『ドカベン』:1977、日本

明訓高校1年生の岩鬼正美は「大飯食らいのバケモン」と馬鹿にされたことに腹を立て、剣道部員と相撲部員、アメフト部員に空手部員といった猛者たちを相手に喧嘩を始めた。岩鬼が大勢を圧倒しているところへ、転校生の山田太郎が走って来た。体当たりを食らった岩鬼は喧嘩を吹っ掛けるが、山田は落ち着き払って「おはようございます」と丁寧に挨拶する。岩鬼は腹を立てて殴り掛かろうとするが、山田に軽くかわされてしまった。
山田は教室で転校の挨拶を済ませ、教師の野川は生徒会長の大河内やミス明訓で副会長の朝日奈麗子を紹介した。野川が授業を始めると、岩鬼が遅れて教室に入って来た。彼は隣りの席にいる山田を見て驚いた。岩鬼は授業中にも関わらず、普通の人の5倍の分量がある弁当を猛烈な勢いで食べ始めた。昼休みに入り、山田が自分より大きい弁当を持っているのを見た岩鬼はプライドを傷付けられ、怒りに震えて「帰りにグラウンドに来い」と要求した。
ピッチャーマウンドで山田を待ち受けた岩鬼は、野球部員たちから「練習の邪魔になる。決闘なら他へ行ってやれ」と言われる。岩鬼が拒否して野球部員を蹴散らしていると、ソフトボール部員の麗子たちがグラウンドへ走って来た。その中に憧れの夏子を見つけた岩鬼は、頬を赤らめる。しかし夏子たちの目当ては、野球部キャプテンでエースの長島徹だった。長島は岩鬼が下駄でピッチャープレートを踏んでいるのに気付き、「許さん、出て行け」とパンチを浴びせた。
殴られた岩鬼が倒れていると、山田がやって来た。彼は学生服を脱いでピッチャープレートの泥を拭き取り、長島に謝罪した。「岩鬼君がここで決闘しようと言ったことは、僕は冗談だと思っていたんです」と釈明すると、長島は「分かった。お前の示した誠意を認めよう」と告げた。怒りの収まらない岩鬼が山田と長島に掴み掛かると、麗子が止めに入って「どうせ勝負するなら野球で勝負しなさいよ」と言う。彼女は、長島が山田と岩鬼に3球ずつ投げて、1球でも打てれば勝ちという対決ルールを提案した。
岩鬼は「アホらしゅうて球遊びで勝負が出来るか」と一蹴するが、夏子が麗子の提案に賛同したため、対決を承諾した。岩鬼があえなく3球三振に終わった後、山田も同じ結果に終わった。しかし長島は、ストレートを投げたのに全球がドロップになったことに疑問を抱いた。山田が去った後、ホームベースに歩み寄った長島は、マスコットバットを使った山田のスイングによる風圧によって、ボールがドロップに変化したのだと気付いた。
明訓高校の柔道部主将・わびすけは、退部しようとする丹下を引き留めるために勝負した。しかし丹下はわびすけを軽く投げ飛ばし、その場を去った。駆け付けた山田は倒れたわびすけを助け、部室で事情を聞かされる。運動部の中で柔道部は最も弱小で、レスリング部からスカウトされた丹下が退部したことにより、部員はわびすけ、大丸、目無し、メガネの4人になっていた。わびすけによると、最も強い丹下が辞めたことで、廃部に追い込まれる可能性もあるという。
山田はわびすけから、柔道部に入ってほしいと頼まれた。「ダメだよ。僕、柔道をやったことがないんだ」と断った山田は、「その代わり、僕が丹下くんに頼んで柔道部に戻ってもらうよ」と告げた。その様子を覗き見ていた岩鬼は、「エエカッコさらしとるやないけ。ワイが出鼻挫いたる」と山田への対抗心を剥き出しにした。彼は丹下に土下座して、柔道部に戻るよう頼む。しかし蹴りを入れられた岩鬼はカッとなり、丹下にパンチを食らわせた。そこへ駆け付けた山田は岩鬼を説教し、丹下を背負って運んだ。岩鬼は激昂し、「あのクソッタレ、必ず殺したる」と口にした。
校医の亀田は丹下を診察し、カルテに「複雑怪奇骨折」と書き込んだ。山田は他のスポーツ部の荷物置き場になっている柔道部の部室へ行き、壁に貼られている「闘魂」の文字を見つめた。彼は他の部の荷物を外に放り出し、部室の掃除を始めた。長島は山田にボールを投げ、俊敏な身のこなしで回避するのを見て驚いた。彼は山田にバッテリーを組まないかと持ち掛けるが、断られた。山田は実家の畳店に戻り、部室の畳を直し始めた。妹のサチ子は覗いている岩鬼に気付き、刃物を持って追い掛けた。
金持ちの息子である岩鬼は豪邸に戻り、部屋の畳を見てニヤリとした。畳を部室に戻そうとした山田は、新しい畳が敷かれているのを見て困惑した。他のスポーツ部員たちが荷物のことでわびすけに詰め寄っていると、山田が柔道着姿で現れた。山田は入部を宣言し、「ここは柔道部の部室です。運動具は持ち帰って下さい」と要求した。スポーツ部員たちが山田に掴み掛かろうとすると、長島が来て「お前ら、持って帰れ」と凄んだ。睨み合いの末、スポーツ部員たちは運動具を持ち帰った。
帰宅した山田は、岩鬼邸で仕事をした祖父が8畳だけ盗まれたことを知る。祖父の話を聞いた山田は、それが部室にあった畳だと気付いて「そうか、そうだったのか」と笑った。柔道部は激しい稽古に打ち込むが、メガネが怪我を負った。スポーツ部員たちは柔道部の面々を屋上に呼び出し、リンチしようとする。そこへ岩鬼が駆け付け、「山田には指一本触れさせへんで。ワイは今日から柔道部員やで」と宣言する。彼は喧嘩を始めるが、わびすけたちが「乱闘騒ぎを起こしたら廃部になってしまう」と止めに入った。
山田はスポーツ部員たちに、「ケリは僕が付ける。ただし条件がある。1対1でお願いしたい。喧嘩はやらない。好きなだけ僕を叩いてもらいたい」と持ち掛けた。「その代わり、僕が倒れるまで叩くこと。もし途中で少しでも休んだら、君の負けだ。今後、一切、柔道部の邪魔をしないでもらいたい」と言われた剣道部の男は竹刀で何度も打ち付けるが、無抵抗の山田は血を流しながらも倒れない。ついに男は疲れ果て、倒れ込んでしまった。
夏子とソフトボール部の仲間たちがパーラーで長島の写真を見ながら盛り上がっていると、花園高校の柔道部員たちが見下した態度で声を掛けて来た。彼らは明訓の柔道部を嘲笑し、主将の影丸はクールな態度で自信を見せた。そこにやって来た岩鬼は勝手に明訓柔道部の主将を名乗り、影丸に勝負を要求した。外に出た影丸は、バックドロップで軽々と岩鬼を投げ飛ばした。意識を取り戻した岩鬼は菅原文太の主演映画『木枯らし紋次郎』のポスターを見つめ、「影丸に負けた屈辱、必ず晴らしまっせ。夏子はーん」と叫んだ。
やまだは長島の元へ行き、柔道部の練習に力を貸してほしいと申し入れた。反射能力を鍛えるために、野球で特訓したいのだという。長島は「俺も条件がある。俺の変化球を受けてもらいたい」と告げた。自分の変化球を山田が簡単に捕ったので、長島は興奮した。山田は他の部員たちを柔道場の距離に立たせ、ボールを次々に投げ付けた。何球もボールを体に受ける中、わびすけは宙返りでかわし、「分かったよ、山田君」と言って倒れ込んだ。
山田は学校からの帰り、道路の向かいにいるサチ子から呼び掛けられた。横断しようとしたサチ子は転んで車にひかれそうになるが、近くを歩いていた賀間という男に救われた。山田が礼を言うと、彼は微笑で立ち去った。岩鬼は夏子に花束をプレゼントするため、彼女がピアノのレッスンをしているという音楽室へ赴いた。だが、ピアノを弾いていたのは夏子ではなく、同級生の殿馬一人だった。岩鬼は激怒して、部室から軽やかに逃亡する殿馬を追い掛ける。しかし間違えて夏子を罵倒してしまい、投げ飛ばされた。岩鬼は戻って来た殿馬に怒りをぶつけ、窓の外へ投げ飛ばした。
畳店のサンドイッチマンをしながら新聞配達に駆け回っていた山田は、河川工事のアルバイトをしている賀間を目撃した。賀間は病気で寝込んでいる妹の幸子と2人で、貧しい暮らしをしていた。岩鬼の邸宅には、彼の長兄・清彦の婚約者である亜希子が来ていた。亜希子は影丸の姉だった。ロンドンへの出張が決まった清彦は大蔵省のエリート官僚で、東京大学の卒業を控えた次兄は日銀への就職が決まっていた。兄弟で唯一の落ちこぼれである正美は、影丸への復讐心を燃やしていた。
春の県大会の開催日が訪れるが、会場の体育館に岩鬼が現れない。岩鬼は家族によって、部屋に監禁されていたのだ。4人で花園高校と対戦した明訓高校は、先鋒のわびすけが勝利を収めるが、続く大丸と目無しが敗れた。副将の山田は相手を担ぎ上げ、岩鬼の到着を待つために制限時間一杯まで粘った。屋根を突き破って豪邸を脱出した岩鬼は、会場へ到着した。彼はバックドロップ破りによって、見事に影丸を倒した。決勝まで勝ち進んだ明訓高校は、賀間が主将を務める武蔵高校と戦うことになった…。

監督は鈴木則文、原作は水島新司「週刊少年チャンピオン」連載、脚本は掛礼昌裕、企画は太田浩児、撮影は出先哲也、録音は宗方弘好、照明は川崎保之丞、美術は藤田博、編集は田中修、助監督は森光正、擬斗は日尾孝司、柔道指導は池内憲二、進行主任は志村一治、音楽は菊池俊輔。
主題歌「がんばれドカベン」作詞:水島新司&保富康午、作曲:菊池俊輔、唄:こおろぎ73。
「ああ青春よいつまでも」作詞:保富康午、作曲:菊池俊輔、唄:こおろぎ73。
出演は橋本三智弘、永島敏行、高品正弘(現・高品剛)、川谷拓三、マッハ文朱、水島新司、吉田義夫、南利明、佐藤蛾次郎、小松方正、山本由香利、渡辺麻由美、清水昭博、無双大介、中村俊男、藤本勇次、小松陽太郎、堤昭夫、清水照夫、舟久保信之、水島新太郎、中田博久、高月忠、城春樹、宮地謙吾、大蔵晶、川口裕子、谷本小夜子、田辺節子、遠藤薫、貝ノ瀬一夫、田口和政、大泉公孝、水島慶司郎、竹内えみ子、蓮見里美、松香由美、高野明彦、森祐介、高橋利通、千葉智彦、飯塚仁樹、勝光徳、八木徳之、小貫恵子、福岡康祐、渡辺義文、溜健二、佐藤昇、佐川二郎、吉沢孝明、山浦栄ら。


『週刊少年チャンピオン』で連載されていた水島新司による同名漫画を基にした作品。
監督は『トラック野郎』シリーズの鈴木則文、脚本は『女必殺拳』シリーズの掛礼昌裕。
『恐竜・怪鳥の伝説』の併映作品だったのだが、そもそも組み合わせとして変だよな。なんで動物パニック映画と『ドカベン』なのかと。
それは例えば『プロジェクトA』と『猛獣大脱走』を併映するぐらい合っていないぞ。まあ本作品も『恐竜・怪鳥の伝説』も、両方ともポンコツ映画という共通項はあるけど。

山田役の橋本三智弘、長島役の永島敏行、岩鬼役の高品正弘(現・高品剛)は、オーディションで選ばれた。高品は『暴力教室』に続く 2本目の映画で、橋本と永島は本作品がデビュー作。
他に、殿馬を川谷拓三、夏子をマッハ文朱、徳川監督を原作者の水島新司、山田の祖父を吉田義夫、亀田を南利明、野川を佐藤蛾次郎、虎之助を小松方正、麗子を山本由香利、サチ子を渡辺麻由美、影丸を清水昭博、賀間を無双大介、わびすけを中村俊男が演じている。
どうやらオーディションは「原作のキャラクターに似ている」ということを最優先して実施されたようで、既に役者経験のあった高品正弘は関西弁が下手だし、素人だった橋本三智弘と永島敏行の芝居は見事に大根。
橋本は役者になる気も無くて、『ドカベン』が好きだからというだけでオーディションを受けたらしく、この1本だけで役者業を辞めている。
一方の永島に関しては、原作では地味なキャラだった長島を主要人物として登場させていることからすると、彼を売り出すための出来レースだったんじゃないかという気もする。

『ドカベン』と言えば、読んだことは無くても、高校野球を描いた漫画であることは多くの人が知っているだろう。
しかし単行本の6巻までは、実は柔道漫画なのだ。
連載当初は明訓高校ではなく鷹丘中学が舞台であり、山田と岩鬼がメインのキャラクターだった。里中や殿馬が登場し、山田や岩鬼は野球を始めるのは、明訓高校に入学してからのことだ。
水島新司は途中で野球漫画へシフトすることを想定していたようだが、連載当初は他の雑誌で野球漫画を連載していたため、柔道から始めたという事情があるようだ。

連載当初は柔道漫画だったものの、実写映画化するのであれば、やはり山田たちが野球を始めてからの物語として構成するのが普通だろう。柔道をやっていた頃の物語など、バッサリと削り落としてしまえばいい。
大半の原作ファンだって、この映画を見る観客だって、山田や岩鬼が柔道に燃える物語など期待していないはずだ。
ところが、さすがはソクブンさん、普通じゃないことを何食わぬ顔でやってのける。
なんと、この作品は柔道映画なのである。

映画版の舞台は最初から明訓高校だが、そこで原作の第1話からの物語を描き始める。
山田たちが鷹丘中学時代に体験した出来事を、舞台を明訓高校に置き換えて描くのだ。
だから山田と岩鬼を除く明訓高校野球部の主要メンバーで登場するのは殿馬だけで、キャプテンは土居垣根ではなく原作では鷹丘中学の野球部主将だった長島であり、里中ちゃんも登場しない。
でも、どうせ野球漫画じゃないので、里中が登場したって全く意味の無い扱いで終わっただろう。

冒頭、東映のマークが表示されている間、「フレー、フレー、ドカベン」という応援の声や野球場の音が聞こえて来る。オープニング・クレジットでは漫画の絵が表示され、そこでは山田や岩鬼が野球部のユニフォーム姿になっている。
おまけに山田、岩鬼、殿馬だけでなく、里中まで描かれている。
そこまでやったら、誰だって「野球映画なんだろう」と思うはずだ。
そんなネタ振りをやっておきながら、劇中では里中を登場させず、堂々と柔道映画に仕上げてしまう辺り、やはりソクブンさんは只者ではない。

映画が始まると、朝日奈書店の店員・麗子が「いらっしゃいませ。人気絶頂のドカベンですね」と言い、野球少年4人が漫画『ドカベン』の1巻から27巻(当時は27巻まで発売されていた)を購入する。
子供のくせに大人買いとは生意気な奴らである。
書店を出た子供たちは、山田太郎の全身が描かれた大きな『ドカベン』の看板を目にする。
最初に原作の絵を見せてしまうと、それを演じる役者が登場した際に「全く似てない」「イメージと違う」という批判を受けやすくなるし、避けた方がいいはずだが、そんなことはお構い無しだ。

子供たちが「ドカベンだ。頑張れよ」と看板に呼び掛けるという不自然な行動を取った直後、学ラン姿の橋本三智弘が下駄で走って来る。
それを驚いた顔で見送った子供たちが振り返ると、看板の山田の部分がスッポリと抜けて無くなっている。
つまり「原作から抜け出してきたみたいに良く似てるでしょ」ってことを言いたいわけだ。
だけどハッキリ言って、そんなに自慢するほどは似てないのよね。

「原作は『ドカベン』なのに柔道映画」ってことで、トンデモ映画、バカ映画として面白いんじゃないかと思う人もいるだろうが、残念ながら、その期待に応えてくれる作品ではない。
「無駄に個性の強い野川のキャラクター造形」「朗読する麗子の手を握って口説こうとする野口が突き飛ばされるという本筋に全く関係の無いギャグ」「岩鬼に殴られるた丹下が吹っ飛んで壁に激突し、その壁が剥がれるという大げさな描写」「サチ子と仲間たちからバカにされた岩鬼が怒って追い掛け、ペンキ屋のペンキを顔に浴びるドタバタ劇」など、良くも悪くも、いつも通りの鈴木則文作品だ。
まあ、だから鈴木則文作品が好きなら、楽しめることは間違いないけど。

鈴木則文作品なので、物語の展開は粗くてテキトーだ。
例えば、山田は「柔道部の反射能力を鍛えるために力を貸してほしい」と長島に頼むが、何をやるのかというと、山田が長島の投げたボールをキャッチし、指定の位置に就いている部員たちにボールをぶつけるという特訓だ。
それだったら、山田がボールを投げ付ければ、それで済むわけで。長島の力を借りる必要性なんて全く無いでしょ。
っていうか、それってホントに柔道の特訓になっているのか。どう考えても、随分とズレた練習だと思うぞ。

ともかく、練習を積んだ柔道部は花園高校との試合に臨むことになる。
岩鬼が入部する前にメガネが怪我で離脱しているが、その時点から存在そのものが忘れ去られる。どうせ何の個性も発揮しておらず、単なる数合わせのキャラだったので、どうでもいい。
で、体育館で試合が行われるのだが、いきなり花園高校との対戦だ。どうやら、1回戦で対戦ってことらしい。
で、岩鬼は監禁されて来ていないので会場に並ぶのは4人。
5人いないと参加できないはずなのに、なぜか試合は始まってしまう。

試合が始まると、もちろん柔道対決が描かれるのだが、もちろんアクションシーンとしての盛り上がりなど無い。山田が登場しても、その状態は変わらない。
そんで寝技の攻防から山田は相手を担ぎ上げて時間を稼ぐのだが、制限時間一杯で引き分けなのかと思ったら、主審は「それまで。持ち上げ、1本」と宣告する。
えっと、柔道で「持ち上げ」なんて技があったのかね。
仮にあったとしても、だったら制限時間が来るまでに1本が宣告されてるはずでしょ。

岩鬼があっさりと影丸に勝利し、実質的な主人公は岩鬼みたいなモンなので、それで話に一応の決着は付いている。だけど、まだ賀間の伏線が残っているので、決勝で彼の高校と戦う展開になる。
同じ時刻に野球部も県大会の決勝戦を戦っており、その様子も挿入されている。
山田が表の主役、岩鬼が実質的な主役であることを考えると、野球部の試合の様子なんて邪魔なはずだ。しかし、この映画版では長島も同列の扱いってことで、そのシーンが挿入されているわけだ。
やっぱり、永島敏行のオーディションだけは彼を売り出すための出来レースである可能性が濃厚だなあ。

出来レース問題は置いておくとして、柔道の試合の方は、大将戦で山田と賀間が戦う。
アクシデントで左腕を負傷した賀間を抑え込んだ山田は、武蔵高校の部員が幸子の遺影を持っているのに気付く。
その遺影に向かって賀間は腕を伸ばし、「必ず優勝するからな」と口にする。
そんな姿を見せられたら、優しい山田が本気で勝ちに行けるはずもない。山田は自分も左腕を使わずに戦い、賀間に負ける。

柔道の試合が終わった後、野球部は最終回にピンチを迎えている。
長島は監督の「スラッガーを敬遠しろ」という指示に従わずに勝負に行くが、キャッチャーが変化球を捕れないのに決め球として変化球を投げる。
バッターは空振りするがキャッチャーが後逸し、振り逃げで3塁ランナーが生還してサヨナラ負けを喫し、監督が激怒する。
まるで、野球部の試合の方がメインであるかのような扱いである。

その後、敗戦の責任を取って柔道部を辞めた山田が野球部に入って、徳川家康が新監督として赴任して、岩鬼や殿馬たちも入部して練習が始まったところで、「かくして明訓高校野球部は高校球児の夢 甲子園球場目指して突撃を開始したのである」という字幕が表示され、そして「ドカベン 完」の文字で映画は終わる。
一応、最後にチョロッとだけ野球はやるけど、むしろ半端に野球の要素を盛り込んだことが、話のまとまりを失わせているという皮肉な結果に。
鈴木則文監督は続編も構想していたらしいので、そこで野球の話を描くつもりだったのかもしれないけどね。でも、この仕上がりで続編ってのは、まあ無理だわ。
鈴木則文監督は併映作品である『恐竜・怪鳥の伝説』が駄作で興行成績が悪かったから続編を作れなかったと言っているらしいが、あっちのせいだけじゃないよ。

(観賞日:2013年10月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会