『DESTINY 鎌倉ものがたり』:2017、日本

一色正和と妻の亜紀子は新婚旅行から戻り、鎌倉の邸宅に到着した。ミステリー作家の正和を、亜紀子は「先生」と呼んでいた。正和は彼女に、鎌倉は東京と時間の進み方が違うと告げた。締め切りが迫ったので正和が焦っていると、亜紀子は編集者の本田に応対する。正和は鉄道模型で遊び始めるが、それを見た本田は完成が近いと悟る。亜紀子は2人の付き合いの長さを感じ、嫉妬心を抱く。本田を見送った亜紀子は、未知の生物が庭を横切るのに気付いた。正和は「ただの河童だろ」と軽く言い、まるで驚かなかった。彼が「ここは鎌倉だもの。何千年もの妖気が漂っていて当たり前だ」と話すので、亜紀子は困惑した。
正和は外出する時、亜紀子に納戸には入らないよう釘を刺した。彼が理由を言わなかったこともあり、気になった亜紀子は納戸を開けた。すると中には大量の鉄道模型やプラモデルが置いてあり、亜紀子は「ちょっと引きますね」と呟いた。彼女は古い原稿用紙を見つけた直後、老婆に気付いて悲鳴を上げた。老婆は正和の祖父の代から働いていた家政婦のキンで、亜紀子が家事に慣れるまで手伝いに来たのだった。帰宅した正和は亜紀子から原稿用紙を見せられ、甲滝五四朗の未発表原稿だと知って驚いた。
キンが江ノ電で帰るので、正和と亜紀子は見送りに出た。正和は亜紀子に、キンが日露戦争で夫を亡くしたと言っていることを教えた。それが事実なら百歳を軽く超えているので、亜紀子は戸惑った。縁日を目撃した亜紀子が興味を示すと、正和は立ち寄らずに帰ろうとする。しかし亜紀子が興奮した様子で縁日へ向かったので、正和は同行した。店主たちは化け物の姿をしているが、亜紀子はコスプレだと受け止めた。正和は「魔物たちの祭り、夜市(よいち)だ」と教えるが、彼女は信じなかった。
正和は瀬戸優子という老女に声を掛けられ、困惑しながらも亜紀子を紹介した。優子は亜紀子に、「魔物専門の店に気を付けて、それだけ気を付けていれば、ここはお買い得の店が多いのよ」と話した。亜紀子は安価の松茸を見つけて購入し、店主の意味ありげな笑みには全く気付かなかった。縁日を去った亜紀子は、優子が既に死んでいることを正和から聞かされる。亜紀子は信じなかったが、優子が現れて本当だと告げた。彼女は正和と亜紀子に、寝たきりの夫がいるので死に切れなかったこと、死神に幽霊申請を頼んだことを話す。それによって死神局から生命エネルギーを供給してもらえて、鎌倉は妖気が濃く充満しているので幽霊はハッキリと実体化されるらしい。
翌朝、亜紀子は夜市で購入した松茸を使い、味噌汁を作って正和に出した。それを食べた正和は、口から魂を吐き出した。そこへキンが来ると、食べたのが魔界松茸だと告げる。彼女が魂を元に戻すと、正和は興奮した様子で「面白かった」と言う。正和が読んでいた甲滝の原稿にも、同じ体験談が記されていた。亜紀子も味見で少しだけ食べていたため、口から魂が出そうになった。キンの忠告を受けた彼女は、しばらくマスクを付けて生活することにした。
鎌倉署の稲荷刑事が正和を訪ねて来たので、亜紀子は何かあったのかと焦る。しかし正和は「いつものことだよ」と告げ、心霊捜査課に力を貸しているのだと明かした。事件現場の屋敷へ出向いた彼は、大仏署長から話を聞く。被害者は資産家の金満麗子で、後頭部を灰皿で殴られて死亡していた。川原刑事や恐山刑事は降霊捜査で犯人を聞き出そうとするが、麗子は何も見ていなかった。別居している夫の和夫が怪しかったが、彼にはアリバイがあった。そこで正和は和夫の家へ行き、すぐ隣を江の電が走っていると知った。正和は2階の窓から江の電に飛び乗って移動したのだと確信し、事件は解決に至った。
正和が夫婦について引っ掛かることを口にしたので、亜紀子は何か隠し事があるのではないかと推察する。両親に関する秘密を明かそうとした正和だが、すぐに気が変わって口をつぐんでしまう。亜紀子と喧嘩になってしまった彼は、久しぶりに小料理屋「静」を訪れた。女将と話した彼は、最近は魔物の常連客も増えていることを知った。帰り道、正和は優子が葬儀を終えた旦那と一緒に家から出て来るのを目撃した。2人の傍らには死神が付き添っており、あの世へ行くところだった。
丑の刻に停まる江の電の列車で冥府へ行くことを聞いた正和は、見物させてほしいと死神に頼んだ。離れた場所からという条件で許可を貰った正和は、亜紀子も連れて駅が見える場所へ行く。彼は亜紀子に、大学教授だった父の宏太郎が調査旅行で頻繁に家を空けていたこと、その度に母の絵美子がマイナーな作家の甲滝を密かに訪ねていたことを明かした。正和は自分が甲滝の息子ではないかと疑っていることを話し、亜紀子は「その話は忘れましょう」と告げた。
鎌倉中央病院に入院した本田の見舞いに出掛けた正和は、余命1ヶ月だと聞かされた。本田は妻と娘を置いて死ぬことへの歯痒さを吐露し、家族の力になってほしいと正和に頼む。正和は幽霊申請のことを教えるが、本田は信じていない様子だった。正和と亜紀子には悪いことが続き、キンは何か連れて来たのではないかと指摘する。正和が竹刀で天井を突き刺すと、貧乏神が落ちて来た。貧乏神は正和が「先生」と呼ばれていたので付いて来たこと、実際は大したことが無くて拍子抜けしたことを語った。
貧乏神の生意気な態度に正和が腹を立てると、彼はセーブしていた能力を少しだけ披露した。正和が出て行くよう要求すると、貧乏神は「この寒空に追い出すのか」と抗議する。亜紀子は貧乏神に同情し、家で住まわせることにした。彼女は3人分の食事を用意し、貧乏神を食卓に呼んだ。正和は不満を漏らしつつ、無駄にするわけにもいかないと言って同席を承諾した。貧乏神は食事の最中、「こんなに優しくしてもらったのは初めてだ」と感涙した。
正和は鎌倉中央病院へ行き、死神と歩いている本田を目撃した。正和に声を掛けられた本田は、幽霊申請のことを思い出した。すると死神は困った表情を浮かべ、申請が多すぎて死神局が財務的に破綻したことを明かす。そのため、生命エネルギーを供給してほしければ身近な者から貰うしかないのだと死神は説明する。妻子から貰うつもりなど全く無い本田は、正和に頼む。正和が断ると、死神は別の方法を提案した。それは今の記憶を保ったまま魔物に転生する魔界転生コースだが、あまり勧めることは出来ないと言う。
本田は魔界転生コースを選び、カエルの魔物に変身して正和の前に現れた。本田は妻子のことが気になるのだと告げ、正和に車で同行するよう頼んだ。2人がアパートの近くから様子を見ていると、本田の妻である里子は大家から家賃を催促されていた。本田は郵便受けに現金入りの封筒を投函し、「生前、本田さんにお世話になった者です。お役に立ててもらえれば」という手紙を添えた。一方、貧乏神は亜紀子と仲良くなり、風呂敷包みに入れてあった茶碗をにプレゼントしようとする。亜紀子は大事な物だろうと考えて遠慮し、自宅で使っていた茶碗と交換した。貧乏神は次の行き先を決め、寂しがる亜紀子に別れを告げた。
正和は本田に付き合い、再び里子と娘の浩子を観察に行く。正和は少しでも助けになればと考えて現金入りの封筒を差し出すが、原稿料の安さを知っている本田は遠慮した。里子がヒロシという男と一緒にアパートへ帰って来た。里子はヒロシと楽しそうに話し、部屋に入った。本田は正和と共に小料理屋「静」へ行き、ヒロシへの強い嫉妬心を示す。彼の顔が変貌すると、女将は正和に怒りがコントロールできていないのだと教えた。
亜紀子は電話を受け、2日後が締め切りの原稿依頼を正和に伝えるため慌てて家を出た。石段で魔物に足を掴まれて転倒した亜紀子だが、すぐに立ち上がって「静」へ行く。正和は話を聞き、家へ戻る。亜紀子は自分の体に異変が起きていると気付き、正和に相談しようとする。しかし正和は執筆のために焦っており、亜紀子は話すことが出来なかった。本田はゼズニーランドで風船配りの仕事をしながら、里子と浩子がヒロシと3人で遊ぶ様子を観察した。その最中、彼は亜紀子が男と子供の3人連れで歩いている様子を目にした。
後日、本田は正和の元へ行き、日曜日にゼズニーランドで亜紀子を見たと話す。しかし正和が亜紀子は家にいたと言うので、本田は自分の見間違いだろうと考えた。本田は里子を家まで送って去ろうとするヒロシを待ち伏せし、どういうつもりかと詰め寄った。ヒロシは単なる同僚だと言うが、いずれ結婚したいと思っていることを告白した。本田は激怒して「食い殺してやる」と凄むが、ヒロシは怖がりながらも「逃げるわけにはいかない」と気丈に振る舞う。彼の覚悟を知った本田は、その場を後にした。
正和は本田がヒロシを試すために脅したと悟り、「静」へ連れて行って一緒に飲もうとする。彼が咳き込むと、女将は何かに取り憑かれていると感じて退魔のお札を貸した。帰宅した正和が玄関にお札を貼ると、出掛けていた亜紀子は中に入れなくなった。驚く正和の質問を受けて亜紀子は「やっぱり、そうなんだ」と漏らし、事情を説明した。そこへ死神が現れ、亜紀子を連れて行こうとする。正和は亜紀子の肉体を探しに行こうとするが、激しく咳き込んで苦悶した。
亜紀子は死神から幽霊申請について問われ、即座に頼もうとする。しかし死神から自分の進退を決めるまで正和の生命エネルギーを使っていたと聞き、置手紙を残して黄泉の国へ行くことに決めた。手紙を見つけた正和は慌てて亜紀子を追い掛け、彼女を引き留めようとする。それでも亜紀子の考えは変わらず、黄泉の国へ旅立った。死神と話した正和は、亜紀子の寿命は残っていたのに体が見つからなかったから黄泉の国へ行くことになったのだと知った。
正和は本田がゼズニーランドで亜紀子を目撃したと言ってことを思い出し、別の人間が彼女の体を使っているのだと推理する。心霊捜査課に協力してもらった正和は、亜紀子の体を使っている女の住まいを突き止めた。女は事実を認め、夫と幼い娘の3人でゼズニーランドへ行く約束を果たしたかったと釈明した。正和が激昂すると女と夫&娘と共に謝罪するが、今さらどうしようもなかった。甲滝の未発表原稿に黄泉の国への行き方が書かれているのを見つけた正和は、亜紀子を連れ戻しに行くことを決意した。彼は魔界松茸を食べて幽体離脱し、黄泉の国へ向かう江の電に乗り込んだ…。

監督・脚本・VFXは山崎貴、原作は西岸良平『鎌倉ものがたり』(双葉社刊・『月刊まんがタウン』連載)、製作は今村司&市川南&加太孝明&船越雅史&戸塚源久&谷和男&永井聖士&弓矢政法&中西一雄&堀義貴&島村達雄&牧田英之&安部順一&三宅容介&阿部秀司、エグゼクティブプロデューサーは阿部秀司、Co.エグゼクティブプロデューサーは伊藤響、プロデューサーは飯沼伸之&守屋圭一郎、企画協力は奥田誠治、アソシエイトプロデューサーは櫛山慶&鈴木健介、ラインプロデューサーは阿部豪、撮影は柴崎幸三、照明は上田なりゆき、美術は上條安里、録音は藤本賢一、VFXディレクターは渋谷紀世子、編集は宮島竜治、コスチュームデザインは竹田団吾、特殊メイク/特殊造形は吉田茂正、音楽は佐藤直紀。
主題歌は宇多田ヒカル『あなた』 作詞・作曲・編曲:宇多田ヒカル。
出演は堺雅人、高畑充希、中村玉緒、三浦友和、橋爪功、吉行和子、國村隼、薬師丸ひろ子、田中泯、堤真一、安藤サクラ、市川実日子、ムロツヨシ、要潤、大倉孝二、神戸浩、鶴田真由、瀬戸たかの、木下ほうか、池谷のぶえ、中村靖日、稲川実代子、飯田基祐、中台あきお、神原哲、水無月サリー、栗野咲莉、小山春朋、櫻井章喜、村上和成、生駒星汰、後藤由依良、山本歓、おむすび、春木生、山田崇夫、岩本聡、伊藤龍治、安室満樹子、池原猛、漆崎敬介、蒲原尭景、大里祐貴、谷手人、ワダタワー、平塚真介、中泰雅、小平伸一郎、森タクト、坂戸洋介、椎橋大樹、若原崇裕、藤田一真、明石浩充、宮川太一、長澤純平、田中孝宗、山本智康、佐藤大樹、永島和樹、瓜生一平、栗本修次、山城秀之、山口みよ子、仲野元子、三島ゆたか、笹野鈴々音、小路さとし、矢崎まなぶ、守屋楽弥ら。
声の出演は古田新太。


西岸良平の漫画『鎌倉ものがたり』を基にした作品。
監督&脚本&VFXは『寄生獣』『海賊とよばれた男』の山崎貴。
正和を堺雅人、亜紀子を高畑充希、キンを中村玉緒、宏太郎を三浦友和、優子の旦那を橋爪功、優子を吉行和子、大仏を國村隼、女将を薬師丸ひろ子、貧乏神を田中泯、本田を堤真一、死神を安藤サクラ、里子を市川実日子、ヒロシをムロツヨシ、稲荷を要潤、川原を大倉孝二、恐山を神戸浩、絵美子を鶴田真由が演じている。
天頭鬼の声を、古田新太が担当している。

まず最初に引っ掛かるのは、「またタイトルに英語を持ち込んだのかよ」ってことだ。
山崎貴監督の作品は、同じ原作者の『夕焼けの詩−三丁目の夕日』が『ALWAYS 三丁目の夕日』になった。『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大作戦』の実写化は『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大作戦』、『宇宙戦艦ヤマト』は『SPACE BATTLESHIP ヤマト』、『泣いた赤おに』は『friends もののけ島のナキ』、『ドラえもん』は『STAND BY ME ドラえもん』になった。
やたらと英語を付けたがるのだ。
山崎貴監督じゃなくてエグゼクティブプロデューサーを務める阿部秀司が決めているらしいが、ともかく、そのセンスは大嫌いだ。

映画を観賞して真っ先に感じるのは、「時代設定がサッパリ分からん」ってことだ。
最初は「正和がレトロな生活をしている」とか「邸宅の周囲に昔ながらの景色が残っている」という設定なのかと思ったが、どうやら鎌倉全体が同じような世界観のようだ。
携帯電話は出て来ないが、固定電話も出て来ないので、そこで時代設定を推測することも難しい。
全体としては昭和の古い時代っぽさが強いが、一方で天皇賞のダイキャストが9万円だったり、亜紀子がコスプレという言葉を使ったりする辺りは現代っぽさがある。

「鎌倉という実際の地名は使いつつも、ファンタジーの世界観として描いている」ということなのかもしれない。でも、「それなら時代がサッパリ分からなくてもOK」ということでもないでしょ。
どうやら原作でも「基本は昭和だけど現代の要素も盛り込む」ってことらしいけど、それは別にいいのよ。例えば沢島忠監督の時代劇だって、現代の要素を積極的に取り込んでいたし。
問題は、「基盤からして不鮮明になっている」ってことなのよ。
鎌倉という実在の場所を使うのなら、とりあえずの時代設定はちゃんと決めて景色や風俗を構築し、その上でファンタジー要素を加えるべきじゃないかと。

正和は鎌倉に多くの妖怪が暮らしていることを知っており、だから河童や夜市を見ても平然としている。ところが幽霊申請については何も知らなかったらしく、優子の説明を聞いて驚いている。
そこは中途半端に感じるなあ。
そりゃあ筋が通らないわけじゃないけど、正和は妖怪や幽霊関連の情報に何一つとして驚かない方がいいんじゃないかと。
だから彼は幽霊申請も含めて知識がある設定にして、そこは「優子が幽霊だと知って驚いた亜紀子が、幽霊申請のルールを聞かされる」という形にした方がいいんじゃないかと。

全体の構成やシーンの繋ぎ方には、大いに難がある。
亜紀子が河童を見て驚くシーンがあるが、そこは「平穏な日常の中に突如として異形の存在が現れる」という内容の方が絶対にいい。
それを考えると、その直前に「本田が鉄道模型で原稿の完成を悟り、亜紀子が嫉妬する」というエピソードを配置するのは余計なフックになるので避けた方がいい。
っていうか、そもそも「堤真一が初登場する」というだけでもフックになってしまうので、それと河童を目撃するシーンは分けた方がいい。

亜紀子が河童を見たら、次も「彼女が妖怪や幽霊を見て、鎌倉の不可思議さに触れる」というエピソードに繋げた方がいい。
でも実際には、「納戸を開けて正和のコレクションを見る」というシーンから、「キンと出会う」というシーンへと繋げている。
キンは年齢不詳という意味で謎めいた部分があるものの、それが分かるのは彼女を見送った後だ。
そういうシーンを挟んでから「夜市へ出掛けたり、幽霊の優子と会ったり」という展開に入るのは、構成として上手くない。

映画が始まってからしばらくの間は、「正和と亜紀子が新婚生活を送る中に、小さな不可思議が舞い込むが、すぐに平穏な日常へ戻る」という様子が続く。「非日常的な日常」とでも言うべきシーンが続き、それほど大きな事件は起きない。
しかし稲荷が訪ねて来ると、様相が変化する。
そこまでは「正和の暮らしている場所が普通じゃなかったことを亜紀子が知る」という内容だったのに、そこは「正和は亜紀子の知らない別の顔を持っていた」というエピソードになっている。
さらに、「正和と亜紀子の夫婦生活に不可思議が入り込む」という内容からも離れている。

正和は警察の心霊捜査に協力している設定なのだが、これに何の意味も無い。
何しろ彼が携わる金満夫婦の事件は、幽霊や魔物なんて全く関係が無いのだ。
降霊捜査のシーンはあるが、それで得られる情報はゼロなので全く意味が無い。そして正和の捜査も、幽霊に手を借りるようなことは無い。
ミステリーとしても、ものすごく簡単に解決できる事件なのに、バカ丁寧にヒントを見せているので、つまらなさが余計に際立ってしまう。

っていうかさ、正和が警察の捜査に協力している設定なんて以降の展開に何の影響も及ぼさないんだから、ここのエピソードって丸ごとカットでいい。
後で偽亜紀子の捜索に協力してもらう展開はあるけど、そこも含めて要らないし。単純に「正和が自力で突き止める」でも、「本田に協力してもらう」でも成立しちゃうし。
そこは「亜紀子が黄泉の国へ連れ去られてしまい、正和が奪還に向かう」という話なんだけど、これも要らないなあ。「ちょっと不思議な日常のスケッチ」で、最後までやった方がいい。
上映時間は129分だけど、100分ぐらいにまとめた方がいい。
っていうか根本的に、映画より連続ドラマの方が向いている素材だと思うぞ。

この映画、実は何名もの人が物語の途中で死んでいる。金満麗子、優子の旦那、本田、そして亜紀子だ。
魔物だけじゃなく幽霊も登場する内容だから、そこに死が附随するのは当然っちゃあ当然だろう。それに、誰かの死が訪れても、そんなに悲壮感が強くなるわけではない。
ただ、そうであっても、そこまで死人が出るエピソードを並べていること自体、いかがなものかと。
むしろ死者なんて1人も出さずに、ほっこりしたムードだけで全体を包んでもいいぐらいなのに。「非日常の日常を、ぬるま湯的な心地良さで綴る」という内容だけなら、死者が出るエピソードは全てカットできるし。

本田が偽亜紀子を目撃する遊園地は「ゼズニーランド」という設定なのだが、ディズニーランドに似ているトコなんて微塵も無い。
そして似せているかどうかを抜きにしても、そこを「ゼズニーランド」にしている意味なんて全く無い。普通に「遊園地」ってことで、何の支障も無い。
わざわざ「ゼズニーランド」にしてある意味は何なのか。そのせいで、ますます時代設定がグチャグチャになっちゃうし。
その名称を使うのなら、もっと「ディズニーランドの模倣」ってトコのディティールを細かくやろうぜ。

本田はヒロシが里子と親しくする様子を見て嫉妬心を抱くが、彼の本気を知って認めるようになる。だけど、そこは違和感がものすごく強いぞ。
本田が死んでから、そんなに月日は経過していないはずでしょ。映画を見ている限り、まだ1ヶ月も経っていないような印象だ。里子は旦那が死んだ時に激しいショックを受けていたはずだし、その後も悲嘆に暮れていたはず。
それなのに、もう他の男と親密な交際を開始するって、どんだけ変わり身が早いのか。
それだと離婚してから付き合い始めたんじゃなくて、まだ本田が生きている頃から実は不倫していたんじゃないかと疑いたくなるぞ。
どうやら「ヒロシは惚れているけど現時点では友人関係」という設定らしいけど、娘も含めて3人でゼズニーランドへ出掛けている時点で、その説明には無理があるし。

里子が軽薄に見えるという問題はひとまず置いておくとして、「ヒロシとの交際を本田が認める」という展開を用意するのなら、「その後の里子とヒロシ」をフォローすべきだと思うのよね。
でも、そこの描写は何も無い。
亜紀子戻ってきたら彼女の体を借りていた女の夫と娘は「妻(母)との別れ」を体験するはずだが、そこの描写も無い。
その他にも、「その後を描くべきなのに全く触れていない」という問題が色々とあって、散らかしっ放しで映画を終わらせている印象を受けるぞ。

後半に入って大きく扱われる「亜紀子が黄泉の国へ行き、正和が奪還に向かう」というエピソードには、ものすごくモヤッとしたモノが残る。
体を借りていた女は理由を語って釈明するが、そのせいで亜紀子は死んでしまうわけだから、殺人罪と言ってもいいような行為だ。結果的には正和が無事に亜紀子を連れ戻しているが、それで罪が消えるわけではない。
ただ、女が責められた時に幼い娘も必死で謝罪する様子を見せられると、そこは可哀想に思えちゃうのよね。
そうなると、ここのモヤッとした気持ちを解消するにはエピソードを大幅に改変するか、いっそのこと完全にカットするか、その二択しか無いんじゃないかと。

やたらと感動させたがる山崎監督の悪い癖は今回も健在で、「ここは感動するべきシーンですよ」という箇所では過剰にBGMを鳴らして泣かせようとする。
しかしドラマの中身が全く追い付いていないので、逆に冷めた気持ちにさせられる。
黄泉の国へ行くと決めた亜紀子が追って来た正和に別れを告げるシーンなんて、むしろBGMに頼らず静かに描いた方がいいんじゃないかと思ったりもするし。
でも「抑制することで観客の感情を喚起する」という感覚は、山崎監督の中には全く無いんだよね。

(観賞日:2019年5月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会