『太陽は動かない』:2021、日本

1982年に放送法が改正され、GMN構想が浮上した。しかし昭和の終焉と共に事業は立ち消えとなり、莫大な国家予算が闇に消えた。予算の行方を追っていた新聞記者の風間武は失踪し、死亡が濃厚となった。やがて、裏資金を利用した諜報組織の存在が噂されるようになった。企業の機密情報を入手し、競合他社に高値で売り捌いて利益を得るAN通信である。AN通信の諜報員は特別なチップを胸に埋め込まれており、24時間ごとに本部へ連絡しないと裏切ったとみなされて起爆装置が作動するようになっていた。
AN通信の山下竜二はブルガリアのソフィアでアパートに監禁され、拷問を受けて情報を吐くよう脅されていた。連絡の時間が迫る中、同僚の鷹野一彦が突入して山下を救出した。彼は山下を連れて窓から脱出し、相棒の田岡亮一が運転するトラックの荷台に飛び降りた。すぐに敵の一味が追い掛けて来る中、山下は携帯電話で本部に連絡を入れた。しかし激しい戦闘とカーチェイスが続く中、山下はパスワードの入力が間に合わずに爆死した。
鷹野と田岡は山下の隠れ家を突き止めるが、何者かに資料は盗み出されていた。破かれた写真の一部が残っており、鷹野は本部に転送した。彼は部長の風間に報告を入れ、山下が本来は香港にいるはずだったと聞かされる。山下は中国の巨大エネルギー企業、CNOXの社長であるアンディ・黄(ウォン)を追っていた。アンディは裏社会の人間で、実行部隊を使って買収と暗殺を繰り返していた。鷹野と田岡は、彼の身辺を探るためにオーストリアのウィーンで開催されるチャリティー・パーティーへ行くよう指示された。
鷹野と田岡がパーティー会場に潜入すると、アンディはAYAKOという女性を同伴していた。韓国の産業スパイであるデイビッド・キムはAYAKOに接触するが、冷たくあしらわれた。AYAKOは鷹野の正体や目的を知っており、「アンディ・黄に近付き過ぎて消されないようにね」て不敵な笑みを浮かべた。鷹野は田岡に、AYAKOを調べるよう指示した。彼は顔見知りのキムから「なぜ俺の狙いを聞かない?」と問われ、「聞けば返すのか」と口にした。
高校時代の鷹野は、親友の柳勇次や彼の弟で知的障害を持つ寛太と一緒に過ごすことが多かった。女子生徒が浜辺の小屋で水着に着替える時、3人は窓から密かに覗き込んだ。鷹野は2学期になって転校してきた菊池詩織に、ほのかな思いを寄せていた。浜辺で柳と話していた鷹野の前にアロハの男が現れ、激しく殴り付けた。スクーターを走らせた鷹野は詩織を見つけて声を掛け、家まで送ると告げた。彼女を送った帰り、鷹野は柳&寛太と遭遇した。柳は寛太と離れることが決まったと打ち明け、「金になる情報を組織から奪って、寛太と一緒に逃げる」と強い決意を口にした。
鷹野はパーティー会場で、日本の大手電機メーカーMETの取締役である河上満太郎を目撃した。アンディがMETと組んで太陽光エネルギーの実用化を目指していると悟った鷹野は、風間に報告を入れた。彼は田岡に調査させ、METが太陽光発電所のために霞ヶ浦で広大な土地を買収していることを知った。鷹野の訪問を受けた河上は、山下のおかげでCNOXとの共同事業が軌道に乗ったと話す。妻の麻子がオムライスを持って来ると、河上は食べてほしいと鷹野に勧める。彼は4歳の時に息子が営利誘拐されたこと、犯人は捕まらず息子は行方不明のままであること、生きていれば鷹野と同じぐらいの年頃であること話す。鷹野は「私には何の関係も無い話だと思いますが」と冷淡に告げ、オムライスには手を付けずに去った。
高校時代の鷹野は登校した時、柳が転校したことを担任教師から知らされた。帰宅した彼は、柳の置手紙を発見した。アロハの男に「何か聞いてるか」と質問された鷹野は、「いえ」と否定した。アロハの男は「柳は明日、試験を受ける予定だった。資料を渡したら、それを持って逃げた。AN通信は世界中に点在している。どこに行っても消されるだろう」と言い、柳の代わりに試験を受けるかと持ち掛けた。鷹野は全く迷わず、その場で「やります」と答えた。
鷹野が風間の屋敷へ行くと、田岡が来ていた。風間は本部がCNOXの企みを掴み、情報をMETに売ると決めたことを鷹野たちに話した。彼は鷹野に、香港へ行ってCNOX本社に潜入する仕事を命じた。高校時代の鷹野は修学旅行の最中、旅館から抜け出して連絡係と接触した。彼は試験のための任務を与えられ、深夜の和倉地所へ忍び込んだ。鷹野はパソコンを操作し、資料を調べた。現在の鷹野は車で待機する田岡と連絡を取りながら、和倉地所のサーバールームに潜入してデータを入手した。高校時代の鷹野も現在の彼も、キムに襲われてデータを奪い取られた。しかし現在の鷹野は反撃し、データを奪還して逃亡した。
鷹野と田岡はヘリコプターに乗り、データに記されていた座標のあるタクラマカン砂漠へ向かった。すると座標の位置には、衛星に太陽光を集めて地球に送る次世代発電のためのレクテナ基地があった。風間は鷹野たちに、「霞ケ浦の計画はフェイクだ。CNOXはMETから蓄電池の技術だけを奪い、レクテナ基地に投入するつもりだ」と説明した。宇宙で集めたエネルギーを地球へ送る技術を研究する第一人者は、ソフィア大学の小田部教授だった。キムは小田部の娘である奈々に接触し、恋人になっていた。
鷹野と田岡のヘリコプターは、地上からに砲撃を受けて墜落した。高校時代の鷹野は詩織から、修学旅行で抜け出したのを見たと言われる。しかし鷹野は彼女の質問を受けても、何も明かそうとしなかった。詩織が東京で好きだった先輩と仲間たちから酷い目に遭わされたこと、生きているのも辛くなったことを話すと、鷹野は「1日だけなら、先のことなんか考えずに生きられる。それを毎日、続ければいい。昔、ある人に言われた言葉だ」と述べた。詩織と話して元気を取り戻した鷹野の前に風間が現れ、「明日、島を出るぞ」と告げた。
ヘリコプターを撃墜された鷹野はCNOX実行部隊のジミー・オハラちに捕まり、激しい暴行を受けた。そこへ田岡が駆け付け、一味を倒して鷹野を救出した。鷹野は急いで本部に連絡を入れ、起爆装置を解除した。キムはAYAKOに誘惑され、彼女と組むことにした。彼はインドのジャイプルへAYAKOを連れて行き、「アンディ・黄もAN通信も知らないカードがある」と告げる。キムはラジーヴという15歳の少年の元へ行き、彼が大学のラボで発明した新原料をAYAKOに見せた。
鷹野は貨物の箱に入って河上の家へ配達され、CNOXとの契約を白紙に戻すよう頼んだ。彼が事情を説明していると、麻子が来てオムライスを出した。河上から食べるよう促され、鷹野は口を付けた。彼が去った後、麻子は河上に「やっぱりタカシちゃんじゃなかった。タカシちゃんなら星の所から食べるはずだわ」と語って泣いた。AYAKOは寿司店で田岡を誘惑し、山下が組もうとしていたキムを紹介すると持ち掛けた。田岡は色香に惑わされず、激しい苛立ちを示した。
AYAKOはアンディに連絡を入れ、通常の約10倍の電力量を生み出す太陽光パネルの新原料を手に入れたと話す。彼女はキムと組んだことを打ち明け、「ロシアの方が高く買ってくれるってキムが言うから」と電話を切る。キムは酒に薬を混入し、AYAKOを眠らせた。悪酔いした田岡が死の恐怖に怯えていると、鷹野が姿を現した。彼はキムが小田部をロシアに売るつもりだと言い、行動を促した。田岡が「俺には無理だ。明日も明後日も、こんなことが続くなんて」と弱音を吐くと、鷹野は「明日のことなんて考えなくていい。一日一日を生きていくだけだ」と述べた。
小田部を連れてソフィア中央駅に着いたキムは、アンディからの電話で「教授の娘は預かった。ロシアとの取引は中止しろ」と脅された。アンディは誘拐した奈々の写真を送り付けるが、キムは無視して小田部をモスクワ行きの列車に乗せた。鷹野と田岡は風間から小田部の奪取を命じられ、列車に乗り込んだ。AYAKOはキムを個室に連れ込み、その間にCNOX実行部隊が小田部と接触して奈々の誘拐を知らせた。鷹野は監視役の実行部隊を倒し、小田部にGPSを注射した。実行部隊はガスで乗客を眠らせ、小田部を拉致した。田岡は実行部隊に化け、一味に同行した。鷹野は去ろうとするAYAKOを倒し、車を奪って後を追った…。

監督は羽住英一郎、原作は吉田修一『太陽は動かない』『森は知っている』(幻冬舎文庫)、脚本は林民夫、製作は石垣裕之&堀義貴&安岡喜郎&加太孝明&池田宏之&森田圭&村松克也&見城徹&渡辺章仁&吉川英作、企画・プロデュースは武田吉孝&大瀧亮、プロデューサーは森井輝&小出真佐樹&古屋厚、ラインプロデューサーは中島勇樹、共同プロデューサーは加納貴治、企画協力は茅原秀行、撮影は江崎朋生、照明は三善章誉、録音は小松崎永行、アクションコーディネーターは諸鍛冶裕太、VFXプロデューサーは赤羽智史、美術デザイナーは別所晃吉、編集は西尾光男、音楽は菅野祐悟、主題歌『泡』はKing Gnu。
出演は藤原竜也、竹内涼真、佐藤浩市、ハン・ヒョジュ、ピョン・ヨハン、市原隼人、鶴見辰吾、宮崎美子、勝野洋、南沙良、日向亘、加藤清史郎、横田栄司、翁華栄、八木アリサ、田口浩正、草村礼子、大塚良重、平山祐介、醍醐虎汰朗、月雪乃介、大江優成、塩田宙、加藤優佳、塚田知紀、新田健太、岸本康太、東山龍平、安田桃太郎、鶴見ゆき、竹内えり、小林風花、田中夏帆、小野福子ら。


吉田修一の同名小説と続編『森は知っている』を基にした作品。
2020年に前日談となる連続ドラマがWOWOWで放送されており、この映画は「その後の物語」になる。
監督は『暗殺教室〜卒業編〜』『OVER DRIVE』の羽住英一郎。
脚本は『ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜』『空飛ぶタイヤ』の林民夫。
鷹野を藤原竜也、田岡を竹内涼真、風間を佐藤浩市、AYAKOをハン・ヒョジュ、キムをピョン・ヨハン、山下を市原隼人、河上を鶴見辰吾、麻子を宮崎美子、小田部を勝野洋が演じている。

粗筋の冒頭に書いた「起爆装置が作動するようになっていた」という部分までの情報は、全て文字表記だけで処理される。ちなみに、これでも少し省略している。
最初に文字で軽く世界観や設定を紹介し、それが観客を引き込む力になるケースもある。
しかし本作品の場合は、まるで効果的には作用していない。下手な始め方だとしか感じない。
最初に掴みのアクションシーンでも用意して、その後から補足情報として文字説明を出した方が良かったんじゃないかと。

山下が逃亡しながら起爆装置を解除するパスワードを入力しようとすると、その度にトラックか激しく揺れて携帯電話を落としたり、荷台から振り落とされたり、車に携帯電話を踏み潰されたりする。
そうやってタイムリミットが迫るのを「スリリングなシーン」として描いているつもりなんだろうけど、コントの天丼をやっているような印象を受ける。
相手の直接的な妨害が繰り返される形じゃなくて、携帯電話を落としたり荷台から落ちたりするのはアクシデントだし。
あと、そもそも「あと何分、何秒で爆発する」ってのが全く分からないので、そういう意味でもスリリングなシーンとしての見せ方を間違えている。

もっと根本的なことを言っちゃうと、「AN通信の諜報員は特別なチップを胸に埋め込まれており、24時間ごとに本部へ連絡しないと爆死する」という設定自体がアホでしょ。そんなに簡単に、大事な諜報員を使い捨てにするようなことをする意味かどこにあるんだよ。
しかも、諜報員は何か弱みを握られて仕方なく命令に従っているのかと思ったら、そうじゃなくて志願しているんだよね。
だったら、起爆装置で脅すような真似をする必要は無いだろ。「情報漏洩を防ぐため」という名目だけど、24時間ごとに本部へ連絡しても外部に情報を漏らすことなんて簡単に出来るだろうに。
あと、本部に連絡すればOKなのかと思ったら、いちいちアクセスコードとパスワードを入力しなきゃいけないってのも、無駄に面倒なだけだし。

鷹野が本部に連絡を入れた時、それを受けた部長は背中を向けていて顔が見えない。
ただ、それが佐藤浩市なのはバレバレなので、隠している意味が無いなあと思っていたら、次のシーンではハッキリと顔を見せている。
だったら、1発目で後ろ姿にしている意味は何なのか。
あと、冒頭で「GMN構想が浮上した」と言ってたけど、そのGMN構想が何なのかは教えてくれないのね。後から説明が入るのかと思ったら、何も無いのね。

なぜ風間がAN通信の部長になっているのか、どういう経緯で国家予算がAN通信に使われるようになったのか、組織のトップは何の目的で作ったのか、まるで分からない。
政府の秘密機関として活動しているのかと思ったが、どうやらシンプルに営利目的みたいだし、時には殺人もいとわない非合法な手口で情報を入手し、それを高値で売却して金を儲けるような連中なんて、ちっとも応援できねえよ。ただの営利目的なので、どんなピンチになろうと「自業自得でしょ」としか思えない。
そもそも何のために彼らが命懸けで行動しているか、良く分からないのよ。
いや、それが「情報を得て金を儲けるため」ってことになるんだろうけど、そんなリスクを負ってまで金が欲しいかね、と思ってしまうのよね。

途中で鷹野の高校時代のエピソードが何度も挿入されるが、これが『森は知っている』の内容らしい(私は原作未読)。
でも、こんなのを入れている意味がサッパリ分からない。今回の話には、何の関係も無いでしょうに。
関係ないと言えば、河上が息子のことを話したり、麻子がオムライスを食べさせようとしたりするのも、どういう意図で持ち込んだのかサッパリ分からない。
そんなのも、今回の話には何の関係も無いでしょ。

高校時代の鷹野が試験を受けてビルに潜入するエピソードも、まるで要らない。それを現在の鷹野がCNOX本社に潜入する仕事と並行して描くのも、無駄にゴチャゴチャするだけだ。
どっちも「キムに襲われる」という手順が入るので、そこで「昔はキムにデータを奪われたが、今は反撃して奪還しました」という違いを見せるための仕掛けであることは良く分かる。でも、それは理解した上で、それでも要らない。
なぜなら、「鷹野とキムの因縁」という設定自体が不要だからだ。
もっと言ってしまえば、キムなんて出さなくてもいいぐらいだ。そこの因縁でドラマを盛り上げたかったんだろうが、欲張りすぎて手に負えていない。

高校時代の鷹野と柳が組織の監視下に置かれている設定も、今回の任務に何の関係も無い。だから、それは無駄に観客を混乱させるだけの邪魔な情報でしかない。
詩織との恋愛模様にしても、今回の話には何の関係も無いし。
最も重視すべきは「鷹野と田岡の関係」のはずだが、バディー・ムービーとしての色は皆無と言っていい。
ここのコンビネーションは全くと言っていいほど発揮されていないし、基本的には鷹野が単独で動く設定でも構わないぐらいだ。

鷹野が貨物の箱に入って河上の家まで配達されるのは、「なんで?」と言いたくなる。
彼は「中国からロシアに入って、ナホトカから」と説明するけど、そんな方法を取る必要性が良く分からない。
一刻も早く契約を白紙にしてもらいたいってのは分かるけど、普通に帰国して河上の家へ向かえば良かったんじゃないの。
「普通に向かったら他の産業スパイに知られるから」ってことなのか。
でも、どういう方法を取ったら情報がバレるのか、その辺りの設定の塩梅が全く分からないのよね。だから鷹野の行動がアホにしか見えない。

AYAKOがキムや田岡に色仕掛けで接触するシーンが用意されており、どうやら彼女をミステリアスで妖艶なキャラクターとして描きたいようだ。
たぶん『ルパン三世』の峰不二子みたいなキャラをイメージしたんじゃないかと思うんだけど、自分が利口だと思っているだけの、底が浅くて安い女にしか見えないのよね。
そして、そんな彼女に誘惑されて手を組むキムも、すんげえバカな奴にしか見えない。
まあ、それを言い出したら、出て来る連中は総じてバカにしか見えないんだけどさ。

終盤に入ると、AN通信が親に虐待された子供たちをエージェントとして育てたことが明らかになる。そして鷹野の過去も風間の口から語られ、それと並行して鷹野が船に乗り込んで田岡たちを救出するアクションが描かれる。
だけど鷹野の過去が明かされても、何の効果も発揮していない。
彼が親に虐待された過去があろうと、どういう人生を歩んで来ようと、今回の仕事には何の関係も無いからね。
もはや、その設定自体が、ほぼ無意味と化している。
いや無意味じゃないか。逆に、そのせいでツッコミ所が生じているわ。

回想シーンでは、鷹野の弟が不幸な死を迎えていることが明かされる。
それと並行して鷹野が田岡を救助する様子が描かれるが、「鷹野が田岡に弟を重ねている」という描写は皆無だったので、そこも全く効果を発揮していない。
高校時代の鷹野が詩織に「あるよな、ここよりいい場所」と行った時の回想も、救出劇の途中で挟まれる。そして無事に脱出した鷹野たちの様子が映し出される。
だけど、そこでの救出や脱出は、回想シーンで鷹野が言っている「ここよりいい場所を目指すための行動」とは全く違うので、これも合っていないし。

(観賞日:2022年2月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会