『DRIVE ドライブ』:2002、日本
アキバ薬品の営業マンをしている朝倉健一は、偏頭痛に悩まされている。医者から「精神的ストレスが原因だ」と言われた朝倉は、心当たりが無いと告げる。朝倉は医者の説明を聞かず、昔を思い出していた。彼には、少年時代に両親を自殺で失ったという過去があった。朝倉は叔母に引き取られ、今まで暮らして来たのだった。
いつものように営業回りをしていた朝倉は、停めた車の中から1人の女性・坂井スミレに目を留める。彼女と目が合った直後、猛スピードで車が追い越して行った。続いて、目出し帽を被った3人の男・西五郎、児玉誠、新井定運が朝倉の車に乗り込んで来た。
3人組は包丁で朝倉を脅し、走り去った車を追い掛けるよう命じた。実は彼らは銀行強盗で、もう1人の仲間・ミッキーが大金の入ったバッグを持って逃げたのだ。しかし朝倉が法定速度や交通標識をキッチリと守るので、すぐにミッキーの車を見失ってしまう。
ミッキーは3人組の追跡を振り切った後、あらかじめ13号地に用意しておいた車へと乗り換えようとする。鍵を地面の穴に落としてしまったため、ミッキーは拾おうとする。しかしミッキーは穴に手を突っ込んで鍵を探っている内、そのまま抜けなくなってしまう。
朝倉と強盗3人組は、レストランへ入って食事を取る。そこへ銀行強盗の一件を知っている男が現れ、朝倉は仲間だと勘違いされる。男は3人組に、口止め料として金を要求した。3人組が拒否すると、男は店に近付いて来た警官に暴露すると言い出した。
朝倉がワインをこぼしたことから始まった偶然の連鎖で、男は客にペンで首を刺されてしまう。朝倉と3人組は店を出ようとするが、駆け付けた警官の前で誠が不審な行動を取る。3人組は警官を突き飛ばして逃走し、朝倉も後を追って店から走り去った。
新井はヤク中の若者と出会い、命を粗末にするなと説教して殴り倒す。彼はライブハウスでマイクを握り、バンド演奏に乗せて客に熱い言葉をぶつけた。寺の息子である新井は、布教活動としてバンドの連中と行動を共にすると言い出し、朝倉達と別れた。
残った3人は、朝倉が叔母と住むアパートに向かった。しかし叔母がクドクドと喋り続けたために誠が怒り出し、2人はケンカを始めてしまう。頭痛に襲われた朝倉が日本刀を持ち出すと、2人は争いを止めた。朝倉は空き地に行き、車を暴走させた。
朝倉と西、誠の3人は、再び車に乗って街を走り始めた。そこへ誠の恋人が現れ、朝倉の車に乗り込んで来た。彼女は誠に、「良く当たる占い師が、ラッキーアイテムは金属バットと言っていた」と告げた。朝倉達は、バッティングセンターへ行く。ホームランを連発した誠は、たまたま来ていたプロ野球スカウトからプロテストの話を持ち掛けられた…。監督&脚本はサブ、プロデュースは久保田修&平野隆、Co-プロデューサーは神野智&下田淳行、アソシエイト・プロデューサーは長松谷太郎、エグゼクティブ・プロデューサーは樫野孝人&谷徳彦&坂上直行、Co-エクゼクティブ・プロデューサーは高橋俊博&古川一博&麓一志&辻畑秀生、撮影は佐藤和人、編集は松竹利郎、照明は大坂章夫、美術は丸尾知行、音楽は村瀬恭久&坂東俊秀。
出演は堤真一、柴咲コウ、大杉漣、安藤政信、寺島進、田口トモロヲ、麿赤兒、筧利夫、松雪泰子、根岸季衣、塩見三省、木村郁美、ジョビジョバ、小林明美、ピエール瀧、中村久美、松重豊、松尾スズキ、清水宏、菅田俊、津田寛治、堀部圭亮、大森南朋、及森玲子、滝沢涼子、明代、山田明郷、阿部明子、波多江清、下山栄、鈴木一功、田中要次、大谷俊平、恩田括、澤山雄次、法福法彦、松田直樹、高波佳司ら。
『MONDAY』で2000年ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞したサブ監督が、TBSや毎日放送、TOKYO FMなどの製作で撮った作品。
主人公の朝倉役は、毎度御馴染みの堤真一。スミレを柴咲コウ、西を大杉漣、誠を安藤政信、新井を寺島進、ミッキーを筧利夫、朝倉の叔母を根岸季衣が演じている。朝倉は強盗3人組に命令されても、交通法規をキッチリと守る。そこは、事前に彼がキッチリした性格だということは表現されているが、まだ弱い。もっと強くアピールしておくべきだろう。そこは、思い切って誇張した表現になってもいいぐらいだろう。
3人組が簡単に車に乗り込んでくるのも(ロックをしていなかったのだろうか)、3人組が正体がバレるにも関わらず簡単に目出し帽を脱ぐのも(そうしないと俳優の顔が見えないからね)、大いに許そう。警察が全く捜査していないのも、まあ許そう。しかし、3人組が法定速度を守る朝倉の車に乗り続け、朝倉を追い出して自分達で運転して追い掛けようともしないのは、さすがに許せるウソの限度を超えている。その後は、なぜか4人でレストランに入ってしまう。レストランで事件が起きた後、なぜか朝倉が3人組の後を追い掛ける。それらも全て、あまりに不可解すぎる行動だ。
例えば強盗3人組が誰も車を運転できないという設定なら、延々と朝倉に運転を続けさせることもあるだろう。朝倉が飄々とした性格で3人組を食事に誘えば、強盗達が彼のペースに乗せられてしまうこともあるだろう。しかし、どういう形であれ、次の展開に持って行くための導入剤の役目を果たすような仕掛けが、何も用意されていないのだ。新井は逃げようとする朝倉を引き止め、「この世は全て縁だ」と、セリフによって無理のありすぎる説明をする。つまり、縁なので朝倉と行動を共にすると言いたいようだ。しかし、作品のテーマとして「みんな縁によって出会う」ということがあるとしても、それを登場人物がセリフによってクドクドと説明してしまったら、それはイカンでしょうに。
シーンごとに見れば、面白い作りになっているシーンが無いわけではない。しかし、シーンとシーンの繋がりが乏しく、まとまりが無い。接着剤無し、継ぎ目ガッタガタ状態で繋ごうとしているので、独立したショートのドラマを集めたオムニバス映画を、強引に1本のストーリー作品として見せ掛けようとしているかのように感じてしまう。
「全ては縁だ」という設定に甘えてしまったのか、人と人との繋がりを納得させるための仕掛けが無い。「縁だから」というだけでは、観客に対する何の説明にもなっていないのだ。そこを問答無用で強引に乗り切るとか、何も感じさせずに勢いで引っ張っていくというのは、さすがに無理がありすぎる。そこまでのパワーや勢いも無いし。サブ監督は、幻覚や妄想シーンを持ち込むのが好きな人だ。それは悪いことではないが、この映画の場合、流れに沿っているわけではなく、関連性の無いシーンを何とか放り込むための方法として“妄想”という言い訳を利用している。しかし結局のところ、それは唐突に挿入された無関係なシーンとして、ツギハギの印象を与えるだけだ。
具体的に言うと、穴から手が抜けなくなったミッキーのストーリーが、それに当たる。彼はハーレム状態になっている夢を見たり、目の前で武士が切腹する幻覚に襲われたりする。ミッキーが主役であり、あれこれ考える内に欲望や不安がエスカレートして妄想シーンに入るというなら、それは分かる。しかし、急に幻覚だけが挿入されるのだ。朝倉も3人組も早々に目的を失ってしまうのだが、代わりの目的を与えてやろうという気配は無い。そして、全てのシーンが取って付けたような感じの連続になる。朝倉も強盗3人組も、お互いと関わり合ったから自らの進むべき道を得るわけではない。それぞれが、勝手に自分のドラマを綴る。一緒に行動していることに、あまり意味は無い。
料理に例えると、「今まで捨ててきた野菜の皮や肉の切れ端を、勿体無いから全てまとめて1つの料理として出そうとしたが、あまり深く調理方法や味付けを考えず、出たトコ勝負で適当に放り込んで適当に炒めただけです」という感じの映画ではないだろうか。この映画、しかし評価できる部分が全く無いわけではない。
これまでのサブ監督作品は、強引な形を取ってでも、とにかく必ず主人公が自滅して終わりだった。それが、今回は主人公が自滅せずに終わる。
なんでもかんでもハッピーエンドがいいわけではないが、「サブ監督が初めて主人公に幸福を与えて作品を締めた」ということは評価したい。