『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』:1972、日本

売れない劇画家の小高源吾は、マネージャーを自称する友江トモ子の紹介で編集部を訪れ、未完成の原稿を門久編集長に見せる。それは宿題怪獣のシュクラや教育ママ怪獣のママゴンが登場する漫画だったが、門久は「面白くない」と一蹴した。するとトモ子は小高に、次は世界子供ランドの建設委員会を訪れるよう指示した。少し休みたいと訴えた小高だが、空手三段のトモ子に鋭い口調で命じられると、彼女の言うことを聞くしかなかった。
世界子供ランドの建設現場へ赴いた小高は、事務局長のクボタと会った。クボタは小高に、施設のシンボル的な建物であるゴジラ塔を自慢する。それはゴジラを模した展望台付きのタワーで、全怪獣の資料を集めて展示するのだという。彼は世界子供ランドについて、「子供たちは、ここで平和の精神を教えられるのです。それで地球は救われるのです。子供たちは完全な平和を学ぶのです」と語った。
クボタからアイデアを求められた小高は、「子供たちを遊ばせるには怪獣が少ないですね」と言い、門久に一蹴されたシュクラとママゴンを登場させるよう提案した。するとクボタは、「ベリーグッドです。すぐアイデアを考えて下さい」と述べた。小高が「怪獣の全資料を集めるのなら、怪獣島に住み着いている怪獣たちのことも考えてみたらどうでしょうか」と提案すると、クボタは「彼らは平和の役には立ちません。だから世界子供ランド完成の暁には、怪獣島を全滅させます」と言い放った。
怪獣のデザイン画を描いた小高は、世界子供ランド建設委員会の事務所が入っているビルへ出掛けた。すると中から飛び出して来た女性が彼にぶつかり、持っていたテープを落とした。小高はテープが落ちたことを教えるが、女性は気付かず、その場から走り去った。すぐ後にクボタと配下の男たちが出て来て、女性が逃げた方向を尋ねた。小高はわざと逆の方向を教えた。クボタたちが走り去った後、小高はテープを拾い上げて鞄に入れた。
小高がビルに入ると、事務所は奇妙な内装になっていた。会長室に入ると、会長は小高より遥かに年下の青年だった。会長は何かの数式を書いて計算しており、小高が尋ねると「Mハンター星雲の軌道だ」と答えた。クボタが会長室に駆け込み、女に逃げられたことを報告した。すると会長は、「アクション2のテープが無いと計画が大きく狂うことになる」と口にした。小高の質問を受けた会長は、そのテープが計画において重要な道具であることを語った。
その夜、アパートへ戻ろうとした小高は、昼間の女性・志摩マチ子と仲間の高杉からテープを返してほしいと要求された。マチ子は小高に、コンピュータ技師をしている兄の武士が世界子供ランドと契約していたこと、3日前から行方不明になっていることを話す。マチ子が武士の日記を読むと、「世界子供ランドは子供の敵だ。謎は2本のテープ」と記されていた。彼女は兄が監禁されていると考えていたが、それは事実だった。武士はゴジラ塔に監禁され、会長とクボタから仕事を強要されていた。
会長とクボタはテープが回っていることを示す電波をキャッチし、焦りの色を見せた。小高たちはテープを再生したが、電子音が続くだけで、どういう意味がある物なのか全く理解できなかった。会長はクボタに、コンピュータのプログラムを変更するよう命令を下す。怪獣島のゴジラとアンギラスは電子音を受信し、その意味に気付いていた。ゴジラはアンギラスに、日本へ偵察に向かうよう指示した。
小高はゴジラ塔に潜入し、武士のライターを発見した。小高、マチ子、高杉の3人は、手分けして世界子供ランドや会長たちについて調査した。その結果、世界子供ランドが非営利団体であること、本部がスイスにあること、会長が須東文夫という17歳の若者であること、彼とクボタの本籍が同じ山野市にあることが判明した。小高と高杉は山野市へ赴き、須東の実家を訪れた。すると須東とクボタは、1年前に山の遭難事故で死亡していた。2人は中学の生徒と英語教師という関係だった。
ゴジラ塔で作業を進めていた須藤は、ハンター7からの「計画変更を許可する。こちらは派遣の準備良し」という返信を受けた。須藤はクボタに、「アクション1、電子発信機、作動」と命じた。クボタがテープをセットしていると、アンギラスが相模湾へ侵入したという知らせが届いた。しかしアンギラスは防衛隊の攻撃を受け、すぐに退散した。再びゴジラ塔に侵入した小高は武士が監禁されている部屋を発見するが、ドアには鍵が掛かっていた。そこへクボタが現れたので、小高は適当に取り繕った。
小高がゴジラ塔を去ろうとすると、クボタは煙草を投げ渡して「あげるよ」と告げた。そこに発信装置が隠されていることに、小高は全く気付かなかった。アパートへ戻った小高は、待っていたマチ子と高杉に調査結果を報告する。そこへクボタが配下2名を引き連れて現れ、テープを奪って小高たちを始末しようとする。だが、たまたまアパートにやって来たトモ子に空手で攻撃され、慌てて立ち去った。
小高たちは警察署を訪れて事情を説明し、ゴジラ塔を捜索するよう求めるが、まるで相手にされなかった。その時、怪獣島のコントロールセンターから、ゴジラとアンギラスが関東地方へ出撃しつつあるという連絡が入った。クボタはハンター星雲からのパイロット信号を受信し、誘導電波に同調させた。ゴジラ塔からの電波をキャッチした宇宙怪獣キングギドラとガイガンは、地球へと向かった。一方、ゴジラとアンギラスは海を移動し、日本へ向かっていた。
小高、マチ子、トモ子、高杉の4人はゴジラ塔の様子を窺い、作戦を実行に移す。小高とトモ子は非常階段からゴジラ塔へ潜入し、始末されそうになっていた武士を救った。脱出しようとした3人だが、クボタと配下の連中に捕まった。クボタは「すぐに消えてもらうつもりだったが、計画が変わったのだ」と言い、機械室へ連行した。須東は小高たちに、「君たちは、やがて到着する補充要因のユニフォームとして利用させてもらう」と語った。
クボタは小高たちに、無謀な繁栄を目指したせいでM星雲の母星が1億年前に滅びたことを話し、「地球は全く同じ道を歩いている」と言う。生き残った人々は、その星で新しい繁栄を築いた。しかし星の命が長くないため、須東たちは地球に狙いを定めたのだ。須東は「このままでは駄目だが、我々のやり方で平和になる」と口にする。M宇宙ハンター星雲人である彼らは、須東とクボタの体を残像現象を固定化し、人間を装っていた。彼らの実体は、人間大のゴキブリだった。
防衛本部は宇宙怪獣の到来を受信し、命令を受けた防衛隊が出動する。地球に到達したキングギドラとガイガンは、ゴジラ塔の周囲を飛び回った。クボタは小高たちに、「あの怪獣たちは、このテープが発する信号でコントロールされている」と述べた。テープの命令を受けたキングギドラとガイガンは、東京を破壊する。防衛隊が攻撃しても、まるで効果が無い。2体は海岸へ移動し、港湾施設やコンビナートを破壊した。そこへゴジラとアンギラスが到着するが、須東は織り込み済みだった。須東は「この塔までおびき出せば、こっちで始末を付けてやる」と自信ありげに告げた。
マチ子と高杉は計画通りに行動し、小高、トモ子、武士をゴジラ塔から脱出させた。小高と武士は防衛本部を訪れて事情を説明し、ゴジラが近付く前にゴジラ塔の機械室を破壊するよう訴えた。司令が「すぐキングギドラとガイガンが飛んで来て塔を防衛するだろう」と言うと、武士は「内側からやるんです。敵も外側の強度を信じて、内側にはあまり気を遣っていません」と告げた。ゴジラは塔からレーザー光線を発射され、苦戦を強いられた。小高、高杉、武士、防衛隊員たちは、TNTの箱をゴジラ塔のエレベーターへと運び込んだ…。

監督は福田純、脚本は関沢新一、製作は田中友幸、撮影は長谷川清、美術は本多好文、録音は矢野口文雄、照明は佐藤幸次郎、特殊技術は中野昭慶、編集は田村嘉男、音楽は伊福部昭。
主題歌「ゴジラマーチ」作詩:関沢新一&福田純、作曲:宮内国郎、唄:石川進。
「ゆけ! ゆけ! ゴジラ」作詩:関沢新一、作曲:萩原哲晶、唄:石川進。
出演は石川博、梅田智子、菱見百合子、高島稔、藤田漸、西沢利明、村井国夫、清水元、葦原邦子、中村是好、武藤章生、草川直也、大前亘、木村博人、渡辺貞男、西川明、斉藤宣丈、中島春雄、大宮幸悦、伊奈貫太、中山剣吾ら。


“ゴジラ”シリーズの第12作。
1972年春期「東宝チャンピオンまつり」の一篇として公開された。
脚本はシリーズ8度目の登板となる関沢新一、監督は『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』に続いて3度目の登板となる福田純。
小高を石川博、マチ子を梅田智子、トモ子を菱見百合子、高杉を高島稔、須東を藤田漸、クボタを西沢利明、武士を村井国夫、防衛本部司令を清水元、須東の母を葦原邦子が演じている。

シリーズ第1作から長きに渡ってゴジラのスーツアクターを務めて来た中島春雄が、最後にゴジラを担当したのが本作品である。
そもそも彼は、この映画でゴジラを演じるつもりは無かった。
前年の1971年、極度の経営不振に陥っていた東宝から専属契約の解除を通告され、この映画が製作された当時は東宝経営のボウリング場で働いていたのだ。
しかし他の人では演じられないからと頼まれ、最後のゴジラ役を引き受けている。

『スペクトルマン』や『帰ってきたウルトラマン』などTVの特撮ヒーロー番組がきっかけで、この映画が公開された1972年は第二次怪獣ブームの真っ只中だった。しかし東宝の財政難は相変わらずだったので、ブームに合わせて製作費が上積みされることも無かった。
そのため、特撮シーンでは『三大怪獣 地球最大の決戦』『怪獣大戦争』『怪獣総進撃』といった過去作のフィルムが流用されている。
前作『ゴジラ対ヘドラ』の特撮シーンは新撮だけで賄っていたが、それは「ヘドラが新しい怪獣なので過去の映像が使えない」という事情もあってのことだろう。
今回は、これまでのシリーズで怪獣島(怪獣ランド)が登場しているし、ゴジラとアンギラスとキングギドラは戦っているので、映像を流用しやすい内容になっているのだ。新撮シーンでも、飛行するキングギドラとガイガンはキグルミや操演ではなくミニチュアを使うという辺りに製作費の少ない事情が透けて見える。

過去の映像を流用する上で問題になるのは、今回の戦闘が全て夜間だということだ。過去作品では日中シーンになっているので、そのままでは使えない(使ってもいいけど、さっきまで夜だったのに急に明るくなるという変な現象が起きる)。
そこで、日中シーンの映像にフィルターを通し、薄暗くすることで夜間に見せ掛けている。ただ、新撮シーンと交互に出て来る箇所では、注意深い人なら違いに気付くかもしれない。
それと「さっきまで港湾施設で戦っていたのに、急に峡谷の陸橋へ移動している」という瞬間移動が起きているが、こっちに関してはフィルターを通して解決できる問題でもないしね。
世界子供ランドが都市部から遠く離れており、周囲に何も無いという不可解な立地条件なのも、その近くで戦闘が繰り広げられるので、過去の映像と場所を合わせるための設定だろう。

製作費の少なさは、防衛隊のスケールにも表れている。
前作に引き続き、登場する防衛隊の隊員や戦車の数は少ない。大勢のエキストラを用意することも出来なかったのか、「破壊される街で逃げ惑う人々」というシーンも無い(そもそも都市破壊のシーンが少ない)。
また、防衛本部が狭くて、貧乏臭さが露骨に見えている。
そんな防衛隊の中でマトモに色分けされている唯一の人間が司令で、この人は正体不明の物体が接近した時に「受信高音装置を作動させろ」と命じ、怪獣の鳴き声を聞いただけで「宇宙怪獣だ。1つはキングギドラ」と即座に言い当てるという凄い技能を披露している。

クボタは「怪獣島の怪獣は危険だから抹殺する」と言っておきながら、一方でゴジラを模したタワーを建設したり、世界子供ランドに怪獣を登場させるという小高のアイデアを採用したりしているんだけど、それって支離滅裂にしか思えないぞ。
そもそも、なぜ世界子供ランドのアイデアを考えるスタッフを外部から募集していたのか、なぜ小高を雇ったのか、その目的がサッパリ分からんぞ。
そこで本当に子供たちを集め、平和を学ばせるという目的なんて無いんだし。

クボタは「世界子供ランド完成の暁には、怪獣島を全滅させます」と言っているが、そんなことを勝手に遂行したら大犯罪だ。つまり、彼は「俺たちは犯罪を画策している」と宣言しているようなものだ。
彼らは計画を実行に移すまで目的がバレたり怪しまれたりしたらマズいはずなのに、「真っ当な組織、真っ当な人間である」という風に見せ掛けようという意識が中途半端に欠如している。
堂々と悪党としてアピールしているわけではなくて、一応は隠そうとしているはずなのに、前述したような台詞を平気で口にしたり、M宇宙ハンター星雲の軌道を計算している様子を平気で見せたりする。
そこは、どっちかに徹底させておけよ。

クボタが「怪獣島を全滅させます」と言い放った時点で、前述したように「俺たちは犯罪を画策している」と宣言しているようなのに、なぜか小高は、その発言を大して気にする様子も見せずに指示された仕事をこなしている。
いやいや、なんでだよ。
これが「怪しい連中なのは気付いたけど、それよりも仕事にありつきたい欲望が勝った」ということなら分かるのよ。だけど、その後にマチ子と高杉から事情を聞かされると、すぐに2人の味方になっている。何の迷いも見せていない。
ってことは、「怪しむ気持より仕事への欲望が勝った」ということじゃないはず。
だから、キャラの動かし方としてはズレているってことになる。

怪獣島にテープの電子音が届いた時、ゴジラとアンギラスの会話が漫画の吹き出しで表現される。
「おい!アンギラス」「なんだい?」「すぐていさつにゆけ」「OK!」「いそげよ!」という文字が、吹き出しの中に表記されるのだ。
すんげえ幼稚だし、怪獣の擬人化が酷いわ。
で、そうやって軽いノリを出している一方で、緊迫感を煽るようなBGMが流れているのだが、まあ見事にミスマッチ。

ゴジラはアンギラスに「偵察に行け」と命じているけど、どう考えても偵察には向かないだろ。すんげえデカくて目立つし。実際、防衛隊に気付かれて攻撃を受けているし。
そもそも、日本に上陸したからって、それで偵察できるようなことでもないだろ。
そこは吹き出しで明確な会話を示さず、上陸の目的が何なのかは観客の推測に委ねておけば良かったんじゃないのか。
あと、アンギラスが当たり前のようにゴジラの子分として扱われているのは、なんか萎えるなあ。

「怪獣が1つの島に集められて暮らしている」という設定は、シリーズ第9作『怪獣総進撃』で「怪獣ランド」として持ち込まれた。
続く第10作『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』では「怪獣島」にゴジラやミニラが暮らしている様子が描かれたが、それは少年の妄想でしかなかった。
前作『ゴジラ対ヘドラ』では怪獣島が出て来なかったので、その悪しき設定は無かったことにするのかと思いきや、この映画で復活させてしまった。

ただし、コントロールセンターで管理されているというのは『怪獣総進撃』の怪獣ランドと同じだが、大幅に異なる点がある。
それは、怪獣たちが自由に島から出ることが出来るという点だ。
『怪獣総進撃』では「区域外に出ようとすると管制装置が働く」という設定だった。その設定が無くなったことで、「人間どもは、どんだけバカなのか」というツッコミを入れたくなる状況が生じた。
簡単に島を出ることが出来るから、ゴジラやアンギラスが上陸して、攻撃しなきゃいけなくなってるじゃねえか。
日本への上陸を簡単に許してしまうのなら、何のための怪獣島で、何のためのコントロールセンターなんだよ。全く無意味じゃねえか。

須東は「ゴジラを倒せば我々の作戦は終わったも同然だ」と言うが、アンギラスは全く相手にしていないのね。
ただ、「M宇宙ハンター星雲人め、アンギラスを舐めたら痛い目に遭うぞ」と言いたいところだが、実際の戦いでもアンギラスは役立たずなんだよなあ。言ってみればゴジラが力道山で、アンギラスは豊登みたいなモンかな(例えが古すぎるぞ)。
ともかく完全にゴジラの引き立て役であり、まさにプロレスのタッグマッチなんだな、その図式は。噛ませ犬ならぬ、噛ませ怪獣だな。
ただしアンギラスの場合、「実力があるのに噛ませ犬を引き受けている優れたジョバー」ではなく、ホントに弱いだけに見えてしまうのが困りもの。

アンギラスの扱いも不憫だが、それに匹敵するのがガイガンだ。
タイトルにも名前が出ており、今回が初登場となる怪獣なのに、明らかに「キングギドラの相棒」という立ち位置。キングギドラがアントニオ猪木で、ガイガンが坂口征二みたいな関係性だ(まだ例えが古いぞ)。
新怪獣なのにキングギドラより登場時間が少ないし、先に倒されてしまう。
それは、たぶん「キングギドラは過去の映像が使える分、出番が多くなっている」ということが関係しているんだろうけどさ。

(観賞日:2014年5月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会