『Dr.コトー診療所』:2022、日本

西野那美はフェリーで志木那島へ帰る途中、星野正一からの電話を受けた。正一は漁船で事故があったことを説明し、彩佳が診療所へ来てほしいと言っていることを伝えた。さらに彼は、同じ船に研修医の織田判斗が乗っているので連れて来るよう頼んだ。志木那島診療所には重傷を負った原剛利が運び込まれ、彩佳が処置に当たっていた。山下邦夫が釣り上げようとしたカジキを制御できず、助けに入った剛利は上顎で脚を抉られたのだ。彩佳は和田一範に、輸血の準備を指示した。
那美が判斗を連れて診療所に到着し、彩佳を手伝った。往診に出ていたコトー先生こと五島健助が連絡を受けて戻り、判斗は手術の手伝いを申し出た。元木渡や山下努らが心配する中、安藤重雄が西山茉莉子と共に診療所へやって来た。安藤が元木を罵って口論になり、正一が仲裁に入った。元村長の中村三郎も駆け付ける中、コトーの手術は無事に成功した。コトーは中村たちを診察した後、往診に出た。彼は那美り/の祖母で助産師をしている美登里の元を訪れ、声を掛けた。彩佳は妊娠中で、星野正一は子供の性別を気にしていた。
剛利は順調に回復し、余計な心配を掛けたくないので剛洋には言わないでほしいとコトーに頼む。しかし黙っているわけにもいかないので、茉莉子が東京にいる剛洋の留守電にメッセージを入れた。コトーは剛利から漁師に戻れるのかと訊かれ、大切なのは気持ちだと告げた。剛利が退院する時も、剛洋は島に戻って来なかった。那美は判斗に、剛洋が東京の大学病院で研修中であること、島一番の秀才であることを語った。茉莉子は東京で働く息子の竜一に電話を掛け、剛洋の様子を見に行ってほしいと頼んだ。
コトーは坂野から、島では過疎と高齢化が進んで機能していない診療所も多いことを聞かされた。坂野は島の診療所を統廃合して本土の病院で包括して診療する計画が進んでいることを明かし、拠点の指導員になってほしいと要請した。コトーは嬉しい依頼だと感じるが、島を離れなければいけないと聞いて困惑した。コトー、彩佳、那美の外出中、留守を任された織田が島の老人たちの診療を担当した。しかし老人たちはコトーがいないと知ると、すぐに診療所を立ち去った。話を聞いた和田は、コトーも最初は同じだったと教えた。
那美は彩佳に、判斗が東京の大病院の御曹司だと自慢していたことを教えた。坂野はコトーから志木那島の診療所を無くすのかと問われ、そうではないと否定した。彼は離島医療を目指す医師たちにコトーの経験を伝えて育成してほしいのだと説明し、それが離島医療の発展に繋がるはずだと訴えた。コトーが引き受けてくれた場合、志木那島診療所には代わりの医師が必要だと彼は語った。判斗はコトーが書いた山下伸夫のカルテを見て、日記みたいだと評した。コトーは伸夫について、末期の膵臓癌だが気持ちは元気であること、本人の希望で自宅に戻って緩和治療をしていることを語った。
以前から体の不調を感じていたコトーは判斗に自身の骨髄検査をお願いし、誰にも言わないよう頼んだ。彼は鳴海慧に電話を掛けて検体の精査を要請し、急性白血病の患者だと告げた。剛洋が島に戻り、気付いた安藤や邦夫たちは喜んだ。剛洋は久々に帰宅し、剛利と会った。コトーは剛洋に、剛利の術後の経過は順調だが、元のように歩けるかどうかは分からないと説明した。剛利は剛洋に、自分は大丈夫だから早く東京へ帰れと告げた。
鳴海はコトーに電話を掛け、検体の患者は急性骨髄性白血病だと伝えた。彼は患者がコトーだと分かっており、今すぐ治療を始めるべきだと述べた。食事処「まり」には那美や重雄たちが集まり、サプライズで剛洋の歓迎会を開いた。食事に来ただけの判斗に、重雄は「剛洋は島の誇りだ」と語った。皆が話している間に、剛洋はこっそり店を抜け出した。遅れて店に現れた元木は、島に警察が来て剛洋を捜していることを伝えた。茉莉子は竜一からの電話を受け、剛洋に関する調査結果を聞かされた。
コトーは伸夫の診察を終えて診療所に戻り、彩佳に「話したいことがあるんだ」と言う。彩佳は彼の様子が変だと気付いており、「どこか悪いの?」と尋ねた。そこへ剛洋が現れ、「僕、医者じゃないんです」と打ち明けた。竜一は茉莉子に、西新宿こもれびクニリックで不法滞在のフィリピン人が手術を受けて死亡した事件のことを語った。クリニックには剛洋の勤務情報があったが、履歴書では私立明林大学の医学部中退となっていた。
剛洋はコトーと彩佳に、成績が落ちて奨学金が貰えなくなり、大学を辞めたことを話した。邦夫は志木那島診療所に駆け込んで剛洋を発見し、警察が捜していることを教えた。西新宿こもれびクニリックの岩真院長は業務上過失致死で逮捕され、テレビでも大きく報じられていた。岩真が医療ミスを起こした手術を行った日、クリニックには彼しか医者がいなかった。夜勤の事務として働いていた剛洋は、手伝いを指示された。しかし手術中に大量出血した患者を見た彼は、何も出来ずに座り込んでしまった。
剛洋が「医者じゃない僕が、それでも手出しすべきだったんでしょうか」と漏らすと、コトーと彩佳は黙り込んだ。邦夫が「なんで帰って来たんだよ」と声を荒らげると、剛洋は「ここしか帰る場所が無くて」と弁明した。彼が「みんなの期待を裏切って。コトー先生みたいになりたかったのに。そう約束したはずなのに」と口にすると、コトーは「医者じゃないから患者を救えなかったと、本当にそう思ったなら、良かったよ、君は医者にならなくて」と語った。
邦夫は帰宅して父に詫びた後、駐在に顔を出して連行された。コトーと彩佳は那美から電話を受け、美登里の診察に赴いた。特に異常は見つからず、コトーは様子を見ることにした。彩佳はコトーが白血病と知り、近くにいても気付かなかった自分を責めた。コトーは正一と昌代に、病気のことを話した。彩佳は今すぐに本土の病院で治療すべきだと言うが、コトーは専門医の意見を聞きながら島で対処療法をする考えを明かした。「命に関わることなのよ」と彩佳は反対するが、彼は「島を離れるわけにはいかない」と語る。彩佳は泣きながら、「先生が犠牲になってまで島に残ってほしいなんて、そんなの誰も望んでない」と訴えた。
正一は坂野、安藤、和田にコトーの病気を伝え、判斗は検査したことを彼らに話した。判斗は「本人が島で治療したいと言うのなら、そうされた方がいいんじゃないですか」と語るが、安藤は本土で治療してもらいたいと考える。コトーがいない間の代役を要請された判斗は、「コトー先生と同じようなスキルが無いから無理です。2ヶ月の腰掛けぐらいなら何とかなりますけど」と答えた。那美が「冷たいことを言わないで」と告げると、彼は自分が代役を務めても根本的な解決に繋がらないと語る…。

監督は中江功、原作は山田貴敏『Dr.コトー診療所』、脚本は吉田紀子、製作は大多亮&市川南、製作統括は臼井裕詞、プロデューサーは玉井宏昌&森谷雄&水戸理恵、撮影は星谷健司&大野勝之、照明は富沢宴令、美術はd木陽次、録音は石寺健一、編集は松尾浩、音楽は吉俣良、主題歌『銀の龍の背に乗って』は中島みゆき。
出演は吉岡秀隆、柴咲コウ、小林薫、大森南朋、泉谷しげる、筧利夫、時任三郎、大塚寧々、高橋海人、生田絵梨花、朝加真由美、堺雅人、蒼井優、神木隆之介、伊藤歩、山西惇、船木誠勝、富岡涼、前田公輝、藤田弓子、中丸新将、坂本長利、関ヒロユキ、末吉司弥、今井英二、竹良光、得田舞美、仲野元子、木下貴夫、黒田浩史、小平伸一郎、多田ありさ、柾賢志、赤嶺かなえ、古川がん、黒川大聖、岡部明花俐、岡部光花俐、歳内王太、早瀬憩、内田杏、山田忠輝、永尾柚乃、松田華音、増谷康紀、浅野夏実、侍コータロー、中村光樹、大脇清空、山中美子葉ら。


山田貴敏の同名漫画を基にしたTVドラマの劇場版。TVドラマは第二期の放送が2016年だったので、16年ぶりの劇場版となる。
監督の中江功と脚本の吉田紀子は、TVシリーズのスタッフ。
コトー役の吉岡秀隆、彩佳役の柴咲コウ、正一役の小林薫、坂野役の大森南朋、安藤役の泉谷しげる、和田役の筧利夫、剛利役の時任三郎、茉莉子役の大塚寧々、昌代役の朝加真由美らは、TVシリーズのレギュラー。
剛洋役の富岡涼は既に芸能界を引退しているが、この映画のために一時復帰した。
他に、判斗を高橋海人、那美を生田絵梨花、邦夫を前田公輝が演じている。

西野那美はTVシリーズのレギュラーではなく、今回が初登場のキャラクターだ。しかし彼女の人物紹介に時間を割くことは無く、「以前から診療所にいる人」ってことでサラッと片付けられる。
そして彼女と同じく冒頭シーンで、織田判斗が「初めて島に来る研修医」というポジションで登場する。
診療所に場面が切り替わると、シリーズの主要キャストの大半が一気に集まって来る。
ここで同窓会的な雰囲気を出しておいて、一方で前述した新キャラも登場させて、のっけから慌ただしさが半端ない。

那美が新キャラなんだから、彼女を視点や語り手のようなポジションに配置して、もう少し丁寧に「お馴染みのメンバー」を登場させる時間を設けても良かったと思うんだよね。
そうすることで、久々に『Dr.コトー診療所』を見る人を引き込んだ方が得策じゃないかと。
あと判斗は主要キャラの中で1人だけ「初めて志木那島に来た新参者」というポジションにいるんだけど、タイトルロールが明けると、もう「島の人々」の中に入り込んでいるし。
ここの扱いも、ものすごく大雑把になっている。

茉莉子が留守電にメッセージを入れるシーンで、アパートにいる剛洋の姿が写るが、まだ顔はハッキリと写さない。
剛利が退院した後にはアパートから出掛ける剛洋の姿が写るが、やはり顔はハッキリと見せない。
コトーが坂野から拠点の指導員を要請された後には、剛洋が夜の町で事件を報じる大型モニターを眺める様子が写るが、まだ顔はハッキリと見せない。
そんな風に勿体ぶった後、島に戻って来た時に初めて剛洋の顔をハッキリと写す。
この演出、どういうつもりなのかと首をかしげたくなる。

前述したように、剛利を演じる富岡涼は既に俳優を辞めており、久々の復帰となる。シリーズのファンからすると、もちろん彼の復帰は嬉しいサプライズだったはずだ。
でも、彼が本作品で復帰していることは、公開前から分かっている情報だ。それに、留守電のメッセージのシーンが描かれた時点で、そこにいるのが剛洋なのは誰でも分かることだ。
なので、そこで「正体は誰でしょう」みたいな見せ方をする意味が全く見えないのだ。
いざ顔がハッキリ見えても、そこには何のサプライズ効果も無いでしょ。
「まさか、あの富岡涼くんが」みたいな驚きなんて無いでしょ。

あと、もっと根本的な問題に触れちゃうと、剛に多くの出番を用意して、富岡涼に演技力を要求する役回りを担当させている時点で間違いだと思うのよ。
彼は既に役者を引退しており、この映画のために復帰しているのだ。つまり長くブランクがあるわけで、そんな人に重要な役回りを任せるってのは、どういうつもりなのか。
これが「この映画をきっかけに俳優活動を再開させる」ってことなら、製作サイドが「富岡涼の存在を広くアピールして力になってあげよう」と親心を見せたとしても、分からなくはない。でも、復帰するつもりは無いはずだし、ちょっと顔を出すだけのカメオ出演的な扱いでも良かったんじゃないのか。
出番を多く用意するにしても、台詞は少なく、そんなに演技力を要求しないようなポジションにしておけば良かったんじゃないのか。

終盤に入ると島を台風が襲い、コトーや判斗たちが患者の対応に追われる展開が待ち受けている。
でもさ、もはや台風という要素だけでも充分にクライマックスを構成できるでしょうに。それなのに、他にも多くの要素を持ち込んでいるせいで、お腹一杯になっちゃってんのよ。台風は甘い物じゃないから、別腹として処理できないのよ。
しかも、あまりにも搬送される患者が多いので判斗が「トリアージしないと。助かる見込みの無い患者は諦めなければ」と言うと、コトーは「全員を助けます」と言うんだよね。
でも無理をしたせいでコトーは倒れ、彩佳も倒れ、どうしようもなくなっちゃうのだ。
いやアホなのかと。

結果としては、剛利が手伝ったり、フラフラだったコトーが何とか立ち上がって手術を担当したりして、全員が助かっている。でも、その「お花畑が満開です」みたいなノリには開いた口が塞がらない。
コトーの無謀な判断のせいで、下手をすると「助かるはずだった患者まで助からなかった」という状況になっていた恐れもあるのよ。それを「コトーは偉大なスーパーヒーロー」みたいに動かして安易なハッピーエンドに持って行くのは、どうしたものかと。
これが御伽噺として作られているのなら、それでも別にいいかもしれないよ。だけど、実際の医療現場を取り巻く問題をリアルに描こうとしていたはずだよね。
それなのに、そんなゴリゴリの安っぽい御都合主義で終わらせて本当に良かったのかと。

判斗はコトーが本土で治療している間の代役を頼まれた時、「僕がいる間は、この診療所は成立するかもしれない。いなくなったら、どうするの?また他の医師を探すの?そんな綱渡りを繰り返すんですか。根本的な仕組みに問題があるんじゃないですか」と語る。
「医師の来手がない島に無理やり医師を呼び、その医師の良心と自己犠牲に島民全員が寄り掛かる構造」が問題なのだと、彼は指摘する。
コトーのような医師がいたから島の治療が成り立ったという主張は、その通りだと感じる。

で、そんな言葉を判斗に語らせたのだから、問題提起に対する何らかの回答を示すのかと思ったら、周囲の人々が「コトーは必ず治って戻って来る」と信じる様子を描く。
いやいや、そういう問題じゃないんだよ。完全に論点をズラしているんだよ。
そんで最終的には「全員が助かり、彩佳は無事に出産し、「みんなが笑顔で暮らしています」ってな感じで終幕になる。だけど、何も問題は解決していないでしょ。
判斗も診療所にいるので、彼が島に残ってコトーの後任を引き受ける覚悟を決めたってことなのか。仮にそうだとしても、根本的解決とは程遠いし。
とにかく、風呂敷を畳まないにも程があるだろ。

(観賞日:2024年5月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会