『DOG×POLICE 純白の絆』:2011、日本

東京。大型ショッピングモールで、ゴミ箱に仕掛けられた爆弾が爆発する事件が発生した。警視庁捜査一課の大塚直樹たちが捜査に当たる 中、地域課の警官・早川勇作は先輩の春日たちと共に野次馬の整理を担当していた。早川は不審な外国人を発見し、現場から去る彼を追跡 した。外国人が逃走したので、早川は走って追い掛ける。早川は取り押さえようとするが相手が抵抗し、自転車で通り掛かった有吉宗太郎 という男は巻き込まれて転倒してしまった。
早川は外国人を取り押さえ、手錠を掛けた。有吉に救急車を呼ぼうとすると、彼は「そんな時間あるか。赤ん坊が産まれるんだ」と言う。 早川は駆け付けた春日に後を任せ、有吉を自転車で送る。到着したのは犬の訓練所だった。有吉は獣医で、犬の出産に駆け付けたのだ。 4匹目が産道に引っ掛かったので、早川は手伝わされる。産まれたのはアルビノの子犬だった。呼吸が無かったため、有吉も訓練所の所長 ・斉藤均も、諦めようとする。しかし早川が「戻って来い」と必死に呼び掛けると、子犬は呼吸を始めた。
地域課に戻った早川は、課長から持ち場を放り出したことを咎められ、「一度ぐらい始末書を書かずに事件を解決しろ」と叱責される。 早川が逮捕した男は麻薬の売人で、爆破事件とは無関係だった。東京都内での爆破事件は、4件目も連続して発生していた。そんな中、 早川は内示が出たと聞かされ、いよいよ刑事課かと期待するだが、彼が配属されたのは警備二課装備第四係という部署だった。
早川が指示された場所に行くと、そこにあったのは警視庁警備犬訓練所だった。所長の向井寛は、第四係の竹清悟、西村孝、永井孝介、 嘱託の獣医・村岡総一郎を早川に紹介する。さらに向井は、「教育係の水野夏希が外にいる」と告げた。早川が挨拶に行くと、水野は表情 を変えずに応対した。 警察犬と警備犬の違いが分からない早川に、水野は「警察犬は事件が起こった後に犯人を追跡するが、警備犬は 事件発生を未然に防ぐのが主な仕事」と説明した。水野は早川に、警備犬が時には犯罪者を制圧することもあると教えた。
しかし警備犬には、警戒出動での実績が一度も無かった。犬には一般人と犯人の見分けが付かないため、現場に駆り出されても待機して いるだけなのだ。早川は水野に、「俺にはもっとやりたい仕事がある、自分の力をもっと生かせる場所がある」と反発する。彼は向井に 土下座し、「刑事課と話をしてもらえませんか」と頼む。すると向井は「そいつは無理だ。所轄の刑事課長と話をした。お前、犯人確保は いつも単独だったそうだな。信頼できる仲間がいなかったのか。それとも信頼しようとしなかったのか。そういう人間は組織捜査の邪魔に なるだけだ。刑事課には必要ないって言われたよ」と述べた。
向井は早川に「ハンドラーの訓練を積むためにはバディが必要だ」と言い、斉藤の犬訓練所へ連れて行く。向井は古くからの知り合いで ある斉藤から早川のことを聞き、第四係に呼んだのだという。早川が出産に立ち会ったアルビノのシロも訓練所にいた。向井と斉藤は、 「アルビノの子は、遺伝的な問題で他の犬より著しく体力が劣っており、日光や病気に対する抵抗力が弱いから寿命が短い。警備犬には なれない」と説明する。しかし向井はシロを早川のバディに決める。早川が抗議すると、向井は「やる気の無い奴に金注ぎ込んでも仕方が ないしな」と言う。早川は水野の指導を受けてシロの訓練を開始するが、まるで言うことを聞いてくれなかった。
第四係はSATとの合同訓練に参加した。驚く早川に、村岡は第四係の面々が優秀であることを教えた。竹清は元SAT、永井は逮捕術 全国3位の経歴、西村は情報分析班にいたエリートだという。さらに村岡は、今回の合同訓練は水野が計画書を作り、所長が橋渡しした ことを語る。水野がバディのブランドと共に優秀な動きを見せると、早川は「どうしたらお前とブランドみたいになれるんだ?」と尋ねる 。水野は「犬も人間と一緒。性格も違えば志向も違う。親和を深める方法は1つじゃないわ」と答えた。
早川が「親和……」と漏らすと、水野は「人と犬との絆、揺るぎない信頼関係」と言う。早川は笑顔になり、その場でいきなりシロとの 訓練を始めた。その日以来、早川は訓練に対して意欲的に取り組むようになり、シロも言うことを聞くようになった。だが、ある日、シロ が疲労でダウンしてしまう。症状は軽かったが、竹清は「炎天下の訓練はシロには厳しい。現場ではさらに苦しむだろう。シロに責任ある 仕事は任せられない。シロは諦めろ」と早川に告げた。
早川は水野に、「こんなきつくて汚い仕事、嫌だろう?」と話し掛けた。すると水野は「こんな私にでも救える命がある。この子たちと 一緒なら、現場の力になれるのよ。国際緊急援助隊でも多くの命を救うことが出来た。広報活動に協力するのだって、警備犬の実力を 知ってほしいから。救助だけでなく、犯罪を未然に防ぐことだって出来る。私たちの本当の力を知ってほしいの」と述べた。一方、向井は 合同訓練レポートを読んだ佐久間警備局長から、「10年前の立てこもり事件、まだ引きずってるのか」と問い掛けられた。
都内連続爆破事件合同捜査本部では、局長の近藤篤史や部下の大塚、田尻泰治、鈴木博之といった面々が犯人像を推理していた。そこへ 犯人から連絡が入るが、電話の向こうから聞こえて来たのは機械で作られた少女の声だった。それを耳にした西村は、音声合成システムを 使ったヴァーチャルシンガー、宙音(そらね)ミクの声だと気付いた。
犯人は目的を問われて「ゲームをすること」と答え、「西多摩のアウトレットモールに爆弾を仕掛けました。爆破時刻は午後7時。止める ことが出来たらヒントあげます」と告げて電話を切った。逆探知は失敗に終わった。第四係は応援要請を受け、ショッピングモールで爆弾 の検索を担当することになった。早川はシロが訓練中のため、水野のフォローを担当することになった。現場に到着した向井は、警察学校 の同期である大塚から「爆弾検索以外に余計な真似は一切するな」と厳しい口調で言われる。
早川や水野たちは、警備犬と共にモール内を移動しながら爆弾を検索する。すると永井のバディであるバルトが、吊り下げられたバルーン に向かって吠えた。爆弾処理班が来てバルーンを開けると、そこには爆弾が仕掛けられていた。爆弾処理が行われてる中、ブランドが急に 駐車場へと走った。水野は「もしかしたら火薬を所持した人間がいるのかもしれない」と口にした。水野は連絡を入れようとするが、早川 は「そんな暇あるか」と勝手に犯人を捜し始めた。
ブランドは車の下に仕掛けられた爆弾に気付き、そこに近付いた。慌てて水野は止めようとするが、ブランドは爆発に巻き込まれる。周囲 を見回した早川は、警備員服の男が車で去るのを目撃した。早川は後を追うが、逃げられてしまう。捜査本部に赴いた早川は、「犯人は 爆発の中で耳を押さえた様子が無かった。耳が不自由だった可能性があります」と告げる。しかし田尻が冷淡に「そんなことはどうでも いいんだよ。お前らが勝手に追跡したりせず、すぐに連絡していれば緊急配備が出来て犯人を取り逃がすことは無かったんだ」と非難した 。向井は大塚から、「10年前と全然変わっちゃいねえな」と言われる。
向井は早川に、10年前の事件について語った。サラ金で立てこもり事件が発生し、向井は応援要請を受けて警備犬を出動させた。犯人と 人質がいる現場に、向井は課長に頼んで警備犬を飛び込ませた。すると警備犬は、先に動いた人質に噛み付いて大怪我を負わせてしまった 。課長は全ての責任を取って警察を辞めた。その8年後、若い女性警官が志望して第四係に配属された。「警備犬の優秀さを証明したい」 と言った女性警官は、課長の娘である水野だった。
第四係に戻った早川は、ブランドが全治1ヶ月だと知る。安堵する早川だが、竹清たちは「もうブランドは警備犬としては使えない」と 言う。村岡は「一度、ショックを受けた犬は、二度と車を追い掛けようとはしないだろう。ブランドは引退だ」と告げた。早川がブランド の傍にいる水野の元へ行くと、彼女は「私は、この仕事を続けていく資格が無い」と泣く。早川は、「逃げずに踏ん張れよ。俺の教育係 だろ。先生がそんなんじゃ、生徒の俺はどうすりゃいいんだよ。一緒に頑張ろうぜ」と励ました。
大塚は早川の証言を参考にして容疑者を絞り込み、久坂亨という男に辿り着いた。久坂は半年前まで警備保障会社の社員だった。最初の 爆破事件があった直後に辞めている。彼は爆破事件の場に居合わせ、両耳の鼓膜を破っている。久坂は会社に警備システムの問題点を指摘 し、新たなプランを提案した。しかし彼が契約社員だったことから会社は耳を貸そうとせず、久坂は辞めていた。彼は子供の頃、火薬を 使って近所の車や物置を爆破する事件を起こしていた。
港区の大手IT企業本社で爆発事件が発生し、16名の死者と45名の負傷者が出た。その報道を見た早川は、シロに火薬の臭気選別の特訓を させたいと向井に提案する。向井は「訓練を始めたばかりだ、まだ無理だろう」と難色を示すが、早川は「シロの母親は究極の嗅覚を 持っていると聞きました。だとしたら、あいつにも同じ能力があるはずです」と主張する。向井が「何をそんなに焦ってる」と尋ねると、 早川は「俺たちには犯人を取り逃がした責任があります」と答えた。
訓練が始まると、シロは臭気選別の優れた能力を持っていることが判明した。そんな中、大塚は向井の元を訪れ、「容疑者が見つかった。 お前んとこの若僧が言った通りだったよ」と捜査資料を渡した。豊島区の交番で爆破事件が発生した直後、久坂か捜査本部に連絡が入った 。久坂は「次は、午後5時、場所は東京ビッグシップ。会場から人を避難させようなんか考えない方がいいですよ。僕が爆弾を仕掛けて 君たちが制限時間内にそれを見つける。ルールを破るような真似をしたら、その場で爆弾を爆発させます」と語った。
東京ビッグシップでは、5時からホールでスティーブン・ジャブズの講演が入っていた。爆弾が仕掛けられたという情報を知った早川は、 すぐに出動しようとした。すると向井は「勝手な行動はするな。単独行動は絶対に許さん」と厳しい口調で告げた。しかし彼は、すぐに 全員への出動命令を指示した。東京ビッグシップに到着した向井は、大塚に「もう一度、チャンスをくれよ」と頭を下げた。大塚は静かな 口調で、「爆破予告の5時までに爆弾か被疑者を捜し出してくれ」と告げた…。

監督は七高剛、原案は小森陽一(小説版『DOG×POLICE 警視庁警備部警備二課装備第四係』集英社刊)、脚本は大石哲也、製作指揮は 宮崎洋、製作は菅沼直樹&市川南&弘中謙&平井文宏&阿佐美弘恭、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治、企画プロデュースは 佐藤貴博、プロデューサーは下田淳行、撮影は斉藤幸一、照明は豊見山明長、美術は原田恭明、録音は芦原邦雄、VFXスーパーバイザー は石井教雄、編集は松尾浩、ドッグトレーナーは鈴木和夫、脚本協力は斉藤ひろし、アクション監督は下村勇二、音楽は佐藤直紀。
主題歌『僕の宝物』シクラメン 作詞:DEppa/電球、作曲:DEppa/電球、編曲:電球。
出演は市原隼人、戸田恵梨香、時任三郎、若葉竜也、松重豊、村上淳、カンニング竹山、阿部進之介、矢島健一、堀部圭亮、相島一之、 小林且弥、本田博太郎、きたろう、伊武雅刀、松金よね子、池田政典、神尾佑、少路勇介、龍坐、滝裕次郎、小柳心、堺沢隆史、兒玉宣勝 、阪田マサノブ、藤井貴彦(日本テレビアナウンサー)、 佐藤貢三、岡本祐詞、古川慎、前田真里、菊田大輔、山川和俊、玉寄大樹、新澤明日、鈴木雄一郎、辰巳智秋、長久博行、西村玄樹、 金原泰成、小堀正博、藤原希、中根大樹、イアン・ムーア、スギリ・アルダナリスワリ、中村哲也、阿部朋矢、土屋拓哉、竹中寛幸、 服部伸孝、尼崎仁久、福田勝利、島袋英士、角谷友咲、小椋亮平、齋藤伸明、長谷川恒、塚本啓介、太三ら。


漫画原作者の小森陽一が原案を担当し、『L change the WorLd』や『GANTZ』などを手掛けた佐藤貴博が企画プロデュースを務めた作品。
監督はTVドラマ『名探偵の掟』や『猿ロック』などを演出してきた七高剛で、これが初めての映画。
脚本は『MW-ムウ-』『BECK』の大石哲也。
勇作を市原隼人、夏希を戸田恵梨香、向井を時任三郎、久坂を若葉竜也、大塚を松重豊、竹清を村上淳、西村をカンニング竹山 、永井を阿部進之介、村岡を矢島健一、佐久間を本田博太郎、有吉をきたろう、斉藤を伊武雅刀が演じている。

「主人公がアルビノのジャーマン・シェパード・ドッグと出会い、警備犬として育てる」という筋書きで、漫画に詳しい人なら「おやっ、 どこかで見たような話だな」と思ったかもしれない。
それもそのはずで、本作品の小森陽一が原作を担当した漫画『マッシュGO!!』が、似たような話なのだ。
『マッシュGO!!』の場合、主人公は女子高生であり、警備犬ではなく警察犬として育てようとする物語だが、まあ焼き直しと言っても いいだろう。
だったら『マッシュGO!!』を映画化すればいいんじゃないかと思ったりするんだけど、そこは色々と大人の事情があったりするのかも しれない。

佐藤貴博と小森陽一は、公開される4年前から企画を温めてきたらしい。
その事実を知った時に思ったことは、「公開までには長い時間が掛かっているけど、シナリオの推敲には大して時間を掛けていないのかな 。それとも、時間を掛けて練り上げたシナリオが、こういう雑な仕上がりになっているのかな」ってことだ。
とにかく、「構想4年」というのが、逆に「4年も掛けて、これですか」と言いたくなるぐらい、マイナスにしか作用しない状態になって いる。
シナリオの粗さが、ものすごく目立つんだよね。

冒頭、大型ショッピングモールでゴミ箱に仕掛けられた爆弾が爆発する事件が発生する。
派手な爆発から始めて観客を引き付けたいというのは分かる。だけどさ、周囲に大勢の人々がいる中で、あれだけの爆発が起きているのに 、死者1名、重傷者3名って、どうなのかと。
で、不審な人物を見つけた早川は追跡する。
持ち場を離れる時点で警官としてダメなんだけど、追い掛けながら無線連絡ぐらいは出来るだろ。
ずっと相手が全速力で逃げているわけでもないし。
それに1人で追い掛けるのも限界があるんだし、応援を呼べよ。

犬の出産に立ち会った早川は、有吉たちがアルビノを諦めている中で子犬を抱き上げて「戻って来い」と必死に呼び掛ける。
急に早川が感情的になるので、すげえ違和感がある。
もちろん熱血キャラが市原隼人の持ち味ではあるんだけど、そこで急に熱くなるのは不自然極まりないぞ。
例えば、過去に飼っていた犬とのエピソードが何か用意されているとか、そういう設定でもあれば別だけどさ。

早川には殉職した警官の父がいるんだけど、この設定が物語に全く関係して来ない。
誰かが「お前の父親がこうだった」と語り、それが早川の考えに大きな変化をもたらすようなことは無い。早川が父親のことを思い起こし 、その言葉を胸に刻んで何か行動を起こすとか、そういう関連付けも無い。
父親が警官だろうがなかろうが、死んでいようが生きていようが、どっちでもいい。
普通のリーマンでも自営業でもパチプロでも、彼の家族の存在なんて、物語に何の影響も及ぼさない。

早川が第四係への異動に対して不満を示す描写が不足している。
異動を告げられた時点で、もっと不満をアピールすべき。
異動させられた後で「警視庁でウチが何て言われてるか知ってるか。税金で養われてる犬屋。俺たちは警察官ではない。犬屋って 呼ばれてる」と怒鳴るが、ってことは異動する前から、どういう部署なのかは知っていたわけだ(それにしては警戒出動での実績が 無かったことを知らなかった様子なので、そこに矛盾を感じるけどさ)。
だったら訓練所へ行く前に、異動にブーたれるべきなんじゃないの。
そこへ行ってから初めて、どういう部署なのか知ったわけじゃないんでしょうに。

あと、実際に訓練所へ行ってから不満を漏らすまでの間に、もっと「そこでの仕事が早川のイメージする警察官の仕事とは全く異なる」と いうのもアピールすべき。
犬の訓練に関しては、それほど不満を抱く対象には感じられない。早川が不満を吐露する動機になるような仕事って、排便チェックぐらい なんだよね。それ以外にも、もっと「早川が嫌がる仕事」を幾つか用意しておくべきだよ。
あと、本人は異動を嫌がっているんだから、「ウチ」とか「俺たち」とか、そのメンバーになったような言葉遣いも違和感がある。
「この部署が」とか「アンタたち」という風に、自分は仲間じゃなくて他人ですよ、という言い回しをすべきでしょ。

向井はシロを早川のバディに決めた後、「やる気の無い奴に金注ぎ込んでも仕方がないしな」と言うけど、もちろん嘘で、他に理由がある とは思うんだけど、ここは無理があるなあ。
一人前に成長させることを考えているはずなのに、なんで警備犬にはなれないような犬をあてがうのか。
アルビノが主人公のバディになる展開としては、「主人公が周囲の反対を押し切ってバディに選ぶ」という筋書きにするのがスムーズに 思えるんだけど。
ただし、早川の場合、自分からアルビノを選ぶようなキャラには見えないから、その筋道も選択できない。
そう考えると、初期設定の段階で、かなり無理のあるシナリオだったのではないか。
「アルビノが主人公のバディになる」という展開をスムーズに成立させるために、ワシの足りない頭を捻ってみると、「向井はシロの親が 優秀な警備犬だったことを知っており、その血筋に可能性を感じた」とか、「かつて向井はアルビノでありながら優れた能力を持つ警備犬 とバディを組んでいた」とか、「向井はシロの秘められた能力に最初から気付いていた」とか、まあ幾つかの手口は考えられるけど、 ちょっと苦しい部分はあるかなあ。

早川は水野に「どうしたらお前とブランドみたいになれるんだ?」と尋ねて「犬も人間と一緒。性格も違えば志向も違う。親和を深める 方法は1つじゃないわと言われた後、その場でシロとの訓練を始める。さらに、そこから彼は張り切って訓練をやるようになる。
そこの変化が、あまりにも唐突で付いていけない。
彼は「犬屋」での仕事に不満だったはずでしょ。爽やかに訓練をやるのは、すげえ違和感だぞ。
早川とブランドの動きに感心するのはいいとしても、「だから俺もシロと絆を深めて、この仕事を全力で頑張ろう」という気持ちに なるのは、あまりにも拙速じゃないかと。

例えば、「早川は自分とシロの関係が全く出来ていないことをバカにされ、悔しいから見返してやろうと燃える」ということなら、急に訓 練を頑張るのも分からないではないけどさ。
「水野とブランドの動きに感心する。そこで水野たちのようになりたくて頑張る」という動機だと、早川の急変に納得するのは難しい。
もう少し手順を踏んで、例えば「感心するけど、相変わらず第四係で働くことへの意欲はそんなに沸かない」→「試しに水野とブランドを 真似てみたら、シロが応じてくれた」→「嬉しかったので、少し前向きな気持ちになった」とか、「次第に心情が変化していく」と いうのを時間を掛けて描いてくれたら、素直に付いていけたんだろうけど。

あと、シロってアルビノだから他の犬より著しく体力が劣っており、日光や病気に対する抵抗力が弱いんじゃなかったのか。
だけど訓練に入ってから、そういう様子は全く見られないぞ。
シロがダウンした時に竹清が「炎天下の訓練はシロには厳しい」と言うけど、シロがダウンしたのは早川が張り切り過ぎたからという風に しか見えないのよ。シロが劣っているからという風には見えないのよ。
しかも、それ以降も、例えば実戦に出たシロが炎天下なので苦しむとか、体力が劣っているので他の犬に後れを取るとか、それを訓練に よって克服するとか、そういう描写は全く無い。
そこは「劣等生である早川とシロが、最初は他の人間や犬より劣っているが、互いに協力して頑張り、少しずつ成長していく」という形で 見せていくべきなんじゃないのか。
そうじゃなかったら、シロをアルビノにしている意味って何なのかと。

そんな風に思っていたら、なんとシロは逆に臭気選別の優れた能力を持っていることが判明。
しかも、その訓練をさせる時に早川は「シロの母親は究極の嗅覚を持っていると聞きました」と言うが、そんな設定、そこで初めて登場 したじゃねえか。完全なる後出しジャンケンじゃねえか、それって。
別にさ、優秀な部分があるってのは構わないよ。だけどさ、それは「基本的には劣等生だけど、ある一部分だけは他の犬よりも格別に 優れている」という設定にすべきじゃないのか。
「他の犬に比べて劣った部分は無くて、優秀な部分があって」では、もはや「アルビノって、何かね?」でしょ。

早川がやる気になると、あっという間にシロも優秀な動きを見せるようになり、早川との関係も良好になる。
「落ちこぼれが少しずつ成長していく」とか「最初は全く通じ合っていなかった早川とシロが、訓練を通じて少しずつ絆を深めていく」 とか、そういう「次第に変化」というのが無い。
一気に変化するのだ。
何しろ、連続爆弾魔との対決がメインなので、早川とシロの成長物語や、絆を少しずつ深めていくバディー・ムービーには全く重点が 置かれていない。そこは簡単に処理されてしまう。

もちろん、事件を追う中で、早川とシロが絆を深めていくドラマや成長物語を描いていくことも、不可能なわけではない。
ただし本作品の場合、「早川が異動してシロと出会い、訓練所で訓練する」という筋書きがあるわけだから、訓練所で成長や交流を見せる というのを軽んじているってのは、やはり構成としてマズいと思うよ。
ようするに、そういう筋書きがあるのに、一方で連続爆弾魔との対決に重点を置いた構成にしちゃったことが失敗なんじゃないの。

とにかく早川って、ちっとも成長しないんだよな。
駐車場で水野が「もしかしたら火薬を所持した人間がいるのかもしれない」と言った時も、連絡を入れようとする彼女に「そんな暇あるか 」と言って、単独で調べ始めてしまう。
お前さ、「単独行動ばかりする人間は組織捜査の邪魔になるだけだと」言われたこと、まるで覚えてないのかよ。
っていうか、水野も早川を止めて無線連絡をしろよ。
あと、ブランドは、あれだけモロに爆破に巻き込まれているのに、死なないのかよ。

捜査本部に駆け込んだ早川は、田尻がブランドを侮辱した時に激怒して掴み掛かろうとする。
田尻は嫌な奴というキャラ設定だけど、早川が激怒して掴み掛かろうとするのは、それはそれでアウト。
お前には田尻に掴み掛かる資格が無いぞ。そもそも水野とブランドがバカにされたのは、お前の勝手な行動が原因なんだからさ。
熱血キャラもいいけど、そこは「水野がバカにされても耐えているのを見て、申し訳なく思う」という動かし方をすべきじゃないのか。
そこで激怒しても、ちっとも共感しないし、魅力的なキャラに見えないぞ。

原案者が少年漫画を多く手掛けている人だし、早川って、いかにも少年漫画の主人公っぽいキャラではあるけど、ぶっちゃけ、田尻と同じ か、それ以上に不愉快な奴だよ。
向井に10年前の出来事や水野のことを聞いてから謝っているけど、遅いよ。
直情的な熱血キャラってのは、主人公には良くあるキャラ造形だし、それが観客の共感を呼ぶことも多いだろうとは思うのよ。ただし早川 の場合、「熱い奴」というキャラよりも、「マトモな状況判断が出来ない奴」「愚かな奴」「成長しない奴」という部分の方が強く見えて しまう。
熱く燃えるのはいいけど、その一方で、人間的に成長したり、ちゃんとした判断で行動したりというのは描写できるはずでしょ。

捜査本部が久坂を犯人として突き止めた時、「最初の爆破事件があった直後に辞めている。彼は爆破事件の場に居合わせ、両耳の鼓膜を 破っている。会社に警備システムの問題点を指摘し、新たなプランを提案した。だが、会社は耳を貸そうとせず、久坂は辞めていた」と いう説明がある。
ってことは、最初の爆破事件は、久坂の仕業じゃないってことなのか。
だって、最初の事件を受けて、警備システムの問題点を会社に指摘したってことだよな。
で、新たなプランを提案したけど会社が身を貸そうとしないから辞職して、爆弾事件を開始したということだよな。違うのかな。
最初の事件も彼の仕業だとしたら、それで鼓膜を破るって、アホでしょ。

東京ビッグシップに爆弾が仕掛けられた後、久坂が「そこにいる人を避難させたら爆破する」と脅しているので、警視庁が人々を退避 させないのは理解できる。
だけど、犬を連れた警官がウロウロとしてるのに、そこにいる人々が全く気にせず、普通にしているのは変だろ。
何かあるんじゃないかと疑ったり、警官に事情を尋ねたり、そういう連中が出て来るのが普通じゃないのか。
あるいは、過剰に反応して騒ぎ立てたりする奴らも出て来るかもしれない。
みんな、なぜ平然としているのか。鈍い連中ばかりなのか。

早川はビッグシップで爆弾を見つけるが、その時点でタイマーは残り3分22秒。
そんで「間に合わない」と言うのだが、爆弾を持ち上げて運ぼうとする時には、もう残り2分3秒になっている。
お前さ、1分以上も、何もせずに放置していたのかよ。
とりあえず「残り3分強です、処理班の到着を待っていたら間に合いません」とか、向井に連絡しろよ。ここも連絡役は水野で、早川は 連絡していないし。
そんで早川は通路を飛び出した時点で残り30秒を切っているのに、そこから階下に降りて建物の外に出て、処理班の用意した液体窒素に 爆弾を投げ込んで助かっている。
建物の構造が異常なのか、早川の走力が異常なのか、どっちかだよな。

早川は人混みの中にいる久坂を発見するため、春日を見つけるといきなり銃を奪って空に向けて発砲する。
みんなが逃げ出す中で周囲を見回すと、久坂だけがボーっと突っ立っている。
だけどさ、久坂って狡猾な奴という設定なんでしょ。
だったら、早川が発見する前に、周囲が逃げ出したんだから、それと同じ行動を取ろうと考えたりしないものかね。
そこだけ急に、うかつな奴になるのね。

久坂が逃亡したので、もちろん早川とシロは追い掛ける。
で、シロが猛スピードで追い掛けているのに、久坂には全く追い付けない。
なんと久坂は地下鉄に入り、線路へ降りて、そのまま逃げ切っちゃうんだぜ。すげえな。
短く見積もっても、久坂って800メートル以上はシロに追い付かれずに走っているぞ。
そんなにスピードがあるなら、久坂はオリンピックの陸上種目でメダルを獲得できるわな。

あと、早川が久坂を追い掛けるのに必死なのも分かるけどさ、とりあえず仲間に連絡しろよ。また単独行動じゃねえか。
この映画って、「単独行動ばかりで組織捜査に向かなかった早川だが、第四係に配属されて仕事をする中で少しずつ協調性が芽生えて行く 」という流れになるべきじゃないのか。
ひょっとして「シロと一緒だから単独行動じゃなくなっている」とか、そういう意識なのか、製作サイドとしては。だとしたら、あまり にも愚かしいぞ。
早川が相変わらず単独行動ばかり取るせいで、水野以外の同僚が全く必要性の無い存在になっている。
それぞれの能力をセリフで説明していたけど、それも全く活用されない。
ただの数合わせに過ぎない。

単独行動で久坂を追い掛けた早川は、拳銃を向けられ。で、シロに合図をして飛び掛からせるが、早川は久坂に撃たれちゃう。
そして爆発が発生し、早川は鉄骨の下敷きになる(ちなみに久坂はあっさり死亡している)。
でも、ちょっと体を横にズラせば、それで抜け出せるような気がしてしまうんだよな。鉄骨が重そうに見えないんだよね。
その時に早川が足を骨折しているような描写も無いし。

早川がシロに「俺、もう動けないから」と言う時点で、爆弾のタイマーは6分26秒ぐらい。
で、「時間がねえ、お前だけでも逃げろ」と言うのに、シロはバカだからペロペロと早川を舐めたりして、なかなか走り出さない。
その後、ようやくシロは走り出すが、この時点で残り5分18秒ぐらい。
シロがくわえてきたボールを見た水野が早川の危機を察知し、地下鉄へと駆け下りて早川の元に辿り着く。
水野は梃子の原理を利用して鉄骨を退かし、早川を移動させる。
いやいや、どう考えても、とっくに5分は過ぎてると思うぞ。

あとさ、地下鉄の奥で爆弾を発見したのなら、乗客や乗員を一刻も早く退避させなきゃマズいでしょうに。
それに電車だって止めてもらわなきゃダメでしょ。
っていうか、久坂や早川が線路に降りて走っていった時点で、駅員が何か動きを見せるべきでしょ。なんで放置してんのよ。
あと、最後に早川と水野がキスを交わすのは、違和感しか無いぞ。
そこまでに、この2人の恋愛感情が高まっていくような描写なんて皆無だったはずでしょ。

最後に出演者の演技について触れておくと、市原隼人は、いつもながらの市原隼人だ。この人は、何をやっても同じである。
だから、この人を起用する場合、キャラをアテ書きすべきだろう。
ただし、何をやっても同じってのは、必ずしも悪いというわけじゃない。
昭和のスター俳優の多くは、何をやっても同じという人が多かった。
市原隼人が単なるラジー俳優なのか、それともスターの資質を持った俳優なのか、その判断は、皆さんに委ねておく。

(観賞日:2012年4月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会