『ドラゴンヘッド』:2003年、日本

高校生の青木テルは、停止した新幹線の中で意識を取り戻した。修学旅行帰りの新幹線は原因不明の事故に遭い、周囲の乗客は全て死亡 していた。テルが新幹線の外に出ると、トンネルは崩壊して出口は塞がれていた。携帯は通じず、新幹線は大破していた。物音がしたので 別の車両へ行ってみると、いじめられっ子の高橋ノブオが顔をひきつらせて膝を抱えていた。テルとノブオは食堂車に駆け込み、飲料と 弁当を口にした。しかしノブオはナイフを握り、「出て行け」と叫んでテルを追い出した。その直後、地震が起きた。
揺れが静まった後、テルは列車の下に左膝を怪我した瀬戸アコがいるのを発見した。彼女は狂ったノブオから逃げて来たのだという。他に 生き残っている人間がいないことを、彼女は話した。テルが目を離した隙に、アコはノブオに見つかってしまった。ノブオはアコを捕まえ 、列車ら引きずり込んだ。アコの悲鳴を聞いたテルが駆け付けと、ノブオは「トンネルの中だけじゃない。生き残ったのは、僕たちだけ。 もう僕たちしかいないんだ。ずっと、ここで生きてくしかないんだ」と語った。
テルが「こんなとこで、どうやって生きていくんだよ」と喚き散らすと、ノブオは「助けなんて来ない。何も見てないくせに、偉そうな こと言うな」と怒鳴ったテルがラジオを聴こうとすると、ノブオは襲い掛かった。テルが逆襲して馬乗りになると、いつの間にかノブオは 気を失っていた。テルとアコが列車の外に出ると、また激しい地震が起きた。揺れが静まった後、テルとアコを連れて列車の屋根に上がる 。すると、天井の巨大なパイプから水が流れていた。
「怖い」と怯えるアコに、テルは「だったら、あいつと一緒にいりゃいいじゃねえか」と怒鳴った。そこへ顔と上半身に奇抜なメイクを 施したノブオが現れ、手作りの槍で襲い掛かって来た。しかし地震が起き、ノブオは屋根から転落した。その間にテルは「早くしろ」と アコに告げ、パイプに上がった。テルが怖がるアコを急かしてパイプへと引っ張り上げた直後、ノブオは瓦礫の中に消えた。
テルとアコはパイプの中を這い、地上へ出た。すると空からは灰の雨が降り、荒廃した世界が広がっていた。「何が何だか分からねえよ」 とテルは弱音を吐き、アコは「もう帰りたいよ」と泣いた。テルは立ち上がり、水を捜しに行こうとする。アコは「私のことなんか、 ほっといてよ」と泣き言を口にするが、結局は付いて行く。2人は真っ白な灰の中を何日も歩き続けるが、水も他の生存者も見つからない 。灰に埋もれて廃墟となったコンビニで、ようやく2人は飲み物を手に入れた。
2人が足を進めると、崩壊した町が見えた。町に入って建物で休んでいると、大勢の町民が集まって来た。彼らは2人を捕まえ、リーダー の安藤は「全部、終わらせることにしたんだ。全部、無かったことにするんだ」と言う。安藤が日本刀でテルを抹殺しようとしたところへ 、車が突っ込んで来た。武器を持った町民が車を破壊しようとするが、中から銃撃があった。車に乗っていたのは、仁村と岩田という2人 の男たちだった。安藤の「殺せ」の合図で町民たちが襲い掛かり、激しい戦闘になった。
その場から逃げ出したテルとアコは、無数の死体が転がっている場所に迷い込んだ。そこに座り込んでいた老人の福島は、「気が付いたら お互いに。みんなおかしくなっちやったんだ。だから、全部無しにしねえと」と漏らす。建物に火が付く中、仁村たちがテルとアコを外に 連れ出した。建物は爆発し、テルたちは旭徳清会病院へ辿り着いた。岩田は「やっぱり龍脈が乱れてたんだ」と口にした。
テルが質問すると、岩田は「龍脈とは地下のマグマの通り道のことだ。地殻変動のせいで、それが狂ったとしか考えられない。そのせいで 磁場が乱れた」と説明した。彼は「木島さんたちはどうなったんだよ。なんで何の理由も無しに、一般市民が自衛官を襲うんだよ。もう 俺ら、2人だけじゃねえか」と荒れ狂う。「じゃあ、東京も?」というテルの質問を受けた仁村は、「パニックは伝染するから、人が 多けりゃ多いほど」とフジキは皮肉っぽい笑みを浮かべて告げた。
仁村は少年が覗いているのに気付き、銃を構えた。逃げた少年を追い掛けると、姿を消した。一行が地下に行くと、そこには風船やピアノ のあるキレイな子供部屋があった。そこだけは崩壊した世界とは無縁のようで、水や食料もあった。脳に手術跡のある双子の少年・シュン とジュンがピアノの演奏を始めた。室内では科学者らしき男が自害して果てていた。テルたちは、腹を撃たれて倒れている婦人を発見した 。仁村が事情を訊くと、夫が恐怖を取り除く手術を子供たちに施したのだという。
婦人が「楽にして」と頼むので、仁村が拳銃を取り出すと岩田が怒鳴った。仁村は「俺が撃つと怒るんだよ、あいつ」と言い、テルに拳銃 を渡した。彼は「願い、叶えてやれよ」と嫌がるテルに拳銃を握らせ、引き金を引かせようとするが、その前に婦人は息絶えた。安藤たち が追って来たので、仁村は双子を車に乗せて脱出した。しばらく行ったところで仁村は車を停め、テルたちに降りるよう促した。
仁村はテルに向かって拳銃を構えた。彼がテルの口に拳銃を突っ込んで弄んでいると、岩田が「いいかげんにしろ」と拳銃を向ける。仁村 は岩田を侮辱して嘲笑し、射殺した。続いて彼はテルに拳銃を向け、その周囲に発砲した。「やめて」と命乞いするテルの様子を見て、彼 は楽しそうな様子を見せた。アコは岩田の銃を握って「撃つよ」と構えるが、撃つことは出来ず、あっさりと仁村に奪われた。
刹那、近くに火山岩が落ちて爆発が起きた。仁村はアコを車に乗せて走り出した。アコは手を伸ばしたテルを引っ張り上げた。テルが意識 を取り戻すと、灰の中に倒れていた。近くにアコも倒れていた。車が崩壊し、投げ出されたのだ。仁村とジュンは、車の近くで死体と なっていた。テルとアコは、一緒に東京へ戻ろうと誓い合う。そこにヘリが飛来し、乗っていた松尾や佐伯たちが2人を助けた。しかし ヘリがトラブルでコントロールを失い、テルは地上へと転落してしまう…。

監督は飯田譲治、原作は望月峯太郎「ドラゴンヘッド」講談社刊、脚本はNAKA雅MURA&斉藤ひろし&飯田譲治、製作 プロデューサーは 平野隆、製作総指揮は近藤邦勝、共同製作総指揮は濱名一哉&神野智、協力プロデューサーは下田淳行、アソシエイト・プロデューサー は大岡大介、撮影監督は林淳一郎、編集は大永昌弘、録音は井家眞紀夫、照明は豊見山明長、美術監督は丸尾知行、 ビデオエンジニアは鏡原圭吾、VFXプロデューサーは浅野秀二、VFXディレクターは立石勝、視覚効果デザインは樋口真嗣、助監督は 李相國、特殊メイクは三好史洋、アクション監督は吉田浩之、音楽/オーケストレーションは池頼広、音楽プロデューサーは百瀬慶一。
オリジナルテーマソング「心ひとつ」はMISIA、Lyric by MISIA、Music & Arranged by Shiro Sagisu。
出演は妻夫木聡、SAYAKA(現・神田沙也加)、山田孝之、藤木直人、根津甚八、寺田農、近藤芳正、松重豊、奥貫薫、街田しおん、 藤井かほり、嶋田久作、大川翔太、吉岡祥仁、角田幸恵、宮嶋剛史、原田佳奈、MIYU、谷津勲ら。


週刊『ヤングマガジン』に連載され、全10巻のコミックスが650万部の累計発行部数を記録した望月峯太朗の同名漫画を基にした作品。
ウズベキスタンでロケーションが行われ、東京ドーム約6個分にあたるオープンセットが作られた。
監督は『らせん』『アナザヘヴン』の飯田譲治。
テルを妻夫木聡、アコを長編映画デビューとなるSAYAKA(現・神田沙也加)、ノブオを山田孝之、仁村を藤木直人、松尾を 根津甚八、安藤を寺田農、岩田を近藤芳正、佐伯を松重豊が演じている。

この映画に関しては、どんなにヒドい仕上がりになったとしても、「原作を台無しにした」という批評は該当しない。
なぜなら、原作自体が「風呂敷を広げまくったけれど、ちゃんと畳むことが出来ずグダグダになったまま終わってしまった」という漫画 だからだ。
ただし、そんなグダグダになってしまった漫画を映画化するのだから、そこを何とかするための改変が必要となる。
ところが、この映画は、「広げた風呂敷を畳めずグダグダにして、中途半端なままで終わってしまう」というところで、原作を踏襲して しまう。
原作者と同様に、畳む方法を思い付かなかったのか。
だけど、ちゃんと畳めないのなら、この原作を映画化しちゃマズいでしょ。

しかも、改変している部分も、さらにグダグダ感をアップさせているだけだ。
原作の内容をそのまま盛り込むと早送りで進行しなきゃいけないぐらいのボリュームなので、省略するのは別にいい。
しかし、省略がある一方で、トンネルを抜けるまでには40分も費やしている。
まず削ぎ落とすなら、その部分から始めるべきじゃないのか。
そこをサクサクと進めて、さっさとトンネルから脱出させて、もう最後までジェットコースターで突っ走るぐらいの方向性で考えていった 方が良かったんじゃないのか。

ノブオがいじめっ子グループによってトイレに閉じ込められていたとか、事故の後に抜け出して先生に助けを求めるが瀕死の状態だった とか、そんな回想シーン、別に要らないわ。
しかも、40分も脱出までに費やしているけど、「なぜノブオが発狂したのか」というところに説得力を生じさせることは出来ていない。
だったら「テルとアコが発狂したノブオに追い回され、何が何やら良く分からないままトンネルから脱出して外に出る」という形にして、 15分ぐらいで処理してしまった方がいい。
正直、ノブオがいじめられっ子だったという設定さえ、あまり意味が無いんだから、削ぎ落としてもいい。事故の前のこいつがどんな奴 だったかという性格設定は、物語において何の意味も持っていないのだから。
あと、そこまでトンネルでの出来事に時間を割くのであれば、原作と違う内容になるけど、ノブオはトンネル内だけでなく、テルが地上に 出た後も登場させた方が良かったんじゃないの。

テルはアコのことなど全く配慮せず、「怖ければノブオと一緒にいりゃいいじゃねえか」とか、「うるせえな、自分で考えろよ」などと 暴言を吐き、怒鳴り散らす。
一方のアコは、ただ怖がっているだけで、自分で何か考えよう、何か行動を起こそうという意識は全く無い。
テルが連れて行こうとしなかったら、そのままトンネルに残っていただろう。
どちらも自分のことしか考えていない。

ああいう状況の中で他人を慮る意識を持つというのは、なかなか難しいことだ。しかも、まだ高校生なのだから、「怒鳴ってばかり」とか 「ビビっているだけ」という風になるのは、仕方が無いかもしれない。
ただ、映画としては、その状態がずっと持続したのでは困る。
脇役なら別にいいけど、メインのキャラがそれではダメだ。ここは感情移入できるキャラにしておく必要がある。
だから、序盤はそれでもいいが、物語が進む中で、少しずつ互いを思いやる気持ちが生じてくるという展開を用意する必要がある。

ところが、何しろ前述したように、トンネルを脱出するまでに40分も費やしている。
そして、脱出した時点では、まだテルとアコの心情や考え方が変化するような体験は何も無いので、「怒鳴ってるだけ」「ビビってるだけ 」という状態のままである。
そこから「少しずつ互いを思いやるように」というドラマを作っていくには、尺が足りない。
上映時間を考えると、もう開始から40分ぐらいの段階だと、2人には何かしらの変化が訪れている必要があるのだ。

それと、この2人は恋愛関係になるのだが、そっち方面で考えても、やはり40分が経過した段階で最初と何も関係性が変化していないと いうのは困る。
だから、トンネル脱出までの時間を減らすだけでなく、最初から2人が恋人同士だったとか、少なくとも一方が相手に好意 を抱いていたとか、そういう設定に変更した方が良かったのではないか。
これに関しては、トンネル脱出までの時間が短かったとしても、そうした方が良かったと思う。
ゼロから恋愛に至るまでのドラマを描くほどの余裕は無さそうだし。

テルとアコがトンネルを脱出してからの展開はワンパターンで、「キチガイと遭遇してピンチになる」という出来事の繰り返し。
で、そこをテルたちは自分の力で乗り越えるのではなく、他人の力や自然の力によってピンチを回避する。
ピンチの連続ではあるのだが、こっちの気持ちは全く揺り動かされない。
あと、テルたちは静岡から東京まで移動しているのだが、その長い距離を全く感じさせない。

それと、とにかく説明不足が甚だしい。それはミステリアスなのではなく、説明不足なだけ。
龍脈という言葉が出て来るが、何の脈絡も無いし、何のことやら良く分からない。だから、イカれちまった岩田の妄言にしか聞こえない。
各地で火山が噴火しているという状況説明が無いので、いきなり車の近くで爆発が起きても、何だか良く分からない。てっきり、隕石でも 降って来たのかと思ったよ。
安藤の集団ににしろ、ロボトミー手術の双子にしろ、説明不足に加えて、上手くストーリーに絡んでいない。
まあ監督&共同脚本が飯田譲治という時点で、たぶんダメな映画だろうとは思っていたが、予想通りだった。

(観賞日:2011年9月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会