『大怪獣ガメラ』:1965、日本

東京大学の動物博士・日高、助手の山本京子、日東新聞社カメラマンの青柳は探検船ちどり丸で北極海を航海し、エスキモーの集落を訪れた。彼らの目的は、アトランティス大陸にいたという変わった亀に関する調査だ。集落に到着した日高らは、上空を複数の国籍不明の戦闘機が飛んでいく様子を目撃した。
ちどり丸の船員も戦闘機を目撃し、米軍司令部に連絡する。米軍機が出撃して交信を試みるが、その戦闘機が攻撃してきたため、交戦状態となった。米軍機は、国籍不明の1機を撃墜した。すると墜落現場からは、大きなキノコ雲が上がった。国籍不明機は原爆を搭載していたのだ。そして、その原爆の熱エネルギーによって、巨大な亀の姿をした怪獣が冬眠から目覚めた。
日高はエスキモーの老酋長から、伝説の石を渡される。そこには、亀の下に波がある絵が描かれていた。それは悪魔の使者ガメラだという。それこそが、冬眠から目覚めた怪獣であった。ちどり丸はガメラに火炎放射で攻撃され、海の藻屑と消えた。日高はアメリカのテレビ番組に出演し、ガメラが放射能を全身に浴びており、すぐに死ぬだろうと語った。ガメラ出現から間もなく、世界各地で空飛ぶ円盤を見たとの目撃情報が相次いだ。日本でも、百姓の老人が円盤を目撃した。
北海道の灯台守の息子・桜井俊夫は、亀が異常に好きな少年だった。俊夫の姉・信代は担任教師の上田から、俊夫が学校に亀を持って来て困ると聞かされる。俊夫は父と信代から飼っている亀のチビを捨てるよう説得され、海に放した。その直後、彼の目の前にガメラが出現した。灯台に逃げた俊夫は転落するが、ガメラが前足を出してキャッチした。ガメラは俊夫を地面に下ろし、どこかへ消えた。
地熱発電所へ向かうガメラが目撃され、日高は自衛隊司令官に呼び出された。日高は高圧線に最大電力を流してガメラを感電させようとするが、あえなく失敗に終わる。自衛隊が攻撃するが、ガメラは炎を全て吸い取ってしまった。日高は北海道大学生物学部古生物教室の村瀬教授に面会し、助言を求めた。村瀬は、人類の武器ではガメラに歯が立たないだろうと告げた。
日高は熱に強いガメラを冷やす作戦を提案し、自衛隊は10分だけ効果が持続する実験中の冷凍爆弾を使用する。ガメラの動きが地獄岩で止まっている間に、日高の指示で自衛隊はダイナマイトを仕掛けた。指令と共にダイナマイトが爆破され、ガメラは裏返しになる。日高は、亀が裏返しになると自力で起き上がれないことを利用し、そのまま放置して飢え死にさせようと考えたのだ。しかし、ガメラは頭と足を引っ込めたかと思うと高速回転を開始し、そのまま空を飛んで姿を消した。
その後、しばらくガメラは姿を現さなくなった。時期を同じくして東京湾では不可解な事件が続発し、日高はガメラが関わっているのではないかと考える。世界中の科学者が日本に集結し、ガメラ対策会議が開かれた。その席上、伊豆の大島に建設中の実験設備Zプランの使用が提案される。そんな中、ガメラが羽田に姿を現した・・・。

監督は湯浅憲明、脚本は高橋二三、企画は斎藤米二郎、撮影は宗川信夫、録音は渡辺利一、編集は中静達治、照明は伊藤幸夫、美術は井上章、特殊撮影は築地米三郎、特撮美術は井上章、合成は藤井和文、音楽は山内正。
出演は船越英二、山下洵一郎、姿美千子、霧立はるみ、北原義郎、左卜全、浜村純、北城寿太郎、吉田義夫、大山健二、小山内淳、藤山浩二、大橋一元、高田宗彦、谷謙一、中田勉、森矢雄二、丸山修、内田喜郎、槙俊夫、隅田一男、杉森麟、村田扶実子、竹内哲郎、志保京助、中原健、森一夫、佐山真次、喜多大八、大庭健二、荒木康夫、井上大吾、三夏伸、清水昭、松山新一、岡郁二、藤井竜史、山根圭一郎、松村若代、甲千鶴、沖良子、後藤武彦ら。


大映が初めて手掛けた怪獣映画。
日高を船越英二、青柳を山下洵一郎、信代を姿美千子、京子を霧立はるみ、俊夫の父を北原義郎、百姓の老人を左卜全、村瀬を浜村純、自衛隊司令官を北城寿太郎、エスキモーの酋長を吉田義夫、防衛庁長官を大山健二、ちどり丸船長を小山内淳、米軍司令官を藤山浩二、上田を大橋一元、俊夫を内田喜郎が演じている。

東宝のゴジラがシリーズ化される大人気となったことを受け、他の会社も怪獣映画を作るようになった。
日活は『大巨獣ガッパ』(1967)、松竹は『宇宙怪獣ギララ』(1967)、東映は『怪竜大決戦』(1966)。
って東映だけ微妙に違うが。
ともかく、そんな中でゴジラ以外にシリーズ化されたのは、このガメラだけだ。
同時上映が『新・鞍馬天狗 五條坂の決闘』という辺りが、時代を感じさせる。怪獣映画の併映が時代劇なんだからね。
で、シリーズで唯一の白黒作品だ。
当時は既にカラー映画の時代。ゴジラも1954年の第1作と1955年の第2作は白黒だったが、3作目からカラーになっている。
ちなみにガメラ第1作が公開された1965年のゴジラシリーズは、6作目の『怪獣大戦争』だ。

一般的にはゴジラのライバル的な扱いとなっている感のあるガメラだが、少なくとも第1作のクオリティーでは、ゴジラの足元にも及ばない。
ゴジラ人気に追随しようとして作ったのは明確だが、原爆の熱エネルギーで冬眠から目覚めるという入り方からしてゴジラそっくりだし、二番煎じという印象は否めない。
モノクロというトコまで、なんかゴジラの二番煎じっぽいし(単に予算の問題だが)。

あと、国籍不明の戦闘機が原爆を積んでいたわけだから、そっちも相当に大きな問題じゃないかと思うんだが、そこはスルーなのね。

序盤、日高はエスキモーからガメラの絵が描かれた石を渡され、伝説の悪魔の使者だと聞かされる。
セオリーとしては、その亀について日高が調査をしていく内に、本物のガメラが出現するという順番を取るべきだろう。
ところが実際には、その石が出てくる前に、本物のガメラは登場している。
それは構成として逆なんじゃないのか。

日高は専門家としてガメラ対策の中心になるのだが、かなりのボンクラだ。
「全身に放射能を浴びているから近い内に死ぬだろう」と言うが、全く死なない。
自衛隊の攻撃にストップを掛けてまで高圧線で感電させる作戦を実行するが失敗し、「ワシの失敗のようだね」と、あっけらかんと言う。
言うことは、それだけかい。
軽すぎるだろ、アンタ。

で、次に日高と村瀬が取った作戦が、ガメラを裏返しにして飢え死にを待つというもの。
気の長い作戦だこと。
っていうか、完全にギャグだろ、それって。
そんで、この村瀬のオッサンも日高と同じぐらいのボンクラで、ガメラが回転して逃亡すると「亀が空を飛ぶとはのう」と呑気な態度で言う。
お前ら、やる気があるのかと。

最後の作戦がZプランだが、これが傑作。
すり鉢状の装置の上にガメラを誘い込むと、両サイドからカプセルのようなモノが現れてガメラを中に閉じ込める。すると地面からロケットが上昇し、そのカプセルがロケットの先端部分だったことが判明する。
あのさ、Zプランって、ホントは別の目的で作られていたんだよね。
それって何のために、どういう使い方をするつもりだったのさ。
普通に人間同士が戦争をしていて、そのパカッと開くカプセルに何かを閉じ込めるという状況があるのかと。

ガメラがゴジラと大きく違うのは、「子供の味方」という設定。
そこから「正義の味方」というイメージが強くなっていると思うが、この1作目では完全に悪役。
というか、そもそも子供の味方でさえない。
ガメラが助けるのは俊夫だけ。
それも、本当に相手が子供だと認識し、子供の味方だという自覚があっての行動だとは思えない。

その俊夫は熱狂的な亀マニアという設定からして無理があるんだが、ガメラが助けるのが、その亀マニアの少年だというのが重要だ。
つまり、ガメラは子供だから助けたのではなく、亀の匂いが染み付いているから助けたという可能性が考えられる。
実際、劇中で他の子供も助けているならともかく、亀マニアしか助けていないのだ。
というか、そもそも「助けた」という表現さえ正確ではない。
ガメラは逃げた俊夫を追い掛け、俊夫が登った灯台をへし折り、そこから転落した俊夫をキャッチしているだけだ。
つまり、完全なマッチポンプなのだ。
「ガメラが助けてくれた」ということで俊夫だけでなく家族も喜んでいるが、そもそもガメラが灯台を破壊しなければ転落もしなかったんだぞ。

この俊夫というガキが何かに付けて現れるんだが、全く可愛げが無い。
ハッキリ言って、ものすげえウザい。
正しいことを主張し、行動するならともかく、間違ったことのゴリ押しだからね。
「いじめちゃダメだ、ガメラは悪い奴じゃないんだ」と言うが、いや悪い奴だから。
悪くない奴は、何の意味も無く灯台を壊したりしないから。

「大暴れする巨大モンスターが、特定の人物だけには優しい」というのは、美女アン・ダーロウを守ったキング・コングを連想させる。
しかしキング・コングはマッチポンプの救出劇は作っていないし、自らの意思で町を破壊しに現れたわけではない。見世物として連行されたわけで、同情すべき理由がある。
だが、ガメラの場合は完全に自分の意思で町を破壊しており、そこに悲哀も何も無い。同情できる要素はゼロだ。
戦闘機の墜落が無ければ冬眠を続けていたという部分で同情を誘うことは可能かもしれないが、それをやろうという意識は無い。
俊夫が「チビのような小さな亀も、ガメラのような大きな亀も同じだ」というが、いや違うから。
ガメラは怪獣だから。

俊夫は「ガメラは友達なんだ」と主張して勝手な行動を繰り返し、大人に迷惑ばかり掛けている。じゃあガメラが俊夫に何か反応するかというと、完全無視だからね。
つまり、俊夫が一方的に友達だと思い込んでるクルクルパーなだけ。
このクソガキ、「ガメラ、僕は友達だろ」と言って無防備に近付き、ガメラに踏み潰されて死んで欲しいと心から願ったよ、マジで。
俊夫の思い入れが終盤の展開に影響を及ぼすのか、例えば俊夫の頼みを聞き入れてガメラが攻撃をやめたり、俊夫を助けようとしてガメラが命を落としたりするのかというと、全く無い。俊夫がボーッと見ているところで、ガメラが捕獲されてロケットで宇宙に飛ばされるだけ。
しかもZプランに入った俊夫は「ここ、気に入っちゃったんだ」と夢中になり、ガメラのことなんてどうでも良くなるし。
お前もロケットで宇宙へ飛ばされてしまえ。

 

*ポンコツ映画愛護協会