『伝染歌(でんせんうた)』:2007、日本

青雲女学院のトライアスロン部に所属する夏野あんずは、朝から部員の香奈、キリコ、美希、後輩の明日香、紗江、留美に厳しい練習を 要求した。授業中、教師の工藤真也が弱々しい口調で「近松は受験に出ないから飛ばします」と言うと、香奈は「そんなのはおかしい」と 反発し、「居場所が無いもの同士が向かう先って死ぬことです。それって悲しくて美しいです」と意見を述べた。
休み時間、あんずは香奈を捜した。すると香奈は、誰もいない教室で歌を歌っていた。振り返った彼女の手には、匕首が握られていた。 香奈は「お先に」と言うと、自分の首を刺して死んだ。AKBショーガールのメンバーである松田朱里は、会場に入って準備をした。 月刊MASAKAの編集部員・長瀬陸は、観客席の男子3人組に面白いネタが無いか尋ねた。すると3人組は、伝染歌の存在を教えた。過去に そこそこヒットした曲があって、それを歌うと死ぬという。
月刊MASAKAの面々は、サバイバルゲームに興じていた。休憩中、陸はチーフに「伝染歌、どうですかね。もう何人も女子高生が自殺して ます。昨日も青雲女学院で」と持ち掛けた。チーフは「それってダミアの『暗い日曜日』のことか?」と言う。その曲を知らない陸に、 チーフや女性部員のヒメが、かつてヨーロッパで『暗い日曜日』を聴いて自殺をする者が続出したことを説明した。
チーフは伝染歌のネタに関して、「ウチじゃなくて、他でやるところがあるだろう」と、あまり乗り気ではない。だが、編集部員の太一が 「やりたい」と手を挙げた。チーフは太一と陸に「女子高生を捕まえて話を聞け」と指示し、編集部員のモロとトウマには伝染歌の浸透度 を探るよう告げた。ゲームの終わりに、生き残っていた陸は儀式として銃殺刑に処された。太一は陸に「お前は撃たれるより撃つ方が 合ってるんだよ」と言い、銃を手渡した。
香奈の葬儀に訪れたマスコミは校長を取り囲み、「トライアスロン部でイジメがあったのではないか」と詰問した。あんずやキリコたちが 葬儀場を去ると、香奈の幼馴染みである朱里が追い掛けてきて、「お前らがイジメたのか」と突っ掛かった。尾行していた陸と太一が 割って入り、「イジメは無かったと思うけど」告げて自己紹介した。「伝染歌に殺されたかもしれない」と陸は言うが、朱里は伝染歌を 知らなかった。あんずは「お話しすることは何もありません」と言い、立ち去った。
朱里は一人だけ残り、陸と太一に伝染歌のことを尋ねた。全力でストロベリーパフェを食べる太一を見て、彼女は呆気に取られた。陸は、 太一が元自衛隊で傭兵で戦場カメラマンだと朱里に教えた。太一は「銃殺された時に何を思った?何とかしたいと思っただろ」と陸に 尋ねた。「そんなことない」と陸が言っても、太一は納得しない。陸は声を荒げて、同じ言葉を繰り返した。
翌朝、あんずは血まみれの香奈が這って来る夢にうなされて目を覚ました。そこへ叔母の鏑木蘭子が飛び込んできて、「妙な歌声が 聞こえた」と告げた。だが、あんずの声では無かったという。蘭子は、一夜を共にした豊川という男と一緒に朝食を食べていた。蘭子は 豊川に、あんずが自分の姪で、色々あって親戚をたらい回しになっていることを説明した。 青雲女学院の全校集会が開かれ、校長が命の大切さを語ろうとするが、生徒からは野次が飛び、ついには「帰れ」コールが起きた。校長は ブーイングで対抗した後、落ち着きを取り戻して「私たち大人は壊れているか、壊れかけている。君たちは純粋なんです。だから、その悩み が、壊れた大人を正常に戻すんです。若い悩みを大人にぶつけてください」と語った。
朱里は月刊MASAKAの編集部を訪れ、陸に会った。朱里は香奈のパソコンを持ち込み、「香奈のお母さんからの電話で、自殺の原因を 知りたいからパソコンで手掛かりを探ってくれと言われた」と説明した。パソコンを操作した彼女は、香奈が交際していた高橋コージと いう青年の写真を陸に見せた。一方、トライアスロン部では、あんずとキリコが明日香たちから「このままじゃ練習に集中できない。先輩 の自殺の原因を調べましょう」と言われていた。明日香は「コージが声を掛けていたのは香奈先輩だけじゃないんです。アキバでスカウト をやっています」と告げた。
朱里は陸に「コージは自殺ウォッチャーで、香奈にありとあらゆる自殺サイトを紹介している。カラオケに誘って伝染歌も歌ってる」と 告げた。コージの手掛かりは、モデルガンショップで撮影した写真だった。陸は、その方面を得意分野とするモロを呼んだ。モロはコージ の知り合いと称してモデルガンショップの店長・バズーカと会い、情報を仕入れた。その結果、バズーカやコージたちがサイトで自殺を 呼び掛け、どれだけ自殺させたたかをゲームとして競っていることが判明した。
あんずたちがコージの住処へ行くと、ドアが開いていた。中に入ると、壁には自殺ゲームの表が貼ってあった。外で男の声がしたので慌てて 隠れるが、浴槽でコージの死体を発見して絶叫した。その13分前、陸と太一、朱里、モロがコージの住処を訪れていた。太一はドアの前で 失神していた老人を外に運び、陸と朱里が部屋に入った。室内には、女子高生に伝染歌を何度も歌わせたらしいカラオケの伝票があった。 あんずたちが来たので、2人は慌てて身を隠した。あんずたちが聞いたのは、太一の声だった。
陸から電話で事情説明を受けたチーフは、「警察には第一発見者としてモロが行く。女子高生をカラオケ店に連れて行って、実験として 伝染歌を歌わせろ」と指示した。陸がためらっていると、チーフは太一と電話を代わるよう告げた。携帯で撮影されたコージの死体写真を 見たあんずは、白い服の女性に気付いた。だが、他のみんなには、その女性が見えなかった。
太一はあんずたちに「取引しよう」と持ち掛け、みんなが伝染歌である『僕の花』を歌ってくれるなら、最初に俺が歌うと言い出した。太一 は自分の経歴を語り、「俺が自殺すると思うか?俺は自殺しない。順番に死んでいくはずだから、俺がみんなの防波堤になる」と告げた。 2人一組になって建物から出て行くことになったが、あんずと朱里がつまらない言い争いをしている間に、老人が警官を呼んだ。陸は あんずと朱里を連れて屋上へ行き、そこからハシゴで逃げた。
あんずたちがカラオケボックスへ行くと、既にキリコたちが太一と一緒に『僕の花』を歌っていた。それを聞いたあんずはハッとして、「この 曲知ってる、聞いたことある」と言った。彼女は白い服の女を目撃し、気を失った。意識が回復すると、陸と朱里たけが残っていた。 「雑誌が売れればいいんでしょ」と反発を示すあんずに、陸は「今は違う。伝染を止めたいと思ってる」と告げた。
陸はあんずに、「僕の田舎に凄い霊能力オバサンがいる。名付け親でもあるエンマっていう人だ。みんなを連れて行って会えば、色々と 分かると思う」と告げた。コージの部屋で太一が飲んでいるとバズーカが現れ、刑事だと思い込んで「コージはホントに死んだのか?」と 尋ねた。バズーカが「幾ら取り締まっても自殺志願者は減らない。俺は救世主なんだよ」とうそぶくので、太一はボコボコにした。彼は陸 に電話を掛け、「大怪我してる奴がいるから病院へ連れて行け」と告げた。
モロが警察署で初川刑事の取り調べを受けているところへ、チーフがやって来た。チーフは初川に、親父狩りでモロが襲ってきた時に スカウトしたことを話した。警察署に太一が現れ、「人を殺しそうだから逮捕してくれ」と告げた。相手にされないので、彼は拳銃を 取り出して発砲した。初川に撃たれて負傷すると、太一は拳銃を口に突っ込んで自害した。 翌日の早朝、青雲女学院の教室では、工藤が女子生徒の写真に画鋲を刺していた。彼は完全に精神を病んでいる様子で、「近松の授業だけを やります」と口にした。あんずは一人で早朝練習をした後、トイレ掃除をしている校長と遭遇した。彼はあんずを校長室に招き入れ、 「最初に赴任した学校の校長が、掃除の達人だった。その人の心を受け継ぎたい」と説明した。校長は、「工藤がトライアスロン部員と 交際していると口走っていた」と明かした。その時、工藤の「ああああああ」という喚き声が聞こえて来た。
遡ると、実はあんずがトイレに入った時、工藤が背後から彼女を刺し殺そうとしていた。だが、校長が現れたため、慌てて身を隠したのだ。 あんずと校長が去った後、キリコが現れて「一緒に死のうか、工藤」と持ち掛けた。工藤は涙声で、「香奈に近松を仕込んだのは僕なの。 一人じゃ心中にならない」と喚いた。「だから私が代わりになればいい」とキリコが告げた。工藤はキリコと一緒に屋上へ行き、灯油を体 に浴びた。そしてライターで火を放ち、2人は死んだ。その様子を、あんずは校長室から目撃した。
陸はあんず、美希、明日香、紗江、留美の5人をエンマに会わせるため、故郷へ連れて行った。一行が陸の実家である旅館に到着すると、 朱里の姿があった。彼女は陸の実家を調べて、勝手に押し掛けたのだ。陸はエンマから、悪霊を避けるための注意事項を聞かされていた。 陸はあんず達に、「部屋から絶対に一人で出ない、互いに監視しあう」と言い含めた。
月刊MASAKAの編集部には、警察の手入れがあった。廃刊が決定的となる中、チーフは編集部員に「最終号を出して、一冊まるまる自殺を 扱う。伝染歌の特集を組む。そのために編集部全員で伝染歌を歌う」と告げた。陸はあんずたちに、「母がエンマさんと連絡を取ってくれた が、会うのは明日になる」と告げた。あんずが勝手に外出したため、陸は捜しに出掛けた。
あんずはトンネルの近くにいた。陸が「連れて来る子の一人が出口の見えないトンネルで狂うと、エンマさんが言ってた」と告げると、 彼女は「試してみようか」と言い、「あー」と叫びながらトンネルを走り抜けた。月刊MASAKAの面々は、全員で『僕の花』を合唱した。 チーフはモロと女性部員のカミヨンに、 写真機材を持って陸の実家へ向かうよう指示した。 チーフたちが調べた結果、『僕の花』の歌手・屋良弥生が、CD発売日に死亡していることが分かった。遊園地でのイベントから帰る途中、 高速道路で事故死したのだ。その2日後、屋良の育ての親であるプロダクション社長が地下鉄に飛び込み、『僕の花』担当だったレコード 会社ディレクターは果物ナイフで自殺した。屋良のことを記事にしようとした雑誌記者も変死していた。
初川刑事が編集部を訪れ、「屋良のデビューイベント会場では、その日、自殺者が出ている。しかも同時刻に、2組3人。その内の一人と、 屋良は関わりがあった」と語る。残りの2人は、屋良と知り合いではなかった。その2人は、あんずの両親だった。話を聞いたチーフたちは、 その時に伝染歌に感染したあんずが、自殺をバラ撒いている可能性に行き当たった。
初川は、「『僕の花』誕生に携わった関係者で、唯一の生き残りがいる。屋良のマネージャーだ」と告げた。そのマネージャーは現在、 超能力者のジェイク方丈として活動していた。チーフたちはジェイクと面会し、五井道子が持ち込んだ『僕の花』を盗んで屋良に歌わせた 経緯を聞き出した。翌日、陸はあんずたちをエンマに会わせた。エンマはあんずに、「死者を弔う気持ちがあれば友達は救えた。このまま 帰ることも出来るが、トンネルに行けば真実がある」と告げた…。

監督は原田眞人、企画/原作は秋元康、脚本は羽原大介&原田眞人、製作は北川淳一、製作総指揮は松本輝起、プロデューサーは吉田繁暁 &加藤悦弘、アソシエイトプロデューサーは秋枝正幸&氏家英樹、エグゼクティブプロデューサーは榎望&遠谷信幸&横澤道彦、撮影は 藤澤順一&向後光徳、編集は上野聡一、録音は松本昇和、照明は上田なりゆき、美術は福澤勝広、音楽は`島邦明。
出演は松田龍平、大島優子、秋元才加、伊勢谷友介、阿部寛、木村佳乃、前田敦子、小嶋陽菜、堀部圭亮、小山田サユリ、遊人、 西山知佐、高橋努、野呂佳代、河西智美、小野恵令奈、峯岸みなみ、矢島健一、矢柴俊博、中村靖日、池津祥子、筒井真理子、星野みちる、 宮澤佐江、高橋みなみ、宮嶋剛史、泊帝、塚原大助、松尾諭、安藤彰則、安部高志、岡野裕磁、榊英雄、田村泰二郎、小豆畑雅一、末野卓磨、 羽柴誠、小須田康人、豊川栄順、重松収、工藤俊介、賀川黒之助、東風静、高橋光宏、森永健司、竹嶋康成、彩田真鈴ら。


『着信アリ』シリーズの秋元康が、企画と原作を手掛けた作品。
彼がプロデュースしているアイドルユニット“AKB48”の面々が、主要キャストで出演している。
あんず役の大島優子、朱里役の秋元才加、香奈役の前田敦子、キリコ役の小嶋陽菜、美希役の野呂佳代、明日香役の河西智美、紗江役の 小野恵令奈、留美役の峯岸みなみは、製作当時のAKBのメンバーだ。
また朱里が所属している“AKBショーガール”のメンバーは、そのまんまAKB48のメンツだ。
他に、陸を松田龍平、太一を伊勢谷友介、チーフを堀部圭亮、ヒメを小山田サユリ、モロを遊人(漫画家の人じゃなくて原田眞人監督の 息子)、カミヨンを西山知佐、トーマを高橋努、校長を矢島健一、工藤を矢柴俊博、初川を中村靖日、陸の母&エンマを池津祥子が演じて いる。また、蘭子役で木村佳乃が2シーンのみ、ジェイク役で阿部寛が1シーンのみ出演している。

冒頭、香奈は近松をやるべきだと主張し、「居場所が無いもの同士が向かう先って死ぬことです。それって悲しくて美しいです」などと、 唐突に、不自然でブンガク的なセリフを吐く。
どうして彼女が、近松にそこまで執拗にこだわるのか意味が分からない。
後半、工藤が香奈に近松を仕込んだことを打ち明けるが、そう言われたところで、不可解さは解消されない。

休み時間、香奈はあんずに振り向くとドスを抜き、その場で倒れる。
どうやらドスで死んだらしいが、後ろ向きだし、首を刺したような動きは見えないまま倒れるし、もちろん血も見えないから、「自殺」と してのインパクトが全く無い。
で、遠い背中しか見えず、余韻も何もなく、あんずが悲鳴を上げることもなく、すぐにタイトルロールに入ってしまう。
幼馴染みが死んだのに、それを朱里が悲しんでいる様子も描かれずに、AKBショーガールが歌うシーンになってるし。

恐怖描写は全くなっていない。
やる気が無いとしか思えない。
別に血を見せなくても、それなりに怖がらせる手はあると思うんだが、根本的に、監督にホラーのセンスが欠如しているんだろう。
あと、タイトルロールで流れてくるBGMが安いし、Vシネっぽいぞ。
それと、学校で自殺があったら大騒ぎになるはずなのに、淡々とスルーして次のシーンに行くのはどうなのよ。

いきなりサバイバルゲームをやってる奴らが登場して何だと思ったら、それが編集部の連中だった。
そこでは、まるでプライベート・フィルムのような、雑然とした雰囲気の会話シーンが挿入される。
この「雑然とした会話」は、その場面に限らず、何度も登場する。
その会話の後、ようやく陸が「伝染歌、どうですかね。もう何人もJKが自殺してます。昨日も」と言い出して、ようやく話が前に 進む。
とにかく推進力の弱い映画だ。

で、ここでまた、サバイバルゲームのシーンが挿入される。
サバイバルゲームをそんなに引っ張って、何の意味があるのだろうか。
その後には、陸が儀式として銃殺刑になるという、ちょっとコメディー的シーンもあるけど、要らないだろ。
変なトコロで緩和を入れすぎだよ。
太一が「オマエは撃たれるより撃つ方が合ってるんだよ」と銃を渡すが、だから何なのよ。そんなことより、「もう何人も死んでる」って 陸は言うけど、こっちは一人しか見てないのよ。それも、死んだ実感が薄い描写でしか見ていない。
そうじゃなくて、「何人も死んでいく」というのを映像として描くべきだろうに。
言葉だけで言われても、ピンと来ないぞ。

伝染歌の噂にしても、AKBショーガールの観客が初めて言うけど、そんな噂があるなら、なぜ女子高生は噂していなかったのか。
「自殺が多い。伝染するのかな」と冗談っぽく言っていた女子高生がいたが、そこでなぜ伝染歌の話題が出ないのか。
あんずにしろ友人にしろ、噂は知らなかったのか。
香奈が自殺した段階で、その噂を結び付けるような発言を誰かがすべきではなかったのか。

太一は元自衛隊で傭兵で戦場カメラマンで、脳障害の疑いがあるエキセントリックな奴で、全力でストロベリーパフェを食べる。
そりゃあキャラが個性的なのは、悪いことじゃないかもしれん。けど、そこのポジションに、そんなキワモノが必要なのか。しかも コミカル系キャラだぞ。
そこでユーモアを取りにいってどうすんの。ホラー映画じゃねえのかよ、これって。
太一は陸と「銃殺された時に何を思った?何とかしたいと思っただろ」「そんなことない」と言い合いを始めるが、これも、「だから何 なのか」と言いたくなる。
道草ばかり食ってないで、さっさと伝染歌で人が死んでいく話を進めろよ。
アクが強いのは太一だけじゃなく、モロはドモリで潔癖症で病的な奴を装ってバズーカと会話をするが、そんな芝居をする必要性はまるで 無い。むしろ、そんな奴だと情報を聞き出しにくいだろ。
それに、ホラー映画だって言ってんだろうが。
緩和の度合いが多すぎるんだよ。

全校集会で校長は、「私たち大人は壊れているか、壊れかけている、君たちは純粋なんです、だから、その悩みが壊れた大人を正常に 戻すんです。若い悩みを大人にぶつけてください」と語る。
そのように、妙に真面目なメッセージも入れたりするけど、そんなのホラーには要らないから。
っていうかホント、監督にはホラーをやる気が徹底的に無いんだな。

コージが自殺スカウトで、バズーカたちと自殺ゲームをやっているという設定が出てくるが、まるで説得力が無い。
実際にスカウトする様子とか、ゲームをやってる様子とか、それで人が自殺するいう描写を入れておくべきだろうに。
伝染歌にしてもそうで、それで死ぬ奴が香奈から後に全く登場しないので、「歌のせいで死ぬ」という噂にも全く説得力が生じない。

あんずたちはコージの住処で何かを見つけて悲鳴を上げると、そこから13分前に遡り、陸や朱里が先に住処へ来ていたことが 描かれる。
で、あんずたちが来たので身を隠して、太一の声であんずたちが身を隠したという経緯が説明されるが、そんなことを時間を遡って描く ことに、何の意味があるのか。
13分前に遡るから、コージが死んだ時の出来事を描写すると思ったら、違うんだよな。

太一はあんずたちに、「みんなが『僕の花』を歌ってくれるなら最初に俺が歌う」と持ち掛ける。
だけど、その段階では、コージが『僕の花』を歌って死んだのか、そもそも自殺したのかも分かっていないんだよ。
そんな「伝染歌が人を殺す」というところに何の信憑性も持てない状態で、「伝染歌を歌うと死ぬかもしれないのに歌わせる」というトコ で恐怖や不安を煽ろうとしても、乗れないわ。

太一が「順番通りなら最初は俺だが、俺は自殺しない。みんなの防波堤になる」と言うと、女子高生たちは説得力を感じるが、ただのアホ にしか見えない。
太一は戦場経験が豊富だとか、傭兵だったとか、そんなのは意味が無いでしょうに。
「防波堤になる」とか言ってるけど、本気で伝染歌を怖がっていたら、「そんな太一でさえ死んで、次に自分たちも死ぬかも」と考える だろう。
ようするに、そこで説得力を感じるってのは、「そこまでマジに伝染歌の噂を信じていない」としか受け取れないのよ。

コージの住処であんずと朱里が些細なことから言い争いを初めて、陸が2人を連れて屋上からハシゴで脱出する様子が描かれる。
そんなことに時間や手間を掛ける必要性が、どこにあるのか。
カラオケボックスで、太一と女子高生がサバイバルゲームに興じるシーンも同様。
で、あんずはカラオケボックスで「この曲知ってる、聞いたことある」と言い出すが、そりゃそうだろ。
っていうか、それ以前に、なぜ、あんずが香奈の自殺を目撃した時に聞いたのが『僕の花』かどうかの確認を陸たちは取らなかったのか。
そこがハッキリしないと、香奈が伝染歌で死んだかどうかなんて分からないだろうに。

「雑誌が売れればいいんでしょ」と反発を示すあんずに、陸は「今は違う。伝染を止めたいと思ってる」と言う。
でも、まだ伝染かどうか全く分からないでしょ。
「歌によって伝染している可能性が濃厚だ」という状態なら、そのセリフも受け入れよう。
でも、その段階では、伝染の可能性は、まだ低いぞ。確信が持てるような状況証拠や物的証拠は、ちっとも揃っていないぞ。

「俺は救世主なんだよ」と言うバズーカを太一はボコボコにするが、ここの暴力シーンも、何の意味があるんだよ。
そんなに太一をフィーチャーしてどうするのよ。
取り調べを受けているモロのところにチーフは刑事にモロとの出会いを語り、親父狩りで現れたモロをチーフがスカウトした時の回想 シーンが挿入されるが、それも何の意味があるのか。
モロとチーフの出会いをそんなに詳しく描いても、伝染歌とは何の関係も無いのだ。

太一は警察署で拳銃を発砲し、刑事に撃たれると自害する。
でも、それまでの太一の行動からすると、それを「伝染歌のせい」とは全く感じられないのよ。
ただイカれた奴が、さらにイカれただけにしか見えない。
そもそも、そこにそんなエキセントリックなキャラを置いたことが失敗でしょ。
元傭兵の設定はいいけど、「屈強で自信家で、いかにも死にそうに無い奴」にすべきなのに、こいつは「イカれて自殺する」という行動を 納得させてしまうようなキャラなのだ。

校長が「汚れたものを率先してキレイにすることは、自然と恥を知る文化を育むことになる。若い先生に勧めたが誰も付いてこなかった」 と言い、あんずが「生徒に呼びかけて下さい、私やります」と返す会話シーンがあるが、それも何の意味があるのか。
「そんなことより、伝染歌は?」と、だんだんイライラしてくる。ちっとも伝染歌の恐怖が広がっていかない。
あんずと校長が工藤の喚く声を耳にした後、時間を遡って、「実はトイレで工藤があんずを殺そうとしていた」ということが描写されるが 、それも遡って見せるんじゃなくて、その時に見せろよ。いちいち遡る演出に何の効果も無いのよ。
で、工藤の前にキリコが現れ、「一緒に死のうか」と持ち掛ける。
工藤が死のうとするのはともかく、なんでキリコがそんなこと言い出すのかワケが分からん。大体、工藤は伝染歌を歌っていたかどうか 全く分からないじゃないか。
それに、そこもやはり「伝染歌のせい」とは感じられない。事実がそうでないとしても、ネタバラシがあるまでは「伝染歌のせいなのか」 と思わせなきゃ失敗でしょ。

あと、キリコと工藤の死を窓から見ていた校長とあんずのリアクションが薄い。
2人を目撃した時点で呼び掛けるとか、火が付いたら悲鳴を上げるとか、もっとリアクションしろよ。
あんずが廊下を走りながら「キリコ」と叫んでいるが、もうタイミングが遅いのよ。
そこに限らず、ホラー映画のはずなのに、女子高生が悲鳴を上げたり恐怖に顔を引きつらせたりするシーンが少なすぎるよ。

陸の実家に向かうと、悪霊を避けるプランとしてエンマさんが色々とルールを設定していることが語られる。
だけど、なんで悪霊のせいだと決め付けているのか。
伝染歌と悪霊の関係性は、どこで出てきたんだろうか。
一方、チーフは「最終号で伝染歌の特集を組む。そのために編集部全員で伝染歌を歌う」と言い出すが、なんでそういうことになるのか、 思考回路が理解不能。

チーフたちは『僕の花』を合唱した後、屋良弥生がCD発売日に事故死し、プロダクション社長や担当ディレクターが自殺し、記事に しようとした雑誌記者も不審死していることを調べ上げる。
でもね、そういうのは、もっと早い内に観客に提示されるべきでしょ。
そして、「そういう因縁があるから伝染歌になったのではないか」と、観客の不安や恐怖を煽るべきだろう。
そういう大事な作業を、なぜ後半に入ってからやるのか。
あと、カラオケの場面以降、白い女のことも、すっかり忘れ去られているし。

初川が「屋良弥生のマネージャーが超能力パワーのジェイク方丈だ」と言い出すが、ポスターで姿は出ていたものの、急にそんな奴を 関わらせるのかと。
見事なぐらい行き当たりバッタリ感に満ち溢れたシナリオだな。
で、もう終盤に入って、その歌が出来た時の経緯が詳しく語られるが、だから何なのかと。
それによって伝染歌で人が死ぬことに説得力が生じるとか、確証になるってわけじゃないのよ。
そこで語られることの大半は、前半の内に、観客に伝染歌の説得力を感じさせるためにやっておく作業なのよ。

しかも、その段階にきても、まだ笑いや緩和を挟もうとする始末。
そして、なかなか人が死なない。
終盤に来ると、死にそうになっても生き延びる。
餓鬼が登場したり、エンマが前世のことを言い出したりして、ますます伝染歌から離れていく。
その後、あんずの両親が借金取りの暴力的取立てに両親が苦しめられていたことが描かれるが、だから何なのかと思ってしまう。

そんで、結局、どういうことなのかはサッパリ分からない。
何がどう分からないのか具体的に書きたいのだが、「何がどう分からないのか」が分からないぐらい、終盤の展開は支離滅裂でデタラメ なのだ。
終盤に来て、全て投げ出してしまった感じ。
なぜ主要人物が総じて「自殺しようとして出来ない、あるいはしない」というシーンになるのかワケ分からん。
あと、宣伝ではダミアの『暗い日曜日』と関係があるかのように吹聴されていたが、まるで無関係だ。
とりあえず、監督に全くやる気が無かったことだけは伝わるヒドい映画。

(観賞日:2009年12月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会