『ドーベルマン刑事(デカ)』:1977、日本

新宿のアパートで、女の死体が発見された。被害者は絞殺され、全身を焼かれていた。部屋には女の写真やベルト、ペンダントが残されていた。アパートの住人は玉城まゆみという女だ。管理人や近所の主婦によると、彼女は引っ越して来たばかりで、新宿でパンマ(売春婦)をやっていた噂があった。そして彼女は、暴走族と揉めていたという。西新宿署刑事課長の佐野猛夫と刑事たちは、暴走族「風魔団」の隊長であるホラチョウを容疑者として引っ張った。ホラチョウは、事件当日にまゆみと寝たことは認めたが、その後は一晩中、仲間と一緒にバイクを走らせていたと証言した。
沖縄の石垣署から、刑事の加納錠治が西新宿署へやって来た。5年前に捜索願が出ていた玉城ユナが、まゆみと同一人物ではないかという疑いがあったからだ。身体的特徴や現場に残っていた写真から、佐野たちは同一人物だと確信する。佐野はまゆみ殺しの犯人について、連続殺人放火魔の仕業と睨んでいる。加納は佐野たちに、巫女であるユナの母親が「神のお告げで、ユナはまだ生きてる」と言っていたことを語る。その言葉を聞いている加納は、ユナとまゆみが別人だと考えていた。
新人歌手の春野美樹が、初めてのレコーディングに挑んでいた。彼女が咳き込んでスタジオを飛び出したので、ディレクターは困った様子を見せた。すると美樹の所属する英森芸能の社長・英森魁治は落ち着き払った態度で、「初めてのレコーディングであがっとりまんねん。あんじょう頼みまっさ」と告げる。美樹の後を追った英森は、覚醒剤を欲しがる彼女を叱り付けた。それから彼は、「ワシは一生の夢を懸けとんねん。お前はなんも心配せんと、ただ歌うとったらええねんで」と告げた。
西新宿署の鑑識班・磯村均が科学捜査を実施し、ユナの写真とまゆみの焼死体の骨格が一致したことを説明する。それでも加納は、まだ納得しない。ホラチョウはアリバイが成立したため、釈放された。西新宿署では捜査会議が開かれた。連続殺人放火事件の被害者4人は、全てパンマやトルコ嬢だが、暴行の形跡は無い。そこで佐野は、変質者の仕業という線で捜査を進めることに決めた。加納は佐野たちに、ユナの母親が「娘は歌手活動をしている」と言っていることを語る。「お袋さんが言うにはさ、ノロのお告げで、ユナと俺は夫婦になると出とるんだとさ」と彼が言うと、刑事たちはバカにして笑った。加納が捜査協力を申し出ると、佐野は冷たく拒否した。
独自捜査に乗り出した加納は、木下秀吉という男と出会う。加納が「この辺を根城にしとったパンマのことで聞きたいんさ」と言うと、秀吉は「パンマを呼ぶよりストリッパーを見た方が率や」と言い、ストリップ小屋「スターミュージック」へ案内する。そこでは紫小袖が本番まな板ショーをゃっていた。小袖は豚を抱えている加納に関心を抱いた。彼女は秀吉に豚を預け、加納を強引に舞台へ引っ張り上げる。他の客も手伝って服を脱がし、小袖は加納と本番を始めた。小袖のヒモである秀吉は、それを見て嫉妬心を抱いた。
大野という精神異常者が美樹を人質に取り、高層ホテルの20階の一室に立て籠もった。警官の高松が「キチガイは射殺すべきなんだ、射殺すべきなんだよ」と興奮した口調で喚き、拳銃を構えて部屋に突入しようとする。刑事たちが高松を取り押さえ、隊長の中谷は「全く、どっちが狂ってるか、分かりゃせん」と嘆く。高松は拳銃の不当行使の常習犯であり、そのせいで刑事から格下げされていた。
加納が中谷の前に現れ、手助けを申し出た。首里で同様の事件が起きた際、窓から飛び込んで人質を助けたことがあるというのだ。そこは40階建ての高層ビルだが、加納は平然と「ロープを使って上から侵入する」と説明した。中谷は呆れるが、話を聞いていた英森は加納に任せることを求めた。英森が「責任はワシが持ちます」と言ったため、中谷も加納に委ねることを決めた。加納は窓を蹴破って部屋に突入し、大野を叩きのめした。
豚を預かっている秀吉と小袖は、事件のニュースをテレビで見て、加納が刑事だと知った。秀吉は「刑事はワイラの敵やど」と不愉快そう に言うが、小袖は加納の活躍に手を叩いて興奮する。そこへ加納が来たので、小袖は歓迎し、寿司を注文するよう秀吉に指示した。加納はキャバレー「リド」でボーイをしているホラチョウと会い、刑事と告げずに金を渡した。そして殺されたパンマの写真を見せ、まゆみと似ているかどうか尋ねた。するとホラチョウは「まゆみはブクブクと太っていて、こんなマブいスケじゃねえよ」と告げた。
加納が「じゃあ警察にデタラメを教えたんだな」と言うと、ホラチョウは笑い飛ばす。相手が刑事と気付いたホラチョウは、それ以上の質問には答えずに仕事へ戻った。リドのステージでは、デビューしたばかりの美樹が歌い始める。その様子を眺めた加納は、彼女が近くへ来た時に「ユナちゃん」と小声で呼び掛ける。すると美樹の顔が強張った。ホラチョウは歌い終わった美樹の楽屋へ行き、「サインが欲しいんですけど」と頼んだ。美樹が不機嫌そうに近付くと、ホラチョウは色紙を裏返し、そこに記した「あんたの秘密を知っている。今夜三時にマンションに行く」というメッセージを見せた。
楽屋を出たホラチョウは、色紙を破ってゴミ箱へ捨てた。隠れて見ていた加納は色紙を拾い、そのメッセージを読んだ。ホラチョウは美樹の部屋に行くが、待ち受けていた英森の舎弟たちに捕まる。そこへ加納が飛び込み、舎弟たちを蹴散らした。奥の寝室では、美樹が薬を飲んで寝ていた。ホラチョウは「何がニュースターだよ。このスケはよ、3、4年前までは川崎のトルコで働いてたんだぜ。それだけじゃねえんだぜ。こいつはよ、殺されたまゆみと同じ店で働いてたんだよ」と加納に語った。
パトカーのサイレンが聞こえてきたので、加納とホラチョウはマンションから逃走した。ホラチョウは加納を連れて、仲間のサクラや甲山勝男たちがいる風魔団のアジトへ赴いた。彼は「春野美樹はよ、英森っていうヤクザ上がりのマネージャーが作った人形さ。英森がゼニ出して、アメリカで整形させたらしいや。芸能事務所はダミーで、英森は大阪から流れて来たヤクザで、覚醒剤やトルコの大ボスだってよ」と語った。
ホラチョウは加納に、「俺と組まねえか。今度は英森と直で取引だ。まゆみをやったのは英森だと思うんだ。連続殺人を利用してよ、口を封じやがったんだ」と持ち掛けた。「殺されてもいいのかい」と加納が訊くと、彼は「俺は殺されねえよ。死なねえお守りを持ってんだ」と笑った。それから彼は、アメリカの米兵から貰ったマグナム弾と、5万で買った拳銃マグナム44を見せた。加納は「大事に持ってろよ。いずれ借りるかもしれんぞ」と告げた。
加納はまゆみと美樹のことを調べるため、次々にトルコ風呂を当たる。そして彼は、美樹がシャブをやっていたことを知る。高松はパンマと揉めていたヤクの売人たちを捕まえ、刑事課へ連行した。彼が荒っぽい態度で追及していると、二宮捜査一課長が「後はこっちでやる。君は係が違うんだ」とたしなめた。高松は憤慨して立ち去った。加納は佐野たちに、「俺が受け取ったお骨。ユナじゃないよ。他の沖縄の女さ」と言う。呆れた佐野たちが証拠を出すよう要求すると、加納は島の占いを始める。「昨夜から何度やっても生きてるって出るのさ」と彼が言うと、佐野たちは嘲笑した。
英森はオーディション番組『スター誕生!』で美樹を1位にするため、審査員の買収工作を進めていた。既に番組ディレクターと審査員の猿橋は買収していたが、問題は金でも女でも動かない審査員長の藤川成行だった。しかも、その藤川がバックアップしている水木健二が大本命だ。猿橋は英森に、水木は藤川のお稚児だと教えた。一人で外に出た美樹に、加納が「ユナちゃんだろ。俺、アンタの隣に住んでた加納錠治さ。お袋さん、病気さ。沖縄へ帰ろう」と声を掛けた。しかし美樹は冷淡に「人違いです」と告げた。
美樹が去ろうとするのを、加納が引き留めた。そこへ英森たちが車でやって来る。加納が「この人な、お袋さんから保護願いが出とるんさ。沖縄へ連れて帰る」と言うと、英森は「美樹は出身は北海道だ。事務所へ来てみい。戸籍謄本でも何でも見せたる」と述べた。美樹は加納の説得を無視し、車に乗り込んだ。加納はバイクで追い掛けるが、英森の舎弟たちに捕まった。加納は倉庫に連れ込まれ、吊るされて激しい暴行を受けた。
マスクで顔を隠した男はホラチョウの女・美代子を殺してアパートの部屋に火を放った。ホラチョウがアパートに来ると、既に火の海となっていた。ホラチョウがアパートの階段を下りると高松が立ちはだかり、「放火魔はおまえだろ」と鋭く告げる。高松は捕まえようとするが、ホラチョウは何とか逃げ出した。彼は英森芸能に乗り込み、拳銃を構えて舎弟たちを脅す。彼は英森を睨み付け、「美代子は何の関係もねえんだよ。餞別に合わせて美代子の葬式代を貰おうか」と要求した。
英森が「何か勘違いしてるんやないか。俺は女殺した覚えは無いで」と言っても、ホラチョウはしかし聞く耳を貸さず、5千万を出せと告げた。ホラチョウは英森の出した金を手に取ろうとするが、舎弟たちに捕まった。舎弟たちは倉庫へ連行し、加納の隣にホラチョウを吊るした。舎弟頭の城野は倉庫から英森に電話を入れ、加納が西新宿署と無関係で捜査していたことを報告した。すると英森は「殺すんや、2人とも」と命令した。
ホラチョウは加納に、「たぶん、あの野郎、英森のテカ(手下)だよ。まゆみやったのも、あの野郎だ。あの晩、まゆみは美樹に会うって言ってたからよ。口止め料をアパートへ持って来るって言ってた。美樹の代わりに、奴が来たんだ」と語る。加納は「後の3つの殺しは、どう説明するんだ。みんなが美樹の秘密を知ってたわけじゃなかろう」と疑問を呈した。城野が手下たちを引き連れて現れ、マグナム44で加納を撃とうとする。しかし反動の大きさで誤って排気パイプを撃ってしまい、大量の蒸気が噴射した。吊るされていたロープが外れ、加納は反撃に出た。ホラチョウを苦し、駆け付けた刑事たちに降伏して警察署へ連行された。
ホラチョウは仲間と合流してバイクを受け取り、逃走を図る。だが、何者かが運転する車にはねられ、さらに銃弾を浴びた。一方、英森はスタ誕のディレクターに藤川を紹介してもらい、美樹を売り込もうとする。藤川は鼻にも掛けないが、英森は経営しているクラブへ彼を案内する。英森はスクリーンを用意し、あるフィルムを藤川に見せた。それは、城野が水木を鞭打つ様子を撮影した映像だった。
加納は佐野たちから荒っぽい取り調べを受け、「パンマ殺しのホンボシ、知りたくねえのか。まゆみ殺しと、他の4人のパンマ殺しと、ホシは別さ」と告げる。現場に残されていたベルトのサイズを調べると、被害者の持ち物ではないことは明らかだ。ペンダントには名前が彫られているが、それは被害者をユナ本人と思わせるために、事件の3日前に宝石店で彫らせたものだと加納は説明した。彼が詳しく語る様子を捉えた監視カメラの映像を、一人の警官が別の部屋で凝視していた。
風魔団がバイクで警察署の前に現れ、甲山が中に駆け込んだ。彼は加納を見つけると、「ホラチョウがホシの顔を見たと言ってる。でも、死にかけてる」と告げた。佐野たちは甲山を拘束し、強引な取り調べでホラチョウの居場所を吐かせようとする。加納は担当の刑事たちを叩きのめし、甲山を引き連れて警察署を飛び出した。しかし加納たちがアパートへ駆け込むと、ホラチョウは何者かに殺されていた。車で逃走する男に気付いた加納は、すぐに後を追い掛けた…。

監督は深作欣二、原作は武論尊&平松伸二、脚本は高田宏治、企画は松平乗道&奈村協、撮影は中島徹、照明は金子凱美、録音は野津裕男、編集は市田勇、美術は富田治郎、擬斗は土井淳之祐、音楽は広瀬健次郎。
主題歌「黒い涙」作詞:深作欣二、作曲:長戸大幸、唄:西浜鉄雄。
挿入歌「マイメモリィ」「ドーベルマン刑事のテーマ」 作詞 作曲 唄:弘田三枝子。
出演は千葉真一、松方弘樹、ジャネット八田、松田英子、川谷拓三、室田日出男、岩城滉一、志賀勝、橘麻紀、藤岡重慶、遠藤太津朗、星野じゅん、小林稔侍、成瀬正(現・成瀬正孝)、内村レナ、穂積隆信、野口貴史、岩尾正隆、鈴木康弘、西田良、中村錦司、川上のぼる、阿波地大輔、諏訪圭一、テリー・オブライエン、西浜鉄雄、唐沢民賢、原田力、高月忠、笹木俊志、木谷邦臣、山口じゅん、福本清三、勝野賢三、志茂山高也、宮城幸生、吉沢高明、松本泰郎、大矢敬典、藤沢徹夫、寺内文夫、波多野博ら。


週刊少年ジャンプに連載されていた武論尊の同名漫画(公開当時は連載中)を基にした作品。
加納を千葉真一、英森を松方弘樹、美樹をジャネット八田、小袖を松田英子、秀吉を川谷拓三、高松を室田日出男、ホラチョウを岩城滉一、大野を志賀勝、美代子を橘麻紀、佐野を藤岡重慶、藤川を遠藤太津朗、甲山を小林稔侍、城野を成瀬正(成瀬正孝)、猿橋を穂積隆信、水木を諏訪圭一が演じている。
監督は『暴走パニック 大激突』『北陸代理戦争』の深作欣二。
脚本は『やくざ戦争 日本の首領』『北陸代理戦争』の高田宏治。

武論尊の同名漫画が原作ではあるが、その原作とは似ても似つかない映画に仕上がっている。
そもそも主人公のキャラクターからして、全く違う。
原作の加納は革ジャン革ズボンでクールにキメている男だが、この映画では麦藁帽を被り、黒豚を抱えて現れる田舎のイモ刑事だ。
語尾に「〜さー」を付けて、沖縄のイントネーションで喋る。加納錠治という名前と、使用する拳銃(しかも本人の所持品ではなくホラチョウの物)ぐらいしか、原作の主人公との共通項が見当たらない。

ホテルの立て籠もり事件のニュースでは、加納は「ターザン刑事」と呼ばれる。
おいおい、ドーベルマンじゃねえのかよ。
一応、後半に佐野が「沖縄ではドーベルマンと呼ばれていたらしいが」と言うシーンがあるが、取って付けた感しか無い。
さすがに製作サイドも「これは原作ファンから怒りを買うだろうな」と考えたのか、公開する際には「原作以前の主人公を描いたプロローグ篇」と説明しているが、そんな言い訳で納得できる人は皆無に等しいだろう。
何がどうなったら、その映画の加納が、後に原作の加納になるのかと。

そんなわけで、原作のタイトルを利用しただけの全く別物の映画だということを、まず受け止める必要がある。
「原作と比較して云々」という意識で鑑賞していたら、たぶん最初から最後まで、怒りか嘆きの感情しか沸いて来ない。
「深作欣二が監督し、千葉真一が主演した刑事アクション映画」ということで、原作とは切り離して観賞する必要がある。
まあねえ、そんな前置きが必要になるという時点で、映画としていかがなものかとは思うけどさ。

ただし、「深作欣二が監督し、千葉真一が主演した刑事アクション映画」と割り切って観賞しても、やっぱり出来栄えはイマイチかなと。
「芸能界のドロドロした裏側」を描く意識が強すぎて、「加納が型破りな行動で、悪党どもを駆逐する」というところが弱くなっている。
キャラもやたらと多くてゴチャついてるし。
物語に深く関与して来るのかと思ったストリッパーや秀吉たちは、ほとんど存在意義の無い扱いになっているのね。コメディー・リリーフと呼ぶにも不充分だし。

あと、話が無駄にややこしい。
何しろ、加納が追い掛けて駆逐する対象が1つじゃなくて2つ。しかも、その2つは全くの無関係なので、「1つのグループ」として解釈することも出来ない。
その行動目的も、まるで別物。片方は「スターになるための悪事」であり、もう片方は「キチガイ警官の暴走」だ。
しかも、「スターになるための悪事」は美樹が単独でやったことであり、英森は関与していない。
でも、彼は彼で、美樹を売り出すために男を雇って立て籠もり事件を起こさせたり、加納とホラチョウの始末を手下に命じたりしている。

そんなわけで、無駄に話がややこしいのよ。
どうせ高松の「狂った正義感の暴走」という部分の描写は薄っぺらいんだから、そっちはバッサリと削除してしまえば良かったのに。
ただ、芸能界の方の事件は、美樹にしろ、英森にしろ、加納が徹底的に憎み、怒りに鉄槌を下すという対象になっていないので(どっちも共感を誘う要素のあるキャラ設定になっている)、なんかモヤモヤしたモノが残っちゃうんだよな。
ただ、それにしたって、加納が美樹を捕まえたり西新宿署に連行したりせず、そのまま放置して終わるってのはイカンだろ。

(観賞日:2012年12月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会