『ドラッグストア・ガール』:2004、日本

薬科大学3回生のの大林恵子は、授業が休講になったのでアパートに戻った。すると、同棲中の恋人・ヒトシが浮気相手と入浴していた。 ヒトシを殴り倒した恵子は電車に飛び乗り、号泣する。泣き疲れて眠り込んだ恵子は、終着駅に辿り着く。駅を降りると、そこは見知らぬ 町だった。彼女は、寂れた商店街“バンブーロード商店街”へと足を踏み入れる。
巨大ドラッグストア“ハッスルドラッグ”のチラシを見つけた恵子は、その店へ行ってみる。翌日の開店セールに向けて、店内では準備が 進められていた。恵子はゲイの薬剤師・小松兄弟に話を聞いてもらい、また号泣する。すっかり癒された恵子に、小松兄弟は書類とペンを 差し出した。こうして、なぜか恵子はハッスルドラッグでアルバイトをすることになった。
一方、バンブーロード商店街では、薬局の鍋島が眠気防止の薬を買いに来た客を疎んじて、医者・竹之内の元へ行けと追い払う。竹之内は 鍋島が紹介したと知り、その客を追い返す。鍋島、パン屋の沼田、酒屋の山田、一心寺の僧侶・済念は竹之内の病院に集まり、薬だけで なく様々な商品を取り扱うハッスルドラッグについて話をする。竹之内だけは、ハッスルドラッグを歓迎していた。
バイトを終えて店を出た恵子は、怪しげなホームレスに追い掛けられ、慌てて逃げ出す。駅の近くにやって来た彼女は、大学の先輩である 鍋島信次と遭遇する。鍋島は、そこが新宿から2時間も掛かる摩狭尾(まさお)という町だと教えた。さらに彼は、ホームレスが町では 有名人のジェロニモであることも説明する。ジェロニモは、恵子のクロスを持って付いてきた。鍋島はジェロニモに50円を渡し、クロスを 受け取った。
鍋島、沼田、山田、済念は酒を飲み、ジェロニモを含めた5人でハッスルドラッグ開店セールに乗り込み、妨害工作を実行する計画を語る。 翌朝、鍋島、山田、済念、ジェロニモの4人が目を覚ますと、沼田の姿は無かった。彼だけがハッスルドラッグに乗り込んだのだ。しかし 沼田は、小松兄弟にメガネを外されて化粧を施した恵子に出会い、一目惚れしてしまう。
沼田から話を聞いた山田、済念、ジェロニモは店へ赴き、恵子に接客してもらう。意地を張って薬局に戻った鍋島の元へ、クロスを取りに 恵子が現われた。信次は鍋島の息子だったのだ。彼女を見て、鍋島も他の面々と同じように一目惚れした。それ以来、彼らは用も無いのに ハッスルドラッグに通い始めた。一方、恵子は引っ込み思案な管理薬剤師・向井のアパートへ行き、DV男と離婚して子供も奪われたと いう彼女と互いの恋愛を語り合う。向井のアパートの隣には、一心寺の裏庭があった。
鍋島は恵子を1週間に渡って尾行し、彼女が大学のラクロス部員だということを調べ上げた。恵子と仲良くなるため、父に修行を強制 された済念を除くメンツはラクロスを始めることにした。しかし何も知らないため、道具さえ無いまま練習を続ける。もちろん、上達する はずなど無い。2週間が経過した頃、済念がクロスを持って現われるが、鍋島たちとケンカになってしまう。ジェロニモはハッスルドラッグ へ行き、恵子を呼ぶ。グラウンドに駆け付けた恵子は、「一緒に大学へ行って練習しましょう」と誘う。
翌日、鍋島たちは喜んで大学へ赴くが、恵子は男子ラクロス部キャプテンの森に彼らを任せた。そこで初めて、鍋島たちは男子と女子で全く ルールが違うことを知った。男子のラクロスはプロテクターを着用して激しいプレーを行い、怪我人が続出するのだという。仕方なく練習 に参加した鍋島たちだが、当然の如く大学生に弾き飛ばされてズタボロになってしまった。
恵子は「とりあえず女子ラクロスから始めたい」という鍋島たちの意思を確認し、女子のメニューでトレーニングを開始する。彼女は鍋島たち の健康管理を、信次と小松弟に任せた。それから恵子は鍋島たちに対し、一心寺の裏庭の竹を利用して手作りのクロスを作るよう指示した。 鍋島たちは不平を言いながらも、たった1日で見事な竹のクロスを作り上げた。
鍋島たちは、権藤、中尾、田辺、北山、松本、井上、アリという新メンバーを「恵子とデートできる」とウソをついて集めた。彼らのチーム 「まさおバンブーボーイズ」は、竹クロスで練習を積む。すると竹クロスが欲しいという小学生が殺到し、恵子は工房に頼んで作って もらう。これが「竹を使ったスポーツによる街興し」として話題になり、まさおバンブーボーイズはテレビの取材を受ける。恵子は ハッスルドラッグの社長から、チームのスポンサーになると言われる。
恵子はバンブーボーイズのホームページを信次に作ってもらい、鍋島たちのレベルに合った女性チームを対戦相手として募集する。やがて 、まさおバンブーボーイズは主婦チームと対戦することになった。劣勢で試合が進む中、沼田がボールを奪って独走するが、心臓発作を 起こして他界してしまう。この出来事を受け、ラクロス熱は一気に冷めてしまう。
そんな中、バンブーボーイズのホームページにメールが届いた。それはアメリカのインディアン・チーム“HIAWATHA”からで、英雄である ジェロニモを騙る者がいることを怒り、挑戦状を叩き付けて来たのだ。鍋島の脅しに近い言葉もあって、ハッスルドラッグ社長がHIAWATHA の遠征費を出してくれた。こうして、まさおバンブーボーイズはHIAWATHAと対戦することになった…。

監督は本木克英、脚本は宮藤官九郎、製作は小林栄太朗&気賀純夫、プロデューサーは矢島孝&福山亮一、チーフ プロデューサーは 高橋康夫、企画は遠谷信幸&真塩[上が「日」で下が「舛」]嗣&中川滋弘&加藤正明、企画協力は中澤天童、撮影は花田三史、編集は 川瀬功、録音は岸田和美、照明は松岡泰彦、美術は太田喜久男、音楽は周防義和、音楽プロデューサーは石島稔&小野寺重之、 オープニングテーマ「DRUGSTORE GIRL」唄は中嶋朋子、挿入曲は「ジェロニモ ストンプ」、 エンディングテーマ「VIDEO KILLED THE RADIO STAR」唄はバグルズ。
出演は田中麗奈、柄本明、三宅裕司、伊武雅刀、三田佳子、杉浦直樹、六平直政、徳井優、余貴美子、荒川良々、藤田弓子、根岸季衣、 篠井英介、山咲トオル、永澤俊矢、今福将雄、神戸浩、津久井啓太、加島潤、坂元健児、蛭子能収、皆川猿時、角替和枝、津山登志子、 優木まおみ、生島ヒロシ、森宮隆、田中千絵、関泰章、斉藤ゆり、久保井研、松井範雄、山地健仁、北山雅康、伊藤昌一、町田政則、 ユセフ・ロットフィら。


『釣りバカ日誌』シリーズ第11作〜第13作の本木克英が監督を務めた作品。
恵子を田中麗奈、鍋島を柄本明、沼田を三宅裕司、山田を伊武雅刀、ハッスルドラッグ社長を三田佳子、竹之内を杉浦直樹、済念を六平直政、ジェロニモを徳井優、秀子を余貴美子、信次を 荒川良々、鍋島の妻・富江を藤田弓子、山田の妻・美香を根岸季衣、小松兄弟を篠井英介&山咲トオル、インディアンチームのリーダーを 永澤俊矢、済念の父・乙念を今福将雄が演じている。

私は宮藤官九郎の映画脚本家としてのデビュー作『GO』に対して、監督より脚本家の貢献が圧倒的に大きいという印象を受けた。だから、 クドカンに関しては期待の持てる脚本家が出てきたと感じた。
しかし、その後の『ピンポン』、『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』、『アイデン&ティティ』、そして本作品を見た限り、どうやら 思い違いだったようだ。
前述した作品の内、『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』と本作品が原作付きではないオリジナル脚本だ。この2つに共通するのは、 分かりやすい個性を持ったキャラクターを並べ、ちょっと変わった物語の入り口を用意するということだ。
ようするに、掴みに関しては悪くないのだ。
ところが宮藤官九郎という脚本家は、広げた風呂敷の畳み方がものすげえヘタなのだ。
それは例えば、ダウンタウンの漫才と、それを表面だけ真似したボンクラの漫才の違いのようなものだ。
宮藤官九郎は、物語のセオリーやパターンといった基礎を踏まえた上で、それを崩したり捻ったりしているわけではない。基礎を踏まえずに 、いきなり崩しから入ってしまう。
だから滑り出しは上手く行っても、収束の部分で基礎の無さが如実に出てしまい、グダグダになるのだ。

宮藤官九郎はダイアログに関しては優れたセンスを持っており、本作品でも軽妙さのあるセリフが幾つも出て来る。
しかし残念ながら、そのダイアログによって生じるべき小気味良さに、少しブレーキが掛かっている。
それは、畳み掛けて(相手のセリフに被さるように)掛け合うべきところで、ちゃんと相手のセリフが終わるのを待って喋るからだ。
また、もう1つ間を置いてもいいところで、間を開けずに喋り出すからだ。
その辺りは、監督と脚本家の噛み合わせが悪かったということなんだろう。

細かく見ていくと、まずタイトルロールが終わると、恵子が小松兄弟の前で号泣しているシーンになる。
しかし、その前に彼女が電車で号泣して泣き疲れ、商店街を徘徊するという場面がある。
つまり、こちらとしては「もう号泣の段階は過ぎている」という感覚なのだ。
また号泣させるなら、「話している内に泣き出す」という「経緯」を見せて欲しかった。

最初に、「寂れた商店街のオヤジたちが巨大ドラッグストアに戦々恐々とする」という入り方をする。
オヤジたちはメインのキャラだから、普通なら巨大ドラッグストアを悪玉にするのがセオリーだ。
しかし、そもそも商店街の連中は4時までしか営業しておらず、客に対して文句ばかり付けて追い払ったりもする。ようするに、サービス 精神も営業努力も全く無いのだ。
そりゃあ、ドラッグストアに負けて当然だよな。
物語が進む中で、「心を入れ替えて営業努力をするようになる」ってわけでもないし。
そして、ハッスルドラッグも敵としては描かれない。しまいには、鍋島がハッスルドラッグを賞賛するセリフまで吐く始末だ。
そんな妙なことになっている理由は、日本チェーンドラッグストア協会の協賛で作られた映画だからである。
出資者を悪玉にするわけにはイカンわな。
ってことは、最初に「商店街と巨大ドラッグストアの対立」という図式を描いた時点で、間違ってるのよ。

恵子に出会った沼田は一目惚れするのだが、どうせバカバカしい話なんだから、そこはもっと大げさでマンガチックに「惚れた」という ことを表現しても良かった。
その段階では中身は分からないのだから恵子の見た目に惚れたわけだが、どうもアピール度が弱い。田中麗奈の魅力に頼りすぎだ。
明らかに「田中麗奈は可愛い」という共通理解があることを前提にして作られており、それが無いと成立しない。
大林恵子を「オッサンが一目で惚れる少女」として見せるための工夫は無い。
沼田が恵子に惚れた後、他のオヤジたちが1人ずつ彼女に会うのだが、「他のメンツも一目惚れ」というアピール度が弱い上に、無駄に手間 を掛けていると感じる。妨害計画を実行するために5人で一緒にハッスルドラッグへ出掛けて、同時に一目惚れすればいいのに(いい年の オヤジたちが女子大生にマジ惚れする展開そのものに苦しさを感じなくもないが、そこは甘受しておく)。

前述のように日本チェーンドラッグストア協会の協賛なので、ヒロインはドラッグストアでバイトを始める。しかし、ハッスルドラッグと 商店街の対立の図式は前半で消滅し、途中からはラクロスの話にシフトする。そして、恵子がドラッグストアで働くことの意味も消滅する。
そして、タイトルの『ドラッグストア・ガール』が「看板に偽りあり」という状態に陥ってしまう。
いっそドラッグストアの存在を削除し、「寂れた商店街のオヤジたちが、迷い込んだ恵子に惚れてラクロスを始めて町が活性化」という 筋書きならスムーズだったかもね。
もちろん、出資者のことを考えると、そんな筋書きには絶対に出来ないわけだが。
タイトルや出資者のことを考えると、途中からラクロスにシフトしてしまう展開こそが大間違いなわけだが。

なぜ恵子が、自ら言い出すほど積極的に鍋島たちへのコーチを引き受けるのかが良く分からない。
後で「彼氏を見返すため」と言ってるけど、そんなので彼氏を見返すことにはならないし。
それに、たまたま有名になったからテレビで「彼氏を見返すため」と発表できたけど、普通なら「町のオヤジどもの趣味」で終わる程度の ものだし。
あと、その彼氏であるヒロシの扱いは薄いものだし。

ドラッグストアの存在を放り出してラクロスにシフトしたからと言って、そこを追及する気は、この映画には全く無い。
何人でやるのか、試合時間が何分なのかは分かるが、それ以外のルールに関しては説明ナッシング。
映画を見ても、ラクロスがどういうスポーツなのかは分かりにくい。
「こういう風にクロスを動かす」とか、「こういうテクニックで相手をかわす」とか、そういったトレーニング場面も無い。

鍋島たちは健康管理を小松弟に任せるという恵子の判断を素直に受け入れるが、それまでにハッスルドラッグへの反感が薄れていくという 経緯が描かれているわけではない。
異常に人見知りだった向井がいつの間にか普通に接客できるようになっているが、きっかけになるような出来事は見当たらないので理由は 分からない。
鍋島たちは簡単に竹でクロスを作るが、それまでに竹細工が得意だという設定や描写があったわけではない。
最初は媚を売っていた鍋島たちがいつの間にか恵子に生意気な態度を取るようになるが、流れや経緯を無視したシーン や展開など、この映画では珍しくもない。

沼田が心臓発作で命を落とすという展開が、この映画における致命的な失敗となっている。
ハッキリ言って、彼を殺す意味が全く無いのだ。
って言うか、絶対に殺したらダメじゃん。
おまけに沼田を殺した後、すぐにインディアン・チームと対戦するという次の展開に進んでしまい、恵子たちも彼の死を引きずるような ことは皆無なので、完全に「無駄死に」と化している。
例えばウンコをする時に、服を全て脱いだり、洋式便器で反対側を向いて跨ったりと、変わったスタイルを取る人はいても、誰もが ちゃんと便器に排便するでしょ。
それを、この映画は便器じゃなくて洗面台にウンコしてるようなモンなのよ。
沼田を殺すってのは、捻りを加えるとかセオリー無視とかいう問題じゃなくて、絶対にやってはいけないことなのよ。

困ったことに、鍋島たちがラクロスを始めると、恵子が脇に回されてしまう。
そのラクロスでは2つの試合シーンが用意されているが、何の面白味も無いし。
それどころか、インディアン・チームとの試合では途中で恵子が参加するのに何も活性化されず、彼女が活躍するような ことも無く、急にジェロニモが覚醒して終わっている。
また洗面台でウンコをしちゃうのだ。
そして恵子は明確な形で主役に戻ることの無いまま、映画は終わる。

 

*ポンコツ映画愛護協会