『ただ、君を愛してる』:2006、日本

カメラマンの瀬川誠人は、里中静流の個展が開かれると知り、2年ぶりに会うためニューヨークを訪れた。静流は誠人に、よく嘘をついた。 誠人が彼女と過ごした3年間に、何度もおかしな嘘をつかれた。大学の食堂で「世界の人間の5人に1人はエスパーだから、心が読める。 確かめたんだから」と言われ、驚いたこともある。「この大学なら、みゆきは間違いなくエスパーだ」と静流が言うので、誠人は完全に 信じ込んだ。静流が笑い出したので、ようやく誠人は騙されたと気付いた。
誠人が静流と再会して真っ先に言いたいのは、あの森がまだあるということだ。6年前、誠人は明京大学の学生となったが、入学式には 出席しなかった。彼は大学の近くで、「私有地につき立ち入り禁止」と書かれた柵の向こうを覗き込んでいた。振り返った彼は、交通量の 多い横断歩道を渡ろうとしている新入生を発見した。それが里中静流だった。
誠人は静流に声を掛け、「押しボタン式の信号が近くにあるから、そっちから渡った方がいいと思うよ。ここじゃドライバーは停まって くれない」と告げた。すると静流は、「横断歩道なのに?」と疑問を口にした。彼女は入学式に遅刻しており、誠人も同じだと思い込んだ。 誠人は入学式に出席するつもりがないことを告げ、「人込みが苦手だから」と説明した。誠人が去ろうとすると、まだ静流は横断歩道で 粘った。彼女は「気にしないで、ちょっと確かめてみようと思って。それでも停まってくれる親切な人がいるかと思って」と言った。誠人 は少し離れた場所でバッグからカメラを取り出し、彼女の姿を撮影した。
講師の葛西修が授業を進める中、誠人は静流がウトウトしているのに気付いて笑った。誠人はトイレの個室に入り、脇腹の皮膚病に薬を 塗った。トイレに入ってきた学生が「なんか薬くさい」と口にしたので、誠人はドキッとした。彼は加藤薬局で「もっと匂いの無い薬は ありませんか」と尋ねたことがあったが、「匂いなんて無いよ。子供の頃から使ってるから、思い込んでるんじゃないの」と言われた。 その匂いが気になるので、誠人は他人と距離を取って生活していた。
ある日、誠人が食堂で昼食を取っていると、静流が現れた。「なぜ横断歩道で私を撮ったの」と訊くので、誠人は「何となく」と答えた。 誠人は英語学科で、静流はフランス語学科だった。静流は、慢性鼻炎で、他の人の100分の1ぐらいしか匂いが分からないことを語った。 彼女は昼食をドーナツビスケットだけで済ませた。それが彼女の主食だという。
静流に「友達できた?」と問われ、誠人は「いや」と答えた。静流が「あたしも。それじゃあ、あたしたちが友達にならない?」と口に したので、誠人はうろたえた。誠人が「あの横断歩道の渡り方を知っている」と言うと、静流は興味津々で「どうやるの?」と尋ねた。 誠人は早朝に、静流を横断歩道へ連れて行った。車は全く通っていなかった。静流は「渡り放題だ」と喜んだ。
誠人は静流と別れて立ち入り禁止の場所へ行き、柵を乗り越えようとした。すると、そこへ静流がやって来た。2人は柵を乗り越え、森に 入った。誠人はカメラを取り出し、森の中を歩きながらシャッターを切った。2人が鳥を発見して追い掛けると、湖に出た。静流が「キス したことある?」と尋ねるので、誠人は狼狽しつつ「あるよ」と答えた。会話の中で、静流は「ビスケットで栄養は足りてるの。あたしに 足りないのは成長ホルモン」と語った。
誠人が食堂で昼食を取っていると、富山みゆきが近付いて声を掛けた。彼女は、自分たちのテーブルで一緒に食べないかと誘った。誠人は 喜んでOKした。みゆきは人気者で、関口恭平、白浜亮、矢口由香、井上早樹という仲間と一緒だった。関口が「入学して何ヶ月も経つが、 お前が人と喋ってるのを見たことがない」と言うので、誠人は「人見知りしていた」と言い訳した。
食堂に現れた静流は、誠人がみゆきたちのテーブルにいるのを見て、声を掛けずに別のテーブルへ座った。誠人は入学以来、ずっとみゆき に恋していた。彼は、その時に静流もきっと気付いただろうと思った。誠人はみゆき、関口、早樹と海に出掛けた。後日、その時の写真を 見た白浜は、「こんなの恋人が見たら怒るんじゃないの」と誠人に言った。白浜は、誠人が静流と歩いているのを見たと話した。誠人は 「ただの友達だって」と説明したが、関口が「照れるなよ」と冷やかした。
「変人女と付き合ってるのか。まあ好みは色々だからな」と関口がからかっていると、後ろに静流がいた。彼女は無言で誠人に本を渡し、 その場を去った。誠人は森へ行き、静流に「ごめん、悪気は無かったんだ。みんな僕をからかおうとして」と釈明した。静流は悲しそうに、 「変人扱いなんて気にしてないけど、ホントの友達なら少しぐらいかばってくれてもいいじゃん」と言った。
誠人は、田舎の土産屋に並んでいたピンクのドーナツビスケットを彼女に差し出した。誠人は静流に、カメラを教え始めた。森で撮影した 写真を現像するために、誠人は静流を自分が借りている一軒家へ招いた。薬の瓶を見つけた静流が「何、これ」と言うので、誠人は慌てて 片付けた。すると静流は「男の子だもん、そういうのも使うよね」と勘違いした。
現像が終わると、もう11時を過ぎていた。誠人は駅まで静流を送ることにした。彼女が「楽しかった」と言うので、誠人は「また、いつ でもおいでよ」と告げた。静流は「誠人が撮りたくてしょうがない女になるから。でも、今はまだダメ。せめて、このメガネが外せるよう になるまで。大人になって良くなったら外せるようになると病院の先生が言ってた。奥歯にまだ乳歯が残ってるけど、これからは成長して、 誠人がビックリするぐらいキレイになる」と語った。
誠人は、ずっとみゆきと一緒にいたくて、薬を塗るのをやめていた。講義の時も、誠人はみゆきの隣に座った。みゆきは、ブライダル雑誌 を広げてウェディングドレスばかり見ていた。森で静流が写真を撮影していると、誠人がみゆきと一緒に現れた。「ここの話をしたら、 みゆきも来てみたいっていうから」と誠人が告げると、静流は無言で奥へと歩いて行った。
誠人は静流を追い掛け、「どうしたの?」と尋ねた。静流は「確かにあの人はキレイだよね。あたしとは大違い。なんで連れて来たり したの。ここは、あたしたちだけの大切な場所じゃなかったの?」と告げて去った。翌日、静流はみゆきの前に現れた。だが、みゆきが アメジストのネックレスを知っているのに気付くと、途端に仲良くなった。2人の親しげな様子を見て、誠人は静流に「何か企んでない?」 と尋ねる。すると静流は、「好きな人が好きな人を、好きになりたかっただけ」と述べた。 3人のややこしい関係は、大学3年の秋まで続いた。みんな就職活動を始める時期になり、みゆきは父のコネで外資系の会社に入ることが 決まっていた。誠人は、静流が大きな荷物を持っているのを目撃して声を掛けた。すると静流は、家出したので大学の部屋を一つ貸して もらうつもりだと説明した。不動産屋だと、子供扱いして部屋を貸してくれないという。
誠人は「だったらウチへ来ればいいのに」と言い、静流を家に招いた。静流は最近、人物写真ばかり撮影していることを告げた。その写真 の出来映えを見た誠人は驚いた。その夜、静流は誠人に抱き付き、「覚悟は出来てるから」と告げた。誠人が「そういう気は全く無いから」 と言うと、静流は「私がぜんぜん成長してないから?」と訊く。「いや、そうじゃなくて」と誠人が言うと、静流は「後悔してもしらない からね。なんで、あんなイイ女を抱いておかなかったんだろうって」と不機嫌になった。
次の朝、静流が「あたし、先に行くから」と口にするので、誠人がキョトンとした表情で「どうして?一緒に行こうよ」と言う。静流が 「こんなとこ誰かに見られたらマズいでしょ。下宿させてもらったうえに誠人の恋の邪魔までしたら」と言うので、誠人は微笑した。その 夜は、静流が食事を作った。彼女は明るい様子で「1週間前に、寝たきりだった弟が死んだ。家に居辛くなって飛び出した。遺伝性の病気 で、母も自分が幼い頃に同じ病気で死んだ」と語った。誠人は、静流がドーナツビスケット以外の物を食べるところを初めて見た。静流は 「これからはどんどん食べて、どんどん成長する」と告げた。
ある日の授業中、誠人はみゆきから「今日が私の誕生日だって知ってた?」と言われた。「忘れてた、ごめん」と謝る誠人に、みゆきは 「そんなに謝るんなら、付き合って欲しいところがある」と告げた。その夜、誠人は静流に「カメラマンになろうと思ってる。静流の写真 を見て、そう思った。負けてられないって」と話した。「腕試しも兼ねてコンクールに出すから、一緒に出さないか」と誘うと、静流は 「誠人が出すなら」と喜んで同意した。
誠人はコンクールの写真を撮影するため、遠出してみないかと持ち掛けた。静流が「今度の日曜日は?」と言うが、その日、誠人はみゆき とウェディング展に行く約束があった。そのことを告げると、途端に静流は不機嫌な顔になった。しかし、「みゆきは夢を見に行くのに、 ヨレヨレの服じゃマズいでしょ。デート用の服を買ってきて」と誠人にアドバイスした。
日曜日、ウェディング展に出掛けた誠人は脇腹が痒くなり、トイレに駆け込んだ。上着を脱いだ彼は、ポケットに薬が入っているのを発見 した。静流が入れてくれてあったのだ。ウェディング展の後、そこて使ったウェディングドレスを着て記念撮影が出来るというので、行列 が出来ていた。みゆきは「時間が掛かりそうだから」と去ろうとするが、誠人が呼び止めて記念撮影をしてもらった。
誠人が帰宅すると、静流は口から血を流していた。右の奥歯が抜けたのだ。それを見た誠人は、「本当に乳歯が生えていたんだ」と驚いた。 彼は静流に誕生日を尋ね、「今度は静流、の誕生日もお祝いしなきゃね」と告げた。すると静流は、「私のお祝いなんていいから、みゆき のことだけを考えてればいいの」と告げた。誠人が「付き合うことだけが恋じゃないだろ。片思いだってあるんだし。今のままの関係を 壊してまで……」と言うと、静流は「臆病者の理屈だ」と一蹴した。
静流が「じゃあさ、私にもプレゼントちょうだい」と言うので、誠人は「何がいい?」と尋ねた。「キスして」という答えに、誠人は狼狽 した。「みゆきとはした?」と問われ、「5回はした」と嘘をついた。静流は「写真のテーマをキスする恋人にしようと思ってる。だから コンクール用にモデルとして」と説明する。誠人が「誕生日、いつ?」と訊くと、彼女は「明日にする」と言った。
翌朝、誠人は静流と共に森へ出掛けた。緊張しながらキスの準備をすると、静流は初めてメガネを外した。キスを交わした後、静流が 「もう少しここにいる」と言うので、誠人は授業に出るため大学へ行くことにした。静流が「今のキスに、少しは愛はあったかな?」と 言うので、誠人は「えっ?」と訊き返す。静流は「いいの、じゃあ」と言うだけだった。
夕方、誠人が帰宅すると、静流は「さよなら。今までありがとう」と書いたメモを残して姿を消していた。ちゃんと家に帰っているか確認 するため、誠人は学生課へ向かった。そこで彼は、静流が昼間に退学届を出していることを知った。彼女の自宅へ行くが、留守だった。 その夜、誠人は雨に打たれ続けて高熱を出した。翌朝、彼は仲間によって病院に運び込まれた。
回復した誠人の元に仲間が集まり、彼の入院中に全員の就職が決定したことを報告した。みゆきは、みんなで手分けして静流を捜したが、 全く手掛かりが無いことを告げた。関口は「まさか同棲していたとはな」と誠人を冷やかした。誠人はみゆきと2人きりになり、「まだ、 きちんと失恋できてない気がするんですけど」と告げられた。誠人が「あの家で静流の帰りを待つつもりだ」と告げると、みゆきは「これ できちんと失恋できた」と言った。
卒業してカメラマンになった誠人の元に、静流からの手紙が届いた。ニューヨークで写真家の助手をしていたが、個展を開くことになった という。手紙が届いた翌月、誠人は渡米した。待ち合わせのブルックリン橋で写真を撮っていると、みゆきが姿を現した。半年ぐらい前に チャイナタウンで静流と再会し、ルームメイトになったという。「静流は仕事でロスに行ってるの、急な撮影が入って抜けられなくて」と 彼女は言った。しかし誠人は静流の父からの留守電メッセージを聞き、静流が1ヶ月前に死んでいることを知った…。

監督は新城毅彦、原作は市川拓司、脚本は坂東賢治、 製作は樫野孝人&坂上順&千葉龍平&亀井修&渡辺純一、企画は遠藤茂行&三木裕明&高木政臣&清水賢治、 プロデューサーは松橋真三&野村敏哉、共同プロデューサーは山田俊輔&柳崎芳夫&小池賢太郎&菅原朝也、 協力プロデューサーは西口典子、撮影は小宮山充、編集は深沢佳文、録音は益子宏明、照明は保坂温、美術は古谷良和、 主題歌は大塚愛「恋愛写真」、音楽は池頼広。
出演は玉木宏、宮崎あおい、黒木メイサ、小出恵介、上原美佐、青木崇高、大西麻恵、小林すすむ、森下能幸、小林三四郎、小室正幸、 荻野貴匡、小川祐弥、恩田括、中嶌聡、小林愛、伴沙織、NAOKO、REIKO、友紀、藤井かな他。


2003年に映画『恋愛寫眞 Collage of Our Life』が公開された際に、コラボレーション企画として、小説『恋愛寫眞 もうひとつの物語』 が市川拓司によって執筆された。
その小説を基にしたのが本作品である。
誠人を玉木宏、静流を宮崎あおい、みゆきを黒木メイサ、関口を小出恵介、早樹を上原美佐、白浜を青木崇高、由香を大西麻恵が演じている。
監督は、これまで『君の手がささやいている』シリーズなどTVドラマの演出を手掛けてきた新城毅彦で、これが映画デビュー。

『恋愛寫眞 Collage of Our Life』を見ていなくても、何の不都合も無い。
っていうか、むしろ完全に切り離して、全く無関係な別物として観賞した方がいい。だって、広末涼子(『恋愛寫眞』の静流役)と 宮崎あおい、松田龍平(『恋愛寫眞』の誠人役)と玉木宏を頭の中でイコールにすることなんて無理でしょ。男優も女優も、全く似ても 似つかないタイプだ。
それに、『恋愛寫眞 Collage of Our Life』の誠人&静流とはキャラ造形が全く違うし、話の中身も『恋愛寫眞 Collage of Our Life』 で描かれなかった物語ではなく、全く別の展開だ。
パラレル・ワールド的なモノだと考えればいいのかな。
っていうか、キャラの名前だけが一緒で造形は大きく異なっており、内容も前日談や後日談ではなく「全く異なるストーリー」になって いて、そういうのをコラボとして作ることに、何の意味があるのか良く分からないなあ。

冒頭、バスで手紙を落としたのに、離れた席にいた黒人少女が拾って渡し、メリークリスマスを言わせる演出に、恥ずかしさを 感じる。
なんで落とした本人が全く気付いてないのよ。寝てたのか。手紙を読んでいたんだろうに。
とにかく「外国人少女がメリークリスマスを言う」というシーンをやりたかったから無理を通したことは、手に取るように分かるけど。
で、静流から来た手紙を読んでいるのに、なぜかモノローグは自分が彼女に出した手紙の文面を語る。
どういうことなんだよ。

静流が「世界の人間の5人に1人はエスパーだから心が読める。確かめた」と言うと、誠人は「どうやって?」とビックリしてるが、簡単 に信じるなよ、そんなバカな話。「怪しいと思う人がいたら、その人の前で口に出さずに、肩にクモがたかっていると考える。驚いた顔を したら、その人はエスパー。確かめてみれば」と言われ、実際に心で念じる誠人は、アホすぎるだろ。
入学式の日、立ち入り禁止の柵の向こうを覗いていた誠人は、なぜか急に後ろを振り向く。そして、交通量の多い道で手を上げて渡ろうと している静流を発見する。
その無理のある見つけ方は、どういう狙いなのか。なぜ、ごく普通に、「歩いていて、彼女の姿が目に入る」といった形にでもして おかなかったのか。
その後、静流が横断歩道で粘る様子を、バッグからカメラを取り出して撮影するのも、「そこで急に撮影?」と不自然に思える。その前に 、なぜ彼が撮影しているシーンを入れておかないのか。さっきの立ち入り禁止の柵のところでもいい。そうすれば、「急に微笑してカメラ を取り出す」という不自然さは消えるのに。

「あの横断歩道の渡り方を知っている」と誠人が言い、静流を早朝の車が通らない時間帯に連れて行くと、彼女は「渡り放題だ」と 喜ぶ。
でも、そこは「実は車が通らない時間帯に行くだけのことなんだよ」ということで、ガッカリしたり「なーんだ」と言われるだろうと誠人 が予測していたら、静流が喜ぶので戸惑う、という演出にすべきじゃないのか。
誠人は森の写真を撮影するために柵を乗り越えるが、確か柵のある場所から、森は見えなかったよな。だったら、何に惹かれて奥へ行こう と思ったんだろうか。影りたい景色があるから、そこへ行こうとするはずなのに、景色が見えていない場所へ行くため立ち入り禁止区域に 乗り込むとは。
あと、誠人は序盤のモノローグで、「初めて出会った森」とコメントしているけど、静流と出会ったのは森じゃないよな。その前に、 横断歩道で会っている。

静流は実年齢より幼く、成長ホルモンが足りていないという設定だが、髪の毛の粉を取ろうとして静流の顔が近付いただけで、慌てて距離 を取る誠人も、随分と幼い造形に感じられるぞ。
実年齢より幼くて大人になりたがっている静流との対比を考えると、誠人は遊び慣れているとか、そういうタイプにしても良かったのでは ないか。そんなのはベタすぎると思うかもしれないが、この話は、どうせベタだけで成り立っている内容なんだし。
誠人が病気のことで人と距離を置いているという設定を、どうしても使いたいということなら(皮膚病で薬の匂いが気になっている設定も、 陳腐で安易であざといけど)、せめてもっと陰気にすべきだろう。
これに関しては、キャスティングの時点で失敗しているかもしれない。この作品を見る限り、玉木宏って爽やか過ぎて、人付き合いを 避けていても、暗い感じが全く無いのよね。

みゆきから食堂で一緒に食べようと誘われると、誠人は喜ぶ。
椅子は少し離して座るくせに、それは喜んでOKするんだな。薬のことを気にして、人付き合いを避けているはずなのに。
その辺りは、キャラ造形が定まってない感じがする。本気で匂いを気にしていたら、もっと暗くなって、もっと徹底して人との付き合いを 避けるだろ。好意のある女に声を掛けられたとしても、ぎこちなくなって、断ったりするだろ。
誠人には、純情っぽさはあるけど、「極度の人見知り」という雰囲気は無いよ。
で、ここで関口たちと喋る時も、誠人の表情が明るいんだよね。そこには、人付き合いを避けていた奴の引きつり、緊張、強張り、そう いったものが全く無いのだ。コミュニケーションを取ることに慣れている感じだ。
で、みゆきたちと海へ遊びに行くが、これも皮膚病の場所は湿布で隠しているけど、本気で気になっていたら、そんなの絶対に断るぜ。

関口は誠人に「変人女と付き合ってるのか」と言うが、その時点で、静流にはそれほど変人らしさは無いぞ。ドーナツビスケットが主食と いうぐらいで。
で、誠人は「田舎の土産屋に並んでいた」と言ってピンクのドーナツビスケットを静流に渡すが、田舎の土産屋に、そんなハイカラなモン が並んでいるかな。むしろ駄菓子屋とかの方がありそうだが。
次のシーンで誠人は静流にカメラを教え始めるが、カメラを教えて欲しいというシーンも、静流がカメラを見せるシーンもなかった のに。
そこを省いてどうすんの。食堂のテーブルにカメラを置く場面があったが、それを誠人は見ていなかったはずだし。

「この頃、僕はみゆきとずっと一緒にいたくて薬を塗るのをやめていた」というモノローグの際、誠人は教室でみゆきの隣に座って授業を 受けている。他の仲間もいるならともかく、この2人だけが離れて座っている。
もうそれって、完全に付き合ってる状態じゃねえのか。
そこまで積極的になれるものかな。今まで人付き合いを避けていた奴が。
こいつの行動はキャラ的に不可解が多すぎる。みゆきの方から積極的に隣に座ったりしているのなら話は別だが、違うんだよな。

みゆきを森に連れて行ったら静流が不機嫌になるが、誠人は「どうしたの?」とキョトンとしている。
そういうところでの、誠人のあまりの鈍感さも不可解だろ。
今まで女関係がなかったからこそ、そういうとこは、むしろ、少し優しくされただけで「ひょっとしたら好きなのでは」と勘違いする ぐらい敏感に感じるもんじゃないのか。
その前の駅まで送るシーンで「ひょっとして」と思わない感覚は変だぞ。どんだけ鈍いんだよ。

静流が家出したと言った時、「だったらウチへ来ればいいのに」と誠人は口にする。
ここで「なんでそんなこと言うんだ?」と、こっちがツッコミを入れる前に、「自分がなんでそんなことを言っているのか分からなかった 」というモノローグを先に言われてしまう。
卑怯だなあ。
っていうか、そんなことを平気で言えるデリカシーの無さもアカンだろ。自分のことを好きだと未だに気付いていない設定なのか。
いや、だとしても女に宿まりに来いって簡単に言えるその感覚は、ずっと人付き合いを避けていた奴が言えるセリフじゃないぞ。
ぎこちないならまだしも、スムーズに口をついて出ている。

静流が「覚悟は出来てるから」と抱き付いてきた翌朝も、「あたし先に行くから」と言われた誠人は、キョトンとした感じで「どうして? 一緒に行こうよ」と平気で言ってしまえる。
どんな奴だよ。
こいつの方が、静流よりも遥かに成長ホルモンを必要としているだろ。
「こんなとこ誰かに見られたらマズいでしょ。下宿させてもらったうえに誠人の恋の邪魔までしたら」と言われて微笑できる感覚もスゴい し。
そこは彼女の心の痛み、好きな男に対してそういうことを言う心の内を理解したら、笑えないだろ。

キスの後で「少しは愛はあったかな?」と静流に問われ、またキョトンとした感じで誠人は「えっ?」と聞き返す。
こういうところで、ホントに何の感情も無くキスできて、相手の気持ちを慮ることもない無神経な奴だ。
どうやら静流が手紙を残して去った時に、彼女への恋心に気付いたみたいだが、ちっとも分からなかったよ。モノローグではそれらしい ことを言ってたけど、他の表現として、それらしいモノが無かったもんな。
モノローグにドラマが追い付いていないのよ。
その辺りで誠人の静流に対する強い愛情がガアッと高まらないと、その後の「静流に会うためニューヨークへ」という展開に向けて、話が 盛り上がらないよ。

終盤、みゆきが「静流はあまり知られてない病気だった、お母さんからの遺伝で、体の中には生まれた時からその病気があった。静流が 成長すると病気も一緒に成長する。だから成長しないように生きていた」と言うが、なんだ、その病気は。
っていうか、成長しないように生きるって、どうやるんだろうか。成長ホルモンの分泌を薬で抑制するってことか。
で、「誠人に出会って恋をして、愛してもらいたいから成長した」という説明があるが、つまり静流は恋をすると死んでしまう病気 なのだ。
すげえな。
そんなのを堂々と描くことの出来る大胆不敵さ。みごとなぐらい少女マンガの世界だ。
で、まあファタンジーとして割り切れば何とか受け入れられるのかもしれないが、残念なことに、これはファンタジーとしての色合いに 染まり切れていないんだよな。「これはバリバリのファンタジーですよ、寓話ですよ」ということで、序盤の内に、「恋したら死ぬ病気」 という終盤のネタバラシを観客に納得させるような感覚に落とし込めなかった時点で、負けってことだな。

「好きな人が好きな人を好きになりたかっただけ」と、こういうことを何食わぬ顔で言い切るキャラを、ちゃんと演じきれる宮崎あおいの 演技力の高さだけは伝わる。
キス写真を撮る時、静流は初めてメガネを外し、「野暮ったい女の子がメガネを外すとキレイになる」というベタベタのパターンをやるん だが、ちゃんと可愛く見えるのがスゴい。
さすがは宮崎あおいだ。

(観賞日:2009年12月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会