『大停電の夜に』:2005、日本

クリスマスイヴの夜、東京。天体望遠鏡を覗いていた中学生の田沢翔太は、空に光る物体を発見した。双眼鏡を向けた彼は、病院の屋上で 柵を越えて立っている患者らしき少女・梶原麻衣子の姿を発見した。サラリーマンの佐伯遼太郎は、入院中の父・周平から告白を受けた。 「どうして今まで黙ってたの」と尋ねると、父は「私なりの愛情だと思ってくれ」と言う。「その人に対しての、かい?」と遼太郎が口に すると、遼太郎は「すまんな。忘れてくれ。人間、死ぬ間際になると感傷的になるものだ」と小さく笑った。父から「静江さんと上手く いってないのか?」と問われ、遼太郎は動揺した。
草野美寿々は表参道に佇み、携帯電話で誰かに連絡している。留守電になったため、美寿々は「何度もごめんなさい。どうしても今日、 会って話したいことがあるんです。昨日のホテルにチェックインして待ってます」とメッセージを残した。路地裏のジャズ・バー 「FOOLISH HEART」では、マスターの木戸晋一が女性と電話で話している。「なんで今頃、そんなこと言うの」と言われ、木戸は「10年前、 言えなかったから。去年、お前とばったり会ってから、ずっと考えてた」と答えた。「同情されてるのかな」と彼女は口にする。店の扉 には、「12月24日をもって閉店させていただきます」という札が掛けてある。
木戸が「今夜、店に来ないか。渡したい物がある。夜が明けるまでは店を開けてるから」と誘っても、彼女は「無理よ。今夜は主人と一緒 なの」と断る。それでも木戸は「待ってるよ」と言い、電話を切った。バーの向かいにあるキャンドル・ショップ「WISH」の店長・ 叶のぞみは、窓越しに木戸の姿を見つめて微笑む。木戸はウッド・ベースを磨き始めた。のぞみは棚に飾ってあるキャンドルに火を灯し、 「貴方に、素敵なことがありますように」と囁いた。
刑期を終えた元ヤクザの大鳥銀次は、昔の恋人・杉田礼子の家を訪れる。表札を見た彼は、彼女が夫・篤志、息子・仁矢の3人で暮らして いると知った。銀次は立ち去ろうとしたが、そこへ礼子が買い物から戻って来た。妊娠している彼女は驚き、買い物袋を落として逃げ 出した。地下鉄の構内へ逃げる彼女を銀次は追い掛け、「話がしたいんだ。もう足も洗ったんだ」と叫ぶ。「結婚したんだ。手紙出しても 、だから返事が来なくなったんだ」と彼が責めていると、礼子はうずくまった。産気付いたのだ。 「どうすりゃいいんだよ」と狼狽する 銀次だが、礼子を抱えて病院へ行こうとする。礼子は「仁矢を保育園に預けたままだから電話しなけりゃ」と漏らした。
遼太郎は帰りのタクシーで、不倫相手で部下でもある美寿々からのメッセージを聞く。彼は辞令を懐に忍ばせている。遼太郎は、父から 預かった国東小夜子という女性の住所のメモを開いて確認した。彼は「やっぱり、お台場、行ってください」と運転手に言う。小夜子が クリスマスカードを書いていると、夫の義一がプレゼントの箱を用意して「そろそろタクシー呼ぼうか」と告げる。「まだ早いですよ」と 小夜子は笑う。「その辺ブラブラしてくるよ」と義一が出掛けた直後、電話が入る。小夜子が受話器を取ると、相手は遼太郎だった。 「佐伯周平の息子です」と言われ、小夜子は激しい動揺を示した。
ホテルのロビーで電話を切った遼太郎は、ソファーに腰を下ろす。すぐに彼は電話を掛け、「今、どこにいるの」と尋ねた。その横を、 ベルボーイの李冬冬が荷物を運びながら通り過ぎていく。彼は上海出身で、1年前から研修に来ている。同僚女性に「もういいんじゃない 、上がって」と言われ、「ご心配なく、夜の飛行機で帰りますから」と彼は答える。「誰と過ごすわけ」という問い掛けに、「いやあ」と 冬冬は言葉を濁した。
静江は夫の遼太郎から、「早急にカタを付けなきゃいけない問題が重なってさ」という電話を受けた。遼太郎が約束を破るのは日常茶飯事 なので、彼女は諦めたように「レストランには私が電話しておく」と言う。遼太郎はホテルのエレベーターに乗り込むと、冬冬が何階へ 行くのか尋ねた。翔太が双眼鏡で病院の屋上を眺めると、麻衣子は座り込んでいる。麻衣子が空を見上げると、流れ星が瞬いた。
遼太郎は美寿々の待つ部屋に入った。美寿々は「ごめんなさい、昨日の夜、わがまま言っちゃって。出来れば、あのままずっといたかった から」と言う。遼太郎が「最近、おかしいよ」と告げると、彼女は「どうしようもないの。でもやっぱり奥さんの所に帰ってほしくない」 と語る。そして「聞きました、異動のこと。私も連れてってください。左遷でも何でもいい。付いていきたい。それがダメなら、もう 終わりにしようってハッキリ言ってください」と求めた。
冬冬はエレベーターの中で、恋人の写真を眺めた。ドアが開いて入って来たのは美寿々だった。ドアが閉まると、彼女は泣き出した。冬冬 が声を掛けると、美寿々は「見てんじゃないわよ」と怒鳴った。その時、急にエレベーターが停止して真っ暗になった。遼太郎が部屋を 出ようとしていると、ラジオから緊急ニュースが流れた。 アナウンサーは、「12月24日午後5時過ぎ、東京を含む首都圏全域が大規模な 停電に見舞われた模様です」と報じた。
交通機関は全て停止し、銀次と礼子の乗った地下鉄も止まった。携帯電話も繋がらない。美寿々は冷静さを取り戻し、冬冬に携帯の明かり を当てさせて化粧を直す。冬冬が「りー・どんどんです」と自己紹介すると、美寿々は「パンダの名前みたい」と微笑む。銀次は運転手に 、列車の外へ出すよう詰め寄った。「ダメなんですよ」と断られた銀次は、勝手に外へ出ようと決意した。静江は真っ暗な部屋に戻り、 引き出しを開けて離婚届を見つめた。
小夜子は蝋燭を付けて行燈を灯した中、退職した義一と言葉を交わす。「空襲の夜みたいだ」という義一の言葉から、昔を懐かしむ会話に なった。結婚した当初のことを義一が口にすると、小夜子は途端に暗い顔へと変わった。彼女に「お話したいことがあるんです。私が貴方 に出会う前の話です。その頃、好きな男の人がいたんです」その人の子供を産みました」と告白され、義一は言葉を失った。
銀次は他の乗客たちに協力してもらい、礼子を背負って連れ出すことにした。木戸が店で煙草を吸っていると、向かいのWlSHには客が次々 に来ている。そこだけがキャンドルで明るく、「きれいだなあ」と木戸は呟いた。翔太は麻衣子を心配し、病院の屋上に赴いた。麻衣子は 「来たら、飛び降りるわ」と険しい顔で言う。翔太が「パジャマのままじゃ風邪ひきますよ」と声を掛けると、彼女は笑い出す。柵の 向こうから戻って来た彼女は、悪戯っぽく「ちょっと付き合ってくれない?」告げた。
小夜子は義一に、両親に認めて貰えなかったが家出をして出産したこと、その後で父に自分だけ連れ戻されたことを語る。「どうして今に なって、そんな話をする?どうせなら知らないまま死にたかったよ」と、義一は声を荒げた。「電話があったんです。あの人の息子から。 あの人が病気で、もう持たないって」と小夜子は説明した。さらに話そうとする妻の言葉を遮った義一は、家を飛び出した。
ホテルを出て歩いていた遼太郎は、WlSHに辿り着いた。のぞみに誘われ、彼は店内に入った。遼太郎が蝋燭を購入すると、のぞみは「貴方 に素敵なことがありますように」と告げて渡した。遼太郎が店を出ると、木戸が外でつまみを食べていた。冬冬は美寿々に問われ、上海に 恋人が待っていることを話す。美寿々が「帰れなかったらマズいわよね。そういう小さなきっかけで、我慢してきた寂しさが爆発したり するものなのよ。女っていうのは、離れている気持ちが冷めるものなのよ」と語るので、冬冬は「それは貴方がそうだからでしょ」と反発 した。「こういうの、日本語で八つ当たりって言うんです」という彼の言葉に、美寿々は黙り込んだ。
静江が離婚届に名前を書いて出掛けようとすると、遼太郎が帰宅した。遼太郎の腹が鳴ると、静江は「ある物で何か作るわ」と言う。 遼太郎は買って来た蝋燭に火を付け、静江はシャンパンを探して来た。のぞみが外に出ると、木戸が「売り切れですか。羨ましいなあ」と 話し掛ける。のぞみは彼に駆け寄り、「これ、私が作ったんですけど、使って下さい」と持っていた大量の蝋燭を差し出した。「本当に 今日で閉店なんですか」と彼女が質問すると、木戸は「ええ。最後にビールでも、どうです」と誘った。
バーに入ったのぞみは、店内を蝋燭で飾り付ける。木戸は、いつも彼女が窓を拭いていたと気付く。のぞみは「あのベースが素敵で、良く 見えるように拭いていたんです」と理由を説明した。「木戸さん、ベース弾くんですか」と彼女が訊くと、木戸は「俺に音楽の才能なんか ねえよ」と小さく笑う。のぞみは「でも大切な物なんでしょ。いつも手入れしてますもんね」と言う。麻衣子が着替えて現れると、翔太は 「モデルみたい」と漏らす。麻衣子は「これでも一応、モデルなの」と言い、翔太の自転車で病院を抜け出した。
美寿々は会社の上司と不倫していたことを冬冬に語り、「何やってるんだろ、最低」と自嘲する。冬冬が「別に普通じゃないですか。本気 で人を好きになったらカッコ付けてられません」と擁護するので、彼女は「優しいのね」と言う。冬冬は「貴方の言ったこと、たぶん 当たってますから」と言い、彼女からのメールが減っていることを明かす。「好きなんでしょ。だったらちゃんと会って話をしなきゃ」と 、美寿々はアドバイスを送った。義一は街を徘徊し、アメ車を盗んで暴走させた。
銀次は礼子を背負い、地下鉄のトンネルを歩いていた。礼子が「怒ってよ。私、待ってるって言ったのに。怖かったの。銀ちゃん、もう 帰れないかもしれないって言うから、怖かったの。こんな風に優しくされたら、余計辛いよ」と言うと、銀次は「許さないけど、惚れてる 。今もめちゃくちゃ惚れてるよ」と口にした。礼子が泣き出すと、彼は刑務所で牧師と会って洗礼を受けたことを明かす。「生まれて 初めて変わりてえと思ったんだ」と、銀次は言った。
のぞみが店の棚にあるレコードを見ていると、木戸がトリオで演奏しているアルバムがあった。ジャケットの中には、ニューヨーク行きの 航空券が入っていた。のぞみが「いつも掛けてるレコードって、どれですか。すごく優しい、ピアノの。夕方、電話掛けてる時に必ず 掛けてる」と尋ねると、木戸はビル・エヴァンスのアルバム『ワルツ・フォー・デビー』だと教える。その1曲目は、木戸のアルバムの タイトルにもなっている『マイ・フーリッシュ・ハート』だった。のぞみは「きっと特別な曲なんですね」と言う。
遼太郎は静江と一緒に遅い夕食を取り、「こんなにちゃんと家で飯食うの、何年ぶりかな」と言う。「貴方の仕事が忙しくなって、家を 空けるようになってからかな」と妻が口にすると、彼は「すまん。今日は、愚痴はよそう」と頼む。しかし会話を続けていると、また静江 は微笑しながら愚痴っぽくなる。遼太郎は居心地の悪さから、「家にラジオ、あったかな。何か、音楽が欲しくならないか」と言う。義一 は、地下鉄のトンネルから外に出て来た銀次と礼子を目撃した。
麻衣子はクラブで遊ぼうとするが、どの店も閉まっていた。「最後ぐらいパーッと遊ぼうと思ったのにな」と漏らす彼女に、翔太は「最後 って、何が最後なの?」と尋ねた。麻衣子は翔太の背中にギュッとしがみつき、「私の胸、明日、手術で切り取られちゃうの。乳がん なんだ。だから最後に一番好きな服着て、遊んで、自分の胸とお別れしようと思ったの」と涙ぐんだ。翔太は「次はどこ行く?。どうせ ならさ、今日しか見れない物、見に行こうよ」と提案した。
遼太郎は静江から「お父さんのお話って何だったの」と問われ、自分が私生児だったこと、実の母が生きていることを明かした。静江が 「どうしてお父さん、急にそんなことを?」と訊くと、彼は「やっぱり分かるのかなあ。お前には言ってなかったけど、親父、あと3月 持たないって」と言って泣き出した。静江は優しく寄り添い、実母の元へ行くよう促た。義一は銀次と礼子を車に乗せ、病院へ到着した。 義一と銀次は看護婦から急かされ、病院に入った。
のぞみは木戸に、「さっき、嘘ついたでしょ。プロのベーシストなのに」と言う。「年取るとすんなり説明できないこともあるのよ」と 説明する木戸に、のぞみは「せっかくレコードまで出したのに」と告げる。「俺、いつそんなこと話した?」と木戸が首をかしげるので、 のぞみはレコードを見たことを打ち明ける。彼女が航空券も見たことを知り、木戸は「それがジャズを辞めた理由」と口にした。
木戸はのぞみに、10年前の出来事を語る。彼はニューヨークでやってみないかという話に飛び付き、リーダーアルバムも出すことになった 。木戸は別れた女にレコードとチケットを送り、もう一度やり直さないかと持ち掛けた。しかし、送り返されて来たのだという。「もう 結婚してたんだよ。なんか急にやる気無くなっちまったんだよ。それで日本へ戻って、未練垂らしくジャズ・バーの親父やってる」と木戸 は語った。のぞみが「その人のコト、ホントに好きなら、どうして別れたんです?もしかして、その人」と言い掛けると、木戸は言葉を 遮って「もう終わり。これ以上、喋らないよ」と言う。「誰か待ってるんですか」という問いに、木戸は口をつぐむ。
美寿々と冬冬は、エレベーターから救助された。美寿々が「ここに残るの?」と訊くと、冬冬は「ホテルを放って行けないですから」と 答える。彼がタクシーを呼ぼうとすると、美寿々は「いいの、歩いて帰る。じゃあ、頑張ってね」とホテルを後にする。遼太郎の訪問を 受けた小夜子は、「言い訳をしようとは思いません。貴方を手離したことは事実ですから。ごめんなさい」と頭を下げる。「僕は貴方を 責めるために来たんじゃないんです」と遼太郎は言い、妻に持たされた自分のアルバムを見せる。
小夜子はアルバムをめくり、「もし許してもらえるなら、この手で抱き締めたい。たった一度しか貴方を抱くことが出来なかったから」と 目を潤ませた。遼太郎は涙をこぼし、小夜子と抱き合った。彼は「父に、会ってやってくれませんか」と頼む。酔っ払ったのぞみは、木戸 に絡み始める。「どうして今になって一緒にニューヨークへ行こうなんて言うの。彼女がどれだけ苦しんで木戸さんのことを諦めたか 考えたことあります?なんで最初から付いて来いって言えなかったのよ」と、彼女は喚いた。
翔太は麻衣子を天文台へ連れて行き、並んで空を見上げた。「こんな東京の空、初めて」と感嘆を漏らす麻衣子に、翔太は自分が人工衛星 マニアだと言う。彼が「人工衛星って神様なんだ。あれ、流れ星に見えるけど、あれも人工衛星。みんな知らないで、人工衛星に願い事 してたりするんだ」と教えると、麻衣子は「願いが叶うなら、何でもいい」と口にした。翔太は「どこの打ち上げ記録にも残っていない 巨大衛星があるんだ。未だに正体不明。俺たちはゴッドって呼んでる。そいつが今日、日本の上空に現れたんだ。日本のどこかに、その 一部が落ちたかもしれない。今夜の大停電も、そのゴッドの落とし物のせいだね」と興奮したように語る…。

監督は源孝志、脚本はカリュアード(源孝志+相沢友子)、エグゼクティブ・プロデューサーは椎名保、プロデューサーは荒木美也子、 撮影監督は永田鉄男、美術監督は都築雄二、照明は和田雄二、録音は深田晃、VFXスーパーバイザーは石井教雄、編集は岡田輝満 、音楽は菊地成孔、音楽プロデューサーは安井輝、ベース指導は菊地雅晃、テーマ曲『Wait Until Dark』mesic & arranged by 菊地成孔。
出演は豊川悦司、田口トモロヲ、原田知世、宇津井健、淡島千景、品川徹、吉川晃司、寺島しのぶ、井川遥、阿部力、本郷奏多、香椎由宇 、田畑智子、田口浩正、鈴木砂羽、マギー、宮城孔明、平岡映美、鈴木楽生、本多瑛未里、伶吏、政岡泰志、嶋崎伸夫、少路勇介、 今奈良孝行、両國宏、宮沢紗恵子、藤村あさみ、藤井佳代子、岩塚諒司、磯村竜太、田中祐介、野沢由香里、佐藤佑四、LAZ BREZER、 THOMAS MELESKY他。


『東京タワー』の源孝志が監督を務めた作品。
脚本は彼と相沢友子が「カリュアード」という名義で担当している。
木戸を豊川悦司、遼太郎を田口トモロヲ、静江を原田知世、義一を宇津井健、小夜子を淡島千景、周平を品川徹、銀次を吉川晃司、礼子を 寺島しのぶ、美寿々を井川遥、冬冬を阿部力、翔太を本郷奏多、麻衣子を香椎由宇、のぞみを田畑智子が演じている。
大停電の際に回転寿司を食べている男の役で田口浩正、UFOキャッチャーをやっている女の役で鈴木砂羽が友情出演している。

普段とは違う状況、非日常の環境下を用意し、その中で男女の関係を描くというのは、悪くない枠組みだと思う。
非日常の空間だからこそ、普段は言えないことが言えたり、普段なら出来なかった行動を取ったり、それまでに無かった勇気が沸いたり、 そういう変化が生じるのであれば、停電という状況を設定したことには大きな意味が生じる。
ただ、「停電」という出来事によって、登場人物がそれほど大きな影響を受けているようにも見えなかったんだよな。
もちろん、全員が全く影響を受けなかったとは言わないけど、影響の度合いというのは、それほどでもないんじゃないかと。

たぶん日本版の『ラブ・アクチュアリー』を狙ったんだろうと思うけど、どうしてシリアスなタッチにしちゃったんだろうか。
これって、劇中の日付はクリスマス・イヴだし、公開日は11月19日だから少し早いけど、クリスマス・ムービーであり、デート・ムービー のはずだ。
観客をハッピーな気持ちにさせるべき映画なんだし、ロマンティック・コメディーとして作った方が良かったんじゃないの。
もう導入部からして、ちっともハッピーな雰囲気じゃないんだよな。むしろ暗くて陰気な感じが強い。クリスマス・イヴなのに、ちっとも 楽しそうじゃないのである。
コミカルなテイストを入れると、それこそ『ラブ・アクチュアリー』の日本版だということがバレバレになるから、それを嫌ったのかな。

「ロマンティック」に関しては、それを醸し出そうとしているんだろうなあということは分かる。
オシャレな雰囲気、都会的な雰囲気を出そうとしていることは、痛いほど伝わって来る。
だけど残念ながら「かっこいいことは、なんてかっこ悪いんだろう」という状態になっている。
それもやっぱり、コミカルなテイストじゃなくてマジにやっちゃったことが災いしているように思えるんだよな。

冒頭、翔太が隕石を見て「オー、マイ・ゴッド」と呟いた時点で、「あちゃーっ」と思ったよ。
そこで、その台詞は無いだろう。
その場面に限らず、全体を通して、オシャレを狙ったセリフが上滑りしていると感じる。
カメラワークも似たような感じ。
救出された美寿々と冬冬がロビーで話すシーン、カメラが2人の周囲をグルグルと回るけど、ただ淡々と間を取りながら話しているだけで 、全く盛り上がるでもないし。
だから、そこでカメラがグルグルと回ることが、どういう装飾を狙ったものなのか良く分からない。

あと、そういう台詞を言っても納得できるだけの、ファンタジックでロマンティックな空間が構築されていないという問題もある。
皮肉なことに、この映画の肝である「停電」という要素は、そこでマイナスに作用している。
特殊な状況、非日常の空間を作り出すにしても、「停電」というシチュエーションを選んだのはマズかった。
何しろ薄暗いわけだから、登場人物の写りが悪いのだ。
どうして、もっと明るい中で、ハッキリと姿が写るような設定にしておかなかったのか。

翔太が隕石を見たシーンに戻るけど、そこで彼が望遠鏡に持ち替えるのも、御都合主義だなあと感じる。
それまで望遠鏡をのぞいていたわけだから、幾ら隕石が近くに見えたからって、咄嗟に双眼鏡へチェンジするかなあ。
あと、明らかに最初から、双眼鏡の照準を病院の屋上辺りに合わせているってのも変だろ。
空を見たいのなら、そこから空へパンしようとはしないはず。
行動が不自然に思える。

話が進んでも、ちっともロマンティックな雰囲気は高まらない。
それもやっぱり、画面が薄暗いってのは大きな影響していると思うぞ。まあ、それだけで全てが解消できるわけではないけど。
ゆったりとした時の流れとか、淡々としたストーリー進行なんかも、たぶん意図的にやっているんだろうけど、だんだん退屈になって くるし。
あと20分ぐらいは短く出来るし、そうした方がいいと思うんだよな。

それぞれのエピソードで何かが起きても、トラブルが解決しても、そこに盛り上がりが感じられないんだよね。
雪が降り出しても、そこにドラマティックなモノは無いし。
エピソードの終盤には、もっと「クリスマスの魔法」が欲しいなあと切に感じてしまう。
あと、それぞれのエピソードの登場人物が少しずつ絡んでいる中で、翔太と麻衣子のエピソードだけ全く関連していないのは半端に 感じる。

それと、登場人物にはハッピーになってほしいんだけど、全て「何かを吹っ切りました」という感じのエピソードであって、「好きな人と 結ばれました」とか、「夢が叶いました」とか、そういうのって無いよね。
それは「不幸になった」ということではないし、もちろん全員が穏やかな気持ちや温かい気持ちになっている。
だけど、観客がロマンティックなクリスマス映画に求めている「ハッピーな物語」とは、ちょっと違う気がするんだよな。

(観賞日:2012年1月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会