『大巨獣ガッパ』:1967、日本

プレイメイト誌の雑誌記者である黒崎浩、カメラマンの小柳糸子、東都大学生物学助教授の殿岡大造、記者の三郎、殿岡の助手の町田、ジョージ井上、相原といった面々は、かもめ丸で南太平洋のキャサリン諸島へ向かっていた。黒崎は船津社長からの入電を三郎から受け取り、「社長の奴、計画を発表するらしい」と顔をしかめた。東京のプレイメイト社では船津社長がマスコミを集め、プレイメイト誌の5周年記念で南海の楽園「プレイメイト・ランド」をオープンさせる計画を発表した。
「南海の珍しい鳥や動物を放し飼いにして鑑賞してもらう」という船津のコメントを聞いた記者からは、動物の入手方法について質問が飛んだ。そこで船津は、部下と殿岡のチームが採集に出ていることを告げた。さらに彼は、その旅で南海の各諸島から美人をスカウトすることも目的だと話す。夜釣りを楽しんでいた三郎は、両目を光らせた巨大な怪物を目撃して驚愕する。彼は黒崎たちを呼びに行くが、甲板に戻ると怪物の姿は消えていた。そのため、誰も彼の言葉を信じなかった。
オベリスク島を見つけた黒崎たちは、そこへ上陸することにした。双眼鏡で島を眺めた黒崎は、浜辺に立っている大きな石像に気付いた。7人はモーターボートで島に着岸し、噴火する山を遠くに見ながら足を進める。原住民の村に足を踏み入れると、長老が日本語で話し掛けて来た。長老は黒崎たちを歓迎し、村人たちは宴を開いた。長老は「日本人、また来ると約束した。たくさん寝て、貴方たち来た。もうガッパ、怒るのやめる」と口にする。
「ガッパって何かしら?」と疑問を抱く糸子に、黒崎は「たぶん守り神だろう。我々が地震を鎮めに来たと思ってるんだ」と述べた。黒崎がサキという少年に「大きい石像はどこにある?」と身振り手振りで尋ねると、「ガッパ」という答えが返って来た。町田は「この人たち、みんな日本へ連れて帰ったら?」と殿岡に持ち掛けた。しかし、長老は「私たち、ここで生まれた。ここで死ぬ」と告げた。
黒崎と糸子は先に案内してもらい、石像へ行ってみることにした。糸子が「ガッパが守り神なら、なぜ島の人たちは怖がるのかしら」と疑問を呈すると、黒崎は「未開民族はね、一番怖い物を守り神にするのさ」と教える。だが、サキは「ガッパ、違う。ガッパ、飛ぶ。昔からそう言ってる」と告げた。三郎は黒崎たちが去ったのに気付き、宝探しに出掛けたと思い込んで後を追った。ジャングルを抜けた黒崎と糸子は、石像の元へ辿り着いた。
黒崎が石像に近付こうとすると、サキは「いけない。これから先行くと死ぬ。ガッパ怒る」と制止した。その時、地震が起きて石像が崩れ、その背後にあった洞窟が出現した。黒崎はサキが「ガッパ怒る」と反対するのも聞かず、殿岡に知らせるよう頼み、糸子を連れて洞窟へ入った。しばらくして石像の近くへやって来た三郎も洞窟を発見し、中に入った。黒崎と糸子は、湖を発見した。さらに少し進むと、巨大な生物の骨が転がっていた。黒崎は「あれが恐らくガッパだよ」と口にした。
三郎は黒崎と糸子に追い付き、宝探しではないことを知った。その直後、彼らは巨大な卵を発見する。また地震が発生し、転がった卵に割れ目が入った。揺れが続く中、黒崎たちは洞窟から退避しようとする。割れた卵の中からは、謎の生物が出て来た。黒崎たちを追って来た残りの面々も、洞窟に入っていた。合流した黒崎は、「ちょっとした獲物を発見したんだよ」と殿岡に話す。卵のあった場所へ戻った一行は、それが孵化しているのを見た。
周囲を捜索した黒崎たちは、産まれたばかりの子ガッパを発見した。「捕まえるんだ」と殿岡が言うと、サキが「いけない、ガッパ怒る」と止める。しかし一行はサキの警告を無視し、子ガッパを捕まえた。村に戻った黒崎たちは、手製の檻に子ガッパを入れて帰国しようとする。長老は「貴方たち来た。ガッパ怒った。貴方たち帰る。ガッパ、もっと怒る」と言う。さらに彼は、子ガッパを持ち帰ることに反対して「ガッパ、呪い掛ける」と警告した。その頃、洞窟湖から子ガッパの両親が浮かび上がっていた。
黒崎たちは子ガッパを船に乗せ、日本へ向かう。三郎から知らせを受けた船津は、部下の細田と大山に手伝わせ、ガッパについて調べる。だが、どの資料を調べても、ガッパの情報は見つからなかった。ガセネタだと感じた船津は、怒りを露わにした。オベリスク島では洞窟から出て来た親ガッパたちが村を踏み潰し、島民たちは必死で海へ逃げる。島民たぢが船に乗り込む中、サキだけは物陰に隠れて親ガッパをやり過ごそうとした。火山の大噴火を目撃した米国の潜水艦は、島民の救助に向かった。
かもめ丸にやって来た船津は、子ガッパを見て歓喜した。彼は殿村に、しばらくはガッパのことを口外しないよう求めた。殿村は「それは無理ですね、港に着けば検疫はあるし」と言うが、船津は「モーターボートで運びますよ」と告げる。学会での発表を希望する殿村だが、船津は「今度の探検は、誰がスポンサーかご存知ですね」と言う。なおも反対する殿村に、黒崎は「発表を我々に独占されたくないんでしょう?ハッキリ言ったらどうなんですか、博士号を取れるチャンスだって」と喧嘩腰で言う。「博士号と同じように、スクープは俺の命だ」と黒崎は告げた。
結局、殿村は船津の要求を承諾し、子ガッパはプレイメイト・ランドで大々的に発表されることになった。何も知らない他社の雑誌では、南海での採集が失敗したことを報じる記事が掲載された。船津は間違った記事に憤慨しつつ、ガッパを成長させてプレイメイト・ランドの売り物にすることを目論む。東都大学の生物研究所に運ばれた子ガッパは、1週間で50センチの成長を遂げた。殿村たちの調査によって、子ガッパの脳波は鳥に近く、遠く離れた仲間に自分の存在を伝えることも出来ることが分かった。
米国潜水艦に救助されたサキはガッパのことを伝えようとするが、艦長や軍医のマクドナルドには理解してもらえない。その時、国籍不明の潜水艦二隻が接近しているという報告が艦長に届いた。だが、それは潜水艦ではなく親ガッパだった。2匹の親ガッパは潜水艦に激突した後、上空へと飛び上がった。親ガッパたちは貨物機をかすめ、相模湾から熱海に上陸した。人々が逃げ惑う中、親ガッパは町を破壊する。自衛隊が戦車や戦闘機で攻撃するが、まるで効き目は無く、逆にガッパの熱波光線を受けて破壊された。
親ガッパたちは空へ舞い上がり、河口湖に降り立って姿を消した。プレイメイト誌はガッパの特集記事を組んだ。緊急対策本部が設置され、ガッパを抹殺するという方針は決まった。ただし、そのためには湖から誘い出す必要がある。会議に出席した殿村は「ガッパは他の爬虫類に比べて、音に非常に敏感です」と言い、人間にとって不快な音を3万サイクル以上に再生して流す作戦を提案した。作戦準備が進められる中、サキがマクドナルドに連れられて生物研究所へやって来た…。

監督は野口晴康、原案は渡辺明、脚本は山崎巖&中西隆三、企画は児井英生、撮影は上田宗男、照明は土田守保、録音は高橋三郎、美術は小池一美、編集は辻井正則、振付は漆沢政子、助監督は小沼勝、音楽は大森盛太郎。
主題歌「大巨獣ガッパ」作詞:一条ひかり、作曲:米山正夫、歌:美樹克彦。
「がんばれ仔ガッパ」作詞:中原良、作曲:大森盛太郎、歌:ダニー飯田とパラダイス・キング、
出演は川地民夫、山本陽子、小高雄二、和田浩治、藤竜也、雪丘恵介、山田禅二、加原武門、杉江弘、弘松三郎、長尾敏之助、神山勝、桂小かん、長弘、押見史郎、大谷木洋子、河野弘、峰三平、小柴隆、玉井謙介、里実、松丘清司、伊藤浩、三谷忠雄、島村謙二、漆沢政子、森みどり、橘田良江、深町真喜子、平塚ひろみ、町田政則、マイク・ダニーン、ルイチ・フィダンサ、ポール・シューマン、三杉健、戸波志朗、熱海弘到、小永井孝、小山政則、松丘英憲、花柳萬利助ら。


日活が製作した唯一の怪獣映画。
原案の渡辺明は、1965年まで東宝で特撮の美術監督をやっていた人。
監督は『日本仁侠伝 花の渡世人』『夢は夜ひらく』の野口晴康。
黒崎を川地民夫、糸子を山本陽子、殿岡を小高雄二、町田を和田浩治、井上を藤竜也、船津を雪丘恵介、かもめ丸船長を山田禅二、オベリスク島の長老を加原武門、細田を弘松三郎、三郎を桂小かん、大山を押見史郎、相原を大谷木洋子、対策本部長を河野弘、サキを町田政則が演じている。
この映画に山本陽子ってのは、完全に女優の無駄遣い。

1966年に放送されたテレビ番組『ウルトラQ』などの影響で、子供たちの間では怪獣ブームが起きた。
この頃、東宝は『ゴジラ』シリーズ、大映は『ガメラ』シリーズを持っていたが、東映、松竹、日活は看板となる怪獣映画シリーズが無かった。
そこで怪獣ブームに便乗するため、東映は忍術特撮映画に怪獣を登場させた『怪竜大決戦』を1966年に公開し、翌年には松竹が『宇宙大怪獣ギララ』、そして日活は本作品を送り出した。
その結果、ブームへの便乗に失敗し、どの会社も1作だけで怪獣映画から撤退した。

当時の日活はアクション映画と青春映画が2本柱であり、もちろん怪獣映画のノウハウなど持ち合わせていなかった。
そんな日活は初めて怪獣映画を作るに当たり、「過去の作品を丸パクリする」という行為に出た。
「島で捕獲された怪獣の子供を取り戻すため、その親がやって来る」というプロットは、1961年のイギリス映画『怪獣ゴルゴ』と同じだ。
そこに『モスラ』の要素も盛り込んでいる。

まずオープニング・クレジットで流れて来る主題歌が、不安と期待を抱かせてくれる。
「ホントに大丈夫なのか、この映画は」という不安と、「笑えるバカ映画になっているんじゃないか」という期待だ。
「火を吹く島か 空飛ぶ岩か 宇宙の神秘 怪獣ガッパ」という歌詞はともかく、メロディーやアレンジは、まるで御三家の誰かが主演する青春映画のようなモノになっている。
ハッキリ言えるのは、「マジじゃないよね」ってことだ。
いや、製作サイドはマジに作っているのかもしれないが(っていうか、ほぼ間違いなくマジだが)、その歌を聴いてマジになれる観客は少ないと思う。子供向け映画として受け止めるにしても、やっぱり笑っちゃうよなあ。

オベリスク島に近付いた黒崎は、そこに立っている像を見て「イースター島の石像そっくりだ」と口にする。
だが、彼が見た像とモアイ像は、似ても似つかない形だ。両手両足があるし、服を着ているし。
どうやら黒崎は、モアイ像を知らないのに、知ったかぶりをしているようだ。
もしくは、モアイ像に関して間違った情報を掴まされている可能性もあるが、どっちにしても雑誌記者としては失格だ。

ともかく、彼らは半袖シャツに半ズボンという、分かりやすい探検服で上陸する。
ただ、毒のある生物に体を刺されたり、毒性の植物に触れたりする可能性だってあるわけだから、肌の露出はなるべく避けた方がいいと思う。
やがて黒崎たちが村に原住民の足を踏み入れると、長老とサキは都合良く日本語を話す。
「中隊長、誰か」と尋ねているので、太平洋戦争で日本の占領下にあったという設定のようだ。
だとしても、長老だけでなく、サキまでが黒崎たちの早口の会話まで理解できるってのは、まあ見事な御都合主義だわな。

洞窟を見つけて中に入った黒崎と糸子は、湖に辿り着く。すると糸子は微笑を浮かべ、「私たち、生きてるのね」と黒崎に話し掛ける。
死にそうな危機的状況を回避した直後でもなければ、この世の物とは思えない場所に迷い込んだわけでもないので、なぜ唐突にそんなことを言い出したのかはサッパリ分からない。
だが、黒崎は普通に「生きてるよ、この通りね」と受け取め、彼女の腕をギュッと握る。そして、急に青春映画の恋愛模様みたいな雰囲気になる。
ここに限らず、やはり日活イズムということなのか、青春映画のテイストがチラホラと見られる。
それが有効に機能しているか、本筋と上手く融合しているかと問われたら、もちろん「ノー」と答える。
むしろ邪魔。

黒崎たちは子ガッパを発見し、殿村の号令で捕獲する。
こういう場合、誰か1人ぐらいは何かしらの理由で反対したり消極的な態度を取ったりする奴がいても良さそうなものだ。
この映画だと、サキが「いけない、ガッパ怒る」と何度も警告しているのだから、糸子辺りが反対意見を述べても良さそうなものだ。
しかし、みんな何の迷いも無く、あっさりと子ガッパを捕まえる。

で、サキは「ガッパ怒る」と警告していたのだが、黒崎たちが子供ガッパを村に持ち帰って檻に入れても、村人たちは誰も怒らずに踊っている。
ところが、長老はガッパを持ち帰ろうとする黒崎たちに「ガッパ怒る」と言う。
どうなってんだよ。村人ちの意思統一がなってねえぞ。
その後、船に乗せたところで、ようやく糸子が「この子供は、あの島でそっとしておいた方が良かったんじゃないかしら」と言い出すが、捕まえる時には何も迷ったり反対したりしていなかったじゃねえか。今さら善人ヅラすんじゃねえよ。

黒崎たちに子供を連れ去られた親ガッパ2匹は、オベリスク島の村を壊滅させた後、日本へ向かう。
潜水艦とぶつかった後は空へ急上昇し、そのまま日本へ向かっていたのに、なぜか上陸する時は海の中から現れる。わざわざ近くの海に降り立って潜水し、それから水面を歩いて上陸するという、とても無意味で面倒な行動を取る。
その際、母ガッパは巨大なタコをくわえているが、なぜか生じゃなくて茹でてある。
母ガッパが子ガッパに食べさせるために茹でたんだろうけど、どうやってタコを茹でたのかは不明。熱波光線の威力だと、黒焦げどころか跡形も無くなっちゃうだろうし。
っていうか、茹でなきゃ食べられないのかよ。

殿村の説明によれば、ガッパは他の爬虫類に比べると、音に対して非常に敏感らしい。
それにしては、デカい音を鳴らしてオベリスク島や熱海の家屋や建物を踏み潰しているし、熱波光線で戦車や戦闘機を破壊する時にも大きな音が出ていると思うんだけどね。そういう音は、気にならないってことなのかね。
で、音を使った作戦は失敗し、親ガッパたちは熱海から河口湖、続いて日光、それから反転して南下し、東京方面へ向かう。
親ガッパたちは子ガッパの脳波から居場所を知らされて日本へ来たはずなのに、なんで生物研究所へ直行しないんだよ。
ヘリコプターで羽田空港に子ガッパを降ろしても、まだ気付かない。自分たちがコンビナートを破壊して発生した火事の音で聞こえないということらしい。子ガッパの鳴き声を録音したテープを大音量でスピーカーから流して、ようやく気付く始末。
アホすぎるぞ。

『キング・コング』にしろ、『モスラ』にしろ、欲の皮が突っ張った興行師が怪獣を都会へ持ち出していた。
しかし今回は、主役である黒崎や糸子が、その愚かしい行動に加担している。それも「脅されて仕方なく」とか「疑問を抱きつつも命令に従う」とか、そういう「同情の余地あり」の行動ではない。何の迷いもなく、積極的に加担しているのだ。
つまり本作品でオベリスク島の村が親ガッパによって壊滅させられるのも、日本が襲撃されるのも、全て黒崎たちの愚かな行動が原因なのだ。
その罪は、ものすごく重い。しかし、親ガッパが上陸して日本で暴れ始めた後も、黒崎たちは全く責任を感じていない。
サキの説得を受けた黒崎たちは、子ガッパを島へ返すことには同意するが、「自分たちのせいで多くの犠牲が出た」ということへの罪悪感や悔恨は全く見せない。
酷い奴らである。

(観賞日:2013年8月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会