『電人ザボーガー』:2011、日本

[第1部:たたかえ!電人ザボーガー!]
国会議員を狙うという正体不明の組織からの犯行予告を受け、警視庁の新田警部と部下の中野、松江が国会議事堂で警備に就いた。そこへ若杉議員や米倉議員たちが現れ、厳重な警備体制の事情説明を求めた。その時、サイボーグ組織シグマのメンバーであるミスボーグが手下を率いて現れた。ミスボーグはロボットのヨロイデスを議員たちに差し向ける。ヨロイデスは新田たちや機動隊の銃撃を跳ね返し、米倉の細胞を吸い取って殺害した。ミスボーグは「権力を持つ者の細胞が我らの野望に必要なのさ」と口にした。
ミスボーグは次の標的として若杉を指差し、ヨロイデスに指令を下した。若杉は逃げ出すが、すぐに捕まってしまう。その時、秘密警察の刑事である22歳の大門豊が、相棒の変形型バイクロボット、電人ザボーガーと共に現れた。大門とザボーガーはシグマの戦闘員を倒し、ヨロイデスを破壊した。だが、米倉のDNAを手に入れたミスボーグは、出現したシグマ大魔城へと帰還する。シグマ城では、シグマの総統である悪ノ宮博士がジャンボメカの完成を目指していた。
ジャンボメカのメカの肉体を形成するために、シグマは1万人を超える人間の細胞を集めていた。しかも、ただの人間ではなく、価値のある人間の細胞が必要だ。ミスボーグは米倉の細胞を新物質ダイモニウムで合成してみるが、手の小指1本の価値しか無かった。彼女は悪ノ宮に叱責され、女を嫌うサイボーグ幹部のエレキアンデス、アパッチドリル、眼帯男爵、バーナー8、キングアフリカから「男勝りでも頼りにならんな」と罵倒された。
悪ノ宮は、人間に裏切られて命を落とし、人間への恨みを抱いている面々をサイボーグ幹部として蘇らせていた。彼は幹部たちに「もっと冴えた細胞を回収して来い。それには邪魔者が目障りだ」と指示した。大門が空手の稽古を積んでいると、新田と松江がやって来た。新田に「君を見ていると任務のためというより何か個人的な怒りのために戦っているような気がしてならない」と言われた大門は、「僕はシグマの野望から人々を守りたい。それだけです」と答えた。「君が若さゆえに暴走してしまいそうで怖いんだ」と新田が告げると、彼は「意味が分かりませんね」と立ち去った。
新田の指摘は当たっていた。大門は個人的な理由で、シグマへの怒りを抱えていた。父を殺したシグマへの復讐心だ。彼の父である大門勇博士は、ロボット研究でノーベル賞を受賞した科学者だった。大門は双子で産まれ、出産の際に母が死んだため、男手一つで育てられた。父はあらゆる物をロボットに変えられる物質ダイモニウムの研究に没頭していたが、それでも子供たちを懸命に育てようとした。
生後間もなくして、大門の弟は死んだ。新たなロボット開発に取り組む父は、大門に冷たく当たった。大門は「そんなに研究ばかりするなら、死んだ弟を蘇らせてくれよ」と腹を立て、父の元を飛び出した。彼は師匠の下で、空手の特訓に打ち込む。その間に父はシグマに捕まり、ダイモニウムを渡すよう要求された。大門は、父がシグマ城から脱出するために飛び降り、殺される様子を目にした。
大門が遺品を整理するため研究室に戻ると、死を覚悟していた父のビデオメッセージが残されていた。父は「どんなことがあってもシグマの計画を阻止するんだ」という言葉と共に、ザボーガーを用意していた。父は「ザボーガーは、お前の弟の遺伝子を原動力にしている。すなわち、お前とザボーガーは兄弟だ。お前が思った正義を貫き通せ。ザボーガーと共に」という言葉を大門に残していた。
若杉が行方不明になり、新田から連絡を受けた大門はザボーガーと共に出動した。大門は若杉と愛人のユミを乗せたシグマの車を発見し、追跡する。ミスボーグは倉庫で若杉とユミを拘束し、ロボットのアリザイラーを出現させた。すると若杉は「この女は元ミスユニバースだし、大学院まで行っている。価値はある。お前が食われろ。私を解放してくれ。金なら幾らでもやるぞ」と言い、ユミを見殺しにして自分だけは助かろうとした。
ミスボーグは若杉の言葉に激怒し、「アンタの細胞なんか欲しくなくなった。むしろ殺してやりたい」と始末しようとする。そこへ大門とザボーガーが現れ、アリザイラーや戦闘員たちと倉庫の外に出て戦う。だが、アリザイラーの毒汁でザボーガーが危機に陥った。助けに行こうとした大門も、現れた眼帯男爵とバーナー8に捕まってしまう。一方、ミスボーグもエレキアンデスとアパッチドリルに捕獲されていた。エレキアンデスたちは、「抜け駆けはずるいぞ。手柄は俺たちの物だ」と言う。
大門はキングアフリカの攻撃を受け、危機に陥った。新田たちが倉庫へ駆け付けると、エレキアンデスとアパッチドリルはトラック型サイボーグブルドッグのブルガンダーを出撃させた。若杉はユミを盾にして自分を守る。ミスボーグは「男はみんな卑怯だ」と激怒し、幹部たちに攻撃を仕掛けるが、ブルガンダーに捕まってしまう。一方、大門は危機を脱し、ザボーガーに幹部たちとアリザイラーを退治させる。ミスボーグの声を耳にした彼は、倉庫に戻ってミスボーグを救った。大門はエレキアンデスを倒し、ザボーガーはブルガンダーを破壊し、アパッチドリルを倒した。
若杉は警察の失態をなじり、新田が「処分を受けるべきは私です」と言うと、「いや、一番処分を受けるべきは、そのジーパン男だ」と大門を指差す。大門が「貴方はわざと女性を突き飛ばしたのではありませんか」と糾弾すると、若杉は「お前ごとき、路頭に迷わせることも出来るんだぞ」と言い放つ。大門は激昂して若杉に殴り掛かり、新田たちに制止される。一方、ミスボーグは悪ノ宮から折檻を受ける。悪ノ宮が「お前は男に捨てられて死んだ女の細胞から作った。私抜きでは存在できんのだ」と言うと、ミスボーグは「サイボーグにしてくれたことは感謝しています。ですが、この体は辛すぎます」と口にする。悪ノ宮は彼女にトラウマを蘇らせて責めた。
1ヶ月の謹慎処分を受けた大門に、新田は「君の正義は、まだ頭の中に収まりすぎている。だが、そんなに簡単に線引きが出来るほど単純なものじゃない」と説いた。しかし大門は「若杉議員に頭を下げ続けろということですか。嫌ですよ」と苛立つ。父の墓参に出掛けた彼は、「正義を貫くことの意味が分からなくなって来たよ」と漏らす。そこへミスボーグがバイクでやって来た。「なんだ、そのバイクは」と大門が言うと、彼女は「情け無用のブラックホークだ。お前に情けを掛けられたことが癪で決着を付けに来たのさ」と告げた。
ミスボーグはバイクをロボットに変身させ、大門に襲い掛かった。ザボーガーがブラックホークと戦う傍らで、大門はミスボーグの攻撃を受けた。大門は「女に手を出すなんて男として恥ずかしいことだ」と言い、手を出さず防御に徹した。戦っていたザボーガーに押されたミスボーグは、誤って大門とキスしてしまう。ミスボーグは激しく動揺し、その場から逃げ出した。彼女を追い掛けた大門は、「さっきのはすまん、事故みたいなもんで」と謝った。
大門が「もう権力者を襲うのはやめてくれ。お前が俺の側で生まれてきたら、案外話せた気がするんだ」と言うと、ミスボーグは「何故そう思う」と尋ねる。大門が「どこか自分と似ている気がするんだ。居場所を見つけられない、モヤモヤとしたところが」と語ると、彼女は「不思議だな。私も同じことを考えていた」と口にした。「じゃあ一緒にジュースで乾杯でもするか」と大門が言うと、ミスボーグは彼と唇を重ねた。
大門とミスボーグは、海辺の洞窟に移動した。ミスボーグが「お前を機械の肌で感じたいんだ」と言うと、大門は「俺も同じだ」と告げる。2人は洞窟で互いを求め合う。ミスボーグに「私は明日、次の総裁選に出馬する政治家たちを全員襲撃する。若杉も。貴方は若杉と私、どっち側に来てくれる?」と問われ、大門は悩んだ。シグマ城に戻ったミスボーグは、大門の子供を身ごもったことを悟った。
悪ノ宮はミスボーグの計画遂行を援護するため、3人の女ロボット軍団、ミスラガーズを作り出していた。ミスラガーズはミスボーグに、「お姉さまが計画に迷ったり逃げたりしたら、敵とみなして処刑するよ」と言い放つ。若杉を尾行していた大門は、彼が汚職に手を出していることを知る。彼は新田たちに捜査を要求するが、「上からのお達しがあるから難しい。若杉は総裁選に勝利する。それは国が書いたシナリオで決まっているんだ」と告げられる。
新田は大門に手錠を掛け、「職を失わずに家族を守ることも私には大切なんだ」と述べた。大門は「それが正義か」と激怒し、手錠を切断して逃走した。彼はミスボーグからの通信で「今から計画を実行する」と言われ、「やっぱりやめてくれ。もう悪事はやめてくれ」と説く。だが、ミスボーグは計画を実行に移し、ミスラガーズが議員たちを捕まえて連行した。ミスボーグが細胞の採取を命じたところへ、大門とザボーガーが駆け付けた。
大門が助けに来たにも関わらず、若杉は激しく罵倒した。すると悪ノ宮が映像として大門の前に出現し、「俺も昔は生真面目な科学者だったが、10年前、国に命じられて秘密兵器を作らされた。だが実験は失敗し、それを隠蔽するため俺は国に殺されかけた。以来、俺は誰も信じられなくなり、こんな世の中を潰してやると誓った。今のお前は、その時の俺に近い。お前もシグマにならんか」と誘う。
悪ノ宮の映像が消えると、ミスボーグが大門に「貴方が信じられる正義は、こっちにあるわ」と話し掛けた。その直後、新田たちが現れ、ミスボーグやミスラガーズと戦い始めた。大門は機動隊員たちに攻撃を受けているミスボーグから、「貴方は何が一番大切なの?私、正義、それともザボーガー?」と問い掛けられた。大門はザボーガーに、「機動隊員たちを倒せ」と命じる。しかしザボーガーは、彼の指示に従おうとしなかった。
ザボーガーが全く動かないため、大門は自ら機動隊員たちを倒そうとした。するとザボーガーは大門ら平手打ちを浴びせ、涙を流した。ミスボーグは動揺している大門に近付き、妊娠を告白しようとする。だが、それを言う前にザボーガーがミスボーグを捕まえ、大量の銃弾を浴びせた。ザボーガーはミスボーグを捕まえたまま、一緒に爆発した。爆風の中から、ミスボーグの腹部にあった球体が飛び出した。その球体を、悪ノ宮はシグマ城に回収した。

[第2部:耐えろ大門!人生の海を!]
25年後。ザボーガーを失い、秘密刑事も退職した大門は、総理大臣となった若杉の運転手を務めていた。だが、道に飛び出した老婆を避けるために急ブレーキを掛けたことで、クビにされてしまう。若杉は日本の核所有を推進し、地方には次々に原発とミサイル基地が建設されていた。居酒屋で飲んでいた大門は、新田たちと再会する。3人とも刑事をクビになり、ニコニコ同盟という会を作っていた。その時、外で地響きのような音がした。シグマ城が人間を誘拐した音だ。誘拐行為はずっと続いていたが、国は何もしていなかった。
悪ノ宮は喘息を患いながらも、巨大ロボットの完成に執念を燃やしていた。シグマには秋月玄という若い幹部が加わっていた。彼は悪ノ宮の前に、人間の血が通うサイボーグのAKIKOを連れて来た。「AKIKOの破壊本能が覚醒した時、世界壊滅計画がようやく始まるのです」と秋月が言った刹那、AKIKOは脱走した。秋月は慌てるが、悪ノ宮は「AKIKOの行き先は1つだけだ」と落ち着き払って告げた。
無一文となった大門は職安で新しい仕事を探すが、住所も無いので紹介してもらえない。怒りに震えて机を破壊すると、役人から「警察を呼びますよ」と言われる。大門が「日本を守って来た俺を警察に突き出すのか」と抗議していると、そこへ秋月がブラックホークで現れた。秋月は「最低だな。そこまで落ちぶれていたとはな」と見下した態度を取り、「お前を囮として捕まえに来た」と言う。大門は秋月に立ち向かおうとするが、すっかり体力は衰えて腰も悪くなっており、まともにジャンプも出来なかった。
追い込まれた大門は、「待て、シュークリームの食べ過ぎで糖尿病を患っているんだ。インシュリンを打つまで待て」と頼んだ。大門がインシュリン注射で落ち着いたところへ、AKIKOが来て彼を連れ去った。彼女は海辺の洞窟へ大門を連れて行き、ミスボーグの記憶を再現する。AKIKOは大門とミスボーグの間に産まれた娘だったのだ。その事実を知らされた大門は激しく動揺し、「ミスボーグにそんな機能があるなんて知らなかった」と口にした。
大門が自分を娘として受け入れてくれなかったため、AKIKOは「知ってたらサイホーグなんて愛さなかったって言いたいの?」と怒って掴み掛かる。我に返った彼女は、洞窟から逃げ出した。大門が追い掛けると、AKIKOは「私、怖いの。もうすぐ人格を失って破壊衝動しか無くなってしまうの」と明かす。そこへ秋月が現れ、「おとなしく運命を受け入れて帰るんだ」とAKIKOに告げた。大門が「お前に彼女は渡さんぞ」と言うと、秋月は不敵に笑って「それなら切り札を使うしかないな」と告げた。
秋月の「出て来い」という言葉で現れたのは、電人ザボーガーだった。秋月は「爆破したザボーガーのパーツを集めて修復し、俺の指令を聞くように改造したのだ。ザボーガーも俺の指示に従うことを喜んでいる。なぜならお前は昔、こいつを裏切ったそうじゃないか」と語る。動揺した大門は、ザボーガーに襲われても逃げ惑うばかりだった。大門が無抵抗で捕まると、AKIKOがザボーガーの頭部を蹴り落として助ける。秋月が乱射すると、AKIKOは大門の盾になった。彼女は秋月に向かい、「自分の父親を殺してもいいの?貴方は大門豊の息子よ。双子として産まれて来たのよ。私と同じ球体の中で」と訴えた…。

監督・脚本は井口昇、企画・原作はピー・プロダクション、エグゼクティブプロデューサーは大月俊倫、プロデューサーは池田慎一&千葉善紀、協力プロデューサーは山田宏幸&野村ノブヨ、ラインプロデューサーは内山亮、テレビシリーズ原案は小池一夫、監修は鷺巣詩郎、撮影監督は長野泰隆、照明は安部力、録音は永口靖、美術は福田宣、特殊造型監督・キャラクターデザインは西村喜廣、アクション監督はカラサワイサオ、VFXスーパーバイザーは鹿角剛司、CGディレクターは水石徹、編集は和田剛、メインタイトルポスタービジュアルデザインは高橋ヨシキ、脚本協力は継田淳、アイディア協力は直井卓俊、シグマ城デザインは西澤安施、オリジナルスコアは菊池俊輔、編曲・「AKIKOのテーマ」作曲は福田裕彦。
出演は板尾創路、古原靖久、柄本明、竹中直人、渡辺裕之、山崎真実、宮下雄也(RUN&GUN) 、佐津川愛美、木下ほうか、松尾諭、関智一、増本庄一郎、きくち英一、デモ田中、岸建太朗、島津健太郎、佐藤佐吉、亜紗美、村田唯、泉カイ、山中アラタ、石川ゆうや、松浦祐也、村上浩章、谷川昭一朗、高尾祥子、池口十兵衛、朝山日出雄、川渕良和、西村喜廣、大平健人、大平晴人、風間晋之介、早坂理恵、長野尚以、加藤夢望、浅野須美子、ギャリー・ジョー・ウルフ、たんじ だいご、伊東慶徳、加藤雅彦、深津哲也、島本将司、目谷哲朗唐澤功、板垣克、柴田洋介ら。


1974年から1975年に掛けてフジテレビ系で放送された特撮ヒーロー番組を基にした映画。
『片腕マシンガール』『ロボゲイシャ』の井口昇が監督と脚本を務めている。
熟年期の大門を板尾創路、青年期の大門を古原靖久、悪ノ宮を柄本明、大門博士を竹中直人、新田を渡辺裕之、ミスボーグを山崎真実、秋月を宮下雄也、AKIKOを佐津川愛美、若杉を木下ほうかが演じている。職安のシーンでは、大門に応対する役人役で松尾諭、その後ろで働く職員役で関智一、職を探している労務者役で増本庄一郎が友情出演している。
TVシリーズで中野刑事を演じていたきくち英一が、ラストシーンで老年期の大門として登場している。

細かいことかもしれないけど、大門が過去を語るシーンで「母親は死産して男手一つで育てられた」というセリフに引っ掛かってしまった。
死産って、母親が出産の時に死ぬという意味じゃなくて、胎児が死んだ状態で出て来ることだぞ。
あと、ミスボーグの若杉に対する「特に次期総裁選候補である貴方を逃したくないんです」というセリフも、ちょっと変じゃないかな。
そこは普通、「次期総裁選候補」じゃなくて「次期総裁候補」と表現すべきじゃないか。

大門の「貴様らの野望を、俺が砕いて見せる」といったセリフや、古原靖久の喋り方、いちいちポーズを取る芝居など、全てが「昔の特撮ヒーロー」という感じになっていて、そこは嬉しいねえ。
主題歌の「戦え! 電人ザボーガー」が流れる中で大門とザボーガーが戦うタイトルロールは、かなり燃える。
主題歌を歌うのは子門真人じゃなくて高野二郎だけど、オリジナルっぽい歌い方になっているし(オリジナル版は劇中で使われている)。
ぶっちゃけ、このタイトルロールが映画のピークだね。
後は落ちて行く一方だ。

タイトルロールが終わった後も、ミスポーグが逃げたのを見ている古原靖久が拳を握って「許さん、許さん、許さーん!」と叫ぶとか、そういうハイテンションの熱血演技は素晴らしい。
山崎真実の悪役としての喋り方や芝居も同じぐらい素晴らしい。
それに比べて、柄本明はまるでダメだなあ。モゴモゴしていて何を言っているのか聞き取りにくい箇所もあるし。
ひょっとすると彼は芝居が下手なんだろうか。そんな疑念を抱いてしまうぐらいだ。
少なくとも、こういう役柄やジャンル映画には合っていないんだろうなあ。

タイトルロールが映画のピークで、後は落ちて行く一方だと前述したが、そうなってしまった最大の原因は、余計な笑いを多く持ち込んでしまったことにある。
例えば回想シーン、大門たちを育てる父が母乳を吸わせるとか、場違い感たっぷりだ。
ザボーガーが大門から空手の稽古の感想を求められて拍手するとか、そういうユーモラスな描写は邪魔になっていないのよ。
ただ、竹中直人が赤ん坊に自分のオッパイを吸わせるシーンは、完全にやり過ぎ。
この作品に明るさやユーモアはあってもいいけど、狙ったギャグ描写はダメ。
しかも「父が母乳を飲ませてくれた。それが原因か分からないが、俺の弟は病気で死んでしまった」とか、そりゃダメだわ。

シグマに捕まった大門博士が「貴様のような奴にダイモニウムを渡すぐらいなら、大男に辱めを受けた方がましだ」と言うと、悪ノ宮が「ならば思い通りにしてあげましょう」と告げ、上半身裸のエレキアンデスとキングアフリカが現れる。
エレキアンデスが回転させたドリルを大門博士の胸に突き刺すと、博士は「油くせえ」と言う。
ドリルのダメージは全く受けず、続いて彼は服を脱がされる。
もうダメすぎる。
「本気で辱めるのか」とか「そこはつまむな」とかってさ、もはやパロディーの世界になってしまっている。
そういう「マジにやるべきシーンを茶化す」というノリは、絶対にダメだよ。

アリザイラーたちと戦う時、大門が「このままだとやられてしまう。ザボーガー、タイ鉄砲だ」と言うと、ザボーガーからタイの音楽が流れ、ムエタイのワイクーを踊り出す。
そういうのもダメよ。
ミスボーグが「サイボーグにしてくれたことは感謝しています。ですが、この体は辛すぎます」と言うと、悪ノ宮が彼女の顔を過去にフラれた男の顔に変えてしまうってのも要らない。
狙ったギャグは全て邪魔になっている。
熱すぎる芝居が笑えるとか、登場するキャラクターの造形がバカバカしくて笑えるとか、そういうことだけに留めておけばいいものを、余計な笑いを狙いに行って、完全に失敗している。
それは演出の方向として間違ってるよ。

大門とミスボーグの恋愛劇においても、やはり要らない笑いを持ち込もうとしている。
そもそも大門とミスボーグが恋愛関係になるという筋書き自体に、納得しかねる部分もあるのよ。
で、それを受け入れるにしても、「戦っていたザボーガーに押されたミスボーグが大門とキスしてしまう」という、古い少女漫画みたいなシーンはダメでしょ。
そういうのもやっぱり、パロディーのノリになっているんだよな。

大門が正義の中身について苦悩・葛藤するのはいいとして、若杉があまりにもクソみたいな男なので、そんな奴を守るために戦う彼に全く燃えられないというのは痛いなあ。
それ以外の部分で大門の戦いに燃えられる要素があればいいんだけど、そういうのは無いからなあ。
ただし、だからって、大門がザボーガーに対して、ミスボーグと戦う機動隊員をやっつけるよう命じたり、自分がやっつけたりするのは違うよ。
ミスボーグを守ろうとするのはいいけど、それは「悪の組織から抜け出させようとする」という行為であるべきで、「悪の組織として戦うボーグに加勢する」という形はダメだよ。

ようするに、持ち込んだテーマを上手く処理できていないんだよな。
ザボーガーが容赦なくミスボーグに大量の弾丸を浴びせて始末するとか、そりゃ無いわ。
ザボーガーが自分の意志で大門を制止したり涙を流したりしたってことは、「人間らしさに芽生えた」という解釈になるはずで、人間らしい心に芽生えた上で、大門が愛した女を惨殺するって、すげえ非道な奴じゃねえか。
どうして、ミスボーグは悪ノ宮やミスラガーズに始末されるとか、大門を庇って殺されるとか、そういう形にしなかったんだよ。そこはベタでいいじゃねえか。そこの意外性は誰も望まない意外性でしょ。
大門が愛する女を相棒に殺されるって、なんだよ、そりゃ。何のカタルシスもありゃしねえぞ。
ミスボーグが死ぬにしても、ちゃんと悲劇にしてくれよ。

本作品は明らかに子供向けじゃなくて、かつてTV版を見ていた大人向けの作品だから、「子供向けだから分かりやすく単純明快に」という作りを徹底する必要は無いのかもしれない。
だけど元々は子供向けの特撮ヒーロー番組だったわけだし、勧善懲悪の物語で良かったんじゃないのかねえ。
しかも第1部では「大門の考える正義は本当に正しいのか」「正義とは何ぞや」という問題は放置されたまま終わるので、第2部で答えを出すのかと思ったら、そういうことは完全に無視した内容になっている。
ちゃんと消化して答えを出さないのなら、そんな難しいテーマなんて最初から持ち込まなきゃいいのに。
最後に「90歳になっても戦う。それが俺の正義」という大門の言葉はあるけど、それって問題提起に対する答えになってないしね。

第1部もヒドかったが、第2部は輪を掛けて酷くなっている。もはや完全にパロディーの世界に突入してしまっている。
たぶん井口監督がホントにやりたかったのは第2部なんだろうと推測されるけど、なんで中年になった大門の物語なんて描こうとしたのかなあ。
これがさ、ずっと長くシリーズが続いていて、そんな中で異色の1本、番外編的な1本として中年版を描くというなら、まだ何とか受け入れられたかもしれんよ。
だけど久々に復活したんだから、普通に活躍する若い大門とザボーガーの物語を期待するのよ、こっちとしては。

あるいは、TVシリーズで大門を演じた俳優が今も生きていて、その人が演じるということなら、中年になった大門でも全く問題は無い。
っていうか、そういう企画なら歓迎する。
でも、それは無理だからね。大門を演じていた山口豪久(当時は山口暁)さんは、既に死去しているからね(っていうか1945年生まれだから、存命だったとしても、もはや中年という年齢を遥かに超えているけど)。
で、当時とは全く違う演者で中年の大門の物語を描かれても、まるで気持ちが高揚しないよ。

第2部の大門は、ただ単に「戦う意欲を失っている」とか「捨て鉢になっている」ということじゃなくて、ヘタレのオッサンになってしまっている。
「哀愁を帯びた男」とか、そういうことなら、まだ分かるのよ。
でもさ、単純にカッコ悪いだけの大門豊なんて、こっちは見たくないのよ。
中年になって体力が落ちているという設定はともかく、それを完全に喜劇として描いているのも萎えるわ。
飛び蹴りを放とうとして落下するとか、サイテーだよ。

糖尿病を患っているという設定にしたって、その設定の段階でダメだけど、しかも「待て、シュークリームの食べ過ぎで糖尿病を患っているんだ。インシュリンを打つまで待て」と秋月に頼むって、なんだよ、そりゃ。
繰り返しになるけど、やっぱり特撮パロディーのノリなのよ、それって。
だからね、言ってみれば、この映画って『仮面ライダー』を期待しているのに『仮面ノリダー』を見せられているような感じなのよ。

井口監督も、明らかにパロディーのノリで作っているよな。
AKIKOから娘だと告白された大門の「アホウなことを言うな」という台詞とか、ザボーガーが現れた時のオロオロしている表情とか、秋月が「お前の言うことなど、もう聞かないのだ。メッチャ怒ってるからな」と「メッチャ」という言葉を使うとか、ザボーガーがシェイクを握り潰してから、ベタベタした手で大門の首を絞めるとか、そういうのって、パロディーとしての悪ふざけでしょ。
第2部で評価できるのは、宮下雄也&佐津川愛美の演技ぐらいだなあ。
特に宮下の芝居は前半の古橋と同様、その熱血ぶりが素晴らしい。
でも、やっぱりタイトルロールだけだな、この映画。

(観賞日:2012年8月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会