『小さな恋のうた』:2019、日本

沖縄県。高校の軽音楽部でバンドを組んでいるボーカルの真栄城亮多、ドラムの池原航太郎、ギターの譜久村慎司、ベースの新里大輝は、プレハブ小屋の部室で演奏を始めた。大音量なので外に漏れており、すぐに生徒たちが集まって来た。すると亮多はアンプの音量を上げ、窓を開けて歌い始めた。生徒たちを熱狂させた4人は、満足そうな様子を見せる。しかし職員室に呼び出され、生徒指導の教師から厳しく叱責された。これまで4人は何度も同じことを繰り返しており、教師は慎司に「お前にはガッカリだ」と言う。顧問の女性教師は「部の全員が学際に出られなくなる」と警告し、生徒指導教師は慎司に「お前がこいつらを何とかしろ」と説教した。
亮多は全く反省しておらず、生意気な態度を取った。慎司は同じ高校に通う妹の舞と遭遇して「父さんには言うなよ」と釘を刺すが、冷淡に無視された。部室に戻って続きをやろうとする4人だが、他の部員から「しばらく部室を使うの禁止」と通告された。4人が馴染みのライブハウスへ行くと、オーナーの根間敏弘はバンドに興味を持っている東京のレーベルの人間が来ていることを教えた。レーベルの人間から名刺を渡されて「プロになる気はあるのか」と問われ、4人はメジャーデビューできると喜んだ。
亮太は慎司に、「アメリカーナの恋人のリサには東京へ行くことを言うのか」と尋ねる。彼が告白するよう焚き付けると、慎司は「東京でテッペン取ったらな」と告げた。2人は話しながら道路を横断しようとするが、そこへ猛スピードの車が突っ込んで来た。航太郎と大輝は病院に駆け付け、亮多の母親の慶子は診察室に呼ばれた。慎司は薄暗い病院を歩き、ベッドに座る亮多を発見して安堵する。しかし亮多は「誰、お前?」と拒絶し、慎司は困惑する。慶子は主治医から、強いショックで記憶の一部が失われていることを知らされた。
慎司は亮多を深夜の部室へ連れて行き、バンドでの思い出を熱く語った。しかし亮多が全く覚えていなかったため、、次に慎司は学園祭で初ライブをした時の思い出や根間に絶賛された時の思い出を語る。だが、やはり亮多は何も思い出さず、慎司は苛立ちと悔しさを募らせた。自宅に戻った舞は窓の外に目をやり、基地のフェンスへ赴いた。リサが近付いて来て「シンジは?」と尋ねると、舞は黙り込んだ。慎司は亮多を病院から連れ出し、基地の前を歩いた。かつて慎司は亮多にリサを紹介し、自作の歌を聴かせていることを話していた。
亮多が記憶を取り戻すと、慎司は「良かった」と安堵の表情を浮かべた。亮多が我に返ると、慎司は車にひかれて大量出血していた。慎司は亮多に別れを告げ、姿を消した。慎司をひいた犯人は逃亡しており、警察が捜索を開始した。米軍車両という目撃証言もあり、基地周辺では市民の抗議活動が活発化した。亮多は部屋に閉じ篭もり、バンドは活動休止の状態になった。大輝は学園祭に出るため、別のバンドに参加した。亮多は慶子から落としたマブイ(魂)を拾って来るよう執拗に言われ、仕方なく航太郎と共に事故現場へ出向いた。航太郎が小石を見つけると、亮多はマブイとして持ち帰ることにした。
舞は亮多と航太郎を見掛けるが、声を掛けずに立ち去った。彼女が帰宅すると、父の一幸は沖縄県警が未だに犯人を逮捕できていないことへの苛立ちを吐露した。静代が「やっぱり犯人は基地の中に」と口にすると、彼は「そんな風に決め付けるな」と声を荒らげる。一幸は米軍基地で働いていたが、事故の後は仕事を休んでいた。抗議活動のニュースを見たリサの母は、アメリカ人の印象が悪化することを懸念した。リサは部屋に閉じ篭もり、ヌイグルミを抱いて泣いていた。
舞は慎司の部屋からギターを持ち出し、パソコンに残されていたタイトル未定の曲を見つけた。彼女は亮多と航太郎を呼び出し、兄の新曲の音源を聴かせた。「この曲、演奏してほしいんです。この曲だけ演奏されないの、可哀想だから」と彼女が言うと航太郎は前向きな態度を示すが、亮多は「誰がやるんだよ」と拒む。舞がギターで新曲のコードを弾くと航太郎は興奮し、大輝にバンドへ戻るよう呼び掛ける。しかし大輝は別のバンドで忙しいと告げ、復帰を拒んだ。
亮多も新曲を歌うことを拒否し、航太郎に「俺は魂込めて歌ってんだよ。自分がそんな気分じゃないのに歌えっかよ」と怒鳴る。「お前はいいよな、叩くだけだからよ」と彼が言うと航太郎は「何だよ、その言い方」と激怒し、2人は喧嘩になった。公園で慎司との思い出を振り返った亮多は、米軍基地へ向かう。慎司の曲を聴いた時、彼は「最高のラブソングにする」と約束していた。リサが姿を現したので、亮多は拙い英語で挨拶した。リサは亮多に、父の異動で1ヶ月後に沖縄を去ることを話した。
リサは慎司からライブに誘われていたことを明かし、残念そうな表情を浮かべた。そこで亮多は学園祭に来るよう誘い、慎司の曲を歌うと約束した。彼は舞の元へ行き、ギターを弾いてくれと頼む。2人は航太郎も誘い、根間のライブハウスで練習を始める。舞は慎司が作った曲を全て覚えており、ボーカルだけでなくベースも兼任する亮太は焦った。亮太から学園祭に出るつもりだと聞かされた航太郎と舞は驚き、先生に言ったのかと尋ねる。亮太は学園祭の担当教師に出演を申し出るが、「何を今頃言ってるんだ」と怒鳴られる。3人は軽音部の部員たちに頭を下げ、出演時間を作ってもらった。
舞は基地へ行き、リサに学園祭で演奏することをフェンス越しに話す。リサが自分の一番好きな曲について「何を歌ってるの?」と尋ねると、舞は少し考えてから「小さな愛」と答えた。リサは母から舞と話していたことを咎められ、「基地の外には私たちを良く思わない人もいるのよ」と叱責された。米軍基地への抗議デモは相変わらず続いており、ニュース番組でも大きく取り上げられていた。「基地に怒ってどうなる?怒る相手が違う」という一幸の呟きを耳にした舞は、「じゃあ、どうすればいいの?」と尋ねた。すると一幸は、「内地の大学に行きなさい。そこから見れば、この小さな島でゴチャゴチャやらなきゃならんのか良く分かる。昔から何一つ変わっていないのも分かるだろう」と述べた。
部室で練習している時、舞は元気が無い様子だった。それに気付いた航太郎は、何でも相談してほしいと優しく告げた。3人でリサに会いに行ったり、スタジオで練習したりする。舞は1人でリサを訪ねた時、「パパはオスプレイに乗っている」と言われる。リサから「貴方もオスプレイが嫌い?」と問われた彼女は、困惑して「分からない」と答えた。亮多たちがライブハウスに行くと、ステージのセッティング中で出演バンドは休憩に行っていた。根間はステージに上がって演奏してみるよう持ち掛け、「ついでに録音してやるから」と言う。休憩を終えて戻って来たバンドのメンバーは、亮多たちの演奏をスマホで撮影した。根間はライブハウスの関係者に亮多たちの音源を聴かせ、学園祭を見に行くよう勧めた。
学園祭の朝、静代は舞から「来ないの?」と訊かれ、「しんみりさせちゃうでしょ」と告げる。母から一幸が基地を辞めるかもしれないと言われ、舞は動揺しながらも気丈に振る舞った。リサは両親に嘘をつき、基地を抜け出した。その頃、亮多たちは学園祭に出演できなくなったことを知らされていた。ライブハウスで演奏した動画がネットで拡散されて禁じられている校外活動とみなされた上、根間が「大型新人バンドのデビューライブ」として宣伝するチラシを配布していたからだ。亮多たちが落ち込んでいると、大輝が屋上にセットを組んで音声を学校中のスピーカーから流す作戦を提案する…。

監督は橋本光二郎、脚本は平田研也、製作は村松秀信&間宮登良松&町田修一&加太孝明&比嘉瑩&楮本昌裕&阿南雅浩&宮崎伸夫&久保田憲二&濱田建三&玻名城泰山&野ア真人、エグゼクティブ・プロデューサーは紀伊宗之、共同プロデューサーは飯田雅裕、企画プロデューサーは山城竹識&松本隆洋、プロデューサーは森井輝&小出真佐樹、アソシエイトプロデューサーは小杉宝、撮影は高木風太、照明は秋山恵二郎、録音は小松崎永行、美術は三浦真澄、編集は西尾光男、音楽・劇中曲アレンジは宮内陽輔、主題歌・劇中曲「小さな恋のうた」はMONGOL800。
出演は佐野勇斗、森永悠希、山田杏奈、眞栄田郷敦、鈴木仁、世良公則、清水美沙、トミコクレア、金山一彦、佐藤貢三、中島ひろ子、上江洌清作、儀間崇、里悟、津波信一、岸本尚泰、幸地尚子、山内千草(諸見里先生役)、新垣正弘、光得瞬、小渡俊彰、隈井士門、永田健作、宝眞榮日也美、玉那覇由規、上門みき、武田聖爾、金城理恵、金城明斗、小嶺宙、松島圭吾、仲里健斗、知念大虹、宮城琉南、前原未夢、浦崎翔馬、知花広星、きなこ、MOMO、盧詩[女亞]、仲間星奈、こた(HABADEMI)、塩平ヒロト(HABADEMI)、Steve(HABADEMI)、てるゆー(HABADEMI)、前津龍平(CHARANGE・RANGE)、佐久間正竹(CHARANGE・RANGE)ら。


2001年のアルバム『MESSAGE』に収録されているMONGOL800の同名曲をモチーフにした作品。
同名曲は今まで一度もシングル化されていないが、『あなたに』と並ぶバンドの代表曲となっている。
監督は『羊と鋼の森』『雪の華』の橋本光二郎。脚本は『つみきのいえ』『ボクは坊さん。』の平田研也。
亮多を佐野勇斗、航太郎を森永悠希、舞を山田杏奈、慎司を眞栄田郷敦、大輝を鈴木仁、根間を世良公則、慶子を清水美沙、リサをトミコクレア、航太郎の父の昌盛を金山一彦、一幸を佐藤貢三、静代を中島ひろ子が演じている。

亮多と慎司が事故に遭った後のシーンの表現は、明らかに不自然だ。
まず、航太郎や大輝が病院にいるシーンか切り替わった時、慎司が怪我一つ負わずに廊下を歩いているのは変だ。
また、その時だけ急に病院が薄暗くなるのも変だ。まるでホラー映画か何かのような薄暗さになっている。
他の病人やスタッフが全く見当たらず、航太郎たちが2人に気付かないのも不可解だ。まるで現実ではないかのような表現になっている。

しばらくして「実は慎司が既に死んでいる」と種明かしになった時、不自然な表現になっていた事情は理解できる。
ただし、舞がリサから「シンジは?」と訊かれて黙り込む様子が描かれた時点で、「なるほど、もう慎司は死んでいるのね」ってのが何となく読めちゃうよね。
慎司が事故に遭っても無事でピンピンしているのなら、そもそも帰宅した舞の様子なんて挿入しないはずだしね。
だから仕掛けとしては、あまり上手く行っているとは言えない。

それと、もっと根本的な問題として、「その『シックス・センス』的な仕掛けはホントに必要なのか」と言いたくなるのよね。
どうせ10分ぐらいで事実を明らかにするんだし、そこでサプライズを用意する意味が全く分からない。
そこを大オチとして配置するような構成の映画でもないし、その仕掛けを軸にして話を作っている映画でもないんだし。
なんかさ、変に凝ったことをやろうとして、本当に大事な物から意識が逸れているような気がするぞ。

舞とリサが話すシーンの後、亮多と慎司が外を歩く様子が描かれる。そこからカットが切り替わると、慶子がスナックを営業している様子になる。
そこへ慎司が訪ねて来て亮多を連れ出すのと、外は快晴。つまり昼間なので、その時点で少し困惑させられる。
いや別に昼間からスナックを営業してしても、悪くはないよ。ただ、大勢の客が来ていたし、てっきり夜かと思っていたのでね。
それと、もちろんスナックからの様子は回想パートなんだけど、「ここから回想に入ります」という合図が無いので、シーンの繋がりとして上手くないという問題もあるんだよね。

序盤で舞が慎司に声を掛けられ、冷たく無視するシーンがある。なぜ彼女が兄に冷淡なのかは、全く分からない。
ただし、分からなくても、そのまま「舞が慎司を疎ましく思っている」という関係性で話を進めるなら、何の問題も無い。しかし慎司が早い段階で死亡するので、この兄妹関係を描くことは出来なくなる。
そうなると、「舞が慎司に冷たくする」というシーンの重要性が一気に高まる。「なぜ冷たくしていたのか」という理由の説明が必要になるし、「そんな舞が兄の死で何を感じ、どう変化するのか」ってのも重要になる。
しかし残念ながら、そこの表現がものすごく雑で淡白なのだ。
慎司が死んでから舞が兄の代わりにギターを弾いたり曲を演奏してと頼んだりするなら、「冷たくしていたけど兄を愛していた。冷たくしたことを悔やむ」みたいな描写は必要じゃないのかと。

リサという米軍基地で暮らすアメリカ人少女を登場させたり、慎司の事故死に関連して抗議活動が起きる展開を用意したりと、沖縄の基地問題を大きく扱っている。
でも、これを上手く扱い切れているとは到底言えない。むしろ、完全に手に余っているという印象が強い。
沖縄が舞台ってことで、そういう要素を持ち込みたくなるのも分からんではないよ。でも、盛り込みたい要素が多すぎて、まるで消化できていないのよ。
だったら、米軍問題という大きすぎるテーマは、真っ先に外してもいいぐらいなのよ。
デカいテーマを持ち込んだ以上、適当に触れるだけでは不充分なんだからさ。

亮多たちは学園祭で『小さな恋のうた』を演奏し、大勢の生徒が観客として集まる。
『小さな恋のうた』を演奏しているんだし、「一度はステージに立てなくなる」という障害も用意して盛り上げているんだし、そこがクライマックスでいいはずだ。
ところが、「2曲目を演奏しようとするが教師に阻止され、停学処分を食らう」という展開を用意し、さらに話を続ける。
でも、以降の展開は蛇足でしかない。
あと、その蛇足で描くのはザックリ言うと基地関連の問題処理で、そこが無い方が絶対にスッキリしたぞ。

学園祭の後、亮多たちは基地の前でリサのために演奏する。でも、そこで演奏するのは『SAYONARA DOLL』なんだよね。つまり亮多たちは、『小さな恋のうた』を彼女に聴かせる約束は果たしていないのね。
で、その後にはライブハウスで『あなたに』を演奏するシーンもあるけど、なんで『小さな恋のうた』がクライマックスじゃないのかと改めて言いたくなるわ。
あと、なんで大輝はバンドを抜けたままなのか。学園祭の後も話を続けるんだから彼が復帰するのかと思ったら、そのままなのよね。
亮多をボーカル&ベースにして本物のMONGOL800に重ねているつもりかもしれないけど、舞が入っている時点で重ならないし。
大輝にとっても慎司は一緒にバンドをやっていた親友なんだし、彼が復帰しないまま終わるって絶対にダメだろ。

(観賞日:2021年10月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会