『デビルマン』:2004、日本

高校生の不動明は4年前に両親を亡くし、クラスメイトである牧村美樹の家に引き取られた。明は幼い頃から、同級生の飛鳥了と仲良し だった。二人は瓜二つだったが、了は何をやっても優秀で、明にとって憧れの存在だった。しかし美樹は、了が笑顔を見せないので、「顔 はそっくりだけど、明君で良かった」と言う。了は昔から、全く笑顔を見せたことが無かった。
明は了の友達だという理由で、不良グループに暴行を受けた。そこに同級生の牛久が現れ、不良グループに「俺は中学の頃に不動を苛めて 、飛鳥に植木バサミで指を切断されそうになった。その時に止めてくれたのは不動だった。飛鳥は人を殺すことなんか平気だ」と警告した 。一方、美樹は同級生のミーコがイジメを受けているのを目撃し、いじめっ子グループに反撃した。
1週間も学校を休んでいた了が登校し、明に「俺の親父が死んだ」と告げた。彼は「別荘に行けば分かる」と言うと明を車に乗せ、父親の 飛鳥教授が残した記憶装置を装着させた。すると、そこに教授が撮影した映像が浮かび上がった。教授はカメラに向かい、南極地底湖で 新エネルギーを発掘していたことを語る。だが、掘り起こされたのは新エネルギーではなく、他の種族を食べたり乗っ取ったりしながら 進化する恐ろしい知的生命体、デーモンだった。
教授はカメラに向かい、「研究所を閉鎖したが遅かった。研究員は全てデーモンに合体されていた。そして私も」と語る。別荘に到着した 了は、デーモンに合体されて変わり果てた父親の姿を見せた。了は自分もデーモンに合体されたことを明かし、「殺してくれ」と明に言う。 その時、デーモン最強の勇者“アモン”の精子が現れ、明に襲い掛かった。
明はデーモンの姿に変身するが、心は人間のままだった。そこへ近付いたデーモンはアモンが来たと喜ぶが、「アモンじゃない、人間だ」 と驚き、襲って来た。明は、そのデーモンを簡単に倒した。明は「デーモンになっちまったよ」と口にするが、了は半分が人間、半分が デーモンの状態になったことを説明する。そんな明のことを、了は「デビルマン」と呼んだ。
明は牧村家の父・啓介と母・恵美からバイクをプレゼントされ、美樹を後ろに乗せて学校へ向かった。明は不良グループに襲われるが、 人間離れした動きで軽くあしらった。それはデーモンの能力だ。明は海岸へ行き、絵を描いている牛久に声を掛けた。牛久は、了が指を 切断しようとした時に「俺、ホントは悪魔なんだ」と言ったことを告げ、「あいつには気を付けろ」と警告した。
夜、牧村家で自室にいる明は、「戦いたい、敵が欲しい」という欲望にかられていた。そこへデーモンのシレーヌが現れ、アモンの記憶を 呼び覚ますため、明を飛鳥教授の別荘へと連れて行く。しかし明が何も思い出さないため、シレーヌは攻撃してきた。明はデビルマンと なって戦うが、傷付き倒れた。了が来るのを目にしたところで、彼は気を失った。翌朝、明が目を覚ますとシレーヌは消えており、傷は 治っていた。彼は了に、「俺は人間を守るためにデビルマンになった、愛する美樹ちゃんたちを守るためにデビルマンになった。そう思う ことにした」と告げた。
ショッピングモールにデーモンが現れた。そこにいた牛久の悲鳴が明の耳に届いた。明は牛久を探し回り、山に入った。すると、そこには 牛久を含む数名の人間を取り込んだデーモンのジンメンがいた。明はデビルマンになり、ジンメンを軽く倒した。ジンメンは死の間際、 「オレは人間を食っただけだ、全て抹殺しようとしているサタンとは違う」と言い残した。
テレビでは、ニュースキャスターのモリソンが「全世界で謎のバラバラ殺人事件が多発している。アメリカでは凶暴化した人が暴れる事件 が起きており、FBIが捜査を開始した」と伝えた。ずっと学校を休んでいたミーコが私服で登校すると、いじめっ子グループが「アンタ 、テレビで言ってたデーモンじゃないの?」と言い、服を脱がせようとする。ミーコの右腕に奇妙な鱗があるのを見つけた生徒たちは、 パニックを起こして逃げ出した。
学校に警官隊が駆け付けるが、ミーコは逃げ出していた。美樹は明に「あの子、デーモンと言われて泣いたの。だから体はデーモンでも心 は人間なの」と言う。ミーコは公園でススムという少年と遭遇した。「最近、ママが変わった、きっと僕は殺される」と彼は語った。そこ へ母親が現れるが、「パパも帰ってるわ」と言われ、ススムは安心して帰ることにした。だが、父親も既にデーモンとなっていた。ミーコ はススムの両親を倒し、彼を救い出した。ススムは「怖くないよ、僕を助けてくれたもん」と口にした。
モリソンは、「アメリカ政府は世界各国と連携し、デーモンを人類共通の敵として戦って行くことを宣言した。それを受けて日本政府も デーモン対策本部を立ち上げたが、対応の遅れに非難が集中している」と報じた。ショッピングモールではデーモンが暴れ出し、そこには 不良グループもいた。通り掛かった了は「ほっとけ、どうせあいつらクズだ」と言うが、明は「人間を一人も助けられなかったら、 デビルマンになった意味ねえだろ」と反発する。彼はデビルマンになり、不良グループを助けた。
モリソンは、「日本政府はデーモン特別法を制定した。デーモンの容疑を掛けられた者は即時拘束。抵抗するデーモンは射殺される」と 報じた。帰宅した啓介は、同僚の佃がデーモン特捜隊に逮捕されたことを打ち明けた。密告したのは日頃から妬んでいた同僚だった。 美樹は明のバイクに乗せてもらい、ミーコの家を訪れた。家の壁は罵倒する落書きだらけになっていた。通り掛かった買い物帰りの女性が 、「この家からデーモンが出たのよ。家族はみんな出て行って誰もいないわよ」と教えてくれた。
明と美樹は教会に足を向けた。美樹は「いつかアキラくんと結婚できますように」と祈ったことを明かした。その夜、了が明を訪ね、 「付いて来い、時間が無い」と告げた。彼が案内したのは、デーモンの拠点である邸宅をデーモン特捜隊が包囲している現場だった。邸宅 から出てきたデーモンたちは、特捜隊の銃撃を浴びて倒れていく。了はマシンガンを持ち、「特捜隊を皆殺しにしてやる」と口にした。制止 しようとする明に、了は「お前はこんな人間が許せるのか」と告げる。傷付いたデーモンが「助けてくれ、サタン」と呼び掛けたので、了 は当惑した。了は特捜隊を射殺しながら、邸宅へと突入した。
人々はわずかな違いでもデーモンと思い込み、見境無く襲い始めた。そのパニックは、やがて国が国を攻撃するまでに至った。そんな中、 明は正月のおせち料理を仕事場の啓介に届けた。啓介は農林水産省の試験場で米を育てているが、同僚は誰も出勤していない。明は仕事を 手伝うが、右腕の鱗が見えた。しかし啓介は怖がらず、「オレは変わんよ」と穏やかに告げた。
試験場から帰宅する途中、明は警官隊が商店街で人々を射殺している現場に遭遇した。警官の一人は了だった。「生きていたのか」と明が 言うと、了は「サタンだからな」と告げて立ち去った。モリソンは、「世界中から日本の12ヶ所にミサイル攻撃が行われた。日本も反撃 した。戦争が始まった」と報じた。美樹は明に「神様って信じる?」と尋ねた。懐疑的な明に、彼女は「神様はいるわ」と告げてキスを した。明は「世界が滅びたって、俺が美樹ちゃんを守るよ」と誓った。
デーモンとして捕まっていたミーコとススムが脱走した。ミーコはススムを背負い、牧村家の前を通り掛かった。それに気付いた美樹が家 を飛び出し、ミーコに声を掛けた。「他の頼る人がいないの。この子は人間なの。この子だけは助けてやって」とミーコは頼んだ。美樹は 2人を招き入れた。両親は温かく迎え入れ、「置いてあげて」という美樹の頼むも快く承諾した。
翌日、近所の住人・上田や重森が牧村家を訪れ、啓介と恵美に自警団への加入を要求した。「それは警察の仕事」と拒否すると、重森は 「家族の誰かがデーモンなのを庇ってるんですか」と疑いの目を向けた。彼らが去った後、啓介は「通報されたかもしれない。すぐ逃げた 方がいい」とミーコに告げた。啓介は試験場の鍵を渡し、ミーコとススムを逃がした。
ミーコたちが去った直後、デーモン特捜隊が押し入った。彼らは「脱走デーモンをどこに隠した?」と追及し、「お前らもデーモンなんだな」 と言い出した。美樹と両親が互いを庇って「私がデーモン」と言うのを聞き、明は「人間じゃないのは俺なんだ」と叫んでデーモンの姿に 変身した。彼は「絶対に美樹ちゃんの元に戻る」と言い残して連行された。明は銃撃を浴び、死亡が確認された。
その夜、自警団が「家族全員デーモンだ、殺せ」と言いながら牧村家に押し入った。両親は美樹を二階に避難させ、自警団に殺された。 美樹は二階にやって来た自警団に抵抗するが、やはり殺された。一方、特捜隊に追われたミーコは、デーモンに変身してススムを救った。 彼女は日本刀とマシンガンを手に取り、特捜隊を抹殺した。まだ生きていた明は、牧村家に戻った。美樹を携帯を見た明は、彼女が殺害 されたことを知った。室内には美樹の生首があった。明は生首を抱え、教会へと足を向けた…。

監督は那須博之、原作は永井豪、脚本は那須真知子、製作は泊懋、製作総指揮は坂上順&高橋浩&黒澤満&早河洋&東聡、企画は遠藤茂行 &森下孝三&石井徹&木村純一&竹内淳、プロデューサーは冨永理生子&松井俊之&北ア広実、VFXプロデューサー・特撮監督は佛田洋、 CGプロデューサーは氷見武士、デビルマンコンセプトデザインは寺田克也、キャラクターデザインは衣谷遊、撮影はさのてつろう、編集 は只野信也、録音は湯脇房雄、照明は大久保武志、美術は沖山真保、アクションコーディネーターは野口彰宏、音楽は安川午朗、 音楽プロデューサーは津島玄一。
主題歌『光の中で』作詞はH.U.B./園田凌士、作曲は松本良喜、唄はhiro。
出演は伊崎央登、伊崎右典、酒井彩名、渋谷飛鳥、染谷将太、ボブ・サップ、冨永愛、宇崎竜童、阿木燿子、的場浩司、モロ師岡、 鳥肌実、布川敏和、嶋田久作、今井雅之、洞口依子、船木誠勝、本田博太郎、KONISHIKI、永井豪、小林幸子、金山一彦、大沢樹生、 仁科克基、俊藤光利、小倉一郎、きたろう、田中鈴之助、川久保拓司、中山貴将、仲程仁美、石川佳奈、森本ゆうこ、清水宏、有福正志、 城春樹、並樹史朗、越康広、殺陣剛太、町田政則、中山弟吾朗、清水一哉、中原裕也、佐野元哉、松本博之、入沢勝、中川大輔、 正岡邦夫、三和社長、高見周、中村竜也、柴田将士、三和太、岡田謙一郎、戸田信太郎ら。


永井豪の同名漫画を基にした実写映画。
『デビルマン』はTVアニメ版もあったが、漫画とは展開が大幅に異なっており、今回は「漫画版を完全に実写映画化する」ということで 企画が進められたらしい。
制作費は10億円。東映と東映アニメーションが手を組んで「T-Visual」と名付けた特撮シーンを製作している。
公開すると、見事に酷評の嵐で、興行収入は5億円と惨敗に終わった。
明をアイドルグループ“FLAME”の伊崎央登、了を同じく“FLAME”の伊崎右典という双子の兄弟が演じている。2人とも、これが初めての 映画出演。啓介役の宇崎竜童と恵美役の阿木燿子は、これが映画では初の夫婦共演となる。美樹を酒井彩名、ミーコを渋谷飛鳥、ススムを 染谷将太、モリソンをボブ・サップ、シレーヌを冨永愛が演じており、原作者の永井豪も神父役で出演している。

この映画について、何から語ればいいのだろうか。
学生や素人ではなくプロフェッショナルの映画人が、それもキャリアの浅い人間ではなく何本もの映画を手掛けてきた監督と脚本家の夫婦 が、これぐらい酷い映画を作れるものなのかと、ある意味では感心させられる。
もちろん、これは皮肉である。
マトモに受け止めたら激しい怒りで脳の血管が全てブチ切れそうなので、自分の中で「誉め殺し」という壁を作ることで、私は現実から目を 逸らそうとしているのだ。

とりあえず、那須博之&真知子夫妻がデビルマンに何の思い入れも無いし、この映画を手掛けるに当たって全く漫画版を読み込んでいないことだけは、 良く分かった。
何しろ、デビルマンに殺されたジンメンが、驚いた顔で「デーモン同士は殺し合わないはずじゃないのか?」と口にするぐらいだ。
漫画版を理解していたら、こんなセリフを冗談でも吐かせることなど出来ないはずだ。
漫画版は、デーモン同士が殺し合う話だ。
TVアニメ版にしても、のっけから仲間同士で殺し合いをやっている。

全て漫画版の通りにやれというのは酷だろう。時間的な制約もあるし、表現としても難しい部分があるだろう。だから、ある程度は改変も 仕方が無い。デビルマンのエッセンスが充分に残って入れば、思い切ってストーリー展開に手を加えても構わない。
しかし、手を加えるに当たって、まさか学生運動を投影した内容にするとは、予想の斜め上を行くのね。その発想は無かったわ。
その突飛な発想力、類稀なるセンスには脱帽である。
デビルマンをご近所SFに矮小化するセンスも見事なものだ。
私のように小心者だと、そんなことをしたら熱烈なファンの怒りを買うだろうと危惧して、とても出来ないような脚色だ。

辻褄合わせや整合性などお構いなしとばかりに、デタラメで繋がりを無視したシーンが並べられて行くシナリオ。
支離滅裂なセリフを吐き、頭がイカれているとしか思えないような意味不明な行動を取る登場人物たち。
全く意味が無く、たぶん自分が何をやっているのかも良く分からないまま登場するカメオ出演者の面々。
さっきまで昼間だったのに、あっという間に夜になってしまうような異常な時間経過。
数秒前のセリフを忘れてしまうような登場人物。
何から何まで、凄すぎる。

この映画は、とにかく凄い。
まずキャスティングのセンスが凄い。映画初出演どころか、演技をすることさえ初めてという双子のアイドルを明と了に起用している。
この二人の芝居は、セリフは棒読みの見事な大根ぶり。
伊崎央登はマトモに悲鳴を上げることさえ出来ない。試験場で啓介に鱗を見られた時に空を見上げて「ああああ」と声を発するが、それが 何の感情を表しているのかサッパリ分からない。
ドラッグが切れたヤク中の芝居だろうか。
しかも双子を起用しているのだから、物語の上で「明と了が瓜二つ」ということに何か意味を持たせているのかと思ったら、何も無い。

メイン2人に演技未経験のアイドルを起用しただけでなく、ミュージシャンの宇崎竜童と作詞家の阿木燿子、格闘家のボブ・サップ、 モデルの冨永愛など、なぜか本職が役者ではないメンツばかりを多く揃えている。
その他にも元相撲取りのKONISHIKIや歌手の小林幸子、アジテーターの鳥肌実など、やはり役者ではない面々が、何の意味も無くゲスト 出演する。
原作やTV版のファンが喜ぶようなマニアックなカメオではなく、何の脈絡も無い顔触れだ。
冨永愛はシレーヌのコスチュームを「私はトップモデルよ、こんな付けオッパイの衣裳なんか着られないわ」とばかりに拒否したらしく、 シレーヌとは到底思えないような格好で登場する。
冨永愛と伊崎央登のアクションシーンは凄い。
気の抜けたような声と、冗談のような動きで戦ってくれる。
で、シレーヌは、ほとんど何の意味も成さないまま消えて、二度と登場しない。

用意されているセリフが凄い。
明がデーモンに襲われているのに「あー、俺、デーモンになっちゃったよ」と呑気に言ったり、了が唐突に「ハッピーバースデー、 デビルマン」と祝福したりするダイアログは、凡庸な脚本家なら、まず思い付かないだろう。
また、ジンメンに取り込まれた牛久は、「オレ、こいつに食われちゃったよ」「オレ、死んじゃったよ」と、いちいち説明して くれる。
基本的に、状況や感情は全て登場人物がセリフで説明していく。わざわざ説明しなくても、見れば分かることまでセリフで言う。
しかし、それだけ説明的なセリフが多いくせに、登場人物の心情は全く分からない。
っていうか、明と了に関しては、たぶん何も考えていない。
何しろ今回の映画では、デビルマンが自分の存在について全く苦悩しないのである。

時系列を簡単に飛び越えるのが凄い。
牛久がショッピングモールで悲鳴を上げたのに、なぜか明は海岸へ行く。牛久が悲鳴を上げたのは昼なのに、なぜか夜になっている。
なぜか海岸には、牛久のカンバスが残してある。
あいつはカンバスを残してモールへ出掛けたのか。
で、なぜか明は海に入ってまで牛久を捜すが、足元が浸かる程度の場所でウロウロしているだけだから、海岸から捜しても全く変わらない だろう。
で、なぜか明は山に入り、なぜかジンメンはモールから山に移動している。

それ以外にも、ストーリーにも演出にも、凄いところがテンコ盛りだ。
ここからは筋を追って列挙していこう。
まず冒頭、明の「了は昔から変だった」というセリフがある。それじゃあ昔からサタンだったってことなのか。そうじゃなくて、デーモン に合体されたから変になったんじゃないのか。
牛久は明に、了が「オレ、ホントは悪魔なんだ」と言って指を切ろうとしたことを語るが、じゃあ昔から了は悪魔だったのか。デーモンに 合体されてサタンになったわけじゃないのか。
あと、学校でクラスメイトの指を植木バサミで切断しようとしたのに、警察沙汰にならなかったのね。

了は父親の死を明に伝える場面まで1週間も学校を休んでいたらしいが、そのことは彼が学校に来るまで分からない。1週間も休んで いたら、明は気になっていたはずだが、それを示す場面は無い。
っていうか、1週間の時間経過が全く分からない。
その後、ずっと学校を休んでいたミーコが登校するシーンがあるが、これも美樹が「ずっと学校を休んでいたけど」と言うまで 分からない。
明は飛鳥教授の撮った映像を見るが、教授が一人で撮影したにしては妙に凝った映像になっている。飛鳥教授は、何千人もの研究員がいる という、日本では考えられないぐらいスケールの大きな研究所の教授をしている。何千人もの研究員が死んだら大事件のはずだが、全く 報じられていない。
そりゃそうだ、報じられていたら、了に言われる前に明は知っているはずだ。
教授は「発掘したのは知的生命体のデーモンだった」と言うが、なぜデーモンという名前だと分かったのかは不明。
っていうか、その時点でデーモンに合体されているはずなのに、そんなことを自分の意思で喋ることが出来た理由も不明。

明がアモンに襲われて姿が変化した後、近寄ったデーモンが「アモンじゃない、人間だ」と言うが、いやいや、アモンではないけど、 人間でもないぞ。
で、明は「滅びろ、デーモン」と気合の声を上げてデーモンを倒すが、デーモンに襲われた直後で、まだ事情も良く理解できていないはず だろうに、いきなりデーモンに対して強い攻撃心を持つようになっているのね。
あと、明やミーコはデーモンの襲撃を受けても食われずに済んでいるが、なぜなのか理由は不明だ。
明は人類を守るために自らの意志でデーモンと合体するわけではなく、たまたまデーモンに襲われて、幸運にも食われずに済んで、 「デビルマンになっちゃったんだから、その理由を自分で考えよう。そうだ、人間を守るためということにしよう」ってことで、デーモン と戦い始める。まだ美樹がデーモンに襲われていないのに、明は「美樹を守るために戦う」とか言い出す。
彼は人間に絶望しないので、美樹が生首になっても、殺した奴らを虐殺したりはしない。
っていうか、もう生首を発見した時には、殺した連中は立ち去っているから、殺しようがないのだが。

明と了は、ショッピングモールでデーモンが人々を襲う場面を目撃するが、なぜかデーモンは剣で人を殺している。デーモンの力を使う ことは無い。
明は了と言い争うが、その間にも人々は殺されている。
明はデビルマンに変身するが、なぜかデーモンは人間の姿のままで戦う。デーモンがデーモンに変身して戦う場面は、その後も全くと 言っていいほど出て来ない。
ミーコの家を訪れた後、なぜか明と美樹は、その流れで教会へ行く。美樹は「いつか明くんと結婚できますように」と祈ったことを 言う。それまでほとんど見せなかった恋心を急に見せて、しかも結婚までの強い思いを示す。
っていうか、「何を祈ったか」ということで「いつか明くんと結婚できますように」と答えているが、それは願掛けであって、教会で祈る ようなことじゃない。

なぜかデーモンは邸宅に拠点を構えている。
女性キャスターが中継していると、白塗りの山海塾みたいな奴が現れてデーモン特捜隊に銃殺されるが、そいつがデーモンだったのか どうかは不明。ただのキチガイかもしれない。
で、デーモン特捜隊が攻撃すると邸宅からデーモンが出て来て、バタバタと無抵抗でやられていく。銃撃が待っていると分かっているのに 、逃げようともせず、どんどん後から出て来て撃たれる。デーモンなのに、銃で簡単に死ぬ。しかもデーモンの姿に変身せず、人間の姿の ままで殺される。
邸宅のデーモンが殺される様子を見ていた了は「奴ら(特捜隊)を皆殺しにしてやる」と言うが、その心情の移り変わりは全く描かれて いないから、なぜ急にそんなことを言い出すのかは良く分からない。
で、なぜか銃の扱いに慣れている了は、背後から狙えるのに、なぜか特捜隊の正面に回り込むという無駄な動きも入れつつ、マシンガンで 銃撃する。そのマシンガンは、日本では簡単に購入できるようになる。
なぜか出て来る銃はマシンガンばかりだ。

明が「人々はわずかな違いもデーモンと思い込み、見境無く襲い始めた」というナレーションを語るが、その時に映像で示されるのは、 デブが暴れる場面だけだ。
日本なのに、なぜかテレビに登場するキャスターはアメリカ人で、英語でニュースを喋る。
世界各地でデーモンが暴れて、戦争まで起きているらしいが、登場する舞台は牧村家の近所に限定されている。
デーモンの襲来や戦争によって世界が崩壊していく過程は、キャスターのコメントと申し訳程度のニュース映像のみで処理される。
ご近所限定でハルマゲドンを描くのは、『オーメン』のやり方を真似たんだろうか。

キャスターは「戦争が始まった」と説明するが、その直後のシーンでは、美樹が自宅で「どうなるのかなあ」と呑気に言っている。
戦争が始まっても、どうやら普通に電気は来ているようだ。
未だにモールには死体が転がったままで、モールも崩壊しているような状況なのに、牧村家だけは普通に今まで通りに生活できている。
食料にも困っている様子は見られないし、周辺で略奪が起きている様子も見られない。
周辺の住民も、どうやら何の不自由も無く暮らしているようだ。

試験場で明の鱗を見た啓介は慌てず騒がず「俺は変わらんよ」と言うが、それに対して明は「お父さん」と返す。 いや、感動したのかもしれんが、お父さんではないぞ。
で、そこで鱗を見られているのに、その後、上田たちが牧村家を訪れる場面では、明が半袖のTシャツを着ており、右腕にウロコは無い。
都合良く消すことが出来るのなら、なぜ試験場では消さなかったのか。

了は商店街で警官に化けて人々を殺しているが、サタンなのに警官に化ける必要性は全く分からない。
まだサタンとしての自覚が無いなら分からないでもないが、もう自覚しているはず。
っていうか、自覚が無いまま、人間の姿で人を殺すにしても、警官である必要性は無い。
一般人が殺したら法律違反だろうけど、どうせ了は法律を遵守する気なんか無いだろ。

デーモン特捜隊が牧村家に突入してくる日は土砂降りだったのに、明か連行される時には晴れている。
自警団が牧村家に押し入るシーンでは、先導していた上田と重森が「どうしよう、知らない奴らばかりですよ」とか「こいつら、美樹 ちゃんまで殺してしまいますよ」などと、マヌケなトーンで言っている。
このタイミングでコミカルなテイストを入れるセンスが凄い。

牧村家が襲われて美樹が生首にされるシーンは、原作ではものすごく重要な箇所だ。
しかし、そこを映画では、ミーコとススムが追われる様子と並列で描いている。
それぐらい、那須夫妻にとってはミーコを重視しているってことだ。
最後にミーコは鱗が消えて人間に戻ったようだが、なぜ戻れたのかは全く分からない。
あと、なぜか明と了じゃなく、ミーコとススムでエンディングにしているが、それも夫妻のミーコへの思い入れの強さが出たってこと なんだろう。

そのミーコは、特捜隊に追われてビルから飛び降りる時に、ようやくデーモンの姿になる。
とは言っても、ただ背中に羽が生えただけで、ほぼ人間だ。
それにデーモンと言うより天使だよ、その姿だと。
で、ようやく変身したのに、すぐに元の姿に戻り、なぜかデーモンの力ではなく、日本刀とマシンガンを使って特捜隊と戦う。
特捜隊はマシンガンを持っているのに、なぜか特攻してくる。

牧村家に戻った明は、なぜか携帯を見て、美樹に何があったのかを全て映像で把握する。
そこの表現は、まるで携帯に美樹が殺される映像が撮影されていたかのような演出になっている。
強気で「私は魔女。なめるな」などと言って自警団に襲い掛かった美樹は、十数秒後には「私、魔女じゃない」と弱々しく言う。
彼女は生首になって明に運ばれるが、画面に映るごとに表情が変化する。

了は序盤で「俺もデーモンに殺された」と明かしており、明の眼前で変身までしている。
なのに明は、どうも了を終盤まで人間だと思っていた節がある。
その感性は理解不能。たぶん底抜けのバカなんだろう。
教会で了が来た時に明は「お前は最初からサタンだったんだな」と言うが、今頃になって気付いたのか。
デーモンの邸宅で「サタン」と了が言われていたのを、明も聞いていただろうに。商店街で遭遇した時に、了が自ら「サタンだからな」と 言っていただろうに。
それを全て忘れてしまったのか。

たぶん、那須夫妻にとって、これは雇われ仕事だったんだろう。自分たちのやりたい仕事じゃなかったから、意欲が出なくて、適当に やっつけ仕事で済ませたんだろう。本気で取り組んでいたら、こんな悲惨な出来映えになるはずがない。
と、そういう考え方をしてみたが、たぶん私は、現実から目を背けているのだろう。
きっと彼らは、本気も本気だったのだ。
それにしても、この仕上がり具合でもクラッシュせず(ハリウッドでは出来が悪い場合、完成しても公開せずにフィルムを処分してしまうことがある)、 堂々と全国公開した東映の英断、勇気、大胆さにも、心底から感服せざるを得ない。
いや、感服っていうか、お手上げっていうか。

(観賞日:2009年12月9日)


第1回(2004年度)蛇いちご賞

・作品賞
・男優賞:伊崎央登、伊崎右典
・監督賞:那須博之

2004年度 文春きいちご賞:第1位

 

*ポンコツ映画愛護協会