『チア☆ダン 〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』:2017、日本
アメリカのカリフォルニア州。県立福井中央高校チアダンス部「JETS」は全米チアダンス選手権に参加し、友永ひかりが円陣を組んだ部員たちに「明るく素直に美しく」と呼び掛けた。3年前。新入生の友永ひかりは友人になった真美と由美を誘い、チアダンス部に入ろうとする。中学からの同級生である山下孝介に話し掛けられた彼女は、照れたような表情を浮かべる。高校でもサッカー部に入ると言う孝介に、ひかりは「国立競技場で応援する」と告げる。それを見た真美と由美は、ひかりがチアダンス部に入りたがる理由を悟った。
ひかりは何も知らなかったが、チアダンス部の顧問である早乙女薫子は生徒たちから「地獄ババア」「地獄先生」という異名で恐れられていた。体験入部に来ている新入生たちの前に現れた彼女は、「チアダンス部はアメリカを目指しています。全米大会に優勝します」と宣言した。ひかりたちが困惑していると、薫子は「スカートは膝丈、ネイルと恋愛は禁止、違反した者は地獄に落ちなさい。髪型はひっつめ頭。おでこ全開で行きますから」と語る。
ひかりの「前髪が関係あるのか」という質問に、彼女は「チアダンスは自分をさらけ出すことが大事なの」と告げる。しかし現役部員たちも薫子のやり方に納得しておらず、「ウチら、もう辞めますわ」と告げて部室から去った。ひかりも辞めようとするが、孝介から「期待してるわ、チアダンス部の応援」と言われて入部を決めた。現役部員が全て辞めてしまったため、新入生の14名だけで部活動が開始される。薫子は全米チアダンス選手権で3位に入った面々の映像を見せ、チアダンスが「ポンダンス」「ジャズ」「ヒップホップ」「ラインダンス」の4つで構成されていることを教えた。
薫子はチアダンスがチアリーディングとは違うこと、アクロバティックな動きが禁止されていることを説明した。彼女に「それが嫌なら辞めなさい」と言われた体操部出身の2名は、その場で部室を去った。薫子は順番に踊るよう指示し、経験者の玉置彩乃は華麗なダンスを披露する。村上麗華はチュチュを着込んでおり、得意のバレエを見せる。紀藤唯はヒップホップ系のダンスを、永井あゆみはアイドル系の踊りを披露する。小太りの東多恵子もキレのある動きをアピールする中、ひかりは何の経験も無いので全く踊れなかった。
全員の実力をチェックした薫子は彩乃を部長に任命し、唯と麗華にチアの基本を教えるよう指示する。薫子は他のメンバーに、踊り以前の体力作りや柔軟運動から始めさせた。彼女は「チアダンスで一番大事なのは笑顔です」と言って練習させるが、部員たちはなかなか上手く笑えない。そんな中、ひかりだけは最初から自然に笑えていたが、前髪を垂らしているのに気付いた薫子は「前髪あってもブスはブス」とクールに告げた。
ひかりはあゆみから、彩乃が中学時代にチアダンス関東大会で優勝していることを聞く。あゆみはひかりに、「早乙女先生が全米制覇って言い出したのは、彩乃ちゃんが入部したからみたいよ」と告げた。孝介の「勉強できるし、真面目やし、美人やし」という言葉を聞き、ひかりは嫉妬心を抱いた。校長と教頭は薫子に、辞めた部員の保護者たちか文句が来ていることを告げる。校長は3年前に赴任して荒れていたバトン同好会を立て直した功績を評価しつつも、また多くの退部者を出さない内にバトン同好会に戻してはどうかと勧めた。
孝介が女子生徒からチヤホヤされている様子を見たひかりは、彩乃に「チアダンス部を辞める。応援したい人もいなくなったし、アメリカなんか行けるはずもないし」と苛立った様子で告げる。彩乃が「一曲通して踊ってから」と言うので、ひかりは仕方なく承知した。彩乃は部員を屋上へ集め、チアダンスの動きを教える。そこへ薫子が来て「勝手ことしないで」と注意すると彩乃は「先生の基本練習は朝早く来てやりますから。今はみんなにチアダンスの素晴らしさを知ってもらいたいんです」と頼んで許可を貰った。
彩乃の指導で1曲を最後まで踊り切った部員たちは、全く動きは揃っていなかったものの、充実感に包まれた。孝介は大事な試合のPK戦で外してしまい、サッカー部を辞めた。麗華は部室で練習中、多恵子やあゆみたちに「実力は下の下」と馬鹿にした言葉を浴びせる。唯は彼女から「チアダンスは笑顔。アンタの笑顔は一度も見たことが無い」と指摘され、睨み付けて部室を去る。ひかりは唯が密かに笑顔の練習をしているのを見て、誰か大切な人を応援する気持ちで踊ったらどうかと助言した。多恵子やあゆみは緊張して振付を間違えてしまい、麗華に叱責される。ひかりは「同じ動作をしてから踊りに入ればいい」と助言し、部室の雰囲気を和らげた。
彩乃は矢代浩から二度に渡って告白されていたが、「恋愛禁止なので」と断っていた。彼女が自信を失っていると、それを見抜いた矢代は「頑張って、福井大会」と声を掛けた。ひかりたちは4つの高校で競う福井大会に参加するが、動きが揃わずに失敗が重なった。惨敗を喫した部員たちに、薫子は「これで分かったでしょ、自分たちの実力が。このままじゃアメリカどころか福井からも抜け出せないわよ。福井のままよ」と言い放った。
ひかりは「初めての大会やで、しょうがないやろ」と漏らすが、麗華は「アンタが足引っ張ってるからやろ」と告げ、さらに唯の踊りを嘲笑した。彩乃は心を開こうとしない唯と皆を見下す麗華を叱責するが、チアダンス部はバラバラになった。ほとんどの部員が部活動に参加しなくなり、彩乃は自分のせいだと感じて落ち込む。真美や由美とカラオケに出掛けたひかりは、チアダンス部の踊りが皆に笑われていたと聞く。ひかりは「イケてるとかイケてないとか、関係ない」と、気持ちを燃え上がらせた。
孝介が先輩部員たちに頭を下げて「もう一度、やらせてください」とサッカー部への復帰を頼んでいる様子を、ひかりは目撃する。責任を感じている彩乃は学校を休んでおり、ひかりは彼女の家へ行くが不在だったひかりが帰宅すると、彩乃が雄三と話していた。彩乃は「1日、学校を休んで考えたの。私にはチアダンスしか無いって」とひかりに告げ、2人は校長を説得しようと決める。唯が道端で踊っていると、ひかりと彩乃が現れて参加した。「ずっと1人で踊ってたんで、どうすれば笑顔になれるか分からん」と唯が漏らすと、2人は「今、笑ってた」と指摘した。
ひかり&彩乃&唯は多恵子の家に行き、直前に薫子が来ていたことを聞く多恵子が夜にファミレスのバイトをしていると知った彼女は、母親に文句を言ったらしい。母親がひかりたちに「帰れや」と怒鳴ると、多恵子は「私の友達に、そんな言い方は許さん」と鋭く告げた。4人は麗華の家へ行くが、彼女は復帰を拒否し、「再開したバレエで世界を目指す」と高慢な態度で言い放った。チアダンス部員たちは全員で校長室へ乗り込み、チアダンス部を続けさせてほしいと頼む。ひかりは「アメリカで優勝します」と宣言してしまうが、他の部員たちも同調した。
校長の承諾を得たチアダンス部員たちに、薫子は「自分からアメリカで優勝すると言ったわね。その言葉を待ってたのよ」と勝手に盛り上がった。彼女は「JETS」というチーム名を既に決めており、部員たちに練習を積ませた。薫子はアメリカで活躍していたプロコーチの大野を招聘し、1ヶ月に1度のペースで部員を指導してもらうことにした。大野はひかりの練習を見て、「笑顔だけではありませんね、あの子」と薫子に告げた。
二年目。何名かの新入部員が加わり、福永絵里は即戦力になる実力を発揮した。JETSは福井大会で優勝し、全国大会への切符を手に入れた。全国大会に向けて、薫子は絵里をレギュラーに抜擢した。ひかりたちは優勝する気満々で全国大会に臨むが、4位に終わった。薫子は昨年度の全米王者であるシアトル高校の映像を部員たちに見せ、「このままじゃ全米制覇なんて夢の夢よ」と叱責する。彼女は部員の仲が良すぎることを指摘し、今後は互いの欠点を指摘するよう指示した。
彩乃は厳しく部員たちを注意するようになり、ひかりは困惑して「そういうの無理してるって」と告げる。彩乃は「もっと欲を持って」とひかりに要求し、「私はみんなと楽しく踊れれば」と言う彼女に「それって楽してるだけじゃん。自分が傷付きたくないだけ」と告げる。ひかりが「そういう風にしか生きられない」と言うと、彼女は「どんなに努力してもダメなことってある。でも、努力し続けるしかないんだよ。アメリカで踊りたい」と述べた。ひかりは考え方を改め、「はじっこでもセンターのつもりで踊るから」と告げた。
三年目。ひかりは全治2ヶ月の大怪我を負い、練習を見学する。後輩部員が彩乃や唯に厳しく注意される様子を見た彼女は、優しい言葉を掛ける。すると薫子は、「そういうのいいから。貴方がいると、元の仲良し地獄に戻ってしまうの。帰って」と冷たく告げた。みんなが踊る様子を羨ましく見ていたひかりは、ようやく怪我が完治して練習に復帰した。しかしブランクのせいで、彼女は練習に付いていけない。薫子は「レベルが低い子がいると調和が乱れる」と言い、ひかりをレギュラーの練習から外した。ひかりはJETSが全国大会で優勝する様子を見て、「みんなとアメリカで踊りたい」と自主練習に熱を入れる。彼女はレギュラーに復帰し、JETSは全米大会に臨む…。監督は河合勇人、脚本は林民夫、企画プロデュースは平野隆、プロデューサーは辻本珠子&下田淳行、共同プロデューサーは前田菜穂&原公男、ラインプロデューサーは及川義幸、アソシエイトプロデューサーは大脇拓郎、撮影は花村也寸志、照明は永田英則、美術は金勝浩一、録音は小松崎永行、編集は瀧田隆一、チアダンス振付・指導は前田千代、音楽は やまだ豊、音楽プロデューサーは桑波田景信。
主題歌『ひらり』大原櫻子 作詞・作曲・編曲:亀田誠治。
出演は広瀬すず、中条あやみ、山崎紘菜、富田望生、福原遥、真剣佑(現・新田真剣佑)、柳ゆり菜、健太郎(現・伊藤健太郎)、南乃彩希、天海祐希、大原櫻子、陽月華、木下隆行(TKO)、安藤玉恵、矢柴俊博、緋田康人、きたろう、佐々木萌詠、長谷川里桃、酒井麗奈、藤井利帆、山田佳奈実、石橋美幸、小澤穂南、山本晶、吉川智歩美、早川葵、塩澤茉由、的場友萌、上野茉実、江崎梨乃、菊池明香、新山千遥、笹岡優愛、石川和菜花、高橋安莉沙、春山渚、中西裕胡、一柳みのり、吉田早羅、宮尾珠代、安藤玲奈、渡部遥、植杉佳代、米持愛梨ら。
福井商業高校のチアリーダー部「JETS」が創部3年目で全米チアダンス選手権で優勝した実話を基にした作品。
監督は『映画 鈴木先生』『俺物語!!』の河合勇人。脚本は『予告犯』『猫なんかよんでもこない。』の林民夫。
ひかりを広瀬すず、彩乃を中条あやみ、唯を山崎紘菜、恵子を富田望生、あゆみを福原遥、孝介を真剣佑(現・新田真剣佑)、麗華を柳ゆり菜、浩を健太郎(現・伊藤健太郎)、絵里を南乃彩希、薫子を天海祐希が演じている。
南青山女子高校チアダンス部主将役で大原櫻子、大野役で陽月華、ひかりの父親役で木下隆行(TKO)、多恵子の母親役で安藤玉恵、薫子の夫親役で矢柴俊博、教頭役で緋田康人、校長役できたろうが出演している。
アンクレジットだが、ひかりの亡き母の写真は鈴木杏だ。福井商業高校チアリーダー部の実話は知っているし、彼女たちを取り上げた複数のテレビ番組も見ている。
そういう予備知識から考えると、「丁寧に作れば、ベタベタになるかもしれないけど間違いなく感動できる作品に仕上がる」という感覚だった。
ザックリ言っちゃうと、矢口史靖監督が撮った『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』みたいな要素を持った話だからだ。
つまり、「若い演者たちが特訓を積んで、実際にパフォーマンスする」という部分には、確実に感動を呼べる要素があるってことだ。映画が始まると、まずは「California USA」という文字が出て、続いて「全米チアダンス選手権」と出る。タイトルが表示された後、舞台が福井に移ると「日本」の文字が出て、それを横から出て来た「福井県」という文字が突き飛ばす。登校シーンに「県立福井中央高校」と出て、「三年前」と表示される。
必要な情報だから仕方がないのだが、のっけから文字による説明が多いのはスムーズさに欠ける。
それでも、この辺りは別にいい。しかし薫子が出勤して車のナンバープレートが画面に写り、「45-98」に「地獄や」というルビを振る演出は、さすがに「要らんわ、邪魔だわ」と感じる。
それを説明したいのなら、生徒たちの会話でも使って処理した方がいい。
根本的な問題として、「そんなナンバープレートの設定自体が要らない」と思うし。部活動がスタートした直後、彩乃が中学時代にチアダンス関東大会で優勝していること、薫子が全米制覇と言い出したのは彼女が入部したからと言われていることが示される。
さらに、彩乃が成績優秀でモテモテであること、告白されても全て断っていることが説明される。
同じクラスの孝介が彩乃を見ているシーンや彼女を称賛するシーンも挿入されるが、ここで恋愛劇を描くことは無い。
どうせ恋愛劇は皆無に等しいので、中途半端な扱いの孝介や矢代は邪魔なだけだ。チアダンス部には様々な問題があるが、それらは全て簡単に解決される。
問題が提示されてから解決するまでに少し時間を要するモノもあるが、それも問題の解決までに色んな手順を経たせいではない。その問題に触れた後、しばらく放置しているだけだ。
問題が解決されるシーンだけを取っても、おざなりに片付けていると感じる(そこは「なおざり」かもしれないけど)。
バラバラになったチアダンス部が再び結集する経緯なんかも、尺の都合はあるんだろうけど、簡単に処理しているなあと。薫子が「スカートは膝丈、ネイルと恋愛は禁止、違反した者は地獄に落ちなさい。髪型はひっつめ頭。おでこ全開で行きますから」と説明すると、ひかりは部員がひっつめ頭でおでこ全開にしていないことを指摘する。薫子が「明日からやってもらいます」と言うと、現役部員の面々は嫌悪感を露わにして「もう辞めますわ」と部室を去る。
このシーン、ものすごく違和感がある。
現役部員が規則を厳守しておらず、薫子が「明日からやってもらいます」と言っているってことは、彼女が説明したルールは「その時に初めて決めたルール」ってことになる。
でも鬼教師として恐れられているのなら、なぜ現役部員は今まで好きな髪形でOKだったのか。薫子の言動は、完全にパワハラである。一昔前なら許容されただろうが、今の時代では幾ら部活の顧問であっても難しいだろう。
それでも、コミカルな味付けで描いているし、「薫子が心の底から部員たちを愛し、生徒たちが彼女を慕って付いて行く」という関係性が描かれていれば、強い絆の結び付きが表現されていれば、映画としてはOKになる。
しかし残念ながら、この作品はハードルを越えられていない。
コミカルな味付けが中途半端で笑えないパワハラになっている上、生徒との信頼関係も全く構築できていないのだ。薫子は現役部員が辞めても全く気にしておらず、体操部出身の新入生に「嫌なら辞めなさい」と告げている。
それでも大勢の部員が残っているなら、別に構わないだろう。しかし実際のところ、彼女のやり方が災いしてメンバーは新入生のみの12人になっている。
その人数でチアダンスが出来ないわけじゃないが、あまり好ましい状況とも言えない。
でも薫子は自分が間違っているとは微塵も思っちゃいないので、パワハラのような指導を続ける。バカにするような態度で「熱血指導だけでは今の生徒たちは付いてこんのですよ」と薫子に言う教頭は、ポジション的には憎まれ役だ。
しかし彼の指摘は、見事に真実を言い当てている。
実際、生徒たちは薫子を信頼し、熱血指導に付いていくわけではない。
ひかりたちが残ると決めたのは、彩乃がチアダンスの面白さを教えたからだ。
全米を目指して努力を続ける中で、チアダンス部の実質的なコーチは、彩乃がやっているのだ。実際、彩乃がチアダンスの動きを部員たちに教えている間、薫子は何もやっていない。
完全に姿が消えており、彼女が顧問として何をやっているのかは全く分からない。
言葉が荒っぽくても、態度が冷淡でも、厳しいルールを課しても、「正確な指摘や科学的な練習法で新入生たちの実力を引き上げる」という手腕を見せていれば、「コーチとしての実力は確かだ」と思えるだろう。
しかし、彼女にはコーチとして誇れるモノが何も無いのだ。ただスパルタなだけで、中身が伴っていないのだ。全員が初めて1曲を踊り切った後、久々に登場した薫子は「ちょっと1曲通して踊れたぐらいで勘違いしてるんじゃないの。このままじゃアメリカどころか福井大会だって無理」と扱き下ろす。
ただ、それと同じようなことを、麗華も言っているのよね。
彼女が部員を馬鹿にして実力の低さを扱き下ろすので、「だったら薫子って要らなくねえか」と思っちゃうのよ。
要求するレベルが高くて口が悪いキャラは、麗華に任せりゃ済むんじゃないかと。福井大会が終わるまで、薫子がチアダンス部を良くして部員たちの実力を上げるために、具体的に何かやっている様子は皆無に等しい。
柔軟運動と笑顔の練習をチョロっとさせていた程度だ。
それ以降も相変わらずで、薫子が練習を見ている様子は何度も写るものの、「彼女の指導によって部員たちの実力がどんどん向上していく」という印象は全く受けない。
練習以外の部分でも、部員との関係は「多恵子のために母親に文句を言っていた」ってのが台詞で軽く触れられる程度だ。このままじゃマズいと思ったのか、薫子が校長と教頭に「あの子たちに大きな目標を与えてやりたいんです」と訴えるシーンを入れている。
だけど、その目標がアメリカじゃないとダメな理由なんて何も無いんだよね。
元のバトン部では、なぜダメなのか。
そもそも、まだ福井大会でも惨敗するような状態なのに、いきなり「全米制覇」という目標を掲げる必要性がホントにあるのか。
その辺りを考えて出る答えは、「全ては薫子の自慰行為に過ぎない」ってことなのよ。ひかりがチアダンスを続けたいと思うのは、チアダンス部の踊りが皆に笑われていたと知って「この野郎」と燃え上がったからだ。彼女や彩乃たちが「絶対にアメリカへ行ってやる。勝ってやる」と意欲を燃やすようになるのは、麗華から馬鹿にされたからだ。
そういった経緯に、薫子は何の影響も与えていない。彼女が部員たちにモチベーションを与えることは、これっぽっちも無いのである。
チアダンス部を続けたいと校長に懇願するのも、あくまでも部員たちが続けたいからだ。「薫子が非難されているのを擁護したい」とか、「彼女の指導が間違っていると非難されているのを訂正したい」とか、そんな意識は見えない。
一応、彩乃が「先生は私たちに目標を与えてくれました」とは言っているものの、ちっとも気持ちは感じない。終盤に入り、薫子がチアダンス部でアメリカを目指すと決めた理由が描かれる。
やる気の無さそうなバトン同好会の顧問に起用された彼女は、チアダンス全米大会の映像をテレビで見て、「これだ」と決めたのだ。
だけどね、そうやってチアダンス部に変更してスパルタ指導を宣言したら、やる気の無かったバトン同好会の面々は全員が辞めちゃってるわけで。
つまり、彼女の行動は「やる気の無かった生徒たちに、全力で頑張る気持ちを芽生えさせた」ってことじゃないのよ。極端に言ってしまえば、薫子は全く要らない存在、邪魔な存在なのだ。
彼女と生徒たちの絆は、最後まで生まれていない。薫子は生徒たちの気持ちを全く理解せず、自己満足のためだけに突き進んでいるのだ。途中で過ちに気付いて軌道修正するようなことは無く、「自分は正しいのだ」と思い込んだまま終わってしまうのだ。
これが「生徒だけでなく先生も一緒に勉強し、成長していくドラマ」として描かれているなら、最初の内は薫子が未熟であっても良しとしよう。
しかし、こいつは未熟なままで、何も成長せずに終わっている。生徒たちが見事な成長ぶりを見せるのに、彼女だけは何も理解しちゃいないままだ。
チアダンス部が全米大会で優勝したのは、決して薫子の指導が正しかったことの証明ではない。部員がみんなで頑張った結果に過ぎない。とにかく問題山積みの映画だが、それでもチアダンスのシーンさえ普通に描けば、「他はともかく若手女優たちが練習したチアダンスには本物の魅力がある」と感じたことだろう。
しかし、そんな最後の砦さえも、この映画は簡単に打ち砕いてしまう。
まず序盤、彩乃が部員にチアダンスの動きを教え始めると、挿入歌が流れてダイジェスト処理になる。挿入歌が終わるタイミングで、「全員が1曲を踊り切った」という映像になる。ここで部員たちは笑顔を浮かべ、充実感を抱いている様子が描かれる。
でも、こっちには彼女たちの気持ちが、全く伝わらないのよね。練習風景をダイジェストで片付けるのは別にいいんだけど、「1曲を踊り切った」という印象さえ無いのよ。
何しろ、踊り切るシーンの最後の部分しか写していないからね。
とは言え、まだ下手で全く動きの揃っていないチアダンスを1曲丸ごと見せるのもどうかとは思うけど、ともかく「みんなの充実感」にはシンクロできない。でも、そこはまだ軽いモンだ。問題は、それ以降の描写で一向にチアダンスを見せようとしないってことだ。
福井大会の優勝は、大会が終わった後の垂れ幕で示されるだけ。全国大会の優勝も、ニュース映像が流れるだけ。
全米大会に入っても、予選は結果が書かれた表を写すだけ。
なので、薫子がひかりと彩乃のポジションを入れ替える明確な理由はサッパリ分からない。
具体的に何が悪いと感じたのか、ひかりをセンターにした方が勝てると確信した根拠は何なのか、それは全く分からない。終盤までは、「JETSの踊りをマトモに見せようとしないのは、全米大会の決勝まで勿体ぶっているんだろう」と思っていた。あまりにも引っ張り過ぎているとは思うが、やり方としては分からんでもない。
しかし、さんざん引っ張った挙句のシーンでも、大きな過ちを犯しているのだ。
ようやく全米大会の決勝になって、JETSのダンスが画面に写し出される。ところが、すぐに司会者と解説者、心配そうに見守る薫子や大野たち、観客や審査員など他の面々のカットを何度も挿入し、ダンスの様子をブツブツと寸断してしまう。
肝心のクライマックスでさえ、JETSのダンスをマトモに見せようという気が一切無いのである。
この映画のために若手女優たちはチアダンスを頑張って練習したはずだが、その努力を台無しにしているのである。(観賞日:2018年8月21日)