『体脂肪計タニタの社員食堂』:2013、日本

栄養士の資格を持つ春野菜々子は、就職活動の真っ最中だ。彼女は憧れの大手フードチェーンのメニュー開発に関わり、いつかは華々しく活躍したいという夢を持っている。一方、健康機器メーカーのタニタでは、春の健康診断が実施されていた。社長の御曹司で副社長の谷田幸之助は肥満体型で、医者から「5年で死にますね」と宣告された。タニタでは新型体脂肪計の発表が3ヶ月後に迫っていたが、モニターからは苦情ばかりが届いていた。報告会議の席で、社長の卯之助は激しい怒りを示した。特に彼は「社員が太っている」というアンケート結果を問題視し、自己管理を徹底しろと要求する。
幸之助は辞表を卯之助に提出し、「前々から考えていたことです」と告げる。卯之助は呆れた様子で、「いつも逃げの選択をする。お前は人生で何か1つでもやり遂げたことがあるのか少しでも売り上げに貢献してみろ」と叱り付けた。幸之助が社長室を出ようとした時、卯之助が心臓発作で倒れた。卯之助は一命を取り留めたものの、長期の入院を余儀なくされる。だが、太っている社員たちの危機感は薄かった。新商品発表会は予定通り実施されることになり、発表会の責任者となった幸之助は、小泉専務から「こういう時こそ息子のアンタがしっかりしなくてどうするんだ」と言われるが、ヘラヘラと弱々しい笑みを浮かべるだけだった。
幸之助は仲の良い開発部社員の太田仁に、体脂肪計を売るためのアイデアを求めた。医者から「その体型じゃ説得力ないんじゃないの」と言われた幸之助がネットでダイエット情報を調べていると、高校の同窓会のお知らせメールが届いていた。駅弁研究会の仲間だった菜々子のことを思い出した幸之助は、彼女を大衆酒場に呼び出した。店にやって来た菜々子は、すっかり太った幸之助を見て驚いた。幸之助も菜々子を見て、「変わったねえ」と感想を漏らす。今の菜々子はスリムだが、高校時代はポッチャリ体型だったのだ。
菜々子から呼び出した理由を問われた幸之助は、社員みんなでダイエットする企画を販促キャンペーンとして思い付いたこと、3ヶ月後の発表会でお披露目することを語り、「だから、ウチで働かない?ダイエット指導をお願いしたいんだ」と持ち掛けた。菜々子は多忙なフリをして「急に言われても暇じゃないし」などと言うが、就職面接に落ちたことを知らせるメールが届き、その話を受けることにした。
菜々子に社員食堂を仕切ってもらうことにした幸之助は、体脂肪率が40%を超えている営業部の丸山謙吾、総務課の福原紀美子、開発部の太田仁を集めた。彼は自分も含めた4人を、ダイエットのモニターとして起用することにしたのだ。社食でカロリーを管理するという説明に丸山と紀美子は反発するが、菜々子に一目惚れした太田だけは賛同した。やる気の無い丸山と紀美子の態度を見た菜々子は、面倒そうな態度で幸之助に「無理だよ」と告げる。
幸之助が「俺も自信が無いよ、ストレスがあると食っちゃうもん」と漏らすので、菜々子は「ダイエットはメンタルの問題だから、自分が変わりたいって思わないと変わらないよ」と語る。紀美子はポッチャリ女子専門出会いサイトで知り合ったポルシェ小松と、デートをすることになった。しかしポルシェに乗ろうとする時に体を無理に押し込み、装備を壊してしまう。父の見舞いに訪れた幸之助は、ダイエット企画について「どうせすぐに逃げ出すんだ。期待してない」と冷たく言われた。
丸山は離婚した妻と暮らしている娘に会い、「運動会の親子競争で走るのを楽しみにしてる」と言う。しかし「それは結構です。だってパパはデブじゃん。私にも世間体ってものがあるし、一緒にいるとこを友達に見られたくない」と参加を拒まれた。会社で大きなケーキを食べようとした紀美子は小松の顔を思い出し、一口で終わらせた。幸之助たちは痩せたい気持ちを示すものの、ウジウジして煮え切らない態度を取る。菜々子は腹を立て、「たかだか3ヶ月でしょ。覚悟決めなさいよ」と言い放つ。
菜々子は幸之助からダイエットメニューの試食会を提案されると、途端に狼狽した。実は、菜々子は料理が苦手だったのだ。社食で働く光子と信子からは、「口だけの栄養士に厨房を仕切られるなんて、たまったもんじゃない」と文句が出る。しかし菜々子は張り切ってレシピを考え、チキンのゴマサルサ定食を作った。丸山たちは味の薄さに満足できない様子だったが、菜々子は「1週間もあれば慣れてきますから」と告げる。さらに彼女は、食べるスピードや順番も注意した。
菜々子はダイエット中のストレスを軽減する目的で、彼らに会社の屋上で野菜を栽培させる。何日か経過する内に幸之助たちは定食の味が濃くなったと感じるが、菜々子は「味付けは変えていない」と笑顔で告げた。適度な運動もしつつ3週間が経過し、幸之助たちの体重と体脂肪率は順調に落ちていた。しかし太田だけは、なぜか増えていた。菜々子や幸之助たちは太田を尾行し、彼がこっそりカレーを食べていたことを知った。
太田が「1日に1回のカレーが我慢できない」と主張するので、菜々子は低カロリーのカレーを考えることにした。低カロリーで美味しいカレーに太田は満足し、それは社食のローテーションに組み込まれた。差し入れのケーキを見た紀美子は食べたくなるが、小松の顔を思い出して我慢した。夜遅くまで新しいメニューを考える菜々子の頑張りを認めた光子と信子は低カロリーのデザートを考え、手紙を添えて彼女にプレゼントした。
企画開始から6週間後、会議に出席した幸之助は、体脂肪計の値段を下げるかどうかの決断を迫られる。幸之助が答えに困っていると、まだリハビリ中だったはずの卯之助が現れた。彼は「ここは攻めて行こう」と言い、コスト削減を検討するよう指示した。卯之助は幸之助から、「お前に任せて寝ているわけにはいかないだろう。一度逃げた人間は、肝心な所でどうせまた逃げるもんだ」と冷たく言う。
幸之助は車で去る卯之助を見送りながら、かつて納期を間違えるミスをやらかした時のことを思い出す。卯之助は先方へ謝罪に行くよう指示するが、小泉が「幸之助君では荷が重い。私が行きましょう」と告げた。それでも卯之助から「お前が行け」と言われた幸之助は、「いや、ここは専務に行ってもらった方がいいかと」と薄笑いを浮かべた。そんなことを回想していた幸之助に、小泉は「わざわざ病院を出て来られたんだ。その意味を良く考えろ」と厳しい口調で告げた。
夜中に我慢できなくなった太田がビールを飲みながらピザを食べていると、そこに丸山が現れた。丸山が食料を漁ろうとして社食へ行くと、幸之助が冷蔵庫を開けて肉を食らっていた。社食にやって来た菜々子は3人がすき焼きを食べているのを目撃し、激怒した。「やっぱダメなんだよ、楽な方に逃げちゃうんだよ、俺という人間は」と幸之助は漏らし、「停滞期を乗り越えるには自分のモチベーションを見つめ直すしかない」と菜々子が告げても、彼は「もう辞めたいよ」と弱音を吐くだけだった。
丸山は娘と会って運動会に参加したいことを告げるが、相変わらず肥満体型なので断られた。買い物していた紀美子は、小松が他の女性とデートしているのを目撃した。紀美子が「ポッチャリめの女性が好きだって言ったじゃない」と非難すると、小松は「人には振り幅ってモンがさ」と釈明した。菜々子は面接で落とされていた西王グローバルフーズからの電話を受け、栄養士が急に辞めたので来てほしいと誘われる。
幸之助たちが全くやる気を見せないので、菜々子は企画から降りようと考える。だが、外へ出た菜々子は、屋上から紀美子が飛び降りようとしているのを目撃する。幸之助たちはケーキをエサに使い、紀美子の身柄を確保した。紀美子は「どうかしてました」と謝罪した後、「なんで、たかが食べ物のことで、こんなに苦しまなきゃならないんですかね」と泣いた。自殺騒ぎのせいでダイエット企画は中止となり、幸之助は発表会の責任者からも外される…。

監督は李闘士男、原作は『体脂肪計タニタの社員食堂』田中大祐著 角川書店刊&『体脂肪計タニタの社員食堂 500kcalのまんぷく定食』タニタ著 大和書房刊、脚本は田中大祐、エグゼクティブプロデューサーは井上伸一郎、製作は安田猛&小笠原高志&佐藤靖&三木明博&新浪剛史&渡部一文&毛塚善文&岩本孝一&齋藤雅代&松田陽三&滝沢平&近藤良英、企画は加茂克也&前田直典、企画プロデュースは春藤忠温、プロデューサーは二宮直彦&坂野かおり&宮前泰志、撮影は永森芳伸、照明は岡田佳樹、録音は小松崎永行、美術は安宅紀史、編集は宮島竜治、ラインプロデューサーは元持昌之、アソシエイトプロデューサーは大森氏勝、フードスタイリストは飯島奈美&板井うみ、VFXスーパーバイザーは浅野秀二、特殊メイクは百武朋、脚本協力は高田亮&平田陽亮、企画スーパーバイザーは猪野正浩、原作レシピは荻野菜々子、ダイエット監修は西澤美幸、音楽は小松亮太、音楽プロデューサーは安井輝、主題歌『さあ、召し上がれ』は矢野顕子。
出演は優香、浜野謙太、草刈正雄、駒木根隆介、酒向芳、宮崎吐夢、小林きな子、草野イニ、壇蜜、渡会久美子、藤本静、加藤満、田窪一世、伊達暁、松岡恵望子、松岡璃奈子、須藤公一、辰巳智秋、櫻井章喜、頼経明子、白神允、吉川まりあ、清水一彰、藤田秀世、吉田羊、鈴木裕樹、大和田萌、ウダタカキ、山地健仁、西 洋亮、いせゆみこ、寺島尚正、野村邦丸、水谷加奈、吉田涙子、Cifaら。


株式会社タニタの社員食堂で出されているメニューを取り上げて大ベストセラーとなったレシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂〜500kcalのまんぷく定食〜』をモチーフにした映画。
監督は『デトロイト・メタル・シティ』『ボックス!』の李闘士男。
バラエティー番組の放送作家として活動している田中大祐が、初めて映画脚本を手掛けている。
菜々子を優香、幸之助を浜野謙太、卯之助を草刈正雄、居酒屋の大将を駒木根隆介、小泉を酒向芳、丸山を宮崎吐夢、紀美子を小林きな子、太田を草野イニ、看護師を壇蜜が演じている。

タニタは健康機器メーカーであり、社員食堂をオープンしたの目的は社員の健康維持と増進だった。
そんな会社のはずだが、この映画では肥満体型の社員が大勢いる。二代目副社長からして小太りだ。おまけに栄養士は料理が下手で、ダイエットの知識も乏しい。
そりゃあ、コメディー映画としては決して「全面的に間違っている」とは言えない設定なんだけど、タニタとしてはホントにいいのかという気がしないでもないぞ。
この映画、タニタにとって、あまり企業宣伝のプラスにならないんじゃないか。

タニタの成功物語や社員食堂の歴史について真面目に描いたとしたら、それはそれで退屈な作品になるだろうし、間違いなく会社の印象を悪くするだけだから、そういうアプローチを避けたのは正解だ。
コメディーにしたのは悪くない判断だと思う。
しかし問題なのは、これがコメディー映画として、ちっとも面白くないってことだ。
そうなると、「結果的には真面目やろうがコメディーにしようが同じだった」と言わざるを得ない。

まずアヴァン・タイトル、菜々子が面接試験を受けているシーンの描写からして、大いに違和感がある。
彼女はモノローグで「(就職活動は)なかなか厳しいけど、もちろん夢はある」と言い、憧れの大手フードチェーンのメニュー開発に関わって活躍したいという夢を語る。ところが、その流れで描かれる西王グローバルフーズの面接で志望動機を問われると、ヘラヘラしながら「いい会社だなと思って。あと、まああの、食べることも好きなので。あの、いい匂い嗅いでたりすると元気出るっていうか、ヘヘ」などと言っている。
その態度は、とても「大手フードチェーンで働きたいという強い情熱を持っている」という風には感じられない。志望動機は「何となく」「適当に」という軽薄なモノにしか見えないのだ。
それは本人のモノローグと矛盾しているでしょ。「口下手で自分の気持ちを上手く表現できない」ということなら受け入れられるが、そうじゃないからね。
彼女をどんな風に見せたいのか、そこがボンヤリしている。もしも「適当なノリだった」ということなら、それをハッキリと示す必要もあるし、適当じゃなくなる成長ドラマを描く必要があるが、どっちも出来ていない。

キャラクターの動かし方として違和感があるのは、幸之助も同様だ。会議の後、彼が辞表を提出するのは違和感が強い。
どうやら「何かあると、すぐに逃げの選択を打つ」ということを示すための描写らしいが、それが辞表の提出というのはギクシャク感を抱いてしまう。
その1発で「いつも逃げる」というのをアピールしようとするから無理な描写になっているという部分はあるので、卯之助が倒れる前に2つか3つぐらい、「すぐに逃げたがる気弱な奴」という幸之助の性格を示すための小さなネタを重ねておけば良かったんじゃないか。
だから卯之助が倒れるタイミングは、もう少し遅らせた方がいい。

っていうか、そもそも菜々子のナレーションで物語を始めているのに、すぐにタニタの様子に移り、そこがメインになっていくという時点で、構成に難があると言わざるを得ない。
その後、同窓会を知った幸之助が大衆酒場に菜々子を呼び出して、そこで彼女が「この男、谷田幸之助は〜」とモノローグを語り始めたに、すんげえギクシャクしてるなあと感じてしまう。
菜々子にナレーションを任せるのなら、もっと彼女の視点で物語を進めて行くべきだ。
つまり、「就職活動に苦労しているヒロインが、たまたま同窓会の知らせを知って出掛け、そこでデブになった幸之助と再会して」という流れにすべきだということだ。

そういう進め方にすると、体脂肪計の発表会が迫っているとか、卯之助が倒れたとか、そういう経緯を描写することが出来なくなるという問題は生じる。
しかし、それを簡単に解決する方法がある。それは、「幸之助が菜々子に協力を要請した後、事情を説明する」という風にして、回想形式で今までの経緯を描くという方法だ。これなら、ずっとヒロインを中心に据えたままで話を進めることが出来る。
もちろん、ナレーションを幸之助に任せて「彼が思い出して呼び出す相手」ということで菜々子を初登場させるような形を取れば、そん構成にする必要は無くなるわけで、そっちの方法を取ってもいいだろう。
っていうか、幸之助が「社員みんなでダイエット」という企画を思い付いたのなら、それを観客に対して先に示すべきだろう。菜々子を呼び出したシーンの後、ようやく「幸之助がダイエット企画を思い付いていた」ってのを会議の回想シーンで観客に示すってのは、手順として逆だろう。
「ダイエット企画を思い付く」→「会議で企画が通る」→「困ったので菜々子に助けを求める」という流れで見せて行くべきでしょ。

あと、ダイエット企画が通ったら困惑している幸之助の様子が描かれるが、なんでだよ。
テメエで出したんだろ。
「軽いノリだったのに、本格的な販促キャンペーンになったので困惑する」ということかもしれんけど、上手く表現できていないし、そういうの要らないわ。
ただ、後の展開を考えると「幸之助はダイエットに積極的じゃない」という形にしておいた方がいいので、例えば企画を出す人間を別の社員にするとか、何気無く「社員みんなでダイエットなんてね」と口にしていたら宣伝部の人間の耳に入って「それで行きましょう」ということになってしまうとか、そんな形にでもしておけばいいんじゃないかな。

ダイエット企画が決定した後、「乗り気ではなかったデブたちの気持ちが変化する」という経緯の描写に移るが、ここも上手くない。
まず、紀美子は小松とデートする時に太った体が邪魔でポルシェの設備を壊してしまう。だが、そこで小松は困惑するものの、嫌うわけではない。
その後、紀美子はケーキ食べる時に「せめてポルシェに乗れるような体になってよ」と言う小松を妄想し、「優しい彼との恋を成就させるためにダイエットしよう」という決意をする。
でも、そこで2つもシーンを使うより、1シーンで表現した方がスッキリする。

それと、紀美子のダイエットを考える動機は、すげえ中途半端。だって小松はポッチャリが好きなんだからさ。
「小松の感覚からしても紀美子は太り過ぎ」ということなんだろうけど、この映画の方向性からすると紀美子はスリムにならなきゃダメでしょ。
でもスリムになると小松のタイプからは外れるわけで。
つまり、そこは「惚れた男に太った体をバカにされ、見返すために痩せようとする」とか「惚れた男はデブが嫌いだと知り、痩せようと決意する」とか、そういう形にでもした方がいいんじゃないか。

丸山は「娘にいいトコ見せたいしさあ、痩せたい気持ちはあるんだよ」と言いつつも、積極的にダイエットに取り組もうという意識は薄い。それは紀美子も同様で、「でも結局はリバウンドするだけの気がするし」と口にしている。
そこで積極的にならないのなら、中途半端に「痩せたい気持ちはあるけど」という見せ方をする意味が無い。彼らがウジウジしていると言うより、映画として煮え切らないという印象になる。
それなら「乗り気じゃないままダイエット企画が始まり、最初は嫌々ながら参加していたが、あることをきっかけにして積極的な気持ちへと変化する」という流れにした方が分かりやすい。
それは使い古された陳腐な手口かもしれないが、変に捻ったことをやろうとして失敗するぐらいなら、ベタベタでいいよ。

菜々子を「料理が苦手」という設定にしてあるので、そこから「練習を積んで料理が上手くなる」という展開があるのかと思ったら、彼女は全く料理の練習を積まない。
料理が下手だけど知識は豊かなので、「カロリーや栄養バランス、美味しい食材などを考え抜いたレシピ」は優れているのに調理が雑ということになっている。
レシピが優れているなら、料理の上手い光子と信子に全て任せれば成立してしまう。
調理担当の2人は文句を言いながらも従っているので、菜々子の料理が下手でも成立してしまうわけだ。

しかも、いつの間にか、っていうか早い段階で、菜々子は料理の手際が良くなっているし、ちっとも下手には見えなくなっている。
そうなると、菜々子を「料理が苦手」という設定にしてある意味って何なのかと。全く無いでしょ。
そういう設定にするなら、やはり「彼女が努力して料理の腕前を向上させる」という手順を踏むべきでしょ。
ただし、それをやろうとすると「料理が上手になる」→「ダイエットメニューを考える」→「おデブも満足できるメニューを考える」という3つのステップをクリアする必要があるわけで、そういう菜々子の成長や挫折のドラマを描きつつ、デブたちのダイエットによる肉体的変化と精神的成長を描くってのは容易じゃない。
だから、やはり最初から「菜々子は料理が苦手」という設定をやめれは良かったのよ。どうせ全く使えていないんだし。

菜々子がメニューを考え始めた後、普通に考えられるのは「料理が下手な奴が机上の空論で考えたレシピなので、社員からは不満が出る」とか、「ダイエットメニューとしては優れているが、ボリュームや味付けの面で社員が満足できない」という展開だ。で、そこで菜々子挫折したり、頭を悩ませたりしながら新しいメニューを開発するという方向へ転がすのが、ベタで分かりやすい展開だ。
しかし本作品は、そういうベタをやらない。
で、本作品は何をやったかというと、「早い段階で社員が満足し、菜々子はそんなに悩むこともなく味付けやボリュームの面で社員を満足させられるメニューを考案する」という内容にしたのだ。
おデブな社員たちも、菜々子の指示に全く逆らわない。「太田が密かにカレーを食べていた」というのも、「菜々子が低カロリーのカレーを作る」という展開に繋げるためのきっかけに使っているだけ。
しかも菜々子は全く悩まず、すぐに低カロリーで美味しいカレーを作ってしまう。

ダイエット企画やメニュー開発に関して特に大きな問題は起きず、菜々子が壁にぶつかったり悩んだりすることもないので、物語には起伏やメリハリが生まれない。
それは「スムーズな展開」ではなく、「足元がツルツルとしていてずっと滑り続けている」という感じだ。
時間は経過しているが、その中で何が描かれていたんだろうと考えると、ほとんど中身が無い。
いや、ホントは色々なことが描かれているけど、まとまりが無くて散らかった状態なので、伝わるモノがほとんど無いのだ。

完全に「菜々子の物語」として映画が進む中(その物語はペラペラだが)、しばらく「脇役の1人」に成り下がっていた幸之助だが、後半に入ると思い出したかのように「父との関係」でドラマを作ろうとする。
だが、それがダイエット企画と上手く絡み合っていない。
後半には「我慢できなくなった幸之助たちがダイエット企画を無視して食べる」という展開があるが、そのきっかけも、暴飲暴食の描写も弱い。「幸之助たちがダイエットへの意欲を失う」というのはセオリー通りの展開だが、そこへの流れも見せ方も下手。
しかも、「幸之助たちが意欲を失ったせいで企画が中止の危機に」ということではなく、自殺騒ぎを起こしたせいで企画は中止ってことになってしまう。そして中止を聞かされた時には、幸之助はともかく他の3人は「やる気になっていたのに」というスタンスになっている。
いつの間に、やる気を取り戻したんだよ。もしも自殺騒ぎを止めたのがきっかけで意欲を取り戻したとしたら、描写が雑すぎるわ。

ダイエット企画が中止となり、発表会の責任者から外されても、幸之助は相変わらず逃げ腰のまま。残り20分ぐらいになって菜々子が説教して、ようやくやる気を見せている。
でも、それだと始動が遅すぎる。
いや、最終的に「やる気を見せる」という展開になるのは、その辺りでいいのよ。ただし、それは「一度はやる気になっていたけど壁にぶつかり、逃げたがる悪い癖が出てしまう」という手順を踏んだ上でのことだ。
ずっと逃げ腰のままで残り20分ってのは、彼を応援する気持ちが全く沸かないわ。

(観賞日:2014年10月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会