、山奥へ向かう。しかし坂を滑り落ちて、左腕に怪我を負った。夜になり、タスマニアデビルの鳴き声で怖くなった正一は、ボートを浮かべて川の上で眠ろうと実に提案した。しかし2人が眠っている間にタスマニアデビルが繋いであったロープを噛み切ったため、ボートが川を流されてしまう。下流に流れて来たボートを見つけた住人が警察に連絡し、正一と実は保護されて親元へ返された…。

監督は降旗康男、脚本は金子成人、製作総指揮は鹿内宏明、製作は日枝久、企画は三ツ井康、エクゼクティブプロデューサーは村上光一&堀口壽一、企画プロデューサーは宮島秀司、プロデューサーは河井真也&市古聖智、プロデューサー補は高沢吉紀&佐藤信彦&加藤浩輔、企画協力は中村敏夫、撮影は林淳一郎、美術は山口修、照明は高野和男、別班撮影は井上明夫、録音は今井善孝、編集は飯塚勝、音楽監督は久石譲。
出演は田中邦衛、薬師丸ひろ子、根津甚八、多賀基史、横尾健太郎、小島聖、かとうかずこ、緒形直人、宮崎美子、富司純子、加藤治子、小林桂樹、フィリップ サバイン、ピーター フォレスト、ジョン ヘイル、ゴードン クリストファー、ドン エベリントン、マイケル ケートン、ウイリアム ローム、イアン レイン、レズ ウインスピアー、メアリー マクミナミン、ケイト ルーインキャンプ、ポール シュラター、ルーク ラインバーガー、レッグ オニール、島名美里、山中一希、大熊敏志、外塚環、村田泰則、松田正信、武田祐介、南風見恵子、掛田誠ら。


『自由な女神たち』の金子成人が脚本を執筆し、『極道の妻たち 三代目姐』『あ・うん』の降旗康男が監督を務めた映画。
栄二を田中邦衛、直子を薬師丸ひろ子、都築を根津甚八、正一を多賀基史、実を横尾健太郎、まりこを小島聖、小夜をかとうかずこ、中山を緒形直人、京子を宮崎美子、安江を富司純子、菊を加藤治子、嘉市を小林桂樹が演じている。
本来なら、東宝は本作品ではなく、角川春樹事務所の製作した『天と地と』を1990年公開の夏に公開する予定だった。
しかし配給先が東映に変更されたために他の映画で埋めなくてはならなくなり、フジテレビに頼んで作ってもらったのが本作品だ。

映画が始まると、宇宙から見た地球の様子が写し出される。
「これってオーストラリアのタスマニアを舞台にした動物映画のはずだよね。SF映画じゃないよね?」と首をかしげていると、オープニング・クレジットを表示しながらカメラがどんどん地球に寄ってタスマニア島を大きく写し、そこに『タスマニア物語』のタイトルがドーンと出る。
なるほど、そういうことか。
って、納得するかよ。
なんで宇宙規模からタスマニアを見せる必要があるんだよ。

正一がシドニーに行きたいと言い出すと、嘉市は「外国ったって飛行機に乗りゃあ着くんだから。それに2年前には正一が暮らしていた街じゃないか」ということで簡単に認めてしまう。
まだ祖父母も付いて行くってことなら分かるんだけど、なぜか正一は1人で行きたがる。
でも、クラスメイトが話していたのは「家族で旅行へ行く」ということなんだから、正一も現在の家族である祖父母と一緒に行こうと考えた方が筋は通るぞ。
そもそも、なんで一人で行きたがるのか良く分からんし。祖父母が拒んだのならともかく。

シドニーに到着した正一は、何の問題も無くバスに乗って京亜物産のシドニー支社へ行く。
かつて住んでいたので、慣れているんだろう。
しかも、京亜物産には知り合いの警備員がいて、達者な日本語で話し掛けてくれる。
正一がシドニーに住んでいただけでなく、父の勤めていた会社の警備員と仲良しってのは、今回の旅にはラッキーなことだ。
しかも、その警備員が正一のことを覚えていて、さらに日本語が達者で、わざわざ直子と連絡を取って栄二の元へ連れて行くよう頼んでくれる。とてもラッキーだね。

父が会社を辞めてシドニーにもいないと知らされた正一は、すっかり困り果てるのか、もしくは何とかして父の居場所を見つけ出すための行動を起こすのかと思ったら、呑気に観光している。
実に「すごく美味いアイスクリーム売ってるとこ知ってるんだ」と言われて興奮し、一緒にアイスを食べている。
ところが、公園でノンビリしていたら、警備員から話を聞いたと直子が来て、栄二の元へ連れて行ってくれる。
ラッキーだね。っていうか、よく正一の居場所がすぐに分かったもんだな。

正一は実と出会ったばかりなのに、すぐに仲良くなっている。子供って凄いね。
で、家出している実も正一と共にタスマニアへ行くことを決めて、家に電話を掛ける。
母親は「学校にも行かないで、どこにいるの?」と怒っているのだが、直子が聞いていることを意識した実は完全に無視し、「旅はもう今日から始まってるんだから。ありがとう。目的地に着いたら電話する」と、まるで母親と上手く話が付いたかのように喋る。
「僕の家は両親の教育方針で一人旅っていうことになってるから」と言い、下手な芝居で笑い声を上げる。

最初の電話の時点で警察に捜索依頼を出すべきだと思うが、かなり後になってから実際の捜索依頼は出されている。しかし実は警察に発見されても、正一から゜本当に変えるのか」と問い掛けられると、一緒に家出して姿をくらましてしまう。
そこまでやるぐらいだから、彼の家庭には大きな問題があるんだろうと予想できる。
実際、母親は些細なことでヒステリックになっている。
しかし、「複雑」と言っていた実の家庭環境は単に両親が不仲というだけの単純な問題であり、しかも、そこを掘り下げる作業は乏しい。
結局、家に戻った後の実がどうなったのかも、両親の関係がどうなったのかも分からないままだし。

直子は「チケットが取れなかったら強行軍になる。車でメルボルンまで行って、そこからフェリーでタスマニアへ行く」と説明している。
だが、翌日のシーンになると、そこは短いダイジェストで処理されており、あっさりとタスマニアに到着する。
そこにロードムービーとしての充実があるわけでもなければ、強行軍によるハプニングやトラブルも無い。正一や実が愚痴をこぼしたり、体調を崩したりするわけでもない。
だから、何のために「チケットが取れずに車とフェリーで行くことにした」という設定にしてあるのかは全く分からんが、たぶんオーストラリアの景色を見せたかったんだろう。

直子が栄二との関係について「自然保護運動の仲間みたいなもんね」と言うと、正一は「シゼンホゴウンドウって?」と首をかしげる。小学6年生なのに、あまり頭は良くないらしい。
そこで直子は、宣伝ポスターを見せながら「スタンダップ、立ち上がれ。オーストラリアの森や動物たちのために」「森を救え。自然がこんな情けない状態にならないように」と語る。デモ活動をしている面々の姿が挿入され、「大事にしなきゃいけないと思うのよ。だって地球って人間だけのものじゃないでしょ」と直子が語る。
この時点で既にヤバい雰囲気が漂っていたのだが、悪い予感は的中した。その後も、自然保護のメッセージが声高に訴えられる。
その手の主張を押し付けて来る映画に、ロクなモンはないのだ。
しかも、その主張は、ものすごく薄くて浅い。

栄二が警官に連行された後、シーンが切り替わると直子と正一が警察署の前で待機している。そこに実を車に乗せた中山が来るのだが、そこで初めて「いつの間にか実が姿を消していた」ということが語られる。
そうだったのかよ。
っていうか、どういう経緯で直子たちの前からいなくなったのか、なぜ直子は実がいなくなったのを放置していたのか、すげえ引っ掛かるぞ。
あと、そもそも物語として「実が姿を消していた」という設定にしている意味も無いだろ。中山だけが車を届けるために警察署へ来る設定でも、まるで支障は無いぞ。

正一は父親が京亜物産を辞めたことを知り、元部下に殴り掛かって警察へ連行される姿も見ている。
しかし、それで強いショックを受けて帰国しようと考えたり、父親を追及したり、怒りや悲しみをぶつけたりすることは無い。ただ「参るよなあ。東京へ帰ってクラスの奴になんて言うんだ」と漏らす程度。
そういうことは気にするけど、父親が警察沙汰になっても大してショックは無いようで、その後も栄二の家で普通に過ごしている。
どうやら感性は鈍い方らしい。

栄二に殴られたのは実の父親なのだが、これも物語に大した影響を与えない。
そうなると、もはや「栄二が都築を殴って警察に連行される姿を正一と実が目撃した」というシーンの意味さえボンヤリしてしまうんだが、たぶん意味なんて無いんだろう。
この映画にとって、そこは長い捨てゴマのような時間帯なのだ。
それよりも、その後に待っている「子供たちがウォンバットと触れ合う」という様子を見せて、観客の機嫌を取ることに重きを置いているんだろう。
普通に考えると、そっちの方が捨てゴマだけど。

正一と実が自転車で走り去るまりこに目を奪われた後、直子が栄二と話している様子が描かれる。
シーンが切り替わると、まりこが自転車で帰宅する。すると、なんと庭には正一と実がいて、小夜がまりこに紹介する。
どういうことなのかと思っていたら、「昨日会った」と正一が発言している。
つまり、そこは翌日に切り替わっているのだ。でも、すげえ分かりにくいぞ。
それに、正一が栄二の元へ来た最初の夜を描かないってのは、明らかに手落ちだろ。まずは栄二と正一のギクシャクした親子関係にキッチリと触れておけよ。

正一は父親と会う目的でタスマニアへ来たはずで、その目的は早い段階で達成されている。
そうなると、他の要素を用意しなきゃいけなくなる。
だったら、その後は「なぜ父親が会社を辞めて自然保護運動に取り組んでいるのか」ということに正一が疑問を抱いたり、そのことで父親とギクシャクしてしまった関係が修復されるドラマを描いたり、逆に父親の活動に関心を抱いて自分も参加するようになったり、ともかく栄二と正一の親子のドラマを軸に据えて物語を構成すべきだろう。
しかし実際は、そこから完全に目を背けてダラダラと時間を潰していく。

製作サイドは「ウォンバットとの触れ合いだけでは不充分だろう」と思ったのか、まりこの案内で正一と実が動物園へ行く展開を用意し、他の動物たちとの触れ合いも描き出す。
で、栄二が鹿を安楽死させたところで、ようやく正一が「会いに来なけりゃ良かった」と反発する様子を見せる。
そこで反発させるのは、筋書きとして間違ってるわけじゃないよ。ただ、その前に反発すべきポイントはあっただろ。
家族を顧みずに自然保護活動に没頭していることや、警察沙汰になったことに対しては何の反発心も抱かず、そこで初めて反発心が生じる展開にしているから引っ掛かるのよ。
その前から心にわだかまりがあって、そこで爆発した、ということなら腑に落ちるけど。

で、ともかく父親との間に確執が生じたんだから、遅れ馳せながら親子ドラマに軸を置いて進めて行くのかと思いきや、まりこが現れると正一はそんなことを完全に忘れてしまう。
その後、今度は実にスポットを当てて、両親の不和がきっかけで家出したことが語られる。
そこを正一の境遇と重ね合わせているが、それでドラマが厚くなっているわけではない。それどころか、「そんなことで死のうとするなんてバカじゃねえの」という気持ちが沸いて来るし、「都築が実を連れて帰ろうとすると、正一が追い掛ける」という展開で話を盛り上げようという演出にも全く心が動かない。
っていうか冷めているし、ガキどもの行動はがウザいと感じる。

栄二は仕事に夢中で家族を顧みなかったわけだが、そのせいで妻から離婚を切り出されたのに、全く反省していない。
だから仕事を辞めたものの、今度はタスマニアタイガーを見つけることに没頭し、やっぱり家族のことは顧みていない。
終盤になって反省しているが、すげえ遅い。
それと、彼は自然保護運動にも従事している設定なのだが、そっちの方は途中から完全に忘れ去られているので、「タスマニアタイガーを見つけるのに木を伐採されると迷惑だから、それでデモ活動をやってるだけじゃねえのか」と勘繰りたくなるぞ。

正一は実が都築に連れ戻されたところで栄二に食って掛かり、「僕だってこんな所、もう居たくないよ。商社は辞めたっていう、警察には捕まる」と言うが、やっぱり気にしてたのかよ。
だったら、もっと早い段階でそれを表現しろよ。
あと、「家はこんなオンボロで、居もしないタスマニアタイガーなんか探して」と言われたところで栄二は殴るけど、それは父親として失格。明らかに「叱る」ではなく「カッとなって手を出した」だけだから。
そりゃ息子に責められるわ、そんな父親。

で、「僕はこんな父さんに会いに来たんじゃないよ。こんな父さん見たら母さんだってガッカリしたよ。いないモン探してどうすんの。恥ずかしいよ」と正一が怒鳴ったところで、直子が「お父さんのどこが恥ずかしいの」と叱り、「だってタスマニアタイガーなんて、もう居ないって言うじゃないか」と正一が告げると、「ホントに居ないって言える?」と直子が問い掛ける。
もちろん、最終的にタイガーは姿を見せるわけで、そこに向けての地均しをしているわけだ。
だけどね、「タスマニアタイガーは実在した。だから父さんは間違ってない」という論法には、ものすごく無理があるのよ。
タイガーが実在していようといまいと、やっぱり栄二の行動には問題が多いのよ。タスマニアタイガーが実在していたからって、家庭を顧みなかった彼の行動まで正当化されるものではないぞ。
「会社辞めるって勇気が要ると思わない?いるんだかいないんだか分からない動物を探してるなんて素敵じゃない、この年になってまで」と栄二を称賛しているけど、それは「恋は盲目」なだけだよ。
そういう栄二の身勝手な行動は、家族の犠牲の上に成り立っていることを忘れちゃいけない。

ともあれ、そこに来て栄二と正一の親子関係に焦点を絞り、そこにタスマニアタイガーを絡めようとしていることは明らかだ。
なので、その線で終盤を構成するのかと思いきや、意外な展開が用意されている。
その後に「まりこを乗せてボートを漕いでいた正一が、彼女のノースリーブから見える脇やスカートから覗く脚に興奮し、勃起したチンコを押さえ付けて水に飛び込む」という『パンツの穴』みたいな描写が挟まれるのだ。
そこに来て急にガキの性的な成長を描く辺り、さすがは日活ロマンポルノ出身の金子成人である。

ズブ濡れになって帰宅した正一は、栄二と都築が話しているのを盗み聞く。
都築は「木を切らないで、どうやって木造の家やテーブルを作るんです?自分の手を汚さないで、すぐ僕らをワル呼ばわりするんですよ、世間は。東京の本社の連中も、地元の保護団体とは揉めるなと言いながら出荷量は増やせと言う」と語り、栄二は会社勤めの頃に山火事を目撃したこと、動物学者のトンプソンから「森は所有者の物だから文句を言う権利は無いけど、動物はみんなの物だから返して下さい」と懇願されたことを話す。
さらに栄二は、離婚しても仕事に集中できるとしか思っていなかったこと、妻の死で何もかも無くなったと感じて会社を辞めたことも話す。ずっとタスマニアで暮らすつもりだと語った彼は、正一と一緒に暮らすのかと問われて「俺は正一を失望させちまった。家族、大事にしろよ」と都築に言う。
ようするに、そこは「初めての勃起で性的に成長した少年が、精神的にも成長し、父親のことが理解できるようになりました」ということなんだろう。
これは決して「上手い描写だ」と褒めているわけではなく、むしろ皮肉を込めている。

栄二が今までの生き方を正一に謝罪し、帰国して一緒に暮らすつもりだと話すと、正一は「タスマニアタイガーを見なくていいの?」と言う。そのタイミングで電話が鳴り、タイガーが出たという情報が届く。
とても都合のいい展開だが、ともかくタイガーを出さなきゃ映画は終われない。
で、正一に「タイガー探しに行こう。僕は一人でも行くよ」と言われ、栄二も一緒に出掛ける。そして2人はタイガーを目撃し、正一が「父さんの言ってたことは本当だったんだね」と言うのだが、そのタイガー、バレバレの作り物だ。
だから、父さんの言ってたことは嘘なのよ。
それにしても、最も肝心なはずのタスマニアタイガーを作り物で済ませてしまう辺り、すげえセンスだな。その大胆不敵な製作姿勢には、ある意味で感服する。
あと、最後まで中山の存在意義が分からなかったが、たぶん存在意義は無い。

(観賞日:2014年5月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会