『丹波哲郎の大霊界2 死んだらおどろいた!!』:1990、日本

絞首刑に処された岡本亮は、階段を降りて山上刑務所の外に出た。顔を隠すように被されていた頭巾を取った彼は、「俺は死刑になって死んだはずなんだ。変だな、ここはシャバだぞ。俺は自由の身になってるみたいだな」と心で呟く。そこへ、池田拘置所から囚人たちが護送されて来た。岡本は護送車に乗り込み、運転手の肉体に憑依した。彼はハンドルを握って、まだ囚人たちが乗っている護送車を発進させた。岡本は護送車を蛇行させ、パトカーが追跡を開始する。
護送車の暴走によって幾つもの衝突事故が起きるが、岡本は「一度、シャバへ出て運転したかったんだ。それにしても気持ちいい」と快感に浸る。護送車は果物屋にぶつかって停止し、駆け付けた警官たちによって囚人たちは取り押さえられた。岡本はビルへ赴き、自分の弁護を担当していた矢代に声を掛ける。矢代は岡本に気付かず、喫茶店に入った。岡本はウェイトレスにコーヒーを注文するが、テーブルには運ばれて来なかった。
岡本の娘・美香が喫茶店に現れ、矢代の向かいに座った。そこには岡本がいたため、美香は彼と重なった。美香は嫌いなはずのコーヒーを注文し、一気に飲み干してお代わりまでする。コーヒーを飲みたがっていた岡本が、娘の体を使ったのだ。美香は家族の近況を矢代に語り、店を出た。岡本と分離した途端、嫌いなコーヒーを飲んでいた彼女は吐き気を催した。直後、道路に立っていた男がステッキを引っ掛け、美香を引っ張り込もうとした。
岡本が「危ないじゃないか」と注意すると、男は「誰かが近付くと、なぜか引っ張り込んじゃうんですねえ。前にこの辺で車にはねられた気がするんですよねえ。以来、ここから動けないんですよねえ」と語る。岡本が「死刑になったような気もするし、生きてるような気もするんだよな」と考えていると、男は「同じような人もいるんですよ、ほら」と周囲を指差す。すると、他にも複数の面々がいた。
岡本は国民姿の男から、「お前さん、新入りだろ」と呼ばれる。彼はステッキの男について、「あいつは自分が死んだってことを分かってないみたいなんだよ。だけど生きてないってことは分かってるみたいなんだよ」と言う。岡本が「お前さんは?」と訊くと、彼は「俺は戦争帰りの兵隊を待ってるんだよ」と答える。そこへ兵隊が行進して来たので、男は万歳で迎える。兵隊が道路を横断していると、走ってきた車がすり抜けた。
美香は幼稚園へ娘の舞を迎えに行く。舞は悟という少年と砂遊びしていたが、美香には彼が見えなかった。美香が舞を連れて幼稚園を後にすると、入れ違いで岡本がやって来た。岡本は悟に気付き、「何してんだ?」と尋ねる。悟が「ママを待ってる」と言うので、岡本は彼と一緒に遊んでやった。岡本は悟を家へ連れて行くことにした。岡本の母・静子は通夜に来た矢代に、「とうとう、最後まで付き合わせてしまって」と申し訳なさそうに言う。矢代は「無念です」頭を下げた。舞は悟に気付き、一緒に遊び始めた。
静子が「ホントの犯人を見つけたら殺してやりたい」と言い出すと、横で聞いていた岡本は「俺は元気でここにいるじゃないか」と怪訝な表情を浮かべる。その直後、岡本は自分の名を呼ぶ天井からの声を耳にした。天井に光の穴が出現し、岡本の体は吸い上げられた。屋根の上に出ると、そこには天使のトト、ポー、ヌーがいた。天使たちは「お迎えに来ました」と言い、金色に輝く巨大な柱に乗るよう促した。トトが「子供がまだ一人残っとったで」と言い、悟も連れて来た。
岡本と悟、天使たちを乗せた柱は空を飛び、宇宙空間の中を突き進んで行く。やがて星が割れてまばゆい光を放ち、その中に入って行く。大きな月を横切り、巨大な海を通過する。きらめく山脈の上を飛んでいる最中、悟が「おしっこがしたい」と言い出す。天使たちは「霊界ではおしっこは出ない。前世の記憶が残っているだけの錯覚に過ぎない」と説明するが、岡本も尿意を感じる。柱から降りた岡本は、輝く山々を見て「素晴らしいね。とてつもない大きな愛を感じるんだ」と感嘆した。天使たちは、「先ほど飛んで来た三途の川は、下流になるにつれて、人間界に近付いて汚れて行く」と説明した。
再び柱に乗って飛んでいると、やがて広大な花畑にやって来た。そこから漂う香りに、岡本は格別の心地良さを覚えた。やがて一行は巨大な宮殿に到着し、天使たちは立ち去った。すると悟の母親が現れ、息子を抱き締めた。天使たちの群舞の後、女神が出現する。岡本が「死刑になった私が、どうしてこんな素晴らしい所に?」と問い掛けると、彼女は「貴方は無罪だからです」と答える。「私が無罪なのが、お分かりなのですか」と岡本が言うと、女神は「もちろんです。ここでは、嘘やごまかしは一切通用しません」と述べた。
岡本が「真犯人も御存じなのですか」と訊くと、女神は「もちろんです」と言い、花畑の上に映像を出現させる。そこには、岡本が死刑となった経緯が写し出された。岡本は妻の真由美から、車のブレーキの調子がおかしいと言われて修理した。真由美が運転中の事故で死亡し、多額の借金を抱えていた岡本は、車に細工して妻を殺した疑いを掛けられた。岡本は死刑を宣告されたが、実際は真由美が対向車を避けようとして運転を誤った事故死だった。その対向車に乗っていたのは矢代だが、彼は現場から逃走していた。
真実を知った岡本が驚いていると、女神は「仕方がありません。貴方は前世で矢代の奥さんを殺して、その罪を矢代になすり付けました」と明かし、岡本に前世の映像を見せる。江戸時代、前世の岡本は、自分が仕えている矢代の妻に横恋慕していた。彼は出掛けた先で気持ち打ち明けて迫ったが、逃げようとした矢代の妻は誤って橋から転落死した。女神は岡本に、「自分で蒔いた種は、自分で刈り取らねばなりません。それがカルマの法則なのです。カルマからは誰も逃げられません」と告げた。
女神から「でも、もう終わったのです。貴方が弁護士に復讐しようとさえしなければ、そして、この次生まれ変わってくる時は、新たな修行が始まるのです。それが人の定め」と言われた岡本は、「だとしても、もう嫌ですね、人間界に誕生するなんぞは。こんな素晴らしい所に来た以上は」と述べた。女神は「あちらをごらんなさい」と言い、岡本が視線を向けると、花畑にウエディングドレス姿の真由美が立っていた。岡本は再会を喜び、真由美と手を取り合う。すると2人は、若い頃の姿に戻った。
岡本と真由美は天使たちの祝福を受け、花畑で回転する。しばらくすると、真由美の体が岡本の中に入り込んで1つになった。天使のマミはトトたちに、「人間界で結婚しててね、ここでまた結婚できるなんて珍しいんだよ。もっと愛が高まって、霊格が向上するの」と説明した。岡本と真由美が再び分離すると、女神は「岡本さんは、大霊界について知識を得ねばなりません。これより、学校にご案内して下さい」と告げた。霊衣に着替えさせられた岡本は、大勢の霊が集まった講堂に案内された。
講堂に現れた講師は、「我々は霊界で育まれ、神の分身として永遠に進歩し続けようとしている。しかし、ひとたび我々が人間の中に閉じ込められてしまうと、魂は鳥籠の小鳥のように暴れ、肉体からはみ出そうとしている。そして、いつでも故郷である大霊界に戻ることを待ち望んでいる。生命とは永遠だということだ。魂が肉体から離脱する時、すなわち人間界で死ぬ瞬間は、何の苦も無く抜け出していくために、生と死の境界線がハッキリしない。大多数の人々は、肉体から離れる時、帰ろうとする大霊界を呆然と眺めている。しばらくの間は何が何やら分からぬ状態が続く」と語る。
さらに講師は言葉を続け、「しかし、次第に不安と驚きが、歓喜と希望に変わっていく。すなわち、人間界で暮らしている間に、霊界の知識が無くなっていたのだ。人間界での死は、霊界への里帰りだということを理解できればできるほど、人間界での修業は価値あるものとして、霊界へ帰ってからも光り輝いて来るでしょう。そのために皆さんは守護霊となって、人間界の皆さんをしっかりと守らなければなりません。それが大霊界の秩序であり、神様の思し召しなのです」と述べた。
講義を聞き終えた岡本はマミの案内され、真由美のいる保育園へ行く。マミは岡本に、「子供たちは例外なく、保育園に送られてきます。子供には物質的な執着がほとんど無いので、やがて天使になるべく、大事に養育されているのです」と教える。岡本は真由美に、「自分は、これから矢代さんの所へ行こうと思うんだ。天国が、こんなに素晴らしい所だとは夢にも思わなかったからね。お礼がしたいんだ。それにカルマも分かった、お詫びがしたい。第一、矢代さんは後悔していると思うんだ」と述べた。
真由美は「そうね。一日も早く、その苦しみから解放してあげたいわね。私も行くわ」と言い、それを聞いていた悟も「僕、舞ちゃんに会いたいんだ」と同行を志願した。3人は矢代の書斎に行くが、もちろん彼に姿は見えない。悟が矢代のタバコ入れを動かしたりして悪戯を仕掛けたので、岡本と真由美は慌てて止めようとする。翌日、矢代が事務所にいると、岡本は彼に憑依してノートに「僕だ、岡本だよ。君は誤解している。僕は恨んでなんかいない。天国で真由美と幸せに暮らしているから、安心してくれ。僕は素晴らしい所にいるんだ」と綴る。狼狽した矢代は煙草に火を付けようとするが、悟が吹き消した。
怪奇現象に怯えた矢代は精神科を訪れるが、岡本たちの姿に気付いた女医が「付き添いの人は廊下で待ってて下さい」と口にしたので、ますます怖くなってしまう。矢代は岡本家を訪れて霊前に手を合わせるが、位牌が倒れてしまう。精神的に追い詰められた矢代は、猟銃で自殺した。霊界に戻った岡本は、女神から矢代の自殺を聞かされる。岡本は「私たちの過ちです。助けに行ってきます」と告げた。
女神は「それは危険なことです。自殺者の落ちた地獄は並みの地獄ではありません。想像を絶する所です」と警告するが、岡本は「なおのこと、矢代さんを助け出さなくては」と言う。女神は「それほどの覚悟が出来ているのなら、行ってらっしゃい。きっと、いい修業になることでしょう」と告げ、トトとポーとヌーを付けることにした。話を聞いた真由美は「私も行く。いざとなったらあなたの身体に隠れるから」と言い、悟も同行を申し出た。
岡本たちは柱に乗って出発し、地獄の洞窟に辿り着いた。洞窟に入った岡本たちは地獄の亡者たちに捕まり、街に連行される。ちょうど地獄の街では選挙が実施されており、心中クラブや売春党など多くの政党の立候補者が街頭演説をしていた。亡者の流れに飲み込まれた岡本たちは、キャバレー天国という店に足を踏み入れた。店内では、候補者や関係者たちが激しく争った。危険を感じた真由美は、岡本の体に隠れることにした。
激しい騒ぎが続く中、女店主が「今日から私がこの街の市長だ」と宣言し、他の候補者たちに認めさせた。店長の指示で全員が歌い踊る中、岡本は退散しようとする。しかし店員から金を払うよう要求され、岡本が「持っていない」と答えたため、不穏な空気になる。すると店にいた医者が「俺が払ってやる」と言うが、その代わりに岡本や天使たちを病院へ連行した。岡本の平熱が36度5分だと知った医者は、「自分たちは6度5分なのに。貴重な存在だ、実験用に保存しておけ」と看護婦たち命じた。
岡本や天使たちが保存室へ連行されると、そこには他にも大勢の亡者たちがいた。岡本の体から抜け出した真由美が拘束を解き、矢代を助け出す相談をする。岡本たちの話を耳にした一人の男は、矢代の居場所を知っていると言い出した。男の案内で扉を開けると、その向こうには荒野が広がっていた。大男と大女が橇に乗り、大勢の自殺者たちを鞭打って引かせていた。岩陰に隠れて覗いていた岡本たちは、橇を引く自殺者の中に矢代の姿を発見した…。

監督は服部光則、製作総指揮は丹波哲郎、チーフ・プロデューサーは東島邦子、プロデューサーは坂美佐子&宍倉徳子、テクニカル・アドバイザーは岡崎宏三、アドバイザーは森島恒行、コンセプチュアル・デザイナーは毛綱毅曠、衣裳デザイナーは桂由美、脚本協力は溝田佳奈、美術監督・特撮監修は池谷仙克、撮影は斉川仁&岡田次雄、照明は森谷清彦、美術は石井巌、録音は本田孜&福岡修、編集は東島左枝&高野隆一、音楽プロデューサーは神保敏文、視覚効果は小野寺浩、特撮は田川利夫、助監督は佐藤陸夫、振り付けは会田夏代、音楽は淡海悟郎。
挿入歌「Big Town」LINDBERG、作詞:渡瀬麻紀、作曲:川添智久
出演は丹波義隆、ジュディ・オング、中原ひとみ、土家里織、丹波哲郎、高橋幸治、西田瞬、渡瀬麻紀(現・渡瀬マキ)、山瀬まみ、アパッチ・けん(現・中本賢)、南條玲子、一の宮あつ子、ケーシー高峰、谷村昌彦、せんだみつお、稲川淳二、佐藤蛾次郎、丹古母鬼馬二、ダンプ松本、大森ゆかり、粟津號、飯島大介、田村ガン、段一平、木村元気、原田君事、伊藤健一郎、大久保了、松井紀美江、石郷岡文子、山岸絹江、南村純子、高都幸子、荒船麻子、木村孝之、井上彩、岡安由美子、はた万次郎、島夏子、佐武彩也子、中原早苗、荒勢、竹中直人、河原さぶ、野際陽子、あき竹城、タモリ、明石家さんま他。


1989年の映画『丹波哲郎の大霊界 死んだらどうなる』の続編。
ただし「丹波哲郎が大霊界について人々にレクチャーする」という目的を引き継いでいるだけで、登場人物も物語も、まるで繋がりは無い。
前作で助監督だった服部光則が、映画監督デビューを果たしている。
若返った岡本を演じる丹波義隆と、現在の岡本を演じる丹波哲郎、天界の保母を演じる岡安由美子、売春党の候補者を演じる野際陽子は、前作にも異なる役で出演していた。
他に、女神をジュディ・オング、真由美を中原ひとみ、若返った真由美を土家里織、矢代を高橋幸治、悟を西田瞬、トトを渡瀬麻紀(現・渡瀬マキ)、マミを山瀬まみ、護送車の運転手をアパッチ・けん(現・中本賢)、美香を南條玲子、静子を一の宮あつ子、地獄の医者をケーシー高峰、兵隊を待つ浮遊霊を谷村昌彦、心中クラブの候補者をせんだみつお、ステッキの浮遊霊を稲川淳二、地獄の大女をダンプ松本&大森ゆかり、人間界の医者を中原早苗、地獄の大男を荒勢、岡本を取り調べる刑事を竹中直人、破壊党の候補者を河原さぶ、凶器党の候補者をあき竹城、岡本に死刑を宣告する裁判官をタモリ&明石家さんまが演じている。

冒頭、
「宇宙はビッグ・バンから始まります。ビッグ・バンとは、広大なエネルギーが物質に転換したということ。この時に同じ量の反物質が当然、作られます。人間界では、その反物質が今日まで行方不明だと騒いでいる。この反物質が大霊界だと気付いた人は、ほんの一握りしかいません。神は大宇宙を御作りになると同時に、反物質とも言うべき大霊界を御作りになった。霊界は磁気と電気が微妙に調和し合った、大液状体なのです」
という、タンバ先生の有り難いナレーションが入る。
前作では「大霊界は反物質」なんてことに全く触れていなかったが、細かいことは気にしちゃいけないんだろう。

前作ではナレーションを多く使い、劇中で起きていることについて真面目に解説していたタンバ先生だが、今回はどういうつもりなのか、喜劇テイストの強い内容にしている。
まずシャバに出た岡本が運転手に憑依し、護送車を暴走させるのが喜劇テイスト。
果物店から弾き飛ばされて坂を転がる果物を大勢で拾うってのも同様。
ちなみに、女神は岡本に「貴方は無実」と言っているけど、死んで魂になってから護送車を暴走させて他の車を横転させたり店を壊したりしているんだけど、それは罪にならないのかねえ。

護送車を暴走させて迷惑を掛けたのに、岡本は何事も無かったかのようにビルへ移動し、喫茶店に入る。
で、ウェイトレスには見えていないのに「僕もコーヒーね。コーヒーだよ」と注文するとか、持って来ないので「僕のコーヒーは?僕にも持って来てよ」と言ったりするのも喜劇として描かれている。
岡本が美香に憑依してコーヒーをガブ飲みするとか、外に出た美香が吐き気に襲われるとか、そういう様子も喜劇テイストで描かれている。

岡本が矢代に礼を言うために地上へ戻った後、悟が書斎で悪戯をするってのも、やはり喜劇テイストで描かれている。
ただ、その影響で矢代がノイローゼになって自殺しちゃうので、喜劇として着地していないんだけどさ。
あと、コミカルなテイストを多く持ちこんでいるのに、裁判シーンのタモリとさんまは無機質な表情で淡々とセリフを語るだけで、掛け合いをやることも無く、ギャグを飛ばすことも無い。
だったら、そのシーンで2人を起用した意味って何だったんだろうか。

物語の繋がりが無いとは言え、一応は続編なんだし、タンバ先生の考える霊界について描いているはずなんだけど、前作とは異なる部分が多い。
前作では死んだら幽体となって精霊界へ辿り着いていたが、今回は天使が迎えに来て、金の柱に乗って空を飛ぶ。
前作では、死者は最初に精霊界に行き、長い階段を上がって宮殿に到着し、そこでレクチャーを受けたり、死んだ血縁者と会ったりしてから霊界へ移動していた。
でも、今回は精霊界が登場しないし、宮殿も前作と全く違うし、死者に「貴方は死んだのです」と説明する場所でもなくなっている。
前作の死者たちは若返っていなかったけど、今回の岡本と真由美は若返っている。
前作で「霊界はこんな場所です」ってのを真面目に解説していたのに、それを覆すような描写を幾つも盛り込んでいるが、細かいことは気にしちゃいけないんだろう。

タンバ先生は霊界のスポークスマンなので、「霊界は素晴らしい場所です」ってのをアピールしようという意識は前作よりも強まっているように感じられる。
ただ、「いい香りだ」とか「素晴らしい」とか言っているけど、「もう人間界に戻りたくないほど素晴らしい場所」とは、到底思えない。
いい香りのする花畑があって、きらめく山があって、天使たちの群舞があって、その程度で「人間界に戻りたくないほど素晴らしい場所」とか「人間界はここに比べれば刑務所みたいなもの」と思える人は、かなりの少数派だと思うぞ。

岡本たちが霊界の宮殿に到着すると、「悟」と呼び掛けて悟のママが登場する。だが、なぜかママはなかなか悟に近付かず、周囲を回って「悟」と何度も言いながら優雅に踊る。
悟も、ママと会えたらすぐに駆け寄ったり抱き付いたりしそうなものだが、「ママ」と繰り返すだけで、その場から動こうとはしない。
たぶん、薄笑いで踊り続けるママを見て、不気味に感じたんだろう。
すごいことに、ママが現れてから息子を抱き絞めるまでに、3分ぐらい費やしているのだ。
その間、ママは踊りながら、「悟」という呼び掛けを11回もやるのである。
こんなに居心地の悪さを感じる舞踊シーンってのも珍しい。

事故だったとは言え、岡本は妻を矢代のせいで失っており、しかも殺人罪を被せられて処刑されているんだから、それを知らされたら、恨みや憎しみの気持ちを抱くのが大抵の人間の感覚だろう。
ところが岡本は、「それがカルマ」と言われて納得したのか、矢代に対する怒りや憎しみの気持ちを全く示さない。
「復讐さえしなければ」とか説明されているが、そんな説明が無くても、そもそも復讐心を抱いていたような様子は皆無だ。
「復讐心があるので前世のことやカルルまについて説明されても納得できない」とか、そういうことは全く無い。
そんなことよりも、彼は「霊界は素晴らしい。ここでずっと暮らしたいなあ」という気持ちで一杯だ。

で、岡本は霊界に関する講義を受けた後になって、なんと「矢代さんにお礼が言いたい」とまで言い出す。矢代のおかげで天国という素晴らしい場所に来ることが出来たので、岡本は感謝しているのだ。
どんだけ器のデカい男なんだよ、岡本って。
っていうか、イカれていると言った方がいいかな。
妻を死に追いやって、自分に罪を被せて死刑にした悪党に対して、感謝の気持ちを持つって、そりゃ異常だろ。
タンバ先生が「天国は良いトコ」ってのをアピールしたいのは分かるけど、岡本のキャラ造形は、さすがにキテレツが過ぎるよ。

ちなみに物語の展開だが、岡本は地獄で矢代を救い出して宮殿に戻る。
そして女神から「2人のカルマは消えたので人間界へ戻ることになった」と説明を受け、岡本と矢代は双子の赤ん坊として生まれ変わる。
で、最後はタンバ先生の「人間は生まれ変わった時には大霊界の記憶も前世の記憶も全て覚えているが、生後1年から1年半の間に拭い去られる」ってな感じのナレーションで締め括られる。
なお、前作はヒットしたが、この続編はコケてしまい、約5億円の赤字を出したらしい。

(観賞日:2012年9月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会