『忠臣蔵外伝 四谷怪談』:1994、日本

1701年3月14日、播州赤穂藩城主・浅野内匠頭が江戸城柳の間において、勅使響応役高家・吉良上野介に対して刃傷に及ぶという事件が起きた。内匠頭はその日の内に切腹させられ、赤穂藩は取り潰しが決まった。吉良は御咎め無しという裁断が下った。
討ち入りを訴える赤穂藩士は多かったが、大石内蔵助はその気を見せなかった。不安に揺れる赤穂藩士の中に、先々月に藩士となったばかりの民谷伊右衛門の姿もあった。幼い頃、貧しかった伊右衛門は病気に倒れた父を助けるため、辻斬りで金を奪ったという経験があった。
浪士となった伊右衛門は、亡くなった父から教わった琵琶を路上で演奏して生活費を稼ぐ日々を送る。そんな中、彼はお岩という女と出会った。お岩は小間物屋で働いていると言っていたが、本当は湯女だった。伊右衛門はお岩と共に暮らし始める。
ある日、伊右衛門は吉良の家臣である伊藤喜兵衛の孫娘・お梅を暴漢から救った。お梅は伊右衛門に惚れる。浅野家再興の道が絶たれ、内蔵助は討ち入りを決断する。しかし、お岩から妊娠を告げられた伊右衛門は赤穂浪士の会合に参加しなかった。
特に目的も無く夜の境内を歩いていた伊右衛門は、お梅の女中・お槇から声を掛けられる。誘われるままに、伊右衛門は喜兵衛の屋敷へ出向いた。お槇は湯屋の客引きである宅悦を通じて、お岩に伊右衛門からの届け物だと騙して毒薬を渡す。
喜兵衛から毒薬のことを聞いた伊右衛門は家に戻ろうとするが、お梅から引き止められる。伊右衛門はお岩を捨ててお梅と祝言を上げる代わりに、吉良家の家来に取り立ててもらう約束を取り付ける。一方、毒薬を飲んで右目の腫れ上がったお岩は、誤って包丁を腹に刺して死んでしまう…。

監督は深作欣二、脚本は古田求 深作欣二、製作は櫻井洋三、プロデューサーは佐生哲雄&齋藤立太、撮影は石原興、編集は園井弘一、録音は広瀬浩一、照明は中島利男、美術は西岡善信&丸井一利、衣裳は塚本豊&鍛本美佐子、特殊メイクは江川悦子、視覚効果は宮重道久、殺陣は上野隆三、音楽は和田薫、音楽プロデューサーは小野寺重之&青山勇。
出演は佐藤浩市、高岡早紀、荻野目慶子、石橋蓮司、渡辺えり子、津川雅彦、渡瀬恒彦、火野正平、六平直政、菊池麻衣子、近藤正臣、蟹江敬三、真田広之、田村高廣、名取裕子、下元勉、奥村公延、福原学、真矢武、柴田善行、谷口高史、青山裕一、楠年明、田中弘史、溝田繁、加治春雄、日高久、中嶋俊一、川鶴晃裕、南条好輝、甲斐道夫、崎津隆介、真壁晋吾、中川峰男、片岡弘貴、竜川剛ら。


お岩を演じた高岡早紀がパイオツを見せたことが話題となった作品。
というか、それぐらいしかセールスポイントの見つからない作品。
ちなみに、高岡早紀がパイオツを見せる必要性はそれほど高くない。
別にパイオツを見せなくても充分に成立する。
それでもパイオツを見せるのは、100パーセント、観客へのサービスである。

忠臣蔵と四谷怪談を組み合わせるというのは、突飛な感じがするかもしれない。
しかし、鶴屋南北の作った歌舞伎『東海道四谷怪談』では、伊右衛門は浅野家をモデルにした塩谷家の浪人という設定であり、だから無理のある組み合わせではない。

ただし、2つの作品を上手く融合させることは、残念ながら出来ていないと言えるだろう。この作品の内容だと、忠臣蔵を入れる必要性があまり感じられないのだ。
討ち入りに向けての大石の様子なども描写されているのだが、物語の核心部分には、ほとんど影響を与えていないのだ。

最も重要なはずの、伊右衛門とお岩の関係が非常に薄いのは大きな問題だ。
2人が同棲生活を始めるまでの経緯が簡単に処理されている上に、果たして伊右衛門がお岩に対してどれぐらいの愛情を抱いていたのかも見えてこない。

伊右衛門が浪士としての生活の中で、討ち入りへの意欲を失っていくような様子は全く見られない。また、伊右衛門が貧しい生活から抜け出したいと願う強い気持ちも、ほとんど伝わってこない。
だから、お岩と別れて吉良家の家来にしてもらおうとする行動が唐突に感じられる。

同じ年に『四十七人の刺客』という驚異の駄作がある分だけ救われている感はあるが、この作品も駄作と言ってしまっていいだろう。
おそらく製作サイドが意図しなかった部分だけが、突出している印象が強い。
お岩の情念や赤穂浪士の討ち入りなどは、完全に影が薄い。

突出しているのは、気持ち悪さとバカバカしさである。
幽霊となって登場するお岩より、お梅役の荻野目慶子の方が遥かに怖い。
いや、怖いというより気持ち悪い。
初登場シーンからして、ベッタリの白塗りの顔で、目を大きく見開く。
そして笑いながら、侍の目を突いたりする。

さらに、荻野目慶子は、侍の腕を切り落とした伊右衛門を見てウットリする。
いきなり金を投げ付けて、笑いながら走り去るシーンもある。
完全にクレイジーである。
女中のお槇を演じる渡辺えり子も、やはり白塗りメイクでニヤニヤ笑う。
さらに伊藤喜兵衛役の石橋蓮司も、白塗りメイクでニヤニヤ笑う。

狐面の女達を従えて荻野目慶子が登場するシーンは、ほとんどギャグの世界。
狂乱する荻野目慶子を落ち着かせようとして狼狽する石橋蓮司&渡辺えり子の様子も、やはりギャグの世界にしか見えない。
これはグロテスクなコメディーなのかと思ってしまう。

お梅に引き止められた伊右衛門は、いきなり座り込んで琵琶を弾き始める。
そして、その周囲をお梅が踊る。
う〜ん、なんてバカバカしいんだろうか。
何がしたいんだか。
もしかして、この作品は最初からカルトなバカ映画を目指していたのだろうか。

 

*ポンコツ映画愛護協会