『チア男子!!』:2019、日本

大学生のハルこと坂東晴希は、実家の道場で姉の晴子や幼馴染の橋本一馬と柔道に打ち込んで来た。道場で試合が行われた時、ハルは晴子を全力で応援した。晴子が一本勝ちを収めた後、ハルの出番が来た。しかし彼は相手と対峙すると、すっかり怯えてしまった。腰が引けた彼は一本負けしただけでなく、右肩に怪我を負ってしまう。命志院大学に通うハルは、キャンパスの掲示板に「男子チア 新入部員募集」のチラシが大量に貼ってあるのを発見した。
立花病院へ診察に赴いたハルは、今後は経過観察だけで大丈夫だと主治医に告げられた。病院を出た彼は、祖母の見舞いに来ていた一馬に声を掛けられた。一馬は柔道を辞めると言い、「やりたいことが出来た」と男子チアのチラシを見せた。それを作ったのは彼で、一緒に始めようとハルを誘う。一馬の母は高校から社会人までチアをやっており、その時のコーチが父親だった。当時の映像やノートを、彼の母は残していた。大学時代のメンバーは7名だったが、母は当時の思い出を楽しそうに話していたのだと一馬は語った。
一馬は母と同じ7人から男子チアを始めたいと考えていたが、ハルは「俺はカズみたいに簡単には辞められない」と参加を渋った。一馬は「もう大学生だぞ。やりたいことぐらい自分で決めていいんじゃないか」と言い、全力で柔道の応援をしていたハルはチアに向いていると話す。ハルは男子チアリーディング部に入ることを決め、一馬と一緒にチラシを配った。しかし晴子や両親は、そのことを明かせなかった。晴子はハルの前で、柔道を辞めた一馬について「中途半端な奴は何やっても中途半端」と扱き下ろした。
スポーツ経験の無い小太りの遠野浩司、熱い思いを訴えるメガネ男子の溝口渉の2人が、男子チアリーディング部に入部した。チャラいテニスサークルの長谷川弦と鈴木総一郎が仲間の前でバック転を披露する様子を見た一馬は、すぐに2人をスカウトした。そこへサークルの会長を務める足立小太郎が現れて文句を付けたので、ハルは慌てて謝罪した。足立の発言で、ハルたちは溝口が4年生だと知った。足立が「結局、大したこと出来ねえって」と溝口を馬鹿にすると、ハルは一馬を酷評する姉の言葉を思い出す。彼は足立に反発し、「出来ます。挑戦したっていいじゃないですか」と告げた。
ハルたちは男子チア部を宣伝するため、キャンパスでパフォーマンスを行った。まだ未熟なチアだったが、ハルたちは笑顔でやり遂げた。ハルは気付かなかったが、練習中だった晴子がそれを目撃していた。パフォーマンスを見た弦と総一郎は、男子チア部への入部を決めた。事前の申請が無かったため、一馬は学生会の小久保萌に呼び出された。しかしハルたちの元に戻った一馬は、学生会が応援してくれたこと、女子チア部との合同練習を組んでくれたことを話した。
一馬はハルたちにスタンツを解説し、ポジションを決めた。土台のベースは遠野と総一郎、司令塔のスポットは溝口、上に立つトップはハルと弦が務めることになった。帰宅したハルは、晴子からパフォーマンスを見たことを告げられる。練習に参加するよう言われたハルは、「俺は誰かを倒したいんじゃなくてすより、誰かと何かをやってみたいんだよ」と柔道を辞めて男子チア部に入ることを伝えた。彼は父と母にも、柔道を辞めることを打ち明けた。
ハルたちが女子チア部「DREAMS」と合同練習をする日、体育館には萌がカメラマンを伴って取材にやって来た。コーチの高城さつきとOBの佐伯が、DREAMSの指導を担当していた。DREAMSのパフォーマンスを見たハルたちは興奮するが、総一郎だけは悔しそうな表情を見せた。ハルたちもさつき&佐伯から厳しい指導を受け、ヘトヘトに疲れ果てた。一馬はさつきから、DREAMSが使わない時間は練習用の倉庫を利用してもいいと告げられた。さつきは「指導者も必要だと思う」と言い、経験者の徳川翔が入学しているはずなので探すよう促した。総一郎がDREAMSからクスクスと笑われたことに対する激しい悔しさを示すので、初めての反応に弦は驚いた。
ハルたちは翔を見つけ出し、チームにスカウトする。しかし翔はスタンツもタンブリングも全く出来ていないと指摘し、「チアはそんなに甘いモノじゃない」と怪我をする前に諦めるよう警告した。ハルたちは彼に認めてもらうため、スタンツとタンブリングの練習を重ねた。総一郎はバック転が出来るようになり、弦は負けないように1人で居残り練習に励む。遠野を除くメンバーは、徳山の前でロンダートからのバック転に成功する。スタンツも危ない部分はあったが、何とかハルをキャッチした。
徳山は「怪我をしなかったのが奇跡だ」と厳しく評するが、「正しいやり方ぐらい、俺が教えてやるから」と入部を承諾した。ただし彼は条件として、スタンツには参加しないことを通告した。徳山はメンバーに女子チアの映像を見せてスタンツの技を解説し、仲間を信頼する重要性を教えた。彼は「絶対に誰も怪我はしないように」と釘を刺し、各人の課題を書き出したメモを渡した。学生会は学園祭の出演許可を取り、ハルたちの初舞台が決定した。一馬は「色んな物を壊したい」と言い、チーム名を「BREAKERS」にした。
ある日、練習のためにメンバーと倉庫へ向かおうとした翔は、さつきの姪のさくらが車椅子で女子チアの見学をしている様子を見て驚いた。ハルたちが倉庫で練習していると、さくらは見学に来て拍手を送った。さくらはさつきから翔が戻って来たことを知らされ、見たいと希望したのだった。彼女は翔の復帰を喜び、「やっぱいいよね、チア」と口にする。しかし翔は彼女の笑顔を真正面から受け入れることが出来ず、逃げるように走り去った。
一馬は翔に、学園祭でバスケット・トスに挑戦したいと言い出した。他のメンバーは賛同するが、翔は「エレベーターからだ」と却下した。彼はメンバーが少しでも疲れていると感じると、すぐに交代や休憩を指示した。遠野は同級生の男子2人から体系のことで嘲笑されるが、「チアには僕みたいな体格も必要なんだよ」と主張した。萌はハルたちに、チーム名の変更を要求して来た。彼女は男子チアを学園祭のイメージキャラとして売り出していくと説明し、「BREAKERS」ではなく「BUILDERS」にするよう告げた。
ハルは母から、晴子が大会で負けて夜遅くまで稽古に励んでいることを知らされた。一馬は祖母の認知症が悪化したため、そのことに気を取られて練習に集中できなくなった。スタンツの練習でバランスが乱れてハルが墜落しそうになるが、何とかメンバー全員でキャッチした。その際に総一郎は左肩を痛めるが、メンバーには打ち明けなかった。翌日から一馬は、練習に姿を見せなくなった。就職活動の模擬面接に出席した溝口は、萌が男子チアをプロデュースして学園祭を成功させ、その実績を利用する気だと知った。腹を立てた彼は萌に聞こえる大声で男子チアのチーム名を「BREAKERS」と訂正し、「個人的な都合のために利用しないでもらいたい」と訴えた。
総一郎は左肩の怪我でバック転も満足も出来なくなるが、笑って誤魔化した。ふざけていると思い込んだ翔は憤慨し、集中して練習に取り組むよう叱責した。弦は最近の翔が厳しすぎるのではないかと指摘し、「スタンツが出来なくて焦ってるなら、代わりにやったらいい」と持ち掛けた。翔が「初めから言ってるだろ、スタンツには参加しない」と言うと、弦は理由を尋ねた。翔はメンバーに、「また誰かに怪我させるかもしれない」と告げ、さくらと高校時代に同じチア部だったことを明かす。ベースだった彼は、さくらを落とせて怪我を負わせていた。彼はハルたちに、「スタンツをやる資格も、チアを楽しむ資格も、俺には無い」と語った…。

監督は風間太樹、原作は朝井リョウ『チア男子!!』(集英社文庫刊)、脚本は登米裕一、製作は川城和実&三宅容介&岡田美穂&潮田一&木下暢起&菅野信三、エグゼクティブプロデューサーは濱田健二&大熊一成&吉條英希、プロデューサーは西川朝子&代情明彦&唯野友歩、アソシエイトプロデューサーは大ア紀昌&沖貴子&青木裕子、撮影は清川耕史、照明は織田誠、録音は石寺健一、美術は仲前智治、編集は加藤ひとみ、チアリーディング監修・振付は杢元良輔、音楽は野崎良太&Musilogue、主題歌『君の唄(キミノウタ)』は阿部真央。
出演は横浜流星、中尾暢樹、伊藤歩、瀬戸利樹、弦を岩谷翔吾、菅原健、小平大智、浅香航大、清水くるみ、唐田えりか、桐生コウジ、桐赤間麻里子、山本千尋、米内佑希、大友律、北代高士、和泉今日子、吉田ウーロン太、川崎美海、湯野謙吾、河合匠、清田みくり、柳川あい、入江拳四郎、弓月彩楓、柿本志保、松坂洲、小原峻、愛わなび、黒崎さいか、高野美玖、そのこ、古木潮音、湯浅れいな、山下徳久、斉藤達矢、海老原英紀、東康仁、本間優太、森下万優ら。


朝井リョウの同名小説を基にした作品。
短編映画やTVドラマなどを手掛けてきた風間太樹が、初めて長編映画の監督を務めている。
脚本は『くちびるに歌を』の登米裕一。
ハルを横浜流星、一馬を中尾暢樹、さつきを伊藤歩、徳川を瀬戸利樹、弦を岩谷翔吾、総一郎を菅原健、遠野を小平大智、溝口を浅香航大、晴子を清水くるみ、さくらを唐田えりか、坂東家の両親を桐生コウジ&赤間麻里子、萌を山本千尋が演じている。

ハルが大学を歩き、男子チアのチラシを見るまでのシーンは、1カット長回しで撮影されている。大勢の学生が動き回っているし、ハルも 何人かと絡むし、かなり大変な労力が必要だっただろうと思う。
その苦労を考えると「見事な1カット長回し」とは思うけど、その手間に見合った効果が得られているかと問われたら、それは微妙かなあ。
あと、ここで後に男子チア部員となる面々を登場させているんだけど、それは違うかな。
ただ「ハルがキャンパスを歩いている」という様子を描くオープニングシーンなら、メンバーを登場させてもいいのよ。でも、そこは「周囲は明るい大学生活を送る中、ハルの気持ちは沈んでいる」ってのを示すためのシーンであって。その目的を考えると、「主要キャストを順番に登場させる」という演出は無い方がいい。
それと、その時点でハルが男子チアのチラシを見ているけど、これも一馬が「男子チアを始める」と打ち明けた時に初めて見る形にした方がいい。

一馬が男子チアを始めようと決めたのは、「母がやっていたから」ってのが理由だ。だけど、それだけでは彼を突き動かす理由として弱い。
単に「母が経験者で、当時のことを楽しそうに喋っていたから」ってだけでは、「母は女子なのに男子である一馬がチアを始める」という理由として弱いでしょ。
「自分の親が過去にスポーツをやっていた」というケースなんて、世の中には幾らでもあるわけで。
そんな中でも一馬は柔道をやっていたわけで、それを捨ててまでチアに転向するなら、もっと強い説得力が必要じゃないかと。

終盤に入り、「認知症の祖母は、チアをやっていた母の映像にだけは反応していた。だから自分もチアをやれば覚えていてくれるかも」と思って一馬がチアを始めたことが明かされる。そういう理由だから、序盤では明かせなかったわけだ。
だけど、それが明らかにされても、「だったら仕方がない」と納得することは無いよ。一馬の動機に強い説得力を持たせることが出来ないのなら、ハルの側で強い説得力を用意すればいい。
っていうか、一馬の動機が弱くて、ハルに関して「巻き込まれる形で始める」という流れでも、勢いやパワーさえあれば強引に引き込んで行けるのよね。
ようするに、この映画って観客を引き込むための勢いやパワーが導入部に足りないのよ。

あと、チアって基本的には「女子の物」というイメージだし、男子がやるのは1つハードルを超えなきゃいけないという印象なのよ。
でも、そこを一馬は全く気にしていないのよね。「母親はやっていたけど、自分は男だから」と考える手順は皆無なのよ。
一馬が全く気にしていなくても、ハルが「男子のチア?」とチラシを見て驚いたり、一馬に誘われて「男子でチアは」と難色を示したりすればともかく、そこに関しては簡単に受け入れているし。
なので、「男子がチアを始める」という要素の意味が、ほぼ死んでいる。

一馬はハルを男子チアに誘う時、「大声で柔道の応援をしていたし、その声で自分も頑張れたから向いている」と説得する。だけど「全力で誰かを応援する役目が向いている」ってことなら、応援団でもいいわけで。
「絶対にメンバーが必要なので、適当な理由で説き伏せる」ということでコミカルに描いていれば、その強引さも分からなくはないのよ。だけど、マジなトーンでの説得なのよね。
つまり一馬は本気で「ハルは全力で応援していたからチアに向いている」と思っているわけで、それはどうなのかと。
彼がマジでそう思っていたとしても、やっぱりコメディーとして処理した方がいいんじゃないかと思うし。

尺の都合もあるだろうけど、「ハルと一馬がメンバー集めに苦労する」という時間は、ほとんど無い。しかも、最初に入部する遠野と溝口は、自分から男子チアに興味を抱き、積極的な意識で始めている。「ハルと一馬が才能を感じて強引に誘う」とか、「チアには何の興味も無いけど別の理由で入部する」とか、そういうことではない。
なので、「男子チアはマイナー競技」「男子チアへの偏見がある」という描写は全く無い。
それって、あえて避けたのかな。
だけど実際のところ、まだ男子チアは決してメジャーと言えないし、男子だからという理由でチアを敬遠したがる人も結構いると思うんだよね。ドラマとしても、使える要素のはずだし。

遠野と溝口が参加した後も、しばらくは「苦難の道」が無い。
最初のパフォーマンスなんて、明らかにレベルが低いんだし、それで「現実を知って打ちのめされる」みたいなことになってもおかしくない。だけど本人たちが大満足しているだけでなく、そのパフォーマンスに心を打たれた弦と総一郎が入部する。
しかも学生会は無許可だったのに応援してくれて、女子チア部との合同練習を組んでくれる。
どうして学生会が無許可のパフォーマンスを行った男子チアに協力的なのか、その理由はサッパリ分からない。

合同練習のシーンで、佐伯と女子チア部員はハルたちを馬鹿にするような態度を見せる。だけど、そういうのはチアを知らない人間に担当させておけば良くないか。女子チア部員は、理解を示して応援する味方でいいと思うんだよね。
あと、ここでハルたちは女子チアの演技を見て圧倒的な差を感じるけど、それで打ちのめされることは全く無いのよね。
さつき&佐伯の指導を受けた時も、これまた同様。前向きに頑張ろうという気持ちは全く揺るがない。
打ちのめされたり壁にぶつかったりする展開が必要不可欠だとは言わないけど、代わりにドラマを盛り上げるための要素が何かあるのかというと、特に見当たらないんだよね。何もかも順調に進み過ぎている。

さつきは一馬に指導者が必要だと告げ、翔を見つけ出すよう促す。
でも指導者って、OBとかコーチの方が良くないか。翔は現役の大学生だから、指導者じゃなくて「同じチームの7人目のメンバー候補」になるわけで。
さつきが翔を見つけるよう促すのは別の目的があってのことだけど、そこは大いに引っ掛かる。
あと、ハルたちは翔に断られると「認めてもらうためにスタンツとタンブリングを成功させよう」ってことで練習を重ねるけど、それを成功させるための指導者が必要なんじゃないんかと言いたくなるぞ。

徳山に認めてもらうための練習を重ねる中、最初に総一郎がバック転を成功させる。
弦は負けないように1人で居残り練習に励むが、無理を重ねたせいで怪我をするようなトラブルは起きない。
他のメンバーの成功を知った遠野が、「自分は付いて行けない」と弱気になったりすることも無い。
翔は車椅子のさくらと再会して心を乱されるが、そのことで男子チアを辞めようとするとか、指導が過剰に厳しくなって仲間との関係がギクシャクするとか、そんな展開は無い。

ドラマに起伏を付けられる種は幾つも落ちているが、ことごとくスルーして話を淡々と進めて行く。そんな中で、唐突に「萌がチーム名の変更を要求する」という展開が訪れる。
もちろんハルたちは反発するけど、そんなのは大した問題じゃない。極端なことを言ってしまうと、チーム名なんてどうでもいい。
「BREAKERS」というチーム名にハルたちの熱い魂が込められていて、絶対にそれじゃなきゃダメ」という思いが感じられるわけでもないし。
溝口が模擬面接で腹を立てる展開はあるけど、それは萌が就職活動に男子チアを利用していることへの憤慨であって、「チーム名が云々」ってのは抜きにしても成立するし。

終盤に入り、「翔がスタンツに参加しない理由を告白する」「総一郎が左肩の怪我を隠し、弦が腹を立てる」「祖母の認知症が悪化して、一馬がチアを辞めると言い出す」という展開が立て続けに訪れ、一気に話を盛り上げようとする。
だけど、急に「全部乗せ」にするんじゃなくて、1つずつ使ってドラマを構築した方がいいでしょ。
全ての要素を唐突に提示したわけじゃなくて、その前から少しずつ流れは用意しているのよ。ただ、構成としては、ちっとも上手くないのよ。
しかも、全ての問題は特に大きな盛り上がりも見せないまま、あっさりと解決されるし。
あと、ハルって主人公のはずなのに、個人としてのドラマが薄いよね。

それでも本作品を救う方法は残されていて、それは『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』のように、「出演者が実際に練習を積んで、その成果を発表する」という部分をセールスポイントとして最大限に活用する方法だ。
その場合、発表の場となる学園祭のシーンは、セミ・ドキュメンタリー的に演出した方がいいだろう。だけど、そういう徹底ぶりは感じられない。
それに、最初のスタンツは明らかにカット割りで誤魔化していて、実際は成功していないし。
それ以外でも、多くのシーンは本人たちが実際にやっているんだろうけど、「出演者が実際に練習して頑張りました」という類の感動を観客に与える演出方法を取っていないんだよね。

(観賞日:2022年8月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会