『誰かが私にキスをした』:2010、日本

トウキョウ・アメリカン・スクールに通うナオミは、校庭の階段を降りている時、つまずいてしまった。手から離れたカメラを拾おうと した彼女は、階段から転落して額を打った。その事故を目撃した生徒のユウジが通報し、救急隊員に「この子の恋人なんです」と告げて 救急車に乗り込んだ。病院に到着したナオミは、医者から名前や住所、西暦を問われた。名前と住所は正しく答えたナオミだが、西暦に ついては「2005年ですよね」と告げた。彼女は事故のショックで、最近4年間の記憶を失っていたのだ。
ユウジはナオミに、「彼氏だって言ったのは救急車に乗り込む口実。友達でもない」と告げた。「さっき何考えてたか訊いていい?」と ナオミが言うと、ユウジは「このまま、彼氏だって思い続けてくれないかなって思ってた。あと、キスしたいって思ってた」と告げた。 ユウジはナオミにエースという恋人がいることを教え、「キスするなら、ちゃと了承を得てからって思ったんだ」と言う。そこへ小説家を しているナオミの父・ゴローが来て、娘に声を掛けた。ユウジはいつの間にか病院から去っていた。
入院したナオミの見舞いに、ミライという同級生がやって来た。だが、ナオミはミライのことを覚えていない。ミライは「エースのことを 覚えていないって聞いて安心したよ。あいつは見舞いになんか来ない奴なんだよ」と言った後、自分とナオミが一緒にイヤーブックの 共同編集者をやっていると説明した。ナオミは彼に、ユウジのことを尋ねた。ミライは「今朝、カメラを届けてくれた時に初めて口を 利いたんだ。彼は転校生だし、前の学校を退学になったと聞いてたけど、思ってたより礼儀正しい奴だったかな」と言う。
ミライはナオミに「何か思い出すきっかけになればいいと思って、プレイリスト作ってきたんだ。例えば1曲目はさ、僕らの出会いに 捧げた1曲だよ」と告げ、CDを渡した。1週間後に退院したナオミは、4年前とは違う家に戻った。自分の部屋にいると、いきなり窓 からエースが乱入してキスをした。「覚えてないの?僕は君のボーイフレンドだ」と言うが、ナオミには全く実感が沸かない。エースが 自分の行動を詫びると、ナオミは彼の頬にキスをした。
久しぶりに登校したナオミだったが、記憶が戻っていないため、知らない風景ばかりで疲労感で一杯になる。ナオミが食堂でブリアナに声 を掛けられて話していると、ミライが現れて「放課後に」と告げた。エースに尋ねると、イヤーブックの編集があるらしい。食堂を出た ナオミは、ユウジと再会した。「震えてるな」とユウジに言われ、ナオミは「何だか寒気が止まらなくて」と告げる。ユウジは自分の上着 を貸した。ナオミはユウジの左手にリストカットの痕があるのを目撃した。
放課後、イヤーブックの部室へ行くと、部員たちが復帰を歓迎した。ミライに尋ねると、編集の集まりは毎日だという。ナオミは、ミライ とハセガワ先生が親子だと知った。雨の中、ミライ親子の車で送ってもらったナオミは、傘も差さず歩いているユウジを発見した。ナオミ は車を停めてもらい、「乗っていかない?」とユウジに声を掛けた。ユウジは断って去ろうとするが、ミライが「ナオミは諦めないし、 車はガソリンを無駄遣いしている」と言い、半ば強引にユウジを同乗させた。
ミライはユウジが指輪をしているのに気付いた。ユウジは、死んだ兄の指輪だと説明した。ナオミがユウジへの好意を示したので、ミライ は嫉妬心を抱いた。ユウジを送った後、ミライは「あいつ、おかしいよ。転校してきたのも、前の学校で女の子にストーカーしたり、脅迫 とかしてたって噂だよ。前の学校でのあいつの仇名、知ってる。クレイジー・ユウジだって」とナオミに語った。
ナオミはエースに連れられてパーティーに出掛けるが、彼とはぐれてしまう。酒を飲んで気持ち悪くなったナオミは、ゴローに電話して 迎えに来てもらった。倒れていたナオミが意識を取り戻すと、父の車の中だった。助手席にはリサというタンゴ・ダンサーが乗っていた。 帰宅したナオミが眠っていると、エースが窓からやって来た。エースは謝り、キスを求めた。ナオミは彼にキスをした。
翌朝、ゴローはナオミに、リサと交際していることを打ち明けた。負担を掛けたくなかったので、今まで黙っていたという。リサは離婚暦 があり、双子の娘がいるという。ナオミはゴローに連れられてリサの家へ行くが、不快感を露骨に示した。ナオミはショートカットにして 登校した。彼女は演劇部のアリスから、舞台への出演を持ち掛けられた。舞台で使う写真撮影に赴くと、カメラマンとしてユウジが待って いた。ナオミはスタッフのユミに手伝ってもらい、写真撮影を行った。
撮影の後、ナオミはユウジに「どこでバイトしてるの?」と尋ねる。ユウジは「大学で映写技師をしている。なかなか見れない作品も 見れるし。例えばファスビンダーとか」と語った。ユウジはナオミをバイクで送り、「映画、見たかったら入れてやるよ」と告げた。 ナオミはエースと共に、ホームカミングのパーティーに赴いた。後輩のイヤーブック編集部員ベイリーが、写真を撮影していた。ナオミは 彼にカメラを貸してもらい、自ら撮影を始めた。
パーティーの後、ナオミはエースの部屋へ行く。エースはコンドームを見せてセックスに誘うが、ナオミは拒んだ。エースはガッカリし、 そして苛立った。ナオミはエースと別れることにした。ナオミが演劇部に参加していると、ベイリーが現れた。彼に「知りませんでした、 すごいですね」と言われ、ナオミは少し気まずそうに「ほんのチョイ役なの。だから大っぴらにしたくなくて」と告げる。ナオミはミライ に会い、芝居に出ることを打ち明けた。
ミライはベイリーと一緒に芝居を観劇し、ナオミにCDを渡した。打ち上げにユウジが来たので、ナオミは「ユウジの映像、すっごく キレイだった」と誉めた。ユミが「踊ろうよ」と誘うが、ユウジは断り、ナオミに「火曜の夜にファスビンダーを上映するんだ。見に 来ないか」と告げた。ファスビンダーの映画を見たナオミは、「病院で、私に了解を得てからキスしたいって言ってたよね。良かったのに 。あの時も、今も」とユウジに告げる。ナオミとユウジはキスをした。
ナオミはゴローから、リサとの結婚式で専属カメラマンになってほしいと頼まれた。ナオミは「あの人のこと、ほとんど知らないのに」と 反発する。誕生日、ナオミはユウジのバイクで食事に出掛ける。ユウジはサーフィンをやっていること、父もサーファーでロサンゼルスに 住んでいることを話す。食事の後、2人は学校の階段に積もった雪を利用してソリ遊びに興じた。その時、ナオミの中で少し記憶が蘇った 。ナオミは、ユウジの悪い噂について尋ねた。ユウジは「薬は処方されたもので、自殺未遂は2回。後はぜんぶ事実かな」と答えた。また 2人はキスをした。
ナオミはイヤーブックに戻りたくないと考え始め、ユウジに相談する。ユウジは「やめればいいじゃん」と軽く言う。ナオミはミライに 「イヤーブック降りたいの。授業に付いて行けないの。それに正直、イヤーブックって誰が作っても同じじゃない」と告げた。ユウジの 影響だと確信したミライは、「あいつのどこがいいんだよ。僕の知っているナオミはやると決めたことは最後までやり遂げる」と怒った。 するとナオミは「私は以前のナオミじゃないの。貴方の知っているナオミはもういないの」と声を荒げた。
ナオミはユウジを見つけて、後ろから抱き付いた。ユウジは「俺がまたおかしくなったら、会おうとしないでほしい。2人が出会ったこと 自体、忘れてほしいんだ」と告げた。ナオミはユウジと一緒に校庭で写真を撮っている時、完全に記憶を取り戻した。あの時、彼女は ミライとどっちがカメラを取りに行くかをコイントスで決めた。そして、自分が負けて取りに行ったのだ。だが、ナオミは思い出したこと を誰にも言わないことにした。
冬休みが終わって登校したナオミは、ミライがウィーニーと付き合い始めたのを知った。ユウジのロッカーで教科書を探していたナオミは 、サザン・カリフォルニア大学からの受験結果の封筒を見つけた。封筒を開けると、合格通知が入っていた。ナオミは「おめでとう」と 抱き付くが、なぜかユウジは全く喜ばなかった。エースがナオミに話し掛けていると、いきなりユウジは殴り掛かった。ナオミに肘が 入ったところで、ミライがケンカを制止した。
ナオミは停学を食らったユウジの部屋を訪れた。すると部屋が散らかっていて、ユウジは「USCの新入オリエンテーションに行けって 母親が言うんだ。だけど何を持って行っていいのか分からないんだ。第一、行きたいのか分かんないし」と漏らした。「USCに行って ヘコんだら呼んでよ。飛んで行くから。私は貴方に出会うためだけに階段から落っこちたんでしょ」とナオミは告げた。
カリフォルニアのユウジから電話が入り、ナオミは来て欲しいと言われて飛行機に飛び乗った。空港に迎えに来るはずのユウジは、2時間 も遅刻して現れた。大学へ行くはずだったが、ユウジは「海に行かない?」と言う。ナオミを海に残し、ユウジは「サーフボードと昼飯を 取ってくる。1時間で戻ってくる」と告げて車で去った。だが、日が暮れてから、ようやく彼は戻ってきた。
ユウジは「気付いたら墓地の中にいた。目の前にマリリン・モンローの墓があった。何が他の墓と違うのか分かった。色だよ。たくさんの 人がキスしたり触ったりするから墓石がピンク色に変色してるんだ。それに気付いて、俺は死ぬほど気が滅入ってきた。兄貴の墓は誰も 思い出しもしない。それで俺は兄貴の墓の色を変えてやろうと思った。でも、最初は兄貴の墓がどこにあるのかさえ忘れちまって」と ナオミに語った。涙をこぼし、「ユウジ、愛してる」と告げた。
ナオミはユウジに連れられ、彼の家へ赴いた。しばらく一緒にいたいと願うナオミだったが、ユウジは「眠りたいんだよ」と言い、すぐに 寝室へ入った。ナオミはゴローからの電話で、「明日のフライトで帰って来るんだ」と告げられた。翌朝の飛行機で、ナオミはミライから 誕生日にプレゼントされたCDを聴いた。空港に到着したナオミはミライに電話し、感謝の言葉を述べる。しかしミライは「これから ウィーニーとテートなんだけど」と冷たく言い、すぐに電話を切った。
ナオミはゴローから「なんで相談しなかった」と叱られ、勝手にロスへ言ったことを非難された。ナオミが「私、ぜんぶ思い出したの」と 打ち明けると、なぜ黙っていたのかとゴローは訊く。ナオミは「やっと自分のことが分かり掛けてきたのに、また最初からやり直しなんて 、ましてや逆戻りなんて考えられなかったの」と話す。そして、過去が無いというのが自分とユウジの共通点で、だからユウジは自分を 好きになってくれた、だから記憶を取り戻したことでユウジを失うのが怖かったという心情を吐露した。
ナオミがユウジに電話を掛けると、彼の母親が出た。母親は、ユウジが長野の療養所に入ったことを告げた。ナオミはミライに会い、一緒 に病院へ行ってほしいと頼んだ。ミライは「なんで僕が」と文句を言いながらも、ナオミに同行した。ユウジに会ったナオミは、2ヶ月前 に全て記憶を取り戻したことを明かし、「でも今でもユウジのことが好き。ユウジがちょっとクレイジーだって知ってるよ。でも、そんな こと言ったら誰だってそうじゃない」と告げた…。

監督はハンス・カノーザ、原作はガブリエル・ゼヴィン、脚本はガブリエル・ゼヴィン、製作はウェンディー・リーズ&クウェシ・ コリソン&ハンス・カノーザ片岡公生&原田典久&杉山剛、製作総指揮は遠藤茂之&北川直樹、共同製作総指揮は木下直哉&堀義貴& 篠田芳彦&鳥嶋和彦、、共同製作はアッシュ・ヌクイ、撮影はジャロン・プレザント、編集はフィリス・ハウゼン&ハンス・カノーザ、 美術は金田克美、衣装は小川久美子、Song "キミがいるから" はカイリー。
出演は堀北真希、松山ケンイチ、手越祐也、アントン・イェルチン、エマ・ロバーツ、カイリー、渡部篤郎、桐島かれん、清水美沙、 桐谷美玲、ジュリア・スニーゴウスキー、尾崎亜衣、尾崎由衣、アーサー・レンペル、木村遼希、イアン・ムーア、デヴィッド・ニール、 ロイック・ガーニア、竹中有希、キャサリン・トーボヴ、キャスパー・ジョハンソン、アイリー・ローパー、キャメロン、レイラ他。


2005年に『カンバセーションズ』で東京国際映画祭の審査員特別賞を受賞したハンス・カノーザが、盟友ガブリエル・ゼヴィンの小説 『失くした記憶の物語』(後に映画と同じタイトルで刊行)を基にして撮った作品。
日本でロケが行われた日本映画である。
当初はアメリカで製作される予定だったが、ハンス・カノーザが「日本を舞台にした方が、文化のぶつかり合いも絡んだ深みのある物語に なる」と考えて日本の映画会社に企画を持ち込んだらしい。
原作ではヒロインの通う学校がアメリカのハイスクールだったが、映画版ではインターナショナルスクールにされている。
「ナオミ」というヒロインの名前は原作と同じだ。

ナオミを堀北真希、ユウジを松山ケンイチ、ミライを手越祐也、エースをアントン・イェルチン、アリスをエマ・ロバーツ、ウィーニーを カイリー、ゴローを渡部篤郎、リサを桐島かれん、ハセガワ先生を清水美沙、ユミを桐谷美玲、リサの双子の娘を尾崎亜衣&尾崎由衣、 ベイリーを木村遼希が演じている。
木村遼希は日本語も喋っているのに、ベイリー・プロトキンという外国人の役だ。
もう配役の段階で、笑わせに掛かってるのかと思うぐらいだぞ。

なぜインターナショナルスクールの話にしたのかサッパリだ。
異文化のぶつかり合いに狙いがあったようだが、全く効果的だとは思えない。主要キャストはほとんど日本人で、異文化のぶつかり合い なんて全く描かれていないし。
日本人キャストが無理にアメリカンな芝居をして、不自然さが強くなっているだけにしか感じない。
これが例えば、全員が日本の学校へ行っている設定で、セリフもアメリカンな言い回しを修正すれば、もう少しマシになったかも しれない。
まあ、それでもポンコツだろうけど。

『誰かが私にキスをした』という邦題だが、「誰が私にキスをしたのかしら」というのが物語のテーマではない。
っていうか、ナオミはユウジともミライともエースともキスをしているので、『誰とでも私はキスをする』の方が内容に合致する。
で、じゃあ何を描いている作品なのかというと、これがサッパリ分からない。
もはや、どういう恋愛劇を描きたかったのかさえ分からない。話の骨格も、枝葉も、全てが五里霧中って感じなのだ。
イヤーブックの編集という設定にしても、話の中で全く意味を持っていない。こんなの無くても、大して困らないぞ。

冒頭、ナオミが「最初に言っておくけど、この物語はラブストーリーだ。そして大抵のラブストーリーと同じく、偶然あり、必然あり。 ちょっとした頭の怪我もある。全てはコイントスから始まった。出た目は裏。私は表に賭けていた。もし私が賭けに勝っていたら、この 物語は成立しなかっただろう。とにかく女の子は失くすことが必要だったりするのだ」と語る。
でも、映画を見ても、「女の子は失くすことが必要」という言葉の意味は全く見えてこない。

1つ1つの場面がバラバラで、分裂症のような構成だ。そしてキャラも支離滅裂。どういう奴なのかサッパリ分からない。 分かることは、主要キャストの全員が気持ち悪くて変な連中だってことだ。
冒頭、ユウジが「彼氏というのは救急車に乗り込む口実。友達でもない」と言うと、ナオミは「じゃあ、さっき何考えてたか訊いていい ?」と尋ねるが、その会話、おかしいだろ。
普通、「恋人でも友達でもない」と言われたら、どんな関係なのかを尋ねるだろ。
その後、ナオミは「教えて、どうせ私、このまま死んじゃうんだから」と笑顔で言うが、その余裕も違和感たっぷりだ。

見舞いに来たミライは、ナオミから「私の親友、そんなジャケット着る人だったんだ」と言われると、「これは退屈な日常に対する僕の 精一杯の皮肉さ」と一回転してキザに決める。
ひょっとすると、そういう立ち振る舞いやセリフは、アメリカ人がやったら、それなりにサマになったのかもしれない。
しかし、少なくとも本作品の手越祐也がやると、すげえ恥ずかしいモノにしか見えない。
「何でも訊いてよ。チーフのことなら何でも知ってるって誓うよ」という「チーフ」という呼び方も恥ずかしい。
突き抜けてギャグにまでなっていればともかく、どうやら監督はマジで「イケてるラブストーリー」を撮っているつもりらしい。

エースはいきなり窓から侵入し、ナオミにキスをする。彼女が記憶喪失なのは知っているはずなのに、かなり乱暴だ。病院には見舞いに 来なかったくせに、窓から乱入するのかよ。とりあえず、ちゃんと玄関から来いよ。
「いつも窓から?」とナオミに訊かれて「もちろん」と答えているが、なんだ、そのキャラは。
一方のナオミも、相手が恋人だという実感が無いのに、簡単にキスしている。
この女、やたらとキスしまくって、やたらと男に流されているが、ただの尻軽にしか見えない。

エースに関しては、何のために登場したのかサッパリ分からなかった。こいつがいなかったとしても、ほとんど物語に影響は無いんじゃ ないか。
少なくとも、わざわざハリウッドで売り出し中のアントン・イェルチンを連れて来る必要性はゼロ。
普通に考えれば、ホマキとアントンがメインのラブストーリーだと思うぜ。なのに、ホマキの相手役としては3番目の扱いなんだぜ。
これが特別出演的な扱いならともかく、そうじゃない。単に扱いが悪いというだけだ。

ナオミがユウジに惹かれていくのは、たぶん「記憶を失って不安で一杯で、最も新しい記憶の中にいるユウジにだけは安心感を抱き、素直 に心を開くことが出来る。だから惹かれる」ということなんだろう。
ただ、そんなの伝わらないなあ。
だから、なんでそんなメンヘラ男に惹かれるのか、サッパリだせ。
ユウジは抱き付いてきたナオミに「俺がまたおかしくなったら、会おうとしないでほしい」と言うシーンがあるが、その時点で既に おかしい奴だし。どこに惹かれる要素があるのかサッパリだ。
そもそも「ユウジが兄貴の死を引きずっていて、そのせいで精神を病んでいる」という描写が全く出来ていないぞ。
だから単なるキチガイにしか見えない。

ユウジを送った後、ミライは「あいつ、前の学校で女の子にストーカーしたり、脅迫とかしてたって噂だよ」とナオミに吹き込む。 そんな嫌な奴と、最終的にナオミはカップルになるのだが、それは展開としてヒドすぎるだろ。
まあ、どの男とカップルになっても、まるで好感は持てないけど。
で、ナオミが「仇名の話、作り話でしょ」と言うと、ミライは「そうかもね。でも、それ以外は事実だよ」と告げ、そこでナオミが笑い、 ミライも笑う。
いやいや、なぜ、そのタイミングで笑えるのかと。何が面白かったのか。

ナオミはメンヘラなユウジに、「どこでバイトしてるの?」と急に尋ねる。で、ユウジが「映写技師をしている。なかなか見れない作品 も見れるし。例えばファスビンダーとか」と言うと、ナオミは「ファスビンダー。一つも見たことないや」と口にする。
その言い方からすると、ファスビンダーは知っているんだね。それだけでもスゴいぞ。普通、今時の若い女の子はファスビンダーなんて 「誰、それ?」だろ。
そんで実際にファスビンダーの映画を見て、「いいねえ、すっごく変わってるけど面白い」と感想を述べる。
ファスビンダーを面白いと思える若い女子って、すげえな。

ナオミはイヤーブックの仕事を降りることを決め、ミライに告げる。で、ミライに非難されると、「私は以前のナオミじゃないの。貴方の 知っているナオミはもういないの」と怒鳴る。
どうやら、ナオミが「周囲の人々が思うナオミと今の自分が、別人のように思える。前の自分はどんな感じだったのだろう」と違和感や 不安を抱えながら生活する内容として作られているようだが、その違和感や不安を感じている彼女の心情が全く伝わってこない。
これはホマキの演技力が拙いわけではなく、どういうキャラなのか把握できていないってことだろう。
だったら把握できなかったのが悪いんじゃないかと思うかもしれないが、こんな支離滅裂な女、掴み切れるわけがねえよ。そもそも、以前 のナオミがどんな感じだったのかが全く分からないし。
あと、イヤーブックの仕事を降りるのは、ミライが言う通り、ただのジコチューに過ぎないし。ユウジに溺れ、影響を受けて、途中で 投げ出しただけだ。

ナオミは事故の記憶を取り戻した時、「転んだとか落ちたとか、そんなんじゃない。それはただの事故だ。私はダイブしたんだ。自分の 意思で。ダイブは奇跡に重力を加えたものだ。私は自らを投げ打ったんだ。何かに向かって、あるいは何かから解放されるために」と語る が、ワケが分からない。
ただの事故って言っておきながら、「ダイブしたんだ」って、どういうことだよ。
ナオミが「私は貴方に出会うためだけに階段から落っこちたんでしょ」とユウジに告げるシーンがあるので、「階段に落ちたのも記憶を 失ったのも全て彼と出会うためだった」という恋物語にしたいのだろう。でも、そのようには全く感じないぞ。その偶然の事故を、「愛の 奇跡のための必然」として表現できてないぞ。
あと、「思い出したことを誰にも言わないことにした。ある意味、どうでも良かった」と彼女は語るが、「ある意味」どころか、どんな 意味であれ、どうでもいいことになっているぞ。
「それで何かが変わるわけでもなかったから。そう自分に言い聞かせた」と言うが、言い聞かせなくても、実際にそうだから。何も 変わらないから。

ユウジはカリフォルニアの海でナオミを日暮れまで待たせた後、「気付いたら墓地の中にいた。目の前にマリリン・モンローの墓があった 。何が他の墓と違うのか分かった。色だよ。たくさんの人がキスしたり触ったりするから墓石がピンク色に変色してるんだ」などと語るが 、あれは墓石じゃないでしょ。
ヤクでラリって、墓石かどうかも判断できなかったのか。
で、「兄貴の墓は誰も思い出しもしない。それで俺は兄貴の墓の色を変えてやろうと思った。でも、最初は兄貴の墓がどこにあるのかさえ 忘れちまって」と言うが、「誰も思い出さない」と苛立ったテメエも兄貴の墓の場所を忘れてんじゃねえか。
そのユウジの言葉を聞いたタイミングで、ちゃんと涙を流せるホマキはすげえよ。だって、普通に役柄に入り込んでいたら、絶対に 泣けないよ、その場面。だって、ただワケが分からないだけだもん。
たぶんホマキは、役柄とか状況とかは無関係で、「今、ここで泣いてください」と注文があったら、すぐに泣けるんだと思う。その女優と しての技術は素晴らしい。

ナオミは父に「私、ぜんぶ思い出したの」と打ち明けるが、だったら、それでいいじゃん。
「やっと自分のことが分かり掛けてきたのに、また最初からやり直しなんて、ましてや逆戻りなんて考えられなかったの」と語るが、 ごめん、何言ってるか全然分からない。
「過去が無いというのが自分とユウジの共通点で、だからユウジは自分を好きになってくれた、記憶を取り戻したことで彼を失うのが 怖かった」という理屈も、やっぱりワケが分からない。
そもそも、その共通点で惹かれ合ったということが全く伝わってないし。
っていうか、ユウジの過去はあるでしょ。兄貴が死んでいることを「過去が無い」と解釈しているのか。それは、どういう理屈なのか。

ナオミから一緒にユウジの病院へ行ってほしい頼まれたミライは、「クレイジーだったり自殺したりしている人」のコンピCDを用意して いる。
尾崎豊(オーバードーズ)にジェフ・バックリー(溺死)、エリオット・スミス(自殺か他殺かは不明)にニック・ドレイク(抗うつ薬の 過剰服用)などのCDを受け取ったナオミは「ありがと」と感謝しているが、いや、怒った方がいいんじゃないか。
それって完全にユウジに対する嫌がらせじゃねえか。
そんなミライを、なぜ最終的にナオミが選ぶのかもサッパリ分からない。

療養所のユウジに会ったナオミは「ユウジがちょっとクレイジーだって知ってるよ。でもそんなこと言ったら誰だってそうじゃない」と 言うが、ユウジの場合、レベルが違うからね。
あと、ナオミが記憶を取り戻した回想シーンで、なぜかミライとのキスシーンが挿入されていてワケが分からなかったんだが、療養所を 訪れた次のシーンで、ようやく「前日にミライとプラネタリアムへ出掛け、それまで友人関係だった2人がキスをした」というシーンだと 判明する。
それは、その時点で分かるようにしておくべきでしょ。

前述したように、「日本を舞台にした方が、文化のぶつかり合いも絡んだ深みのある物語になる」とハンス・カノーザが考えて日本の 映画会社に企画を持ち込んだとされているが、「ホントかなあ、アメリカで製作会社が見つからなかったから日本で探したんじゃないか」 と邪推したくなるような仕上がりだ。
この話だと、仮に舞台をアメリカに設定したとしても、やっぱり支離滅裂な作品になったと思うぞ。
日本を舞台にしたから、インターナショナルスクールの設定にしたから、そのせいでヘッポコに仕上がったわけではない。
そりゃあ、そのせいでヘッポコ度数がアップしたことは確かだけどさ。

(観賞日:2010年10月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会